あなたの隣のプレインズウォーカー ~第31回 Youは何しにデュエルデッキ?~

若月 繭子



「詳しくは次回に」と言ったな。あれは嘘だ。



「嘘か真か/Fact or Fiction」



 ごめんなさい! 若月ですごめんなさい!! 何せタルキールブロックのストーリーは週刊連載で進行しているもので、記事を書いているそばから新しい展開がやって来るという状況です。更にはカレンダー的に考えてこれが公開されるのはもうタルキール龍紀伝のプレビューが始まっている時期。運命再編タルキール龍紀伝で交錯する情報をどうまとめたものかと思案した結果、もう少し待つことにしました。おまけに新プレインズウォーカーまで来たー!?ってことで記事掲載前日にこの序文書き直しているくらいなんですから。編集さんギリギリまですみません。





 前回「白青はヒロインカラー」みたいに書いたらナーセットさん赤が抜けて純正白青になっちゃったよ! ともあれ先代の死から四年、待ちかねた二代目白青プレインズウォーカー。死なないでね、いや、覇王譚時間軸では死んでしまったんですが。そして「揺るぎない」に偽りなく、とても凛々しく清々しい新サルカン。こう……並べてみるとすごく……お似合い。公式記事「龍たちのタルキール」にて超ハイテンションでナーセットを追い求めていたサルカン、その青マナはそういうこと?(どういうこと) でもこれを書いている時点では対面すらできていない二人。本当どうなるんでしょ。


 とまあ、そんなですので今回のテーマは、先日新製品「エルズペスvsキオーラ」も発売されました歴代プレインズウォーカー・デュエルデッキです。毎回、新絵や様々な再録カードで私達を楽しませてくれていますが、その「デュエル」の背景にはどんな物語があるのでしょうか? あるいは無いのでしょうか? その「デュエル」の「ガチ度」別にお話していきたいと思います。



1. 文句無しの「デュエル」

■ 「ライバル」–ジェイスvsチャンドラ




 ライバル関係のプレインズウォーカーといえば、今も昔もジェイスとチャンドラ。物語上で出会ったのはもうずいぶんと前になりますが、いつも対になるように揃って基本セットに顔を出し続けています。静かな水のようなジェイスの青、燃えさかる炎のチャンドラの赤。相対するビジュアルも完璧です。

 チャンドラとジェイスの関わりは主にウェブコミックで語られています。二人のファーストコンタクトはウェブコミック「炎に注ぐ油」で描かれ、後に出た小説『Purifying Fire』にも同じシーンがありました。
ジェイスはテゼレットの下で働いていた頃、チャンドラが手に入れた(盗んだ)巻物を取り返すという任務を受けて彼女を追いかけ、二人はその巻物を巡って戦います。





《火葬》デュエルデッキ版フレイバーテキスト
「人生に確かなものは無いなんて誰が言ったの? こいつが痛いのは確かよ。」

《対抗呪文》デュエルデッキ版フレイバーテキスト
紅蓮術師は最強の火と憤怒で猛攻を仕掛けた。 ジェイスは興味深そうなふりをした。


 フレイバーテキストでも戦っている二人。ちなみに小説でチャンドラはジェイスを「冷たい人物に見えるが、残酷ではなさそうだった」と評していました。この戦いでジェイスはチャンドラと親しい少年の幻影を作り出し、それを人質に取るように見せかけて巻物を取り返しました。

 二度目の遭遇はゼンディカー。その巻物が二人をまたも引き合わせました。チャンドラはそこに記された《ウギンの目》を宝物か何かだと信じ、ジェイスもまたその謎を求めるように。ですがこの二人の再会と、更に《狂乱のサルカン》との出会いがエルドラージの封印の鍵を開けてしまった、とはこのごろ何度も書いてきた通りです。すまんねえ同じ話を繰り返して……。

 今は、最初に戦った時ほどの敵意は無さそうな二人。基本セットには毎回一緒に入っているものの、実際の物語では長いこと顔を合わせていません。ところで最近、基本セット2015ファットパックの小冊子にチャンドラについての追加情報がありました。ただしジェイスとではなく……


「炎で遊べば誰かが火傷する。私は皆を炎で傷つけてきた、気にかけている相手も。だけど独善的なあの男が、ギデオンが私に教えてくれた、力を制御することを。今は、傷つけたいと思う奴だけを傷つけてやれる」
(小冊子より翻訳)




 なんと、チャンドラの方からギデオンについて言及するとは。君らまだフラグ残ってたのか! というのが正直な感想でした。この連載はギデオンとチャンドラから始まったというのに、なんだかずいぶんと遠くまで来てしまった。

 あと一つ余談ですが、この連載には未だに「チャンドラ回」が存在しないことに気付いている人もいるかと思います。実は元々第9回がその予定だったのですが、書いていたのは丁度アヴァシンの帰還プレビュー時期で……





 なんか空民来た! 書こう! 神河で色々書こう!! ということになり、以来タイミングを見失ったままここまで来てしまいました。今その第9回の原稿を読み返したら「(ギデオンとジェイス)どっちにするの?」とか締められていてリアルに頭を抱えたよ。まあ、それに限らず私のMtGフォルダには企画倒れ原稿が死屍累々としていまして、でもたまに文章だけ再利用しています。



■ 「因縁」–ガラクvsリリアナ




 ローウィンで初めて登場した五人の新世代プレインズウォーカー。ジェイスとチャンドラ同様、対抗色の組み合わせとしてガラクとリリアナが敵対することになりますが、その禍根はもっとずっと深いものとなりました。ガラクは使役していた獣をリリアナに殺され、復讐しようとするのですが《鎖のヴェール》とその力を手にしていた彼女に返り討ちに遭い、黒マナに蝕まれる呪いをかけられてしまいます。それが2008年公開のウェブコミック「ハンターとヴェール」に始まり、イニストラードブロックを経て基本セット2015と続いたガラクとリリアナの因縁です。その間なんと6年! 長くかかっただけありまして、この連載でも複数回に渡って書いてきました。




《調和》は何度も再録されている緑の優良ドローカード。
またこちらの《殺し》がリリアナ絵でなかなか人気が高いですね。



 それ以来、呪いを解かせるかさもなくば殺すために、ガラクはリリアナを追い続けました。そしてイニストラードで一度は対峙するも呪いで弱ったガラクはまたも破れ、更には進行した呪いから「プレインズウォーカーを狩る怪物」と化して多くの世界で殺戮を繰り返していました。


頂点捕食者、ガラクガラクの目覚め


 そして詳しくは第26回に書きましたが、基本セット2015、デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ2015(DotP2015)においてそんなガラクを追いかけて様々な次元を巡り、最終的にその呪いを抑えることによって解決? したのは何と「私達」というプレインズウォーカーでした。プレイヤーはプレインズウォーカーという設定、また何度も「あなたはプレインズウォーカーだ」とは書いてきましたがまさか物語にまで実際に関わらせてもらうなんてねえ。

 先日発表された『マジック・オリジン』緑担当はニッサとのことですし、ガラクの物語は一段落という解釈で良いのかもしれません。一方リリアナは、「契約主」のデーモンがもう二体残っていることと、そしてオリジンにて過去が詳しく語られる予感



■ 「仇」–アジャニVSボーラス




 アラーラブロックストーリーの「ラストバトル」、それがアジャニvsボーラスです。兄を殺害され、その衝撃でプレインズウォーカーとして覚醒したアジャニは犯人を追い求めた果てに、アラーラ世界全体を戦乱の渦に巻き込もうと企むニコル・ボーラスへと辿り着きました。



再録カードの新規アートも抜群の格好良さ!



 その戦いの舞台は、アラーラ世界の五断片が《衝合》して生じたマナの大嵐「大渦」。アジャニとボーラスの直接対決は、聞いたことのある人も多いと思いますが、互いの一騎打ちではなく、「アジャニが呼び出したボーラスアバターとボーラスとの戦い」という形でした。以下、小説からその場面を紹介します。


アジャニはボーラスの真髄を呼び起こした。
ボーラスの胸部からエネルギーが、星を内包する霊気の流れのように出現し、大渦の残した窪みに衝突し、その端に跳ね返った。その流れは歪み、曲がり、形をとり始めた。
当初それは非現実的な、空気の歪みが作り出した、不可視の光で満たされたドラゴンのように見えた。やがてその姿が明確になってきた。遠くのイメージがはっきりと見えてくるように、細部に至るまで。それはボーラス自身の、霊的な投影体となった。
二体のドラゴン達は互いを認識した。彼らの動きは奇妙にもよく似ていた。その擬態は互いを激怒させ、そして咆哮を上げさせた。音速に等しい鏡映しの動きだった。二体のドラゴンは激突し、怒りのままに互いに掴みかかった。彼らはともに知っていた、互いが全アラーラでも最大の脅威であると。
(略)
二つのボーラスは完璧に互角だった–攻撃は反撃に遭い、優位に立とうとする試みは完璧な精密さで叩き落とされた。彼らは自身を凌駕しようとする巨大な一つの知性、自身の可能性を超過しようとする一つの精神だった–そして、それが弱点だった。
突然、ドラゴン達は後ずさり、純粋な憎悪をその目に宿して互いを睨みつけながら、そして首を勢いよく突き出してその顎で互いに噛みついた。大渦に流れる魔力が円環と化した二体のドラゴンを包み、そして轟き渡る光の閃きがアジャニの感覚を圧倒した。少しの間、光と静寂だけがあった。
駄目だ、アジャニは思った。アラーラは破壊されてしまう。
そして、ゆっくりと、風の音がアジャニの耳へと戻ってきた。毛皮が風に吹かれる感覚は奇妙で、まるで長いこと何かをこのように感じることを忘れてしまっていたかのようだった。次第に、攻撃的な光は消え、再び彼の前に世界が現れた。爆発跡には何もなかった。ドラゴン達の姿はなく、マナの嵐もなかった。谷に満ちるのは風だけだった。
アジャニはのろのろと腰を下ろした。微風が彼の、仄かに黄金色の混じる白毛を揺らした。動くものは何もなかった。
彼は谷の端に長いこと座したまま、ボーラスが帰還しアラーラ世界全てを貪るのを身構えていた。だがその時が来ることはなかった。

(小説『Alara Unbroken』より)


 この対決について、かつては「唯一性ルールで対消滅した」とも言われていました。実際、描写はそれをイメージさせますね。ルールが変更された今これを解釈するとしたら「単純に相討ち」で良いのではないでしょうか。最後の「仄かに黄金色の混じる~」という描写がまた、《黄金のたてがみのアジャニ》の奥義だよ、ということをこっそり語っている気がします。



これも過去何度か書いていますが、
アジャニのカードは「復讐」→「黄金」という時系列です。


 基本セット2015のファットパック小冊子によりますと、アジャニは一応今もニコル・ボーラスがその野望を諦めていないことを気にかけているようです。結構長いことメインストーリーに姿を見せていなかったボーラス、運命再編ちょこっと顔を出していましたがそれは過去話なんですよねー。多元宇宙の巨悪、ボーラスがラスボスとして再登場する話はいずれ来るのでしょうが、千年という時間を「そう遠くない昔」と言ってしまう長寿のボーラスのこと、なんかまだまだ先のことになりそうで。ねえ?



■ 「職務」–ジェイスVSヴラスカ




 倍返しだ!チャンドラと戦ってから時は流れ、ラヴニカ世界。ジェイスは十のギルドに平和を課す不戦協定魔法「ギルドパクト」の体現となりましたが、彼の前にその権力を快く思わないプレインズウォーカー、ヴラスカが現れました。そしてジェイスは職務として、ラヴニカの秩序を乱そうとするヴラスカと戦います。発表された時こそ「会ってたの!?」と驚きましたが、「後日談デュエルデッキ」でした。なるほどねえ。公式記事「ゴルゴンとギルドパクト」では真剣にラヴニカの秩序と平和を気にかけ、日々ギルドパクトの職務をこなすジェイスと、随分と多くのギルドに喧嘩を売っているヴラスカという様子がわかりました。一応ゴルガリ所属ということにはなっているヴラスカ。ギルドマスターの《ゴルガリの死者の王、ジャラド》は頭を抱えているかと思います。あの人真面目だから……。




デュエルデッキ:イゼットVSゴルガリでも再録されている《朽ちゆくヒル》
もしかしてゴルガリのお気に入り?


 そしてこのデュエルデッキ、本人達が登場している新アートこそ少ないながら、細かい所でそれぞれの立場や戦い方を表現しているデッキになっています。例えばジェイス側に《影武者》が再録されていますが、上のvsチャンドラの項目でも書いた通り、ジェイスはしばしば幻影を作り出して敵を惑わせるという戦い方をします。もしくは、カード化こそされていませんがジェイスには過去、瓜二つの親友カリストがいました。それもイメージしているのだとしたらちょっと嬉しいなあ。また第20.5回からの繰り返しになりますが、ジェイス側は青単ながらアゾリウスの気配があります。そしてヴラスカもプレビュー記事「プラーフの影 その2」にてアゾリウスを特に敵視していました。割と互いの背景が再現されたデュエルデッキで、個人的にかなり気に入っています。



2. 「デュエル」なんでしょうか?

上に紹介した四組は真っ当な、といいますか物語でもしっかり戦っていた、まさしくその「デュエル」を再現する組み合わせでした。ですが近年は「物語中で戦ったかどうか」に拘らないデュエルデッキが増えてきています。


■ 「緊張」–エルズペスvsテゼレット




 第21回にだいたい書きましたが、カードとしてはアラーラの断片版ながら、この二人が顔を合わせたのは傷跡ブロックに入ってからでした。テゼレットはニコル・ボーラスの命令によって新ファイレクシアへと潜入していたところを、創造主カーンを探して次元の奥深くを目指すプレインズウォーカー三人と出会います。


「あいにく、私の一部はまだ人間なのだよ」
その人間は言って、金属の腕を顔の前に動かした。
「私はテゼレット。かつて汚物と澱みの中にて生きてきた。かつて宮殿にて生きてきた。宮殿の方がいいね」
「あなたはエーテル宣誓会の者。その閃く金属、あちこちで見てきました」
エルズペスが言うと、その者は微笑んだように見えた。
「なんと、バントの善き騎士様。私の目は節穴か。まるでちょっとした同窓会のようだ」

(小説『Scards of Mirrodin: Quest for Karn』 chapter 8より)




というわけでエルズペスとテゼレットが対立しているような雰囲気の
新アートやフレイバーテキストは無し、でもかっこいい!



 アジャニを主人公としたアラーラブロックの物語では、サルカン・エルズペス・ボーラスが主要キャラとしてきちんと登場していたのですがテゼレットはおらず、その代わりにほぼ同時間軸と思しきジェイス小説『Agents of Artifice』で重要な役割を果たしていました。↑は第21回に載せた訳と同じですが、この描写からもエルズペスとテゼレットは傷跡の時点で初対面だったことがわかります。

 テゼレットは「自分は敵ではない」と強調しながら、ファイレクシアに捕らわれて人体実験を受けていた《シルヴォクののけ者、メリーラ》を三人に預け、更にはカーンへの道を示してくれました。緊張感こそありましたが、小説では最後までテゼレットが傷跡ブロックの他のプレインズウォーカーと敵対することはありませんでした。

 傷跡ブロックにおいて最後に目撃されたテゼレットは、ファイレクシアで地位を手に入れるという野望を露わにして《裏切り者グリッサ》と戦っていた所でした。そして「傷跡ブロック後日談兼テーロスブロック前日談」とも言える公式記事「失われし告白」の記述からは生死不明でしたが、その後発売された統率者2013において《惰性の呪い》のフレイバーテキストに登場しており、更に公式記事「プレインズウォーカー達の現状」にてめでたく生存が確認されました。どうやら「生死不明の場合、その後新規アートやフレイバーテキストに登場していればだいたい生きている」と考えてよさそうです。



■ 「対立」–ヴェンセールvsコス




 「味方同士じゃん!」と話題になった最初のデュエルデッキですね。確かにミラディンの傷跡ブロックのプレインズウォーカー達は特に誰も敵対していないんだよな……と考えると、一番妥当なのがこの組み合わせだったのかもしれませんが。商品説明を読みますと、「ミラディンを救う方法で対立」とあります。確かに、ヴェンセールはミラディン世界の創造主カーンを探すことを求め、コスは直接ファイレクシア軍と戦うことを求めました。そして対立……するにはするのですが、結局のところ「口喧嘩」レベルに留まっていたというのも事実です。とはいえウェブコミックのあれ、もはや懐かしい「Ready?」「Ready.」から察する程に仲良かったわけでもなく……。



ご存知の通り私はヴェンセールが大好きなのですが、
デュエルデッキの新絵は超ロングショットだったり後ろ姿だったりで結構寂しい。



 ミラディンの傷跡ブロックのラストにてヴェンセールはカーンへと灯を与えて死亡し(第12回参照)、コスは新ファイレクシアに残って抵抗活動を続けていました。そして「失われし告白」では完全に死亡したものとして書かれていたコスでしたが、テゼレット同様に「現状」記事にて驚きの生存報告が! 更にはプロモカードにて元気な姿を見せてくれました!!






皆どんだけショックだったと思ってるんだよーバカー!!
早く物語にも再登場しなさいよ!!!



3. 「デュエル」じゃないと思うんですが

■ 「会ってたの?」–ソリンvsティボルト




 と、数多くのデュエルデッキが登場してきましたが、発表された時のツッコミ反響が一番大きかったのはこの組み合わせだったのではないでしょうか。「会ってたの?」「デュエルになるの?(強さ的に)」「どう見ても公開処刑」等々。ここでパッケージ裏面の説明を抜粋しますと、

「苦痛魔道士と意外な救い主が人類の命運をかけて戦う」
「ソリンはイニストラードの人間が生き永らえるよう画策し、ティボルトは彼らの悲鳴を聞くことのみを考える。両者の苛烈な争いに決着をつけるのはあなただ」

 人類の命運……人類?(吸血鬼VS小悪魔)
 苛烈な……争い?












 (スルーして)さてティボルト自身は赤単ですが、彼のデッキは赤黒。公式記事「日和見ソリンとティボルトの拷問」には「カードの色とは一致しませんが、ティボルトの性格は実際のところ黒赤の性質を持つので、クリエイティブ・チームもその提案を全面的に認めました」とあります。今のところ、プレインズウォーカーとデッキの色が一致していないのはティボルトだけですが、今後同じような例は増えるかもしれませんね。そして対決の組み合わせこそネタ扱いですが収録カードは割と本気と書いてガチでした。念願の初再録《硫黄の渦》、各種フォーマットで活躍の《未練ある魂》、ティボルトの新絵が秀逸な《怒鳴りつけ》《荒廃稲妻》。一方で切ないことにソリンは本人のカード以外に新アート無し(フレイバーテキストはありましたが)。そして《荒廃稲妻》のフレイバーテキストを読むに、「実は会ってすらいないのでは?」説も濃厚です。




《屈辱》デュエルデッキ版フレイバーテキスト
ソリンの邪魔をする者の多くは、「何千年も生きた吸血鬼にとって邪魔」という突発的かつ致命的な症例に見舞われる。

《荒廃稲妻》デュエルデッキ版フレイバーテキスト
探究心を満たすため、ティボルトは苦悶を与える数々の呪文を繰り出した。あの吸血鬼の所在についてはつかめなかったが、悲鳴だけでも十分な収穫といえた。


 ていうかティボルト、《荒廃稲妻》撃てるんなら何でプレインズウォーカー能力で撃ってくれないの。けど実際に会っていない方がティボルトにとっては幸せだと思うんですよ。何せソリンについてはこんなカードもあるんですから……




キャーソリンサーン




■ 「協力してたのに!?」–エルズペスvsキオーラ



 そして最新のデュエルデッキがこちら。でもいやあの、デュエルどころか物語中では協力していたんですが。完全に味方なんですが。vsテゼレットに続き、エルズペスは何故またも戦っていないデュエルデッキなのか。




クルフィックス様「みんな仲良くね」



 「友好色」とはよく言ったもので、テーロスの物語でエルズペスに協力するキャラクターはほぼバントカラーに収まっています。わずかに《アナックスとサイミーディ》に赤が混じるくらいで。思えばそれ以前、アラーラブロックと傷跡ブロックでもエルズペスに関わるキャラクターの多くがバントカラーでした。《数多のラフィーク》《成金、グヮファ・ハジード》《滞留者ヴェンセール》《シルヴォクののけ者、メリーラ》どうでしょう坂本さん、ジェネラルをラフィークにしてエルズペスの歴代関係者全員集合デッキとか。マルフェゴールX斬り再現してみたいと思いません? 思いません?

 さて上で「完全に味方」と書きました。詳しいことは第22回で述べましたがキオーラは小説においてカラフィ/Callapheという、伝説の船乗りの名を借りて登場し(実は《水底の巨人》《擬態するセイレーン》のフレイバーテキストにいます。カラフィ本人なのかキオーラなのかは定かでないのですが)、ニクスを目指すエルズペス&アジャニを手助けしてくれました。そして後になって正体を明かすのですが、途中ニヤリとする描写があります。


(原文)
“Then, let’s go,” Callaphe said. She ran to the edge of Weeping Rock and dived gracefully into the crashing waves.
(訳)
「それじゃあ、行きましょう」 カラフィは言った。彼女は号泣の岩の端へと駆け、荒ぶる波濤へと優雅に飛び込んだ。
(小説『Journey Into Nyx, Godsend Part II』より)


 最初に読んだ時は気付かなかった(カラフィ=キオーラだと明かされるのは少し後)のですが、これは間違いなく彼女の正体を意図していますね。個人的にキオーラはテーロスブロックの「癒し担当」だと思っています。公式記事でも小説でも、まさに波間を跳ねる魚のように軽やかに明るく、どうしても重苦しくなりがちな話をその存在だけで和ませてくれました。キオーラがエルズペス&アジャニに協力したのは、神の怒りに触れて沈んだ都市アリクスメテスを探すためなのですが、もしかしたら新絵の《邪神の寺院》はそれなのかな? ああ、新絵再録といえばまさかの《ルーンの母》! 若くて綺麗!!





 ところでエルズペスvsキオーラについては、「何故エルズペスvsゼナゴスじゃないのか」という意見をあちこちで見かけました。ちなみにテーロスを舞台にしたプレインズウォーカー対決としてはアメコミ経由で「ダク・フェイデンvsアショク」という組み合わせも考えられました。理由は一応、いくつか心当たりがありますが……

・エルズペスと戦ったのはプレインズウォーカー・ゼナゴスではなく神ゼナゴス
・そしてその対決はニクスへの旅ゲームデーでやった
・物語中、エルズペスとプレインズウォーカー・ゼナゴスが対峙する場面もあるにはあるが、神々の軍勢終盤の例のゆうべはおたのしみでしたねの場面なのでよろしくない(何のことを言っているのかわからない人はリンク先閲覧注意 まじで)


神討ち



まあ真面目に、「きっちり決着ついてるから」でしょうね。It is done.



4. 結論

 「デュエルデッキはどんな自由な発想で組み合わせてもいいんだ!」

 《偶然の出合い》でもいいじゃない。「私達」というプレインズウォーカー、相手と対戦するのに特に理由なんていりませんよね。そして実際、製品としての組み合わせに固執せず、各プレインズウォーカーのデッキを自由に組み合わせて戦うというのもとても楽しかったりします。ジェイスvsリリアナで痴話喧嘩! テゼレットvsボーラスで狙え下剋上! タルキールブロックのデュエルデッキは一体どうなるんでしょうか。今のところサルカン・ソリン・ウギン・ナーセット・新サルカン、物語では誰も敵対していない上に会っていない組み合わせも多いんですよ。サルカンvs新サルカン? たげんうちゅうの ほうそくが みだれる!

 次回こそサルカン編に戻りまして、「再編」されたタルキール世界がどう変わったのかをじっくりお伝えできればと思います。それではまたー!
(終)



※編注:記事内の画像は、以下のページより引用させて頂きました。
『Jace vs. Chandra』
http://archive.wizards.com/Magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/feature/11
『プレインズウォーカーのための「ニクスへの旅」案内』
http://mtg-jp.com/reading/translated/0008678/