各デッキには、決してサイドアウトしないカードがあります。
在りし日の「《サイカトグ》」デッキの《嘘か真か》しかり、「Caw-Blade」の《石鍛冶の神秘家》しかり、「青白デルバー」の《秘密を掘り下げる者》しかり、対戦相手のデッキを問わず強力なカードは、ほとんどの状況においてサイドアウトに値しません。
それどころか、サイドアウトするカードの候補にすら挙がらないでしょう。
■ サイドボーディングとは
そもそも、サイドアウトするカードとは、対戦相手のデッキに対して不要なものがほとんどです。ビートダウンデッキに対して重いカードを抜いたり、コントロールデッキに対して除去カードを抜くのは、その最たる例だと言えます。
他によく見るサイドボーディングとして、対戦相手のデッキに《危険な櫃》や《対立の終結》が含まれている場合には、《エルフの神秘家》や《森の女人像》といったマナクリーチャーはサイドアウトされることが多いですね。なぜならば、そういったマッチアップでは1ターンのマナ加速よりも、カード1枚1枚の厚みが重要になるからです。《森の女人像》単体では決して全体除去を使わせることはできないでしょうし、コントロールデッキにとって《森の女人像》と《森》に大きな違いはありません。
■ リミテッド戦のサイドボーディング
リミテッドのサイドボーディングは、より直感的で分かりやすいかもしれません。例えば対戦相手のデッキに《幽霊火の刃》と《ジェスカイの隆盛》が入っているのであれば、《帰化》をサイドインすることに何の躊躇いもないでしょう。
他にも飛行クリーチャー用の《暴風》であったり、多色デッキに対する土地破壊など、リミテッド戦におけるサイドボーディングは目的意識がはっきりとしていることが多いです。
あまり知られていない手法としては、対戦相手のデッキに大量の2/1クリーチャーがいる際に、《ジェスカイの学徒》をサイドインする、といったことも有効です。これはサイズが変われど理屈は同じで、対戦相手のデッキがタフネス5を突破するのが難しそうならば、《塩路の巡回兵》は非常に有効なサイドボードとなります。
つまるところ、リミテッドのサイドボーディングとは、メインボードには入りづらいカードながら、対戦相手のデッキ次第ではクリティカルなカードを投入することであると僕は捉えています。
■ 構築戦のサイドボーディング
一方で構築戦のサイドボーディングとは、不要なカードを有効なカードに変更するという意味合いが強いです。冒頭の「サイドボーディングとは」でもお伝えしたように、対戦相手のデッキを把握した上で役に立たないカードを解雇していくわけですが、この「役に立たないカードを解雇」する作業は意外と苦労します。
なぜならば、構築戦ともなればデッキ内のカードの大半は強力そのものであり、その中から不要なカードを見つけ出すにはある程度の練習や知識が必要不可欠となるからです。
例えば、スタンダードの《包囲サイ》はどうでしょうか。すでに周知の事実ではありますが、このカードは非常に強力です。4マナ4/5というマナレシオに加え、3点のドレイン能力。「アブザン」カラーであれば、スタンダードのみならず、モダンですらお呼びがかかるほどの高性能カードです。
しかしながら、はたしてこのカードは《嘘か真か》や《石鍛冶の神秘家》ほどに万能なカードなのでしょうか。
答えは否。《包囲サイ》は前述のカードたちほど、普遍的に強いカードではないと思います。
3 《森》 2 《平地》 4 《吹きさらしの荒野》 4 《疾病の神殿》 4 《静寂の神殿》 3 《砂草原の城塞》 3 《ラノワールの荒原》 1 《コイロスの洞窟》 1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 -土地(25)- 4 《森の女人像》 4 《クルフィックスの狩猟者》 4 《包囲サイ》 -クリーチャー(12)- |
4 《思考囲い》 4 《アブザンの魔除け》 4 《英雄の破滅》 2 《骨読み》 2 《完全なる終わり》 1 《砂塵破》 2 《真面目な訪問者、ソリン》 1 《世界を目覚めさせる者、ニッサ》 3 《太陽の勇者、エルズペス》 -呪文(23)- |
4 《悲哀まみれ》 3 《胆汁病》 2 《骨読み》 2 《世界を目覚めさせる者、ニッサ》 1 《消去》 1 《完全なる終わり》 1 《奈落の総ざらい》 1 《リリアナ・ヴェス》 -サイドボード(15)- |
例えば、このリストなら僕は「アブザン・ミッドレンジ」や「マルドゥ・ミッドレンジ」に対しては《包囲サイ》をサイドアウトするようにしています。
■ 対「アブザン・ミッドレンジ」
in 2 《骨読み》 2 《世界を目覚めさせる者、ニッサ》 1 《リリアナ・ヴェス》 1 《奈落の総ざらい》 |
out 2 《森の女人像》 4 《包囲サイ》 |
■ 対「マルドゥ・ミッドレンジ」
ミラーマッチでは《英雄の破滅》や《完全なる終わり》を使わせれば上々と言えますが、こと「マルドゥ・ミッドレンジ」戦では《はじける破滅》の格好の餌食となりかねません。
それらの対戦では3点ドレインの効果もさして重要ではありませんし、《包囲サイ》は後の「プレインズウォーカー」の避雷針程度の役割しかはたせません。これを良しとするかどうかは人それぞれかもしれませんが、もしも対戦相手が《対立の終結》をサイドインしてくるのであれば、《包囲サイ》は避雷針の役目すら果たせない可能性が高いです。
では、《包囲サイ》の代わりにサイドインされるカードを見てみましょう。
これらのカードは、全て単体除去にも損をしない、所謂1対2交換が可能なものばかりです。各種「プレインズウォーカー」は仮に本体が朽ち果てようとも置き土産を残してくれますし、《骨読み》は地味ながら堅実にアドバンテージ差を広げてくれます。《奈落の総ざらい》にいたっては、キャストさえできればほぼ確実にゲームを終わらせてくれる逸材です。
改めまして、《包囲サイ》が強いことは間違いありません。それは揺るぎのない事実です。ただし、それがいついかなる状況でもサイドアウトしないカードかと問えば、必ずしもそうではないと思います。むしろクリーチャーを限界まで減らすオプションがあることで、対戦相手の除去カードを無駄にできるのがこのリストの強みではないかと思います。
■ 総括
構築戦のサイドボーディングは難解を極めます。昔から、一緒に調整を繰り返し、大会に75枚同じのデッキで参加しても、サイドボーディングは違うという事案はよく見受けられました。
繰り返しになりますが、サイドボーディングの目的とは不要なカードを必要なカードに変更することです。これを実行するためには、対戦相手のデッキ内容を把握し、その上でどのカードが相対的に不要かを見極める必要があります。
これは日々の積み重ねでのみ身に付くものかもしれませんが、今あなたが「このカードは絶対にサイドアウトしない」と考えているカードは、もしかするとそうではない可能性もあるでしょう。今回の《包囲サイ》は、もしかするとその一旦かもしれませんし、この記事がそういった新しい発見のお手伝いになれば幸いです。
プレイングもサイドボーディングも、練習中には思い切って今まで試したことのないものを試みていく方が、本番で良い結果を残しやすいと思います。なぜならば、練習はそういったことを新たに発見するために行うものですからね。