グレイトフルデックス vol.2

平林 和哉




 最近は「家眠杯」なるものがあるらしい。

 もし私、平林が出るとしたら、何を持っていくだろうか。

 そう考えたとき、5つのデッキに思い至った。

 18年のマジック歴の中でも、特に思い入れの深い、大好きなデッキたち。

 私の好きな5つの物語を、語らせて欲しい。









 まず第1回でサバイバルについて語ったわけだが、今回は「マジック史上最も美しいコンボデッキ」……ピットサイクルについて語らせてもらおう(*1)。

 ただ、ピットサイクルのみがコンボデッキというわけではない。

 過去から現在に渡り、「サイクル型コンボデッキ」は数多のプレイヤーを虜にしてきた。

 無論その全てを網羅することは出来ないが、ここではピットサイクルとその兄弟の変遷を見ていくことにしよう。


スカージの使い魔


*1 マジック史上最も美しいコンボデッキ
MTG Wikiから。
当時そういう呼び名を聞いた覚えは無かったのだが、意見としては超同意。→戻る



1.サイクル型コンボデッキの夜明け

 まずはコンボデッキの定義を考えねばなるまい。

 さらに言うなれば、一口にコンボデッキといってもその分類は多岐に渡る。

 そのためここで一度定義付けをしておこう。

 コンボデッキとは……「コンボ成立で実質的にゲームを勝利することが出来る」ものである。

 そしてここから細分化すると、

・成立=即勝利するタイプ
・特定のサイクルをループさせるタイプ(≠無限)

 の2つのタイプに区分することが出来る。

 前者は昨今であれば欠片の双子(*2)が該当する。
 コンボの性質はキーパーツを見るだけで分かりやすいものばかりだろう。

 さて今回取り上げていくのは後者となる。


Mike Long 「プロスブルーム」 プロツアーパリ’97 (優勝)

7 《森》
6 《沼》
5 《島》
4 《知られざる楽園》
3 《湿原の大河》

-土地(25)-


-クリーチャー(0)-
4 《吸血の教示者》
4 《繁栄》
1 《魔力消沈》
1 《エメラルドの魔除け》
2 《記憶の欠落》
1 《生命吸収》
4 《冥府の契約》
4 《衝動》
1 《三つの願い》
4 《自然の均衡》
1 《エルフの隠し場所》
4 《資源の浪費》
4 《死体の花》

-呪文(35)-
4 《エレファント・グラス》
3 《エメラルドの魔除け》
3 《孤独の都》
2 《根の壁》
1 《記憶の欠落》
1 《魔力消沈》
1 《エルフの隠し場所》

-サイドボード(15)-
hareruya



資源の浪費死体の花


 サイクル型コンボデッキといえばこれを思い出すプレイヤーも少なからずいるのではないだろうか。

 マジック初期におけるコンボデッキの傑作“プロスブルーム”である。

 サイクル型コンボデッキの特徴は、マナと手札、場合によってはそれ以外のリソースを変換し続けるシステムが組み込まれている部分だ。

 だが、事前に知識が無ければ何が目的のデッキなのか分かりにくいことが多い。

 たとえばこのプロスブルームの場合、

・マナ関連 《資源の浪費》《自然の均衡》《死体の花》
・手札補充 《冥府の契約》《繁栄》

 コンボパーツはこの二種に区分することが出来る。

 基本的な流れは以下。

1.まず《資源の浪費》を設置。
2.場に出してある土地を全て《資源の浪費》で生け贄に捧げ、《自然の均衡》をプレイ。
土地を5枚持ってくる(+10マナ)。
3.《冥府の契約》で手札を増やす。
4.《死体の花》を設置。
5.《繁栄》をプレイ。余剰な手札を《死体の花》へ、再び大規模な《繁栄》に繋げる。
6.十分なマナを支払い《生命吸収》



 一連の流れとしては以上になるが、もちろんこの工程はあくまで基本であり、いきなり《死体の花》設置から始まるパターンも有り得るし、《資源の浪費》《死体の花》《自然の均衡》をスキップすることもある。

 つまるところいずれにせよ終着点としてはデッキ名の”Pros-Bloom”同様、《繁栄》《死体の花》コンボになる。

 とはいえ、そこに至るルートが多岐に渡ることは大きなメリットとなる。

 すなわち、妨害の適切な対象が分かりにくいこと。

 プレイ難易度が高いことは、そのまま対戦相手サイドから見て状況が把握しづらいことの裏返しとなるからだ。

 最も恐るべきは、このコンボデッキがミラージュブロック限定構築のものであったこと。

 直後のスタンダードこそ、《Force of Will》擁するカウンターポスト(*3)が横行していたためそれほど目立つ存在にはならなかったが、やはりというべきかテンペストブロック後のスタンダード期においては一定の勢力となった。

 ヨーロピアンブルー(*4)の存在や、テンペストで《ロボトミー》が追加されたことを考えると、その高いスペックが窺い知れるのではないだろうか。

 また当時のルールではライフが0になっても即負けとならなかったため、《冥府の契約》が撃ち放題だったことも特筆したい(*5)。

 何かと噂の絶えなかったMike Long(*6)が使っていたデッキということもあり、挙動の胡散臭さと共に記憶に残り続けたデッキであった。


Zvi Mowshowitz 「ターボズヴィ」

12 《島》
2 《シヴィエルナイトの寺院》
4 《水晶鉱脈》
4 《古えの墳墓》

-土地(22)-


-クリーチャー(0)-
4 《マナ切り離し》
4 《衝動》
4 《ガイアの祝福》
2 《対抗呪文》
4 《瞑想》
4 《ふるい分け》
1 《霊感》
1 《ロボトミー》
4 《祖先の記憶》
2 《炎の波》
4 《ドリーム・ホール》
4 《水蓮の花びら》

-呪文(38)-

-サイドボード(0)-
hareruya



ドリーム・ホールマナ切り離し


 《ドリーム・ホール》を利用したサイクル型コンボ。

1.まずは《ドリーム・ホール》を設置。
2.《マナ切り離し》でドローの大半をドロースペルに変更する。
3.《ふるい分け》《瞑想》《祖先の記憶》をひたすらプレイ。
4.《祖先の記憶》《ガイアの祝福》を墓地に送るとライブラリーが修復されるため(※《祖先の記憶》のディスカードは手札を経由していない)、サイクルを繰り返す。
5.この過程を繰り返す際、引いてきた《水蓮の花びら》で地道にマナを増やす。
6.マナが貯まったら勝ち手段を。


 主な実績を残したデッキでは無いので知名度は低いのだが(*7)、このデッキに関しては面白いエピソードがある。

 それは現在では一般的になった、時間切れ後追加5ターンで決着を付ける、というルール制定以前のデッキであり、おそらくその一因となったデッキということだ。

 当時は追加ターンが無かったため、時間切れになったターンでゲームが終了していた。そのせいもあって、最終ターンに関する時間的制約は今よりもかなり緩いものになっていた。

 その状況のこのデッキである。

 このバージョンは《炎の波》が入っているため決着はまあまあ早いのだが、バージョンによっては《生命吸収》のみを勝ち手段としていたり恐ろしく気が長い。

 何しろ一連の流れで増えるのが1マナか2マナ、それを延々と繰り返すわけで、待たされているトーナメント運営側と他の参加者はたまったものではない。

 サイクルデッキは危険。それはメタゲームの健全さだけではなく、トーナメント進行の妨げになるから。

 その事実は今も昔も変わらないのだ(*8)。


*2 欠片の双子
Samuel Eltranti が優勝したプロツアーフィラデルフィア’11以降、モダンを象徴するコンボ。
コンボに必要枚数が少なく、ターン終了時から即死を狙えるため非常に厄介。
白が入ったり《タルモゴイフ》と組んでみたり無節操極まりない。→戻る

*3 カウンターポスト
ほぼ《Kjeldoran Outpost》のみを勝利手段とする気の長いコントロール。
《Thawing Glaciers》《渦まく知識》によりアドバンテージを築き上げる。
もしかすると《Kjeldoran Outpost》より《ジェラードの知恵》で投了した人の方が多いかもしれない。
なおサイド後は《政略》によるクソゲーも勃発していた。→戻る

*4 ヨーロピアンブルー
前述のカウンターポストよりパーミッション色の強いコントロール。
純青単で構築され、わずかに投入された《鋼のゴーレム》《虹のイフリート》《隠れ石》のみで殴り勝つ。
《ミューズの囁き》バイバックに絶望を覚えた人も多かった。
面白いのが《幻視の魔除け》の存在で、《ネビニラルの円盤》起動対応のフェイズアウトや《沸騰》返しなど、読みづらい挙動を示すいぶし銀。→戻る

*5 ライフが0になっても即負けにならない
第6版ルール(1999年施行)までライフが0になっても各フェイズ(現在のステップに概ね相当)が終了するまでゲームに敗北することはなかった。
つまりライフがマイナス域に落ちようと、《生命吸収》でプラス域に復旧出来れば負けることは無い。
お互いに火力を握り締めて、「先に動いた方が負ける!」という西部劇シチュを作りたかったから即負けに変更になった・・・・とは専らの噂(嘘です)。→戻る

*6 Mike Long
往年のヒールと言えば彼だろう。

圧倒的な実績(PT決勝ラウンド5回)を残していたのも確かなら、常に黒い噂も事欠かない。
だがそれでも彼は特別なプレイヤーだった。
以下にプロスブルームについてのエピソードを挙げよう。

舞台はプロツアーパリ決勝戦。
Longがデッキに唯一の《生命吸収》をリムーブした上で勝利したという伝説がある。
つまり必要に迫られたLongは《死体の花》《生命吸収》をリムーブしてマナを生成し、何食わぬ顔でコンボを回し続け、「もうすぐお前の負けが決まるけど?」といった行動で勝った、というものだ。
実は私もそう覚えていたのだが、事実はそうではなかった。
まずゲーム2で対戦相手のMark Justiceが《繁栄》2枚を見せて投了したことを受け、ゲーム3で唯一の勝利手段である《生命吸収》をサイドアウトするという奇策に出た(このゲームは負けている)。
また、負けたゲーム1では《生命吸収》をゲームから取り除いてマナを出すという行動に出ており、あたかも複数の《生命吸収》がデッキに入っているかの如くミスディレクションを仕掛けている。
結果大詰めとなった5ゲーム目、Justiceは《強要》《生命吸収》を見つけていたにも関わらず他のカードを指定してしまった。
もちろん当時はトップ8のデッキリスト交換が無かったこと、また多数のプレイヤーが複数の《生命吸収》をデッキに入れていたこと。
それらの条件が整っていたのも事実であるが、負けるゲームも布石として利用するMike Long、恐るべしである。→戻る

*7 知名度は低い
初期のプレミアイベントでスタンダードが採用されることはかなり少なかった。
それはグランプリ=プロツアー予選の延長線上であり、特定のフォーマットで開催されていたからである。
そのためスタンダードは国別選手権、大陸選手権、世界選手権が主なフィールドだった。→戻る

*8 時間的制約
モダンにおける《師範の占い独楽》禁止の最大の理由。
またプロツアー「ラヴニカへの回帰」を制したサニーサイドアップがつまみ出されたのもこの理由から。
コンボが回り始めた状態で、ジャッジに任せて離席するというリアルF6事件も生み出している。
(F6とはマジックオンラインでターン中全ての優先権を放棄する操作)→戻る



2.狂気の時代

 マジックの歴史を振り返る度に口にされる言葉がある。
 畏敬を込めてか、それとも侮蔑か。

 ネクロの夏(*9)、MoMaの冬。


Tommi Hovi 「MoMa」 プロツアーローマ’98 (優勝)

4 《Tundra》
4 《Volcanic Island》
3 《真鍮の都》
4 《トレイリアのアカデミー》
4 《古えの墳墓》

-土地(19)-


-クリーチャー(0)-
3 《魔力消沈》
3 《中断》
4 《天才のひらめき》
4 《意外な授かり物》
3 《直観》
4 《時のらせん》
3 《精神力》
4 《水蓮の花びら》
4 《モックス・ダイアモンド》
4 《魔力の櫃》
3 《通電式キー》
2 《巻物棚》

-呪文(41)-
4 《不毛の大地》
4 《ゴリラのシャーマン》
4 《寒け》
2 《赤霊破》
1 《秘儀の否定》

-サイドボード(15)-
hareruya



トレイリアのアカデミー精神力時のらせん


 マジック史上初のプロツアー2勝が達成されたのがこのプロツアーローマ’99。
 その立役者となったのがこのMoMa(エクステンデッドver.)だ。

・マナ関連 《トレイリアのアカデミー》《精神力》《魔力の櫃》
・手札補充 《天才のひらめき》《意外な授かり物》《時のらせん》

1.マナアーティファクトを展開する。
2.《意外な授かり物》《時のらせん》で手札を補充。
3.十分なマナが出たら《精神力》を設置。
4.手札を《魔力の櫃》《トレイリアのアカデミー》のアンタップに充て、《天才のひらめき》をプレイ。
5.このプロセスを繰り返し、十分なマナが出たら対戦相手に《天才のひらめき》You。


 数多の禁止カードが制定される原因となったウルザ期コンボデッキの先駆けであり、最悪コンボデッキの代表格である。

 実際に回してみると分かることだが、デッキに入っているカードの大半がマナソースと「カードを引く」カードで形成されているため、速度、安定感ともに極めて高い。

 当時存在したカードプールの量から考えると異常なことであり、メタゲームが歪んでしまったことは想像に難くないだろう。

 その尋常ではない不健全さから、

1999年1月--《トレイリアのアカデミー》《意外な授かり物》禁止
同年4月--《水蓮の花びら》《時のらせん》禁止
同年7月--《精神力》禁止

 と立て続けに禁止制定も出している。

 4月の禁止制定時点でキーパーツの大半を失い、第6版移行により《魔力の櫃》をも奪われたMoMaだったが、それでも《実物提示教育》*10)により踏みとどまっていたのが恐ろしい。

 結局最後にはそのプランすら崩されてしまったわけだが。

 あまりにもミラーマッチが横行するためメインボードに《紅蓮破》が採用されたり、MoMa以外も《トレイリアのアカデミー》を投入していた程である(*11)。


Erik Lauer 「メグリムジャー」 グランプリウィーン’99 (4位)

4 《Underground Sea》
4 《真鍮の都》
3 《地底の大河》
2 《宝石鉱山》
3 《古えの墳墓》

-土地(16)-


-クリーチャー(0)-
4 《渦まく知識》
4 《暗黒の儀式》
4 《吸血の教示者》
1 《神秘の教示者》
4 《修繕》
2 《ヨーグモスの意志》
1 《偏頭痛》
4 《ライオンの瞳のダイアモンド》
4 《水蓮の花びら》
4 《モックス・ダイアモンド》
4 《魔力の櫃》
4 《防御の光網》
4 《記憶の壺》

-呪文(44)-
4 《Force of Will》
2 《砂のゴーレム》
2 《紅蓮破》
1 《寒け》
1 《神秘の教示者》
1 《解呪》
1 《中断》
1 《非業の死》
1 《ヨーグモスの意志》
1 《憂鬱》

-サイドボード(15)-
hareruya



記憶の壺修繕


 MoMaの登場から早四ヶ月。
 まさかそれを上回る凶悪なデッキが現れようとは誰も思わなかっただろう。

1.マナ加速。
2.《記憶の壺》をプレイ。直接、もしくは《修繕》*12)から。
3.引いたカードから同手順を繰り返す。
4.あとは《偏頭痛》を加えるだけ。


 手順としてはたったこれだけである。
 コンボ途中で止まってしまう可能性が存在するということ以外、他のサイクルデッキとは一線を画した安定感と速度を誇る。

 それは《記憶の壺》がコンボパーツとしても、勝利手段としても機能すること。
 手札補充を兼ねているため実質的な一枚コンボになり得ること。
 そしてその《記憶の壺》を調達するための《吸血の教示者》《修繕》といったサーチカードに事欠かなかったといった様々な理由があった。

 またこのエクステンデッドバージョンでは、《ライオンの瞳のダイアモンド》というベストパートナーが存在したこともまた大きい。

 《ヨーグモスの意志》という分かりやすいコンボを使用しなくても、そもそも《記憶の壺》の機能と相性の良いカードだったからだ。このことが恐るべき速度を生むことになる。

 そうした《記憶の壺》は登場からわずか2週間で禁止カードに制定されてしまう(*13)。トーナメントシーンからは事実上、瞬く間に放逐されることとなった。


*9 ネクロの夏
世界選手権’96スタンダードフォーマットでは《ネクロポーテンス》が支配的な存在だった。
そのことを揶揄する表現として伝わっている。
だが最後に勝利したのは多数のプロテクション黒擁するTom Chanpheng駆る白ウィニーだったというのもオチとしては面白い。
ここに挙げているMoMaが決勝で対峙したのも、アンチMoMa筆頭のフィッシュ(マーフォーク)であった。
環境が歪めばまたアンチデッキも台頭するのもまたメタゲーム、といったところか。→戻る

*10 《実物提示教育》
現レガシーを象徴するカードの一枚。
かつてはクソレアだったという話もあながち間違ってはいないのだが、使い道が無かったというわけでもなかった。→戻る

*11 MoMa以外も《トレイリアのアカデミー》を投入していた
当時のレジェンドルールは完全なる先出しゲー。
一度伝説のパーマネントが設置されてしまうと、どちらのプレイヤーも同名のカードがプレイできなくなってしまっていた。
つまり《不毛の大地》出来ない限り、完全に相手の《トレイリアのアカデミー》を腐らせることが出来る。
リベリオンミラーの《果敢な勇士リン・シヴィー》といい、各地で先手クソゲーが勃発していた。→戻る

*12 《修繕》
何故刷られたのかが謎の一枚。
何より《記憶の壺》と一緒のセットに入れてしまったことは最大のミステイクと言える。
マジック歴代のカードの中でも、ゲームの決着原因となった回数ランキングでは相当上位のカードではないだろうか。
現ヴィンテージでも《荒廃鋼の巨像》《Time Vault》《通電式キー》とのコンボ用)をサーチしては対戦相手の不興を買っている。→戻る

*13 登場からわずか二週間で禁止カードに制定
歴代の禁止カードの中でも最速のものである。
もはや何で収録してしまったのかというレベル。
なお私はPTQの会場で4枚集めてしまったため、悲惨なことになったという経験がある。→戻る



3.ヨーグモスの取り引き/Yawgmoth’s Bargain

 さて肝心のピットサイクルに辿り着くまでが長くなってしまっているわけだが、ここでもうワンクッション挟むことをご容赦いただきたい。

 《ヨーグモスの取り引き》を利用したコンボデッキはピットサイクルだけでは無かったからだ。


Zvi Mowshowitz 「Zviバーゲン」 アメリカ選手権’99 (4位)

4 《地底の大河》
4 《真鍮の都》
4 《ルートウォーターの深淵》
4 《水晶鉱脈》
4 《裏切り者の都》

-土地(20)-


-クリーチャー(0)-
4 《暗黒の儀式》
4 《吸血の教示者》
1 《猛火》
3 《実物提示教育》
1 《ヨーグモスの意志》
1 《撤回》
3 《転換》
4 《凡人の錯覚》
4 《ヨーグモスの取り引き》
4 《モックス・ダイアモンド》
4 《通電式キー》
4 《厳かなモノリス》
3 《巻物棚》

-呪文(40)-
3 《防御の光網》
2 《解呪》
2 《夜の戦慄》
1 《アダーカー荒原》
1 《マスティコア》
1 《非業の死》
1 《沸騰》
1 《ロボトミー》
1 《寒け》
1 《エネルギー・フィールド》
1 《日中の光》

-サイドボード(15)-
hareruya



ヨーグモスの取り引き転換


 当時まだダブルエリミネーションだったアメリカ選手権’99(*14)で鬼才Zvi Mowshowitz(*15)が見事代表入りを決めた作品がこのZviバーゲンである。

 デッキの動きとしては説明不要なレベルで、

1.《ヨーグモスの取り引き》をプレイする。
2.マナアーティファクトを並べる。しかる後に《転換》でマナを増幅。
3.《凡人の錯覚》を設置、そのライフでもりもりカードを引く。以下繰り返し。
4.《猛火》をあなたに。


 と至極簡単なものになる。

 ただし簡単なのは見た目上の動きだけであり、最速パターンを求めるのは意外と難しい。
 《ヨーグモスの取り引き》の調達パターンも限られているし、《ヨーグモスの取り引き》設置から即勝ちに向かうほどのマナ捻出も難しいからだ。

 他プレイヤーが選択したコンボデッキが概ね補充(*16)だった、というのも頷けるほどの難解さを誇る。


 さていよいよ本題となるピットサイクルへと話を移そう。

 このデッキに関しては何より先にリスト、そして動画を御覧頂きたい。


射場本 正巳 「ピットサイクル」 The Finals’99 (3位)

7 《沼》
5 《平地》
4 《泥炭の沼地》
2 《僻遠の農場》
3 《ファイレクシアの塔》
1 《高級市場》

-土地(22)-

4 《アカデミーの学長》
4 《レイディアントの竜騎兵》
4 《スカージの使い魔》

-クリーチャー(12)-
4 《暗黒の儀式》
4 《吸血の教示者》
4 《死体発掘》
1 《縁切り》
1 《ヨーグモスの意志》
4 《魂の饗宴》
3 《ヨーグモスの取り引き》
4 《厳かなモノリス》
1 《レイモスの歯》

-呪文(26)-
3 《打倒》
2 《解呪》
2 《休止》
2 《非業の死》
2 《日中の光》
1 《大天使》
1 《一掃》
1 《撲滅》
1 《象牙の仮面》

-サイドボード(15)-
hareruya



スカージの使い魔アカデミーの学長







 射場本”宇宙忍者”正巳(*17)作のコンボデッキ。
 それがピットサイクルである(*18)。

 かつてのMoMaやメグリムジャーほど速い決着が望めるコンボでは無い。
 そのため特に禁止カードを出すことも無く、スタンダードで天寿を全うすることになった(*19)。

 ピットサイクルの動きとしては以下に記載する通り。

1.《ヨーグモスの取り引き》を場に出す。《アカデミーの学長》《ファイレクシアの塔》経由だとなお良い。
2.《スカージの使い魔》プレイ。以降の不要牌(*20)をマナに変換する。
3.《レイディアントの竜騎兵》《死体発掘》、および《魂の饗宴》でライフ、《ヨーグモスの取り引き》で手札に。
4.手詰まりが見えてきたら《吸血の教示者》を駆使して《レイモスの歯》《縁切り》でライブラリー引き切りを目指す。
5.《ヨーグモスの意志》は偉大です。


 特定のルーチンを回すだけではゲームに勝つことが出来ない。
 この点は他のコンボデッキ同様になるのだが、ピットサイクルの場合特に回し始めた部分からが有機的な作業となる。

 つまるところ、端的に言えばこのデッキは《ヨーグモスの取り引き》1枚コンボである。
 ただそれは始動段階のことであり、以降は全てのリソースを管理していかなければならない。

 実際に回してみると分かるだろう、かなりライフを残した状態でコンボ始動したとしても、コンボ過程を見てみると案外ギリギリの綱渡りだったりもする。

 《吸血の教示者》を使うべきか否か。
 一旦ターンを返すかどうかの選択。
 1枚1枚引くことが出来るだけに、常に各選択肢を吟味する必要があるのだ。

 また、ピットサイクルには構造の良く似た別バージョンも存在する。


Jon Finkel 「セイバーバーゲン」 インビテーショナルKL’00 スタンダード部門 (3-1)

6 《沼》
5 《平地》
4 《ファイレクシアの塔》
4 《泥炭の沼地》
3 《僻遠の農場》

-土地(22)-

4 《アカデミーの学長》
4 《スカージの使い魔》

-クリーチャー(8)-
4 《暗黒の儀式》
4 《吸血の教示者》
3 《縁切り》
2 《ヨーグモスの意志》
4 《魂の饗宴》
3 《ヨーグモスの取り引き》
3 《通電式キー》
4 《厳かなモノリス》
3 《レイモスの歯》

-呪文(30)-
4 《ファイレクシアの抹殺者》
4 《強迫》
3 《非業の死》
2 《解呪》
1 《虐殺》
1 《赤の防御円》

-サイドボード(15)-
hareruya



縁切りレイモスの歯


 こちらはセイバーバーゲン(*21)と呼ばれた海外で派生した改良型。

 主に《通電式キー》を採用したことによる速度、《レイモスの歯》による安定した白マナ供給等、コンボデッキらしさを追求したデッキに変貌している。

 とりわけピットサイクルの弱点であった、《アカデミーの学長》を生け贄に捧げる手段が増えているのはメリットとして優れている点と言えるだろう。

 だが単純にピットサイクル<セイバーバーゲンという構図が成立したわけではなかった。
 それは環境に青いデッキが溢れ返っていたからである。

 《死体発掘》という一枚のスペルの有無、その事実はあまりに大きい。
 ゆえに私はピットサイクルを選択していた。
 否、使い続けていた。
 補充程度のカウンター量なら潜り抜けられるだけの自信はあった。

 青茶単には耐えた。
 どのみち《天才のひらめき》が機能するターンには勝てないからだ(開き直り)。

 そしてカササギブルーに止めを刺された(*22)。

 個人的な思い出としては結果を出すに至らなかったデッキではある。
 The Finals’99最終戦、村上祐樹(*23)に負けてベスト8を逃した以外ぐらいなもので、他は大した成績 に結びついたわけでもない。
 大抵こういう印象に残るデッキといえば戦績とリンクしたものが普通になるのだが、
 不思議とピットサイクルはその例外になっている。

 やはり回していて楽しかったからだろうか。
 繋がるか繋がらないか、プレイしていてハラハラさせられるコンボデッキというのもそう無いと思う。
 狂ったほど早いわけでもないし、減らされるライフは確かにコンボ達成の支障となる。

 ついこの間、第2回家眠杯でおよそ14年ぶりにピットサイクルを回してきた。
 そして完成されたその動きは色褪せたものではなかった。

 補充に《浄化の印章》《パララクスの波》《補充》と叩きつけられたり、ストンピィ(*24)にライフを減らされすぎて負けたのも久しぶりだ。

 こんな楽しいおもちゃを提供してくれたしゃばさんには敬意を表したい。
 デッキに賞味期限なんて無い!


*14 当時まだダブルエリミネーションだったアメリカ選手権’99
2001年まで国別選手権ではダブルエリミネーションが採用されていた。
そのためベスト8初戦で負けても敗者復活戦が存在し、ベスト4で負けたプレイヤーと敗者復活戦の勝者で代表入りを賭けた最後の勝負が行われるシステムとなっていた。
この年のZviも初戦こそ負けたものの、その後二連勝でアメリカ代表入りをもぎとっている。
なお世界選手権’98覇者のBrian Seldenもお得意のサバイバルでベスト8に残っていたのだが、こちらはあえなく2連敗で代表入りを逃した。→戻る

*15 Zvi Mowshowitz
2007年に殿堂入りした希代のデッキビルダー。
My Firesというコラムやプロツアー東京’01を優勝したソリューション(インベイジョン限定構築)により世界的な存在となったが、それ以前でもターボZvi等の難解なコンボ製作で有名だった。
それにしても人は痩せられるものですね。




アメリカ製のダイエット飲料はやばいのでは無いかと噂された原因。→戻る

*16 補充
約一年後《パララクスの波》《オパール色の輝き》で一時代を築いたものとは別物で、《ヨーグモスの取り引き》《凡人の錯覚》《突撃の地鳴り》を投げつける大雑把なコンボデッキ。
ただ《大あわての捜索》《調律》が便利すぎるため、
Zviバーゲンよりは余程回しやすかった。→戻る

*17 射場本正巳
日本三大地雷(死語)の一人。通称しゃばさん。
日本人は青が好きと呼ばれて久しいが、彼は白いデッキや黒いデッキを好んで使っていたように思う。概ね独自路線。
ピットサイクル以外の代表作としては無限ライフ:ループジャンクションがある。→戻る

*18 ピットサイクル
The Finals’99当時のデッキ名は「Pit Cycle 2000 Millennium Ninja Max」と呼ぶらしい。
個性的な名前を付ける文化は当時珍しかった。→戻る

*19 特に禁止カードを出すことも無く
《ヨーグモスの取り引き》のような狂ったカードが存在したことを考えると意外なことに思えるかもしれない。
これはスタンダード当時、補充、青茶単、カササギブルー、ティンカー等青いデッキがメタゲームの主軸となっていたということ、またそれによりバーゲン系デッキが環境を支配出来なかったということの証左でもある。
ただしこれはあくまでスタンダードの話であり、より広いカードプールが存在するエクステンデッドやヴィンテージにおいて《ヨーグモスの取り引き》の禁止制限制定は迅速に行われた。→戻る

*20 不要牌
マジックと麻雀は似ている。
およそ複雑な期待値をデジタルで詰めようとしている部分、そしてそれがゲーム外情報にも及ぶところ。
また勝負所が限られてくるため、結果論と理詰めとのせめぎ合いが起こる辺りも。
この話を続けると誰か飛び出てきかねないので切り上げるが、かくいう事情から麻雀用語が使われることも多い。→戻る

*21 セイバーバーゲン
セイバーとはSaber(米国表記、英国表記はSabre)、サーベル、もしくはサーベルで切りつける、殺すの意。
ピットサイクルという名前も良いが、こちらの呼び名もなかなかのもの。
青茶単=Accelerated Blue(アクセラレイテッドブルー)等、横文字の呼び名も良いものですよね。
ソーラーフレアなんてものもありました。→戻る

*22 カササギブルー
《泥棒カササギ》を主軸に据えたパーミッション。
青好きの国民性らしく、2000年日本選手権予選シーズン補充メタとして散見されるようになった。
《対抗呪文》《誤算》《巻き直し》だけでなく《無効》まで使われるため、ピットサイクルにとって最悪のマッチング。→戻る

*23 村上祐樹
デモコンデス。
藤田剛史の初戴冠、グランプリ京都’00決勝戦の出来事であった。
ネクロドネイトのミラーマッチ、一本目を獲った村上は《ネクロポーテンス》をコントロールしており勝利目前だったのだが、サイド後の勝ち手段《ファイレクシアの抹殺者》を全く引くことが出来ず、《Demonic Consultation》で引き寄せようとするも残る《ファイレクシアの抹殺者》が全て最初の6枚に入っていたため痛恨のデモコンデス。
そのまま三本目も落としてしまい、準優勝に終わってしまった。
なお同姓同名のムラカミユウキ(仙台)は、村上裕樹と書く(ユウの字が違う)。→戻る

*24 ストンピィ
緑単色のアグロデッキの総称。
《はぐれ象》登場からヨーロッパ選手権で活躍していたことからセニョールストンピィと呼ばれた。
セニョールとはsenor、スペイン語でsir、Mrの意に近い(サー、ミスター。あなたや旦那、~様)。→戻る



4.吹きすさぶ嵐

 蛇足的にはなってしまうが、サイクル型コンボデッキの話はもう少しだけ続く。


小室 修 「デザイア」 グランプリシンガポール’05 (6位)

7 《島》
1 《平地》
4 《溢れかえる岸辺》
1 《汚染された三角州》
4 《アダーカー荒原》

-土地(17)-

4 《陽景学院の使い魔》
4 《フェアリーの大群》

-クリーチャー(8)-
4 《渦まく知識》
4 《蓄積した知識》
3 《断絶》
3 《狡猾な願い》
2 《商人の巻物》
1 《思考停止》
3 《直観》
2 《綿密な分析》
1 《転換》
4 《精神の願望》
4 《金属モックス》
4 《サファイアの大メダル》

-呪文(35)-
3 《プロパガンダ》
2 《思考停止》
2 《残響する真実》
2 《転換》
1 《解呪》
1 《マナ漏出》
1 《断絶》
1 《直観》
1 《天才のひらめき》
1 《瞑想》

-サイドボード(15)-
hareruya



サファイアの大メダルフェアリーの大群精神の願望


 From the Vault : Extended 第二回で紹介した、マジック最悪のメカニズム”ストーム”の登場である。
 サイクル型コンボデッキにとっては革命的なシステムであり、またここまで、これからの歴史を塗り替えてしまったといってもいい。

 一部の例外(*25)を除けば以降のコンボデッキは大半がこのストームシステムが主軸になってしまっている。
 つまりドローもマナもストームを稼ぐため。
 全てをそこに集約するだけだ。

 このタイプは基本が《フェアリーの大群》《断絶》コンボであり、残るはそれを支援するメダリオンカード(*26)とドローで構築される。


Chris McDaniel 「ハートビートデザイア」 プロツアーロサンゼルス’05 (4位)

12 《森》
10 《島》

-土地(22)-

4 《桜族の長老》

-クリーチャー(4)-
4 《狡猾な願い》
4 《郷愁的な夢》
2 《一瞬の平和》
2 《不屈の自然》
1 《生き返り》
1 《思考停止》
1 《残響する真実》
3 《早摘み》
1 《綿密な分析》
4 《けちな贈り物》
3 《嘘か真か》
4 《精神の願望》
4 《春の鼓動》

-呪文(34)-
3 《思考停止》
3 《枯渇》
2 《一瞬の平和》
1 《もみ消し》
1 《蒸気の連鎖》
1 《金言》
1 《記憶の欠落》
1 《帰化》
1 《早摘み》
1 《嘘か真か》

-サイドボード(15)-
hareruya



春の鼓動郷愁的な夢


 こちらはマナを完全に《春の鼓動》《早摘み》に依存し、《嘘か真か》《けちな贈り物》で手札を補充する特殊なタイプのデザイア。
 ドロースペルが豊富なこと、サイドボードの《思考停止》と相まって、従来のコンボと違い対コントロールを得意としているところが変わっている。

 欠点は速度に難があるため早い決着が苦手であることと、《狡猾な願い》《けちな贈り物》を酷使する必要があるためプレイ難度が極めて高いこと。

 だがこれは《狡猾な願い》《けちな贈り物》が強力なことの裏返しであり、慣れない対戦相手から《けちな贈り物》《嘘か真か》でアドバンテージを得やすいということにも繋がっている。



David Do Ahn 「ANT」 グランプリマドリード’10 (準優勝)

1 《冠雪の島》
4 《汚染された三角州》
2 《溢れかえる岸辺》
1 《沸騰する小湖》
1 《霧深い雨林》
4 《Underground Sea》
1 《Tundra》
1 《Tropical Island》

-土地(15)-


-クリーチャー(0)-
4 《渦まく知識》
4 《神秘の教示者》
4 《暗黒の儀式》
3 《思案》
3 《オアリムの詠唱》
3 《強迫》
4 《陰謀団の儀式》
4 《冥府の教示者》
1 《不正利得》
1 《ハーキルの召還術》
1 《拭い捨て》
1 《苦悶の触手》
1 《むかつき》
4 《ライオンの瞳のダイアモンド》
4 《水蓮の花びら》
2 《金属モックス》
2 《師範の占い独楽》

-呪文(46)-
3 《闇の腹心》
2 《否定の契約》
2 《恭しき沈黙》
1 《殺戮の契約》
1 《蒸気の連鎖》
1 《根絶》
1 《強迫》
1 《思考囲い》
1 《思考停止》
1 《サディストの聖餐》
1 不明
-サイドボード(15)-
hareruya



冥府の教示者むかつき苦悶の触手


 そしてANT(*27)である。

 かいつまんだ説明をするなら、レガシー版ストームデッキ。
 スタンダード、エクステンデッドを経てブラッシュアップされたデザインになる。

 《精神の願望》が禁止されているのも何のその、一時期のレガシー環境で一時代を築いたアーキタイプ。
 現実には《相殺》系コントロールその他が歯止めをかけていたが、結局は《神秘の教示者》禁止という結末を迎えることになった。

 だがアーキタイプ的に死んだわけではない。
 何しろカードプールが広がることがそのままデッキ強化に繋がる危険な存在だからだ。
 今では《ギタクシア派の調査》《炎の中の過去》という武器も手にしており、かつての《不正利得》を必要としなくなっている。

 ただ常に危険視されるデッキであることはウィザーズも重々承知のことであり、《精神的つまづき》《狼狽の嵐》と定期的なメタカードも追加されているためかつての栄光からは遠ざかっているのが現状だ。


*25 一部の例外
ハイタイド、エンチャントレス、ドゥームズデイ、サニーサイドアップ等。
サイクル型といえばエルフも該当するのではないか?と思った人が居たら大当たり。
こちらは以降のグレイトフルデックスで紹介するつもりだ、是非お待ちいただきたい。→戻る

*26 メダリオンカード
そのまま《サファイアの大メダル》、もしくは《陽景学院の使い魔》《夜景学院の使い魔》のように無色マナを軽減するカードの総称。
同一ターンに複数行動がメインのストームにとって、単純なマナ加速とは比べ物にならないメリットを生む存在。
言い換えればストームと相対した場合最も対処すべきカードの一つ。
昨今では《ゴブリンの電術師》もこのタイプ。→戻る

*27 ANT
《むかつき》《苦悶の触手》の名前を略してANT。
別に蟻とは何も関係が無く、それはむしろオムニテルの話だ。→戻る



5.サイクルコンボは悪なのか?

今のゲームは3つのステップに分かれている。

第一段階(序盤)がコイントス。
第二段階(中盤)がマリガンチェック。
第三段階(終盤)が――先手第一ターンだ。

MTG Wikiより転載


 元の文献が見つからなかったためMTG Wikiから転載させていただいたが、この格言を見て皆さんはどう思っただろうか。

 頷いた方は確実にMoMa世代だろう。
 特にエクステンデッド、ヴィンテージの一部コンボデッキ-例えばメグリムジャーやロングデック(*28)は冗談抜きにこの速度を突きつけてきた。

 狂っていると思った諸兄、それは正常な感覚だ。
 例えばモダンの速度設定は安定3キルを排除する形で環境構築されている。
 許容できる運要素のゲームに占める割合を考えてみれば、1ターンキルなどおよそ許されるわけも無い。



Stanislav Cifka 「サニーサイドアップ」 プロツアー・ラヴニカへの回帰 (優勝)

7 《島》
1 《平地》
2 《沸騰する小湖》
2 《霧深い雨林》
1 《神聖なる泉》
4 《幽霊街》

-土地(17)-


-クリーチャー(0)-
4 《血清の幻視》
3 《手練》
2 《沈黙》
1 《ギタクシア派の調査》
4 《作り直し》
4 《第二の日の出》
4 《信仰の見返り》
4 《睡蓮の花》
4 《彩色の宝球》
4 《彩色の星》
4 《妖術師のガラクタ》
1 《黄鉄の呪文爆弾》
4 《他所のフラスコ》

-呪文(43)-
4 《残響する真実》
4 《神聖の力線》
2 《沈黙》
2 《真髄の針》
1 《ぶどう弾》
1 《虚無の呪文爆弾》
1 《墓掘りの檻》

-サイドボード(15)-
hareruya



第二の日の出信仰の見返り妖術師のガラクタ


 直近で最も結果を残したサイクル型コンボであり、禁止カードというお咎めを受けたデッキである。

1.待機や《作り直し》で複数の《睡蓮の花》を用意する。
2.《彩色の宝球》《彩色の星》《妖術師のガラクタ》《他所のフラスコ》でライブラリーを掘り進め、自身の土地を対象に《幽霊街》を起動。
3.それらを《第二の日の出》《信仰の見返り》で一度に場に戻す。
4.以上を繰り返し、いずれ《妖術師のガラクタ》で密度を増したライブラリーにより無限循環が可能になる。
5.サイクルに《黄鉄の呪文爆弾》を対戦相手に投げ付ける部分を加えてフィニッシュ。


 *8として前述した時間的制約の主役であり、チェスクロックが採用できない(*29)マジックにおいて、対戦相手にとっては時間泥棒的側面が強いのもまた事実(*30)。
 そしてそれを理由に環境から駆逐されてしまった。


 だがそれでは冒頭の通りコンボデッキは悪しき存在なのだろうか?

 もしその結論を見出したいというのであれば、こちらの稿の「フェアデッキ/アンフェアデッキ」「アンフェアは廻る。されど進まず」という部分を是非読んでもらいたい。

 勝つために人はアンフェアデッキを求めるのだ。
 壊れたデッキを見つけること、それが目前のイベントに勝つ最適解になり得る。

 だからこそコンボデッキの歴史は禁止カードと常に隣り合わせである。
 そしてそれは何ら咎められることではない。

 確実に環境に多いと読めるのなら過剰にメタればいい。
 サイドボードにてんこ盛り、必要とあればメインボードに積めばいい。

 それでも手が付けられないと判断するのなら・・・・自身で使うべきだ。


“Tried my best to design a deck to beat it and I couldn’t.Has a chance against any possible matchup.”
-Jacob Wilson (ProTour Born of The Gods Top 8 Profiles)

 「これを倒すデッキをデザインしようと全力を尽くしたけど、できなかった。どんな対戦相手にも勝機があるデッキだよ。」

 プロツアー・神々の軍勢で準優勝したJacob Wilsonが、トップ8プロフィールで自身のモダンデッキ-メリーラポッド(*31)を選択した理由を述べたものである。

 戦前のメタゲーム予想で数を増すことが分かっていたにも関わらずメリーラポッドを選択した、それは調整中に自身がその強力さを証明し得たからだ。


 アンフェアデッキを使うことは悪いことではない。
 それは禁止カードをさんざん輩出してきたサイクル型コンボデッキにとってもそれは同義である。

 むしろ禁止上等、堂々と新たなサイクルを探そうではないか(*32)。





 最後に最新型サイクルコンボデッキ、モダン版ストームを紹介して本稿の終わりとしたい。

 Jon Finkelを筆頭としたメンバーが選択したこのデッキは、プロツアー「神々の軍勢」のメタゲーム上では最大勝率を叩き出している

 サイクルコンボは未だ健在なり。


Chris Fennell 「ストーム」 プロツアー・神々の軍勢 (7位)

3 《島》
1 《山》
4 《沸騰する小湖》
4 《霧深い雨林》
3 《蒸気孔》
3 《シヴの浅瀬》

-土地(18)-

3 《ゴブリンの電術師》

-クリーチャー(3)-
4 《手練》
4 《血清の幻視》
4 《ギタクシア派の調査》
3 《信仰無き物あさり》
2 《稲妻》
4 《発熱の儀式》
4 《捨て身の儀式》
4 《魔力変》
3 《ぶどう弾》
3 《炎の中の過去》
4 《紅蓮術士の昇天》

-呪文(39)-
3 《白鳥の歌》
3 《巣穴からの総出》
3 《防御の光網》
2 《神々の憤怒》
2 《倦怠の宝珠》
1 《稲妻》
1 《残響する真実》

-サイドボード(15)-
hareruya



紅蓮術士の昇天炎の中の過去ぶどう弾




*28 ロングデック
スカージでストームが登場してまもなく、ヴィンテージで1ターンキルの高い凶悪なコンボデッキが構想された。
それがこのロングデックだ。
Mike Longが構築したこのストームデッキは《ライオンの瞳のダイアモンド》《燃え立つ願い》《渦まく知識》など現在では制限になっているカードを全開投入、さらに各種制限カード(《ヨーグモスの取り引き》《記憶の壺》etc)もふんだんに使用した大変頭の悪いデザイン(褒め言葉)になっている。
やり過ぎては叩かれるのがコンボの歴史なのかもしれない。→戻る

*29 チェスクロックが採用できない
優先権が逐一発生するマジックでは時間制限を各個管理することは不可能に近い。
慣例として各種ステップを省略することが多すぎるため、結局は宣言が必要になってしまう。
そういう意味ではマジックオンラインもある種の神ツールと言える。
「MOCSクラッシュ、アッー」→戻る

*30 時間泥棒
決して概念泥棒のことではない。
君はモモ(著:ミヒャエルエンデ)を読んだことはあるか?→戻る

*31 メリーラポッド
《シルヴォクののけ者、メリーラ》《臓物の予見者》頑強クリーチャー(《台所の嫌がらせ屋》《残忍なレッドキャップ》)のコンボを内蔵した《出産の殻》デッキ。
頑強クリーチャーと《復活の声》がタフなこと、また《思考囲い》《突然の衰微》と相手に干渉し易いのデザインが見た目以上に与しづらい。→戻る

*32 堂々と
ただしトーナメント進行の妨げにならないよう練習はしっかりと。
干渉されない限り迅速なプレイを心がけ、宣言、マナやストームの管理は正しく行おう。
感謝の一人回しは基本中の基本だ。→戻る



6.次回予告

 「ただのクリーチャー戦闘には興味がありません」

 そんなあなたに贈るコンボデッキ。

 だがサイクルコンボだけがコンボの全てというわけではない。

 サイクルコンボが対戦相手に手向ける死の舞踏なら、さながら瞬殺コンボは達人の居合いか。

 必殺の刃を研いで、ただその刻を待ち続ける。

 次回、グレイトフルデックス vol.3、アングリーグール。

 乞うご期待!




※編注:記事内の画像は、以下のサイトより引用させて頂きました。
『Wise Words – Best of the Best』
http://www.wizards.com/default.asp?x=sideboard/ww/20020710
『2001 Pro Tour Tokyo Coverage』
http://www.wizards.com/sideboard/event.asp?event=PTTOK01
『2013 Grand Prix Atlantic City Coverage』
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/eventcoverage/gpatl13/day2#5
『プロツアー『神々の軍勢』 トップ8プレイヤープロフィール』
http://coverage.mtg-jp.com/ptbng14/article/008584/