近頃では世間が冬季五輪の話題で持ちきりだが、一足遅れてMTG界隈にも待ちわびた冬の祭典がやってきたようだ。
最新エキスパンション『神々の軍勢』が発売されてから1週間と少し。
そう、プロツアー「神々の軍勢」だ。
世界各国から強豪が一同に集って腕を競う最高峰のトーナメントの模様は、公式メディアとニコニコ生放送から配信される予定となっている。金曜日から日曜日のそれぞれ午後5時~午前5時までというタフな放送スケジュールではあるが、まるごと半日かぶりついても良し、空いた時間にちらりと見ても十分に楽しめるに違いない。
そして気になるフォーマットは「モダン」である。
おそらく多くの方が馴染みのないフォーマットだろう。
スタンダードやレガシーと比べてしまうとマイナーな感は強いし、禁止改定などのショッキングなニュースが飛び交うことはあっても、実際にどのようなデッキがどういった戦いをしているかといった情報は少ないように思える。
そこで今回の記事では、プロツアー「神々の軍勢」で繰り広げられるゲームをより楽しむための前情報をお届けする。
週末のビデオマッチやテキストのカバレッジを読む際のガイドとして、おおまかなモダン環境の姿を捉える材料にしてほしい。
解禁された《野生のナカティル》や《苦花》が与えた影響とは?
《死儀礼のシャーマン》亡き後の環境の変容とは?
これらのトピックを中心にプレプロツアー環境を見ていこう。
1.モダン環境概説 ~3つのコロニーとローグについて~
それでは早速、現在のモダン環境の姿に迫ることにしよう。
まずは主要デッキなどの解説に入る前に、この図を見て欲しい。
これが現在のモダン環境の縮図となっている。
《死儀礼のシャーマン》が禁止指定を受けたことで猛威を振るい続けた「ジャンド」が鳴りを潜め、解禁された《野生のナカティル》が新環境のリーダーとなってメタゲームを牽引している。
この様子は図を見れば一目瞭然であり、4つに分かれているコロニーの内のほとんどが、《野生のナカティル》との関係を意識したものとなっているのだ。
まず1つ目のコロニーである『ボードプレッシャー』とは、広義的に「Zoo」を指している。
《野生のナカティル》を主軸に構築されたデッキがこのコロニーに属しているのだが、それらはヴァリエーションに富んだ構成をしていることが特徴的だ。その多くはアグロに属するような攻撃的な構成をしているのだが、中には《野生のナカティル》を「第2の《タルモゴイフ》」として運用するクロックパーミションも存在する。
過去の歴史を振り返ると、悪名高きプロツアー・フィラデルフィア11では《野生のナカティル》をコンボ対策のクロックとして採用したChannel Fireballの「Zoo」が猛威を振るい、半年後の禁止指定のきっかけを作ったことが印象的だろうか。
1ターン目から登場するパワー3の影響が小さい理由はなく、その対処を迫らせることでゲームの主導権を容易にたぐり寄せることができるのだ。
そのため、《野生のナカティル》を出した後のゲーム展開をどのように運ぶかという点で多様性があり、結果的に様々なヴァリエーションの「Zoo」を生み出す背景を作っている。
要約すると、《野生のナカティル》のプレッシャーが強すぎて相手がそれに構っている間に色々なことができるよ、ということだ。この万能かつ柔軟な戦略こそが「Zoo」の魅力でもある。
とりあえず新しい環境をリードするに十分過ぎるポテンシャルを秘めたアーキタイプ群であることは間違いない。
そして2つ目のコロニーである『ボードコントロール』とは、強力な《野生のナカティル》の群れを構造的に迎え撃つ集団だ。「キキジキ殻」「風景の変容」「青白系中速」「緑黒系中速」などがこの集団に属するデッキとして名を連ねており、《野生のナカティル》のプレッシャーを和らげる仕組みを組み込んでいることが彼らの特徴として挙げられる。
これらのデッキ群には、1つ目のコロニーのように同一のカードが中心に採用されているわけではない。色も違えば勝利手段や速度までまるで違うのだ。
それでは、彼らが1つのコロニーにまとめられる理由とはどこにあるのだろうか。
その理由とは、ボードへの耐性の高さにある。
《野生のナカティル》を軸にしたデッキたちは、それぞれの多様性が成立する理由を《野生のナカティル》が生み出す盤面へのプレッシャーに頼っている。
『《野生のナカティル》が切り拓いてくれた盤面の有利をどのように後押しするのか』
「Zoo」が演出するアグロやクロックパーミションといった多様な戦略とは『どのように後押しするか』の差でしかなく、上に挙げた前提がなければ成立しないものばかりなのだ。
それに対して2つ目のコロニーは、《野生のナカティル》の活躍を許さない作りをしている。《台所の嫌がらせ屋》などによる地上クリーチャーへのアンチに始まり、《神々の憤怒》や《仕組まれた爆薬》といった軽量リセットが盤上の均衡を崩さない。
結果、盤上の有利を作れない「Zoo」はあらゆるデッキの下位互換と化してしまう。たとえばライフへのプレッシャーは「バーン」よりも低く、対応能力は「緑黒系中速」には遠く及ばないといった具合にだ。
このように『ボードコントロール』とは、『ボードプレッシャー』の機能不全を狙ったアーキタイプ群なのだ。
図の外周を囲う最後のコロニーである『レンジ』とは、ボードへの干渉力が低い代わりに『ボードコントロール』などに構造的な優位をもったアーキタイプ群を指している。先に紹介した2つのコロニーとの関係を語るならば、『ボードプレッシャー』には弱く、『ボードコントロール』には強いといった傾向が強い。
通りのいい言葉を使うならば、『必勝パターン』を持っているデッキがこのコロニーに所属している。「青赤双子」「青黒フェアリー」「ヘイトベア」といった面々が代表的な存在だ。
4ターン目の《やっかい児》→《欠片の双子》。
2ターン目の《苦花》→《呪文づまりのスプライト》。
Xターン目の《レオニンの裁き人》を筆頭としたカウンターパーツ。
これらを筆頭にボードの形勢を無視した飛び道具をもち、その飛び道具である『必勝パターン』の成就にリソースの多くを注ぎ込んでいる。そのため、ボードへの干渉については「すぐに負けなければいい」程度に留めて、カウンターパンチに全てを賭けた構成のものが多い。
どのデッキにも『必勝パターン』は存在する(そうでなければ勝てないはずだ)が、このコロニーにあるデッキたちはその決定力が一際高いことが共通している。
しかし、彼らがソリティアかというと、そうではないことには注意しなければならない。
この『レンジ』に類されるデッキたちは、あくまでもボードへの干渉を最小限に留める代わりに、仮想敵のそれぞれに対して適した『必勝パターン』へと持ち込むことを選んでいる。
相対的なゲームスピードを意識して、いつどのように『必勝パターン』へと持ち込むのかを選択するデッキなのだ。
そのため、仮想敵がいなければ構築できず、環境が変化すればそれに応じて形を変えていく。
相手の攻勢を受け流す工程が必要なので『ボードプレッシャー』には苦しめられるものの、ゲームの展開をこちらが決定できる『ボードコントロール』相手には優位に立つことができる。
最後に紹介するのは、これまでに紹介した3つのコロニーとの相対的な関係を持たない『ローグ』である。
これらは古きよきコンボデッキのようにソリティアをすることをコンセプトにしており、メタゲーム上の価値は常に周囲からの対策され具合で決定される。
対策されていれば最弱、対策されていなければ最強。
このように落差がとても大きなアーキタイプの集団なのだ。
基本的には相対性はなく自らの行動のみによってゲームの趨勢が決まるため、これに類するデッキは例外なく早い。遅くとも3ターン目には相手から文句が飛んでくるようなアクションをできなければ2級品の評価を受けるというほどにハードルが高いので、このコロニーには「無色トロン」「呪禁オーラ」「感染」「親和」と、凶悪なコンセプトデッキが勢揃いしている。
とにかく早く凶暴なデッキが多く、個人的には最もモダンらしいと思うコロニーだ。
『ボードプレッシャー』<『ボードコントロール』<『レンジ』<『ボードプレッシャー』
といった三竦みの関係に、放置すると牙を剥くので見逃せない『ローグ』がちらりと顔をのぞかせる。
これが現在のモダン環境の構図だ。
カバレッジや生放送を見ている際に、どちらがどう有利なのかは、どのコロニーに属しているかを想像することで簡単ながら見えてくるだろう。
それではここからは各コロニーから、今回のプロツアーで活躍するであろう注目のアーキタイプを紹介していく。
2.『ボードプレッシャー』の注目株!!
先に述べたように、今大会における『ボードプレッシャー』には「Zoo」しかいない。
ただ、一口に「Zoo」といっても無数に種類があることは忘れてはならない。《野生のナカティル》が生み出す主導権をどのように活かすのかによって無数に種類は増えていくからだ。
そして無限にありうる選択肢の中でも、今回注目されるであろう形はこれだろう。
1 《山》 2 《踏み鳴らされる地》 2 《寺院の庭》 1 《聖なる鋳造所》 4 《乾燥台地》 3 《沸騰する小湖》 3 《霧深い雨林》 2 《湿地の干潟》 -土地- 4 《実験体》 4 《野生のナカティル》 4 《ゴブリンの先達》 4 《密林の猿人》 4 《壌土のライオン》 2 《苛立たしい小悪魔》 4 《タルモゴイフ》 2 《漁る軟泥》 4 《ゴーア族の暴行者》 -クリーチャー- |
4 《稲妻》 4 《流刑への道》 2 《ボロスの魔除け》 -呪文- |
3 《血糊の雨》 2 《火柱》 2 《古えの遺恨》 2 《稲妻のらせん》 2 《焼却》 2 《崇拝》 1 《天啓の光》 1 《血の墓所》 -サイドボード- |
細部やサイドボードに差はあれど、1マナ域のクリーチャーを連打して愚直にライフを詰める構成のなかでは一般的なものだ。《ゴーア族の暴行者》の登場によって《タルモゴイフ》が盤上を支配する環境は終わり、1枚それぞれのクオリティではなく手数差こそが同型の優劣を分けると考えられた結果、出来上がったリストである。
《実験体》という第2の《野生のナカティル》が加わったことで、予想をはるかに超える速度でのビートダウンが対戦相手を襲う。土地の枚数が少なく、そのほとんどが1マナで埋められているため、事故らしい事故をする要素がなく、いつでも安定して手札を使いきれる安定性が持ち味となっている。
2 《森》 2 《平地》 2 《踏み鳴らされる地》 2 《寺院の庭》 1 《聖なる鋳造所》 4 《乾燥台地》 4 《新緑の地下墓地》 2 《湿地の干潟》 1 《霧深い雨林》 2 《銅線の地溝》 1 《ガヴォニーの居住区》 -土地- 4 《野生のナカティル》 4 《貴族の教主》 3 《極楽鳥》 4 《タルモゴイフ》 2 《漁る軟泥》 4 《聖遺の騎士》 2 《ロクソドンの強打者》 2 《静寂の守り手、リンヴァーラ》 -クリーチャー- |
4 《稲妻》 2 《岩への繋ぎ止め》 3 《血染めの月》 1 《殴打頭蓋》 2 《ドムリ・ラーデ》 -呪文- |
2 《エイヴンの思考検閲者》 2 《最後のトロール、スラーン》 2 《Wear》 2 《焼却》 2 《神々の憤怒》 2 《忍び寄る腐食》 2 《崇拝》 1 《殴打頭蓋》 -サイドボード- |
これは先程とはまるで異なるコンセプトをもった「Zoo」である。
《貴族の教主》などのマナクリーチャーが採用され、そのブーストを経た《血染めの月》によるマナ制限を武器にしている。この《血染めの月》は特殊地形が満載されているモダン環境では一撃必殺の威力をもつ兵器である。
1マナ域の連打ではなく高マナ域で勝負する形となっているが、失ったスピードは《血染めの月》の阻害や強力な1枚1枚のインパクトで補っている。
『ボードプレッシャー』である「Zoo」の脅威である『ボードコントロール』は多色土地に頼った構成が多く、《血染めの月》はキラーカードとして働くため、本来は不利であるはずのマッチアップを逆転させるだけの力を持っている。また、軽量クリーチャーはまとめて軽いリセット呪文の被害に遭うが、中速度の《聖遺の騎士》や《ロクソドンの強打者》を対処する手段は限られる。そのことから簡単には負けない作りになっている点は頼もしい。
単純な速度で圧倒する「Zoo」か。
搦手を挟んだ相対的な速度を売りにした「Zoo」か。
どのような形の「Zoo」が登場するのか、そしてそれは何を意識して作られたものなのか。
《野生のナカティル》の是非で終わらせず、目の前に映る「Zoo」のコンセプトまで想像を働かせるとぐっと対戦が面白く見えてくるだろう。
3.『ボードコントロール』の注目株!!
今回のプロツアーにおける主役はおそらくこれに類するデッキになるだろう。
というのも、『ボードプレッシャー』である猫達が環境を牽引していることはあくまでも前提であり、「その状況をどのように勝ち抜くのか」というのが参加者に与えられた命題である。
そして、その前提に対して素直かつ優れた回答を示したものが『ボードコントロール』なのだ。
一見すると素直過ぎる選択には、更に一歩先、つまりこの場合で言うと『ボードコントロール』の増加を読んだ『レンジ』を選んだプレイヤーたちに虐められることになるのではないか、という心配がつきものかもしれない。
しかし、多くの大規模トーナメントにおいてそれは杞憂に終わることが多い。
なぜなら『ボードコントロール』はたしかに増加するが、前提である『ボードプレッシャー』が減ることがない限り『レンジ』が最も優れた選択にはなりにくいからだ。プレーオフにさえ残ってしまえば、周囲は『ボードプレッシャー』の海を勝ち抜いてきたデッキばかりなので有利にことが運ぶかもしれないが、現実はそう甘くない。
より優れた『ボードコントロール』を選ぶことこそが最高の選択となるはずなのだ。
6 《山》 3 《森》 1 《島》 4 《踏み鳴らされる地》 1 《蒸気孔》 1 《繁殖池》 4 《霧深い雨林》 1 《沸騰する小湖》 1 《ハリマーの深み》 4 《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》 -土地- 4 《桜族の長老》 4 《原始のタイタン》 -クリーチャー- |
4 《紅蓮地獄》 4 《差し戻し》 4 《イゼットの魔除け》 3 《遥か見》 4 《明日への探索》 4 《風景の変容》 3 《虹色の前兆》 -呪文- |
4 《強情なベイロス》 3 《古えの遺恨》 2 《白鳥の歌》 2 《自然の要求》 2 《焼却》 2 《神々の憤怒》 -サイドボード- |
これは基本的には《風景の変容》から大量の《山》と《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》をサーチすることで一撃死を狙うコンボデッキである。
しかし、『ボードコントロール』としてピックアップされてきたように《紅蓮地獄》や《虹色の前兆》+《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》といったリセット呪文によるボードへの干渉力が高いアーキタイプとしても知られている。
以前よりコンボとしては速度が遅く、干渉手段なしでは生き残れないことから泣く泣く採用されていたリセット呪文だったが、今ではそれこそが他のコンボデッキと一線を画する強みとなっている。
中には《稲妻》や《炎渦竜巻》が採用されているリストもあり、マナ加速と《風景の変容》》以外のスペースのやりくりには自由度がある。上で紹介したリストには《原始のタイタン》が採用されているが、それを排して《謎めいた命令》を加えてコントロール色を濃くしたリストも珍しくない。
ボードに干渉できる。一撃必殺の呪文がある。マナトラブルが少ない。
この三つの要素が「風景の変容」を支えている鍵である。
4 《島》 1 《平地》 2 《神聖なる泉》 2 《沸騰する小湖》 1 《湿地の干潟》 4 《金属海の沿岸》 4 《天界の列柱》 1 《秘教の門》 1 《永岩城》 4 《地盤の際》 1 《ムーアランドの憑依地》 -土地- 4 《瞬唱の魔道士》 2 《前兆の壁》 3 《刃の接合者》 3 《聖トラフトの霊》 4 《修復の天使》 -クリーチャー- |
4 《流刑への道》 4 《呪文嵌め》 4 《マナ漏出》 2 《四肢切断》 3 《謎めいた命令》 2 《至高の評決》 -呪文- |
3 《エイヴンの思考検閲者》 2 《戦争の報い、禍汰奇》 2 《太陽の槍》 2 《呪文貫き》 2 《機を見た援軍》 1 《解呪》 1 《否認》 1 《至高の評決》 1 《殴打頭蓋》 -サイドボード- |
これは若き日本人プレイヤーである_Nukesaku_謹製の「青白コントロール」だ。
古き良きというか一世代前の構成を掘り返してきたものだが、それは《死儀礼のシャーマン》がまだ世に存在しなかった時代だったことは興味深い。今まさにその時代へと回帰した以上、それが過去の構造であっても価値を取り戻すことになんの不思議もないのだ。
特筆すべくは《前兆の壁》と《聖トラフトの霊》だろうか。
前者はアンチ《野生のナカティル》の筆頭で、後者は《稲妻》でクリーチャーデッキを克服した気になっている全てのプレイヤーへのヘイトカードである。
《聖トラフトの霊》はかつてスタンダード環境を席巻した1枚だったが、同様にモダン環境においても最大風速のクロックとして立場を保っている。《修復の天使》とのコンビを始めとして一昔前のスタンダードに親しんだプレイヤーにとっては愛着が生まれるデッキかもしれない。
これまでこの手の「青白コントロール」には《稲妻》のために赤を加えるリストが多かった。多色化によって確かに《野生のナカティル》は捌きやすくなる。しかし1ターン目にプレイすることを前提とすると、「《沸騰する小湖》をクラックして《蒸気孔》を持ってきて除去」という工程を避けることはできず、多色化する弊害としてフェッチランドとショックランドによるライフの損失は重大な問題としてプレイヤーたちを悩ませていた。
「上手く捌いているような気はするけど、計上すると土地から5点もダメージを受けている」
「その損失は《稲妻のらせん》で補うにしても《稲妻のらせん》はほとんど『ボードプレッシャー』にしか強くないカードだ」
「かと言って《稲妻のらせん》を減らすと『ボードプレッシャー』に勝てないから、この構成である理由がない」
このようなジレンマが取り巻くなかで復活した「青白コントロール」は環境に一石を投じる存在になるだろう。土地からのダメージは少なく、マッチアップによって無駄になるカードが少ない。その分だけ偏りが生んでいた従来の強みも失われているが、事故が少なくバランスが良いという要素は、長いゲームを戦う『ボードコントロール』にとって欠かせないものだ。
自由度が高い青いコントロールは製作者の意図が反映されることが多い。そのため色の構成やカードの選択は正直にプレイヤーの思考を語る。観戦している際に青いコントロールが登場したら土地や呪文の選択に注目してみるといいだろう。正確ではなくともプレイヤーの思考をたどってゲームの行方が見えてくるはずだ。
1 《森》 1 《平地》 1 《聖なる鋳造所》 1 《踏み鳴らされる地》 1 《蒸気孔》 1 《寺院の庭》 1 《繁殖池》 1 《神聖なる泉》 3 《乾燥台地》 3 《霧深い雨林》 4 《燃え柳の木立ち》 2 《火の灯る茂み》 1 《剃刀境の茂み》 2 《ガヴォニーの居住区》 -土地- 4 《極楽鳥》 4 《貴族の教主》 3 《復活の声》 1 《根の壁》 1 《前兆の壁》 1 《獣相のシャーマン》 1 《漁る軟泥》 1 《幻影の像》 1 《呪文滑り》 2 《詐欺師の総督》 2 《台所の嫌がらせ屋》 1 《狡猾な火花魔道士》 1 《刃の接合者》 3 《修復の天使》 1 《エレンドラ谷の大魔導師》 1 《残忍なレッドキャップ》 1 《静寂の守り手、リンヴァーラ》 2 《鏡割りのキキジキ》 1 《士気溢れる徴集兵》 -クリーチャー- |
4 《出産の殻》 1 《ドムリ・ラーデ》 -呪文- |
3 《流刑への道》 1 《戦争の報い、禍汰奇》 1 《漁る軟泥》 1 《復活の声》 1 《クァーサルの群れ魔道士》 1 《エイヴンの思考検閲者》 1 《ロクソドンの強打者》 1 《調和スリヴァー》 1 《強情なベイロス》 1 《なだれ乗り》 1 《スラーグ牙》 1 《否認》 1 《ドムリ・ラーデ》 -サイドボード- |
あまりのクリーチャーの種類に目を回しそうになるが、基本的には《修復の天使》+《鏡割りのキキジキ》のコンビで勝利するコンボである。
動きのヴァリエーションが多いので詳しい説明は避けるが、マナクリーチャーから適当なクリーチャーである《台所の嫌がらせ屋》や《復活の声》を展開して、《出産の殻》を数回起動すると不思議とコンボが揃っている。
プレイというか選択肢の複雑さと雑多なカードを引いてくるストレスから忌避されることが多いデッキだが、ボードの強さが環境随一なことは魅力的だ。ボードの強さは《台所の嫌がらせ屋》や重厚な2マナ域が演出しているが、素晴らしいことにそれらを起点として必要なタイミングで最高のパーマネントが供給される構成となっているのだ。
似たようなクリーチャーコンボでは「双子」が存在するが、彼らのコンボはそれ単体では大した仕事をせず、重ねて引いてきた日には使い余すことも珍しくない。そのため、コンボに特化して速度や決定力を高める作りとなっているが、「キキジキ殻」のアプローチはその正反対である。
ボードを止めるカードが余ったら段々とコンボが揃う。
そんな都合のいい作りになっているのだ。その分だけ最高速は遅いものの、相手がバテるまで順番に脅威を投入し、消耗戦や分水嶺に差し掛かったらコンボを揃えてゲームを終わらせてしまうのである。
ただ、とにかく重く遅いこと、難しいことが弱点である。
マナと時間さえあればどんなデッキも打倒できるものの、逆にそれがなければ消化不良で負けてしまうのだ。一ターン目のマナクリーチャー、《出産の殻》、ミスなくプレイできる時間といった条件さえクリアできれば最高峰なのだが、それを同時に達成することは難しい。
しかし、今週末に目にするのは世界最高峰の戦いなのだ。
きっと最高のドローと最高のプレイスキルをもった「殻」の使い手がビデオマッチに登場するに違いない。その時にはプレイヤーの立場にたって難解なパズルへと共に取り組んでみると面白いかもしれない。あなたは彼らの思考を越えることができるだろうか。
2 《沼》 1 《森》 2 《血の墓所》 1 《踏み鳴らされる地》 1 《草むした墓》 4 《新緑の地下墓地》 1 《湿地の干潟》 4 《黒割れの崖》 4 《怒り狂う山峡》 2 《黄昏のぬかるみ》 2 《地盤の際》 -土地- 4 《闇の腹心》 4 《タルモゴイフ》 3 《漁る軟泥》 3 《台所の嫌がらせ屋》 2 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 -クリーチャー- |
4 《稲妻》 4 《コジレックの審問》 2 《思考囲い》 4 《突然の衰微》 2 《大渦の脈動》 4 《ヴェールのリリアナ》 -呪文- |
4 《大爆発の魔道士》 4 《死の印》 2 《思考囲い》 2 《古えの遺恨》 2 《仕組まれた爆薬》 1 《地盤の際》 -サイドボード- |
『ボードコントロール』の最後の紹介するのがかつての王者である「ジャンド」だ。
《野生のナカティル》の解禁とともに《死儀礼のシャーマン》が禁止指定を受け、最も代表的な《死儀礼のシャーマン》デッキだった「ジャンド」は一気に陥落した。
と、世間的には考えられている。
しかし、これは大きな間違いなのだ。
「ジャンド」は依然として強力なデッキなのである。まず『ボードプレッシャー』に対してはハンデスと軽量除去によって分があり、後述する第二の覇者である「双子」に対してはカモといえるほど構造的な相性差を誇っている。
「キキジキ殻」といったタフな『ボードコントロール』には不利なものの、サイドボードまで含めるとそう悪い勝負にはならない。
手札破壊という現環境から失われた要素を持ち合わせている「ジャンド」は、「双子」にはもちろん、速度を意識したキーカードデッキ全てに対しての優位を持つことができる。以前と比べると《ヴェールのリリアナ》は重く使いにくいカードになってしまったが、それでも十分すぎるほどの働きは期待できるカードだ。
強いていうなら《闇の腹心》が物議を醸し出すカードなのかもしれない。物量を生み出す「ジャンド」の代名詞とも呼べるカードだが、現在の『ボードプレッシャー』の圧力は凄まじく、負けるゲームの多くはテンポを生み出さない《闇の腹心》を抱えるゲームだったのだ。
これまで《死儀礼のシャーマン》が補ってくれたライフリソースの代わりはなく、周囲の攻撃力は増す一方である。そのため、サイドボード後を合わせると四枚だが、メインボードの数は減らすべきなのかもしれない。この辺りの調整の是非についてはプロツアーにおけるプロたちの選択に期待したい。
4.『レンジ』の注目株!!
いよいよ3つ目のコロニーについて話を進めよう。
このコロニーに属するデッキたちは『ボードプレッシャー』には弱く、『ボードコントロール』には強いという面を持っている。これはボードへの干渉力以上に自身のデッキの『必勝パターン』を強化する方向に努めた結果だ。相手の攻勢を受けきった後に反撃に転じずとも、自身の『必勝パターン』を死なないタイミングで達成すればよいからだ。
ただ、この死なない程度に受けるという都合のいい言葉が『ボードプレッシャー』への弱さに繋がっている。ギリギリで死なないように構成するということは、ドローやプレイに不都合が少しでも起これば死んでしまうということでもあるのだ。あるいは相手の攻め手がこちらの想像を凌駕した瞬間に簡単に敗北が訪れる。
紙一重のゲームを渡りきれば『ボードプレッシャー』にも勝るが、綱から落ちれば即座に敗北という危険が隣り合わせのデッキたちが集まっている。
ただ、相手を受けきることを考えている『ボードコントロール』には、こちらが一方的に攻勢を仕掛けられるため、『必勝パターン』という心強い味方をもつ『レンジ』は往々にして有利なゲーム展開を進めることができる。
6 《島》 3 《山》 3 《蒸気孔》 1 《踏み鳴らされる地》 4 《沸騰する小湖》 4 《霧深い雨林》 2 《硫黄の滝》 -土地- 2 《呪文滑り》 4 《詐欺師の総督》 3 《やっかい児》 2 《猿人の指導霊》 2 《鏡割りのキキジキ》 -クリーチャー- |
2 《否定の契約》 4 《血清の幻視》 4 《手練》 2 《払拭》 2 《白鳥の歌》 2 《差し戻し》 2 《神々の憤怒》 2 《血染めの月》 4 《欠片の双子》 -呪文- |
2 《猿人の指導霊》 2 《払拭》 2 《呪文貫き》 2 《古えの遺恨》 2 《焼却》 2 《仕組まれた爆薬》 1 《呪文滑り》 1 《神々の憤怒》 1 《血染めの月》 -サイドボード- |
古き良き時代まで舞い戻った「双子」である。
昨今の「双子」の特徴として《やっかい児》+《欠片の双子》というメインコンボに特化しないという方向性が挙げられる。これは「ジャンド』が流行していたという背景から、コンボ特化ではなく、隙を見てコンボを決められればいいなといった具合にまでコンボ精度を減らすことが肯定されていたからである。
「テンポ双子」と呼ばれていた当時の「双子」は、《稲妻》と《瞬唱の魔道士》を小さく使いまわすことでライフレースとボードで優位に立ち、こらえ切れなくなった相手にたまたま揃ったコンボを提示する。今の区分でいうと『ボードコントロール』に相当するコンセプトをもったデッキだったのだ。
しかし、「ジャンド」の数が減り、猫達が賑わい高速化する環境を前に「双子」も従来のコンセプトに寄せる意義を見つけ始めたのだった。
なんといっても手札破壊をされないためコンボが揃ってしまうのだ。あと足りない要素といえば速度と決定力といったところで、それを埋めるための工夫として《血染めの月》に注目が集まった。
従来より見られるオプションだが、現環境におけるそれはメインボードからでも十分な決定力として働くようになっている。コンボの阻害や展開を妨げる他にも、多色化したデッキを咎め、「トロン」や「風景の変容」といった土地依存のコンボデッキへのアンチカードとしても期待できるからだ。
モダン最初期のプロツアー・フィラデルフィア11を制したSamuele Estrattiの「双子」を彷彿とさせる作りとなったが、ニュースクールの筆頭である「テンポ双子」とオールドスクールの「双子」のどちらが優れているかは未だ答えが出ていない。
今回のプロツアーでその優劣が分かるのだろうか。僕自身も楽しみなトピックの一つである。
4 《島》 4 《闇滑りの岸》 4 《忍び寄るタール坑》 4 《涙の川》 s 4 《人里離れた谷間》 4 《変わり谷》 2 《地盤の際》 -土地- 4 《呪文づまりのスプライト》 3 《ウーナの末裔》 3 《霧縛りの徒党》 -クリーチャー- |
3 《呪文嵌め》 3 《コジレックの審問》 2 《思考囲い》 3 《マナ漏出》 2 《苦悶のねじれ》 1 《破滅の刃》 1 《燻し》 4 《謎めいた命令》 4 《苦花》 1 《饗宴と飢餓の剣》 -呪文- |
4 《死の印》 3 《誘惑蒔き》 3 《仕組まれた爆薬》 2 《ヴェンディリオン三人衆》 2 《ジェイス・ベレレン》 1 《思考囲い》 -サイドボード- |
MO界隈の雄であるOsmanozgneyのリストに若干の変更を加えたものが以上のものだ。
再三に渡って繰り返してきたように『ボードプレッシャー』に弱いデッキの代表格である「青黒フェアリー」は、《苦花》の解禁というニュース性が優ることはなくしばらくの沈黙を続けていた。やはり1ターン目のクロックが厳しく、1マナ主体の構成とマッチアップしようものなら、ゲームの序盤から終盤までひたすらにテンポを取られ続けて力負けするといった有り様だったのだ。
しかし、環境も『ボードプレッシャー』一辺倒ではなくなり、『ボードコントロール』が対応を始めた頃に「青黒フェアリー」はすこしずつエンジンに火を灯し始めた。
先の段落で『ボードコントロール』が優れた選択肢であると述べた際に、『ボードコントロール』を標的としたデッキを選択することの難しさについて触れた。それはすなわち今大会において『レンジ』を選択することへの否定でもあったのだが、それはあくまでもデッキ目線での話でしかない。
もちろん、これまでデッキについて話してきたのだから目線はデッキ同士の関係に定まっているのだが、『レンジ』を選択するプレイヤーを肯定する理由として、プレイスキルが挙げられることについては忘れてはいけないだろう。
『レンジ』に該当するようなボードへの干渉力が弱いデッキは、冒頭で語ったように僅かなプレイミスやドローの不具合で『ボードプレッシャー』に敗北してしまう。そのため、現在のように『ボードプレッシャー』がリーダーだと考えられるような環境においては、完璧にプレイできてようやくスタートラインに立てる程度の弱いデッキだ、という評価がデッキ視点からは下される。
なぜならデッキ視点における強いデッキの評価点には「ミスや不都合が許容されること」が条件に加わるからだ。誰が使っても勝てるデッキは紛れも無く強いデッキで、誰かでないと勝てないデッキは、プレイヤーが強いだけでデッキは弱いと判断できてしまう。
しかし、実際的な話をすると「青黒フェアリー」はそんなに低い評価が下されるべきデッキではない。今回のプロツアーでも何回かは顔を見せるだろうし、プレーオフに残ってもなんの不思議もない。なぜなら「青黒フェアリー」を選択するプレイヤーたちは『ボードプレッシャー』に勝てる人々だからだ。
総合的な視点で考えたときの弱いデッキとは、強いプレイヤーが使っても勝てないデッキのことである。
今回の「青黒フェアリー」は逆風の中にあっても、タイトロープを渡れば勝利を掴むだけのポテンシャルを持っているのだ。そこを忘れていないフェアリー愛好家やスキルマスターはきっと手に取り勝利を積み重ねることだろう。
ビデオマッチに登場した際には、彼らの誇り高いスキルとフェアリーへの深い愛情に注目してみよう。
2 《森》 2 《平地》 4 《寺院の庭》 4 《剃刀境の茂み》 3 《地平線の梢》 2 《活発な野生林》 4 《幽霊街》 2 《ガヴォニーの居住区》 -土地- 4 《貴族の教主》 1 《極楽鳥》 4 《レオニンの裁き人》 3 《スレイベンの守護者、サリア》 3 《漁る軟泥》 3 《クァーサルの群れ魔道士》 3 《復活の声》 4 《ロクソドンの強打者》 2 《エイヴンの思考検閲者》 2 《ミラディンの十字軍》 2 《静寂の守り手、リンヴァーラ》 2 《悪斬の天使》 -クリーチャー- |
4 《流刑への道》 -呪文- |
4 《虚空の杯》 3 《仕組まれた爆薬》 2 《呪文滑り》 2 《最後のトロール、スラーン》 2 《忍び寄る腐食》 2 《崇拝》 -サイドボード- |
このリストを見てページを閉じようとした人も少なくないだろう。
まあ見るからに弱そうなのだから仕方ない。
基本的な勝ち筋は右から左へとクリーチャーを並べ、賛美のバックアップを経てちまちまと攻撃していくことしかないデッキなのだ。
しかし、その並べていくクリーチャーというものが厄介極まりないものばかりである。
《レオニンの裁き人》に始まり、《スレイベンの守護者、サリア》や《復活の声》がそれに続く。そして彼らにバックアップされた盤面を《流刑への道》と《幽霊街》》が襲うのだ。
サーチ能力を制限する《レオニンの裁き人》の能力は《血染めの月》と同程度のヘイトとして働く。「トロン」や「殻」などはそもそものアイデンティティを否定され、少しでもフェッチランドを多く採用していればデッキコンセプトとは別の内容で機能不全に追い込まれてしまうのだ。
この《レオニンの裁き人》の環境下では《流刑への道》は最強の除去となり、《幽霊街》は《露天鉱床》に早変わりすると考えると恐ろしさが伝わるだろうか。「ヘイトベア」と戦うということは決してまともなゲームはさせてもらえないということでもある。
ただ、あくまでもクリーチャーの集合体でしかなく、それぞれの単体のスペックが飛び抜けていいわけでもないことが「ヘイトベア」の弱点だ。あくまでも見た目通りの頼りないカードしか展開されないため、最序盤のぐだぐだから抜けだしてしまえば烏合の衆を相手にするだけで十分なのである。
しかし、先に挙げた「トロン」や「殻」やフェッチランドを多く採用したデッキなどは必ず序盤の足の引き摺り合いに持ち込まれるため、相手は烏合の衆とはいえなかなか手が回らずに敗北してしまう。
「ヘイトベア」とはとにかく相手をスローダウンさせるデッキであるため、『ボードコントロール』のように相手の攻勢を捌くことをコンセプトに据えたデッキでは「ヘイトベア」の策略にまんまとハマる羽目になってしまう。かと言って『ボードプレッシャー』のように軽く攻め立てるデッキでは、サイドボード後の《仕組まれた爆薬》や《崇拝》に絡め取られてしまうのだ。
モダン環境にデッキは数多くあれど、「ヘイトベア」は都合よく動いた時に最も効果が大きいデッキの筆頭だろう。出されるカードに惑わされる事なかれ。戸惑っている間に泥沼へと引きずり込まれてしまう。
5,『ローグ』の注目株!!
いよいよ最終節である。ここまで多くのデッキとモダン環境の見どころを紹介してきたが、お気に入りのデッキは見つけられただろうか。
まだ見つかっていないというならば、あなたは中々な面食いに違いない。これまでのような普通のMTGでは満足ができない方なのだろう。
それならばここで紹介する『ローグ』のデッキたちはきっと御目に叶うに違いない。
なぜなら『ローグ』とはモダン環境で激しく強力なデッキたちの集団なのだ。
対策されていなければ最強候補。対策されていれば最弱候補。
そんなピーキーなデッキたちがこれだ。
2 《森》 4 《燃え柳の木立ち》 4 《ウルザの鉱山》 4 《ウルザの魔力炉》 4 《ウルザの塔》 1 《幽霊街》 1 《ウギンの目》 -土地- 3 《呪文滑り》 3 《ワームとぐろエンジン》 2 《隔離するタイタン》 1 《引き裂かれし永劫、エムラクール》 -クリーチャー- |
4 《古きものの活性》 4 《森の占術》 3 《炎渦竜巻》 4 《彩色の宝球》 4 《彩色の星》 4 《探検の地図》 4 《忘却石》 4 《解放された者、カーン》 -呪文- |
4 《自然の要求》 3 《焼却》 3 《大祖始の遺産》 2 《精神隷属器》 1 《呪文滑り》 1 《ワームとぐろエンジン》 1 《炎渦竜巻》 -サイドボード- |
まず筆頭としてあげられるのがこの「無色トロン」だろう。
ほぼトロンランドしか置かないため、3ターン目や4ターン目には大量のマナから《解放された者、カーン》や《ワームとぐろエンジン》が登場するという恐怖のデッキとして名高く、3ターン目の《解放された者、カーン》はモダンプレイヤーの誰もが体験する理不尽の一つである。
名前の由来でもある《彩色の宝球》など数多のアーティファクトは、トロンランドを置きながらも《古きものの活性》や《森の占術》といった有色のサーチ呪文へのアクセスを可能にしている。マナ調整だけでなくキャントリップとしてドローを進められるため、まさにこのデッキのために存在していると言っても過言ではないほどの活躍を見せてくれる。
マナを捻出した後にプレイするものは強力な呪文であればなんでもいいのだが、中でも一際強力なものが《隔離するタイタン》すつである。高速のデッキには大した効果はないものの、多色化に伴いショックランドを採用しているようなデッキには抜群の効果を発揮する。
現在の環境において周囲からの「トロン」への意識はそこまで高くない。《地盤の際》などは採用されているものの、《石のような静寂》といったキラーカードまでこぞって採用しているわけではない。採用率が上がっており若干の脅威である《血染めの月》は、サイドボードからは対処できるうえに《忘却石》で流せてしまうものなので気に病むレベルでもないだろう。
ただ、今回のプロツアーにおける「トロン」が抱えている懸念としては天敵である「双子」がそれなりの注目を集めていることだ。
双子コンボへの対処手段もなく重い呪文を適当に唱えるだけの「トロン」は、「双子」にとってなによりの大好物である。サイドボードから《倦怠の宝珠》や《焼却》といった対策を積むことはできるが、《古えの遺恨》》や《巨森の蔦》といった定番サイドボードで回避されてしまうのが辛いところだ。
その分「キキジキ殻」や「ジャンド」といった『ボードコントロール』には驚異的な相性を誇るため、メタゲーム次第では活躍の機会が回ってくるかもしれない。
また、当たるデッキはもちろんだが、何よりも自分のトロンランドが揃うかどうかが重要である。最速で揃った際の展開力はすさまじい物があるため、まだ動きを見たことがない方は今からビデオマッチを楽しみにしていて損はないことを約束しよう。
1 《森》 4 《寺院の庭》 1 《ドライアドの東屋》 4 《霧深い雨林》 2 《新緑の地下墓地》 4 《剃刀境の茂み》 4 《地平線の梢》 1 《樹木茂る砦》 -土地- 4 《林間隠れの斥候》 4 《ぬめるボーグル》 4 《コーの精霊の踊り手》 -クリーチャー- |
4 《天上の鎧》 4 《ハイエナの陰影》 4 《蜘蛛の陰影》 4 《鋭い感覚》 4 《怨恨》 4 《夜明けの宝冠》 3 《霊魂のマントル》 -呪文- |
4 《神聖の力線》 3 《石のような静寂》 2 《流刑への道》 2 《自然の要求》 2 《四肢切断》 2 《倦怠の宝珠》 -サイドボード- |
昨年の夏に開催されたマジック:ザ・ギャザリング世界選手権2013の模様を覚えている方にとっては記憶に新しいかもしれない。
Shahar Shenharと決勝を戦ったReid Dukeが駆ったデッキこそがこの「呪禁オーラ」だったのだ。
動きは単純明快だ。呪禁クリーチャーを場に出し、ありったけのオーラ呪文を張り付けていくだけ。大きくなったボーグルで2回ほど小突くと勝利はすぐそこにある。
かつて「呪禁オーラ」はリスキーなデッキだと考えられることが多かった。
それは環境を支配している「ジャンド」のキーカードである《ヴェールのリリアナ》にまるで刃が立たなかったからだ。折角大きく育てた呪禁生物が一発で落とされてしまうため、何かとプレイが難しく、手札にためていては手札破壊の的になったりと苦労が耐えないアーキタイプだったのだ。
しかし、時代は移って《ヴェールのリリアナ》の姿を見なくなった現在は、まさに「呪禁オーラ」が活躍するにふさわしい環境なのかもしれない。『ボードプレッシャー』が演出する愚直なゲームプランには滅法強く、『ボードコントロール』では受け切れないほどの攻撃力を持ちわせているからだ。
貴重なオーラ呪文を吸い込んでしまう《呪文滑り》には依然として悩まされ、《仕組まれた爆薬》が厳しい展開も考えられる。ただ、それらは所詮はサイドボード後の話であり、メインボードで無双できるのならば申し分ない。こちらもサイドボードからは《石のような静寂》という最終兵器があるため、アーティファクトだけに苦労することも少ないのだ。
メインボードにおける《ヴェールのリリアナ》の脅威が去った今こそ「呪禁オーラ」の真価が試される時だろう。果たして予定通りの勝利を重ねることができるのか、それとも《天啓の光》のような対策呪文に沈められてしまうのだろうか。
見え見えのノーガードに飛び込むことができるのか。飛び込む勇気はいらないが、結果的にはノーガードに見せかけたカウンターモーションだったということもなくもない話である。本当に対策は薄いのか。ローグにとっては死活問題なだけにプロツアー本戦の模様が今から楽しみだ。
2 《森》 2 《繁殖池》 2 《草むした墓》 4 《霧深い雨林》 4 《新緑の地下墓地》 2 《ペンデルヘイヴン》 4 《墨蛾の生息地》 -土地- 4 《貴族の教主》 4 《ぎらつかせのエルフ》 4 《荒廃の工作員》 4 《疫病のとげ刺し》 -クリーチャー- |
4 《変異原性の成長》 4 《地うねり》 4 《古きクローサの力》 4 《巨森の蔦》 4 《怨恨》 3 《使徒の祝福》 1 《ひずみの一撃》 -呪文- |
4 《自然の要求》 3 《四肢切断》 2 《呪文滑り》 2 《呪文貫き》 2 《突然の衰微》 2 《野生の抵抗》 -サイドボード- |
個人的に思い入れの深いである「感染」が最後に紹介するアーキタイプだ。
軽量の感染クリーチャーにありったけの強化呪文を叩き込むのだが、先に紹介した「呪禁オーラ」のように除去耐性があるわけでもないので、シンプルな作業とは裏腹に決して簡単とはいえないデッキである。
《稲妻》のようなダメージ除去には強いことは幸いだが、《流刑への道》や《突然の衰微》などには苦労させられる。『ローグ』らしく対戦相手への干渉能力が皆無なので、ダメージレースに発展でもするとファイレクシア呪文を採用している都合からとてもタイトなゲームを強いられることが多い。
ただ、その苦悩とはなまじ対応できてしまうから生じる悩みなのは面白い。仮に除去を持たれていたら負けてしまうデッキならば迷わず除去を持っていないことにかけて突っ込むべきだが、この「感染」には合計して7枚もの除去よけが搭載されていることが悩みを生みだしている。
あと1枚巨大化呪文を通せばゲームに勝つことができるのだが、それをプレイしてしまうと除去よけの呪文を構えるマナがなくなってしまう。といった状況が頻繁に発生するのだ。こういった場面多くは欲張らずに除去よけを構えて戦うことが望ましいが、1ターン差を競うようなゲームになってしまうとどちらが正しいという判断を下すことは容易なことではない。
実際にはゲーム開始時からいくつかの分岐を予想しておくべきなのだが、そのチャート通りにゲームが進行しないことも少なからずある。そのようなワンタイムな勝負を如何に戦うかが「感染」において最も難しい瞬間だ。
デッキの特性としては《呪文滑り》と《シルヴォクののけ者、メリーラ》にとことん弱いが、それ以外には速度と除去耐性によってなんとでも戦えてしまう強さを持っている。黒を濃くして《呪文滑り》を捌く《突然の衰微》を多く採用し、相手の除去に耐性を持つ《ファイレクシアの十字軍》を主軸にした構築も存在する。
重くなってしまう分だけ速度という持ち味は削られるが、コンボデッキとしての確実性は増すため、想定する環境に応じた取捨選択が望ましいだろう。
現在の環境では《稲妻》と《流刑への道》は珍しくなく、「感染」にとって悩ましい場面は少なくないだろう。そこで《野生の抵抗》や《ファイレクシアの十字軍》をオプションに据えた形はいい選択となるだろう。どちらも重さがネックとなるため、土地を五色地形に揃えたのちに《猿人の指導霊》で加速するといった工夫は必須になると予想される。
シンプルに自分が《呪文滑り》を採用することも悪くないため、そのあたりのバランス調整は使用者によって分かれる内容になる。個人的には《野生の抵抗》と《呪文滑り》の使い心地がよかったが、プロツアー本戦で活躍する「感染」はまた違った工夫を施しているかもしれない。
ビデオマッチでは「感染」の苦悩と構築の工夫に注目してみてみると短いゲームながらぐっと面白くなるに違いない。
6,まとめ
それぞれが相対的な関係をもって変化し続ける『ボードプレッシャー』『ボードコントロール』『レンジ』の三竦みの構図はプロツアー本戦を語る上で重要な要素となる。
《野生のナカティル》を中心に動き始めた新環境は「Zoo」を筆頭とする『ボードプレッシャー』をどのように『ボードコントロール』が捌くのかがひとつの焦点となっている。
その後に見えてくる『ボードコントロール』と『レンジ』の争いが事態を複雑にし、『ボードプレッシャー』がただ対策されるだけの存在ではないことが明らかにされるだろう。
その合間にアクセントとして登場する『ローグ』は、その名の通りはぐれもので、他のアーキタイプとデッキ構築上の関係を持っていない。あくまでも彼らは自身がやりたいことを全うできるかどうかで価値が決まるのだ。
そして、他のアーキタイプは『ローグ』を野晒しにすることはできない。彼らのポテンシャルは高く、対策されていない状態では明らかに強すぎるデッキだと考えられるからだ。では何を対策して何を放置するのか。全てを対策することはできず、そこでも取捨選択が行われる。
三竦みから抜け出すコロニーはどれか。
対策の網を掻い潜った『ローグ』はどれなのか。
いよいよ数日後に迫るプロツアーでその真実が明かされる。
是非共に世界最高峰のプレイスキルと高度なメタゲームを堪能しよう。
それでは全ての参加者の幸運を祈って筆を置くことにする。
それではまた!!