のぶおの部屋 -第4回 デス&タックス(前編)-

斉藤 伸夫



「生物でビートしたかった」

マジックでは、ライフを削りきることが重要です。
またレガシーでは、相手を妨害することが重要であることをわれわれはすでに知っています。
レガシーならではの理不尽なコンボデッキや、プールが広いことによるカードパワーの上昇もその理由の一つです。

今回は、『ソフトロックをかけながら攻める』という今までとは違う攻め方をするアーキタイプを紹介したいと思います。

デス&タックス
 
名前にもなっているデス&タックスとは『逃れることはできないもの』という意味です。デス&タックス(以下デスタク)の話をする前に、まずは今回のゲストプレイヤーを紹介します。『日本レガシー選手権2013 WINTER』でTOP8に輝いた小林 健太(山形)さんです。DairynoteではkenonというHNで活動していらっしゃいます。

斉藤 「今回はインタビューよろしくお願いします。わざわざ東北からありがとうございます。」

小林 「呼んでいただいてありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。」



■デス&タックスとは?

斉藤 「こちらが一般的なレシピになります。」


Andrew Shrout 「Death and Taxes」 SCG Invitational Las Vegas (4位)

9 《平地》
2 《地平線の梢》
3 《Karakas》
1 《永岩城》
4 《リシャーダの港》
4 《不毛の大地》

-土地(23)-

4 《ルーンの母》
4 《石鍛冶の神秘家》
4 《スレイベンの守護者、サリア》
4 《ファイレクシアの破棄者》
3 《セラの報復者》
3 《ちらつき鬼火》
2 《エイヴンの思考検閲者》
2 《ミラディンの十字軍》

-クリーチャー(26)-
4 《剣を鍬に》
4 《霊気の薬瓶》
1 《梅澤の十手》
1 《火と氷の剣》
1 《殴打頭蓋》

-呪文(11)-
2 《精神壊しの罠》
2 《太陽の槍》
2 《大変動》
2 《漸増爆弾》
2 《安らかなる眠り》
2 《忘却の輪》
1 《エーテル宣誓会の法学者》
1 《ミラディンの十字軍》
1 《悟りの教示者》

-サイドボード(15)-
hareruya



ルーンの母スレイベンの守護者、サリアリシャーダの港


斉藤 「では、デスタクについての紹介をお願いします。」

小林 「デスタクとは、《スレイベンの守護者、サリア》《エイヴンの思考検閲者》《不毛の大地》《リシャーダの港》などで相手のマナを縛る”マナディナイアル戦略”を仕掛け、相手の動きが機能する前に《石鍛冶の神秘家》+《殴打頭蓋》《セラの報復者》《ミラディンの十字軍》でビートダウンするデッキです。

最近は使用率が減りましたが、元々は《コロンドールのマンガラ》《Karakas》のコンボを搭載したデッキでした。《コロンドールのマンガラ》の能力スタックで《Karakas》を起動することによって、好きなパーマネントを追放しながら、アドバンテージも稼ぐことができます。デッキの名前にもなっている『逃れることはできないもの』の由来ですね。
呪文の大半が生物で構成されているため、《ルーンの母》で守りながら、《霊気の薬瓶》で生物を展開していきます。

このデッキは、GPストラスブール13で優勝(4位も同じチームからのデスタクでした)とGPワシントンDC13でTOP8という記録は記憶に新しいです。」





■なぜデス&タックス?

斉藤 「なぜデスタクを使っているのですか?」

小林 「レガシーにおける上位メタであるスニークショー、RUGデルバー、パトリオット(UWRデルバー)に対してメインから有利に戦えるからです。また、《真の名の宿敵》の登場により《硫黄の精霊》《紅蓮地獄》という苦手なカードが減少したこともこのデッキを選択した理由です。」

斉藤 「その3つのデッキに対して、どのようなところが有利なのですか?」

小林 「まず、スニークショーに対してですが、《スレイベンの守護者、サリア》《不毛の大地》《リシャーダの港》で相手のマナを縛り、《実物提示教育》《騙し討ち》のキャストターンを遅くすることができます。《実物提示教育》を打たれたとしても、メインから複数枚入っている《Karakas》で伝説のクリーチャーである《引き裂かれし永劫、エムラクール》《グリセルブランド》をバウンスすることができますし、《騙し討ち》に対してはメインから積まれている《ファイレクシアの破棄者》で起動を封じることができます。スニークショーはメインには生物を捌けるカードがほどんどありませんので、これらのヘイトベア戦略がカウンター以上に有効です。」

小林 「次に、テンポ代表のRUGデルバーとパトリオット。これらに対しては、打ち消しカードを無効にしてしまう《霊気の薬瓶》が非常に効果的であることは言うまでもありません。《ルーンの母》をはじめマスト除去の生物を次々と追加していくため、相手は除去が足りなくなり、それだけでゲームを決めることができてしまうほどです。地上生物は《ミラディンの十字軍》《殴打頭蓋》《ルーンの母》でいずれ止めれますので、《秘密を掘り下げる者》に除去を使いましょう。」




■一般的なレシピとの違いは?

斉藤 「では、小林さんのレシピを教えてください。」

小林 「こちらが現在使用しているレシピになります。」


小林 健太 「Death and Taxes」

2 《平地》
1 《島》
4 《Tundra》
4 《溢れかえる岸辺》
1 《湿地の干潟》
3 《Karakas》
4 《リシャーダの港》
4 《不毛の大地》

-土地(23)-

4 《ルーンの母》
4 《石鍛冶の神秘家》
4 《スレイベンの守護者、サリア》
3 《ファイレクシアの破棄者》
4 《真の名の宿敵》
1 《コロンドールのマンガラ》
1 《ヴェンディリオン三人衆》
1 《造物の学者、ヴェンセール》

-クリーチャー(22)-
4 《剣を鍬に》
4 《渦まく知識》
4 《霊気の薬瓶》
1 《梅澤の十手》
1 《火と氷の剣》
1 《殴打頭蓋》

-呪文(15)-
2 《翻弄する魔道士》
2 《修復の天使》
2 《セファリッドの女帝ラワン》
2 《大変動》
2 《安らかなる眠り》
1 《造物の学者、ヴェンセール》
1 《太陽の槍》
1 《解呪》
1 《墓掘りの檻》
1 《万力鎖》

-サイドボード(15)-
hareruya



石鍛冶の神秘家真の名の宿敵造物の学者、ヴェンセール


斉藤 「変わったレシピですね。白単であったデスタクに、小さな”《大祖始》“といっても過言でもない《真の名の宿敵》が加わることで、単なるプリズンデッキの枠を超えて、攻める側面から見ても革新的なデッキになっていますね。まずはデッキ制作のきっかけについて聞かせてください。」

小林 「まず、デスタクというデッキの負けパターンとして、

(1) ドローが芳しくなく《スレイベンの守護者、サリア》《霊気の薬瓶》を複数枚抱えるパターン
⇒プレイできない不要牌が手札に溜まり、そのディスアドバンテージが負けに繋がる

(2) 序盤に《タルモゴイフ》《殴打頭蓋》を着地され解答がないパターン
⇒相手の生物を越えられないがためにドローゴーが続き、相手の場に土地が並びはじめ、土地縛り戦略がとれなくなり負けに繋がる

以上2パターンがあります。これらを防ぐ為に、デスタクは飛行やプロテクションで強引に攻めることができる《セラの報復者》《ちらつき鬼火》《ミラディンの十字軍》を採用しています。しかし、これらの生物が処理されてしまうとたちまち負けてしまいます。
これらの理由から、私は普通のデスタクは『コンボには比較的強いが、それ以外にはムラっけが多い勝ちきれないデッキ』という結論を出しました。相手によって明確に効くカードがあるにも関わらず、探しにいく手段が乏しいと感じたからです。」



小林 「では、どうしたら良いのか?
答えは、『青を足す』というものでした。具体的には、《渦まく知識》《真の名の宿敵》を採用しました。

負けパターン(1)に対しては、《渦まく知識》です。《渦まく知識》は、有効牌を引き込み、不要牌をライブラリーへ送ることで、パターン(1)を軽減します。実際の動きとしては、序盤から《スレイベンの守護者、サリア》や、複数枚の《不毛の大地》《リシャーダの港》を供給し、相手のマナを縛ります。また、生物の供給は、息切れを防ぐことで、同時に《霊気の薬瓶》から生物を出す奇襲性を維持することができます。これらの動きはデッキの安定感を高めるものでした。

負けパターン(2)に対しては、《真の名の宿敵》です。
説明不要でしょうが、除去耐性があり、確実にダメージを稼げる生物だからです。これにより、非コンボにも安定した強さを獲得しました。


色を加えることによって、相手からの《不毛の大地》を受けやすくなったというデメリットが増えますが、相手も《不毛の大地》を使うということは《スレイベンの守護者、サリア》の影響力がより持続されるということなので、デメリットはそこまで大きくないと考えました。」

斉藤 《ヴェンディリオン三人衆》《造物の学者、ヴェンセール》の採用理由はどうですか?」

小林 「それは、一定数いるUW奇跡の奇跡カードへの解答であり、スニークショーに対しても追加的に有効だからです。これらを《Karakas》で戻しつつ《霊気の薬瓶》で出す動きは、コントロールデッキやコンボデッキの動きを完全に止めることができます。」

斉藤 「安定したダメージクロックであり、《タルモゴイフ》などの生物への解答でもある《真の名の宿敵》が入ることによって大きなものを得ましたね。このデッキは、”白ウィニー(デスタク)”と”《真の名の宿敵》“という本来異なるものが出会い、互いの苦手領域を補完し合うことによって生まれた新しいデッキと言えるでしょう。」

斉藤 「ちなみに、『日本レガシー選手権2013 WINTER』の時からどこを変更したんですか?」

小林 「マナベースを若干変更しました。《真の名の宿敵》《ヴェンディリオン三人衆》《造物の学者、ヴェンセール》の(青)(青)が少し出にくかったので、その点を改善しました。また、《ファイレクシアの破棄者》を1枚《コロンドールのマンガラ》に変えることにより、幅広い相手に強くなったと思います。」



■メタに合わせた変更点

斉藤 「メタが変わったらどのような変更を施すか教えてください。」

小林 「デスタクはメタ上のデッキを強く意識して組まれているので、環境によっていろいろ形を変えることができます。」

◇ビートが増えた場合
ビートが増えればCIPで除去能力を持つ《悪鬼の狩人》のような生物を採用します。

◇コンボが増えた場合
コンボ増えるなら、《審判官の使い魔》採用します。コンボに対しては、《審判官の使い魔》《スレイベンの守護者、サリア》はコンボスタートを遅らせることが出来ます。ANTやスニークショーの2キルも防ぎやすくなりますね。
また、《エーテル宣誓会の法学者》のようなヘイトベアや《ヴェンディリオン三人衆》を追加したり、サイドに《神聖の力線》もしくは《精神壊しの罠》《狼狽の嵐》などの起用も考えます。

◇テンポが増えた場合
不要になりがちな《ファイレクシアの破棄者》の枚数を減らして有効なカードにするかもしれません。
基本地形が入ってないデッキが多いので《流刑への道》とかがいいですね。

◇コントロールが増えた場合
コントロールが増えるようでしたら、《遍歴の騎士、エルズペス》などのPWを追加します。その他のスペルだと《大変動》も非常に効果的です。



斉藤 「そういえば本日発売の『神々の軍勢』で、注目すべきカードがありましたよね。」

小林 「はい。《迷宮の霊魂》《オレスコスの王、ブリマーズ》ですね。

迷宮の霊魂オレスコスの王、ブリマーズ

特に《迷宮の霊魂》は、短いテキストで書いてあることは単純ですが、ドロー操作で溢れているレガシーという環境では特に有効です。

・レガシーの代名詞とも言える《渦まく知識》
・コンボ、テンポデッキが必要なものを得るために打つ《思案》《ギタクシア派の調査》《定業》
・コントロールデッキのフィニッシャーである《精神を刻む者、ジェイス》
・ビートダウンの息切れをなくす《森の知恵》
・出てしまえばゲームを終わらせるほどの力をもつ《グリセルブランド》
・エルフの軸である《垣間見る自然》《エルフの幻想家》

これらのカードを、この生物たった1枚で抑制することができます。」


小林 《迷宮の霊魂》《闇の腹心》と相性がとてもよいので、タッチ青から黒にして試すつもりです。

闇の腹心

ボブの誘発型能力は”引く”ではなく”手札に加える”なので大丈夫!

《真の名の宿敵》がいなくなった分《タルモゴイフ》などのサイズが大きい生物への耐性は落ちるので、サイドに《非業の死》を入れて対応したいと思います。相手からの《ゴルガリの魔除け》対策として《盲信的迫害》を積めるようになります。また、コンボに対してハンデスという武器を持つことができます。

《迷宮の霊魂》の登場により、《霊気の薬瓶》を「2」で固定すると相手はドロー操作を打ちづらくなるのが容易に想像できます。なぜなら最高のドロー操作である《渦まく知識》が、自分のメインに打った場合ただ2枚デッキにハンドを戻すというカードになってしまうかもしれないからです。」

斉藤 「面白い案ですね。白黒バージョンも是非とも完成させてください。そのリストに期待しています。」





次回はデス&タックスの弱点やサイドボードの考え方、事例をあげての小テクを紹介するといったプレイ編をお届けします。

では、次回プレイ編でお会いしましょう。