情報を制す者はマジックを制す。
特にSNSによる情報交換が盛んな現代、口コミがその後のメタゲームに与える影響は計り知れない。
すなわち、バズってる(話題になっている)カードを知ることは、メタゲームの把握と予測の大いなる助けとなることだろう。
当企画では、そんな「今、バズってるカード」を週刊で追っていきたいと思う。
カードの紹介に入る前に、先週行われたイベントやマジック関連の主な出来事を簡単におさらいしよう。
【『マジック:ザ・ギャザリング ― 統率者(2015年版)』発表】
カジュアルフォーマットファンに朗報! 今年も『マジック:ザ・ギャザリング ― 統率者』が発売されることが発表された。
多人数戦フォーマット「統率者戦」の詳しい説明については【こちらの記事】を参考にしてほしい。知っているという方も、晴れる屋スタッフ・大塚による体を張った記事はぜひ一度ご覧いただきたい。
本セットでは対抗色の組み合わせがフィーチャーされているそうで、新たに『経験カウンター』なる要素が追加されるとのことだ。詳細についてはまだ謎のままだが、「ゲーム中に統率者の力を高める」ものらしい。
さらに55枚の新規カードがレガシーとヴィンテージで使用可能となる。過去にも『統率者』からは《真の名の宿敵》(C13)や《漁る軟泥》(CMA)など強力なクリーチャーが多数追加されたこともあって、こちらも期待が高まる。
【『戦乱のゼンディカー』の土地】
【Wizards of the Coast】のヘッドデザイナー・Mark Rosewater氏のTumblr【Blogatog】にて、2015年10月2日に発売される新セット【『戦乱のゼンディカー』】の情報が発表された。
homestuck413 said: First of all love your work. Secondly: Any chance for new full art lands in battle for zendikar or the other 5 fetches? Answer: I’ve been getting these two questions about Battle…
氏のTumblrのエントリによると、『戦乱のゼンディカー』ではフルアートの基本土地と新デザインのレア2色土地サイクルが収録されるとのことだ。
新たな2色土地ももちろん気になるが、フルアートの基本土地は非常に人気が高く、読者の中にもこれらの基本土地を愛用しているという方は多いのではないだろうか?
新たなフルアートの基本土地はデッキを一層華やかにしてくれることだろう。カードアートが公開されるのが楽しみである。
【『From the Vault: Angels』収録カード発表】
毎年8月に発売される限定セット、『From the Vault』シリーズの2015年度版、【From the Vault: Angels】の収録カードが公式に発表された。
収録カードに関しては【『From the Vault: Angels』収録カード】(リンク先は英語)に詳細が記載されている。
この中でも、《エメリアの盾、イオナ》などはモダンやレガシーでも使用され、非常に人気が高いカードだが、筆者が個人的に最も注目しているのはこのカードだ。
この《セラの天使》はアメリカの出版社ARMADAから1996年に刊行された『Serra Angel』(作:Margaret Weis/画:Rebecca Guay)というアメコミの付録になった大判カードのイラストが転用されている。
カードのイラストレーターは同著の作画を務め、《ガイアの祝福》や《呪文づまりのスプライト》他多くの美麗なカードイラストを手掛けたことで知られるRebecca Guayだ。
現在ではコミック自体絶版になっている上、流通数も少なかったことからこの大判の《セラの天使》は非常に入手困難で、めったに市場ではお目にかかれないマニア垂涎の品である。
そんなRebecca Guay版《セラの天使》のイラストが定型カードの《セラの天使》のイラストとして使用されるのは今回が初めてであり、世界中の《セラの天使》マニアやRebeccaファンにとって、これほど待ちわびた瞬間はなかったことだろう。
現在では5マナ4/4飛行警戒など珍しくもないスペックだが、たまにはこうしてカードの強さから離れて美麗なイラストやその希少性に酔いしれるのもよいだろう。
主要な出来事はこのくらいだろうか。
さて、それでは今大きな話題を呼んでいるカードたちを紹介しよう。
1. 沸騰する小湖
上述の【Blogatog】で発表されたのは、収録されるカードについてばかりではなく、収録されないカードについても触れられている。
同Tumblrのエントリによると、『ゼンディカー』のフェッチランドは『戦乱のゼンディカー』には収録されないとのことだ。
《沸騰する小湖》は『ゼンディカー』のフェッチランドの中でも高い人気を誇り、モダンの【欠片の双子コンボ】やレガシーの【カナディアン・スレッショルド】をはじめ、他にも多数のデッキで広く使用されている。
今回セットの舞台が『ゼンディカー』に回帰するということもあって、国内外の多くのプレイヤーからフェッチランドの再録を望む声が挙がっていた。おそらくこのニュースを受けて悲嘆に暮れている読者も少なくないことだろう。
高まる需要に対し供給が増えない以上、これらのフェッチランドはますます入手困難になる可能性が高い。まだ揃っていないという方は、早めにこれらの土地を確保しておきたいところだ。
2. ウーラの寺院の探索
津村 健志の故郷でもある広島県広島市に店舗を構える【ジョニーのお店】。
この【ジョニーのお店】で紹介されたあるデッキが大きな話題を呼んだ。
【大会結果】8月6日モダン リヴァイアサンクエストでFujimura Akinoriさん優勝です。
ウーラ寺院から出てきた、見慣れない海産物が盤面を圧倒していました♪土地周りを攻めるデッキにも強そうですね!
#mtgjp pic.twitter.com/elgdvhmDex
— じょにー (@johnnyshop) 2015, 8月 6
画像だと分かりにくいかもしれないが、下にデッキリストを用意したのでそちらもご覧いただきたい。
12 《島》 1 《繁殖池》 1 《進化する未開地》 2 《ハリマーの深み》 -土地(16)- 4 《エピティアの賢者》 3 《審判官の使い魔》 4 《占いフクロウ》 3 《物知りフクロウ》 1 《前兆語り》 1 《目覚めし深海、レクシャル》 2 《シミックの空呑み》 1 《真珠湖の古きもの》 3 《嵐潮のリバイアサン》 4 《ゴロゾス》 4 《墨溜まりのリバイアサン》 -クリーチャー(30)- |
4 《時計回し》 2 《テゼレットの計略》 4 《ウーラの寺院の探索》 4 《血清の粉末》 -呪文(14)- |
7 《島》 4 《海の要求》 2 《広がりゆく海》 2 《予想外の結果》 -サイドボード(15)- |
《ウーラの寺院の探索》を設置し、《時計回し》や《テゼレットの計略》の「増殖」能力でカウンターを加速。
《占いフクロウ》や《物知りフクロウ》によってドローを操作し、デッキの1/4を占める超巨大生物で対戦相手を圧殺するというコンセプトのデッキだ。
何が何でも1ターン目に《ウーラの寺院の探索》を設置したいという熱いパッションが4枚採用された《血清の粉末》からも伝わってくる。
そう、カード名は似ているがこのデッキに必要なのは《血清の幻視》ではなく《血清の粉末》なのだ。
限界まで土地を切り詰め、殺意を研ぎ澄ませたこのデッキにおいては《血清の幻視》のわずか1マナのテンポの損失さえ痛手なのである。
また、少しマニアックなクリーチャー《ゴロゾス》も、このデッキにおいてはあの《戦隊の鷹》を軽く凌駕するハイパーアドバンテージカードとなる。
ひとたび戦場に舞い降りれば、デッキ内の残りの《ゴロゾス》と《墨溜まりのリバイアサン》をすべて手札に加えることができるのだ。当然この《ゴロゾス》も《ウーラの寺院の探索》からノーコストで戦場に出すことができる。
実質0マナ7ドローがまかり通ってしまったら、それはもはやマジックではない。
サイドボードの7枚の《島》とメインボードの《ウーラの寺院の探索》や《時計回し》を入れ替えることでデカブツを素出しする、といったアグレッシブサイドボーディングのプランもあり、相手のエンチャント対策をかわすことも可能だ。
特に最近ではメインボードから《クァーサルの群れ魔道士》が入っている【アブザンカンパニー】などもいるため、非常に環境に合致したサイドボードだと思われる。
恐らくだが、上記のアグレッシブサイドボーディングをする際には《予想外の結果》も火を噴くことになるのだろう。
モダンという環境の懐の広さを感じさせる、独創的で夢あふれるデッキリストである。
3. スフィンクスの後見
先週末には『マジック・オリジン』発売後初のスタンダードのGPである【GPサンディエゴ】が開催された。
【プロツアー『マジック・オリジン』】で底力を見せた【赤単】や新進気鋭の【魂込めビートダウン】に注目が集まる中、優勝を収めたのはなんと青赤の【ライブラリー破壊】だった。
【プロツアーでも同様のコンセプトのデッキは見られた】ようだが、『マジック・オリジン』加入前には影も形も存在しなかったデッキである。
一体何がそこまでプレイヤーたちを駆り立てるのか。その謎の鍵を握るのは、このカードだ。
《ジェイスの消去》+《丸砥石》といったテキストの《スフィンクスの後見》。
さっそくそのデッキリストを見てみよう。
4 《島》 5 《山》 1 《血染めのぬかるみ》 1 《溢れかえる岸辺》 4 《シヴの浅瀬》 4 《急流の崖》 4 《天啓の神殿》 4 《光輝の泉》 -土地(27)- 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 -クリーチャー(4)- |
4 《マグマの洞察力》 4 《苦しめる声》 2 《焙り焼き》 2 《眠りへの誘い》 4 《神々の憤怒》 2 《圧倒的な波》 4 《宝船の巡航》 1 《時を越えた探索》 4 《スフィンクスの後見》 1 《僧院の包囲》 1 《アルハマレットの書庫》 -呪文(29)- |
4 《焦熱の衝動》 3 《無効》 4 《否認》 1 《分散》 1 《大地の断裂》 1 《圧倒的な波》 1 《氷固め》 -サイドボード(15)- |
プロツアーで見られた同デッキと比べると《クルフィックスの指図》2枚が《焙り焼き》1枚と《僧院の包囲》1枚に変更されており、その分盤面を捌く力と「探査」の安定性が高まっている。
また、【赤単】に対しては《僧院の包囲》を「龍」のモードで設置することで、火力スペルを牽制することができる。
サイドボードは【赤単】や【魂込めビートダウン】を意識したと思われる調整がなされており、《焦熱の衝動》の増量や《無効》であくまでも対戦相手のゲームプランを妨害し、ライブラリーを削りきる構えだ。
GPやプロツアーといった長い戦いでは、こういったカード1枚、2枚の違いが大きな影響を及ぼすもので、今回優勝を飾ったカード選択はもはや職人芸と言えるだろう。
今大会では他にも【エンチャントレス】など、『マジック・オリジン』から新たに誕生したデッキが結果を残している。
【GPサンディエゴトップ8のデッキリスト】は、ぜひ一度ご覧いただきたい。
4. ドロモカの命令
現在のスタンダード環境を定義する2大デッキ、【赤単】と【魂込めビートダウン】。
これら2つのデッキにガン刺さりする上に、メインボードから採用できるほどの丸さを兼ね揃えたカードが、実はすでに存在していた。
《ドロモカの命令》は【GPサンディエゴ】で【エンチャントレス】を除くトップ8の緑白系の全てのデッキに採用されていた。
マナコストも軽く、1つ目のモードは【赤単】に、2つ目のモードは【魂込めビートダウン】に、3つ目と4つ目のモードは全体的にクリーチャーが小粒な両方のデッキに刺さる文字通りのキラーカードだ。
『タルキール龍紀伝』発売当初の使用率は高かったものの、環境が進んでいくにつれて【緑信心】や【青黒コントロール】など、そのポテンシャルを活かしきれないアーキタイプが隆盛したこともあり、徐々に環境から姿を減らしていった《ドロモカの命令》。
しかし赤が強く、プレイアブルなエンチャントも増え、小粒なクリーチャーによる物量押しで環境が全体的に高速化している今ならば、この1枚の存在で多くのデッキが存在を肯定される可能性もある。
また、ローテーション後も《極上の炎技》や《ニクスの星原》、《スフィンクスの後見》はリーガルなため、まだまだしばらくは《ドロモカの命令》の活躍を見ることができそうだ。
ぜひ、あなたのデッキにもお守りに《ドロモカの命令》を!
いかがだっただろうか?
今週もまた多くのカードがプレイされ、注目され、議論を呼ぶのだろう。
次回の記事も楽しみにしていただけたら幸いである。
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