行弘賢と学ぶドラフトセオリー vol.10 ~ダメージレースを身につけよう~

行弘 賢


 皆さんこんにちは!

 7月に入り、夏の足音が聞こえてくる季節になりました。とはいえ、まだ大絶賛梅雨なので、最近雨続きで嫌になりますね。僕は職場まで基本的に自転車移動なので、雨が続くのは嬉しくないです。「早く梅雨明けないかな……」とか考えてたら、

 もう『マジック・オリジン』の発売が目の前ではないですか!

 梅雨も明けてほしいし、『マジック・オリジン』も早く発売してほしいしと、「早く時が経て!」と念じる今日この頃です。先月の【グランプリ・シンガポール2015】がモダンだったこともあり、あまりドラフトに時間を使えなかったので、早く『マジック・オリジン』のドラフトがやりたくて仕方ありません。

 『マジック・オリジン』のドラフトは、今回も【菊名合宿】で満喫する予定なので、それまでは我慢といったところですかね。


 では、今回もドラフトのセオリーを紹介していきます。

 【前回】【前々回】に引き続いてテーマは「コンバットのセオリー」です。この「コンバットのセオリー」シリーズは今回でいよいよ最終回!

 栄えある最後のセオリーは、攻守を見極めるための重要なテクニックとなる「ダメージレースを身につける」です。




■ 1. ダメージレースとは?

 ダメージレースとは、簡単にいってしまえば「自分と対戦相手のクリーチャーが互いにブロックをせずに、ひたすらライフを攻撃する状態」を指します。

 つまり、お互いのクリーチャーには攻撃を止めてブロックする選択肢があるにもかかわらず、敢えて攻撃し続けるということです。

 しかし、どうしてこのような状況が起きるのでしょうか?

 それは実は、「お互いに”相手のライフをより早く削りきる算段”があるから」なのです。

 どちらかのプレイヤーが「相手よりも早くライフを削りきれない」という判断をした時点で、クリーチャーをブロックに回して消耗戦を挑む展開となるため、ダメージレースは起こりえません。

 すなわちダメージレースとは、どちらのプレイヤーともに「勝算がある」からこそ生じる状況なのです。


 では実際に、どういった局面でそれが起こるのか、簡単なダメージレースの例を見ていきましょう。


自分のライフは10、対戦相手のライフも10です。

現在は自分の第1メインフェイズ。自分の手札には《ショック》が1枚、対戦相手の手札は1枚ですが何かは分かりません。

自分の戦場には2/2のバニラが2体、対戦相手の戦場にはタップ状態の2/2のバニラが2体です。




・ Turn 1-(自分10 対戦相手10)

 こちらの視点からは、2回アタック (4*2=8点) して、手札の《ショック》を本体にプレイすれば丁度ライフを10点削ることができます。

 見えている情報では、相手がこちらを倒すにはあと3回の攻撃が必要なので、先に勝てそうだ、と2体で攻撃することにしました。




・ Turn 2-(自分10 対戦相手6)

 対戦相手のライフは6に下がりましたが、その危険な状態にもかかわらず、対戦相手も2体で攻撃を返してきました。結果、こちらのライフも6になりました。クリーチャーは特に追加されず、こちらにターンが渡されます。


・ Turn 3-(自分6 対戦相手6)

 こちらのドローは残念ながら土地でしたが、攻撃が通れば勝ちなので、2体とも攻撃に向かわせます。

 しかし、ここで対戦相手は《ショック》を1体にプレイしました。これが解決され、1体のダメージが通って対戦相手のライフは4になりました。




・ Turn 4-(自分6 対戦相手4)

 返すターン、対戦相手はまたもや2体で攻撃しました。こちらも手札の《ショック》で除去し返すか悩みましたが、仮にスルーしたとしてもこの攻撃では負けず、逆に次のこちらの攻撃が通れば本体《ショック》で勝てるので通しました。

 対戦相手は戦闘後に後続の2/2のクリーチャーをプレイしてターンを終えました。




・ Turn 5-(自分2 対戦相手4)

 こちらのドローは運がいいことに《マグマのしぶき》だったため、対戦相手のアンタップ状態の2/2を除去して、攻撃し、手札の《ショック》で残りのライフを削りきることができました。





 この例では、結果的にTurn 4の防御時に《ショック》でクリーチャーを除去しなかったことが功を奏しました。

 もしこのとき、対戦相手の攻撃クリーチャーに除去を使用していたとすると、お互いのライフが4の状態で《マグマのしぶき》を引いてしまい、その場で勝つことはできませんでした。その場合は、仕方なくお互いにクリーチャー同士を消耗する展開となり、勝敗の行方はどうなっていたかわからなかったでしょう。


 この例で注目すべき点は、どのターンでもお互いがブロックや除去で”受ける展開”に持ち込むこともできたにもかかわらず、敢えてダメージレースをすることを選んでいるところです。
 (※「受ける」とは、相手クリーチャーの攻撃を、相打ちになるブロックや除去呪文など、リソースを使って止めることを指します。)

 それはすなわち、「”受ける側”が望んでダメージレースに持ち込んでいる」ということです。

 ”受ける側”ということは、その瞬間において不利な立場に置かれていることが多いはずです。つまり、”受ける側”が相手の攻撃をブロックや除去で相殺し、消耗戦を狙うことは自然な成り行きでしょう。

 しかし、そこを敢えてダメージレースに持ち込んだ方が勝機を得られると判断できる状況があるのです。

 何故”受ける側”はダメージレースを選択するのか。そしてそれはいつなのか。ダメージレースを挑む仕組みを見ていきましょう。



■ 2. ダメージレースは「いつ」「どうして」挑むべき?

 「お互いに”相手のライフをより早く削りきる算段”がある」ことがダメージレースを引き起こす要因だと最初に説明しましたが、実はそれだけがそれだけがダメージレースが起こる要因ではなく、もう1つ大きな要因があります。

 それは「ブロックや除去でリソースを費やすと不利になる」と”受ける側”が思うことです。


 対戦相手の攻撃を前に、”受ける側”には2つの選択肢があります。

1. ブロックや除去をする
 カードを費やすことでライフの減少を抑えることができます。

2. 何もしない
 カードを費やさない代わりにライフが減少します。(=ダメージレース)


 この2つの選択肢を比較して、1.では不利になると”受ける側”が思うならば、より勝機がある2.の選択肢を取ることになるでしょう。その2.の選択肢こそがダメージレースなのです。
 
 それでは実際、どういった局面で”受ける側”がダメージレースを挑むことになるのでしょうか。ひとつの例を見てみましょう。


自分のライフは8対戦相手のライフも8です。
お互いに手札はありません。
現在は対戦相手のターンの戦闘フェイズで、自分が防御を考えている局面です。

自分の戦場にはアンタップ状態の2/2の飛行が1体
対戦相手の戦場には、攻撃している2/2のバニラが1体と、アンタップ状態の1/1のバニラが1体います。



 もしこれがまだゲームの序盤ならば、パワーが等しい飛行持ちとただのバニラを交換することはないでしょう。

 しかしこの局面だと、スルーするとライフも6と危険水域まで落ち込んでしまい、手札が0枚なのでその後にクリーチャーを受けるプランもありません。

 そのため、ここは損だとわかっていながらもクリーチャーを交換するのはそこまで悪い選択肢ではありません。実際にこういう局面では、ブロックしてしまう人もいると思います。


 ですが、ここで一旦状況を整理してみましょう。

・ お互いのライフは8
・ 現状の情報だけでダメージレースすると負ける
・ ブロックすると盤面の1/1バニラ分だけ確実に不利になる

 よくよく状況を見直すと、実はブロックしてもダメージレースを挑んでも不利であることが分かります。そしてそのどちらを選んでも言えることは、結局次のターン以降に新しいリソースを引いてこないと勝てないということです。

 ということは、ここで飛行と地上の交換をしてしまうと、新しいリソースを引いてきて勝機が生まれたときに (飛行クリーチャーを失ってしまっている分だけ) 状況が悪くなる可能性が高くなってしまうのです。

 この状況で、ブロックしなかった場合に状況が良くなる「新しいリソース」としては、

・ 2/2と相打ち以上できるクリーチャー
・ 2/2を一方的に討ち取れるコンバットトリック
・ 2/2を捌ける除去

 と、幸いにもリミテッドのデッキに入っている土地以外のカードならば大体条件を満たせます。

 つまりこの状況では、今すぐに2/2飛行と2/2バニラを交換するよりは、次のターン以降に引いてくるカードと2/2バニラを交換することを見据えて、ダメージレースを選択する方が勝率が高いと考えられるのです。

 もし次のターンに有用なカードを引かなかった場合には、改めてブロックするかを再考してもいいでしょう。

 ダメージレースを選択するメリットは、盤面や手札にリソースを残すことで、ゲームの勝敗を左右する重大な選択を、不確定なドローが確定した後の未来に対して先延ばしにできることにあります。

 「相手が攻撃してきたからとりあえずブロックか除去するか」ではなく、ブロックするか除去することで自分が不利になる (勝ち目が薄くなる) のか、それとも有利になる(勝ち目が生まれる)のかを考えることが重要です。

 「受けると不利になりそうだから、受けずに攻めたほうがいいかを考える」こと。

 これこそがダメージレースを挑む際に考えるべき一番のポイントだと言えます。

 ダメージレースとは、受けるとより不利になるときにとるべき選択肢だからです。


 ここまでの内容で大枠は掴めたとは思いますが、まだまだダメージレースには奥深いテクニックがたくさんあります。ここからはダメージレースを挑むに当たって具体的に気をつけなければいけない点を見ていきましょう。



■ 3. ダメージレースで気を付けるべき4つのポイント

 ダメージレースをするに当たって気を付けなければならない、いくつかのポイントがあります。ここではそのうち代表的な4つを解説しましょう。


(1).お互いのダメージクロックの大きさ

 対戦相手の戦場には4点のクロック、自分の戦場には3点のクロックがあり、お互いのライフが20だとします。

 この状況では、対戦相手がこちらのライフを削りきるには最低5回 (20/4=5) の攻撃が必要なのに対して、こちらは最低でも7回 (20/3=6.66≒7) の攻撃が必要です。そのため、現状の要素だけではダメージレースはできません。

 なので、クロックに開きがある場合は、ブロックや除去という選択肢をとる方が無難な場合が多いです。

 ただし、手札の呪文でダメージレースの計算を狂わすことができるならば、戦場のクロックに開きがあってもダメージレースは正当化されることがあります。この例の状況だと、こちらの手札に《強大化》があれば、こちらも5回の攻撃で対戦相手のライフを削りきることができるので、ダメージレースを挑む価値があります。

 ダメージレースを挑むとお互いのライフが少なくなるので、デッキの中に《強大化》のようにダメージ計算を狂わすカードがある場合は、積極的に挑むことで勝ち目が増えるという利点があります。


(2).自分のリソースと相手のリソースの価値を考える

 たとえば「2/2飛行と2/2のバニラ」だと、2/2飛行の方が価値が高いですよね。このように明らかに等価交換ではないトレードを迫られたときには、ブロックせずに割り切ってダメージレースをした方がお得な場合が多いです。

 特にゲームの序盤で貴重なリソースを失うことは、後のゲーム展開において選択肢を失うことに繋がります。そのため、ブロックや除去をする際には、それによって失うリソースが交換する相手のリソースと価値が見合っているかをしっかりと考えましょう。


(3).自分のデッキがダメージレースに向いているかを考える

 自分の戦場に2/2飛行、対戦相手の戦場にも2/2の飛行がいます。このときに対戦相手の2/2飛行が攻撃してきました。

 ここでそれをブロックするか、ダメージレースをするかを考えるのですが、その判断をする際に忘れてはいけないことがあります。それは、自分のデッキがダメージレースに向いているかです。
 仮にこちらのデッキに攻め合うカードが少ないならば、この2/2飛行に続く攻め手が切れてしまう可能性が高いのです。このような場合、ダメージレースをすると無闇にライフだけを失う結果になりかねません。

 このように自分のデッキの構造と性質をしっかりと理解したうえでダメージレースを挑まないと、成功する可能性が低い、危険な賭けとなってしまいます。


(4).ダメージレースは諸刃の剣

 ダメージレースとは、あくまでも「自分が受けると不利になる」と感じたときに挑むものです。

 ゲームに負けたときに、あそこで相打ちしていたら……とか、一体でもブロッカーを残していたら……なんて後悔した経験は皆さんもあると思います。

 受けて不利にならないタイミングで、わざわざダメージレースを挑み、計算が狂わされて敗北してしまい、普通に受けてたら勝ってた!と後悔してしまうことにならないようにしましょう。


 以上の4点がダメージレースで気を付けたいポイントでした。

 ダメージレースの仕組みとコツさえ掴めば、ただ受けきれずに負けてしまうゲーム展開は減ると思いますので、是非ご活用いただけたらと思います。



■ 4. 今回のまとめ


『受けて不利になりそうなら、ダメージレースに持ち込もう』

『受ける際に、自分と相手のリソースの価値を考えよう』

『ダメージレースは諸刃の剣なので、挑む際は細心の注意を払うこと』

 これからはぜひ、これらを意識してコンバットしてみてください。今までと違ったコンバットになると思います。

 今回の記事はここまでです。次回もまた僕の「ドラフトセオリー」を余すことなく伝えようと思います。それでは、また来月もドラフトの記事でお会いしましょう!



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