自分だけの、世界で唯一のデッキで勝ちたい。
レガシーに限らずマジックを始めたばかりなら誰もが思い浮かべる夢。
そして《秘密を掘り下げる者》、《グリセルブランド》、《精神を刻む者、ジェイス》を有するTierデッキを前に多くのプレイヤーがいつの間にか忘れてしまう、夢。
それでもオリジナルデッキで優勝するプレイヤーは存在する…!
今回は「《ライオンの瞳のダイアモンド》を使うがANTやベルチャーではない」、「《Volcanic Island》を使うがショーテルでもない」、「墓地を参照するがドレッジでもない」という一風変わったコンボデッキ、ペインターについてインタビューしていきたいと思います。
斉藤 「ということで国内のペインター第一人者である清水 博紀さん(静岡)にインタビューさせていただきます。清水さんは日本レガシー選手権Winter 優勝、日本レガシー選手権Summer Top8と連続して華々しい成績をおさめた強豪です。本日は静岡からわざわざお越しくださいました。ありがとうございます!今日はよろしくお願いします。」
清水 「はい、よろしくお願いします!呼んでいただき光栄です。」
■ ペインターとは?
斉藤 「こちらがペインターの一般的なレシピになります。早い段階で《血染めの月》で蓋をすることが可能な形です。」
10 《山》 3 《沸騰する小湖》 4 《古えの墳墓》 3 《裏切り者の都》 -土地(20)- 1 《ゴブリンの溶接工》 4 《絵描きの召使い》 1 《ファイレクシアの破棄者》 1 《呪文滑り》 4 《帝国の徴募兵》 4 《猿人の指導霊》 2 《月の大魔術師》 1 《特務魔道士ヤヤ・バラード》 -クリーチャー(18)- |
3 《稲妻》 3 《紅蓮破》 3 《赤霊破》 4 《血染めの月》 4 《丸砥石》 3 《師範の占い独楽》 2 《紅蓮の達人チャンドラ》 -呪文(22)- |
4 《アメジストのとげ》 3 《トーモッドの墓所》 3 《罠の橋》 1 《ファイレクシアの破棄者》 1 《月の大魔術師》 1 《ヴィーアシーノの異端者》 1 《紅蓮破》 1 《赤霊破》 -サイドボード(15)- |
斉藤 「それでは基本的な内容からお聞かせください。まず、ペインターとはどんなデッキなのでしょうか?」
清水 「ペインターとは、<絵描きの召使い>が戦場に出ている状態で<丸砥石>を起動して勝利するコンボデッキです。《絵描きの召使い》の能力でライブラリーの全てのカードが共通の色を持つため、《丸砥石》の起動型能力によるライブラリーを削る効果がループし、対戦相手のライブラリーを削りきることができるのです。
ただし、相手のデッキに《引き裂かれし永劫、エムラクール》がいる場合は、最終的に墓地をデッキに加えてシャッフルする能力が解決してしまいます。そのため、人によってはメインから墓地対策を積んでいる場合もあります。
また、メインから《赤霊破》《紅蓮破》が搭載されているのもペインターならではですね。コンボを通しにいくのに使えるだけではなく、《絵描きの召使い》がいれば、青を指定することで《赤霊破》《紅蓮破》が1マナの《対抗呪文》&《名誉回復》という万能呪文となります。」
■なぜペインター?
斉藤 「ペインターは比較的珍しいアーキタイプですが、ペインターを愛用するようになったきっかけはあったのでしょうか?」
清水 「ペインターは愛用のデッキでもあり、レガシーを始めるきっかけになったアーキタイプでもあります。初めに友人にペインターのデッキを借りて回してみたのですが、デッキの動きなどが自分にとてもあっていることをすぐに実感しました。借りた友人よりうまく回ったのが記憶に残っています。
そしてその後、成人のお祝いにレガシーのデッキを作ろう、と今のデッキのベースを自分で作りました。それ以前はスタンダードを中心プレイしていましたが、自分の好きな《ファイレクシアの抹消者》がローテーション落ちしてしまったので、他の好きな古いカードを使えるフォーマットに足を踏み入れることにしたのです。デッキの1枚1枚が色々とシナジーしていて、デッキ全体でペインターという感じになっているところが好きでずっと使い込んでいます。」
斉藤 「今のレガシー環境でペインターを使い続けている理由はなんですか?」
清水 「レガシーは使えるカードの種類が多い分対処しなければならないカードが多いですが、このデッキでしたら相手を瞬殺出来るだけでなく《赤霊破》でどんなスペルもパーマネントも対処することができたり、手札にきてしまったいらないカードを《Force of Will》や《紅蓮操作》を利用し守ったり出来ることができます。また、《赤霊破》で破壊するだけでなく、《Transmute Artifact》でその場に応じたアーティファクトを場に出せたりと柔軟に戦えるコンボデッキだからです。
そしてなによりレガシーは環境的に青がとても多いのでメインの《赤霊破》も強く、スピード勝負でも他のコンボデッキに負けないのが強みだと思っています。」
■一般的なレシピとの違い
斉藤 「では、清水さんのレシピを教えてください。」
清水 「こちらが日本レガシー選手権Summerで使用したレシピです。Winterからも大きく変更した点もあります。」
2 《島》 1 《山》 2 《Volcanic Island》 4 《沸騰する小湖》 3 《大焼炉》 3 《教議会の座席》 3 《古えの墳墓》 1 《裏切り者の都》 -土地(19)- 4 《ゴブリンの溶接工》 4 《絵描きの召使い》 -クリーチャー(8)- |
4《渦まく知識》 3《炎の稲妻》 3《赤霊破》 2《Transmute Artifact》 1《直観》 2《綿密な分析》 3《Force of Will》 3《オパールのモックス》 2《ライオンの瞳のダイアモンド》 4《丸砥石》 2《師範の占い独楽》 1《虚無の呪文爆弾》 3《ダク・フェイデン》 -呪文(33)- |
3《方向転換》 2《青霊破》 2《白鳥の歌》 2《紅蓮操作》 2《罠の橋》 1《仕組まれた爆薬》 1《大祖始の遺産》 1《真髄の針》 1《求道者テゼレット》 -サイドボード(15)- |
斉藤 「それでは清水さんのレシピをみていきましょう。一般的なペインターは赤単が多いですが、清水さんは青赤2色のバージョンを使っているのですね。」
清水 「そうですね。青赤2色のこのレシピには、以下のような強みがあります。
1. Force of Willが採用できる
《絵描きの召使い》での色指定を青にすることにより、《赤霊破》でパーマネントを破壊したりカウンターするだけでなく、《Force of Will》を打つ時のコストとしてどんなカードでも追放できるようになります。
2. Transmute Artifactが採用できる
このカードのために2色にしているといっても過言ではないカードで、本当に強いキーパーツです。生贄にするのも効果の一部でコストではない部分も便利ですね。
3. ダク・フェイデンが採用できる
1.2は、日本レガシー選手権Winterで使ったレシピと同じですが、《ダク・フェイデン》は日本レガシー選手権Summerで明確に変わったパーツです。
このカードの能力は全てデッキと噛み合っており、非常に強力なのです。一つずつ説明していきますと、
+1:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを2枚引き、その後カードを2枚捨てる。
このルーター能力は、必要なコンボパーツを探しにいくだけでなく、《ゴブリンの溶接工》とのシナジーがとても便利です。
また《ダク・フェイデン》が入ったのに合わせて《炎の稲妻》《綿密な分析》を入れたので、“フラッシュバック”でディスカードをアドバンテージに変換することも可能になりました。環境に多い《死儀礼のシャーマン》・《石鍛冶の神秘家》・《秘密を掘り下げる者》というカードに対して《炎の稲妻》の2点は有効ですし、《Hymn to Tourach》などのアドバンテージカードに対してはフラッシュバックやルーターという能力が強いです。
-2:アーティファクト1つを対象とし、それのコントロールを得る。
デス&タックスの《霊気の薬瓶》や各種《石鍛冶の神秘家》からの装備品など、以前よりアーティファクトが環境に増えたので、この能力も使うようになりました。
サイド後は《丸砥石》対策にサイドインされた《真髄の針》のコントロールを奪い、そのまま《Transmute Artifact》で生け贄にしてコンボパーツに変えることができたりもします。
-6:あなたは「あなたがパーマネント1つ以上対象とする呪文を1つ唱えるたび、それらのパーマネントのコントロールを得る。」を持つ紋章を得る。
《絵描きの召使い》《丸砥石》コンボが手札破壊⇒《外科的摘出》で追放されても、この能力だけで勝利することができます。日本レガシー選手権Summerでは、《炎の稲妻》を複数回打つことによって相手の生物を順に奪って勝ったゲームもありました。」
斉藤 「青のメリットはとても大きいですね!青の強みであるカウンターやドロー操作を入れることによってコンボも安定しますからね。特に《ダク・フェイデン》はレガシーではあまり使われていないカードなので、このカードに目を付けたのは本当に凄いと思います!
ところで、ペインターといえば《血染めの月》というイメージですが、清水さんのレシピには入っていませんね。《血染めの月》はどうなのでしょうか?」
清水 「カードとしてはとても強いと思います!多色環境なら検討の余地が大いにあります。実際、去年のエタフェスでは《血染めの月》系のカードをメインサイド合わせて7枚入れて参加をしていました。しかし最近はURデルバーやエルフなどの効きにくいマッチが増えてきましたし、青赤という2色のうまみが減ってしまうので今は使用していません。今後メタが変わればまた採用するかもしれませんね。」
メタに合わせた変更点
斉藤 「では、今後メタにあわせてデッキを変えるとすればどうするかを聞かせてください。」
清水「デッキの種類ごとに分けて、順にあげていきます。」
◆ビートが増えた場合
《赤霊破》系スペルや《Force of Will》というカウンターを減らしますね。そこの枠を火力にすると思います。《Force of Will》と似たような役割としてピッチスペルである《紅蓮操作》をメインにあげて多対1交換を早い段階でできる体制をとります。
サイドカードとしては《仕組まれた爆薬》や《罠の橋》というカードを増量します。
◆コンボが増えた場合
対ビートとは真逆の考えになります。火力を抜いて追加のカウンターを入れます。また《ダク・フェイデン》はプレインズウォーカーというカードタイプ的に少し遅いので減らすことになるでしょう。
サイドカードとして《白鳥の歌》のようなカウンターを採用します。流行っているコンボの種類によって対策アーティファクトを選択することによってサーチカードでサーチできる体勢を作りますね。例えばショーテルが流行っているようであれば《罠の橋》や《真髄の針》をドレッジが流行っているのであれば《墓掘りの檻》や《大祖始の遺産》を採用するでしょう。
◆テンポが増えた場合
アドバンテージで損をする《Force of Will》を抜き、コンボ特化しすぎていてリスクが高い《ライオンの瞳のダイアモンド》も減らします。
サイドカードとしては《呪文貫き》や《赤霊破》などの軽いカウンターを入れます。《Hymn to Tourach》を使うテンポが改めて増えるようであれば《方向転換》もおすすめです。《罠の橋》や《弱者の石》も有効的です。破壊しないといけないアーティファクトが多いため、相手からすると意外と処理しづらいようです。
◆コントロールが増えた場合
火力をなしにして、《求道者テゼレット》のような勝てるプレインズウォーカーをメインに複数枚採用します。プレインズウォーカーの候補として《紅蓮の達人チャンドラ》・《精神を刻む者、ジェイス》や、『タルキール覇王譚』で新しく登場した《龍語りのサルカン》もありだと思っています。
サイドカードとしては追加のプレインズウォーカーに加えて、《相殺》をしっかりカウンターしたいので《白鳥の歌》も採用するでしょう。
次回はペインターの弱点やサイドボードの考え方、ペインターの動きをあげての小テクを紹介するといったプレイ編をお届けします。
では、次回プレイ編でお会いしましょう。