■きっかけは突然に
2013年の6月のあいだ僕は、中村 修平(世界)、彌永 淳也(東京)、佐藤 嶺(神奈川)と一緒にアメリカのネヴァダ州はラスベガスに滞在していました。世界最大のTCGイベントとなったGPラスベガスに参加したり、趣味のポーカーでは本場の空気を味わったり、街全体がアミューズメントの塊であるラスベガスの非日常感に圧倒されたり、と短くも貴重で新鮮な1ヶ月を過ごしました。
彼ら3人と一緒に時間を過ごせたことは何よりも貴重な体験で、再びラスベガスを訪れることがあっても僕を合わせた4人でまた一緒にということは無さそうな予感があり、一日一日を楽しく過ごせたことは幸せでした。
近況や将来について、最近の友人について、最強のプレイヤーとは誰か、MTGというゲームの勝敗を左右する要素について。
暇さえあれば誰からともなく唐突に話し始めて、それを皆で引き継いで話していくのですが、尊敬する彼らと真剣に意見を交わしていくことはとても楽しい時間でした。
時にはというか大体は意見が大きく食い違い、最終的には論点さえもずれてしまうこともあったのですが、彼らが何を大事にして何を考えているのかの断片をみることだけでも僕にとっては十分すぎるほど楽しい経験だったのです。
そんないくつかの話題の中の一つにスタンダードに関するものもありました。
佐藤 嶺は、僕が知り合った11年前から変わらずにあらゆる構築フォーマットを嫌っていて、その分だけ大好きなリミテッドに時間を費やし続けてきたプレイヤーです。その甲斐あってかリミテッドでは八十岡 翔太(東京)と齋藤 友晴(東京)のチームメイトに選ばれたほどの実力者に成長したものの、彼が嫌っている構築フォーマットではからっきしというか一切プレイしないので上手いのか下手なのかすら誰も知りません。
そんな彼が「今のスタンダードってつまらない?」と話をふってきたのです。面白いのかではなく、つまらないのかを聞いてくるあたりから興味の無さが伝わってくるのですが、一応答えようと口を開こうとしたところで思わぬ人がそれに答えました。
中村 修平です。
「いや、今のスタンダード環境はすごく面白いよ」
必要に迫られない限りは手を出さず、必要最低限の努力で構築フォーマットを乗り切ろうとしている佐藤に勝るとも劣らない構築嫌いがこう答えたことには驚きました。
彼の言う面白さとは何か、構築嫌いをも振り向かせるスタンダード環境にある魅力には興味があります。
今回の記事では、中村 修平が語った現在のスタンダード環境の面白さに触れ、その環境をどのように戦っていけばいいかを考えていきます。
■今の環境の”面白さ”と向き合い方
面白さとは曖昧かつ難しいパラメータで、そう感じる理由こそが重要だったりします。勝てるから面白い、好きなカードが活躍しているから面白い、スピーディーな展開が面白いなど、同じ感想の中に各人によって違う評価軸が考えられるからです。僕の場合は考える材料さえあればどれも面白い環境に思えてしまうので、他の人にとっては全く参考にならないでしょう。
それでは中村のいう面白さがどこにあるのかを尋ねてみることにしました。
中村 「普通は環境の終盤って何かしら勝率が突出したデッキが出てくるんだけどさ。だからそれを使うか、それを倒すかってサイドに回ることが多いんだけど、今の環境は突出したデッキが存在しないっていう珍しい状態なんよ。どれ使ってもチャンスが有る感じですごく面白い」
2009年の青黒フェアリー、2010年の続唱ジャンド、2011年のカウブレード、2012年の青白デルバーと、ここ数年は必ずと言っていいほど環境終盤には支配的なアーキタイプが出現してきました。これらの傾向を踏まえて、アグロコントロール(上記した支配的なアーキタイプを一括りにした海外の表現)だけに的を絞って調整すれば勝てるのではないかという議論も出てくるほどのパフォーマンスをもった一群です。
※1:GPシアトル2009、2日目デッキブレイクダウンより
※2:日本選手権2010、1日目デッキブレイクダウンより
※3:HAPPYMTG.COM、2011.6/1-6/30スタンダード登録デッキ一覧より
※4:HAPPYMTG.COM、2012.6/1-6/30スタンダード登録デッキ一覧より
このような支配的なアーキタイプが出現すると何が起こるかというと、そのアーキタイプと渡り合えないという一点だけで環境から退場を迫られるアーキタイプが出てくるため、最終的に環境に存在できるアーキタイプの種類が少なくなるのです。
支配的な一つは絶対的な強さ(根本的なシステムやコンセプト)を武器に戦い、その他はそれぞれが持つ支配的なアーキタイプへの相対的な強み(相性差を生む要素)を武器に対抗する、といった状況となります。
環境を定義するような1つか2つの支配的なアーキタイプと、それらを取り囲むように特定のマッチアップに特化した僅かなアーキタイプで構成される環境。これがここ数年の環境終盤の特徴的な様子だったのです。
ところが今現在のスタンダード環境には、例年通りであれば出てくるはずだった支配的なアーキタイプが存在しないのです。
中村「赤単、ジャンクリアニ、トリコ、ジャンド、ジャンクアリストクラッツ、ナヤアグロ、Act2。簡単に思いつくだけでもこれだけのデッキが最前線で戦える実力を持っている。環境終盤でこれだけ拮抗しているってことはよく調整された面白い環境なんだと思うよ」
中村が挙げたように今のスタンダード環境には数多くのアーキタイプが存在し、どれもが大きく数を増やすことなく環境のバランスが取られています。
何を使っても勝ち切れないが、何を使っても大きく負けることもない。
極端な相性差のあるマッチアップが少ないことが根っこにあるからかもしれませんが、とにかく各アーキタイプの視点からはとてもフェアな環境に映ることでしょう。
佐藤「ふーん。たしかに面白そうだね。一強がある環境よりはいろいろな楽しみ方ができそうだし。でもさ、ナックさん(中村の愛称)はプロなわけじゃん?こういう何にでもチャンスがある環境よりは、何かしら明確に強いデッキが一つあるほうが楽なんじゃないの?今の環境って何を使ったら勝てるのかわからなさそうで大変そうだけど」
ここまでふんふんと話を聞いてきた佐藤は納得しつつも素直な疑問を中村に返すと、「どんな環境も自分にとっては楽じゃないから変わらない。勝ちやすさとかじゃなくて、実際勝てているかどうかって結果のほうが気になるくらい変わらない。これだから構築はうんぬん」と構築嫌いらしく中村が愚痴りだして話が逸れてしまいました。
佐藤の疑問はもっともで、いろいろな選択肢があって”面白い”環境であったとしても、プレイヤー達はトーナメントに参加する以上は勝ち抜きたいわけです。しかし選択肢の多さというものは結果的に自分をも勝利から遠ざけてしまいます。その点で言うと、勝利を目指すプレイヤーにとっては選択肢の多い現在の環境は厳しく映るのかもしれません。
それに対してやや間を空けた中村の答えは、すこし興味深いものでした。
中村「まじめに答えるならだけど、正直あまり変わらないね。とにかく整合性というか一貫性を保っているかどうかだけが判断の基準になる。プレイはもちろんだし、デッキを選択する理由にも、そのデッキの構成の中にも一貫性のあるなにかを作ることができれば勝てる。その一貫性を作る場所や意味を見つけられてなければどのような環境であっても安定しては勝てない。だから結局のところ自分がやること、やれることはあまり変わらないね」
ランダムなマッチアップへの勝率というフラットな目線から判断すると、いくつものアーキタイプに等しく可能性があるように見えるが、実際に使用を判断する段階においてはそうではないというのです。一見するとじゃんけんのように平等な勝率をもった選択肢でも、別の角度から見たり、中村の言葉を借りると一貫性をもつような要素で整理すると明らかな差が生まれてきます。その差を意識できないようでは、意図的に差を作れなければ自分が勝つことはできないということなのでしょう。
その一貫性を持たせるための詳細な要素については、中村自身については企業秘密だと口をつぐまれ、「人によって重視する点が違うから決まった何かがあるわけではない」と続けられてしまいました。ただ、この話を聞いて、僕の中ではいくつか思い当たる内容があったのです。
佐藤「それはわかる気がするね。で、らっしゅだったら、どういう点で一貫性を保つことができると思う?あと、何が強そうなの?」
それではどのような要素において差を作ることができるのか。勝つためには何を使えばいいのか。
僕なりの視点からですが、いくつかの実際例を取りあげてみることにします。
■イニシアチブという要素~赤単(タッチ緑)について~
あらゆるカードはアクティブ/リアクティブという点において二分化ができます。クリーチャーなど使うことでゲームの勝利条件へと傾くものはアクティブ、除去やカウンターなどアクティブなアクションに対応するカードがリアクティブなものです。そしてこのアクテイブとリアクティブという性質に一貫性をもたせることでいくつかのアーキタイプができあがるのですが、その中でも代表的な一つとして、赤単(タッチ緑)があります。
10 《山》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《根縛りの岩山》 2 《寺院の庭》 -土地(20)- 4 《流城の貴族》 4 《ラクドスの哄笑者》 4 《火拳の打撃者》 4 《火打ち蹄の猪》 4 《炎樹族の使者》 4 《ボロスの反攻者》 4 《地獄乗り》 4 《ゴーア族の暴行者》 -クリーチャー(32)- |
4 《火柱》 4 《灼熱の槍》 -呪文(8)- |
4 《火山の力》 4 《頭蓋割り》 3 《電謀》 3 《ドムリ・ラーデ》 1 《冒涜の行動》 -サイドボード(15)- |
デッキのカードすべてをアクティブなカードでまとめることでできあがるシンプルなアグロです。この連載でも幾度となく紹介してきた変わり映えのない見慣れたリストですが、ここで改めて紹介しようと思った理由は、そのシンプルさから生じる強力な一貫性に注目して貰いたかったからです。
他のアーキタイプとは違って常に攻撃的にゲームを構築していく赤単(タッチ緑)は、他に対応させることで自身の有利を積み上げていきます。こちらのカードがすべてアクティブなものである以上、対戦相手は少なからず対応する立場に追われることになるのですが、その際に対戦相手のデッキにアクティブとリアクティブのカードが入り交じっていた場合には『中途半端に対応して、中途半端に攻め返す』というプランを選択させる可能性を作り出せます。
赤単(タッチ緑)がすべてのリソースを攻撃に回しているのに対して、攻撃と防御の両方に中途半端にリソースを割くことしかできない対戦相手では明確な差が生まれます。カードの方向性をアクティブに統一することでゲームのイニシアチブを獲ることをシンプルに目指しているのです。
これは赤単(タッチ緑)というアーキタイプの根本にあるもので、リストがどの時期においても大きく変わっていないことからも知ることができるのですが、現在のスタンダード環境においてはより重要な要素として働きます。環境によっては自身のコンセプトをしっかりと構築するよりも環境に合わせて対応した相対的な価値を求めた構築のほうが良しとされることがあるのですが、現在のスタンダード環境ではあらゆるアーキタイプが存在しているため相対的な価値を生み出しにくいという背景があるからです。よりコンセプトに回帰した、素材の良さをシンプルに生かした構築が大きなバリューを生み出します。
攻撃的なコンセプトを重視したアグロにはナヤブリッツなどもありましたが、彼らは赤単(タッチ緑)と比較すると『後手番のイニシアチブを奪取できない』『3色であるため事故しやすい』『赤単(タッチ緑)に明確に弱い』といった欠点が邪魔してメタゲームから脱落してしまいました。
コンパクトでシンプルな攻撃性に一貫性をもたせた赤単(タッチ緑)は、今再び手に取るには十分すぎる魅力を持ったアーキタイプの一つです。
■スケールという要素~ジャンクリアニメイトについて~
同じコストを支払ってプレイしたカードが2枚あったとして、効果が大きい方を「スケールが大きなカード」と表現します。そして、そのカードスケールを武器にしたアーキタイプがあります。ジャンクリアニメイトと呼ばれるそれは《堀葬の儀式》を軸に圧倒的な中盤戦を繰り広げるアーキタイプです。
3 《森》 4 《寺院の庭》 4 《草むした墓》 2 《神無き祭殿》 3 《陽花弁の木立ち》 3 《森林の墓地》 1 《孤立した礼拝堂》 1 《魂の洞窟》 1 《大天使の霊堂》 1 《ガヴォニーの居住区》 -土地(23)- 4 《アヴァシンの巡礼者》 3 《東屋のエルフ》 3 《悪鬼の狩人》 4 《修復の天使》 4 《スラーグ牙》 3 《静穏の天使》 -クリーチャー(21)- |
4 《根囲い》 4 《忌まわしい回収》 2 《突然の衰微》 4 《堀葬の儀式》 2 《情け知らずのガラク》 -呪文(16)- |
4 《酸のスライム》 2 《死儀礼のシャーマン》 2 《罪の収集者》 2 《セレズニアの声、トロスターニ》 2 《花崗岩の凝視》 2 《化膿》 1 《突然の衰微》 -サイドボード(15)- |
《復活の声》の有無や、《ファルケンラスの貴種》への警戒(《悲劇的な過ち》や《死の重み》)についてはしきりに議論が繰り返されている未だ完成形の見えていないアーキタイプの一つなのですが、環境当初から変わらない《堀葬の儀式》から生み出される圧倒的なカードスケールだけで生き残り続けています。
骨子である上記のスペースは固定化されており、前回の記事で紹介したように《悪鬼の狩人》や《酸のスライム》が定番となってからは、《修復の天使》も4枚採用されるようになっています。構築された当時は《スラーグ牙》の消耗戦を優位に進めるために考案されましたが、今ではもはや《スラーグ牙》を使いまわすコンセプト自体が強すぎるという当たり前の事実だけが残されました。
4ターン目に《スラーグ牙》か《静穏の天使》を場に出すことで生まれる対戦相手とのスケール差を狙った構築に特化しており、かつてのように《根囲い》の枚数を減らしたり、《未練ある魂》や《ロッテスのトロール》を採用するといった工夫は切り捨てられてきています。小回りの利くゲーム展開はジャンクリアニメイトにとってサブプランで、彼ら本来のコンセプトや魅力は《堀葬の儀式》や《スラーグ牙》によるカードスケールの違いを生かす点に集中しているからです。
シンプルさを大事に原点へと回帰したジャンクリアニメイトは前回の記事の時点から続いて、多くの候補で混戦しているスタンダード環境においても有力なアーキタイプとして注目を集めています。
■バランスという要素~ジャンドコントロールとトリコフラッシュについて~
攻撃的にイニシアチブを獲る赤単(タッチ緑)に、スケール差を重視するジャンクリアニメイトを紹介しました。この2つの共通点としては、どちらもコンセプトを重視するシンプルな方向性へと構築することが目指されていることが挙げられます。構成をコンセプトに沿ってシンプルにすることで「何をするデッキなのか」という目的意識を設定することができるのです。カードシナジーに焦点を絞ったジャンクアリストクラッツも、ここでは詳しい紹介はしないものの、同様にシンプルさを追求することでより強化される期待のアーキタイプの一つとして考えられます。
それでは現在の環境では、構成をシンプルにまとめることこそが成功するための唯一の条件かというと一概にそう言い切ることもできません。というのも、ある2つのアーキタイプが成功例として環境に存在しているからです。
2 《島》 4 《神聖なる泉》 4 《蒸気孔》 3 《聖なる鋳造所》 4 《氷河の城砦》 4 《硫黄の滝》 3 《断崖の避難所》 1 《魂の洞窟》 1 《ムーアランドの憑依地》 -土地(26)- 3 《ボーラスの占い師》 3 《瞬唱の魔道士》 4 《修復の天使》 -クリーチャー(10)- |
3 《火柱》 2 《変化+点火》 4 《アゾリウスの魔除け》 3 《熟慮》 2 《中略》 2 《対抗変転》 1 《巻き直し》 2 《戦導者のらせん》 2 《至高の評決》 3 《スフィンクスの啓示》 -呪文(24)- |
3 《払拭》 3 《ギルドとの縁切り》 3 《雷口のヘルカイト》 2 《イゼットの静電術師》 1 《クローン》 1 《火柱》 1 《忘却の輪》 1 《終末》 -サイドボード(15)- |
まずひとつはミッドレンジを象徴するアーキタイプであるトリコフラッシュです。とにかく小型のクリーチャーで戦うデッキに対して強いことが特徴で、《ボーラスの占い師》と《瞬唱の魔道士》で《火柱》へと何回もアクセスできることを魅力にしています。
ゲームプランが消極的なことが災いして幾度となく入退場を繰り返したアーキタイプでしたが、環境の終盤に差し掛かって再び出番が回ってきたようです。環境で唯一《対抗変転》や《中略》といったカウンター呪文を採用していることは強みとなっており、代名詞でもある《スフィンクスの啓示》と合わせて異質なゲームを展開します。
豊富な除去と大量アドバンテージ源をもった古典的なコントロールの戦略は、初速や盤面のカードシナジーで戦う昨今のクリーチャーデッキに対してピタリとハマり、その他のミッドレンジ以降の速度のアーキタイプにはカウンター呪文で器用に渡り合うことができます。
しかし、トリコフラッシュもコンセプトに沿ったシンプルな構成を目指しているかというとそうではありません。それはトリコフラッシュの戦略が対戦相手のリソース切れを狙ったものだからです。構成をシンプルにまとめることでトリコフラッシュが理想的な行動をとったとしても、それはトリコフラッシュの勝利条件に直結しません。あくまでも対戦相手のリソースを刈り取り、《スフィンクスの啓示》を幾らかのXでプレイしたときこそが勝利が最も近づく瞬間なのです。
そのため、トリコフラッシュの構成はシンプルさからは対極をいくような複雑な形を目指したものが多く見られます。時折メインボードからの《雷口のヘルカイト》をサポートするためにシンプルな構成をとったものもありますが、多くは上で紹介したリストのような2・3枚のカードだらけとなっています。
コンセプトを重視して安定した行動を目指すのではなく、多様化した対戦相手の行動に対応できるだけの手段を詰め込むことを優先した構成が実っているのです。
4 《草むした墓》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《血の墓所》 4 《森林の墓地》 4 《根縛りの岩山》 2 《竜髑髏の山頂》 3 《ケッシグの狼の地》 -土地(25)- 4 《高原の狩りの達人》 3 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 4 《スラーグ牙》 -クリーチャー(11)- |
2 《火柱》 2 《悲劇的な過ち》 2 《戦慄掘り》 2 《ミジウムの迫撃砲》 2 《化膿》 4 《忌むべき者のかがり火》 1 《ラクドスの復活》 4 《遥か見》 2 《地の封印》 1 《ラクドスの魔鍵》 2 《原初の狩人、ガラク》 -呪文(24)- |
2 《火柱》 2 《地の封印》 2 《ヴェールのリリアナ》 2 《ニンの杖》 2 《酸のスライム》 2 《狂気の種父》 1 《花崗岩の凝視》 1 《ラクドスの復活》 1 《魂の洞窟》 -サイドボード(15)- |
トリコフラッシュと同じく複雑なリストが主流なアーキタイプとしてあげられるのがジャンドコントロールです。《遥か見》からグッドスタッフを展開し、豊富な除去でそれらと《ケッシグの狼の地》による攻撃をサポートしていくアーキタイプです。最近ではトークン系やマナクリーチャー、小型クリーチャーデッキが環境に多くいることから《忌むべき者のかがり火》が注目されました。そして最も無理なく《忌むべき者のかがり火》を使えるデッキとして脚光を浴びているのです。
ジャンドコントロールもコントロールらしくあらゆる状況を予想して除去の種類を散りばめた構成をしているのですが、デッキの中身を役割ごとに分解してみると見た目とは裏腹にシンプルな作りをしていることがわかります。
デッキの半分を埋めるマナソースの他にはフィニッシャーと除去しか入っていません。このシンプルな役割分担はサイドボード後にとても効果的に働いてきます。ジャンドコントロールは似たような役割の違うカードを多く採用していることで、サイドボード後に対戦相手に合わせて綺麗にアジャストしていく事ができるのです。
メインボードとサイドボードを合わせて初めて一つのデッキになるとはよく言いますが、ジャンドコントロールほどこの言葉がしっくりくるアーキタイプもありません。乱雑なメインボードがシンプルで綺麗なサイドボード後に変化できてこそ立派なジャンドになるのです。
これは自身のコンセプトを追求するためにシンプルさを重視した赤単アグロやジャンクリアニメイトとは異なるシンプルさを持っていて、メインボードは多様なマッチアップに備えサイドボード後には対戦相手に対してよりシンプルに対応できるとを目指した作りとなっています。
●バランスについて
トリコフラッシュとジャンドコントロールという2つの例を紹介しましたが、どちらも環境で有力なアーキタイプでありながら、赤単(タッチ緑)やジャンクリアニメイトのような単純化を目指しているわけではないことがわかります。トリコフラッシュはより広いマッチアップに対応できるように複雑な構成へと向かい、ジャンドコントロールはサイドボード後との整合性をとることを第一に構築しているのです。
どちらもコントロール側のアーキタイプで主柱となるようなコンセプトを持っていないことが、それぞれの方向性に関係しているのかもしれません。そしてどちらにも共通して言えることは、多様化しているマッチアップの勝率を安定させるためにバランスの良い構成をアーキタイプの枠内で探した結果だということです。
コントロールの類のアーキタイプは少なからず他の戦略に対応する必要があり、対応できることで初めて有利に立つことができます。そこで多様化する環境に対してバランスをとるためには複雑な構成を目指さざるを得なかったということでしょう。ジャンドコントロールのようにメインボードは門戸を広く、サイドボード後には特化したシンプルな構成へと変形する構築は、多様化する環境で安定した勝率を目指すためには通らざるを得なかった道だったのです。
■正解とは何か
以上が僕が考える一貫性を持たせるに足る要素と、それを武器に期待できるアーキタイプです。これまでの連載の中で紹介してきたアーキタイプばかりで新鮮味がなかった方もいたかもしれませんが、リストは似通っていても彼らがそのような構成をとっている理由が変化していたり、そもそもの環境定義が変わりつつあることからアーキタイプの価値自体が変わってきていたりもします。
話のきっかけで中村が語っていたように、一貫性をもたせる要素のひとつである強みや特徴は、どのような角度から見るか、どのような前提条件のもとで評価するかによって価値が変化します。評価する人にもよる、評価する瞬間にもよる。そんなフワフワとした要素だからこそ一貫性をもたせた構築やプレイを心がけていくことが重要なのでしょう。
もちろん仮定や前提によって変化するため、これが正解といった決まった評価や方法はありません。こう言うと投げっぱなしのような印象があるかもしれませんが、正しいとされる選択肢は概ね、『正しいケースである確率が高い選択肢』でしかなく、現在のスタンダード環境のように多様化している環境においては尚更曖昧な答えしか出てこないことでしょう。
ではどうすればいいのか。
それは単純にしっかりと前提条件や目的を設定して構築してみることです。現在のスタンダード環境では赤単アグロはシンプル化するべきアーキタイプだとして紹介しましたが、環境によっては骨子以外は複雑に構築したほうがいいこともあります。
前提条件や目的を決定し、それらに沿った形で構築してプレイすること。
このプロセスこそが中村のいう一貫性なのではないかと僕は考えています。
なんとなくは誰もが考えていることで、チグハグなプレイや構築が悪いことだとは誰もが知っていながらも、なかなか意識して行動できていたとは言えない内容だと思われます。
少なくとも僕は聞いた瞬間には「何当たり前のこと言ってるんだろ」などと思ったのですが、あまりに強調するので考え直してみたところ、自分には意外と穴があったなという感想を持ちました。
最後はやや抽象的な話となってしまいましたが、みなさんの考える材料になれば幸いです。
それではまた次の記事で会いましょう。