0. プロツアー「ギルド門侵犯」とMOについて
2月の中旬にプロツアー「ギルド門侵犯」が開催されました。その名の通りに最新エキスパンションであるギルド門侵犯が発売されてまもなくに開催され、構築とリミテッドの両面においてギルド門侵犯がどのようなエキスパンションであるかがお披露目されるトーナメントでした。この結果については後述しますが、今回の記事におけるプロツアー「ギルド門侵犯」がどのような立ち位置であるかを、まずは触れておきたいと思います。
もはや記憶に薄いことがらかもしれませんが、僕のこの連載においてのデッキやメタゲームの情報は、規模と試行回数の問題からMO上のものを参考にするとしました。そして今回、オフラインのトーナメントであるプロツアーをメインテーマに持ってくることに違和感を覚えた方もいると思うので、若干の説明を加えさせてもらいます。
最近ではオフラインとオンラインにおいて最新エキスパンションがリリースされる期日が近づきつつあります。昔は1ヶ月遅れも珍しくなかったほどのラグがあったものの、今回のギルド門侵犯に関して言えば、僅かに1週間ほどの差しかありませんでした。これが何を示すのかといえば、プロツアーが開催される前にMO上である程度のテストプレイがなされるということです。しかしその期間は発売まもなくのプロツアーの開催日までなので、オンラインならではの激しい新陳代謝が行われるほどの余裕はありません。
そのため、レシピやアーキタイプが強固になることは少ないものの、あらゆるアイデアの雛形がプレイヤーの間で広く共有される場としての意味合いが強かったのです。このように情報が共有される場というものは大型のトーナメントが開催される前においては貴重かつ有力な情報ソースになります。ふわふわとしたメタゲームの予想図を思い描くのではなく、ひとまずは参加者の誰もが確認している情報を材料に本戦のメタゲームを考えることができるからです。実際にそこにあるアイデアが本戦で形になるかはともかく、共有されている情報の文脈から外れたメタゲームやアーキタイプが登場することは考えづらい、という点だけでも有意義なことでしょう。
そこで今回の記事では、まずは多くのプロツアー参加者にとっての共有情報であったであろうMOにおけるメタゲームを第1節から第3節にかけて紹介し、その後の節では参加者たちが事前の情報に対してどのような反応をしたのかについてプロツアー「ギルド門侵犯」の本戦を振り返ります。
事前情報としてのMOのメタゲーム。そして、ひとつの実践編としてのプロツアーの行方。
これらの過程と結果に注目していきます。
1. はじまりはアグロから
これはどのような構築環境においても等しく言えるのですが、まずはその環境の速度を決める存在が登場します。この環境はどれほどの余裕を持てる環境であるのか、どこまで重いカードが使用に耐えうるのか。最速を主張するアーキタイプ以外は、常に環境の速度を参考にしないと仮組みすらされません。
そして以前の記事の中でも触れたように、この速度の基準を作るのは概ねアグロデッキです。今回のギルド門侵犯導入後のスタンダード環境でもそれは変わらず、とある新カードを使用した攻撃的なアーキタイプが登場しました。
そのカードとは《炎樹族の使者》です。
2マナ2/2という決してハイスペックとはいえないサイズながらも、戦場に出た時にマナを出す能力が強烈な展開力をもたらします。2ターン目を迎えればパワー2のフリースペルも同然で、2ターン目ながら3体以上のクリーチャーが盤上に並ぶことはさほど珍しいことでもなくなりました。
そしてこの《炎樹族の使者》を軸に登場したものが以下の2つのアーキタイプでした。
12 《山》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《根縛りの岩山》 -土地(20)- 4 《流城の貴族》 4 《ラクドスの哄笑者》 4 《灰の盲信者》 4 《炎樹族の使者》 4 《火打ち蹄の猪》 4 《ボロスの反攻者》 4 《地獄乗り》 -クリーチャー(28)- |
4 《火柱》 4 《灼熱の槍》 4 《怨恨》 -呪文(12)- |
3 《頭蓋割り》 2 《ミジウムの迫撃砲》 3 《火山の力》 2 《裏切りの血》 2 《冒涜の行動》 3 《ドムリ・ラーデ》 -サイドボード(15)- |
これは齋藤 友晴がTwitter上で公開してから流行したもので「齋藤赤緑/Saito RG」とも呼ばれています。旧環境の赤単系アグロの流れを汲んだもので、以前はメタゲーム上の都合で登場したものの、今回の環境においては単純な速度が買われて活躍していました。
ギルド門侵犯からは《踏み鳴らされる地》が収録されたため、強力だとは知られつつも使用されてこなかった《火打ち蹄の猪》が無理なく使用されていることがチャームポイントになります。
1マナのクリーチャーからの《炎樹族の使者》+《火打ち蹄の猪》といったアクションは強力です。上記のレシピでは採用されていませんが、《ゴーア族の暴行者》でそれらの攻勢を押し込むなどのオプションも備えています。
シンプルな構成であることが人気を後押ししたのか、しばらくはこの系統としかマッチアップしない時期もあったくらいの流行具合でした。最速を主張できる、この環境の代表的なアグロデッキです。
4 《踏み鳴らされる地》 4 《寺院の庭》 4 《聖なる鋳造所》 2 《根縛りの岩山》 2 《陽花弁の木立ち》 2 《断崖の避難所》 4 《魂の洞窟》 -土地(22)- 4 《教区の勇者》 4 《ボロスの精鋭》 4 《実験体》 4 《稲妻のやっかいもの》 4 《炎樹族の使者》 4 《アヴァブルックの町長》 4 《火打ち蹄の猪》 3 《前線の衛生兵》 4 《地獄乗り》 -クリーチャー(35)- |
3 《ボロスの魔除け》 -呪文(3)- |
3 《近野の巡礼者》 3 《スレイベンの守護者、サリア》 4 《平和な心》 3 《反逆の印》 1 《グルールの魔除け》 1 《ボロスの魔除け》 -サイドボード(15)- |
《炎樹族の使者》は2マナ2/2で登場したときに2マナを捻出します。それに加えたもうひとつの特性を利用したものが、この「人間ビートダウン」です。それはデッキ名にもある通り、《炎樹族の使者》のクリーチャータイプが人間であるということに注目しています。主に《教区の勇者》と《アヴァブルックの町長》とのシナジーが強力です。
《ボロスの精鋭》と《実験体》、《教区の勇者》はどれも《炎樹族の使者》の展開力と抜群の相性を誇り、《前線の衛生兵》や《アヴァブルックの町長》や《地獄乗り》がそれらに突破力を加えるのです。
特に《前線の衛生兵》は革命的なカードで、大隊能力による攻撃力はもちろんのこと、致命的なカードである《忌むべき者のかがり火》や《スフィンクスの啓示》を咎めることができるマスターピースでもあります。3マナ3/3とやや物足りないスペックながら、代用の利かない役割を担ったスーパーマンです。
とにかく前のめりに、赤単系アグロよりも高速に。などの要素を重視したアーキタイプであるため、シンプルな構築が求められて自由がないのが欠点らしい欠点ですが、「手札を全部展開して殴る」という戦略を速度と規模の両面において高い水準で行うため、生半可な対応では歯がたたないほど強力なアーキタイプです。
対戦相手に干渉できないことは致命的とも言える点ですが、これは細かい干渉を得意とする赤単系アグロとの差別化を図った点でもあるため、MO上では、より長所を伸ばした構築をしよう、という方向性でよりシンプルに攻撃的にと調整されていたようでした。
2. <炎樹族の使者>をぶっ倒せ
第1節で紹介した2つのアグロは環境の速度を定義したものです。生半可なビートダウンが「赤緑ビートダウン」と「人間ビートダウン」の2つに勝る部分は少なく、他のアーキタイプは居場所を見つけるためにも、とりあえずはこの2つとの関係性を模索する段階が訪れました。
そこで考えるべきは2つのアグロの強みがどこにあるのかということで、それは明確に《炎樹族の使者》がもたらす高速展開だと言えます。彼らの脅威である速度を支えている部分は《炎樹族の使者》にあり、とりあえず《炎樹族の使者》を対策しないことには何も始まらないのです。
そして様々な試行錯誤の末に《炎樹族の使者》の強みを消すためのアプローチは、最終的に2つにまで絞られました。
・『2/2というサイズに価値を持たせない』
→タフネス3以上のクリーチャーを採用したり、《絡み根の霊》のような専用対策を採る。
・『<炎樹族の使者>の展開力に見合う対抗策を持つ』
→《至高の評決》や《忌むべき者のかがり火》による一掃。
前者の対策を採用したものが各種ミッドレンジでした。「白青赤ミッドレンジ/Trico Midrange」や「白赤緑ミッドレンジ/Naya Midrange」などがそれに当たります。これらミッドレンジのキーカードは《ボロスの反攻者》です。これは赤単系アグロにも採用される優秀なクリーチャーではあるのですが、攻撃力以上に防御に回った際の強固さを買われて守備の要のカードとして活躍しています。
4 《神聖なる泉》 4 《蒸気孔》 4 《聖なる鋳造所》 4 《氷河の城砦》 4 《硫黄の滝》 4 《断崖の避難所》 1 《ムーアランドの憑依地》 -土地(25)- 4 《ボーラスの占い師》 4 《瞬唱の魔道士》 4 《ボロスの反攻者》 3 《修復の天使》 -クリーチャー(15)- |
3 《火柱》 4 《灼熱の槍》 2 《冒涜の行動》 4 《アゾリウスの魔除け》 2 《スフィンクスの啓示》 2 《イゼットの魔除け》 3 《ボロスの魔除け》 -呪文(20)- |
1 《士気溢れる徴集兵》 3 《聖トラフトの霊》 2 《信仰の盾》 2 《払拭》 3 《否認》 2 《轟く激震》 2 《対抗変転》 -サイドボード(15)- |
2 《山》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《寺院の庭》 4 《聖なる鋳造所》 4 《根縛りの岩山》 4 《陽花弁の木立ち》 2 《断崖の避難所》 -土地(24)- 4 《炎樹族の使者》 4 《円環の賢者》 4 《火打ち蹄の猪》 4 《ロクソドンの強打者》 4 《ボロスの反攻者》 4 《修復の天使》 2 《雷口のヘルカイト》 2 《戦導者オレリア》 -クリーチャー(28)- |
4 《ミジウムの迫撃砲》 4 《ドムリ・ラーデ》 -呪文(8)- |
4 《スラーグ牙》 2 《忘却の輪》 4 《火柱》 2 《情け知らずのガラク》 3 《ボロスの魔除け》 -サイドボード(15)- |
後者の対策を講じたものは「黒赤緑コントロール/Jund Control」や「白青黒コントロール/Esper Control」といったコントロールの面々です。彼らは最序盤の《炎樹族の使者》に対して1枚で解決できる手段を持ち合わせていないため、その展開力をまとめてフイにできるリセット手段に力を入れています。それは上で挙げた《至高の評決》や《忌むべき者のかがり火》を筆頭に《終末》などもその選択肢に挙がります。
1 《沼》 4 《血の墓所》 2 《踏み鳴らされる地》 4 《草むした墓》 2 《竜髑髏の山頂》 4 《根縛りの岩山》 4 《森林の墓地》 2 《魂の洞窟》 2 《ケッシグの狼の地》 -土地(25)- 2 《吸血鬼の夜鷲》 4 《高原の狩りの達人》 4 《スラーグ牙》 3 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 -クリーチャー(13)- |
2 《究極の価格》 2 《火柱》 2 《灼熱の槍》 1 《ミジウムの迫撃砲》 3 《忌むべき者のかがり火》 4 《遥か見》 2 《ラクドスの復活》 2 《突然の衰微》 3 《ヴェールのリリアナ》 2 《原初の狩人、ガラク》 -呪文(23)- |
4 《死儀礼のシャーマン》 1 《吸血鬼の夜鷲》 2 《強迫》 2 《地下世界の人脈》 1 《血統の切断》 2 《火柱》 3 《殺戮遊戯》 -サイドボード(15)- |
1 《平地》 4 《島》 4 《神聖なる泉》 3 《湿った墓》 4 《神無き祭殿》 4 《氷河の城砦》 3 《水没した地下墓地》 1 《孤立した礼拝堂》 4 《ネファリアの溺墓》 -土地(28)- 2 《ボーラスの占い師》 -クリーチャー(2)- |
3 《未練ある魂》 3 《終末》 4 《熟慮》 1 《雲散霧消》 1 《中略》 4 《アゾリウスの魔除け》 3 《至高の評決》 4 《スフィンクスの啓示》 3 《思考を築く者、ジェイス》 2 《月の賢者タミヨウ》 2 《イニストラードの君主、ソリン》 -呪文(30)- |
2 《ボーラスの占い師》 1 《瞬唱の魔道士》 1 《終末》 1 《天使への願い》 1 《否認》 1 《雲散霧消》 1 《心理のらせん》 2 《強迫》 1 《脳食願望》 3 《拘留の宝球》 1 《真髄の針》 -サイドボード(15)- |
この2つのアイデアはどちらも有効な対抗策なのですが、どちらも同程度に《炎樹族の使者》に対して有効というわけではありません。そこには確実性の違いがあるのです。それでは、そこにある違いと《炎樹族の使者》を取り巻く周囲だけでなくメタゲームの全体像へと目線を移していきましょう。
3. 確実性と全体像の関係
確実性の問題だと前節を締めましたが、それは『構造による対策』か『部分による対策』かによる違いがそれを引き起こしています。つまり、タフネス3以上のクリーチャーを採用し、《炎樹族の使者》に対してパーマネントで戦う選択をしているミッドレンジのようなアーキタイプは、2マナ2/2というサイズのクリーチャーをデッキ全体で根本から否定しています。1枚たりとも《炎樹族の使者》で交換できるパーマネントが採用されておらず、除去呪文を絡めた無理攻め以外で《炎樹族の使者》が活躍できる機会を無くしているのです。
それに対して《忌むべき者のかがり火》や《至高の評決》を鍵にしているコントロールによるアプローチは、《炎樹族の使者》の脅威を薄めているに過ぎません。鍵となるカードに巡りあうことができれば《炎樹族の使者》の生み出した時間差を埋めることができますが、それを引く機会に恵まれなければ、《炎樹族の使者》は最大限のクオリティを発揮してしまうのです。当然マッチアップの鍵となるカードなので大量に採用されているとはいえ、同名のカードは基本的には4枚までしか採用することはできません。それらに早いターンで巡りあう事がないゲームもしばしばあることでしょう。
デッキ全体で『構造的に対策』しているミッドレンジと、鍵となる『部分による対策』をしているコントロールでは、当然のごとく《炎樹族の使者》への対策の強さや確実性には差が生じます。より強力な対抗策は前者であり、確実性が高いのも同様に『構造的に対策』した方です。
しかし、それでは後者の選択をしているコントロールが劣っているアーキタイプかというと、決してそういうことではありません。あくまでも《炎樹族の使者》へのアプローチにおいては差があるものの、コントロールには彼らなりの存在理由があるのです。それはメタゲームを、中心である《炎樹族の使者》からではなく、全体的に把握すると分かりやすいかもしれません。
ミッドレンジは環境の前提でもある《炎樹族の使者》に対して『構造的に対策』しているため、《炎樹族の使者》には特化しているものの、その他に対してやや偏りを原因とした歪みが見られます。「白青赤ミッドレンジ」や「白赤緑ミッドレンジ」であればコントロールとのマッチアップをサイドボード頼りにしている点が簡単な例になるでしょうか。
メタゲームの中心を《炎樹族の使者》だと仮定した時に(MO上では確かに《炎樹族の使者》が中心でした)、そこに正確にアプローチしたものが各種ミッドレンジで、中心にある《炎樹族の使者》とそれに反応したミッドレンジの両方と戦える包括的なスタンスをとったのがコントロールということです。
包括的である分、アプローチの範囲が漠然と広いだけ、コントロールによる《炎樹族の使者》への対抗策は確実性の薄いものとなってはいますが、その分だけ手広く偏らずに環境と向き合っています。
これはどちらが正しい反応かという結論は見出しにくく、結局は度々のトーナメントにおけるメタゲームの状況によって左右されます。《炎樹族の使者》が多ければミッドレンジが正解となり、《炎樹族の使者》が少なければコントロールがわかりやすく戦いやすい状況となるのです。
事前の情報であるMOにおいては、《炎樹族の使者》が多いものの、それに強いミッドレンジが数を日に日に増やし、コントロールは常に一定数だけ増えも減りもせずに存在する、という模様でプロツアー「ギルド門侵犯」を迎えました。
これより後ろは、本番のメタゲームはどのようなものであったかを中心に、プロツアー「ギルド門侵犯」で活躍したデッキにスポットライトを当ててみましょう。
4. モントリオールは一歩進んだ環境
気になるプロツアー「ギルド門侵犯」のフィールドは、このようなものでした。(→Standard Metagame Breakdown)
MO上の動きを加速させたように、ミッドレンジのひとつである「白青赤ミッドレンジ」が最大手、次に続くのは「黒赤緑」と「白青黒」などのコントロール達だったのです。メタゲームの動向の中心に位置していたはずの《炎樹族の使者》は存在するものの、ミッドレンジとコントロールの数の前にはもはや存在感が小さいという状況でした。
事前の段階では《炎樹族の使者》を使用したアグロが注目の的であったものの、モントリオールの地ではアグロとミッドレンジを象徴する《ボロスの反攻者》を巡る戦いが繰り広げられたのです。
このようなフィールドは包括的にメタゲームへとアプローチしていたコントロールに都合がよく、Melissa De Toraが駆った「ケッシグ入り白青緑コントロール/Kessig Bant」などはミッドレンジへの勝率を高めつつ、タイトなコントロールのミラーマッチをわかりやすく解決したものとなっていました。
4 《神聖なる泉》 1 《踏み鳴らされる地》 3 《寺院の庭》 1 《蒸気孔》 1 《聖なる鋳造所》 4 《繁殖池》 3 《氷河の城砦》 2 《陽花弁の木立ち》 4 《内陸の湾港》 2 《ケッシグの狼の地》 -土地(25)- 3 《ボーラスの占い師》 3 《ケンタウルスの癒し手》 4 《修復の天使》 4 《スラーグ牙》 -クリーチャー(14)- |
2 《熟慮》 2 《雲散霧消》 1 《中略》 4 《遥か見》 4 《アゾリウスの魔除け》 1 《拘留の宝球》 3 《至高の評決》 4 《スフィンクスの啓示》 -呪文(21)- |
1 《ケンタウルスの癒し手》 3 《ロウクスの信仰癒し人》 1 《黄金夜の刃、ギセラ》 2 《安らかなる眠り》 2 《否認》 2 《情け知らずのガラク》 1 《拘留の宝球》 1 《至高の評決》 2 《魔女封じの宝珠》 -サイドボード(15)- |
「白青黒」を代表とするコントロールは《ネファリアの溺墓》による勝利手段を選択していることが多かったのですが、過去のアイデアを掘り起こして今風にリアレンジしたものが、この「ケッシグ入り白青緑コントロール/Kessig Bant」です。先述した《炎樹族の使者》への反応を構造(14枚ものクリーチャー)+部分(《至高の評決》)の2点において押さえつつ、一般的なミッドレンジよりも遅くタフなカードで組み上げることでフィールドに対して理想的な構築がなされています。
デッキコンセプトを支えている《ケッシグの狼の地》は、中低速のマッチアップにおいて強力で、通常は《スラーグ牙》や《スフィンクスの啓示》でライフを争うことのないマッチアップに脅威を送り込むことができるのです。本来であれば《ネファリアの溺墓》や盤上の質で勝負するマッチアップにおいて、ほぼ無意味なプレッシャーであった《修復の天使》や《ケンタウルスの癒し手》を《火の玉》へと変え、ライフリソースへと一方的に干渉していきます。
これは特に「黒赤緑コントロール」にとって大きな脅威で、青系コントロールというそもそも相性が悪い状態に加えて、《原初の狩人、ガラク》や《ラクドスの復活》での一発逆転が狙いづらくなっています。
そして、「白青黒コントロール」にも「ケッシグ入り白青緑コントロール」と同様の変化が見られました。
1 《平地》 2 《島》 4 《神聖なる泉》 2 《湿った墓》 2 《神無き祭殿》 4 《氷河の城砦》 4 《水没した地下墓地》 4 《孤立した礼拝堂》 4 《ネファリアの溺墓》 -土地(27)- 4 《ボーラスの占い師》 2 《瞬唱の魔道士》 3 《修復の天使》 -クリーチャー(9)- |
2 《次元の浄化》 4 《熟慮》 2 《雲散霧消》 2 《肉貪り》 1 《究極の価格》 1 《劇的な救出》 4 《アゾリウスの魔除け》 4 《至高の評決》 4 《スフィンクスの啓示》 -呪文(24)- |
2 《静穏の天使》 3 《鬱外科医》 1 《安らかなる眠り》 1 《払拭》 1 《否認》 1 《心理のらせん》 2 《記憶の熟達者、ジェイス》 2 《強迫》 2 《魔女封じの宝珠》 -サイドボード(15)- |
先に紹介した「白青黒コントロール」と大きく異なる点は、メインボードからクリーチャーを多く採用している点です。一般的な「白青黒コントロール」は《ボーラスの占い師》に数枚を加えた布陣が精々でしたが、Ben Starkは《修復の天使》を加えた構成を持ち込みました。「ケッシグ入り白青緑コントロール」ほど明確な主張ではないものの、パーマネントによる構造的な《炎樹族の使者》への対策とともに、コントロールのマッチアップを左右するプレインズウォーカーへと睨みを利かせるためでしょう。
コントロールのマッチアップを強く意識している様子は、《次元の浄化》から伺うことができます。《原初の狩人、ガラク》と《高原の狩りの達人》を同時に処理でき、《ドムリ・ラーデ》に無尽蔵なアドバンテージを稼がせることへと待ったをかけています。本来の構成であればこの追加のリセット呪文枠は《終末》が担当しており、それを《次元の浄化》へと変えているところからも、溢れんばかりのアグロとのマッチアップではなくミッドレンジよりも遅いアーキタイプの争いを多く想定していたようです。
《次元の浄化》を採用している関係で《拘留の宝球》を使用できないことが対応の幅を狭めてはいますが、会場でもっとも柔軟なデッキだったといっても過言ではないほど綺麗に構築されています。
視点を変えてミッドレンジに目を移すと、2つのデッキが興味深いアプローチを施していました。
2 《山》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《寺院の庭》 4 《聖なる鋳造所》 4 《根縛りの岩山》 3 《陽花弁の木立ち》 3 《断崖の避難所》 -土地(24)- 4 《炎樹族の使者》 4 《円環の賢者》 4 《火打ち蹄の猪》 4 《ロクソドンの強打者》 4 《ボロスの反攻者》 4 《地獄乗り》 3 《雷口のヘルカイト》 1 《スラーグ牙》 -クリーチャー(28)- |
4 《ミジウムの迫撃砲》 4 《ドムリ・ラーデ》 -呪文(8)- |
2 《近野の巡礼者》 1 《スラーグ牙》 1 《戦導者オレリア》 2 《平和な心》 2 《安らかなる眠り》 2 《獰猛さの勝利》 2 《情け知らずのガラク》 3 《ボロスの魔除け》 -サイドボード(15)- |
ぱっと見ると特に違いが見られないのですが、採用しているクリーチャーの選択が強くコントロールとミッドレンジを意識したものへと変えられています。《地獄乗り》と《雷口のヘルカイト》がその部分で、前者はコントロールとのマッチアップを改善し、後者は単純に強力なカードであるとともに《ボロスの反攻者》に付き合ったタフな地上戦を否定する1枚です。
この枠は本来は《修復の天使》と《スラーグ牙》のスペースで、《スラーグ牙》はともかく、《修復の天使》の価値については前から検討の的でした。《ボロスの反攻者》を避ける飛行生物であり、《スラーグ牙》や《円環の賢者》とのシナジー、インスタントスピードのアクションという面において採用されたスタッフだったのですが、それが担っている役割がシンプルな環境に対してあまりにもスケールが小さいことがその原因でした。
「白青黒」や「白青赤」の使用する《修復の天使》とは役割が異なり、彼らにとっては攻防の要の1枚であっても、この「白赤緑ミッドレンジ」においては、他のカードの仕事を後押しするだけの役割しか持てていませんでした。防御は《ボロスの反攻者》と《ロクソドンの強打者》の方が厚く、攻撃に関してはよりよいカードがあったことは言うまでもありません。しいて言うならば《スラーグ牙》とのシナジーは代えられないものでしたが、《雷口のヘルカイト》を採用することで《スラーグ牙》の枚数が減るならば、《修復の天使》の居場所は自然と消えてしまったのでした。
《スラーグ牙》を減らしたことでライフリソースの管理がややタイトに変わったものの、とにかく《ボロスの反攻者》を取り巻くゲームを否定する作りへと変わっていることは明確な強みとなっています。ただのグッドスタッフではなく、メタゲームの機微を読み取った工夫が加えられているのです。多くのプレイヤーにとっての仮想敵であった「白赤緑ミッドレンジ」はフィールド上でやや厳しい立ち位置にあったことが想像されますが、このEric Froelichが使用した形がTop8にまで生き残ったことは納得の結果だといえます。
3 《平地》 4 《血の墓所》 4 《神無き祭殿》 4 《聖なる鋳造所》 4 《孤立した礼拝堂》 1 《断崖の避難所》 3 《魂の洞窟》 1 《大天使の霊堂》 -土地(24)- 4 《教区の勇者》 4 《宿命の旅人》 3 《悪名の騎士》 2 《スカースダグの高僧》 4 《カルテルの貴種》 2 《銀刃の聖騎士》 4 《ボロスの反攻者》 1 《修復の天使》 4 《ファルケンラスの貴種》 2 《士気溢れる徴集兵》 -クリーチャー(30)- |
4 《オルゾフの魔除け》 2 《未練ある魂》 -呪文(6)- |
1 《弱者の師》 1 《スカースダグの高僧》 2 《幽霊議員オブゼダート》 2 《未練ある魂》 2 《安らかなる眠り》 3 《悲劇的な過ち》 2 《冒涜の行動》 2 《イニストラードの君主、ソリン》 -サイドボード(15)- |
「ラクドスミッドレンジ」を彷彿とさせる構造をしたこの「白黒赤貴種デッキ/The Aristocrats」は、「ラクドス」同様にコントロール及びミッドレンジの天敵とも言える存在です。その鍵をにぎるのは当然《ファルケンラスの貴種》であり、この環境の初期段階で《炎樹族の使者》によって否定されていた1枚だったことは、やや皮肉めいた結末に思えます。メタゲームの複雑さを思わせる結果ですが、《炎樹族の使者》への対策を強めた結果、《炎樹族の使者》が制限していた一部のカードに活力を与えることとなったのでした。
《教区の勇者》から始まる攻勢を、《カルテルの貴種》と《ボロスの反攻者》が攻防一体の働きでバックアップします。《カルテルの貴種》はややマイナーなカードではありますが、頼りない使用感とは裏腹のプレッシャーを対戦相手に与えます。もちろん相方には《宿命の旅人》や《墓所這い》が求められるのですが、乱戦模様の地上戦をしっかりと支えるだけの実力を持っています。
何かと話題になった《オルゾフの魔除け》は、ある一点を除けばとても強力な1枚です。それはゲームスピードに関わることで、どの能力も中盤戦以降の中途半端なスピードのゲームで活躍するものだということです。序盤から使いやすいであろう除去能力はライフの損失を伴うため、対戦相手のアーキタイプからのライフプレッシャーが小さくないとやや使用には不安が残ります。
全体的にまとまりのない構成をしている点が気がかりですが、ミッドレンジ以降のゲームの覇者である《ファルケンラスの貴種》を中心としている限りは十分にアーキタイプのメタゲーム上の役割は果たしたことでしょう。サイドボードにある《幽霊議員オブゼダート》はコントロールへの明確なアンチであり、《未練ある魂》や《イニストラードの君主、ソリン》までもが加われば十分すぎるほどの布陣です。
ミッドレンジよりも遅いアーキタイプで争われたプロツアーの舞台を駆け抜けたデッキが「白黒赤貴種デッキ/The Aristocrats」であったことは当然とも言える結末でした。的確にメタゲームを予想し、そこに正確にアジャストした調整グループの手腕には感嘆の一言しかありません。
5. 左足の踏み込み
すべての参加者の共有情報であったMOにおけるメタゲームよりも一歩以上進行したプロツアー「ギルド門侵犯」のメタゲームは、その更に先を読みきった「白黒赤貴種デッキ/The Aristocrats」が、得意とするミッドレンジとコントロールの海を泳ぎ切って優勝を勝ち取ったのでした。
この結果は「白黒赤貴種デッキ」にとっては最高であることに違いなく、彼らが想定したメタゲームそのものであった本戦のフィールドもまた最高のコンディションでした。あの瞬間、最高のデッキだったことは誰もが認めるでしょう。ただ、プロツアーが閉幕してしばらくした現在でも、この「白黒赤貴種デッキ」が最高のパートナーとなりうるかといえば、それには些か疑問が残ります。
それは「白黒赤貴種デッキ」には明確な弱点が存在するからです。これは前節で苦言したデッキの細部の構成についてだけではなく、彼らがそもそも環境初期からメタゲームに登場しなかったことにヒントがあります。
少々スタンダードに触れたプレイヤーであれば、《ボロスの反攻者》の強さには気づき、この強力なクリーチャーとの接触を避けるために回避能力を持ったクリーチャーに活路を見出すことは難しいことではありません。それがマイナーなカード群であるならばともかく、《ファルケンラスの貴種》という、かつての環境の顔とも言えるカードであればテストをしなかったプレイヤーのほうが少なかったことでしょう。
しかし、プロツアー本戦において《ファルケンラスの貴種》は比較的ノーマークなカードの1枚でした。それは、環境を定義した《炎樹族の使者》を使用したアグロに対して弱いカードであり、《ファルケンラスの貴種》を採用したアーキタイプは《炎樹族の使者》によって淘汰されてしまっていたからでした。
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「白黒赤貴種デッキ」のレシピに再注目してもらえば明白なのですが、ライフリソースを補填する要素を持たないままにショックランドを12枚も採用している守りに弱い構成となっています。防御的なスタッフは《宿命の旅人》、《カルテルの貴種》、《ボロスの反攻者》と揃っているようにも思えますが、この程度の対応で攻略できるほど《炎樹族の使者》系アグロは貧弱なものではありません。
プロツアー「ギルド門侵犯」においては縦横無尽の活躍をした「白黒赤貴種デッキ」でしたが、すでに攻略の牙は迫っています。それは環境の基盤を作り、プロツアー本戦においては虐げられたアーキタイプである《炎樹族の使者》たちです。
アグロ、ミッドレンジ、コントロール。この3者に加わった「白黒赤貴種デッキ」。
メタゲームは回転を止めることなく次の舞台を作り上げていきます。次なる環境に思いを馳せて、今回はここで筆を置かせてもらいます。