1. 前回のおさらい
隔週での連載となるこの記事ですが、まずは初回であった前回の内容を簡単に振り返ってみましょう。
→Rush Met a Game! vol.1
登場人物として環境を構成するいくつかのメジャーなアーキタイプを紹介し、それらをアグロとコントロールという2つに分類した上でそれらの動向を追っていきました。
・アグロ
白系アグロ
ゾンビ
青白赤トラフト
・コントロール
黒赤緑ビッグマナ
緑白系コントロール
前情報のない新環境の速度をアグロが定義し、その速度を基準としてコントロールが構築され、コントロール同士の諍いを交えつつも足並みが揃ったところで、アグロがコントロールを攻略すべく工夫を始めた、といった局面の説明で前回は終えたかと思います。
その際に「アグロ→コントロール」のアプローチにある論点を整理し、その中心には《スラーグ牙》があることがわかりました。そしてアグロは《スラーグ牙》を飛行や回避手段などで「避けるか」、強化呪文やこちらも《スラーグ牙》を使用することで「正面突破するか」という2つの選択肢をもって《スラーグ牙》に対峙しました。
今回はその試みの成否をレシピの変化から推測し、その結果メタゲームがどのように移行したかを考えていこうと思います。
前回のまとめでは、このメタゲームの動きは、
(1)アグロデッキが《スラーグ牙》を克服する
(2)アグロデッキが《スラーグ牙》を克服できず、コントロール同士の主権争いへ
以上の2つのルートをもって行われると予想しましたが、果たして実際はどうだったのでしょうか。まずはアプローチをかけたアグロ側の変化に注目してみましょう。
2. Beat up the Tusk
ここで今更《スラーグ牙》がいかに強力であるかに詳しく触れるつもりはありません。マナ拘束が小さく、無視できないだけのサイズを誇り、除去に強く、シナジーがあり、5点ものライフを手に入れるだけの生物です。このマナ拘束の軽さは多くのコントロールが《スラーグ牙》を安易に選択する理由になっています。かつて《嘘か真か/Fact or Fiction(INV)》や《タルモゴイフ/Tarmogoyf(FUT)》が幅広く使用されたように、《スラーグ牙》も同程度の使い勝手とインパクトを秘めた純粋なパワーカードとして使用されているのです。
アグロデッキにとってこれが脅威である点は、そのライフゲイン能力とサイズにあります。多くのクリーチャーは戦闘で巻き添えを食らい、開始時の25%ものライフの追加は確実にゲームをスローダウンさせることは目に見えていることです。
そこでアグロ側がとった選択肢は、前回の時点で2つありました。先ほど上で触れたように《スラーグ牙》を「回避するか」「正面突破するか」というものです。まずはそれぞれを採用した典型例をピックアップしてみましょう。
★<スラーグ牙>を回避する★
10 《沼》 4 《草むした墓》 4 《森林の墓地》 4 《魂の洞窟》 -土地(22)- 4 《戦墓のグール》 4 《墓所這い》 4 《ラクドスの哄笑者》 2 《名門のグール》 4 《ロッテスのトロール》 4 《ゲラルフの伝書使》 4 《屑肉の刻み獣》 -クリーチャー(26)- |
4 《ひどい荒廃》 4 《死の重み》 4 《怨恨》 -呪文(12)- |
4 《死儀礼のシャーマン》 3 《脳食願望》 4 《究極の価格》 2 《血統の切断》 2 《獰猛さの勝利》 -サイドボード(15)- |
12 《沼》 1 《山》 4 《血の墓所》 4 《竜髑髏の山頂》 2 《ラクドスのギルド門》 -土地(23)- 4 《戦墓のグール》 4 《墓所這い》 4 《ラクドスの哄笑者》 4 《血の座の吸血鬼》 2 《ラクドスの切り刻み教徒》 4 《ゲラルフの伝書使》 4 《ファルケンラスの貴種》 -クリーチャー(26)- |
4 《灼熱の槍》 2 《投げ飛ばし》 3 《反逆の印》 2 《不快な再誕》 -呪文(11)- |
3 《血の芸術家》 2 《士気溢れる徴集兵》 2 《地下世界の人脈》 3 《電謀》 3 《ラクドスの魔除け》 2 《殺戮遊戯》 -サイドボード(15)- |
この2種類のゾンビは《スラーグ牙》との接触を避けて、それぞれわずかに採用した「牙避け」をもって回答しています。黒緑は《ひどい荒廃》、黒赤は《反逆の印》といった地味な1枚ですが、《スラーグ牙》と接触しない工夫としては上々の選択です。
地上の肉弾戦を主戦略に据えている黒緑は、飛行などによって戦線を移すことができず《スラーグ牙》と真っ向から対峙してしまうところを、《ひどい荒廃》という専用の手段を投入することで明確な回答がある意思表示をしています。スペースをとっていた《悪名の騎士》は《名門のグール》に席を譲り、威嚇能力による《スラーグ牙》環境下での確実なクロックを狙った工夫も見えます。
黒赤はより強く《スラーグ牙》を意識した形へとシフトしています。前回に黒赤ゾンビを紹介した際、赤の価値は火力呪文にあり、それは《スラーグ牙》に不利であることから黒赤は黒緑に劣ると書いたのですが、このレシピにはその印象を大きく裏切られました。火力呪文は最低限の《灼熱の槍》4枚に留めて、《反逆の印》をメインボードから採用することで明確に《スラーグ牙》を仮想敵とした構築を施しています。特に《反逆の印》との相性を加味して採用された《血の座の吸血鬼》は、レギュラーだった《血の芸術家》を押しのけての先発入りを果たしており、《投げ飛ばし》とともに《反逆の印》にデッキの主軸に足る使い勝手を与えているようです。
次に白青系のアグロを見ていきます。
10 《平地》 2 《島》 4 《神聖なる泉》 4 《氷河の城砦》 2 《魂の洞窟》 -土地(22)- 4 《教区の勇者》 4 《軍用隼》 3 《栄光の騎士》 4 《精鋭の審問官》 4 《管区の隊長》 4 《銀刃の聖騎士》 2 《リーヴの空騎士》 3 《荘厳な大天使》 2 《スレイベンの守護者、サリア》 4 《聖トラフトの霊》 -クリーチャー(34)- |
2 《戦慄の感覚》 2 《幽体の飛行》 -呪文(4)- |
3 《ドライアドの闘士》 2 《近野の巡礼者》 1 《栄光の騎士》 2 《スレイベンの守護者、サリア》 4 《否認》 3 《拘留の宝球》 -サイドボード(15)- |
9 《島》 4 《平地》 4 《神聖なる泉》 4 《氷河の城砦》 2 《ムーアランドの憑依地》 -土地(23)- 4 《ボーラスの占い師》 4 《瞬唱の魔道士》 4 《修復の天使》 -クリーチャー(12)- |
4 《送還》 4 《思考掃き》 2 《熟慮》 3 《中略》 3 《本質の散乱》 2 《巻き直し》 4 《アゾリウスの魔除け》 1 《スフィンクスの啓示》 2 《ルーン唱えの長槍》 -呪文(25)- |
3 《聖トラフトの霊》 2 《墓場の浄化》 1 《信仰の盾》 1 《消去》 1 《払拭》 2 《雲散霧消》 2 《拘留の宝球》 2 《至高の評決》 1 《スフィンクスの啓示》 -サイドボード(15)- |
この2つはゾンビとは異なる手段で《スラーグ牙》を「回避」することに努力しています。
白青アグロは人間による種族シナジーを搭載したもので、その僅かに採用された呪文4枚は《スラーグ牙》を回避するための特注品です。《戦慄の感覚》と《幽体の飛行》が最も一般的な組み合わせですが、《管区の隊長》との相性を加味して《信仰の縛め》を採用しているものも見られます。古典的ながら強力な《聖トラフトの霊》+《幽体の飛行》の組み合わせもあり、一見すると一直線で愚直ながら、空から地上からと多彩な攻撃手段を持っている器用なデッキです。
青白テンポは、かつての青白No-Delverを彷彿とさせる構築で、特徴的な点は《聖トラフトの霊》がサイドに落ちている点でしょう。これはメインボードの戦略をカウンターに寄せることでコンセプトを維持するための苦肉の工夫です。《聖トラフトの霊》は強力な一枚であると同時に、性質が攻撃に傾倒しすぎていることで知られており、先手番と後手番の違いが極端に現れます。かつての青白Delverはそのピーキーさを受け入れることが出来るだけの展開力と盤面への干渉手段があったものの、現在の青白はそうではありません。カードプールが狭まったことで不器用さが目立ち、攻防に立ち回るほどのリソースは持ち合わせていないのです。そこで青白はコントロールの重いカードへのカウンター戦略を重視し、ややコンセプトから外れた《聖トラフトの霊》をサイドボード要員としてデッキ全体の整合性をとった形に落ち着きました。
前回に紹介した青白赤トラフトとは構成パーツは似通っているものの、全く違う意識で構築されているデッキで、青白赤トラフトは典型的なグッドスタッフ、この青白テンポは明確なアンチコントロールとして構築されています。
★<スラーグ牙>を正面突破する★
9 《森》 4 《平地》 4 《寺院の庭》 4 《陽花弁の木立ち》 2 《魂の洞窟》 -土地(23)- 4 《アヴァシンの巡礼者》 4 《東屋のエルフ》 4 《絡み根の霊》 3 《銀刃の聖騎士》 4 《ロクソドンの強打者》 3 《修復の天使》 3 《スラーグ牙》 4 《ウルフィーの銀心》 -クリーチャー(29)- |
4 《怨恨》 4 《セレズニアの魔除け》 -呪文(8)- |
3 《栄光の騎士》 3 《精鋭の審問官》 3 《ケンタウルスの癒し手》 3 《忘却の輪》 3 《獰猛さの勝利》 -サイドボード(15)- |
前回に紹介した緑白をベースに改善されたレシピです。呪文の配分は変わらずとも、使用されているクリーチャーの様相は大きく変わっています。《栄光の騎士》や《スレイベンの守護者、サリア》、《荘厳な大天使》が姿を消し、代わりに《スラーグ牙》と《ウルフィーの銀心》、《絡み根の霊》、《修復の天使》が加えられています。《スレイベンの守護者、サリア》の是非はともかくとしても、デッキの方向性はアーキタイプとしてのシナジーではなく、骨太のグッドスタッフへの道を歩き始めているようです。
コントロールの防衛線は少なくとも《スラーグ牙》にあり、それを物理的に苦がなく乗り越えるためには、自分も同じカードを使い、さらに加えて有利に立つためのオーバーキル要員を用意することは理に適っています。その役割担当者として白羽の矢が立ったカードは《ウルフィーの銀心》だったようです。これまでも見かける強力なカードではあったものの、《スラーグ牙》を「正面突破する」ための役割をもってからはより目にする機会が増えたように思います。
《絡み根の霊》と《銀刃の聖騎士》のマナ拘束の強さにあるリスク、《修復の天使》と《スラーグ牙》の枚数、サイドボードの練り込みの甘さが課題ではありますが程よくまとまったデッキです。
と、ここまで2つの手段を見てきたのですが、ここで興味深いことに3つ目の選択肢がアグロデッキにはあったようです。
★<スラーグ牙>を無視する★
5 《森》 5 《平地》 4 《寺院の庭》 4 《陽花弁の木立ち》 4 《魂の洞窟》 -土地(22)- 4 《教区の勇者》 4 《アヴァシンの巡礼者》 4 《ドライアドの闘士》 4 《栄光の騎士》 4 《アヴァブルックの町長》 4 《銀刃の聖騎士》 4 《ロクソドンの強打者》 3 《スレイベンの守護者、サリア》 -クリーチャー(31)- |
4 《怨恨》 3 《セレズニアの魔除け》 -呪文(7)- |
4 《精鋭の審問官》 4 《安らかなる眠り》 4 《根生まれの防衛》 3 《忘却の輪》 -サイドボード(15)- |
21 《山》 -土地(21)- 4 《流城の貴族》 4 《ラクドスの哄笑者》 4 《流血の家の鎖歩き》 4 《灰の盲信者》 4 《ラクドスの切り刻み教徒》 2 《紅蓮心の狼》 4 《地獄乗り》 -クリーチャー(26)- |
4 《火柱》 4 《灼熱の槍》 4 《硫黄の流弾》 1 《反逆の印》 -呪文(13)- |
4 《無謀な浮浪者》 4 《火山の力》 3 《いかづち》 3 《炬火の炎》 1 《反逆の印》 -サイドボード(15)- |
以上の2つのデッキは色もコンセプトも異なるものの、ただひとつ共通している点があります。それは《スラーグ牙》への具体的な対策を採用していない点です。
どちらのデッキも純粋に自身のコンセプトを追求し、洗練してよりシンプルに強力に練り上げてあります。ただ、《スラーグ牙》がひょっこり4ターン目にでも着地しようものなら、勝敗はともかく確実に不利な局面に陥ることは予想される構成です。白緑には《セレズニアの魔除け》、赤単には火力か《紅蓮心の狼》と手が加えられていますが、他のデッキが施している工夫をと比較するとほんの僅かな干渉に過ぎません。
3つ目の選択肢である「無視する」はどのように環境に影響を与えているのか、《スラーグ牙》を克服するに至った方法はあるのか。この2点を考えるためにも、次はコントロールの変化へと視点を移してみましょう。
3. Use up the Tusk
ここからは《スラーグ牙》を使用するコントロールたちにフォーカスしていきます。アグロ側の工夫がどの程度影響したかは、このコントロールたちのレシピの変化から読み取れそうです。それでは黒赤緑ビッグマナを見てみましょう。
1 《山》 5 《森》 4 《血の墓所》 4 《草むした墓》 4 《根縛りの岩山》 4 《森林の墓地》 2 《ケッシグの狼の地》 -土地(24)- 4 《高原の狩りの達人》 4 《スラーグ牙》 3 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 -クリーチャー(11)- |
2 《究極の価格》 3 《血統の切断》 3 《火柱》 3 《忌むべき者のかがり火》 2 《戦慄掘り》 4 《遥か見》 3 《ヴェールのリリアナ》 3 《原初の狩人、ガラク》 2 《ラクドスの魔鍵》 -呪文(25)- |
3 《死儀礼のシャーマン》 3 《強迫》 1 《戦慄掘り》 2 《ラクドスの復活》 2 《突然の衰微》 2 《トーモッドの墓所》 2 《ニンの杖》 -サイドボード(15)- |
前回からはほぼ変化のみられない構成です。《ヴェールのリリアナ》が投入されたことと、サイドボードが洗練され始めた点が目立つくらいで極端な変化はありません。《殺戮遊戯》が採用されていないことはやや不思議ですが、《ニンの杖》や《ラクドスの復活》は同型への最終兵器で、除去コントロールとしての側面は崩さずにコントロール同型とのマッチアップへの意識を強めているようです。
次に緑白系コントロールを見ていきます。
1 《森》 3 《血の墓所》 4 《寺院の庭》 4 《草むした墓》 3 《根縛りの岩山》 3 《陽花弁の木立ち》 2 《森林の墓地》 3 《断崖の避難所》 -土地(23)- 4 《静穏の天使》 4 《スラーグ牙》 3 《ケンタウルスの癒し手》 3 《死儀礼のシャーマン》 2 《グリセルブランド》 -クリーチャー(16)- |
1 《未練ある魂》 1 《血統の切断》 4 《堀葬の儀式》 4 《信仰無き物あさり》 4 《根囲い》 4 《忌まわしい回収》 1 《ゴルガリの魔除け》 2 《戦慄掘り》 -呪文(21)- |
2 《ロウクスの信仰癒し人》 1 《古鱗のワーム》 1 《ケンタウルスの癒し手》 2 《天啓の光/Ray of Revelation(JUD)》 2 《忘却の輪》 3 《強迫》 2 《血統の切断》 1 《ゴルガリの魔除け》 1 《戦慄掘り》 -サイドボード(15)- |
緑白系コントロールと呼称していましたが、これからは《堀葬の儀式》を軸にしたものはリアニメートとして区別することとします。基本的には緑白黒の組み合わせで構成されており、上で紹介したように赤を加えた形も珍しくありません。緑白系の鍵となる《スラーグ牙》と《静穏の天使》へのアクセスを高めるためにリアニメートへと移行したことについては前回の記事で触れましたが、赤を加えた形はよりリアニメートへと特化したものとなっています。この4色目の採用は、天使と牙を釣り上げるまでのターン数と確実性を高める役割を持つとともに墓地対策への脆弱性も増す工夫です。速度勝負になりがちなアグロとのマッチアップや、確実性が問われる同型戦において赤入りの形は非常に強力です。
この他にも《静穏の天使》を連打しあうゲーム展開を避けるための工夫である《未練ある魂》+《孔蹄のビヒモス》や、サイドボード後に墓地への依存を減らすためにもグッドスタッフへと寄っている《修復の天使》を採用したものまで幅広い形が見受けられるアーキタイプで、共通している点としては、どれもがアグロに対して圧倒的な勝率を誇っていることが挙げられます。《静穏の天使》の代わりに《孔蹄のビヒモス》へとシフトしている大胆な構成までもあり、これからも激しく変化していくアーキタイプであることが伺えます。
4 《森》 4 《寺院の庭》 4 《草むした墓》 3 《陽花弁の木立ち》 3 《孤立した礼拝堂》 4 《森林の墓地》 2 《ガヴォニーの居住区》 1 《大天使の霊堂》 -土地(25)- 4 《アヴァシンの巡礼者》 4 《東屋のエルフ》 4 《修復の天使》 4 《スラーグ牙》 2 《大軍のワーム》 -クリーチャー(18)- |
3 《未練ある魂》 2 《忘却の輪》 2 《血統の切断》 1 《セレズニアの魔除け》 3 《原初の狩人、ガラク》 2 《イニストラードの君主、ソリン》 4 《セレズニアの魔鍵》 -呪文(17)- |
2 《静穏の天使》 3 《ケンタウルスの癒し手》 2 《墓場の浄化》 2 《天啓の光》 2 《地下世界の人脈》 2 《堀葬の儀式》 1 《突然の衰微》 1 《見えざる者、ヴラスカ》 -サイドボード(15)- |
8枚のマナクリーチャーが印象的なレシピです。コンセプトは3ターン目の5マナ域の展開にあり、これは先手後手を問わずして多くのデッキへとイニシアティブを持つことができます。《スラーグ牙》はもちろんのこと、《原初の狩人、ガラク》も4枚にしても問題ないほどの決定力をもっています。
最初にこのデッキを見た時の印象は『劣化リアニメート』だったのですが、実際に使用してみると印象は大きく変わりました。《堀葬の儀式》を経由して高速で大型クリーチャーが展開されるリアニメートは確かに強力で、それと比較するとこのデッキがマナクリーチャーを並べて戦線を拡大していく様はスケールが小さく、何よりもリアニメートの前身であった緑白コントロールに似通っていたため前時代的なものだと思っていたのです。ただ、実際はリアニメートが不安定なオーバーキルデッキではないかと思うくらいに、緑白コントロールはサイドボードとのバランスも含めて安定した構築がされていました。
初見の『劣化リアニメート』という印象はスケールや決定力という面では正しかったのですが、単純な下位互換ではなく綺麗に住み分けされた構成だということです。墓地に依存する以上はリスクがあり、リアニメートというエンジンに傾倒すると決定力は向上しても不安定さも同様に増していきます。その点でいうと、この緑白コントロールは「サイドボード後のリアニメート」に似通った堅実なゲームプランを展開するのです。
「サイドボード後のリアニメート」をどのように解釈するかはプレイヤー次第ですが、それが明らかに勝率の落ちた状態だと断言できる人は少ないことでしょう。そしてその状態が仮に十分に戦えるものであったなら、この緑白コントロールは適量の力がはいったバランスの良いデッキと言え、リアニメートはオーバーキルと不安定さに満ちたアーキタイプだと言い換えることもできそうです。このふたつの優劣は環境の速度によって異なるため、そのバランスによって推移していくものと思われます。
1 《島》 1 《森》 4 《神聖なる泉》 3 《寺院の庭》 1 《蒸気孔》 2 《草むした墓》 4 《氷河の城砦》 4 《陽花弁の木立ち》 4 《内陸の湾港》 1 《魂の洞窟》 1 《幽霊街》 -土地(26)- 1 《修復の天使》 1 《静穏の天使》 4 《スラーグ牙》 -クリーチャー(6)- |
2 《終末》 1 《サイクロンの裂け目》 4 《雲散霧消》 2 《思考を築く者、ジェイス》 4 《遥か見》 1 《レインジャーの道》 4 《アゾリウスの魔除け》 1 《拘留の宝球》 2 《至高の評決》 4 《スフィンクスの啓示》 1 《ラクドスの復活》 1 《不死の霊薬》 1 《真髄の針》 -呪文(28)- |
2 《修復の天使》 2 《ロウクスの信仰癒し人》 3 《ケンタウルスの癒し手》 2 《墓場の浄化》 2 《否認》 1 《拘留の宝球》 2 《殺戮遊戯》 1 《魔女封じの宝珠》 -サイドボード(15)- |
現環境で最も遅いコントロールを目指した構築されたデッキです。何よりも目立つのは4枚投入された《スフィンクスの啓示》で、《スフィンクスの啓示/Sphinx’s Revelation)》から更なる《スフィンクスの啓示》を撃つことを前提とした構成となっています。クリーチャー選択は《スラーグ牙》の他に2枚の天使があり、一見すると地味な《修復の天使》はサイドボードのバランスを取るためにメインボードへとシフトしているようです。《サイクロンの裂け目》からの《ラクドスの復活》、《不死の霊薬》によるライブラリ修繕。といった最も遅いデッキであることをふんだんに活かして長期戦を目論んだ構成は多くのコントロールとのマッチアップを有利に運んでくれます。
このコントロールを狩るためのコントロールの登場は何を意味しているのか、先程のアグロの項とあわせて改めて状況を整理して考察していきます。
4. 現状の整理
まずは、これらのレシピの変化を追った理由へと戻ります。アグロ側は《スラーグ牙》を前に変わらざるをえない状況に立たされており、コントロール側にとっては変化したアグロを迎え撃つ場面となっています。これより、アグロ側のレシピの変化はそのまま『アグロによるコントロール対策』で、コントロール側のレシピ上の変化は『アグロからの対策を受けた反応』だと言い換えることができそうです。
それではアグロ側の対策を確認し、コントロールからの反応に照らし合わせてみましょう。
■アグロ側:対抗策とそれを採用したアーキタイプ
『回避する』……黒緑ゾンビ、黒赤ゾンビ、白青アグロ、青白テンポ
→構造的には変わらず、僅かな枚数の対策カードで克服する方法。
→青白テンポだけはカウンター戦略を採用しているため異なるアプローチ。
『正面突破する』……緑白アグロver.1
→構造的に重くすることでカード単体の価値に頼り、サイズによって乗り越える方法。
『無視する』……緑白アグロver.2、赤単アグロ
→構造的な変化はなし。コンセプトを洗練して、デッキ自体の強みを重視する方法。
→《スラーグ牙》というカードへの明確な対抗策はない。
■コントロール側:各アーキタイプの反応
『黒赤緑ビッグマナ』……除去の総数には変化はなく、コントロール同型を見据えたチューンがされている。
→アグロへの具体的な反応はない。
『リアニメート』……赤を入れることでリアニメートに特化する等の速度を意識した変化はある。
→速度を意識したリアニ特化型と、中速のゲーム展開を見据えたグッドスタッフ型、同型の不毛な展開を避けるべく《孔蹄のビヒモス》型と大きく分化している。
『緑白系コントロール』……安定して《スラーグ牙》と《原初の狩人、ガラク》を展開することがコンセプトとなっている。
→リアニに特化せずともアグロ相手は事足りているという意思表示とも取れる。
『バントコントロール』……環境最遅を目指したコントロールヘイトのコントロール。
→基本的にボードコントロールであるためアグロと極端に悪い関係はないが、サイドボードに《ケンタウルスの癒し手》と《修復の天使》が積まれている。
以上がアグロとコントロールにあった変化のまとめです。以下、アグロ側の対抗策とその結果を整理します。
★<スラーグ牙>を回避する★
アグロ側は『回避する』選択を採用したアーキタイプが多く見られたのですが、そのような方策に対するコントロール側の反応は極めて薄いと言わざるをえません。辛うじてリアニメートが分化したことで、アグロの変化に反応した形が見られましたが、その他はほぼ微動だにしていないといっても過言ではありません。
特に黒赤緑ビッグマナの無味無臭の反応が特徴的で、未だにアグロ側がコントロールを脅かすほどの脅威を与えられていない証左でしょう。また、《スラーグ牙》の攻略に精を出したところで、それはあくまでもコントロール側の持つ1手段にしか過ぎないという点は見逃せません。アグロにとって《スラーグ牙》は致命的であっても、コントロールのデッキ構造の中での《スラーグ牙》は多くの場合はグッドスタッフという代替可能な1枚でしかないのです。《スラーグ牙》のシナジーを重視している形のリアニメートが最も反応を示していることからもそれが伺えます。このことから『《スラーグ牙》を攻略しても大きく改善されるマッチアップは少なかった』と考えられます。
『回避する』という選択はあまり根本的な解決には至らなかったようで、次に緑白アグロver.1による『正面突破』について考えてみます。
★<スラーグ牙>を正面突破する★
これはマナコストが重く強力なカードを採用することでカード1枚のぶつかり合いに備えた形です。構造的には重くちぐはぐな作りとなるので、安定性やスピード感は薄れますが、何か1枚のカードで手詰まりになってしまうといった事態は明確に減ることでしょう。これは結果的にですが、『《スラーグ牙》を攻略しても大きく改善されるマッチアップは少なかった』という展開にはマッチしています。そもそもは《スラーグ牙》に押し負けない作りを目指した変更ですが、特に《スラーグ牙》にだけ照準を絞ったわけではないので、デッキ全体が骨太で折れにくい作りとなっているからです。あくまでもグッドスタッフとして《スラーグ牙》を使うコントロールに対して、あくまでもグッドスタッフの1枚として《スラーグ牙》を解釈した緑白アグロver.1は悪くない選択をしたと言えます。
ただ、デッキ全体の構造が重くなることはメリットばかりでなく、それ自体が中途半端な存在になりうる可能性をはらんでいる点には注意が必要です。あくまでも対戦相手が想定している点よりも少し粘り強いから効果的なのであって、極端にスピードが落ちるとコントロール同士のゲーム展開へとなだれ込むことで不利な土俵へと足を突っ込んでしまう羽目になります。この速度の定義と、その認識の共有は非常に重要で、この決定は常にアグロ側が設定することだけは忘れてはいけないポイントです。
そして、その速度の定義を徹底的に塗り替えようと試みたものが次の『無視する』勢です。
★<スラーグ牙>を無視する★
『無視する』勢である緑白アグロver.2と赤単アグロ。《スラーグ牙》を攻略すること自体に大きな価値がないのであれば、その60枚の中のたったの4枚への解答を多く採用することよりも、自身のコンセプトを徹底化してより早くより強くを目指した構築にすることが望ましいことは言わずもがなです。
どちらも最速を目指した構成をしており、現状のコントロール側が認識しているアグロの速度を上回ることで有利を手にしようとしています。これは結果的に《スラーグ牙》1枚では対処できない展開を披露できるという意味もあり、《スラーグ牙》という1枚にこだわらないことで結果的に《スラーグ牙》を克服したと言い換えることもできる不思議な状態です。
しかし、この速度を追求した姿勢にも問題点は存在します。それは「先手後手の差が極端になること」と「展開が遅れることが敗北に直結すること」です。想定しているターン数が短いデッキであればあるほどに先手と後手による半ターン差は大きく影響し、1枚のパーマネントの展開が遅れるだけで勝率はグングンと低下していきます。これはクリーチャーを利用したアグロであることも相まって、迎える戦闘フェイズの回数は非常にシビアな問題だと言えるでしょう。端的にまとめるのであれば、速度を手にすることで不安定さも増しているということになります。まずは最速を目指し、段々と遅らせるうちにリスクとリターンのバランスを見つけるというのが多くの調整作業では行われますが、この『無視する』勢にとっては尚更大切な過程になりそうです。
ここで“まとめ”といきたいのですが、まだひとつ触れる必要のある内容が残っています。それは青白テンポの『カウンター戦略』についてです。
★もうひとつの対抗策、カウンター戦略★
青白テンポはカウンター戦略を軸にしたもので、という注釈は繰り返してきたのですが、具体的に何に強い戦略なのかは説明していませんでした。これはコントロール全てに対して効果的という素晴らしい戦略です。そもそもカウンター呪文とは対戦相手の動きが大振りであればあるほどに効果的に働くたぐいのカードですが、《スラーグ牙》や《静穏の天使》、《原初の狩人、ガラク》を筆頭に、現在のコントロールの鍵となる呪文の多くは5マナ以上と特に高カロリーな構成が目立っています。
青白テンポのメインボードから《聖トラフトの霊》が消えた理由も、このカウンター戦略が《聖トラフトの霊》以上の決定力を持っているからに他ならず、《聖トラフトの霊》に頼るまでもないというのが本音でしょう。リアニメートはカウンター呪文への脆弱性を恐れて《魂の洞窟》を採用し始めたレシピが増えており、ビッグマナはただただカウンターの餌食になっている昨今です。
5. まとめ
《スラーグ牙》を打破できたかどうか。この問いには敢えてYesと答えましょう。しかし、それでは不十分であることも事実です。それは《スラーグ牙》を主軸に据えたデッキが少ないことが一因にあり、《スラーグ牙》への対策を施すことでデッキ自体の弱体化が見られる危険があるからです。
その点、『無視する』と潔い選択肢をとった幾つかのデッキはかなりの期待がもてます。ただ、彼らの速度への探求が止まり、その速度をコントロール側が認識すればそれまでであり、コントロール側のさじ加減ひとつで追い詰められる存在であることは確かです。追い詰められたらまた手段を変えればいいだけなのですが、ひとつのアーキタイプの賞味期限と言いますか、メタゲームならではの入退出が行われやすい立場にあることは事実でしょう。
最後に期待たっぷりに書いた青白テンポは、これからの数週間の行方を左右する存在です。現状すでに《魂の洞窟》は見え始めているため、支配的になることは少ないとは思われるものの、コントロール側が支配的になって「コントロール同士のゲーム」へと進行することをすんでに留めている楔のような存在だと考えられます。カウンターを恐れた《魂の洞窟》と、カウンターを恐れない「コントロール同型対策」のせめぎあいが焦点となりそうです。
今回はアグロ側の《スラーグ牙》対策を中心に考察し、それへのコントロール側の反応をもとに有効性や影響を考えてみました。結果的にはコントロール側が目立った反応を示すことはなかったものの、アグロ側が試行錯誤するなかで一方的に成長している姿が伺えたことは次なる展開を考える材料となるでしょう。アグロ側の工夫はコントロールの防壁を突破するに至らなかったと結論づけた今回でしたが、レシピが日々革新的に変化していくアグロに対してやや停滞の様相を見せているコントロール側は、無為に時間を過ごしてしまったと言い換えることもできます。
コントロール側の変化から、これからはコントロール同士のマッチアップに焦点が移っていくことかと思われますが、そのスローダウンする環境の速度をアグロ側がいかに再定義するかは注目すべき内容でしょう。
前回のまとめで挙げたメタゲームの動きは「アグロデッキが《スラーグ牙》を克服できず、コントロール同士の主権争いへ」という(2)のルートへと転がり始めました。次なるステージは、コントロール界の最強決定戦となるでしょう。現状のリアニメート同士などの長く退屈なゲームを簡単に攻略する手法や、今回紹介したバントコントロールのような最遅を目指したアーキタイプの登場が待たれます。
それでは、次回へ!!
6. “らっしゅ”のボーナスレシピ
ボーナスレシピとして、いま僕がMagic Onlineで調整しているデッキを紹介します。5色のリアニメートで、上のまとめにも書いた《魂の洞窟》を4枚入れているのがポイントのひとつです。
4 《神聖なる泉》 4 《寺院の庭》 1 《蒸気孔》 2 《草むした墓》 2 《氷河の城砦》 1 《水没した地下墓地》 2 《陽花弁の木立ち》 4 《内陸の湾港》 4 《魂の洞窟》 -土地(24)- 4 《修復の天使》 4 《静穏の天使》 1 《クローン》 4 《スラーグ牙》 3 《ケンタウルスの癒し手》 4 《死儀礼のシャーマン》 -クリーチャー(20)- |
4 《禁忌の錬金術》 4 《堀葬の儀式》 4 《追跡者の本能》 4 《遥か見》 -呪文(16)- |
1 《クローン》 1 《ケンタウルスの癒し手》 2 《大軍のワーム》 2 《鷺群れのシガルダ》 1 《墓場の浄化》 1 《天啓の光》 1 《拘留の宝球》 2 《至高の評決》 2 《スフィンクスの啓示》 2 《殺戮遊戯》 -サイドボード(15)- |