前回紹介したカードは以下。
トーナメントシーンでインパクトのあったカードを並べた結果、全てが禁止カードに指定されていたカードになっていた。
数多のプレイヤーが勝利を追い求めた結果、それらのカード、それらのデッキは許されざる存在になってしまったわけだ。
では禁止カードによって環境は健全になったのか?
はたしてそうはならなかった。
というよりは処断されるべきカードがまだまだあったと言うべきか。
ただ禁止カードという側面で見るのなら、特定のデッキが絶対的な支配力を持っていた時期は意外と少ない、というのがエクステンデッドの面白かったところではある。
将来的な禁止カード、監視されていたカードを使ったデッキは一つでは無かった。
プレイヤーには選択肢が与えられていた。
とはいえデッキ的な選択肢が豊富であったかは、結果から考えると少々怪しい。
環境が沈静化する、多様なデッキが乱立する時期まではまだ多少の時間を要することになる。
・ゴブリン徴募兵/Goblin Recruiter
生まれついてのスターが居る。
昨今では《死儀礼のシャーマン》が良い例で、ラヴニカへの回帰が発売されて以降レガシーで見ないことは無いといって良いほどの使われっぷりだ。
まあこれが《精神的つまづき》になるとやり過ぎてお蔵入りになるわけだが。
一方で何に使ったらいいのか分からないカードがあるのもマジック。
古いセットのレアにありがちな類で、無駄にテキストが長かったりして読むのをやめてしまうなんて経験をした方も多いのでないだろうか。(往々にしてク○レアだったりするため徒労に終わる)
《ゴブリン徴募兵》もかつてはそういうカードだった。
ビジョンズで登場し、良く分からないまま第6版に再録されたものの使い道不明のまま消えていく。
そう消えていくはずだったのだがオンスロートブロックの部族テーマが《ゴブリン徴募兵》を変えた。
《ゴブリンの戦長》、そしてこれまたお呼びでなかった《ゴブリンの首謀者》がゴブリンデッキを異質なものと変えてしまった。
ゴブバンテージというデッキとして。
2003年の世界選手権、エクステンデッド部門を席巻したのは日本製のこの狂ったゴブリンデッキだった。
そしてそのデッキの今回を成すのがこのちっぽけな2マナ1/1。
おそらくゴブバンテージを知らない方々もいると思うので、当時ゴブバンテージの脅威を語るのに使われた謳い文句を引用してみよう。
手札のスペルが《ゴブリン徴募兵》だけでも4ターンキルが可能だった(前提として4マナを捻出するマナベースが必要)。
《ゴブリンの女看守》による安定性もあり、このゴブバンテージは世界選手権03において圧倒的な勝率を叩き出した。
20 《山》 2 《古えの墳墓》 1 《裏切り者の都》 -土地(23)- 4 《ゴブリンの従僕》 4 《モグの狂信者》 3 《スカークの探鉱者》 4 《ゴブリン徴募兵》 4 《ゴブリンの群衆追い》 1 《火花鍛冶》 3 《ゴブリンの戦長》 3 《ゴブリンの女看守》 3 《宝石の手の焼却者》 3 《ゴブリンの首謀者》 2 《包囲攻撃の司令官》 -クリーチャー(34)- |
3 《入門の儀式》 -呪文(3)- |
4 《略奪》 4 《炎の印章》 4 《紅蓮光電の柱》 1 《宝石の手の焼却者》 1 《ゴブリンの名手》 1 《ゴブリンの暗殺者》 -サイドボード(15)- |
そしてミラディンから《金属モックス》《ゴブリンの放火砲》という相棒を得て、日本勢の一部はプロツアー・ニューオーリンズ03にもゴブバンテージを持っていった・・・同系対策に《丸砥石》、そのまた《丸砥石》避けに《ゴブリンの模造品》を用意して。
だが現実には《煮えたぎる歌》よりも高速な環境が待っていた。
《マナ切り離し》による高速《ゴブリンの放火砲》、そしてサイカトグは《仕組まれた疫病》《寒け》を全開でサイドインしてくる始末。
そうこうしているうちに《ゴブリン徴募兵》は禁止となり、ゴブバンテージの歴史は終わってしまった。
ここまでが《ゴブリン徴募兵》の短い歴史である。
だが《ゴブリンの女看守》と《ゴブリンの首謀者》は今だに健在だ。
エクステンデッドにおいてはゴブリンと相性の良い《陰謀団式療法》を採用したものが結果を残していたし、レガシー(特に初期)でも《霊気の薬瓶》を強い味方として環境に影響を及ぼし続けている。
・修繕/Tinker
マジックのセットは長期的にみると特定のテーマが周期的に表れている。
人気のある多色セット、部族テーマ、などなど。
アーティファクトサイクルもその一つだが、これは悪名高いことで有名になってしまった。
スタンダードにおける禁止カードだけでも、
’94 アンティキティー
《露天鉱床》《象牙の塔》
’98-99 ウルザブロック
《トレイリアのアカデミー》
《意外な授かり物》
《波動機》
《時のらせん》
《記憶の壺》
’03-04 ミラディンブロック
《頭蓋骨絞め》
《大霊堂の信奉者》
《電結の荒廃者》
《古えの居住地》
《教議会の座席》
《囁きの大霊堂》
《大焼炉》
《伝承の樹》
《ダークスティールの城塞》
と大量の禁止カードを輩出している。
特にウルザブロック以降禁止カードが出ていなかったことを考えると、如何にアーティファクトサイクルが壊れているか、また壊れる可能性を秘めているかが分かってもらえると思う。
さらにスタンダードでは見逃されたがエクステンデッドで禁止されたカードも、
’98-99 ウルザブロック
《ヨーグモスの意志》
《ヨーグモスの取り引き》
《補充》
《ゴブリンの従僕》
《大あわての捜索》
《厳かなモノリス》
《修繕》
《金属細工師》
’03-04 ミラディンブロック
《霊気の薬瓶》
と多岐にわたる始末だ。
これは他のブロックと比べるとずば抜けて多い。
つまりアーティファクトには潜在的な、もしくは明確なゲームを破壊する危険性があるということになる。
さてこれらのカードは一体どのような要因で禁止制定されたのか?
それはほぼ全てがゲームの過剰な高速化を抑止するためである。
ここで取り上げる《修繕》は分かりやすい例だろう、マナコスト、手札という概念の両方を破壊する。
《禁忌の果樹園》を手に入れた《ドルイドの誓い》の様に、今もなおヴィンテージで活躍しているカードと言えばその凶悪性が伝わりやすいだろうか。
では次になぜそんな《修繕》が野放しになっていたのかを考えてみよう。
それは《適者生存》とほぼ同じ理由になる。
つまりカードプールが狭いうちは許容できる範囲だったが、広がるにつれ許されない存在になってしまった。
それがはっきりと示されたのがプロツアー・ニューオーリンズ03である。
セットのローテーション、幾つかの禁止カードを出しながら一度は低速化したエクステンデッド。
その平和を再び狂気の速度へと推し進めたのがウルザブロックとミラディンブロックの融合だった。
4 《島》 4 《汚染された三角州》 4 《古えの墳墓》 4 《裏切り者の都》 4 《リシャーダの港》 -土地(20)- -クリーチャー(0)- |
4 《渦まく知識》 4 《神秘の教示者》 4 《魔力の乱れ》 4 《マナ切り離し》 4 《修繕》 1 《急流》 2 《金属モックス》 2 《通電式キー》 4 《厳かなモノリス》 3 《発展のタリスマン》 2 《威圧のタリスマン》 4 《ゴブリンの放火砲》 1 《金粉の水蓮》 1 《精神隷属器》 -呪文(40)- |
4 《寒け》 3 《水銀のドラゴン》 3 《無効》 2 《綿密な分析》 1 《白金の天使》 1 《蒸気の連鎖》 1 《罠の橋》 -サイドボード(15)- |
ベスト8における《修繕》《厳かなモノリス》それぞれの枚数は実に28枚、《等時の王笏》入りサイカトグを選択した横須賀 智裕(茨城)以外全てのプレイヤーが4枚ずつデッキに入れていた計算になる。
ここまでの活躍を見せてしまえば末路は自明であり、この年を最後に《修繕》はエクステンデッドから姿を消してしまった。
ただこの現象は、プロツアーが実験的な側面を持っていることから起きてしまった、ということだけは補足しておこうと思う。
何しろティンカーは2000年の世界選手権決勝戦ミラーマッチを達成したデッキであり、また2003マスターズ横浜を制したデッキである。
ウィザーズがこの危険性を軽視していたわけもない。
Randy Buehlerのこの記事を見てもらえれば分かると思うが、ミラディンというセット自体が《修繕》の存在を考慮されていない、というかあえて無視されている。
それはある程度《修繕》が禁止になる前提で調整されていたという証左なのだ。
禁止カードというものはプレイヤーをがっかりさせるものだが、カードデザインや環境コントロールのためにはある程度必要なことだ、ということが良く分かるエピソードと言えよう。
この後《頭蓋骨絞め》等が禁止されていく辺りは何とも言えないところだが。
・精神の願望/Mind’s Desire
《修繕》のところで語ったのはマジック歴代ぶっ壊れセット。
黎明期のカードを除けば、ウルザブロックの壊れ具合については多くの方に同意して頂けると思う。
禁止カードの量を鑑みても分かりやすい部分であるし、それはプロフェシーがどれぐらい○○なセットかということぐらい自明なことだろう。
さてここで採り上げるのはマジック歴代ぶっ壊れメカニズムの一つ。
すなわちストームについての話だ。
通常マジックの即死コンボというものは単体で使えないカードを行使する。
使えないというと語弊があるのだが、例えばモダンの《詐欺師の総督》《欠片の双子》コンボのように、手札で腐る可能性がある、もしくは戦力として不満の残るクリーチャーを使う場合が多い。
そうでない場合でもプロスブルーム-《資源の浪費》《自然の均衡》《死体の花》《冥府の契約》《繁栄》を活用するコンボデッキ-のように、多種の専用カードを使うことを強いられる。
このようにコンボデッキは足枷を持っていた。
そしてどちらかと言えばコンボデッキというものは後者が多い。
それもそうだ。
脆弱なクリーチャーや単体で機能しないカードを使うよりも、無限循環もしくはそれに準じたシステムを構築するコンボデッキの方が強固に決まっている。
それはマナ拡大やドローを進めるカードのシナジーでデッキが構築されている以上、サイクルを回すことが足らないパーツに辿り着くことに繋がるからだ。
ここでは個々のデッキに対する説明は省略するが、過去のターボズヴィ、ピットサイクル、ハイタイド、MoMa、メグリムジャー、エターナルウインド等々覚えている方は分かりやすいことと思う。
最近の例で言えばプロツアー「ラヴニカへの回帰」で優勝した《第二の日の出》デッキがこの類である。
ちなみに前者はトリックスや《集団意識》。
しかしそれをストームというシステムが全て変えてしまった。
サイクルを構築するために必要なものはマナ、そしてドロー。
しかしそのエンジンを回し続けるためには専用のカードを使わなければならない。
それを成立させていたのは《時のらせん》《記憶の壺》のような壊れたカードで、それらは当然のように環境から排除されている。
そんな最中現れた《精神の願望》はまさに復活してきた《時のらせん》だった。
複数唱えられた《High Tide》からの《時のらせん》はゲームを投げさせるだけの力があった。
そしてストームを稼ぎきった《精神の願望》もまた対戦相手に絶望を与えるだけの力がある。
7 《島》 1 《沼》 4 《汚染された三角州》 1 《溢れかえる岸辺》 4 《地底の大河》 -土地(17)- 4 《フェアリーの大群》 2 《夜景学院の使い魔》 -クリーチャー(6)- |
4 《渦まく知識》 2 《吸血の教示者》 4 《蓄積した知識》 3 《断絶》 2 《商人の巻物》 3 《直観》 3 《狡猾な願い》 2 《綿密な分析》 1 《転換》 1 《苦悶の触手》 4 《精神の願望》 4 《金属モックス》 4 《サファイアの大メダル》 -呪文(37)- |
2 《サイカトグ》 2 《残響する真実》 1 《卑下》 1 《被覆》 1 《棺の追放》 1 《マナ漏出》 1 《断絶》 1 《思考停止》 1 《天才のひらめき》 1 《直観》 1 《再建》 1 《転換》 1 《魔力流出》 -サイドボード(15)- |
何しろストームというシステムはエンジンの構築が必要無い。
呪文を使い続けるためのマナ、そしてカードを連結させていくためのドロー呪文を繋いでいく、それだけで全ての準備が完了してしまう。
そしてストームというメカニズムは他のカードと違いカウンターを苦にしない。
ここが他のコンボと大きく違う点だろう。
肝心要のストーム呪文は《もみ消し》《計略縛り》《精神壊しの罠》《狼狽の嵐》のような特殊なカウンターで無ければ躱し難く、さりとて少々のカウンターはむしろストームカウントを増やして喜ばせてしまうだけに難しい。
むしろ手札破壊の方が効果的だったりするのだが、《師範の占い独楽》《むかつき》《炎の中の過去》など強烈なカードもバックアップしていたりで意外と隙が無いものだ。
初登場こそゴブバンテージに話題を攫われたものの《大あわての捜索》を禁止に追いやるだけのインパクトはあったし、その後もプロツアー・コロンバス04における大礒 正嗣(広島)の6位入賞、プロツアー・ロサンゼルス05ではChris McDanielが4位入賞と着実に結果を残し続けていた。
しかもこれは《精神の願望》に限った話であり、《苦悶の触手》《ぶどう弾》《巣穴からの総出》《思考停止》等ストーム一家に泣かされた人は世界中でも多いことだろう。
スタンダード、モダン、レガシー、ヴィンテージ、ストームが活躍しなかったフォーマットは無い。
何しろマジックオンラインのPauper(コモン構築)ですら最近《時間の亀裂》が禁止されたほど。
ストームというのはそれほど危険なメカニズムなのだ。
・サイカトグ/Psychatog
軽いカードが強い。
これはマジックの大原則だ。
このカードは結構強い、なかなかやる、でも後1マナ軽ければな……
こんな話題をしたことのある人は多いのではないだろうか。
当たり前だがカードの強さはマナコストに比例する。
だがマナという制約もまたマジックの一面であり、使えないカードを多く抱えて負けることほどやり切れないことも無い。
だからプレイヤーはより軽く、より強力なカードを求める。
そして軽さと強さの折衷点を見つけ難いのがコントロール。
大前提としてアドバンテージを獲得する必要があり、なおかつ潤沢なマナベースを確立する必要がある。
そこに出来る限りのコントロール要素を加えてしまうと、勝利手段のためのスロットは少ししか残らない。
そうなるとその僅かなカードで勝つ必要があり、なおかつ可能ならば防御手段を兼ね備え、対戦相手の除去を受け付けないタフさも要求される。
対戦相手を中期戦に引きずり込み、《ミューズの囁き》で絶対的なコントロールを確立した後に満を持して現れる《虹のイフリート》。
はたまた1マナを残して現出する《変異種》か。
これらはかつての青いコントロールデッキが擁したフィニッシャーたち。
《Kjeldoran Outpost》《鋼のゴーレム》等がプレイされた時、それは早晩ゲームが終わる、もしくは終わらせるという合図に他ならない。
とはいえこれらのカードには欠点がある。
あくまでコントロールを確立した後にしか勝てない、すなわち一騎当千のフィニッシャーでありながらも、単体では勝つことが出来ないからだ。
そう、どうやってもゲームを決めるまでに時間がかかってしまう。
もしくはその重さゆえ、中盤戦以降にしか行使することが出来ない。
だからこそコントロールデッキはディフェンシブにプレイする。
積極的にイニシアチブを握ることがデッキの方向性、そのフィニッシャーと噛まないから。
だが何事にも例外はある。
そんな突然変異種的存在が《サイカトグ》。
この醜いヒキガエルは瞬く間にスタンダードを席巻した。
そして当然の如くエクステンデッド環境にも姿を現すことになった。
14 《島》 3 《沼》 4 《汚染された三角州》 1 《溢れかえる岸辺》 -土地(22)- 4 《サイカトグ》 1 《不可思議》 -クリーチャー(5)- |
4 《渦まく知識》 4 《魔力の乱れ》 4 《蓄積した知識》 4 《対抗呪文》 2 《マナ漏出》 4 《狡猾な願い》 3 《直観》 3 《撃退》 1 《嘘か真か》 4 《噴出》 -呪文(33)- |
3 《仕組まれた疫病》 2 《綿密な分析》 1 《曇り鏡のメロク》 1 《もみ消し》 1 《恐ろしい死》 1 《棺の追放》 1 《残響する真実》 1 《死体のダンス》 1 《嘘か真か》 1 《妨害》 1 《陥穽》 1 《忌まわしい笑い》 -サイドボード(15)- |
一般的なコントロールのフィニッシャーと違い、完全に何も無いボードで性能を発揮できるカードではない。
手札と墓地が必要になるという制約は確かにある。
ただそもそものコントロールデッキが手札を増やす、すなわちアドバンテージ獲得に主眼を置いたアーキタイプなわけだし、コントロールを確立しようとする-対戦相手との攻防の過程でどうあれ墓地にあるカードは厚みを増していく。
墓地が必要というと《敏捷なマングース》のようなスレッショルドに似ているため、積極的に墓地を増やすことが必要のように思えるが必ずしもそうではなかった。
もちろん《留意》のようなカードや《セファリッドの円形競技場》を行使することでこのにやけエイトグはより発奮する。
ただそういう尖った構成にしなくても、《噴出》《嘘か真か》のように噛み合ったドローカードが存在したこともまたサイカトグ隆盛の原動力だった。
・《噴出》-手札が4枚墓地が1枚→6.5点
・《嘘か真か》-手札が3枚墓地が3枚→6点
・《直観》《蓄積した知識》-手札が3枚墓地が4枚→6.5点
このようにアドバンテージ獲得そのものが《サイカトグ》にフィニッシャーたる獰猛性を与えることになる。
当時のフレーズを借りるなら、《嘘か真か》は青い《樫の力》。
《サイカトグ》にとってみればドローと巨大化能力の分割カードにようなものだ。
そしてそのドロー=爆発力という能力が《サイカトグ》を他のフィニッシャーと異質なものにする。
3ターン目《サイカトグ》、あるいはは複数並ぶ《サイカトグ》。
確実に主導権を握っている状況でない限り、プレッシャーを感じないプレイヤーはそうそう居ない。
もしここで《嘘か真か》を持っていたら?
《狡猾な願い》で墓地の《噴出》を使い回されたら?
疑念が疑念を呼び始める。
うっかり通した《サイカトグ》に殺された、という話はしばしば聞いたものだが、必要以上に早いチャンププロックによってゲームが壊れてしまったケースも少なくないのではないか。
アグロに振る舞うことが出来るコントロール、そしてそれを体現出来る《サイカトグ》。
その特異性がサイカトグというアーキタイプを仮想敵として無視できない存在とさせていた。
またエクステンデッドでは若干レアケースになるが、《激動》という必殺技も確かなプレッシャーになる。
《狡猾な願い》《吸血の教示者》《激動》-この組み合わせが長期戦においても相手を安心させない。
例え実際に採用されていないとしてもその可能性自体が対戦相手の判断を狂わす可能性があるし、サイドボードに用意しておくだけでコントロール相手に潜在的な優位性を保つ。
思えば《サイカトグ》は時代に恵まれた。
スタンダードにおいては《燻し》が現れるまで環境に守られていたわけだし(同時に《嘘か真か》が退場して一線を離れてしまったが)、エクステンデッドにおいても《剣を鍬に》や《紅蓮破》の脅威にさらされる時期は非常に短く済んでいた。
そして仮に今モダンで存在したとしても《流刑への道》や《突然の衰微》という天敵がいる以上、《サイカトグ》が活躍できる場所はちょうどあの時代しか無かったのかもしれない。
・壌土からの生命/Life from the Loam
マジックにおける伝統的なテーマの一つが墓地活用だ。
グレイブヤードという捨て札置き場の呼び方そのものがリアニメイト戦略を魅力的なものにしているし、フラッシュバックというメカニズムはアドバンテージそのもの。
オデッセイで一度突き詰められた墓地テーマ、次に掘り下げられたのはラヴニカのゴルガリ、すなわち発掘だった。
マナを使わずに墓地を肥やす。
墓地のカードを増やす毎に強力なメカニズムが存在する以上(古くは《イチョリッド》、《サイカトグ》等)、安易にライブラリーを削るシステムが有用であることは疑う余地もない。
禁止された《隠遁ドルイド》を考えれば分かりやすいことだろう。
発掘というと現代レガシー、ヴィンテージにおけるドレッジをイメージする方が多いとは思うが、ドレッジに関しては次回に譲ることにする。
何故なら2005年当時まだドレッジというデッキは完成していないからだ。
フリゴリッドという形で萌芽は見受けられたのだが、まだまだキーパーツが揃ってはいなかった。
今回取り上げるのは発掘システムのアドバンテージ部門、《壌土からの生命》。
ドレッジというデッキ、コンセプトが刹那的なコンボデッキなら、ロームはそれとはちょうど真逆-対照的なものになる。
土地を三枚墓地から回収する。
たったこれだけのシンプルなカードではあったが、フェッチランドやサイクリングランドが存在する環境では見た目以上の効果を発揮するカードになっていた。
フェッチランドによるマナ拡充、サイクリングランドによるカードアドバンテージ。
そこに「発掘3」というテキストが加わることにより、墓地対策による対応以外を受け付けなくなる。
ちょうどレガシーにおける《世界のるつぼ》的な使い方-《不毛の大地》こそ無くなった後の世界だが、それでも手札破壊、カウンターの両方に耐性のあるアドバンテージ確立手段というのはそれだけで魅力的なものだった。
そして《燃え立つ願い》《けちな贈り物》というサーチカードが《壌土からの生命》の力を底上げした。
《壌土からの生命》というカードは地味なカードである。
それ単体で勝つことは出来ないし何かをするカードではない。
しかしあるデッキはアドバンテージ獲得やマナ基盤拡充をそれに依存しているし、またあるデッキはそもそも《壌土からの生命》ありきのデッキ構築をしていたりもする。
その前者がプロツアー・ロサンゼルス05で活躍したドレッジトグや、しばらくの間地味に結果を出していたギフトロック。
後者がCALやアグロローム。
そうなると前者にとっての《壌土からの生命》はサブプラン、《けちな贈り物》でサーチするカードとしてはもってこい。そもそも発掘というメカニズム自体が《けちな贈り物》と相性抜群、対戦相手の判断を伺う必要が無くなってしまう。
後者の場合はまず《壌土からの生命》を手に入れることからゲームを始めたい。だったらソーサリー版《Demonic Tutor》たる《燃え立つ願い》で枚数の水増しを図ればいい。
状況に応じたシルバーバレットで対応することも出来るし、墓地対策に見舞われた《壌土からの生命》を救出することも出来る。
何よりアグロロームにとっての必殺技である《壊滅的な夢》にアクセス出来るというメリットも大きい。
2 《山》 2 《森》 1 《平地》 1 《沼》 1 《草むした墓》 1 《聖なる鋳造所》 4 《血染めのぬかるみ》 4 《樹木茂る山麓》 4 《やせた原野》 4 《忘れられた洞窟》 4 《平穏な茂み》 -土地(28)- 4 《極楽鳥》 4 《桜族の長老》 3 《闇の腹心》 3 《永遠の証人》 -クリーチャー(14)- |
2 《陰謀団式療法》 2 《強迫》 4 《燃え立つ願い》 3 《壌土からの生命》 3 《独房監禁》 2 《突撃の地鳴り》 2 《師範の占い独楽》 -呪文(18)- |
3 《ロクソドンの教主》 2 《化膿》 2 《頭蓋の摘出》 2 《草茂る屋敷》 1 《陰謀団式療法》 1 《強迫》 1 《チェイナーの布告》 1 《紅蓮地獄》 1 《壌土からの生命》 1 《外殻貫通》 -サイドボード(15)- |
今ではモダン、レガシーいずれも《死儀礼のシャーマン》が大手を振っていて《壌土からの生命》が活躍出来る範囲は狭くなっている。
しかし墓地ありき、土地ありきのこのデッキは《闇の腹心》をもっとも活かせるアプローチの一つだし、《師範の占い独楽》とフェッチランド&サイクリングランド、発掘の全てが絡んだプレイングはすごく歯応えがある。
勝利に直進しないコンセプトは現代マジックと逆行しているものかもしれないが、こういう悠長さを受け入れられる方には是非手に取ってもらいたい。
コンボデッキとコントロールのハイブリッド、パズリックな面白さがそこにある。
さて数多の禁止カードを経て変わっていったエクステンデッド。
ここからローテーションの速度が速まり、禁止カード制定ではなくキーカードを失って退場していくデッキが増えていくことになる。
そしてそんな中でもカードが追加される度、スタンダードでは成し得なかったシナジーからデッキが構築されていく。
エクステンデッドはカードプールが広い分プレイアブルなデッキは多い。
誰もがそこから一歩でも抜け出ようと、言葉を変えれば禁止カードを出すようなデッキを作ろうと苦心していた時代。
ローテーションがために使えなくなるデッキは増えていったものの、その流動性がメタゲームを目新しいものに変えていった。
そんな2006年以降、エクステンデッド後期。
From the Vault:Extended、第三回へ続く。