■夏のお祭りに向けて
7月の最終週から8月の頭にかけて、ワールドチャンピオンシップ2013とワールドマジックカップ2013(注:どちらもリンク先は英語です)が開催されます。プロポイントレースの上位とプロツアーの優勝者たちを招待するワールドチャンピオンシップと、各国のプロポイントリーダーと予選を通過した3名を加えた4人チームで競われるワールドマジックカップのふたつです。
ワールドチャンピオンシップには渡辺雄也と中村修平が参加します。昨年と比較すると日本勢は少なくなってしまったものの、世界最高峰のレベルのゲームには一人の観戦者として今から楽しみで仕方がありません。
そして、僕が観戦者としてではなく、プレイヤーとして参加することとなるのがワールドマジックカップです。こちらはワールドチャンピオンシップのような個人戦ではなく、4人のチームで競われるチーム戦となっています。M14チームシールド、DGRチームシールド、チームスタンダードとなかなか耳慣れないフォーマットで開催される予定です。
最近はワールドマジックカップに向けて、日々チームスタンダードの練習に取り組んでいます。そこで今回の記事では、その調整中に触れたM14のカード達の評価をしていくことにします。
煮詰まった環境に投入された新しい基本セットは、スタンダード環境にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
それでは新顔の紹介からどうぞ。
■New Comer
まずは新しくM14がカードプールに加わったということで、新しい基本セットに含まれる期待株をピックアップするところから作業を始めることにしました。
これらを既存のアーキタイプに混ぜて簡単にテストしてみたところ、これらによって強化されたアーキタイプがいくつか見られました。
以下には使用した感想と強化されたポイントを書いていきます。
■漁る軟泥
まずひとつは《漁る軟泥》が入った緑系のミッドレンジです。主にナヤアグロやグルールミッドレンジ、ジャンドコントロールといった面々で、見た目以上の活躍をする《漁る軟泥》はアーキタイプの底力を上げると共に苦手なマッチアップの改善にも貢献しています。
4 《寺院の庭》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《聖なる鋳造所》 4 《陽花弁の木立ち》 4 《根縛りの岩山》 2 《断崖の避難所》 -土地(22)- 4 《実験体》 4 《絡み根の霊》 4 《復活の声》 4 《漁る軟泥》 4 《ボロスの反攻者》 4 《ロクソドンの強打者》 4 《ゴーア族の暴行者》 -クリーチャー(28)- |
4 《火柱》 3 《セレズニアの魔除け》 3 《ドムリ・ラーデ》 -呪文(10)- |
-サイドボード(0)- |
《漁る軟泥》は基本的には2マナ2/2であるものの、墓地にあるクリーチャーを取り除いていくことで、僅かなライフを獲得するとともに自身のサイズを上げていくカードです。このライフとサイズに働きかける効果は、赤系アグロや緑系中速同士のタイトなゲームでは勝敗を左右するほどのインパクトがあります。ギルドランドを多く採用しているため苦手だったタイトなライフレースは改善され、また、余ったマナを注ぎ込む先を見つかり消耗戦も良くなったことも軽めの構成を肯定できる大事な変更点です。
9 《森》 3 《山》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《根縛りの岩山》 2 《変わり谷》 -土地(22)- 4 《東屋のエルフ》 4 《エルフの神秘家》 4 《絡み根の霊》 4 《漁る軟泥》 2 《国境地帯のレインジャー》 4 《地獄乗り》 4 《ゴーア族の暴行者》 2 《ウルフィーの銀心》 2 《雷口のヘルカイト》 -クリーチャー(30)- |
4 《忌むべき者のかがり火》 4 《ドムリ・ラーデ》 -呪文(8)- |
-サイドボード(0)- |
これはまた一つの形のアプローチで、序盤から展開できるパーマネントであるとともに、マナがあふれる中盤以降でも使用に耐えうるというカードスペックを生かしたものです。
これまでは安定する代わりにカードスケールを失っていた2色の構成でしたが、《漁る軟泥》の加入により、安定性とカードスケールを両立できるようになりました。
程よいアグレッションと環境の鍵でもある《忌むべき者のかがり火》を積極的に使用できることが魅力で、これまでは苦手だった多色系のクリーチャーコントロールに対してもマナクリーチャー経由の《燃え立つ大地》という最高のサイドボードの選択肢を手に入れました。
あまり見慣れないアーキタイプですが、ここ数週間ではお気に入りの一品です。
次は《漁る軟泥》のカードスペック以外の内容に着目したアーキタイプを紹介します。
4 《踏み鳴らされる地》 4 《草むした墓》 4 《血の墓所》 4 《根縛りの岩山》 4 《森林の墓地》 3 《竜髑髏の山頂》 2 《ケッシグの狼の地》 -土地(25)- 2 《エルフの神秘家》 3 《漁る軟泥》 4 《高原の狩りの達人》 3 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 4 《スラーグ牙》 -クリーチャー(16)- |
2 《火柱》 1 《悲劇的な過ち》 2 《破滅の刃》 1 《突然の衰微》 2 《化膿》 4 《忌むべき者のかがり火》 4 《遥か見》 1 《原始の報奨》 2 《原初の狩人、ガラク》 -呪文(19)- |
-サイドボード(0)- |
例えばジャンドコントロールのようにジャンクリアニメートに対して分が悪かったアーキタイプでは、墓地にあるカードをリムーブする《漁る軟泥》がメインボードからの使用に耐えうるキラーカードとして活躍します。アグロに対しては軽いブロッカー兼フィニッシャー、ミッドレンジには墓地を掃除するキラーカードと、どのマッチアップにおいても期待できるグッドスタッフです。
《破滅の刃》は《修復の天使》や《雷口のヘルカイト》へのピンポイントな回答として期待していました。しかし、《破滅の刃》には同型の《オリヴィア・ヴォルダーレン》が倒せないという致命的な欠点があります。M14からのルール改正によって《オリヴィア・ヴォルダーレン》が対消滅しなくなり対処しづらくなったということもあり、《化膿》とスペースを譲り合う結果に落ち着きました。
《原始の報奨》という見慣れない6マナのエンチャントはあくまでもテスト枠としての採用でしたが、悪くない働きをすることがわかりました。《ケッシグの狼の地》の対象を増やし、消耗したライフを補填してくれるのです。6マナという重さと、それ単体では何も仕事をしないというラグは致命的とも言えますが、除去に強く、一度動き始めればすぐにでもゲームを終わらせるだけの効果があることは魅力的です。今回はジャンドコントロールでテストしてみましたが、バントコントロールなど他のアーキタイプでも期待できそうな感触を受けました。最終的にはサイドボードに落ち着くことになるのでしょうけれど、1枚で泥沼の消耗戦を打開できるカードは貴重なのでいずれスポットライトを浴びることになりそうです。
■林間隠れの斥候
M14のカードリストを初めて見た時に最も印象的だった1枚が《林間隠れの斥候》でした。1マナ1/1というか弱いスペックながら、そこに続く2文字のキーワードがこのカードの価値を支えています。
2 《森》 4 《寺院の庭》 4 《繁殖池》 3 《神聖なる泉》 4 《陽花弁の木立ち》 4 《内陸の湾港》 -土地(21)- 4 《林間隠れの斥候》 2 《アヴァシンの巡礼者》 4 《不可視の忍び寄り》 4 《復活の声》 4 《聖トラフトの霊》 -クリーチャー(18)- |
4 《怨恨》 4 《天上の鎧》 3 《豊かな成長》 4 《幽体の飛行》 4 《ひるまぬ勇気》 2 《群れの統率者アジャニ》 -呪文(21)- |
-サイドボード(15)- |
あまりにも短絡的な発想ではあるのですが、このアーキタイプに足りなかった最序盤のアタッカーが加わったことは明らかな強化だといえます。これまではほぼ全ての強化エンチャントの下位互換だった《幽体の飛行》も1マナの対象を見つけたことで必須パーツとしての居場所を確約させました。
《林間隠れの斥候》が加わったことでデッキの構成も若干ながら変化しています。
ひとつは《豊かな成長》の採用です。
これまでのように回避能力持ちにエンチャントを貼り付けるだけではなく、ただの地上の1/1を強化していくゲーム展開もあるため、《天上の鎧》への依存度が上がったからです。地上の防御網を突破するためにより大きな修正値と、より多くの枚数の《天上の鎧》にアクセスするための《豊かな成長》にスポットライトが当たりました。
ふたつは《群れの統率者アジャニ》の採用です。
これまでは「2ターン目か3ターン目に展開した回避能力持ちのアタッカーに強化エンチャントを貼り付けて2回攻撃できれば勝利」といったゲーム展開が多かったため、2回目の攻撃の機会さえ迎えれば何をしても勝っている状況が頻繁にありました。そのため、《群れの統率者アジャニ》はアーキタイプにマッチしたカードではあったもの、どのように使ってもオーバーキルをするためのカードに過ぎず、コンボデッキらしく無駄を省いた構成を目指す中で泣く泣く切り捨てられる機会が多かったのです。
ところが《林間隠れの斥候》が採用されると、デッキ全体の行動が一歩ずつ早くなっているとともに、《林間隠れの斥候》を強化するプランでは2回目の攻撃で相手の防御を突破できないケースも出てくるようになったため、《群れの統率者アジャニ》をプレイする機会と必要性が増すことになったのです。《銀刃の聖騎士》では回避能力がつかず、現在の環境では《群れの統率者アジャニ》にしかできない仕事なので、《林間隠れの斥候》と合わせて一つのパッケージと考えられます。
最大の弱点だった序盤戦も克服した呪禁バントはM14後に最も強化されたアーキタイプの一つかもしれません。ただ、上のリストはメタゲームを全く考慮していない状態のものなので、アグロが多いのか、ミッドレンジが多いのかで構成はまだ大きく変化しそうです。特にアグロとのマッチアップでは後手番のスロースターターを克服しなければならないため、《ロクソドンの強打者》や《絡み根の霊》といったスタッフが必要になります。
■チャンドラのフェニックス
かつての赤単アグロのエースクリーチャーだった《チャンドラのフェニックス》が帰ってきました。除去耐性と回避能力を併せもったグッドスタッフなので、この環境でも期待できると様々な構成をテストしてみたところ、しっくりくる形をみつけることは幾つかの理由から意外と難しいことが分かってきたのです。
ひとつは《チャンドラのフェニックス》が3マナ域だということで、現在の赤単(タッチ緑)では《ボロスの反攻者》と被ってしまうことが枚数や構成における悩みの種です。もちろん《ボロスの反攻者》とは仕事する範囲が全く違うので共存しても問題はないのですが、どちらを優先すべきかという内容になると《ボロスの反攻者》を蔑ろにする理由はありません。そうなると溢れた3マナ域にはすこし疑問が生まれるのです。
もうひとつはパワー2の回避能力持ちの価値がどれほどのものかという事です。そもそも《チャンドラのフェニックス》のスペックを問い直す内容となってしまうのですが、途切れない攻撃手段としての評価は高いものの、単体のクロックとしてはそれほどのインパクトはありません。速攻は付いているものの戦闘能力自体は《風のドレイク》と変わりないため、「本当に《チャンドラのフェニックス》でないといけない理由とは何か」という疑問にぶつかると、歯切れの良い答えは返ってこなかったのです。
8 《山》 4 《踏み鳴らされる地》 2 《草むした墓》 4 《根縛りの岩山》 4 《変わり谷》 -土地(22)- 4 《流城の貴族》 4 《ラクドスの哄笑者》 4 《火拳の打撃者》 4 《火打ち蹄の猪》 4 《炎樹族の使者》 3 《チャンドラのフェニックス》 4 《地獄乗り》 4 《ゴーア族の暴行者》 -クリーチャー(31)- |
3 《火柱》 4 《灼熱の槍》 -呪文(7)- |
-サイドボード(0)- |
これが《チャンドラのフェニックス》を機能的に使おうと試みたリストです。
《チャンドラのフェニックス》を《ボロスの反攻者》と同時に使用するには、渋滞しやすいマナ域の都合から《地獄乗り》を諦める必要がありました。そこで、むしろ根本的に発想を転換して《ボロスの反攻者》を諦めることにしてみたのです。
赤マナを3つ要求する《ボロスの反攻者》を使用するために遠ざけられていた《変わり谷》を投入できるようになったことも見逃せません。最近の多色化の煽りを受けて強力なカードながらも残念な目で見られていた《変わり谷》でしたが、マナベースの都合さえ解決してしまえばアグロデッキで使用しない理由が見当たらないほどの活躍を見せてくれます。
《チャンドラのフェニックス》と《変わり谷》の2枚は、序盤からの展開力を鍵にした戦略を後押しし、《火拳の打撃者》や《地獄乗り》といったキーカードに安定して活躍の場を与えているのです。
《チャンドラのフェニックス》単体の打点の低さはまだ目立ちますが、《ボロスの反攻者》ではなく《チャンドラのフェニックス》を選んだことで得た《変わり谷》が稼ぐダメージがそれを補っています。また、赤単が膠着しやすい地上戦だけでなく空いている空中戦を挑めることは大きなメリットで、与える点数自体は頼りなくとも様々な角度から狙ってくる幅のある戦略を対戦相手は嫌がることでしょう。
《ボロスの反攻者》との優劣は難しい部分で、従来のものよりもこのリストのほうが優れていると言い切ることはできません。ただ、これまでは考えられもしなかった選択肢ではあるので、《チャンドラのフェニックス》と《変わり谷》の活躍には注目していきたいものです。
■テューンの大天使 と 影生まれの悪魔
《悪斬の天使》に始まり、昨年の《雷口のヘルカイト》に引き継がれ、何かと基本セットの5マナ飛行の神話レアには活躍の機会が付きものです。これらはどちらも発売間も無くや環境初期にはあまり評価されず、使われていくなかで敬意を払われることになったカードであることにも注目するべきかもしれません。
この2枚が5/5飛行先制攻撃絆魂に5/5飛行速攻と、どちらも破格の性能を持っているにもかかわらず、発売まもなくには正当な評価を受けずにいた事には明確な理由がありました。それは発売当時に存在していたアーキタイプに居場所を見つけられなかったからです。新しい基本セットの導入はスタンダード環境が煮詰まりすべてのアーキタイプが洗練された時期にあります。そのため、完成形ともいえる構成には、いくら強力なカードとはいえど、ただただ優秀だというだけでは採用されることは難しかったのです。
しかし、彼らは採用されることがなくとも強力であることには変わりありません。たとえメタゲームの中心に単純に差し込めるアーキタイプが存在せずとも、その居場所さえ構築できれば活躍の機会は十分に残されています。
その代表的な例は2009年の日本選手権でしょう。強豪揃いのTop8、渡辺雄也と中村修平による決勝戦などが印象的なトーナメントでしたが、ここで注目するのは惜しくも準々決勝で敗退した坂口尚紀のクイッケントーストです。彼のリストは当時の最先端とは言い難いもので、むしろ少し懐かしい気持ちさえ覚えるオールドスクールでしたが、見事にスイスラウンドを11連勝し余裕綽々とTop8に一番乗りしました。
「トップテーブルに《悪斬の天使》がいた」
坂口のデッキは会場で小さな噂になり、その是非が各所で話題に登ったのですが、スイスラウンドの途中では否定的な意見が多く聞こえました。
「せっかく腐っていた相手の単体除去の格好の的になってしまうから《悪斬の天使》は弱い。」
この意見が最も多く、かく言う僕も《悪斬の天使》の存在感は認めつつも採用の是非については少し懐疑的でした。
その当時のメタゲームは、続唱ジャンド、エルフ、フェアリー、キスキン、クイッケントースト、白黒トークンで構成されていて《悪斬の天使》がフィットするアーキタイプが存在しませんでした。白寄りのジャンドに採用されていることも少なくなかったものの、決して《悪斬の天使》はメジャーなカードではなかったのです。強そうだけど使う場所がないしどうなんだろう。そんな期待と不安の混じった評価が当時の《悪斬の天使》に与えられていたのでした。
そしてプレーオフ進出が決まった坂口に《悪斬の天使》について質問したところ、とても簡潔にその強さを説明してくれたことは今でも覚えています。
生き残りさえすればゲームに勝てる。いやいやそりゃあね。と当時は思ったものですが、《悪斬の天使》は坂口の評価の通り、その後の1年間をまさにその言葉の通りの用途で活躍し続けたのです。
この一連のエピソードで重要なことは、強そうだけど使う場所がないカードには積極的に居場所を与えてあげようということです。それは新たなアーキタイプかもしれませんし、既存のアーキタイプの中で特定の役割を任せるだけかもしれません。とにかく場所さえ与えれば才能あるカードはきっと期待に応えてくれるでしょう。
そして、僕が第二第三の《悪斬の天使》や《雷口のヘルカイト》だと考えているのが、《テューンの大天使》と《影生まれの悪魔》です。
《テューンの大天使》はアリストクラッツやジャンクアリストクラッツでの採用が検討されており、生贄エンジンと《血の芸術家》との相性を考えると悪くない働きを見せてくれそうです。黒と白の組み合わせという視点では《ザスリッドの屍術師》などを加えた人間ベースのややアグレッシブなアリストクラッツも考えられるので、M14はただの基本セットではあるとはいえ、新規のアーキタイプを考えてみることも悪くないのかもしれません。
また、《熾天使の聖域》とは2枚コンボなので、多色化せず無色土地を許せるような構成を組み上げることができれば強力なシナジーを形成できそうです。白黒のトークンデッキや、昔懐かしい《順風》を絡めた青白トークンなどで面白いかもしれません。
一方で《影生まれの悪魔》はパワーカードでありながらも例年通り使い方を悩ませています。生贄に捧げるデメリットを解消できるだけのクリーチャー総数と、5マナを捻出できるマナベースを持ったアーキタイプは現在見られないからです。また、黒を使っているデッキならOKというわけではなく、例えばラクドスでは同じ5マナ域にいる《雷口のヘルカイト》と競合し、それがもしアグレッションの高いアーキタイプであればきっと枠争いに敗れてしまいます。
《心なき召喚》を軸にするとピタリと嵌りそうなものですが、それを綺麗に作れた所でそのアーキタイプ自体が強いのかどうか不明なのは辛いところです。
■多色化する環境とそれを咎める期待の新人
以上がひと通りのM14の注目カードに触れた感想でした。
これらの注目カードの中でも一際印象的だったのは《燃え立つ大地》です。これまではアグロとのマッチアップを考慮しなければ多色化はできればした方がいいという傾向が強かったのですが、《燃え立つ大地》はその風潮を一変させるほどの影響を及ぼすかもしれません。
まず、現在はマナベースが強すぎて、想像したことすべてが実現できてしまう環境です。
《根縛りの岩山》《孤立した礼拝堂》といったいわゆるM10土地に加えてショックランドがあるため、3色は当然のように、《遥か見》を加えれば4色も容易いといった状況はデッキ構築の可能性を大きく広げてきました。前回の記事で扱った「環境終盤にしては多くのアーキタイプがいる」という内容も、その前提には多くのアーキタイプの可能性を抱えることができるだけの強固なマナベースの存在があったのです。
このマナベースの強さには、カードの組み合わせの可能性を広げてくれるという一面とともに、もう一方でゲームの内容がエスカレートするという一面も含まれています。
どちらも面白さを保つためには大切なアクセントなのですが、できることの範囲が狭いからこそ保たれる面白さというものがあるのも事実でしょう。そしてここ数ヶ月のスタンダード環境に関して言えば、やや多色化することが簡単すぎた印象があります。
ここでいう簡単という意味は、適当に土地を詰め込んでも動いてしまうという手間的なものではなく、多色化することでのデメリットが希薄なため、安易に多色化してしまうことを指しています。
もちろん、ショックランドの枚数はアグロデッキとの勝率に大きく関わってくるため、多色化に伴うデメリットらしいデメリットはあります。ただ、その他のマッチアップでは多色化することが強みになり、トリコフラッシュやジャンクアリストクラッツのように多色化することでアグロに強くなるアーキタイプが出てきてしまえば、多色化することがアグロへの勝率を下げることには直結しません。それでは「はたして多色化するという行為自体のデメリットとはどこにあるんだろう」と不思議に思えてしまいます。
そこで《燃え立つ大地》なのです。
これは多色化に対する明確なアンチカードで、そもそも特殊地形をデッキに加えること自体を咎めるという凄まじい効果を持っています。これまでの環境にはなかったタイプの過激な対策カードで、罷り通っていた「無闇な多色化」に明らかなデメリットがついに設けられたのです。
やっと制限がかけられた多色化が果たして落ち着くのかどうかはこれからの動向に注目したいところですが、アーキタイプの構造的な相性が優劣を分けてきた半年を終えて、限定された選択肢の中での勝敗を競うゲームが始まる予感には期待が膨らみます。
新天地での戦いに思いを馳せて、今回はここで筆を置かせてもらいます。
それでは次の記事であいましょう。