のぶおの部屋 -第7回 エルフ(前編)-

斉藤 伸夫



happymtg内にはデッキ検索ページがあるのはご存知でしょうか?

このページでは、最近のグランプリやプロツアーといったプレミアイベントから、晴れる屋トーナメントセンターで毎日行われる店舗大会、果てはMagicOnlineのデイリーイベントといった数多の大会で入賞したデッキが掲載されています。

それらはフォーマットやアーキタイプ別にまとめられているので、あなたの使いたいデッキにはどんなカードが採用されているのか、沢山の「勝っている」レシピの秘訣を見つけることができるという優れものなのです。

では試しに、フォーマットは僕の好きなレガシーで、デッキは今回の記事で紹介するエルフデッキについて調べてみます。
【フォーマット:レガシー、アーキタイプ:エルフでの検索結果】

あれ?なんか同じ人の名前が目につきませんか?

Takano Shigekiという名前ばかりが並んでいます。

これだけの勝ち星を重ねている彼は、一体何者なのでしょう……?


斉藤 「というわけで、今日インタビューさせていただく方を紹介します。高野 茂樹 (東京)さんです。普段プレイしている晴れる屋トーナメントセンターで着実に勝ち星を重ね、入賞回数は100回を超える強豪です。また、つい先日に開催され366人ものレガシープレイヤーが集まった第一回BIGMAGIC OPENにおいて見事優勝を飾り、最強のエルフマスターとして全国のレガシープレイヤーにその名を轟かせました。今日はエルフの魅力と強さを惜しみなく聞かせてください!」

高野 「はい。よろしくお願いします!愛用しているエルフのことを伝えれたら嬉しいです。」






■エルフとは?



Andrew Cuneo 「Elves」 GP Washington D.C. (6位)

1 《森》
2 《Bayou》
1 《Savannah》
2 《ドライアドの東屋》
4 《新緑の地下墓地》
3 《霧深い雨林》
2 《樹木茂る山麓》
1 《吹きさらしの荒野》
4 《ガイアの揺籃の地》

-土地(20)-

4 《死儀礼のシャーマン》
4 《遺産のドルイド》
4 《イラクサの歩哨》
4 《クウィリーオン・レインジャー》
4 《ワイアウッドの共生虫》
1 《Fyndhorn Elves》
1 《ラノワールのエルフ》
4 《エルフの幻想家》
1 《漁る軟泥》
2 《孔蹄のビヒモス》

-クリーチャー(29)-
4 《緑の太陽の頂点》
4 《垣間見る自然》
3 《自然の秩序》

-呪文(11)-
4 《思考囲い》
3 《陰謀団式療法》
2 《突然の衰微》
1 《クァーサルの群れ魔道士》
1 《漁る軟泥》
1 《大祖始》
1 《世界棘のワーム》
1 《精神壊しの罠》
1 《自然の秩序》

-サイドボード(15)-
hareruya



ワイアウッドの共生虫垣間見る自然孔蹄のビヒモス


斉藤 「それでは基本的な内容からお聞かせください。まず、エルフとはどんなデッキなのでしょうか?」

高野 「基本的には《垣間見る自然》を唱えたのちに軽いエルフをプレイし、《遺産のドルイド》《イラクサの歩哨》によって『エルフを唱えるたびにマナが増えてドローも進む』という環境を作るコンボです。そして最終的にはドローを進めるなかで辿り着いた《孔蹄のビヒモス》がゲームを終わらせます。

そして現在のエルフは、上で紹介した《垣間見る自然》からのコンボに加えて、《自然の秩序》からフィニッシャーを出して勝利するタイプが主流となっています。そのフィニッシャーとしてはやはり《孔蹄のビヒモス》が代表的です。出したターンに即座にゲームに勝つことができるため、ほとんどのエルフデッキに採用されています。」

斉藤 「なるほど。軽量エルフを組み合わせたコンボデッキなのですね」

高野 「基本的にはそうです。ただ、エルフはコンボデッキでありつつも異なるゲームプランを採ることができる稀有なアーキタイプとしても知られています。デッキを構成するマナ加速とドローやサーチは、その他のコンボデッキと似ていますが、コンボパーツがクリーチャーカードだという点がエルフが稀有なコンボデッキたる所以です。

これらの軽量クリーチャーは、攻撃に参加して対戦相手にプレッシャーをかけることができるのです。また、フェアデッキが苦手とする《ヴェールのリリアナ》《精神を刻む者、ジェイス》などのPWを簡単に倒すことができます。これはクリーチャーを軸にしたコンボデッキならではの魅力でしょう。

もちろん、単体では脆弱なクリーチャーの組み合わせによって戦うデッキなので、丁寧に1枚1枚が生み出すシナジーを生かして戦っていくことが重要になります。たとえば『ラヴニカへの回帰』で得た《死儀礼のシャーマン》などは顕著な例です。序盤はマナクリーチャーとして活躍し、中盤以降はダメージソースや延命手段として運用できる素晴らしいカードであることは知られていますが、エルフではそれに加えて《クウィリーオン・レインジャー》《ワイアウッドの共生虫》などアンタップ生物との組み合わせが強力です。

コンボが決まらなかったときにも1ターンに複数回起動することでゲームに勝利できますし、対戦相手の《死儀礼のシャーマン》を牽制することができるのです。昨今にエルフがメタゲームの一角に食い込めた理由の一端には、<死儀礼のシャーマン>を強く扱えるデッキであるという点も影響しているでしょう。」

斉藤 「そうですね。『ラヴニカへの回帰』が発売した後のGPデンバー2013ではChannelfireballが開発したエルフが活躍しましたが、《死儀礼のシャーマン》はもちろん、《自然の秩序》を採用したことは本当に素晴らしいアイディアでした。コンボらしく《孔蹄のビヒモス》をサーチして勝つ場合がほとんどですが、サイドボード後からは《大祖始》《世界棘のワーム》などをサーチすることで、除去を多用してくる相手へのサブプランの役割も果たしていますね。」





■なぜエルフ?

斉藤 「レガシー環境には多くのデッキがありますが、高野さんがその中からエルフを選んだ理由をお聞かせください。」

高野 「レガシーを始めた当初は様々なデッキを使っていました。しかし、エルフに出会ってからは、そのダイナミックな動きに魅了されてエルフばかりを手に取るようになりました。色々なカードが連動するチェーンコンボ独特のガチャガチャとした動きがとても楽しく手に馴染んだのです。エルフは使えば使うほど上達して強くなっていくことを実感できるデッキで、当初の私はそこまで勝ちにこだわらないカジュアルプレイヤーだったのですが、エルフとともに成長していくことが楽しくて今に至っています。

また先ほども触れましたが、エルフは《垣間見る自然》から動き出すコンボデッキではありますが、1つのスペルを通した瞬間勝ちが決まるANTやベルチャーなど他のコンボとは一線を画するものです。その違いとは、コンボが失敗してもクリーチャーが残ることです。そのため、コンバットの腕次第でコンボ以外で勝つこともできるのです。

このことはメリットにもデメリットにもなりますが、特定の対策カードで鍵の1枚を封じられてしまうだけで負けてしまうことが少ないことはいいところだと思っています。さらに、ほかのコンボデッキではクリーチャーを採用していることが少なく、身を守る術は限られているのですが、エルフは小さくともクリーチャーが多く採用されているため、それらがブロックに参加することでコンボが動き出すまでの時間稼ぎをすることができるのです。」

斉藤 「そのような柔軟性があることは魅力になりますよね。《イラクサの歩哨》《エルフの幻想家》だけで《昆虫の逸脱者/Insectile Aberration》と同じパワーになりますし、ひとつひとつは小さくとも塵も積もればといった具合に意外とバカにできない打点が期待できます。コンボを妨害するためのカウンターだけをハンドに抱えている相手に、並べた小さなエルフでビートするプランに切り替えれることは強みですね。」





■一般的なレシピとの違いは?


高野 茂樹 「Elves」 BIGMAGIC OPEN (1位)

2 《吹きさらしの荒野》
2 《霧深い雨林》
2 《樹木茂る山麓》
2 《新緑の地下墓地》
2 《森》
2 《Bayou》
1 《Tropical Island》
4 《ガイアの揺籃の地》
2 《ドライアドの東屋》

-土地(19)-

4 《死儀礼のシャーマン》
4 《遺産のドルイド》
4 《クウィリーオン・レインジャー》
4 《イラクサの歩哨》
4 《ワイアウッドの共生虫》
4 《エルフの幻想家》
1 《Fyndhorn Elves》
1 《樺の知識のレインジャー》
1 《ヴィリジアンのシャーマン》
1 《威厳の魔力》
1 《孔蹄のビヒモス》

-クリーチャー(29)-
4《緑の太陽の頂点》
4《垣間見る自然》
4《自然の秩序》

-呪文(12)-
3《白鳥の歌》
3《思考囲い》
3《突然の衰微》
2《漁る軟泥》
1《世界棘のワーム》
1《陰謀団式療法》
1《トーモッドの墓所》
1《弱者の石》

-サイドボード(15)-
hareruya



威厳の魔力自然の秩序白鳥の歌


斉藤 「これはBMOの優勝レシピです。メインに<自然の秩序>4枚というのはずいぶん刺激的ですね。シゲキだけに!!……このレシピにした経緯や考えを教えてください。」

高野 「BMO当日は、コンボが多そうだと感じたので、一般的なレシピではメインに3枚の《自然の秩序》を4枚に増やしました。その代わりに、メインにとっていた《漁る軟泥》を0にしました。《漁る軟泥》が欲しいマッチアップは、墓地利用デッキとテンポ系デッキの2種ですが、墓地利用コンボのドレッジやリアニメイトには《漁る軟泥》では間に合わない場合が多かったのです。

また、『リアニメイトは増加するが、ドレッジは減少するだろう』という予想のもと、リアニメイトには1マナの墓地対策である《死儀礼のシャーマン》だけで十分と割り切りました。テンポ系デッキにはメインは有利に運べるので、《漁る軟泥》の必要性はさらに薄まり、最終的にサイドに落とすことに決めました。」

斉藤 「そのサイドボードに目を向けると、青い呪文である《白鳥の歌》が目立ちますが、ハンデスと分けて採用していることにはどのような理由があるのですか?」

高野 「コンボ対策には《ガドック・ティーグ》《スレイベンの守護者、サリア》《自由なる者ルーリク・サー》《アメジストのとげ》などいろいろなカードを試しましたが、2マナ以上のカードはコンボ相手には遅い場合が多かったので1マナ以下のカードを検討しました。

海外のレシピで良く見かける《精神壊しの罠》はストームが多い環境ではとても良いカードですが、BMOではストームよりも多いことが予想されたスニークショーやミラクルに有効な《白鳥の歌》を選択しました。ハンデスも便利なのですが、《呪文貫き》《渦まく知識》で回避されてしまうことが多く、また、エルフからカウンターが飛んでくることは予想されにくくより優秀だと判断しました。」

斉藤 「アーティファクトにはメインから触ることもできるので、《白鳥の歌》は隙間をうめてくれるとても理にかなったカード選択ですね。しかし、エルフにとって2/2飛行が出てくることは問題になりませんか?」

高野 「対コンボデッキではクリーチャーが除去されることは少ないため、多くの場合で《ワイアウッドの共生虫》が生き残っています。2/2飛行が出てきても、それにブロックされたエルフを手札に戻せば被害なく殴ることができますよ。クリーチャーが除去されうる対ミラクルの場合は少しばかり問題ですが、《相殺》《終末》を食らってしまうよりはマシか……といった所です。」





斉藤 「先ほどのレシピにはなかった《威厳の魔力》についてはいかがですか?」

高野 「一般的なレシピでは《孔蹄のビヒモス》2枚のパターンが多いですが、私は<孔蹄のビヒモス>1枚と<威厳の魔力>1枚と散らしています。《威厳の魔力》はずっと愛用しているスロットですね。

BMOでのエルフミラーマッチはこれのおかげで勝利したようなものでした。相手に先手3キルされる前に、後手2ターン目に《威厳の魔力》のおかげで引き増しすることによりコンボが繋がったのです。《孔蹄のビヒモス》より1マナ軽いことが僅かながらも本当に大きいと感じています。」

斉藤 《森》《ガイアの揺籃の地》《遺産のドルイド》を含むエルフ3体で7マナと考えると素出しもかなり視野に入りますね。《孔蹄のビヒモス》の場合はもう1マナ=1ターンの差になってしまうので、出るターンが1ターン変わるのはコンボデッキにおいては勝敗を分けることも多いでしょう。」



■メタに合わせた変更点

斉藤 「では、今後メタにあわせてデッキを変えるとしてどうするか教えてください。」

高野 「パターン分けして、順にあげていきます。」


◇ビートが増えた場合
もともと有利なので特に変更の必要はありませんが、対策カードを壊すための《突然の衰微》ですかね。あと《真髄の針》もいいかもしれません。有利なマッチアップであるとはいえ、《梅澤の十手》《渋面の溶岩使い》などの恒久除去を運用されてしまうとさすがに負けてしまいますから。

◇コンボが増えた場合
メイン戦については特にスピードを重視して今回のように《自然の秩序》を4枚がおすすめです。サイド候補としては、スニークショー対策には《謙虚》《罠の橋》を、汎用妨害手段としては《白鳥の歌》《陰謀団式療法》といった手札破壊の増量、あとは墓地対策の《トーモッドの墓所》などです。

また、スピード勝負になりやすいコンボ相手のテクニックの一つには《輪作》があります。リスキーな面はありますが、《ガイアの揺籃の地》をサーチすることでキルターンを早めることができるのです。《沼》《Karakas》もサーチできるので、デッキが持つ柔軟性が増します。

◇テンポが増えた場合
軽く強力な《漁る軟泥》をメインに1~2枚入れます。《緑の太陽の頂点》からサーチして《稲妻》で落ちないサイズに育ってしまえばこちらのものです。墓地掃除能力が《タルモゴイフ》に圧倒的に強く、《死儀礼のシャーマン》の起動型能力も牽制できる頼りになるクリーチャーです。

また、サイドボードのカードから明確に勝ちに繋がるカードとしては《弱者の石》が強烈です。《秘密を掘り下げる者》《タルモゴイフ》を封じ込められるため、相手のゲームプランを崩壊させられます。
この他に《ジョラーガの戦呼び》は、《乱暴+転落》に耐えつつダメージレースに貢献するカードなのでいい選択肢ですね。

◇コントロールが増えた場合
こちらへの妨害手段を打破できる《突然の衰微》《ヴィリジアンのシャーマン》《クァーサルの群れ魔道士》《ガドック・ティーグ》などを増やすでしょう。たとえば《相殺》+《師範の占い独楽》を利用するコントロールには、それらの置物に干渉できる手段を用意することが大事になります。安心のコントロール・コンボ・キラーである《ガドック・ティーグ》は多くの全体除去を止めてくれる優秀なカードです。

◇コンボデッキが減った場合
その他に候補を挙げるとすれば《とぐろ巻きの巫女》でしょうか。コンボデッキ以外に対しては《エルフの幻想家》はとても優秀なカードなので、コンボデッキの少ない環境ならば5枚目の《エルフの幻想家》として《とぐろ巻きの巫女》の採用を考えても良いでしょう。







次回はエルフの弱点やサイドボードの考え方、エルフの動きをあげての小テクを紹介するといったプレイ編をお届けします。

では、次回プレイ編でお会いしましょう。



※編注:記事内の画像は、以下のサイトより引用させて頂きました。
『BIGMAGIC OPEN/ 決勝戦:高野 茂樹(東京) vs. 黒川 直樹(千葉)』
http://www.bigmagic.net/event/bmo01/legacy/005.html