By Atsushi Ito
高橋 優太という男の話をしよう。
2005年のプロツアーロサンゼルスでプロツアー初出場ながら35位に入賞し、それ以後も頻繁にプロツアーに出場。
そしてついには2007年に開催された双頭巨人戦のプロツアーサンディエゴで、山本 賢太郎とともに準優勝という快挙を達成する。
それからの高橋はプロマジックプレイヤーとして次々と活躍していった。
2008年にはグランプリ静岡、グランプリ神戸と国内グランプリを連覇。その間もプロツアーでのトップ50前後の入賞をコンスタントに繰り返している。
2009年にはプロツアーオースティンで19位に、その年の世界選手権でも36位に入賞。
2010年の世界選手権では13位と、トップ8まであと一歩のところまで辿りつく。
だが、そこまでだった。
高橋のプロツアー出場回数は20回を超えている。しかし、たった1つのハードルだけが、超えられなかった。
個人戦でのプロツアートップ8入賞。
プロツアーに参加したことがある者なら、誰もが憧れる夢だ。
とはいえ、ただ辿りつけないというだけならまだ良い。
問題は、高橋とともに世界中のプロツアーを駆けた友人たちや、高橋よりも圧倒的にプロツアーの出場回数が少ないプレイヤーが、成績の伸び悩む高橋を置いて次々とそのハードルをクリアしていったことだ。
渡辺 雄也。清水 直樹。行弘 賢。皆、高橋を追い越していった。
何より、高橋にとってこの上なく喜ばしく、そして誰よりも悔しかったであろうことは、かつてのパートナーである山本 賢太郎が今年プロツアー『テーロス』で個人トップ8を達成したことだ。
それだけでなく山本は今年の世界選手権でトップ4にまで入賞している。世界最強の24人の中で、4位。高橋がどれだけ焦がれても辿りつけなかった夢の舞台で、対等に渡り合うどころか上位に食い込みさえしている。
対して高橋の最新のプロツアー戦績は、プロツアー『タルキール覇王譚』での初日敗退。アメリカのグランプリに遠征してまで出場権利を獲得し、すべてを賭けて臨んだプロツアーだけに、悔しさは相当なものだろう。
しかし。
それでも。高橋は諦めない。
自分の名前がプロツアーのトップ8プロフィールに並んでいる光景を。あの輝かしい日曜日のフィーチャーテーブルに座っている姿を。
優勝トロフィーを高々と掲げている自分の姿を、手の届かない「夢」ではなく、手の届く「目標」として、しっかりと見据えているからだ。「自分なら必ずできる」と、強い意志で信じているからだ。
だから高橋は挑戦し続けることができる。
プロツアー予選の制度が変わろうが、プロツアーの権利が手に入るなら、全力を賭けない理由にはならない。
そうして高橋は今日、ここまで勝ち上がってきた。プロツアー予選がPPTQ制度に様変わりしても、これまでと何も変わらないかのように淡々と。
立ちはだかる障害、決勝の対戦相手は弱冠23歳の田辺。古豪・相澤を倒して勝ち上がってきた事実からは、新世代の勢いを確かに感じさせる。
だが、高橋に怯懦は微塵もない。目標は遥か先にあるのだ。こんなところで立ち止まってはいられない。
だから。
相方、世界選手権で好成績をマークしたShaun Mclarenのアブザンミッドレンジとともに。
最後の戦いに、臨んだ。
Game 1
先手はスイスラウンド1位通過の高橋。2ターン目《森の女人像》から《クルフィックスの狩猟者》、トップの土地をセットして早速アドバンテージを取る。対して田辺の初動は《軍族童の突発》という一見ゆっくりとした動き。
だが続く高橋の《思考囲い》で、
《ゴブリンの熟練扇動者》
《ゴブリンの熟練扇動者》
《かき立てる炎》
《かき立てる炎》
《稲妻の一撃》
《山》
という田辺の手札が明らかになると、高橋の手が止まる。ここで高橋の手札は、
《包囲サイ》
《クルフィックスの狩猟者》
《英雄の破滅》
《静寂の神殿》
《平地》
でトップは《真面目な訪問者、ソリン》。セットランドしていないため残りは3マナ。非常に難しい選択だ。
悩んだ末に高橋は《ゴブリンの熟練扇動者》を落とし、《静寂の神殿》を置いてトップをキープしつつ3マナを構えてエンド。田辺のクロックを全て捌ききるプランに出る。
そんな高橋の考えを露ほどにも知らない田辺は《ゴブリンの熟練扇動者》をプレイ、即座に《英雄の破滅》される。それでも「召集」した《かき立てる炎》で《クルフィックスの狩猟者》を落とすが、これは高橋の注文通りの動きだ。
そして、高橋の《包囲サイ》が降臨する。
相手は1/1のゴブリン・トークンが3体。手札には後続の《クルフィックスの狩猟者》と《真面目な訪問者、ソリン》もある。
田辺の手札3枚のうち《稲妻の一撃/Lightning Strike(THS)》と《かき立てる炎/Stoke the Flames(M15)》が見えているから、返す田辺のターンではそれほど大きな破局は訪れないだろう。
つまり一息つける、はず。
それがターンを返した高橋の希望的な予測だった。
田辺 琢巳 |
しかし、予測は常に裏切られるものだ。
返す田辺のアクションは《岩への繋ぎ止め》からの《ゴブリンの熟練扇動者》!!
そう、田辺の2回のドローは2回とも100点満点だった。
これにより一気に窮地に陥った高橋は、《かき立てる炎》されることを承知で仕方なく《クルフィックスの狩猟者》の2体目と、ついでに《森の女人像》を展開するのだが。
田辺のトップは2枚目の《岩への繋ぎ止め》!!
100点、100点からの100点ドロー。これには苦笑気味で台を叩くジェスチャーを見せる高橋。
この結果、田辺は手札に7点分の火力を温存したまま10点の大打撃を高橋に与えることに成功する。
高橋も手札を使い切りつつ《クルフィックスの狩猟者》《真面目な訪問者、ソリン》と展開するが、田辺の手札にたんまり残った火力が《真面目な訪問者、ソリン》を無視して本体に撃ちこまれると、盤面だけで確定詰みなのであった。
田辺 1-0 高橋
Game 2
ダブルマリガンの田辺に対し、再び《森の女人像》《クルフィックスの狩猟者》と順調な動きを見せる高橋。こちらも再現とばかりに3ターン目に《軍族童の突発》を打つ田辺だが、返しで《思考囲い》を撃たれると、
《かき立てる炎》
《嵐の息吹のドラゴン》
《山》
《戦場の鍛冶場》
と、さすがに1ゲーム目のような好ハンドではない。
一方の高橋、《かき立てる炎》を抜いてから《包囲サイ》を送り出し、《道の探求者》に対しては《悲哀まみれ》で田辺を『手札2枚、パーマネントは土地のみ』という悲哀にまみれた状態に追い込む。
田辺も頼みの綱の《嵐の息吹のドラゴン》を走らせるが、《クルフィックスの狩猟者》でトップの《太陽の勇者、エルズペス》を見せつけられては、さすがに逆転が不可能だった。
田辺 1-1 高橋
Game 3
先手は田辺に移ってお互いマリガンののち、後手2ターン目の高橋の《思考囲い》が三たび田辺に突き刺さる。
《嵐の息吹のドラゴン》
《軍族童の突発》
《異端の輝き》
《山》
《山》
から《嵐の息吹のドラゴン》を奪い去ると、予定調和の《軍族童の突発》の返しでさらに《思考囲い》で《異端の輝き》をも叩き落とし、田辺の手札を骨抜きにする。
そして《異端の輝き》を落としたということは、白いパーマネントの登場を予告しているようなものだ。
すなわち。
手札をズタズタにされた田辺にとっては悪夢のような、高橋の《包囲サイ》が降臨する。
さらに田辺が《凱旋の神殿》で「占術」してる間に、高橋はダメ押しに《真面目な訪問者、ソリン》をも送り出す。
まず「-2」、そして「+1」。そして戦闘後に《悲哀まみれ》。じりじりと、田辺を追い詰めていく。
この状況で田辺が流れを引き戻せるとしたら《嵐の息吹のドラゴン》くらいだが、それは一番最初に《思考囲い》で落とされているのだ。
手札破壊、「占術」、プレインズウォーカー。全ての選択を誤らなかったからこそ、高橋はここにいる。
このアブザンというデッキこそ。高橋にとっての新たなフェアリーなのかもしれない。
《真面目な訪問者、ソリン》の「+1」能力を受けた《包囲サイ》がもう何度目かという重い一撃を田辺に浴びせ。
田辺のライフが、ゼロを割った。
高橋 優太 |
田辺 1-2 高橋
多くの参加者たちの中でも、高橋のプロツアーにかける情熱は相当なものだ。
だから、プロツアー地域予選でも。高橋はきっと勝つに違いない。
PPTQ『マジック・オリジン』、優勝は高橋 優太(東京)!おめでとう!!