千葉県を中心に頻繁に開催されるLMCでプレイする宮本。使用するデッキはチームアメリカ。大会上位には常に名を連ねる、メタゲームが存在しないと言っても過言ではないほどのレガシーフォーマットでも、Tier1であると言える、数少ないデッキだ。
《Hymn to Tourach》と《思考囲い》で相手の動きを縛り、漏れ出た脅威は《目くらまし》と《Force of Will》でシャットアウト。更に漏れ出ても、《殺し》でピンポイントに除去をし、《破滅的な行為》で場を一掃。相手が少しでももたつこうものなら、最強のバニラクリーチャー《タルモゴイフ》と、大量のフェッチランドと手札破壊、1マナの軽量ドローとかみ合いの良い、”2マナ”5/5飛行という驚異のスペックの《墓忍び》で相手を瞬殺する。カードパワーがとにかく高い、レガシーオールスターのようなデッキだと言えるだろう。
対する高橋。2011シーズンには少し減ってしまった、日本勢のグレイビープレイヤーであり、本サイト、happymtg.comでもスタンダードに関連する塾を開講している。だが、塾長は特別にスタンダードが好きで、スタンダードの記事を書いているわけではない。ただただ、マジック・ザ・ギャザリングが大好きなのだ。
彼の使用するデッキは《むかつき》ストーム。通称「ANT」だ。その凶悪さ故に、《神秘の教示者》というキーパーツが禁止されたうえで尚、レガシーフォーマットで猛威を振るう、文句なしのTier1のデッキだろう。
宮本の駆るチームアメリカとは対照的に、《ライオンの瞳のダイアモンド》、《暗黒の儀式》、《陰謀団の儀式》、《水蓮の花びら》等の大量のマナ加速と、《渦まく知識》、《思案》、《冥府の教示者》、《不正利得》といったドローサポートと、《むかつき》による大量なカード入手でストームカウントを稼ぎ、60枚のデッキの中に唯一の《苦悶の触手》で一撃で相手を沈める、純正の美しい「コンボデッキ」だ。
《燃え立つ願い》を絡めた三色のバージョン等もあるが、高橋が使うのは勿論「青黒型」。この男には青黒がよく似合う。
青黒という色が持つデッキの方向性然り、今回の《むかつき》然り、そして《苦花》然り。彼はいつだって、”肉を切らせて骨を断つ”を地で行くようなデッキを選んでいる気がする。そんな彼のデッキの趣向と、真面目に勝利を目指すその姿勢が、不屈のストイシズムや苦花師匠、はたまた塾長なんていう二つ名を作り出していった。
所属するコミュニティも違えば、マジックに対するスタンスも違うであろう最後にテーブルに残った二人。共通するのはマジックに対する熱意と愛情。月に1度のペースで行われていく、Hareruya Open Tournament Seriesの記念すべき第1回で優勝を果たすのは、果たしてどちらのプレイヤーなのか?
Game1
土地3枚、《暗黒の儀式》2枚、《陰謀団の儀式》、《モックス・ダイアモンド》2枚という、コンボスタートの目途が立たないハンドを即マリガンした高橋に対し、宮本は即答でキープ。対戦相手のデッキに大量の手札破壊とカウンターが入っていることを考えると、長期戦はしたくない高橋。早いターンで勝負が決められそうな、且つ、出来るならば相手の干渉手段に対しての対抗手段があるようなハンドが欲しい。
《思考囲い》、《陰謀団の儀式》、《暗黒の儀式》、《冥府の教示者》、《裏切り者の都》、《島》という、マナトラブルを起こしそうな、難しいハンドを小考してキープした高橋。
土地を置いてターンを渡した高橋に突き刺さるのは、当然のように《思考囲い》。
高橋「弱めだよ。」
熟考の末、叩き落とされたカードは《思考囲い》。次のターンにどうやってもコンボが成立しなそうな事を確かめた上で、干渉手段を抜き去る。
《汚染された三角州》を何とか引き込み、機能不全に陥ることを免れた高橋だが、宮本は攻撃の手を緩めない。《渦まく知識》でライブラリーを掘り進め、2枚目の《思考囲い》高橋へと突き刺す。指定は、前のターンから決めていたであろう《冥府の教示者》。高橋はかなり厳しい状況に。そして、宮本の戦場に降り立つは、《墓忍び》。寝かされた二つの《Underground Sea》から《Hymn to Tourach》が飛んでこなかったのは、高橋にとって幸か不幸か。そんなことを考える暇もなく、高橋へ、あと4ターンというクロックが提示される。
帰ってきた高橋のターン。《思案》をトップデッキした。マナ加速はあるので、《むかつき》を引き込めば間に合うかもしれない。
《思案》の結果は《師範の占い独楽》、《強迫》、《ライオンの瞳のダイアモンド》。筆者からすると、中々に強い3枚。ここから《師範の占い独楽》をトップにおいて、《裏切り者の都》セットから《師範の占い独楽》プレイ起動。《強迫》をトップに積み込む。
対する宮本は、高橋の行動を制限するか、さらなるクロックになるカードか、とにかく有効牌をを探すべく《渦まく知識》から《思案》でライブラリをどんどん掘り進めていく。6枚のカードを掘り進み、大きく悩んだ末に宮本が取った選択肢は、2枚目の《思案》プレイ。その結果、手札に《目くらまし》2枚と、《精神を刻む者、ジェイス》、《タルモゴイフ》というところまで手札の濃度を高める。《墓忍び》のアタックで、高橋のライフは14。
これに対し、トップに積み込んだ《強迫》で高橋は相手に干渉すると同時に、今後のゲームプランを練るために思考の海にダイヴする。自分に残されたターン、相手のクロックとカウンター。数え上げればきりが無いほどの様々な要因を、一つ一つひも解いて整理し、存在するかがわからない程に細い勝ち筋を模索し始める。
小さく《目くらまし》とディスカードさせるカードを宣言すると、高橋が澱みなく動く。《汚染された三角州》を起動して、ライブラリトップを一新。《師範の占い独楽》によって覗き込んだトップは《苦悶の触手》、《師範の占い独楽》、《汚染された三角州》の三枚。
対戦相手のライフが14であることを今一度確認して、このターンでギリギリ削りきれるかの計算を行うが、ここは待機。機は熟していない。相手のプラン次第ではあるが、残り最大2~3ターンあるはずの残り時間にかけることにした。
手札破壊やカウンターを引くことが出来なかった宮本が選択したのは、《タルモゴイフ》のプレイ。これでクロックは《墓忍び》と《タルモゴイフ》で合わせて8となり、高橋のライフは《墓忍び》の2度目のアタックで9となる。《Hymn to Tourach》か《思考囲い》をトップデッキできていれば、宮本の勝ちがほぼ確定だったのだが、次のターンに高橋がコンボを決めるか、宮本の操るクリーチャーが高橋を蹂躙するか。次のターンに全てが決まる。
高橋は宮本のターン終了時に《師範の占い独楽》の見る能力を起動して、スタックでカードを引く方の能力もプレイ。次のターンのビッグアクションの仕込みを終える。
《裏切り者の都》から2マナ出したうえでセットランド。《裏切り者の都》は墓地へと置かれ、墓地の枚数は7枚に。《暗黒の儀式》とスレッショルドを達成した《陰謀団の儀式》からマナをひねりだし、手札にある2枚の《師範の占い独楽》がライブラリのトップと場と手札でくるくると回り出す。その回数は都合7回。宮本は苦悶の表情で、全ての行動を許可することしか出来ない。
回転を止めた《師範の占い独楽》の能力で、ライブラリのトップを並べなおす。残っているマナは5マナ。このターン既に8回目のライブラリトップと《師範の占い独楽》を入れ替える能力を起動。プレイするのは、自らの真上で《師範の占い独楽》が回るのをずっと見つめていた《苦悶の触手》。打点は16。
高橋 1-0 宮本
手札破壊、カウンターと、大量の干渉手段を持つチームアメリカとのマッチアップでは、ANTも持っている手札破壊も含めて消耗戦になりやすい。このゲーム展開を見越して、早いターンのコンボ成立のカギになるカードをサイドアウトして、消耗戦に強い、彼の愛する”2マナの自らのライフを削るカード”《闇の腹心》と、《呪文貫き》をサイドインして、これまた彼の愛する、クロックパーミッションに近い形にデッキを微調整する。
out
2《モックス・ダイアモンド》
1《水蓮の花びら》
1《ライオンの瞳のダイアモンド》
1《冥府の教示者》
1《不正利得》
in
4《闇の腹心》
2《呪文貫き》
Game2
《渦まく知識》2枚、《強迫》、《闇の腹心》、《暗黒の儀式》、《Underground Sea》、《溢れかえる岸辺》という、サイドボード後としては上々のハンドをキープ。
初動は高橋。《暗黒の儀式》から《強迫》。
さらされた宮本の手札は《墓忍び》、土地が3枚(《不毛の大地》を2枚含む。)、《思考囲い》、《呪文貫き》で、捨てさせたのは《呪文貫き》。高橋は残った2マナで《闇の腹心》をプレイし、1本目とは全く違うゲームプランを画策する。
たいする宮本も《思考囲い》で手札を責める。こちらのハンドは《冥府の教示者》と《渦まく知識》2枚と《水蓮の花びら》が対象となるカード。ただコンボを決めるだけのゲームでは無くなってしまった為、《闇の腹心》との相性が抜群の《渦まく知識》を捨てさせて、リソース差がつくことを嫌う。さらに《不毛の大地》で高橋の土地を破壊し、《闇の腹心》からもたらされる手札の消費を抑制する。
かの有名な大礒をして”土地がめくれた時のボブは宇宙”といわしめた、《闇の腹心》がもたらすのは土地。ただ得。まさに宇宙である。土地は壊されたものの、《水蓮の花びら》経由で2枚目の《闇の腹心》をプレイする。宇宙が、さらなる宇宙を呼び込み、宇宙は拡大する。
しかし、高橋に2体の《闇の腹心》がもたらしたのは《むかつき》と《師範の占い独楽》。ライフは瞬く間に11まで落ち込んでしまう。通常ドローでも土地を引き込めなかった高橋は、せっかくの《師範の占い独楽》を使うことが出来ず、溢れかえる手札を使うことが出来ない。
対する宮本は、やっと6枚まで肥えた墓地をリムーブして、《墓忍び》をプレイ。予想外のダメージを食らっている高橋に、強烈なクロックを提示する。
そして、更にめくれるのは《苦悶の触手》と《思案》。ライフが6となってしまう。《むかつき》で10枚めくってもライフがあまり減らないこのデッキで、僅か5枚で不運にも11点ものライフを失ってしまった高橋が2本目を落とす。
高橋1-1宮本
泣いても笑っても最後のゲーム。会場に残っている20名ほどのプレイヤー達は固唾を飲んで決勝卓を見守っている。会場には筆者のタイピングをする音しか無いと言える程に静寂に包みこまれている。
Game 3
互いにマリガン無し。最高のゲームを期待しよう。
先手高橋の《師範の占い独楽》からゲームがスタートする。
対する宮本のファーストアクションは、《思考囲い》。《呪文貫き》2枚、《思案》、《溢れかえる岸辺》、《Underground Sea》というハンドを見て、熟考する。
悩みに悩んだうえで、《思案》を選択。自分の手札へと干渉させることを許可する代わりに、高橋のライブラリー掘削作業を妨害して、少しゆっくりとしたゲームプランを高橋に提案する。
高橋はこの提案を受け入れる。《師範の占い独楽》のアドバンテージを生かせるよう、ドローゴーが始まる。最初に高橋が手札に加えたのは《渦まく知識》。《溢れかえる岸辺》の起動で、新鮮な3枚のカードから最適なものを選べる状態の高橋。さらに《思考囲い》を手札に加えてターンを終える。
刃を研ぐ高橋に対し、宮本がプレイするのは《Hymn to Tourach》もちろん2マナ余らせて。だ。《呪文貫き》を使っても使わなくても1:2交換が成立する状態で、高橋に選択を迫る。
これに対応して高橋は先ほど手札に加えていた《渦まく知識》を利用して最重要パーツが墓地に落ちてしまうことを避ける。
そして、ハンドから落ちたのは、、、2枚の《呪文貫き》。2/4×1/3の確率で発生してしまった一番のレアケース。これが、どう高橋のプランを崩すのか。
宮本のランダム1:2好感に対して、高橋は最良の1:1交換を要求。《思考囲い》でさらされた宮本の手札は、《目くらまし》、《喉首狙い》、《Force of Will》、《霧深い雨林》、《Underground Sea》。
綿密にプランを練る高橋。《師範の占い独楽》で掘り当てていた《闇の腹心》を生かそうと、《喉首狙い》をディスカードさせる。そして、先ほどは自らに牙をむいた《闇の腹心》をプレイ。
手札が晒されている宮本視点で言えば、《Force of Will》でカウンターして、丸裸になり、《師範の占い独楽》がある相手とライブラリトップで勝負をするか、アドバンテージの優位を相手に渡したうえで、虎の子の《Force of Will》を温存するかの悪魔の二択を突きつけられたの同意だ。
宮本が出した結論は《目くらまし》をリムーブしての、《Force of Will》。待つのは地獄か、天国か。
高橋が宮本に示した回答は、《師範の占い独楽》をライブラリのトップと入れ替えて、《暗黒の儀式》から、《むかつき》プレイ。
Game2では高橋を殺したライブラリが、今度は高橋の思惑通りに捲れていく。
多量のマナ加速と、《ライオンの瞳のダイアモンド》がめくれ、《冥府の教示者》がめくれた。自らのライフを削りきるに十分なストームカウントを稼げる事を確認すると、宮本は高橋の勝利を祝福した。
高橋 2-1 宮本
彼のマジックに対する真摯な態度は、公式サイトのカバレージ等を通してなんとなく知っている人も多いと思う。そこに寡黙な、職人気質なイメージを持つ人も少なくないのではないだろうか。
だが、優勝した彼の写真を見てほしい。ストイックな二つ名を持つ高橋優太だが、実はただのマジック好きの気のいいあんちゃんだと言うことがわかってもらえるだろうか?
もしどこかで高橋雄太を見かけたら、マジックについて質問したり、意見をぶつけてみてほしい。きっとうんざりするくらいに長々と、マジック論を語ってくれると思う。優勝してこんなに笑うヤツに、あんまり悪いやつはいないと思う。