いよいよ暑い夏がやってきた。
夏といえば皆は何を想像するだろうか。
お祭り?甲子園?花火?
なるほどなるほど。たしかに夏っぽい面々だ。
ただ、そんな夏っぽさを一口で味わえるイベントが有ることをご存知だろうか?
お祭りの夜店を漂う浮かれた熱気も、甲子園のドラマティックな涙も、線香花火の儚さも。
これらを余すことなく詰めこんだイベントこそが、『プロツアー』 なのだ!
・プロツアーって?
プロツアー(PT)とは、新エキスパンションが発売されてまもなくに行われる完全招待制のイベント。世界中の強豪が一堂に集い、総額約2500万円にも上る賞金と世界最強という名誉をかけて、技術と知識の粋を尽くして三日間にわたり競うトーナメントである。
今週末の8月1~3日に、アメリカはオレゴン州ポートランドでプロツアー『マジック2015』が開催される。スタンダード10回戦と『マジック基本セット2015』ブースタードラフト6回戦の予選ラウンドののち、予選ラウンドを勝ち抜いた上位8名によって、優勝者を決定するスタンダードのシングルエリミネーション3回戦が決勝ラウンドとして行われる。
※プロツアー『マジック2015』の詳しい関連情報については公式サイトの記事をご覧ください(「プロの技を見逃すな!プロツアー『マジック2015』をニコ生で目撃せよ!」)。
そんな今年の夏の代名詞にもなりうる大イベントの見どころを少しだけ紹介しよう。
豪華な実況・解説陣による生放送や臨場感あふれるテキストカバレッジを満喫するちょっと前に。
今年の夏をもっと楽しむための観戦ガイドはいかがだろうか?
■ 1.『マジック基本セット2015』ブースタードラフト観戦ガイド
『Mシリーズ』になってからというもの、基本セットは「ただの再録カードセット」という立場を崩し、ド派手な神話レアから少し癖のあるシナジーカードまでも収録した「新しいエキスパンション」という印象を強くしてきた。
これにより構築だけでなく、ブースタードラフトやシールドといったリミテッドにも顕著な変化が見られるようになった。
以前はバニラクリーチャーが多く、膠着しがちで守備的な戦略が主流だった基本セットだったが、『マジック基本セット2012』では「狂喜」によって膠着しやすい環境に攻撃的なアクセントが加わり、『マジック基本セット2013』の「賛美」も、「狂喜」同様に戦場の均衡が常に崩れるダイナミックなゲームを演出してくれた。
では、『マジック基本セット2015』は一体どのような環境なのだろうか?
ここではプロツアー『マジック2015』の参加予定者たちから漏れ聞いたいくつかのTIPSを紹介するとともに、観戦する際の注目のトピックを紹介しよう。
一.「召集」というメカニズムと環境の姿
先に紹介したように、近年の基本セットには必ず、「狂喜」や「賛美」のようなゲームの膠着を防ぐための工夫がなされてきた。
だが今回、『マジック基本セット2015』では「召集」という、一見膠着の直接的な解決にはならないキーワード能力が採用されている。
・召集
「この呪文の総コストにある色マナ1点につき、あなたはそのマナを支払うのではなく、あなたがコントロールするその色のアンタップ状態のクリーチャー1体をタップしてもよい。この呪文の総コストにある不特定マナ1点につき、あなたはそのマナを支払うのではなく、あなたがコントロールするアンタップ状態のクリーチャー1体をタップしてもよい。」
要するにクリーチャーを多くコントロールしているほど安く強力なカードを唱えられるという能力だ。元来はセレズニアギルドのキーワード能力だったため、トークンを複数生み出すカードなどと相性がいい。
この「召集」能力のおかげで軽量クリーチャーというだけでも価値が生まれ、重いけれど強いカードたちをデッキの工夫次第で軽く展開できるのが腕の見せどころだ。ゲームの序盤~中盤に「召集」で強力なクリーチャーを展開できれば、そもそも戦線は膠着せずに形勢は傾いていくだろう。
しかし、「召集」が膠着や遅いゲームを崩す鍵となっている理由は、何も「早いターンに見合わない重く強いアクションをとれるから」だけではない。
「召集」のリスクにも鍵は隠されているのだ。
「召集」とは、「本来なら戦闘で機能するはずの戦力をタップする」ことを代償に、格安でカードをプレイできる能力なのだ。つまり自分のアタッカーあるいはブロッカーをタップすることによる一時的な戦場の均衡を失うリスクを背負わなければならない。
これは「召集」する1ターンだけならばいいが、「次のターンに『召集』したいから戦闘で相討ちできない」などといった、ターンをまたいだ不便さもつきまとうため、ただただ正の面でゲームを膠着から遠ざけているわけではないのだ。
これらのことからうっすらと環境の姿が見えてきた。
・「召集」するプレイヤーは、より早く「召集」の恩恵を受けるために、軽量パーマネントを充実させる。
・「召集」しないプレイヤーも、タップアウトする対戦相手を咎めるために、序盤からプレッシャーをかける軽量パーマネントが必要になる。
もちろん、これらに加えて回避能力やクリーチャーの基本サイズといった基礎的な評価も環境を左右するものの、『マジック基本セット2015』ならではの「召集」をもつクリーチャーが与える影響はこのようなものになると考えられる。
二.戦線突破の鍵は戦闘トリックにあり
昨年の『マジック基本セット2014』のリミテッドには特別なキーワード能力はなかったものの、それでもシンプルに膠着を避ける要素が組み込まれていた。
それは強化型オーラである。
これらの強化型オーラはこれまでのMTGの常識であれば弱い類のカードだったが、『マジック基本セット2014』ではゲームを決定づける優秀なカードとして注目された。
このタイプのカードの強弱はすなわち、「2枚(クリーチャー+オーラ)を相手がどれほどの労力で対処できるか」にかかっている。たとえば環境の除去呪文が軽く強力であれば、オーラをつけることが非常にリスキーになるというわけだ。
その点でいうと『マジック基本セット2014』は除去呪文がおとなしく、強化型オーラがリスク以上の活躍ができる環境だった。
このような除去呪文の弱体化は最近のリミテッド環境のトレンドの一つで、「授与」というオーラがフィーチャーされた『テーロス』ブロックを経たことも関係しているのか、『マジック基本セット2015』においても除去呪文は従来に比べると物足りない性能のものが多い。
しかし『マジック基本セット2015』では、『マジック基本セット2014』にあったような強化型オーラは失われ、その代わりに除去呪文の弱体化の恩恵を受けたまた別のカードがあらわれた。
それは戦闘トリックである。
《巨大化》に始まり、クリーチャー戦闘の醍醐味でもある種類のカードだが、これも強化型オーラよろしく除去呪文に弱く(1枚で2枚を対処されてしまうおそれがあるため)、自分のクリーチャーが相手のクリーチャーを接触しないとプレイの機会がないことが弱点だった。おおまかな評価としては「条件付きの弱い除去呪文」といったところだろうか。
ただ、『マジック基本セット2015』には基本セットらしいバニラクリーチャーが多く、それらが接触する機会に溢れており、強力な除去呪文も少ないなどと、戦闘トリックの価値が極めて高い環境だったのだ。
また、トリッキーな「召集」のついた戦闘トリックが加わったことで、「呪文を構えるためにマナを残さなければならない」という機会損失のリスクも軽減されている。
・除去が弱い
・クリーチャーの接触が多い
・軽く予測困難な「召集」トリックがある
これらの要素から、膠着する戦線を突破する手段はシンプルながらも用意されていることがわかった。除去が強くシナジーも薄い環境などでは「飛行」などの回避能力がなければ膠着し続けることも珍しくなかったが、『マジック基本セット2015』では回避能力だけでなく戦闘トリックの数々が戦線をこじ開けてくれる。
三.注目のカードたち
「召集」と軽量クリーチャー、戦闘トリック。
『マジック基本セット2015』を語る上でのキーワードは見つけることができた。
それでは最後に、今回のプロツアーのブースタードラフトを観戦するときに注目すべきカードを数枚挙げてみよう。
・《三つぞろいの霊魂》
グランプリ台北14のクイックインタビューの一コマにあった質問がこれだ。
「『マジック基本セット2015』で一番強いコモンはなんですか?」
とてもありふれた質問の一つだが、その答えは満場一致でこの1枚の「召集」呪文だったのだ。(ひねくれ者が一人混じっていたが……)
印象深い《幽体の行列》を思い出すデザインだが、その効果も《幽体の行列》にこそ及ばないものの十分過ぎるものだ。
複数のクリーチャーを生むので次なる「召集」を活かせる、止まりにくい飛行のクリーチャーが出る、《清められた突撃》などとのシナジーもある。
強さを挙げるとキリがなく、単純にハイスペックな1枚である。
多くのアンコモンやレアなどよりも優先されるほどの強さなので、このカードがパックから、あるいはゲーム中に登場したら大きく状況や戦局が動くと考えて欲しい。
・《稲妻の一撃》
《火葬》の亜種である《稲妻の一撃》は、古くからの優秀火力の看板をそのままに『マジック基本セット2015』においても活躍する優良除去呪文だ。
これまで環境の特徴として除去呪文が弱いことを連ねてきたが、《稲妻の一撃》はそれに該当しない別格の性能を誇っている。
本体火力としても申し分なく、インスタントである点も戦闘トリックに対してまぎれもなく強力だ。
また、『マジック基本セット2015』における赤はシナジーが薄いながらも使うに値するカードの種類が多く、安定したクオリティのデッキが組みやすいため、『テーロス』ブロックのように「赤は《稲妻の一撃》だけ」などと揶揄されえないほどの強さであることも追い風だ。
《三つぞろいの霊魂》とまではいかないが、初手で喜んでピックできるカードの一枚だろう。
・《国境地帯の匪賊》
軽量クリーチャーの中でも最高スペックの1枚がこの《国境地帯の匪賊》だ。
攻撃時のみだがパワーが3に上昇し、『マジック基本セット2015』では破格のクロックを持っている。防御時は頼りないが、この環境の赤は防御的に振る舞うためのカードが足りていないため、そもそも防御することにはあまり注力せずともいい。
この《国境地帯の匪賊》の攻撃を戦闘トリックでバックアップし、ライフをゴリゴリと追い詰める。2ターン目に登場した《国境地帯の匪賊》の活躍には大いに期待しよう。
・《網投げ蜘蛛》
今回の緑はとてもおとなしい色だ。マナレシオ(コストに対するクリーチャースペック)が良いカードは相対的に多いものの、大きくテンポを揺るがすカードがなく、回避能力とは無縁の色だからだ。
そのため、どうしてもクリーチャーサイズを長い期間活かすためにライフを守る手段が必要なのだが、相手の「飛行」による細かいクロックが止まらずに一歩届かず敗北することも珍しくない。
そこでこの《網投げ蜘蛛》は、緑のデッキが中盤から終盤を支える上で、代わりの利かないカードと言える。
・強力なレアとアンコモン
これまでコモンを中心として環境を解説してきたものの、それはあくまでも「よくあるゲーム展開」でしかない。今までの話がある程度ここで台無しになってしまうとは心得つつも、最後に紹介するのが「ボム」と呼ばれる一撃必殺のレアやアンコモンだ。
基本セットとは非常にシンプルなカードの集合で、カード間にあるシナジーはとても小さい。そのため、レアやアンコモンに紛れ込んでいる一部のオーバースペックなカードが、ただただ多くのカードの上位互換として活躍してしまうことになる。
また、効果範囲もレアリティが高まるほど広くなる傾向があり、1:1のカード交換に勤しんでいる横で複数枚の交換を強いられるカードが登場すれば一気にゲームは壊れてしまう。
これまでのあらゆる環境でも「ゴッドレア」や「ボム」という呼称で恐れられたカードは数え切れないほどあるが、今回の『マジック基本セット2015』ではその存在感が比較にならないほど圧倒的だ。
唐突にゲーム内容が変わる様はとても刺激的だ。その制圧力は『マジック基本セット2015』環境を観戦するうえで大きな見どころとなるだろう。
以上が『マジック基本セット2015』のブースタードラフトの観戦ガイドとなる。
シンプルなカードで溢れているが、ピック中でもゲーム中もプレイヤー同士の駆け引きが楽しい環境だ。戦闘トリックに始まり、タイトなライフレースも大いに盛り上がることだろう。
唐突な「召集」や「ボム」の登場を見逃さず、プロプレイヤーたちのドラフトテクニックに期待しよう。
Part2はスタンダード観戦ガイドとなる。
それではPart2で会おう。