何事にも『洗礼』があります。
『洗礼』とは、初めての状況や環境で避けては通れない試練です。
それは初心者の心に強い印象を残し、どの道も簡単ではない、と厳しく戒めます。
そこに例外はなく、レガシーにもやはり『洗礼』は存在するのです。
おもむろにライブラリーをめくり始め、《山》が出たら噴火する《ゴブリンの放火砲》。
おもむろにライブラリーから大量のドローを行い、呪文の連続キャストから致死量の《苦悶の触手》。
そして。
おもむろにライブラリーを墓地に落とし、盤面いっぱいの墓地から湧き出るゾンビ・クリーチャートークンによるビートダウン。
あなたが初めてレガシーの大会に出た時、大量のカードとトークンをまるでトランプゲームのディーラーのように卓上に並べているプレイヤーを見て、「一体何をしているのか」と疑問に思ったことはありませんか?
そこで今回は、レガシーにある数多くのデッキタイプの中でも最も奇っ怪な動きをする、ドレッジについて話を聞いていきたいと思います。
斉藤 「今日は、ドレッジを使っている平木 孝佳 (東京)さんに、ドレッジについてインタビューさせていただきます。平木さんは晴れる屋オープントーナメント6位、BIGMAGIC OPEN(BMO)において15位という好成績を収め、その他草の根大会でも上位入賞を重ねている強豪です。今日は、よろしくお願いします。」
平木 「よろしくお願いします。7月に行われたレガシー神決定戦準優勝おめでとうございます。最後は惜しかったですね。」
斉藤 「ありがとうございます。最後は残念でしたが、これからもレガシーの大きな大会があるので挑戦したいと思っています!来年の4月には日本で初めてのレガシーのグランプリが開催されることが決まりましたしね!普段レガシーをやらない人が増えるのも楽しみですね。」
平木 「特にドレッジみたいなデッキとの対戦では、その動きを知らないと、そのまま訳も分からず負けてしまうことも少なくありません。それを避けるためのきっかけとなるように、今回はドレッジというデッキのすべてを伝えられればと思います!」
■ドレッジとは?
斉藤 「こちらがドレッジの一般的なレシピになります。《真鍮の都》が《マナの合流点》になるなどの細かな変化はありますが、ベースはこの形が多いです。」
4 《真鍮の都》 4 《宝石鉱山》 4 《セファリッドの円形競技場》 1 《知られざる楽園》 -土地(13)- 3 《朽ちゆくインプ》 4 《ナルコメーバ》 3 《ゴルガリの凶漢》 4 《臭い草のインプ》 3 《イチョリッド》 1 《炎の血族の盲信者》 4 《ゴルガリの墓トロール》 -クリーチャー(22)- |
4 《入念な研究》 4 《信仰無き物あさり》 4 《陰謀団式療法》 3 《打開》 2 《戦慄の復活》 4 《黄泉からの橋》 4 《ライオンの瞳のダイアモンド》 -呪文(25)- |
3 《炎の嵐》 2 《蒸気の連鎖》 2 《自然の要求》 2 《真髄の針》 1 《冥界の影》 1 《イチョリッド》 1 《絶望の天使》 1 《エメリアの盾、イオナ》 1 《打開》 1 《戦慄の復活》 -サイドボード(15)- |
斉藤 「それでは基本的な内容からお聞かせください。まず、ドレッジとはどんなデッキなのでしょうか?」
平木 「ドレッジとは、“発掘”カードによって形成した大量の墓地から、《イチョリッド》や《ナルコメーバ》、《黄泉からの橋》のゾンビトークンなどを戦場に出してビートダウンを仕掛ける瞬殺ビート+コンボデッキです。《入念な研究》や《朽ちゆくインプ》の効果で“発掘”カードを墓地に落とし、その後のドローを置換して墓地を増やしていきます。マナを払わずとも戦場に参戦する《イチョリッド》や《ナルコメーバ》を利用し、《黄泉からの橋》、《陰謀団式療法》とのシナジーや《戦慄の復活》を早いターンで唱えることによってゲームを速やかに決めることができます。
また、“発掘”の細かな処理についてですが、《信仰無き物あさり》などで複数枚のカードを引く際に、墓地に“発掘”カードが1枚しか落ちていなかったとしても、その1枚目の“発掘”効果を処理したあとに墓地に“発掘”カードがあれば、2枚目以降のドローを”発掘”に置換することができるのです。つまり、たった1枚の《ゴルガリの墓トロール》しか落ちていなくとも、“発掘”が連鎖すればゲームを終わらせることができるほどの大量の墓地をつくりあげることができるのです。
たった1枚の墓地からゲーム終了まで到達する可能性がある。それこそがドレッジというデッキの恐ろしさです。」
■なぜドレッジ?
斉藤 「そういえば平木さんは元々どんなデッキが好きなんですか?」
平木 「始めた当初(約16年前ぐらい)にスーサイドブラックを使っていたこともあり、高速ビートダウンが好きなんですよね。その中でも黒を基調としたビートダウンデッキやゾンビクリーチャーが好きなので、その流れでドレッジを使い始めました。」
斉藤 「スーサイドブラックは懐かしいですね。《暗黒の儀式》から《肉占い》や《カーノファージ》みたいな動きはそのまま勝ててしまう速さでしたよね。」
平木 「はい!黒という色は相手の判断を決める色ではなく判断を求めさせる色だから好きです。青や白は受けに回る方が多い印象ですが、黒は自ら相手を攻め崩していく感じが好きですね。」
斉藤 「レガシーという環境でドレッジを使い続けているのも似たような理由からでしょうか?」
平木 「はい。レガシーはカードの選択肢の広い環境です。いろいろなアーキタイプもあり、受けに回るより攻めきるデッキの方が強いと感じているから選択しています。ドレッジはベルチャー・ANTと並んでレガシー最速デッキの一つであるためどんなデッキに対しても早さで勝負することができるので、有利不利を無視できる場面が多いというのも魅力ですね。」
■一般的なレシピとの違いは?
斉藤 「では、平木さんのレシピを教えてください。」
平木 「こちらが今使用しているレシピになります。」
4 《真鍮の都》 4 《宝石鉱山》 4 《セファリッドの円形競技場》 -土地(12)- 4 《朽ちゆくインプ》 4 《ナルコメーバ》 2 《ゴルガリの凶漢》 4 《臭い草のインプ》 3 《イチョリッド》 1 《炎の血族の盲信者》 4 《ゴルガリの墓トロール》 1 《グリセルブランド》 -クリーチャー(23)- |
4 《入念な研究》 4 《信仰無き物あさり》 4 《打開》 3 《陰謀団式療法》 2 《戦慄の復活》 4 《黄泉からの橋》 4 《ライオンの瞳のダイアモンド》 -呪文(25)- |
3 《炎の嵐》 3 《自然の要求》 2 《知られざる楽園》 1 《鋳塊かじり》 1 《大修道士、エリシュ・ノーン》 1 《灰燼の乗り手》 1 《蒸気の連鎖》 1 《陰謀団式療法》 1 《暗黒破》 1 《古えの遺恨》 -サイドボード(15)- |
斉藤 「それでは平木さんのレシピを見ていきましょう。BMOや晴れる屋オープンの時とメインは変わっていないということから、デッキの基盤が完成されていることが伺えますね。サイドはメタによって変わりやすいとは思いますが、まずはこのレシピを使っている理由を教えてください。」
平木 「はい。メインボードは最速を目指すために最適な形を探した結果このレシピに落ち着きました。サイドボードについてはBMOや晴れる屋オープンBMOのそれぞれで少し工夫をしました。デス&タックス、ミラクル、石鍛冶系が多いという予想の上で、《真髄の針》を取っていました。今はミラクルはいますがその他の2つが少なくなったため、サイドを割り物と除去に振りました。また、《エメリアの盾、イオナ》は単純に勝ちに直結するゲームが少なく、相手を封じるぐらいなら《炎の血族の盲信者》で決めた方が確実なメタゲームになっているために不採用にしました。」
斉藤 「一般的なドレッジのレシピとの違いはどのようなものがあるのですか?」
平木 「細かいところになりますが、違いが何点かあります。
1.ドローソースの枚数。一般的なレシピは11枚に対して、自分は12枚。 《打開》が4枚という安定性よりも速度重視の形です。
2.”発掘”カードの枚数。一般的なレシピは11枚なのに対して、自分は10枚です。
3.土地の枚数。一般的なレシピは13枚に対して、自分は12枚です。
4.フィニッシャーの選択。一般的なレシピは《炎の血族の盲信者》1枚に対して、自分は《グリセルブランド》と《炎の血族の盲信者》が1枚ずつです。
5.<陰謀団式療法>の枚数。一般的なレシピは4枚に対して、自分は3枚に抑えています。
上記の枚数選択の違いは、一般的なレシピは安定性を重視していますが、自分はキルターン(=速さ)を重視しているため、こういう差異が出ています。」
斉藤 「ドローソースを増加させることにより、ゲームの早い段階でより多くの“発掘”をすることを目指しているのがわかりますね。《打開》4というのは、その姿勢がわかりやすい枚数だと思います。また《グリセルブランド》があれば、7枚ドローを”発掘”し確実にライブラリーを掘りきることができるので、より確実な勝利を達成するための明確なゴールになりますよね。」
平木 「ドレッジを使い始める人は、《戦慄の復活》入りを使うなら、最初は一般的なレシピをオススメします。それに慣れてきたら、上記の点での枚数の調整とフィニッシャーの選択をし、好みの形を探るのがいいでしょう。」
斉藤 「まずは安定して動ける形を正確に回せることは大事ですからね。慣れてきたら《戦慄の復活》が入っていない形や《水蓮の花びら》、《通りの悪霊》のように癖のあるカードを試すのもおもしろそうです。平木さんが速さを特に重視にしている理由はどうしてなのですか?」
平木 「コンボビートであるドレッジは速度で勝負するのが大事だと思っています。ビートに負けるよりコンボに速度負けしたくないという強い思いがあるため、このような形になりました。」
斉藤 「サイドに《鋳塊かじり》が追加されたみたいですが、《古えの遺恨》ではない理由はどこにあるのですか?」
平木 「《鋳塊かじり》を選択した理由には、エルフの増加により<墓掘りの檻>をよく見るようになったため選択しています。《墓掘りの檻》が張ってある状況で“発掘”によって《古えの遺恨》が落ちたとしても,
フラッシュバックができないので結局は手札からプレイする必要があります。《鋳塊かじり》の“想起”コストは1マナと軽く、《墓掘りの檻》を割ることとは別に、《鋳塊かじり》は“想起”したあとに戦場から墓地に落ちるので《黄泉からの橋》が誘発するというシナジーもあります。
また、メインサイドともに大きな変更がないのは、ドレッジというデッキがメタに合わせずとも速度だけで勝負できる強さをもっているからだと実感しています。」
メタに合わせた変更点
斉藤 「では、今後メタにあわせてデッキを変えるとすればどうするかを聞かせてください。」
平木 「パターン分けして、順にあげていきます。」
◆ビートが増えた場合
・除去を追加し、《炎の嵐》と《暗黒破》をメインに採用します。また、フィニッシャーには《大修道士、エリシュ・ノーン》を採り、殴り合いを有利に展開できるような構成にします。
◆コンボが増えた場合
基本的には今のレシピから変更はないですね。今のレシピは対コンボ用に組んでおり、ビートと戦える安定性と最速型のギリギリのバランスを考えています。
よほどコンボが多くなるようでしたら《朽ちゆくインプ》を1枚外し、《陰謀団式療法》の4枚目をメインに入れて妨害要素を強めます。または《水蓮の花びら》を採用するなどして、より速度に特化させるでしょう。
◆テンポが増えた場合
打ち消されないディスカード手段として、《炎の嵐》と《暗黒破》をメインにとります。これによって「ディスカード手段がカウンターされて“発掘”パーツを墓地に送ることができずに負けてしまう」という事態を防ぐことができます。
もしくは追加の土地を1~2枚増やします。テンポデッキは《不毛の大地》や《もみ消し》でマナ否定戦略をしてくるため、土地をしっかり置きつつ《目くらまし》などのカウンターを避けながら呪文をキャストできるようにするためです。ドレッジは土地の枚数が少なく、土地を割られた瞬間に身動きが取れずにゲームが終わってしまうこともあるので注意しましょう。また、フィニッシャーは除去もかねて《大修道士、エリシュ・ノーン》へと変更されるでしょう。
◆コントロールが増えた場合
《暗黒破》をメインにとります。これはコントロールは《剣を鍬に》などの追放系除去を使用してくるため、継続的にビートダウンができる<イチョリッド>を追放から守るためです。自らに《暗黒破》を打つことで《黄泉からの橋》のゾンビを増やしながら、追放系除去から墓地に逃がせるのはやはり強いです。
追加で土地を1~2枚増やすことも非常に効果的です。コントロールがプレイしてくるカウンターの枚数を上回るアクションをとることが有効なので、《信仰無き物あさり》のフラッシュバックを連発できる体制を整えたいところです。コントロール側の立場としても《信仰無き物あさり》の裏まで使い切られるとカウンターが追いつかないと実感します。
次回はドレッジの弱点やサイドボードの考え方、ドレッジの動きをあげての小テクを紹介するといったプレイ編をお届けします。
では、次回プレイ編でお会いしましょう。