行弘賢と学ぶドラフトセオリー vol.11 ~自分の得意なパターンを作ろう!~

行弘 賢


 皆さんこんにちは!

 『マジック・オリジン』が発売して1ヶ月が経ちましたが、まだまだドラフトやってますか!?


 僕は発売から【プロツアー『マジック・オリジン』】、その翌週に【グランプリ・香港2015】と、『マジック・オリジン』のドラフトのフォーマットが連戦だったので、ドラフトをやりこんでました。

 プロツアーは2-1、2-1と相変わらずいつもの4-2という成績でした。これでプロツアーは3年連続ドラフトは全て4-2という、嬉しいやら悲しいやらなんとも複雑な結果で今シーズンを終えました。

 プロレベルもトップ8縛りでゴールド維持だったのですが、トップ8に入れずにシルバーレベルに落ちてしまい、残念な結果となってしまいました……。

 【グランプリ・香港2015】の方も、初日のシールドが残念なプールだったのもあり初日落ち。ここ最近のトーナメントは結果がついてこず、少しつらい時期かと感じます……が、マジック長くやってたらよくあることです。結果は気にせず、今後も良い結果を出せるように、頑張るだけです!


 というわけで少し前置きは長くなりましたが、今回も張り切ってドラフトのセオリーを解説していきたいと思いますので、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

 今回紹介するセオリーは、『自分の得意なパターンを作ろう!』です。





■ 1. 自分の得意なパターンとは?

 ドラフトの環境は一定ではなく、新セットが出るたびに変わります。

 そのたびに皆さんは新しいカードを使ってみて、「強かった」「弱かった」とカードの評価を定めたり、カードの組み合わせによるシナジーを発見しますよね。

 その過程で人それぞれ「よくピックするカード」「好きなカード」に違いが出てくると思いますが、多くの場合、これが「自分の得意なパターン」の元になります


 たとえば『マジック・オリジン』のドラフトを例に挙げると、Aさんは青赤の飛行機械デッキで3-0し、一方Bさんは緑黒のエルフデッキで3-0したとしましょう。


飛行機械技師群れのシャーマン


 この2人は別々なアーキタイプで3-0したので、それぞれが別々なアーキタイプの「成功体験」を得たことになります。

 ところが、人は自分が成功した経験を忘れることはなかなかできません。一度勝ったアーキタイプは強いものだと思い込んでしまいます。

 こうして、AさんとBさんは高い確率で同じアーキタイプをドラフトし続けます。その結果、AさんもBさんも上手く流れに乗ったときは3-0することができましたが、回数を重ねるにつれ、勝率が落ちていきました。

 というのも、周りも自分と同じ成功体験を積む回数が増え、自分だけが知っていた得意なアーキタイプが周知のものとなってしまい、競合が増えてしまったからです。

 そうなると、今度は別のアーキタイプも使わないと、勝率は安定しなくなります。


 ここで、AさんはBさんが使って勝っていた黒緑エルフデッキをピックしてみることにしました。一方、Bさんは相変わらずたまに3-0する黒緑エルフデッキを組み続けることにします。

 その結果、Aさんは黒緑エルフデッキというアーキタイプをある程度把握し、「青赤の流れがないときや初手付近にアーキタイプの中心となるカードがあったときには黒緑エルフをやることで逃げ道を用意する」という、『マジック・オリジン』ドラフトにおける自分なりのセオリーを見つけることができました。

 他方でBさんも、得意なアーキタイプである黒緑エルフをピックし続けたことで、エルフの流れがないときはエルフにこだわらずに、黒緑という色の組み合わせの中で可能なあらゆるパターンを見つけることができました。おかげで、一時期は勝率が安定しなかったものの、エルフ以外の黒緑の発展形を模索できたことで、エルフができなかったときもそれなりに勝てるようになりました。


アンデッドの召使い過去の過ち


 このように全く違うアプローチではありますが、AさんもBさんも環境に対する自分なりのドラフト戦略を見つけることができました。これが、「自分の得意なパターン」の一例です。


 「自分の得意なパターン」を作ることには、ピックの段階で様々なメリットがあります。

 次の段落では、具体的にどのようなメリットがあるのかについて解説していきます。



■ 2. 自分の得意なパターンを作るメリット

 「自分の得意なパターン」を作るメリットとして、ピックをテンプレート化できるというものがあります。

 テンプレート化したピックは、「ブレない」ことが特徴です。

 自分の中にしっかりとピックの理屈を順序だてて用意しておくことで、色の取捨選択やアーキタイプへの参入の精度があがるので、様々な色のカードをピックしてしまった結果まとめられなかったり、流れのない色を固定してピックしてしまってデッキにならない、といった失敗ドラフトのケースを少なくすることができるのです。


 前の段落の例で、Aさんは「基本的には青赤を目指し、それができないときは緑黒を目指す」という自分の得意なパターンを作りました。これは「青赤飛行機械→緑黒エルフ」といった感じで、ピックするカードの優先順位をテンプレート化できていると言えます。

 同じ例でBさんの場合、「黒緑をピックしながら、流れがないときは黒緑のカードをそれなりに確保しつつ、1色だけ合ったマルチカラーのカードをタッチしたり、ときには黒緑から1色だけ色をスライドさせる」ことで対応しました。これも「黒緑エルフ→黒緑ノーエルフ→緑 or 黒+他の色」と、ピックをテンプレート化できています。


 1つのアーキタイプにこだわるいわゆる「決めうち」と比べると、「自分の得意なパターン」を作ってからドラフトに臨む場合、逃げ道が用意されるので、勝率の安定感が格段に変わります

 さらに、「自分の得意なパターン」である特定のアーキタイプを中心としたピックをし続けることで、そのアーキタイプのピックの精度も上がっていきます。人よりも特定のアーキタイプの理解度で差をつけられるというこの恩恵も馬鹿にできません。


 まとめますと、「自分の得意なパターン」を作るメリットとしては、「勝率の安定」「特定のアーキタイプのピック精度向上」の2点が挙げられます。

 では次は実際に、「自分の得意なパターン」を考慮してピックした実践譜を使って解説していきます。



■ 3. 実践編 ~自分の得意なパターンの通りにピックする~

 僕の場合、今回実践譜として使用する『マジック・オリジン』ドラフト環境において個人的に一番感触が良いアーキタイプは、「赤黒ハスク」 (《ナントゥーコの鞘虫》《反逆の行動》のコンボ入り赤黒ビートダウン) です。


◆ 行弘 賢の「赤黒ハスク」戦略

赤ベースで組みつつ、黒の流れがないときは青か白を2色目に選びます。赤緑は回避に乏しく、除去も弱いので基本的にはやりません。

赤の流れがないときは、黒ベースで青か緑を2色目に選びます。白黒は線が細く、まとまったデッキを作りにくいので、基本的にはやりません。

・全体の方針として、極力軽いマナ域を優先します。特に2マナ域は取れないとゲームにならないことが多いので、最優先でピックします。


 まとめますと、赤黒路線で、軽いマナ域からピックするというのが、この環境での僕の『自分の得意なパターン』と言えます。

 それを踏まえて、ピックを見ていきましょう。



◎ 1-1




異端の癒し手、リリアナ

行弘のピック: 《異端の癒し手、リリアナ》


 これは「赤黒ハスク」的にも嬉しい1枚。圧倒的ボムを初手で引けて文句なくピックです。

 ただ《地震の精霊》《ギラプールの歯車造り》といった強力な赤のカードを流してしまうので、下家は赤くなりそうなのが若干の懸念点ですね。



◎ 1-2




ナントゥーコの鞘虫

行弘のピック: 《ナントゥーコの鞘虫》


 《心酔させる勝者》の方がカードパワーが高いので個人的には優先したいのですが、相手のクリーチャーを奪う役割は《反逆の行動》でもできますし、初手が《異端の癒し手、リリアナ》ということもあり、黒青になるパターンも考慮して、《ナントゥーコの鞘虫》をピックします。



◎ 1-3




反逆の行動

行弘のピック: 《反逆の行動》


 案の定《心酔させる勝者》の代替として《反逆の行動》をピックすることができました。普段はここまで早い手順ではピックしないカードですが、《ナントゥーコの鞘虫》をピックしているので、《反逆の行動》は点数を高めにピックします。



◎ 1-4




魔道士輪の暴漢

行弘のピック: 《魔道士輪の暴漢》


 基本的には赤黒路線なので、ここは貴重な2マナ域を早めに埋めるために《魔道士輪の暴漢》をピックします。



◎ 1-5





 ここがターニングポイントです。

 《地震の精霊》《塔の霊》、または初手で流した《フェアリーの悪党》が1周することに期待して《フェアリーの悪党》かの3択です。

 どれも選択肢的には悪くありませんが、《地震の精霊》は現状の路線と合っていますし、カードパワー的にもこの順目で流れてくるのはおいしいので、ここは素直に《地震の精霊》をピックすることにします。

 これで青に触らないことを決め、「赤黒ハスク」の路線を突き進むことにしました。


地震の精霊

行弘のピック: 《地震の精霊》


 以降は赤と黒のカードの軽いマナ域のカードを優先的にピックし、結果《ナントゥーコの鞘虫》こそ1枚しかピックできませんでしたが、2パック目で運良く《光り葉の選別者》をピックできたこともあり、マナカーブが綺麗な赤黒の強力なビートダウンが組みあがりました。



行弘 賢「赤黒ハスク」

10 《沼》
7 《山》

-土地(17)-

2 《茨弓の射手》
2 《よろめくグール》
2 《魂の略奪者》
1 《魔道士輪の暴漢》
1 《ナントゥーコの鞘虫》
1 《異端の癒し手、リリアナ》
1 《ボガートの粗暴者》
1 《暴れ玉石》
1 《護衛する自動機械》
1 《地震の精霊》
1 《光り葉の選別者》

-クリーチャー(14)-
2 《ドラゴンの餌》
1 《死の円舞曲》
2 《反逆の行動》
1 《冥府の傷跡》
1 《血による聖別》
1 《投げナイフ》
1 《古参兵の予備武装》

-呪文(9)-
hareruya





 今回は赤の流れがいまいちでしたが、黒を中心にピックし、赤は必要な低マナ域に加えて《反逆の行動》と、赤に求められる最低限のカードだけはピックすることができました。《反逆の行動》を取るタイミングも、このアーキタイプの経験則から2枚目の点数を低くしたおかげで2パック目の遅い順目で安く確保することができ、ドラフト自体もブレることなく、しっかりとピックできました。


 このように、「自分の得意なパターン」を作りあげることでピックの精度があがり、ブレることも少なくなるので、流れが悪いときでさえしっかりとしたデッキを作ることができます。

 ぜひ皆さんも環境ごとに「自分の得意なパターン」を作るようにしてみてください。



■ 4. 今回のまとめ


『自分の得意なパターンを作ろう!』

『得意なパターンを作ることでピックをテンプレート化しよう!』

『テンプレート化したピックは精度が上がり、まとまったデッキになりやすくなる!』


 これからはぜひ、これらを意識してドラフトしてみてください。今までと違ったドラフトになると思います。

 今回の記事はここまでです。次回もまた僕の「ドラフトセオリー」を余すことなく伝えようと思います。それでは、また来月もドラフトの記事でお会いしましょう!



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