Translated by Takumi Yamasaki
(掲載日 2024/12/05)
世界王者、再び
やぁ、みんな!
- 2018/10/15
- 栄光の世界王者
- Javier Dominguez
数年前、「まさかこんな記事を俺が書くことになるなんて夢にも思わなかった」と記事で言っていた。まさかそれと同じ内容で、もう一度記事を書くことなどあり得ないと思っていたが、今ふたたびこうして筆を執っている。なぜなら……
『第30回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権』で優勝したからだ!!!
──では、最初から話を始めることにしよう。
調整過程
スタンダード
今回も「Team Handshake」とともに大会の準備をおこなった。我々はかなり大人数のチームで、それはつまり多くのメンバーが世界選手権の権利を持っていたということだ。素晴らしいね。また、大きなチームだったことで、いろいろなデッキを研究する十分な人手を得ることができた。
過去のレポートを読み返した際、2018年に当てはまっていた多くのことが、2024年の今でも自分やほかのプレイヤーにとって当てはまると気づいた。世界選手権は独特の雰囲気を持つ大会だ。多くのプレイヤーがプロツアーに多大な努力を注ぐが、世界選手権はその努力をさらに一段階高めさせる大会のように感じるね。
大会準備は夏の早い時期から始まった。アンソニー・リー/Anthony Leeの説得を受け、『ブルームバロウ』期のスタンダードに多くの時間を費やすことにしたんだ。我々の採ったアプローチは非常にシンプル。スタンダード環境を十分に理解しておき、新しいカードが登場したときに少し調整するだけで済むようにする、というものだった。
また、紙のマジックの経験を積むために、地元のゲームストアにも足を運んだ。というのも、《世話人の才能》のようなややトリッキーなカードを適切なスピードでプレイできるようになることは、長丁場の大会でとても重要だからだ。
実際に新カードがいくつか登場したが、赤単・ゴルガリミッドレンジ・白単コントロールなど、これらのデッキ間でのマッチアップにおける要点をすでに理解していたことで、ほかのアーキタイプや新しいデッキを探求するための時間に大きな違いが生まれた。我々はこれらのアーキタイプについて、十分な経験があると自信を持っていたんだ。
『ダスクモーン:戦慄の館』のカードがすべて公開されたあとは、それらが既存のアーキタイプに組み込めるものなのか、それともまったく新しいデッキを生み出すほど強力なものなのかを見極めることに集中した。
そして面白いことに、私は《終末の加虐者》をHareruya Wayfinderの時点で採用していたのだ!
It's #HareruyaWayfinder day!
— Javier Domínguez "Thalai" (@JavierDmagic) September 18, 2024
Today I'm bringing two Pioneer decks:
First, Monoblack Devotion!
Both Doomsday Excruciator and Meathook Massacre II are flashy cards that I think are quite powerful and give tons of devotion!https://t.co/TCuWaePrgH pic.twitter.com/X5U9jfqbOb
誰が想像できただろうか?
デッキ構築過程の初期段階はこれまでとほとんど同じで、大半はオンラインでの調整が中心だった。ただ、調整最後の追い込みはテストハウスでおこなわれる。ここでまさに”マジック”のようなことが起きるのだ。
今回は、テストハウスに到着する前からチームメイトのアドリアン・イニゴ/Adrián Iñigoと対面でマジックできる機会があり、実際のカードでの対戦により慣れることができたのは良かったね。
ラスベガスに到着したあとも、デッキについては完全に固まっていなかったけど、チームの何人かは《終末の加虐者》と《完成化した精神、ジェイス》を中心としたミッドレンジ/コンボデッキに取り組むことになった。
またしても、アンソニー・リーがミッドレンジデッキにコンボ要素を忍ばせることに成功したんだ。ただ、彼は大会の数週間前から《終末の加虐者》を使って試行錯誤していたが、当時存在していたバージョンはほとんどがコントロールデッキだった。今のスタンダード環境では能動的なプレイを求められるため、単純に十分な強さではないという結論に達したのだ。
彼が見逃していた重要なピースは、《不浄な別室/祭儀室》というスタンダードでおそらく最強のカードだった。
我々は《不浄な別室/祭儀室》をゴルガリミッドレンジにおける最強のカードと位置づけ、その圧倒的な強さの理由を突き止めた。ただ十分にプレイした結果、このカードはコンボデッキのほうが最適だと分かったんだ。
《不浄な別室/祭儀室》を最大限に活用するには、ディミーアが最適なデッキになることは明らかだった。ただ問題なのは、このカードを引けなかった試合でも、デッキを機能させる方法を見つけることだった。
こうして《フェアリーの黒幕》や《分派の説教者》のようなカードをデッキに採用することになった。《分派の説教者》は最終日の段階で《腐食の荒馬》2枚と入れ替えることになったけど、調整の大部分でデッキに入っていたカードだ。
コンボ要素に加えて、クリーチャーを採用したことでデッキの一貫性はやや損なわれたが、対戦相手にとっては非常に対処しにくいデッキになり、世界選手権に向けたデッキとしてはかなり魅力的なものとなったね。
とはいっても、我々はゴルガリがより手堅いデッキだと考えていて、実際ほぼそれでプレイするつもりだった。この2つのデッキを並行して調整していたけど、最終的にゴルガリは《忌まわしき眼魔》デッキとの相性があまりにも悪いとアンソニーとトニ・ラミス/Toni Ramisが判断したんだ。その結果、ディミーアデーモンを選択することになった。この決定がなされたのはデッキ提出締切の前日で、本当にギリギリだったよ。
そこからは作業を分担することにした。チームの一部は版図ランプと《忌まわしき眼魔》デッキをそれぞれ担当し、ミッドレンジデッキを担当するグループの中ではアンソニーがゴルガリを推していた。
一方で、私はディミーアデーモンの調整を主にクリス・ラーセン/Chris Larsenと一緒に進めていた。彼の無限の忍耐力で、デーモン対白単コントロールのようなマッチアップを数多くこなすことができたから、このデッキにかなり自身を持って大会に臨むことができたよ。
とはいえ、公開されたメタゲームブレイクダウンを見てみるとゴルガリを選択すべきなのは明らかだった。
ときにはデッキ選択を間違えることもあるけど、それでもトロフィーを手にすることはできるさ。ただ、自分たちのデッキは大会に向けて非常によく調整されていた自信はあるが、メタゲームの読みが外れたのは間違いないね。
ディミーアミッドレンジはかなり珍しいデッキになると予想していたが、実際には2番目に多いデッキだった。また召集デッキに対しても不利で、そのデッキに魅了されたプレイヤーも何人かいたから、結果的にメタゲームの読みは理想的とは言えなかった。
もちろん、最善の策は当たらないよう避けることさ。
ということで、これがチームの最終的なデッキリストだ。
果たしてこのデッキは傑作なのか、それとも雑多なプランのごちゃ混ぜデッキなのか?それは誰にも分からない!
リミテッド
リミテッドについては、ほかのプロツアーと比べて時間が多く取れたので、MTGアリーナでより多くのドラフトをおこなうことができた。
世界選手権のためにおこなったドラフトの回数は、今年開催された3回のプロツアーをすべて合わせた回数よりも多かったと思う。そのおかげで良いスタートを切ることができたし、ほとんどのカードやアーキタイプを試すことができた。もちろんこれは、十分な時間があれば比較的誰にでもできることだけどね。
ちなみに、最初のドラフトで1パック目に《恐怖を喰うもの、ヴァルガヴォス》を引き、その後のドラフトでも数回ピックできた。最終的に、練習中ヴァルガヴォスを使ったデッキを5個くらい組めたのは面白かったよ!このカードは神話レアなのに、自分のアカウントではまるでアンコモンのようだったからね!
『ダスクモーン:戦慄の館』環境のドラフトはとても好きになれたし、それが練習をかなり楽しいものにしてくれた。素晴らしい仕事をしたプレイ・デザイン・チームに感謝だ!
練習期間の1週間は本当に楽しかった。大好きなゲームを友人とプレイしているときは、いつもそう感じるね。今回はジェシー・ハンプトン/Jesse Hamptonがピックルボールの試合を企画してくれて、これもすごく楽しかった!それまでこのスポーツをしたことがなかったんだけど、数時間マジックから離れて体を動かすいい機会になったよ。
『第30回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権』
1日目
まず最初に言っておきたいのは、世界選手権はまさにジェットコースターのような体験だったということだ。
最初のドラフトポッドはかなり強力なメンバーがそろっていて、この手の大会ではよくあることだけど、私の左隣にはマルシオ・カルヴァリョ/Marcio Carvalhoがいた。彼はおそらく世界で最も優れたリミテッダーなので、これは決して良いニュースではない。
1パック目で《咆哮する焼炉/蒸気サウナ》という、私の中では非常に強力なレアを引くことができ、結果として《精体の追跡者》や《咆哮する焼炉/蒸気サウナ》などいくつかのレアが入った、とても堅実な青赤デッキを組むことができた。
非常に良いスタートを切れたものの、残念ながら第2ラウンドでは数ターンにわたるマナスクリューの末、ディスカードする羽目になり敗北してしまった。その後、ドラフトの最終ラウンドではサム・パーディー/Sam Pardeeと対戦したが、運良くトップデッキで除去を引き、いくつかの微妙なプレイを挽回して勝利することができたんだ。
そして次の構築ラウンドでは、苦手なマッチアップを踏まないことを願っていたよ。
次に対戦したのは、ニューヨーク出身の友人クリスティアン・カルカノ/Christian Calcanoで、彼はジェスカイ召集を使っていた。こちらのデッキに《悪意ある覆い隠し》系の対策カードが一切入っておらず、実質的にこのマッチアップを諦めているということに気づいて驚いていたよ。
1ゲーム目は完膚なきまでに叩きのめされ、2ゲーム目では土地が少ないもののまずまずの手札でキープしたが、記憶が正しければ、試合全体でたった2枚の呪文を唱えただけで、最初の構築ラウンドを5分で終えることになってしまった。
この時点で、早々に敗退するんだろうなと本当に感じていたし、それはそれで仕方がないと思っていたんだ。マジックの大会に出ることは刺激的で楽しいけど、数週間準備した大会で思うように結果を出せないのはたしかに辛いことだ。それでも、ある意味でそれを受け入れていた。というのも、この1年を通してかなり運が良かったと感じていたからだ。
まあ、実際にはその予想は外れていて、2勝4敗で終わる日は避けられたようだ。その後、カードが自分のほうに向いてくれ始め、その日の成績を5勝2敗で終えることができた。これはかなり良い結果だろう。
対戦相手が赤単だったから、何度か土地1枚でのキープを余儀なくされたこともあったね。上手くいったゲームもあれば、そうでないゲームもあったけど、運良くすべてのマッチで勝利することができたんだ。2-1でマッチに勝ったとしても、2-0と同様にもらえるポイントは同じさ。
2日目
大会2日目の朝、アンソニーとアドリアン、トニと一緒に「《ヴァルガヴォスの猛攻》でドラフトを始められたら最高だよね」なんて冗談を言いながら会場に向かったんだ。
そう、その予想通り。1パック目、そこには《ヴァルガヴォスの猛攻》が微笑むように私を待っていた。
5勝2敗なので、ドラフトポッドが強豪ばかりのは当然だったが、このスタートはとてもありがたかった。最終的に白青緑に流れてきた《希望の光、ニコ》を入れたデッキを組めたんだ。また、サイドボードから《黒焦げのホワイエ/歪んだ空間》のために赤をタッチするオプションもあった。
《希望の光、ニコ》を使ったことは一度もなかったけど、チームメイトは「青か白を使っているなら、必ずピックしてタッチすべきカードだ」と断言していた。すでに青と緑のカードでピックを進めていたので、迷わずピックしたよ。彼らの言う通りで、このカードは本当に強力だった。試合でもかなりの頻度で引くことができたし、さらには《孤立への恐怖》を使って再利用することもできた。
このドラフトから、本当に自分に運が向いてきたと感じ始めた。最初のラウンドはペドロ・ペリーニ/Pedro Perriniとの対戦で、3ゲーム目では彼の白赤アグロデッキに押されてライフが1まで削られる展開に……それでも彼はゲームが始まってから10ターンほど《山》しか引けないという状況に陥っていた。
第2ラウンドでは手札がゼロになったけど、《朽ちゆくジム/ウェイトルーム》をトップデッキしてクリーチャーを「戦慄予示」することができた。しかも、そのクリーチャーが《不注意な読書家》で、すぐに除去を引くことができたんだ。
最後の第3ラウンドの相手は井川 良彦だった。彼は序盤から順調にマナカーブ通り展開してきたが、4枚か5枚連続で土地を引いてしまい、その間にこちらが《ヴァルガヴォスの猛攻》をトップデッキして勝つことができた。
まあ、誰しもそんな日があるよね。
その後の構築ラウンドではハー・ファム/Ha Phamのディミーアデーモンと対戦した。この試合でかなりひどいミスをしてしまったんだ。具体的には、《ヴェールのリリアナ》に6つの忠誠カウンターがあったにもかかわらず、[-6]の奥義を使わないという選択をし、それが大きな痛手となった。
このゲームはどのみち負けていた可能性が高かったけど、こんな大会の終盤でこれほどのミスをするのはやはり悔しいね。
その後も運が続いた。親しいアレックス・ヘイン/Alex Hayneとの試合では、《不浄な別室/祭儀室》をたくさん引いたおかげで勝利し、最後の「勝てばトップ8進出」という試合ではチームメイトのイーライ・カシス/Eli Kassisと対戦することになった。
イーライはおそらく今大会での最悪の対戦相手で、というのも彼にはよく負けるんだ。それに加えて、彼はテクニカルなプレイにおいても非常に優れたプレイヤーだ。
以前、プロツアー『モダンホライゾン3』のドラフトで完全に圧倒されたことがあり、今回も同じことが起こるのではないかと少し怖かったんだ。ただ、《忌まわしき眼魔》デッキへの対戦経験は豊富だったので、少し自信を持って臨むことができた。それでも、やはり彼は手強い相手だ。
実際には、1ゲーム目で彼が《手練》と土地1枚の初手をキープしたものの、2枚目の土地を引くことができなかったため、その隙を突いてゲームを取ることができた。続く2ゲーム目ではしっかり負けたものの、3ゲーム目に持ち込むことに成功した。
練習中に《腐食の荒馬》と《不浄な別室/祭儀室》を一緒に採用することについて冗談を言い合っていたんだ。
「このデッキで《腐食の荒馬》に「騎乗」することなんてほとんどないよね」
「騎乗しないとなにが起こると思う?」
「8点ライフを失う代わりに《不浄な別室/祭儀室》が手札に来るのさ!」
なんてね。このまま冗談で済めばよかったけど、まさにここでその状況が起きたんだ。
その接戦となった3ゲーム目をなんとか制し、再び世界選手権のトップ8入りを果たすことができた。トップ8のメンバーは非常に強力な顔ぶれで、伝説的なプレイヤーであるカイ・ブッディ/Kai Buddeもそこにいた。
🥳Last one this round – congratulations @JavierDmagic on ANOTHER Top 8!#MTGWorlds pic.twitter.com/U5TZb1NfDK
— PlayMTG (@PlayMTG) October 27, 2024
大会後はおいしいアジア料理のディナーを楽しんだあと、早めに寝ることにした。その間にアンソニーとトニが、準々決勝のマッチアップについて調整してくれていたんだ。
予選で負けたハー・ファムとの再戦となったが、彼らから「このマッチアップはこちらのデッキが有利だ」という朗報を聞いた。何年経っても、彼らのような素晴らしい仲間がそばにいてくれることに感謝している。
3日目
3日目の日曜日。この日はトロフィーを懸けた戦いの日だ。
誰かに「また準々決勝で負けると不安になってるんじゃないか?」と聞かれた。というのも、過去3回のトップ8はすべて準々決勝で敗退していたからだ。しかし、実際のところ、そんなことはまったく考えていなかった。どの大会も新しい挑戦であり、過去の大会での結果にとらわれたくないからだ。
また今回の大会では、世界選手権のタイトルだけでなく、初の「カイ・ブッディ・プレイヤー・オブ・ザ・イヤー」を目指してプレイしていた。
日曜日の試合はすべて配信されていたが、ここでは自身の視点からも振り返ってみたいと思う。
準々決勝
準々決勝は、またしても自分にとって順調な展開となった。チームメイトが分析した通り、相性は有利で、加えて引きも平均以上だったと思う。特に相手が《戦慄の奔出》のような一撃必殺のカードをトップして敗北しうる場面もあったが、それ以外は比較的スムーズに進んだ試合だった。
一方、トーナメントの別卓では自分にとって重要な試合が行われていた。カイがセスと対戦しており、その結果が私の世界王者への可能性や「カイ・ブッディ・プレイヤー・オブ・ザ・イヤー」になるチャンスに大きな影響を与える状況だったのだ。
これまでディミーアミッドレンジとの対戦を避けてきたため、カイが勝利すれば私にとって厳しいマッチアップが待っていた。しかし、セスが勝利すれば、彼との対戦はやや有利なマッチアップとなり、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーの座をかけた直接対決になる可能性があったのだ。
準決勝
セス・マンフィールドとの準決勝は、まさに格別な試合だった。セスはマジック史上間違いなく最高のプレイヤーの一人であり、その安定感は驚異的だ。このマッチアップはわずかにこちらが有利だと言われていたが、実際のところは確信が持てなかった。
大会前にお互い未知のデッキを持ち寄り、対戦経験がほとんどない状態で世界選手権の準決勝で対決することになったのは、ある種の美がそこにあったと思う。このマッチアップをそれまで一度もプレイしたことがなく、セスもスイスラウンド中にサイモン・ニールセンと一度対戦しただけだった。
もし彼がこのマッチアップのために特別な練習をしていなかったのであれば、これまでの対戦から得た知識や手応えがあるわけではなく、想像でゲームがどのように展開するかを理論的に考えたことだろう。
この試合は、たとえ展開が白熱しなかったとしても、間違いなくこれまでの人生で最も熱い試合だった。
こういった非常に重要な試合について、ひとつ言えることがある。それは、内なる精神的な戦いがいかに重く、そして複雑なものになるかということだ。もちろん、すべてが自分の思い通りに進めば、簡単に感じることもあるだろう。だが、過度に楽観的になると、むしろチャンスを逃す原因になりうる。
特に思いがけず良いトップデッキをしたときは、心が浮ついてバランスを崩す可能性がある。そのため、状況がどれだけ良くても、あるいは悪くても、集中力を保つことが非常に重要なのだ。
──しかし、この試合の出だしはひどかった。いや本当に。
セスは1ゲーム目での引きが強く、2ゲーム目ではこちらがダブルマリガンを余儀なくされた。その結果、土地を引きすぎてしまい、セスは必要なカードをしっかりと引いていた。またしても、このまま終わるかと思われた。0-2で負けている状況であるため、逆転するのは難しい戦いになりそうだったが、あの瞬間の自分のメンタルを上手くコントロールできたことを誇りに思う。戦う準備はできていたんだ。
数分後、3ゲーム目ではセスがマナスクリューを起こして運が自分のほうに転がり始めた。
そして試合の緊張感は一気に高まり、決して止まることはなかった。
4ゲーム目では、セスが《豆の木をのぼれ》から《ホーントウッドの大主》というベストなスタートを切る一方で、こちらの動きはあまりよくなかった。
そして、ここで重要な瞬間が訪れた。手札に《終末の加虐者》があり、場には土地が5枚。これをプレイできれば、おそらくゲームを制することができると思った。土地を引くことを願っていたが引いたのは──《不穏な浅瀬》だった。
誰もが感じたことがあるだろう、大会の運命を決めるタップランドを引くあの瞬間。しかし、それがこの旅の終わりではなかった。1ターン後、状況はまだ十分に良く、セスは《強迫》を何枚も引いたが、ゲームに勝つためのカードを引くことができなかったのだ。
これで2-2となり、カイ・ブッディ・プレイヤー・オブ・ザ・イヤーのタイトルと、世界選手権の決勝進出をかけて戦う準備が整った。
勝とうが負けようが、こういう試合こそが私の生きがいだ。ほかでは味わえない、本当に忘れられない体験そのものなのだ。
5試合目は絶対に観るべき価値がある。
複数枚の《不浄な別室/祭儀室》《最深の裏切り、アクロゾズ》、そして《多元宇宙の突破》が絡む非常に緊張感のある試合の後、すべては2枚の《完成化した精神、ジェイス》をプレイしたターンにかかっていた。
そのとき、時間が一瞬止まったように感じた。すべてが終わろうとしているのは分かっていたのだ。頭の中で全てを計算し、セスがサイド後にデッキを60枚以上にしている可能性すら考慮した。よく考えた結果、明らかだったのは、この一手で試合に勝利を収めるか、あるいは派手にゲームを台無しにしようとしているかのどちらかだ、ということだ。
《完成化した精神、ジェイス》を2枚そのターンにプレイしたことは、その状況で取るべき最良の手だったか、近年のプロツアーで最悪のミスだったかのどちらかだった。もっと慎重にプレイし、楽な勝ち筋をたどることもできたが、私はリスクを取ることに決めたのだ。
結果的には、それが正しい選択だった。準決勝を制し、残るはあと一試合だけ。
決勝
決勝戦はマルシオとの対戦となった。
マルシオとは長年の友人であり、決勝で対戦するのは本当に特別な感じがした。私たち2人は、どちらかが世界王者になることを知っていた。私にとっては、どちらが勝っても嬉しい状況だった。自分が勝てばもちろん喜ぶし、マルシオが勝ったとしても、彼にとってそれがどれほど重要なことかを知っていたので、心から喜ぶことができただろう。
ある意味では、これまで何度も友達の家で遊んできたゲームのようにも感じられた──がむしゃらに勝とうとする、あの懐かしい感覚だ。
決勝戦は、こちらのデッキが完璧な動きをし、彼のデッキが上手く回らずに3-0で幕を閉じた。まさに「《強迫》で除去を抜かれたが、もう1枚の除去をすぐに引いた」みたいな試合だったのだ。
そのなかでも、特に興味深かったのは3ゲーム目だ。
お互いに戦略的にプレイし、リソースを最大限に活用しようした。マルシオは《強迫》をプレイし、こちらの手札に《呪文どもり》があるのを見て、それを捨てないことを選んだ。後のアドバンテージ勝負を考えて、2枚あるうちの1枚の《不浄な別室/祭儀室》を選択したのだ。
その次のターン、私は手札に残ったもう1枚の《不浄な別室/祭儀室》をプレイせず、《呪文どもり》を構えてマルシオの展開を防ぐことにした。これにより、おそらくケアされて《呪文どもり》をプレイできなくなるが、彼が持っている可能性のある《羅利骨灰》のようなカードを回避することができた。
その後、《完成化した精神、ジェイス》を使って彼のアクションをおびき出し、《眠らずの小屋》で対処させた。これにより、こちらの《不浄な別室/祭儀室》の価値を最大限に活用することができたのだ。
試合は長引き、最終的には十分な呪文は手札にあるものの土地がなく、マルシオは土地はあるが呪文がないという状況になった。私が土地を十分に引いた時点で、ほぼ勝利は確定したが、試合を終わらせるまでには数ターンかかったのだ。
――そして、私は再び世界王者になった。
感情が溢れた週末で、特にあの瞬間は忘れられない。こんな勝利はたいてい喜びが爆発するような感覚になるが、今回はマルシオに少し申し訳ない気持ちもあった。しかし、彼はいずれその場所にたどり着くことだろう。
世界中から多くの友人たちが集まって一緒に祝ってくれたことは、私にとって何よりも大切なことだった。
すべてのサポートに、心から感謝している。それは決して見過ごすことのない、大切なものだ。マジックプレイヤーのみんな、私がこれまでに出会った友人たち、長年一緒にいてくれた人々、そして最近出会った人々……
この大会やほかの大会でより良い競技ができるように支えてくれたチームメイトや特別な人たちに感謝している。彼らのおかげで今の自分があるんだ。
みんな、ありがとう。
おわりに
次の大会、次のプロツアー、そして次のシーズンが待ちきれない。
世界選手権での勝利は本当に特別なものだが、何よりも価値があるのは最高のレベルでマジックをプレイし、最高のプレイヤーたちと競い合い、親友と共に過ごす時間だ。
マジックに終わりはないし、これからも高みを目指していくよ。
読んでくれてありがとう!