■GP北九州直前ということで
こんにちは。久しぶりとなる今回は、注目の国内GPであるGP北九州の直前特集です。
現在の環境の姿はどのようなものか。それを勝ち抜くための戦略とは何か。
今回の記事では、終盤を迎えた複雑なスタンダード環境を紐解き、GP北九州にむけて何を思考すればいいのかを書いていきます。
まずはGP北九州の舞台となる現環境の姿と、そこに見られる変遷に注目してみましょう。
■前提となるメタゲームの解説
ここ最近の数回では、「多くのアーキタイプが入り乱れた複雑な環境」だというニュアンスを伝えてきたのですが、今回考えるベースとなる環境の様子は、その状態から少し進んだ状態となっています。
乱雑に存在したアーキタイプの群れから飛び出したのはトリコフラッシュとジャンドコントロールでした。アグロが赤単(タッチ緑)に統一されてから、アグロ対策を赤単系に絞ったトリコフラッシュとジャンドコントロールが高い勝率を保つようになったからです。さらに彼らを抑えこむ存在だったジャンクリアニメイトが《漁る軟泥》によって弱体化した後、トリコフラッシュとジャンドコントロールはより支配的なアーキタイプへと成長していったのです。
環境に存在するあらゆる強力なカードを詰め込んだトリコフラッシュとジャンドコントロールは、ジャンクリアニメイトという環境の留め金を失ってから極端に不利なゲームを強いられることがなくなり、暫くの間はまさに敵なしといった様相だったのですが、環境がその優位を許すことはありませんでした。
トリコフラッシュたちの隆盛から1週間ほど後に登場した刺客はグルールミッドレンジと呼ばれるタフなアグロミッドレンジでした。
9 《森》 6 《山》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《根縛りの岩山》 1 《グルールのギルド門》 -土地(24)- 4 《東屋のエルフ》 2 《エルフの神秘家》 4 《火打ち蹄の猪》 4 《絡み根の霊》 3 《漁る軟泥》 4 《地獄乗り》 4 《ゴーア族の暴行者》 4 《雷口のヘルカイト》 -クリーチャー(29)- |
4 《ドムリ・ラーデ》 3 《ミジウムの迫撃砲》 -呪文(7)- |
4 《燃え立つ大地》 3 《火山の力》 2 《濃霧》 2 《火柱》 2 《炬火の炎》 2 《紅蓮の達人チャンドラ》 -サイドボード(15)- |
これは去年の冬に劇的な登場を果たしたラクドスミッドレンジと同様のコンセプトで構築されています。しかし、生まれ方は似ていても、ラクドスミッドレンジと大きく異なる点があるのです。
それは極端な攻撃力に依存した構成をしていない部分にあります。
ラクドスミッドレンジは《ゲラルフの伝書使》や《墓所這い》を筆頭に防御を捨てることで攻撃だけに特化し、トリコフラッシュやジャンドコントロールといった中途半端に防御するアーキタイプを延々と攻撃し続けるというアーキタイプでした。そのため、殴り返してこないアーキタイプには強力だったものの、その直後に流行した赤単や呪禁バントなどには、先手番はまだしも後手番には防御できずにあっさりと敗北するという弱点を持っていたのです。
しかしグルールミッドレンジはその弱点をバランスよく解決しています。
豊富な2マナ域と《ドムリ・ラーデ》というグルールミッドレンジの核は、トリコフラッシュやジャンドコントロールといったミッドレンジに強力ですが、攻撃的なアーキタイプに対しても効果的なカードなのです。
アーキタイプの核となる部分が広いマッチアップで働くため、《地獄乗り》や《雷口のヘルカイト》、《ミジウムの迫撃砲》や《忌むべき者のかがり火》といった特定のマッチアップで活躍するカードを無理なく運用できています。
このグルールミッドレンジと似ている、骨子を強化することでバランスをとるコンセプトは、ナヤミッドレンジで採用されたことがあります。《復活の声》や《ロクソドンの強打者》、《ボロスの反攻者》といったトップクラスのクリーチャー陣であらゆるマッチアップを戦おうといったアーキタイプです。
では、なぜナヤでなくグルールなのか。その理由はサイドボードに採用された《燃え立つ大地》にあります。
あらゆるミッドレンジに強力だと言われているグルールミッドレンジですが、トリコフラッシュやジャンドコントロールを相手にメインボードを落とすことは頻繁にあります。しかし、それを悲観することが必要はありません。なぜならサイドボード後にある《燃え立つ大地》が一転して圧倒的なゲームへと変えてくれるからです。
これはかつての《魔力のとげ》と同様に、守備的なアーキタイプに対する最終兵器で、多色化により特殊地形を乱用しているトリコフラッシュやジャンドコントロールには抜群の効果を発揮します。
このグルールミッドレンジが流行したことでメタゲームの形は変化をはじめました。
赤単(タッチ緑)に対する強みしかなくなったジャンクアリストクラッツは退場し、トリコフラッシュとジャンドコントロールは対応を迫られているといった具合です。
結論からいうと「多くのアーキタイプが入り乱れた環境」だという点は変わっていないのですが、そこにあったサラダボールのような複雑さはすっかりと消え去っています。
それでは以上の環境を前提として、勝ち抜くためのアプローチを考えてみましょう。
■『最高速のアグレッション』
前提で紹介した「トリコフラッシュ、ジャンドコントロール、グルールミッドレンジ」の3つのアーキタイプに狙いを定めた戦略のうちの一つが、『最高速のアグレッション』です。
去年の冬にラクドスミッドレンジが隆盛した際にも、現在と同様のメタゲームにおいて、このアプローチが成功したことがありました。対応型のミッドレンジには他のアーキタイプとは違った速度や角度からの攻撃をすることで優位があり、攻撃型のミッドレンジには彼らよりも早いゲームを展開することでの有利をもっているからです。
1 《森》 4 《繁殖池》 4 《寺院の庭》 4 《神聖なる泉》 4 《陽花弁の木立ち》 3 《氷河の城砦》 2 《内陸の湾港》 -土地(22)- 4 《アヴァシンの巡礼者》 4 《不可視の忍び寄り》 3 《絡み根の霊》 4 《聖トラフトの霊》 3 《鬼斬の聖騎士》 -クリーチャー(18)- |
2 《呪文裂き》 4 《天上の鎧》 4 《怨恨》 4 《幽体の飛行》 4 《ひるまぬ勇気》 2 《群れの統率者アジャニ》 -呪文(20)- |
4 《繕いの接触》 3 《濃霧》 2 《否認》 2 《近野の巡礼者》 1 《天啓の光》 1 《呪文裂き》 1 《金輪際》 1 《鷺群れのシガルダ》 -サイドボード(15)- |
呪禁バントは、この連載で何回も取り上げてきたアーキタイプで、警戒が薄れてきたら活躍が約束されているところが魅力的なコンボデッキです。独特のゲームを展開するため、彼らよりも早くゲームを進めるか、呪禁クリーチャーを対処する仕組みを持たないリストでなければ太刀打ちできません。
歴史を繰り返すように、呪禁バントはこの環境でも再びの活躍が期待されていました。
しかし、以前は呪禁バントに対抗するためには、それ専用とも言えるようなカードを採用しなければならなかったものですが、今の環境ではその点においてやや異なる状況があります。
それは《漸増爆弾》や《天界のほとばしり》といった他の用途を含んだ軽い対策カードが結果的に呪禁バントを脅かす存在に変わってしまうからです。前者は軽量パーマネントやエンチャントに効果的な1枚で、後者は最近流行の《雷口のヘルカイト》を撃ち落とすために段々と数を増やしています。
呪禁バントの武器である軽量エンチャントや呪禁クリーチャーが簡単に触れられてしまうことは大きな問題なのです。
後述しますが、最近では対応型のミッドレンジが2色にまとまる傾向も見られており、それらの多くは呪禁バントに”結果的に”有効となってしまう選択肢をサイドボードに採用する機会が増えています。
そのため、対応されにくいことが強みだったコンボデッキとも言える呪禁バントは、雑多なデッキにも対応されて良い結果が望めず、同様に主要な3つの仮想敵にも想像しているよりも悪い結果がつきまとってしまうのです。
とても数学的なアーキタイプで、初手の内容とその後のドローの期待値だけでプレイできることが強みでしたが、それはあくまでも相手に対応されないという詰め将棋的な自信に基づいたものでした。それが対応されてしまう可能性まで考慮しなければならないとなると、これまで有効だった戦略的なマリガンは単純に事故のリスクを増加させるだけという結果を生む事になってしまいかねません。
依然としてメインボードの勝率は奇襲的な側面も合わせて高いものの、サイドボード後の戦略には不安が残ります。そこまで意識されていないはずなのに、結果的に、機能するサイドカードを多く採用されている可能性があるからです。
圧倒的なゲーム展開からただ単に強力だと見られがちな呪禁バントですが、その派手さとは反して、その実情はかなりナイーブな面をもっています。僕は多くのプレイヤーのなかでも呪禁バントを好んでいる一人ですが、何かしらのポストボードを改善するアイデアがない限りはおすすめできないという印象を持ちました。
・他の選択肢
話してきたように呪禁バントはやや厳しく思えましたが、最大限に攻撃に特化した形のアーキタイプはまだまだ多くの候補が残っていました。かつてのアグロ界の王者であるナヤブリッツや、単色化したことを強みにした赤単、トークン戦術を利用したコンボデッキである白赤トークンといった顔ぶれです。
そして、これらをテストしてみたのですが、驚くことにそれらは全て同じ弱点を抱えていることがわかりました。
それは呪禁バントが苦手としていた《漸増爆弾》です。
メタゲームのメインストリームにある3つには効果的ではないものの、かゆいところに手が届く便利な一枚として頻繁にサイドボードに見られるカードです。マナ域の低い部分にある偏りを咎める効果があるため、キーカードが低いマナ域にあるアーキタイプに致命的な効果を発揮します。
アグレッシブなミッドレンジを倒すために彼らよりも早いゲームを展開することは変わらず良策ではあるのですが、早いゲームを演出してくれる低マナのカードが以前よりも簡単に対応されるようになっていることは大きな問題です。マナ域の偏りは構造的な強みを生み出す原動力である一方で、偏らせたことに伴う致命的な欠陥を抱えるリスクも併せ持っているということになります。
《忌むべき者のかがり火》や《至高の評決》といった全体除去に加えサイドボードからの手広く軽い対策カードがある現在は、ゲームの速度だけを武器に対抗するのは厳しい環境だと思われます。
★『最高速のアグレッション』
【メリット】ミッドレンジばかりの世の中なので、彼らと違うゲーム速度を演出する工夫はとても有効な戦略となる。
【デメリット】軽量パーマネントへの対策が容易になっているため、自分からミッドレンジが得意とする速度帯で戦う羽目になりやすい。
【結論】違う速度や角度でゲームをすることが重要なだけで、最高速を目指す理由は少ない環境だった。
カードプールが充実して多くのデッキが最序盤を無防備に過ごすことは少なくなったため、軽量パーマネントで押し切る戦略はあまり有効ではない。
【メリット】ミッドレンジばかりの世の中なので、彼らと違うゲーム速度を演出する工夫はとても有効な戦略となる。
【デメリット】軽量パーマネントへの対策が容易になっているため、自分からミッドレンジが得意とする速度帯で戦う羽目になりやすい。
【結論】違う速度や角度でゲームをすることが重要なだけで、最高速を目指す理由は少ない環境だった。
カードプールが充実して多くのデッキが最序盤を無防備に過ごすことは少なくなったため、軽量パーマネントで押し切る戦略はあまり有効ではない。
■『《燃え立つ大地》への意識の強さ』
グルールミッドレンジがとても強力なデッキだということは前提となるメタゲームを紹介する際に触れましたが、彼らの脅威はサイドボード後にデッキの価値基準を変えてしまう《燃え立つ大地》が採用されている点にあります。
使えるカードの選択肢の数の違いから3色に力負けしてしまうという下馬評を覆す《燃え立つ大地》は、改めて触れるまでもなく3色以上の対応型のミッドレンジにとってのキラーカードです。《ドムリ・ラーデ》や《雷口のヘルカイト》といった優秀なカードをシンプルにまとめつつ、サイドボード後にこちらに合わせた構成に整えたトリコフラッシュやジャンドコントロールを主戦略とは関係のない《燃え立つ大地》で完封してしまいます。
このグルールミッドレンジのような戦略が現れると対応型のミッドレンジにもそれ相応の対策が求められます。
ひとつはエンチャント破壊を採用したりカウンターしてしまうことでなんとかやり過ごすことですが、後手後手の対応であることと採用されている枚数の差を考えると(エンチャント破壊を《燃え立つ大地》以上に採用するケースは少ない)そこまで効果的な対策ではありません。
ひとつは《燃え立つ大地》を貼るターンのテンポ差を利用してダメージレースで勝つというプランです。
《燃え立つ大地》は強力なカードではあるものの、それは対応型が常に受け身であるという前提があるからです。
たとえばトリコフラッシュであれば《ボロスの反攻者》、ジャンドコントロールでは何かしらクリーチャーの総数を増やすだけでも効果的に働きます。《燃え立つ大地》は、有利か五分の盤面をより有利に変えるカードでしかないので、盤面をこちらが有利に進めればプレイされることもなく、プレイされたとしてもその設置された隙にこちらが優位に立てば良い話なのです。対応型とはいえ、攻撃に転じる選択肢さえあれば手も足も出ないということはありません。
もうひとつはそもそも対応型とはいえ3色にこだわらないという姿勢です。
2色にまとめる形は段々と見かけるようになっており、古き良き青白や、《もぎとり》を軸にした黒系コントロールなどがその中での主流です。
青白は単純なトリコフラッシュのスペックダウンという見られ方がしていますが、ミッドレンジ同士の戦いが多い昨今では、赤の火力呪文の代わりにシンプルな構成へと変わった青白もそう悪くありません。
黒系コントロールは、とにかくクリーチャーデッキに強いことが魅力で、ジャンドコントロールを苦手にしていることが問題視されているもののこれからに期待できるアーキタイプです。
7 《平地》 7 《島》 4 《神聖なる泉》 4 《氷河の城砦》 2 《幽霊街》 1 《変わり谷》 1 《ムーアランドの憑依地》 -土地(26)- 4 《ボーラスの占い師》 4 《修復の天使》 1 《霊異種》 -クリーチャー(9)- |
4 《熟慮》 3 《中略》 1 《雲散霧消》 4 《アゾリウスの魔除け》 4 《至高の評決》 4 《スフィンクスの啓示》 3 《拘留の宝球》 2 《思考を築く者、ジェイス》 -呪文(25)- |
4 《ロウクスの信仰癒し人》 3 《否認》 2 《天界のほとばしり》 2 《終末》 2 《盲従》 1 《払拭》 1 《クローン》 -サイドボード(15)- |
14 《沼》 1 《山》 4 《血の墓所》 4 《竜髑髏の山頂》 2 《ラクドスのギルド門》 -土地(25)- 4 《ゲラルフの伝書使》 4 《生命散らしのゾンビ》 4 《冒涜の悪魔》 3 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 2 《ボーラスの信奉者》 -クリーチャー(17)- |
4 《火柱》 2 《悲劇的な過ち》 3 《もぎとり》 2 《戦慄掘り》 2 《ラクドスの復活》 3 《ヴェールのリリアナ》 2 《ラクドスの魔鍵》 -呪文(18)- |
3 《強迫》 3 《破滅の刃》 2 《地下世界の人脈》 2 《死の支配の呪い》 2 《漸増爆弾》 1 《もぎとり》 1 《血統の切断》 1 《ラクドスの復活》 -サイドボード(15)- |
また、以上は対応型のミッドレンジにおける工夫でしたが、グルールミッドレンジのほかの攻撃型のミッドレンジにもチャンスがあります。それは対応型のミッドレンジが《燃え立つ大地》への耐性を強めていく方向に環境がシフトしているため、グルールミッドレンジが採用したような「2色で留めるというパワーダウンを《燃え立つ大地》で正当化する」という戦略が最も効果的だとはいえなくなってきているからです。
このように2色に留める理由が弱まるのであれば、そこに新たな選択肢が生まれます。それはグルールミッドレンジを筆頭とした攻撃型のミッドレンジを3色に変えることです。
4 《森》 2 《山》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《草むした墓》 4 《血の墓所》 3 《根縛りの岩山》 1 《竜髑髏の山頂》 1 《ケッシグの狼の地》 -土地(23)- 4 《東屋のエルフ》 4 《火打ち蹄の猪》 4 《炎樹族の使者》 3 《漁る軟泥》 2 《マナ編みスリヴァー》 4 《ファルケンラスの貴種》 4 《ゴーア族の暴行者》 4 《雷口のヘルカイト》 -クリーチャー(29)- |
2 《破滅の刃》 2 《ミジウムの迫撃砲》 4 《ドムリ・ラーデ》 -呪文(8)- |
2 《火柱》 2 《帰化》 2 《ラクドスの復活》 2 《スラーグ牙》 2 《士気溢れる徴集兵》 1 《破滅の刃》 1 《突然の衰微》 1 《戦慄掘り》 1 《化膿》 1 《情け知らずのガラク》 -サイドボード(15)- |
ジャンドの組み合わせであれば《ファルケンラスの貴種》や《戦慄掘り》、ナヤの組み合わせならば《ロクソドンの強打者》や《ボロスの反攻者》といったグッドスタッフたちが3色の攻撃型がもつ魅力です。
色を増やすとともにショックランドの枚数が増えるのでアグロとのマッチアップには若干の不安は覚えますが、主な仮想敵を「トリコフラッシュ、ジャンドコントロール、グルールミッドレンジ」と考える上ではいい選択だと思われます。また、《ロクソドンの強打者》や《ボロスの反攻者》を有するナヤミッドレンジであれば、赤単など一般的なアグロには有利にゲームを進められるので、たとえ3色であってもアグロを意識する選択肢は残されています。
3色目によって《燃え立つ大地》とは異なる角度の対応型のミッドレンジ対策を手に入れているものの、《燃え立つ大地》とどちらがより有効であるかは対戦相手のリスト構成によって変動する部分があります。
僕は現状の主流のリストならば《燃え立つ大地》を使ったほうが良い結果につながると信じているのですが、1週間後、2週間後先となると《燃え立つ大地》の効きが甘くなってくるという確信もあるため、当記事の目標であるGP北九州ではどちらがいいのかは悩ましいところです。
ひとつだけ確かに言えることは、現在の環境は《燃え立つ大地》が劇的に効く状況で、これからは対応型がそれを避ける方向に調整され始めているということです。つまり環境の進み具合によっては《燃え立つ大地》の効きが甘い相手に苦戦する可能性は十分にあります。
とは言えトリコフラッシュやジャンドコントロールが環境から退場するわけではなく、彼らの一部が2色の対応型へとシフトしているという状況に過ぎません。トリコフラッシュやジャンドコントロールとマッチングする機会はまだ多く、《燃え立つ大地》に見切りをつけるにはまだ早いことは確かでしょう。
★『《燃え立つ大地》への意識の強さ』
【メリット】現在は《燃え立つ大地》が有効に働きすぎているため、使う側に立つにしろ、使われる側にしても意識してし過ぎることはない。
【デメリット】あくまでも相対的な意識の強さが必要なので、周囲が多色化を避けているにも関わらず《燃え立つ大地》に頼ったり、周囲が変化を意識していないのに自分が過度な変化をすることは悪い結果につながる。
【結論】個人的な予想では、GP北九州時点では《燃え立つ大地》は依然として強力だと考えている。
使えるなら使うべきだし、使われる頻度が高いことを示しているため、使われる側ならば対策は必須だ。
【メリット】現在は《燃え立つ大地》が有効に働きすぎているため、使う側に立つにしろ、使われる側にしても意識してし過ぎることはない。
【デメリット】あくまでも相対的な意識の強さが必要なので、周囲が多色化を避けているにも関わらず《燃え立つ大地》に頼ったり、周囲が変化を意識していないのに自分が過度な変化をすることは悪い結果につながる。
【結論】個人的な予想では、GP北九州時点では《燃え立つ大地》は依然として強力だと考えている。
使えるなら使うべきだし、使われる頻度が高いことを示しているため、使われる側ならば対策は必須だ。
■これらを踏まえた選択肢とは?
「トリコフラッシュ、ジャンドコントロール、グルールミッドレンジ」といったアーキタイプたちはとても強力で、それらを使うか、それらと対峙するか、といった選択肢がプレイヤーに与えられます。
そしてこれまでは「対峙する」という目線で主に語ってきたのですが、その内容の多くは裏返すと「トリコフラッシュ、ジャンドコントロール、グルールミッドレンジ」にとっての懸念点などに相当する内容でした。これまでの2節で話した内容を踏まえて改良点を探ったり、あるいはそこに見切りをつけるのもいいでしょう。これまで読んでくださった皆さんの判断の材料になれば幸いです。
そして、ここから書いていく内容は、ある意味で蛇足といえるものではあるのですが、僕なりにこれらの情報を整理して判断するならばどうするか、というものになります。
★らっしゅだったらどうするか
これまでの情報を整理すると、「トリコフラッシュ、ジャンドコントロール、グルールミッドレンジ」と戦うためには彼らと違う速度か角度で組み合うこと、《燃え立つ大地》を使うかあるいはしっかりと対策することが重要だと分かりました。
後者は幅広い内容で、この情報から逆説的に使うべきアーキタイプを決めることはかないません。使えるなら使うし、使えないなら使われても大丈夫な工夫をするだけのことだからです。それをどのようなアーキタイプで実践するかが特に限定されることはないでしょう。
ただ、前者に関してはすこしばかり悩む必要があります。呪禁バントやナヤブリッツなどをテストした際に、単純な速度だけで押すことは難しいことがわかったからです。かといって全く同じ速度帯でぶつかった時には、彼らに勝る何かがなければならず、これまでの環境を勝ち抜いてきた彼らに匹敵するものを作ることは少し難しく思います。
そこで目をつけたのがライフというリソースです。
グルールミッドレンジが多くのミッドレンジを圧倒するのはアドバンテージなどではなく、一般的なミッドレンジが許容するライフ水準を大きく超えるダメージを与える速攻クリーチャーを持っているからです。《地獄乗り》と《雷口のヘルカイト》といった攻撃型のミッドレンジの代表格は、《スラーグ牙》や《スフィンクスの啓示》の回復量を上回るダメージを稼ぎ、それを受けきることはなかなかに大変です。
そしてそれを受けきるのではなく、すれ違うのでもなく、受け止めてから殴り返せる作りをしたミッドレンジを構築できれば戦えると考えました。
4 《森》 1 《平地》 4 《寺院の庭》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《聖なる鋳造所》 4 《陽花弁の木立ち》 2 《根縛りの岩山》 -土地(23)- 4 《アヴァシンの巡礼者》 3 《東屋のエルフ》 3 《漁る軟泥》 3 《復活の声》 4 《ロクソドンの強打者》 3 《セレズニアの声、トロスターニ》 4 《テューンの大天使》 2 《ウルフィーの銀心》 -クリーチャー(26)- |
3 《セレズニアの魔除け》 4 《ワームの到来》 4 《ドムリ・ラーデ》 -呪文(11)- |
3 《ひるまぬ勇気》 3 《燃え立つ大地》 2 《根生まれの防衛》 2 《忘却の輪》 1 《ドルイドの講話》 1 《天啓の光》 1 《盲従》 1 《ボロスの反攻者》 1 《戦導者オレリア》 -サイドボード(15)- |
鍵となっているカードは《セレズニアの声、トロスターニ》と《テューンの大天使》です。この2枚だけでグルールミッドレンジを攻略できるほどの力があり、《テューンの大天使》が《ミジウムの迫撃砲》で落とされないような形で着地さえすればとても簡単にゲームを決めることができます。
ジャンドコントロールとは《オリヴィア・ヴォルダーレン》を巡る戦いにさえ勝利できれば問題なく、トリコフラッシュには《ドムリ・ラーデ》と《復活の声》があっても少し苦手なマッチアップになりますが《燃え立つ大地》を合わせると有利に転じていると思っています。
《ドムリ・ラーデ》と《燃え立つ大地》を採用している点で従来のセレズニアが持っていた対応型ミッドレンジへの弱さを克服し、《セレズニアの声、トロスターニ》や《テューンの大天使》のパッケージを採用することで従来のナヤミッドレンジと差別化できるようになりました。
従来のナヤミッドレンジも悪くはないものの、従来よりの形では「何をしたいデッキなのか」がはっきりとせず、ただ相手よりもマナレシオの高いカードを順番に展開していくデッキになりがちだった点が問題でした。そのため、より攻撃に特化したグルールミッドレンジに活躍の機会を譲り、今回もグルールを構造で倒すセレズニアよりも劣っていると考えています。
ただ、何かに特化するということはそれに伴う弱みと噛み合ってしまう対戦相手が出てきてしまうことも示しています。このセレズニアで言うと《燃え立つ大地》が有効に働かない多色化を避けた黒系コントロールのような対応型ミッドレンジには弱く、速攻クリーチャーのないグルールミッドレンジのような味気ない戦いしか挑むことができないことは残念です。
また、セレズニアミッドレンジとは別の角度で構築した期待株がラクドスミッドレンジです。
12 《沼》 4 《血の墓所》 4 《竜髑髏の山頂》 3 《ラクドスのギルド門》 -土地(23)- 4 《戦墓のグール》 4 《墓所這い》 4 《悪名の騎士》 4 《血の芸術家》 4 《ゲラルフの伝書使》 4 《生命散らしのゾンビ》 4 《ファルケンラスの貴種》 -クリーチャー(28)- |
3 《火柱》 3 《焦熱の槍》 3 《破滅の刃》 -呪文(9)- |
3 《鬱外科医》 3 《吸血鬼の夜鷲》 2 《脳食願望》 2 《強迫》 2 《血のやりとり》 2 《燃え立つ大地》 1 《火柱》 -サイドボード(15)- |
「でたよ、でたでた」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実際そのような感想が正しい反応です。対応型ミッドレンジたちの対応が不明瞭なのであれば、そもそもそれら全般に強いコンセプトを持ってきてしまえばいい、と掘り起こしてきたものが彼ら、ラクドスミッドレンジなのですから。
《ゲラルフの伝書使》と《ファルケンラスの貴種》のコンビネーションはかつてと同じようにあらゆる防御網をこじ開ける力を持っています。
似たような文脈で登場したグルールミッドレンジとの差が興味深い点ですが、これは除去能力と除去耐性という2点に集約されます。
・除去能力について
グルールミッドレンジはパーマネントで対応することはあっても除去らしい除去は持たず、対戦相手の《雷口のヘルカイト》だけに蹂躙されるような機会も少なくありません。その代わりに《ドムリ・ラーデ》などでテンポ負けしない(盤面にパーマネントを展開することに長けているため、呪文だけの後手後手の対応にはなりにくい)ことが魅力なので表裏な問題です。
それに対してラクドスミッドレンジは黒を採用していることで強力な除去カードを手に入れています。とにかく防御しないデッキなので対戦相手の致命的な数枚に狙いを絞って対応する戦略をとっています。そのため、数は少なくとも、プレイしやすく多くに対応できる呪文を擁しているのです。これはグルールとは違い、一度テンポで負けたら除去することで追い付く機会がないことを示しており、僅かな除去する機会を逃してしまうと即座に敗北を喫してしまう脆さも持っているのです。
・除去耐性について
グルールミッドレンジはとても除去に弱いデッキです。しかしそれでも多くの対応型のミッドレンジと渡り合っているのは《ドムリ・ラーデ》と豊富な速攻クリーチャーの賜物です。最近では速攻クリーチャーを見据えた除去選択やプレイがされているため、以前のように順番にプレイしているだけで勝ててしまうようなお手軽さはなくなってきました。こちらのプレイで改善できる程度の問題ではあるのですが、プレイに依存する問題を構造に抱えてしまうとその場の運やミスで落としてしまうゲームが増えるため、小さくとも軽視はできない傷です。
対するラクドスミッドレンジは、そもそも対戦相手の除去を無視できることを強みとしています。《火柱》だけは致命的なのですが、それ以外の除去はほぼ無意味と言っても差し支えない影響しか受けません。この部分は両者にある明確な差かもしれません。
グルールミッドレンジかラクドスミッドレンジか。ふたつの攻撃型ミッドレンジの優劣の判断は難しいところです。対応型への相性はラクドスに軍配が上がりますが、攻撃型同士のマッチアップではパーマネントによる攻防に優れたグルールミッドレンジが有利です。
・まとめ
カードプールが充実したことが後押しして中速同士の苛烈な叩き合いが始まった環境を制するには、彼らの攻撃する軸を躱すか、その攻撃よりも確実な攻撃を展開することがいいと考えた結果が以上の2つのデッキです。
ライフと盤面で受け身のゲームを取らないセレズニアミッドレンジと、誰よりも強く攻撃への意識を持つラクドスミッドレンジ。
どちらもやや見慣れないものではありますが、この環境で十分に戦える力を持っていると思います。
■最後に
去年の秋に始まって約1年間続いてきた「高橋純也のRush Met a Game!」も今回が最終回となります。
「メタゲーム(Metagame)」と「僕がゲームと出会う(Met a game)」を掛けたダジャレでしかないタイトルでしたが、目まぐるしく変化する環境と向き合うことはひとつの貴重な出会いで、今思えば意外と連載の内容に沿ったタイトルだったのかな、とも思っています。
ここまで楽しんで続けてこれたのは、皆さんの応援があったからです。
本当に力になりました。ありがとうございました。
これまでの1年に別れを告げ、新たな出会いを楽しみに。
終わりが見えないゲームとの1年間をまた始めようと思います。
それでは皆さんの北九州での健闘を期待しています!!