はじめに
こんにちは。晴れる屋メディアの紳さんです。
週末に『第30回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権』が開催され、スペインのハビエル・ドミンゲス選手が自身2度目の優勝を果たしました。
さて、今回は世界選手権の結果を見ながら、好成績を収めたデッキについて紹介させていただきます。
世界選手権のメタゲーム
この大会のトップメタとなったのはグルール果敢。使用率2位にディミーアミッドレンジ、同率3位にアゾリウス眼魔とドメインランプというメタゲームとなりました。
また、各調整チームの動向としては「Handshake Ultimate Guard」がディミーアデーモンを、「ChannelFireball Ultimate Guard」がゴルガリランプを、「Sanctum of All」がティムール果敢を持ち込んでいます。
持ち込みデッキとは同じチームのトッププロたちが叡智を集結して完成させる研究デッキです。強烈な勝ち手段やコンボを秘めたデッキでありながら、チーム内で練習・調整を行うことでデッキの情報が外部に漏れることが少なく、対策がされづらいことが大きなメリットとなります。
グルール果敢やディミーアミッドレンジのような既存のデッキが勝ち組となるのか、持ち込みデッキが台風の目となるのか、注目が集まりました。
『第30回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権』
世界のトッププレイヤー113名が集結した『第30回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権』。大会結果はこのようになりました。
『第30回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権』
優勝 ディミーアデーモン
準優勝 ゴルガリミッドレンジ
トップ4 ゴルガリランプ
トップ4 赤単
トップ8 ディミーアデーモン
トップ8 グルール果敢
トップ8 ディミーアミッドレンジ
トップ8 ディミーアミッドレンジ
トップ16 グルール果敢
トップ16 ディミーアミッドレンジ
トップ16 グルール果敢
トップ16 ジェスカイ召集
トップ16 アゾリウス眼魔
トップ16 グルール果敢
トップ16 アゾリウス眼魔
トップ16 ジェスカイ召集
優勝はディミーアデーモンを使用したハビエル・ドミンゲス選手でした。チーム「Handshake Ultimate Guard」の研究が見事に実を結んだ結果となっております。
ハビエル選手は2018年にも世界選手権を優勝しており、マジック30年間の歴史のなかで世界選手権を2度も制覇したのはハビエル選手とシャハー・シェンハー選手の2人だけです。とんでもない偉業ですね!
準優勝はゴルガリミッドレンジを使用したマルシオ・カルヴァリョ選手で、2016年、2019年につづき3度目の準優勝となりました。
調べたところ、世界選手権で3度の準優勝経験はほかに例がなく、マルシオ選手のみです。優勝を逃したことは惜しいですが、素晴らしい快挙といえるでしょう。
ディミーアデーモン
世界一の栄冠を掴んだデッキはチーム「Handshake Ultimate Guard」が調整したディミーアデーモンでした。こちらは優勝したハビエル・ドミンゲス選手のリストです。
序盤~中盤にかけてはディミーアミッドレンジのような立ち回りをしつつ、終盤は一気にライブラリーアウトを狙う二段構えのデッキです。
《終末の加虐者》は唱えられて戦場に出るとお互いのライブラリーを6枚だけ残し、残りをすべて裏向きで追放するというダイナミックな能力を持っています。
着地後にすぐ《完成化した精神、ジェイス》の[-X]能力を使えばほぼ確実に勝利できますし、次のターンに《不穏な浅瀬》で攻撃することでもライブラリーアウト勝利を狙えます。
ライブラリーアウト勝利以外にも、《フェアリーの黒幕》や《ドロスの魔神》による飛行ビートダウンでのフェアな勝ち筋も有力です。
《不浄な別室/祭儀室》による追加ドローと6/6飛行デーモン・トークンも強力で、デーモンをコントロールしている場合に誘発する2点ライフドレインは攻防一体の動きとなります。
これら二段構えの戦略をコストが軽いハンデス・打ち消し・除去などでバックアップする隙のないデッキです。
サイドボードには《切り崩し》を用意し、アグロデッキへの耐性を高めています。《除霊用掃除機》は1枚だけの採用。アゾリウス眼魔をそこまで意識せず、リアニメイトされたとしても除去で対応できるという判断なのでしょうか。
ゲームレンジが遅めのデッキに対しては《極悪非道の盗人》と《完成化した精神、ジェイス》を追加し、ライブラリーアウト要素を高めて勝利する算段です。
それにしても、一見するとプレイアブルなカードに思えない《終末の加虐者》を見事にデッキに組み込んでいるのが素晴らしいですね。《噴水港》以外はすべてが出せるという構成で、2色デッキながら無理なくを捻出できるようになっています。
また、準決勝のセス・マンフィールド選手との試合では、《終末の加虐者》を使わず《極悪非道の盗人》と《完成化した精神、ジェイス》のみでライブラリーアウト勝利するゲームもありました。
アグロデッキ相手には除去とデーモンで戦い、ランプやコントロール相手にはライブラリーアウト戦略が明確に刺さります。
置き物破壊は捨てても勝てるという判断が素晴らしいですね。《強迫》と打ち消しの強さを再認識しました。
メタゲームを大胆に読み切った、さすがのチーム「Handshake Ultimate Guard」といえる完成度のデッキです。
ハビエル選手、優勝おめでとうございます!
ゴルガリミッドレンジ
準優勝したマルシオ選手のゴルガリミッドレンジのリストです。とてもメジャーなデッキであり、ことさら詳細に説明することはないのですが、気になった部分を紹介したいと思います。
『ダスクモーン:戦慄の館』登場による一番のアップデートは、《不浄な別室/祭儀室》の加入です。いまや「黒いデッキであれば採用しない理由がない」といえるほどのカードですね。
《ドロスの魔神》は以前のゴルガリミッドレンジでもたびたび採用された実績があるほど優秀なクリーチャーです。《不浄な別室/祭儀室》とのデーモンシナジーが加わった現在、より優先して採用されやすくなりました。
ゴルガリミッドレンジに限った話ではありませんが、アゾリウス眼魔の台頭によってメインから墓地対策をする構築が見直されています。《鋼と油の夢》は序盤の手札確認とハンデスを兼ねながら、墓地のクリーチャーを追放できる優秀なカードです。
《温厚な襞背》はアグロデッキ相手には4点のライフ回復がありがたく、置き物破壊と墓地対策もできる器用なクリーチャーです。以前はサイドボードでの起用が目立ちましたが、現在はメインから投入されることが増えています。
《グリッサ・サンスレイヤー》はゴルガリミッドレンジの定番クリーチャーですが、各種オーバーロード(兆候クリーチャー)と《不浄な別室/祭儀室》の登場により、相対的に評価が上がったといえます。
豊富な除去でブロッカーをどかし、攻撃を通せばいとも簡単にエンチャント破壊ができるのは、まさに破格の性能です。
それにしても、ゴルガリミッドレンジは息が長いデッキですね。《苔森の戦慄騎士》やミシュラランドなど、依然として優秀なタレントが揃ってはいますが、ほとんどの競技プレイヤーに動きを知られてしまっているデッキでもあります。
もちろん、トッププロであるマルシオ選手のプレイングがあってのことですが、ここまでタネが割れたデッキが世界選手権で準優勝するのは並大抵のことではありません。
フェアなデッキであるがゆえ、対策のされにくさが魅力なのでしょう。今後もスタンダードを代表するデッキの一つとして活躍することが予想されます。
ゴルガリランプ
今回、チーム「ChannelFireball Ultimate Guard」が調整した持ち込みデッキです。セス・マンフィールド選手はこちらのデッキを選択し、素晴らしい勝率を誇りました。
ちなみに、同じチームの代表的なトッププレイヤーであるリード・デューク選手はこちらのデッキではなくディミーアミッドレンジを選択をしております。
ランプといってもランプ要素は《ホーントウッドの大主》のみで、実質的には除去コントロール戦略を狙うデッキという印象です。
2ターン目《豆の木をのぼれ》 → 3ターン目《ホーントウッドの大主》という動きはとても強力ですが、アグロデッキ相手には少し隙が生まれる動きでもあります。
ただし、《ホーントウッドの大主》をプレイした次のターンでは5マナの呪文を唱えることができます。《死人に口無し》《ギックスの命令》《苦難の収穫者》などをプレイしながら《豆の木をのぼれ》でドローを重ねていく動きが強く、サイドボード後はメインと合わせて合計4枚の《切り崩し》を採用することで、アグロデッキ相手にも十分に戦える見込みがありそうです。
勝ち手段としては《黙示録、シェオルドレッド》を着地させてロングゲームに持ち込んだり、終盤は《執念の徳目》によるリアニメイトと《極悪非道の盗人》という必殺技があります。
盤面をコントロールしながら3ターン目にプレイした《ホーントウッドの大主》が動き出すのを待っても良いですし、かなり遅いゲームレンジを意識したデッキ構築です。
アグレッシブサイドボードプランとしては、追放除去が少なさそう相手に有効な《最深の裏切り、アクロゾズ》が追加のフィニッシャーとして採用されています。
そのほか、サイドボードにはかなり1枚挿しのカードが多いのですが、世界選手権のようなデッキ公開制の大会では「特定のカードをケアさせて、動きを鈍らせる」という意図で採用されているカードもあるかもしれません。
メインとサイドに1枚づつ採用されている《極悪非道の盗人》ですが、優勝したハビエル選手のディミーアデーモンのサイドにも1枚採用されていました。
ランプやコントロール対面では、《極悪非道の盗人》がもたらすアドバンテージが勝負を決めるほどのインパクトがあるということなのでしょうか。今後、要注目のカードですね。
赤単
最後に紹介するのは、トップ4に入賞したクイン・トノーリ選手の赤単のリストです。
タップインの土地が1枚もなく、最効率・最高スピードでの決着を狙います。赤いクリーチャーの凶暴さについてはもはや説明不要ですね。
- 2024/09/03
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- 紳さん
《雇われ爪》はグルール果敢などではあまり見かけないクリーチャーです。攻撃するたびに1点のダメージを飛ばす能力と、対戦相手がライフを失うことを条件に起動できる自身に+1/+1カウンターを置く能力を持ちます。
スタッツを大きくする能力はマナフラッド受けにもなり、ブロッカーがいたとしても確実に1点のダメージを与えられる点は終盤でも腐りにくいというメリットがあります。トカゲであるため、《岩面村》の対象に取れる点も見逃せません。
《叫ぶ宿敵》はダメージを受けるたび、そのダメージに等しい点数のダメージを対象に与えます。そして、この方法でダメージを与えられたプレイヤーは残りのゲームの間、ライフを得られなくなるという、あまりにも恐ろしい能力を持っています。
実質的に「ブロックされない」能力を持っているようなもので、いざとなれば《叫ぶ宿敵》に《ショック》を撃ち込んでダメージを飛ばすといった運用も可能です。
ライフを得られる心配がなくなれば、かなり優位に立てるでしょう。先述したようにブロッカーでは止めきれないダメージもありますし、終盤は引いてきた《ショック》や《稲妻の一撃》をプレイヤー本体に撃ち込むだけで勝利することができそうです。
ただし、ドロー手段がないため、土地を多めに引いてしまうと苦しい展開となるのは間違いありません。
サイドボードには定番の《ウラブラスクの溶鉱炉》が採用されています。
今後は世界選手権の影響でディミーア系デッキの使用者が増えることが予想されますが、置き物破壊が苦手なディミーア系デッキ相手に《ウラブラスクの溶鉱炉》が通るとかなり有利になりそうですね。
おわりに
以上、世界選手権のトップ4入賞デッキを紹介させていただきました。調整チームの持ち込みデッキはさすがのクオリティですね!
今回、惜しくもトップ16入りを逃しましたが、チーム「Sanctum of All」の持ち込みデッキであるティムール果敢も大きな話題となりました。
グルール果敢の人気により、メタゲーム的に除去コントロールよりのデッキが多かったことがやや不利に働いたのかもしれません。《渓間の洪水呼び》が集中的に除去されたことで、コンボを成立させるのが難しかったように思います。
一方、クリーチャー以外の勝ち手段を持つデッキはかなり立ち位置が良かったのではないでしょうか。特にディミーアデーモンのライブラリーアウト戦略に対抗する術はほとんどなく、かなりの脅威であったと推察されます。
とても見ごたえのある世界選手権でした。2度目の優勝という快挙を成し遂げたハビエル選手、3度目の準優勝という前人未到の記録を打ち立てたマルシオ選手、あらためて、おめでとうございます!
魅力的なデッキがたくさん登場して、またメタゲームが目まぐるしく動きそうですね!次回の大会結果もお楽しみに!