はじめに
前回の記事を書き上げてから二ヶ月ほどすぎたが、「ラヴニカへの回帰(RTR)」ドラフト環境について、その間に変わった点を確認しよう。まず大方の予想通り、強さの割に安すぎた青赤のカードが過当競争化したこと、それにより緑系のギルドが台頭してきたことが挙げられる。アゾリウスについては殆ど評価にブレはない。
端的に言うとカードの強さが適正に評価され《凍結燃焼の奇魔》と《爆発の衝撃》の供給が絞られたことで赤があまり美味しい立ち位置でなくなってしまったということ。特に戦線の維持と突破力を《凍結燃焼の奇魔》に依存するところの大きかったイゼットの勝率が下がることになった。
緑系のデッキは赤に速度勝負で押し切られる展開が減り、サイズの差を活かすことが可能になった。
結果的に環境初期の印象に比べて各ギルドのパワーバランスはかなり拮抗しており、どのギルドからも3勝を狙える偏りの少ない環境だといえる。
各色ランキングの変動
赤系以外でも各色で大きく評価の変わったカードをピックアップしてみよう。参照用に前回の「コモンランキング」を表にまとめた。
●白
白で大きく変わったのは《騎士の勇気》
マナ圏の競合相手がいない点と突破力を評価して大幅の上方修正を行い《臣下の魂》と同率3位に。
逆に下がったのは《報復の矢》
《凍結燃焼の奇魔》+《飛行術の探求》の必殺パターンをいかに捌くかという点で評価を高めていたこのカードだが、イゼットの弱体化と居住系セレズニアの台頭で大幅に下方修正を行い10位に。点で攻めるオーラ戦略には充分に許容できたデメリットが、面で攻める居住戦略に対しては到底許容不能なのだ。
●青
次に青。基本的に大きな変動は無いが、アンコモンランキングのトップタイに《ならず者の道》を入れたい。
青いカードではないのだが、環境が若干低速化したことにより以前と比べてこのカードと《秘密を盗む者》のシナジーがぐっと魅力的になった。
それ以外にも《ならず者の道》を青いカードに数える理由として《ギルド門》との関係性も無視できない。《ならず者の道》は無色土地であるため、採用に当たっては必然的に色マナ供給源が1枚減り、事故リスクとカード効果を天秤にかけることになるのだが、アゾリウスは他のギルドに比べて比較的《ギルド門》の確保がしやすいギルドであるため、この事故リスクを低減することができるのだ。
《ギルド門》の需要は各ギルド均等ではないかと思われるかもしれないが、そうではない。やはり《オーガの脱獄者》を擁する黒系の《ギルド門》の需要は他と比べて高く、またセレズニアとイゼットに関しても黒と組み合わせることが環境的に許容されているギルドであるため、これに次ぐ需要が見込まれる。特に《イゼットのギルド門》はラクドスが《飛行術の探求》を起動するに当たっても青マナが必要とされるため、その需要はある程度以上に高いのだ。
●黒
次に黒だが、こちらも大きく変更は無く、色内の優先度の変化は《短剣広場のインプ》が微妙に上方修正を加え《不気味な人足》と優先度を入れ替える程度だ。
ただし別の色と比較した時には一つ大きなトピックがある。ドブン期待で赤に参入するうまみがなくなったことと環境の低速化による《刺し傷》の上方修正だ。前回の記事では《滅殺の火》をトップコモンとしたが、シングルシンボルである使いやすさ込みで考えるとこのカードが環境のトップコモンだ。
●赤
冒頭ですでに触れているが改めて赤にも触れよう。
繰り返しになるが、口をあけて待っていれば《爆発の衝撃》が取れる時期は終わった。オーラぶっぱによる轢殺戦略の有効度の低下とあいまって、6マナをまだ見ぬ《爆発の衝撃》用に空けておく必要性が薄くなったことから、今や《長屋壊し》は《流血の家の鎖歩き》と同等の優先度で扱っていいだろう。もちろんマナカーブデザインが最優先であるのは言わずもがな。
同様に《爆発の衝撃》などの強力な6マナ圏が3枚以上取れることが珍しくなかった時にはデッキの潤滑油として採用できた《ヴィーアシーノのゆすり屋》は、優先度を大きく下げて圏外へ。
そして大方の予想通り《裏切りの本能》の大幅上方修正も忘れてはいけない。《飛行術の探求》と同率の4位タイで扱う。ラクドスなら《裏切りの本能》、イゼットなら《飛行術の探求》だ。
また《高射砲手》はデッキ内のマルチカラーの枚数とマナカーブが後ろよりか前よりかによってかなり柔軟に扱いを変化していいということも言及しておこう。
●緑
そして最後に緑。緑は巨大化戦略を取るかそれとも居住戦略を取るかで大きく指針が変わる。
まず居住戦略では何はともあれ3/3トークンを出さないことには始まらないとすら言っていいだろう。つまり最優先は《ケンタウルスの伝令》だ。
次に巨大化戦略についてだが、前回の記事で競合の多さから優先度を下げた《巨大化》を大幅上方修正で1位に持って行きたい。これは特にゴルガリをやる上で重要なカードだ。テンポ面で他のアーキタイプに後れを取るゴルガリだが、《巨大化》はそれを一気に解消する1枚と言っていいだろう。
《巨大化》と入れ替わる形で役目の被る《力の合唱》は10位に格下げする。
全体として大きく変動のあったモノカラーのカードだが、反面マルチカラーのカードに関してはその種類の少なさからか全く評価に変動が無かった。
各アーキタイプのサンプルレシピ
次に、実際にドラフトで3-0したレシピを各アーキタイプ一つずつ用意したので、上記を踏まえて具体的な成功モデルを把握する意味で見てもらいたい。
●セレズニア
7 《森》 8 《平地》 1 《セレズニアのギルド門》 1 《守護者の木立ち》 -土地(17)- 2 《ケンタウルスの伝令》 1 《叫び回る亡霊》 1 《蠢く甲虫》 1 《ヴィトゥ=ガジーのギルド魔道士》 1 《議事会の招集》 1 《太陽塔のグリフィン》 1 《ケンタウルスの癒し手》 3 《天空の目》 1 《幽霊の将軍》 1 《野面背のサイ》 1 《狩猟者の協定》 1 《スライム成形》 -クリーチャー(15)- |
1 《巨大化》 1 《セレズニアの魔除け》 1 《根生まれの防衛》 1 《報復の矢》 1 《拘引》 1 《共有の絆》 1 《騎士の勇気》 1 《トロスターニの裁き》 -呪文(8)- |
-サイドボード(0)- |
・主なピック譜
1-1《拘引》
1-2《太陽塔のグリフィン》
1-3《騎士の勇気》
2-1《ヴィトゥ=ガジーのギルド魔道士》
2-2《ケンタウルスの伝令》
2-3《守護者の木立ち》
3-1《議事会の招集》
3-2《ケンタウルスの伝令》
3-3《共有の絆》
・解説
セレズニアは居住と巨大化戦略のどちらを取るかの二択が重要になってくるが、早めに3/3トークンを出すカードを3枚以上用意できた場合は居住を意識していいだろう。
特にトークンのサイズが3以上か未満かで《根生まれの防衛》の価値が大幅に変化する点は意識して欲しい。
今回のパターンは白のポジションを主張する流れから空いている緑に渡りをつけたが、緑から入る場合はゴルガリへの渡りとタッチ黒の可能性を残す意味で、居住よりも巨大化戦略寄りにピックを進める方が堅いドラフトだろう。《セレズニアのギルド門》と《ゴルガリのギルド門》はソート的に同居することが多くこの3色は比較的に3色化しやすいと言える。
●ゴルガリ
6 《沼》 8 《森》 1 《山》 1 《ゴルガリのギルド門》 1 《ラクドスのギルド門》 -土地(17)- 1 《短剣広場のインプ》 1 《門を這う蔦》 2 《蠢く甲虫》 1 《コロズダのギルド魔道士》 1 《ロッテスのトロール》 2 《下水のシャンブラー》 1 《斧折りの守護者》 1 《構脚のトロール》 1 《オーガの脱獄者》 1 《そびえ立つインドリク》 1 《コロズダの監視者》 1 《ゴルガリの長脚》 1 《ザーニケヴの蝗》 1 《テーラスのワーム》 -クリーチャー(16)- |
1 《巨大化》 1 《忌まわしい回収》 1 《刺し傷》 1 《穴開け三昧》 1 《打ち上げ》 1 《暗殺者の一撃》 1 《爆発の衝撃》 -呪文(7)- |
-サイドボード(0)- |
・主なピック譜
1-1《ロッテスのトロール》
1-2《下水のシャンブラー》
1-3《巨大化》
2-1《刺し傷》
2-2《穴開け三昧》
2-3《爆発の衝撃》
3-1《コロズダのギルド魔道士》
3-2《蠢く甲虫》
3-3《蠢く甲虫》
・解説
ゴルガリは《オーガの脱獄者》の採用に伴い《ギルド門》の優先度を上げる関係で多色化しやすいギルドと言える。
豊富な除去が魅力な反面、マナ関係の非戦闘員にスロットを割くとリソース負けする危険性があるので、ある程度意識的に重い構成にして1枚1枚の盤面影響度を高めていこう。
●アゾリウス
9 《平地》 5 《島》 2 《アゾリウスのギルド門》 -土地(16)- 1 《フェアリーの騙し屋》 1 《審判官の使い魔》 3 《アゾリウスの拘引者》 1 《新プラーフのギルド魔道士》 1 《歌鳥の売り手》 1 《太陽塔のグリフィン》 1 《塔のドレイク》 1 《リーヴの空騎士》 3 《臣下の魂》 1 《武器庫の護衛》 1 《ルーン翼》 1 《軽騎兵の巡視部隊》 1 《虚無使い》 1 《三巨頭の執政官》 -クリーチャー(18)- |
1 《素早い正義》 2 《劇的な救出》 1 《霊感》 2 《護民官のサーベル》 -呪文(6)- |
-サイドボード(0)- |
・主なピック譜
1-1《太陽塔のグリフィン》
1-2《虚無使い》
1-3《臣下の魂》
2-2《護民官のサーベル》
2-3《リーヴの空騎士》
3-2《三巨頭の執政官》
3-3《臣下の魂》
・解説
アゾリウスの利点は事故が少ないという点と住み分けの楽さだ。
基本的に各ギルドはそれぞれ2ギルドに隣接しており3色化によるセカンドギルドのタッチが許容されているが、(アゾリウスに隣接する)セレズニアについてはその事情が異なる。除去色である黒と違い、青にはセレズニアがタッチしてまで使いたいカードが不在であり、なおかつセレズニアは居住に寄せた場合専用パーツを集めるのに専念することになるため、下手に他の色に渡りをつけることができない。できたとしても同じギルド内で巨大化戦略と居住戦略の二面待ちをするのがやっとという側面があり、要はピックのバッファが少ないアーキタイプなのだ。
この環境のエアポケット的な位置に美味しくおさまるのがアゾリウスの醍醐味である。
●イゼット
7 《島》 7 《山》 1 《蒸気孔》 1 《イゼットのギルド門》 1 《ならず者の道》 -土地(17)- 2 《ゴブリンの電術師》 2 《凍結燃焼の奇魔》 2 《秘密を盗む者》 1 《高射砲手》 1 《どぶ潜み》 1 《臣下の魂》 1 《魂誓いの霊》 1 《血暴れの巨人》 1 《虚無使い》 1 《ゴブリンの結集》 1 《超音速のドラゴン》 1 《長屋壊し》 -クリーチャー(15)- |
1 《謹慎命令》 1 《飛行術の探求》 1 《瞬間移動門》 2 《滅殺の火》 1 《裏切りの本能》 1 《思考閃光》 1 《爆発の衝撃》 -呪文(8)- |
-サイドボード(0)- |
・主なピック譜
1-1《滅殺の火》
1-2《凍結燃焼の奇魔》
1-3《虚無使い》
2-1《蒸気孔》
2-2《超音速のドラゴン》
2-3《瞬間移動門》
3-1《滅殺の火》
3-2《爆発の衝撃》
3-3《血暴れの巨人》
・解説
イゼット最強説が覆って既に久しい感もあるが《凍結燃焼の奇魔》が流れてくる位置でのイゼットは依然として他を寄せ付けない速さがある。
逆に言うとそれ以外の生物の線の細さが致命的なのだが、それをクリアする要素をデッキに仕込むことは決して非現実的なことではない。
サンプルを例にとって説明すると《凍結燃焼の奇魔》による序盤の盤面の掌握から、《どぶ潜み》《高射砲手》による遠距離射撃でライフを詰めて、最後は火力や《瞬間移動門》、《ならず者の道》で押し込むというゲームプランが意識できるだろうと思う。中盤以降サイズで負けて殴れなくなる問題をこうした遠距離射撃でカバーするプランは有効だ。サイドに《本質の反発》を取って先手の時だけ選択的に採用するというのも常套手段になってくる。
レシピでは1枚しか入っていないが、この構成の場合《謹慎命令》は3枚まで採用していいだろう(もちろん比較対照となるカード次第ではあるが)。《ゴブリンの電術師》で(1)軽くなると盤面の展開を邪魔せずにクロックを詰めることができ、それらが《秘密を盗む者》や《どぶ潜み》と合わさることでさらに強力になる。早い巡目をレアや《凍結燃焼の奇魔》のピックに費やす分、安いカードを活かす構成に寄せる技術は重要だ。
●ラクドス
7 《沼》 9 《山》 1 《ラクドスのギルド門》 -土地(17)- 1 《ラクドスの哄笑者》 1 《流血の家の鎖歩き》 2 《ラクドスの切り刻み教徒》 1 《凍結燃焼の奇魔》 1 《下水のシャンブラー》 1 《死の歓楽者》 1 《高射砲手》 1 《跳ね散らす凶漢》 1 《ヘルホールのフレイル使い》 1 《危険な影》 2 《リックス・マーディの落とし子》 2 《ラクドスの激怒犬》 1 《謝肉祭の地獄馬》 -クリーチャー(16)- |
1 《究極の価格》 1 《刺し傷》 1 《滅殺の火》 1 《穴開け三昧》 1 《打ち上げ》 1 《裏切りの本能》 1 《ラクドスの魔鍵》 -呪文(7)- |
-サイドボード(0)- |
・主なピック譜
1-1《刺し傷》
1-2《死の歓楽者》
1-3《ラクドスの激怒犬》
2-1《滅殺の火》
2-2《穴開け三昧》
2-3《凍結燃焼の奇魔》
3-2《謝肉祭の地獄馬》
3-3《ヘルホールのフレイル使い》
・解説
ラクドスは以前のような序盤に生物でライフを削って後は火力待ちというようなゲームプランでなく、5マナ以上の生物を連打して押し込むタイプが有効になった。その結果マナソースを詰めるよりもむしろ厚めに取ることが肯定されるようになったので《ラクドスの魔鍵》の優先度は他の色と比べて高めに考えていいだろう。
以上、環境をおさらいする意味でレシピを見ながら各ギルドについて解説をしてみたがどうだっただろうか?
おわりに
そろそろ次のエキスパンションの情報も出始めた頃だが、個人的には環境末期のドラフトこそが面白く、かつ、ためになると思っているのでまだまだこの環境のドラフトを楽しんで欲しい。環境がどういった経緯をたどりどういった落としどころに収まるのかというケーススタディを増やすにはやはり環境終盤のドラフトをやり込むことが有効だ。そしてそのような蓄積が自分の中で増えていくことが環境を見渡す力、初めて接するエキスパンションでいち早く勝ち筋を見つける力というものに繋がっていく。
まぁそれより何よりもやはり成熟した環境の方がゲームも楽しいだろう。勝てるようになるにはまず楽しむことが重要だ。自信を持って言えるが、これは真理だ。
冗長な挨拶もこれくらいにしておこう。最後まで読んでくれてありがとう。よいリミテッドライフを。