【プロツアー『マジック・オリジン』】をJoel Larssonの赤単アグロが制してから早1ヶ月半。スタンダードというフォーマットの中で最大のカードプールを擁する現在では、毎週毎日毎トーナメントの度に主力のデッキが移り変わり、渦中のカードが代わる代わる活躍する激しい環境となっている。
《包囲サイ》、《龍王アタルカ》、《カマキリの乗り手》、《龍王オジュタイ》……。
8つものカードセットを使用できることもあって、環境を支配するカードの候補には枚挙に暇がない限りだ。
ただ、昨今の話題の中心にいる1枚はこいつだろう。
そう、《搭載歩行機械》だ。
ほとんどの状況で2マナ1/1で登場するアーティファクトだが、これがゲームに与える影響はその見かけよりもずっと大きい。【アブザンアグロ】【ジェスカイ】【赤黒ドラゴン】。様々なデッキに顔を出す姿は、一時の《タルモゴイフ》を彷彿とさせるものがある。
そこで今回の記事では、「なぜ《搭載歩行機械》は強いのか」「いつまで《搭載歩行機械》は活躍するのか」。そんなありふれた疑問を探っていきたいと思う。
■ 《搭載歩行機械》が強いワケ
おそらく多くのプレイヤーがそうであったと信じたいが、僕が『マジック・オリジン』のカードリストを眺めたときの《搭載歩行機械》の評価は現在のものとかけ離れていた。「ふーん。《アーティファクトの魂込め》デッキで使いそうだなぁ」程度の感想しかもたなかった覚えがある。
しかし、皆さんもご存知のように《搭載歩行機械》は強力なカードだった。それにしても2マナを払っても1/1でしかないちっぽけな機械のカニが何故強いのだろうか。
まずは《搭載歩行機械》の強さのワケを整理してみよう。
1. 放置することができない成長能力
まず最初に挙げられるのは、《搭載歩行機械》の起動型能力だ。たった1マナでターンを経るごとに徐々に大きくなっていき、それにつれて死亡した際の飛行機械トークンの数も増えていく。そのため、どんなデッキでもいつかは《搭載歩行機械》への対処を迫られる。対処されなければ勝ってしまうカードが弱いわけがない。
2. 高い除去耐性
「では対処しなきゃ!」と除去に手を伸ばしたところで困ってしまうのが《搭載歩行機械》が持つ除去耐性である。死亡すると+1/+1カウンターの数だけ飛行機械トークンを生むため、例えば《稲妻の一撃》で除去したとしても飛行機械の分だけ損な交換となってしまう。しかし、目を逸らして放置しても成長して被害が拡大するため、損とは知りながらも対処を強いられる。
3. 2マナという軽さ
「でも成長さえしなければ1体の飛行機械トークンでしょ?それくらいは許そう!」と思うかもしれない。何せこれまでも死亡したときに効果を発揮するカードは沢山印刷されてきた。《スラーグ牙》や《真面目な身代わり》など、1体の飛行機械よりも大きな死亡誘発効果を持ったカードも少なくない。
しかし、なんといっても《搭載歩行機械》は2ターン目から登場して対処を迫ってくるのだ。当然ゲームの序盤であればあるほど対処できる可能性は低く、なんとか数ターン後に対処できたとしても、その時にはトークン1体の損害で済むことはない。あまりにも対処を迫るターンが早いのだ。
■ 《搭載歩行機械》が活躍したワケ
ここまでで《搭載歩行機械》が強い理由は、なんとなくわかってきただろうか。
ただ、強いカードだからといって活躍が約束されているほどMTGは甘いゲームではない。額面上は強力でも、様々な理由で埋もれていったカードは数知れずだ。
では一体、《搭載歩行機械》は何故活躍しているのだろうか?
ここでは時系列にそって《搭載歩行機械》が活躍してきた背景に迫ってみよう。
1. アドバンテージ源としての発見
まず、【プロツアー『マジック・オリジン』】以前の《搭載歩行機械》は、「単体でも強力」というよりは「シナジーを重視したカード」としての評価が強かった。《飛行機械の諜報網》や《アーティファクトの魂込め》などと併用されることが多く、単独では青黒コントロールのサイドボードに散見される程度だっただろうか。
そんななか【プロツアー『マジック・オリジン』】で、「アドバンテージ源としての《搭載歩行機械》」にいち早く着目したのはBrian Kiblerだった。
8 《森》 6 《平地》 4 《吹きさらしの荒野》 1 《マナの合流点》 4 《豊潤の神殿》 1 《花咲く砂地》 -土地(24)- 4 《エルフの神秘家》 2 《始まりの木の管理人》 4 《羊毛鬣のライオン》 4 《棲み家の防御者》 2 《隠れたる龍殺し》 4 《死霧の猛禽》 3 《加護のサテュロス》 3 《巨森の予見者、ニッサ》 2 《クルフィックスの狩猟者》 -クリーチャー(28)- |
3 《勇敢な姿勢》 3 《ドロモカの命令》 2 《英雄の導師、アジャニ》 -呪文(8)- |
4 《搭載歩行機械》 3 《霊気のほころび》 2 《静翼のグリフ》 2 《悲劇的な傲慢》 2 《進化の飛躍》 1 《勇敢な姿勢》 1 《異端の輝き》 -サイドボード(15)- |
9-1という好成績でスタンダードラウンドを乗り切ったKiblerの奇策とは、《搭載歩行機械》をコントロール対策のサイドボードカードとして運用することだった。除去耐性の高さと《進化の飛躍》とのシナジーを評価しての抜擢だ。
《衰滅》に巻き込まれても大丈夫。単体除去も平気。《進化の飛躍》で複数枚のカードに変換できる。すみやかにゲームを終わらせる打点はないものの、まさに緑白アグロという愚直なデッキが長期戦を挑むためにはもってこいの人材だったのだ。
2. 次善な2マナ域としての運用
プロツアーから一週間が過ぎた頃には、《搭載歩行機械》はメインボードに顔を出すようになっていた。
8 《森》 6 《平地》 4 《吹きさらしの荒野》 1 《マナの合流点》 4 《豊潤の神殿》 1 《花咲く砂地》 -土地(24)- 4 《搭載歩行機械》 4 《エルフの神秘家》 4 《羊毛鬣のライオン》 4 《棲み家の防御者》 2 《隠れたる龍殺し》 4 《死霧の猛禽》 3 《巨森の予見者、ニッサ》 2 《加護のサテュロス》 -クリーチャー(27)- |
4 《ドロモカの命令》 3 《勇敢な姿勢》 2 《英雄の導師、アジャニ》 -呪文(9)- |
3 《アラシンの僧侶》 2 《静翼のグリフ》 2 《クルフィックスの狩猟者》 2 《風番いのロック》 2 《霊気のほころび》 2 《悲劇的な傲慢》 1 《勇敢な姿勢》 1 《自然に帰れ》 -サイドボード(15)- |
プロツアーで好成績を残したことで注目を浴びた緑白アグロをアップデートしたのは、アメリカが誇る名デッキビルダーのJon Stern。メインボードに昇格した理由は極めて単純だ。同型戦を制するため、そして「悪くない2ターン目の行動」だったからだ。《羊毛鬣のライオン》ほどは良くないが、何もしないよりはマシ。とにかく2ターン目に行動できるカードが必要だったのだ。
それまでのKiblerのリストでは2ターン目の行動が、いくらかタップインの土地や1マナ域の追加で緩和されていたとはいえ、不安定だった。そこで大胆に2マナ域を追加したのはさすがSternというべき判断である。
最高の行動ではないが、マナ域を埋めるには悪くない。そんな理由で《搭載歩行機械》を手にとったのはJon Sternだけではなかった。
3 《森》 2 《平地》 4 《吹きさらしの荒野》 4 《砂草原の城塞》 4 《ラノワールの荒原》 4 《疾病の神殿》 4 《静寂の神殿》 1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 -土地(26)- 4 《搭載歩行機械》 4 《棲み家の防御者》 2 《羊毛鬣のライオン》 4 《クルフィックスの狩猟者》 4 《包囲サイ》 -クリーチャー(18)- |
3 《思考囲い》 2 《ドロモカの命令》 4 《アブザンの魔除け》 3 《英雄の破滅》 2 《悲劇的な傲慢》 2 《太陽の勇者、エルズペス》 -呪文(16)- |
3 《究極の価格》 2 《風番いのロック》 2 《悲哀まみれ》 1 《黄金牙、タシグル》 1 《強迫》 1 《思考囲い》 1 《ドロモカの命令》 1 《異端の輝き》 1 《骨読み》 1 《対立の終結》 1 《精霊龍、ウギン》 -サイドボード(15)- |
マジックオンラインの雄として知られるJosh McClainが同週に披露したのは、アブザンミッドレンジに《搭載歩行機械》を採用するという戦略だった。これもSternと発想は似ており、2ターン目に行動を起こしたいからである。
プロツアーの翌週だったこともあり、プロツアーで活躍した青赤《アーティファクトの魂込め》lや赤単アグロといった高速のデッキを警戒し、なるべく低いマナ域に合わせたかったのだろう。この点、軽い除去を追加することも悪くはないのだが、各々のデッキに対して有効な除去が違うことは問題だ(例えば青赤Ensoulに《究極の価格》は有効ではない)。
そこで「次善な2マナ域」である《搭載歩行機械》に白羽の矢が立った。青赤《アーティファクトの魂込め》が使う2ターン目の《搭載歩行機械》のような最高の働きは期待できないが、あらゆるデッキに対して無駄にならない2ターン目の行動は貴重な存在だ。
3. グッドスタッフとしての活躍
わずか2週間の出来事とは思えないほど目まぐるしく評価は移ろい、ついに8月の3週目には《搭載歩行機械》は支配的なカードとして活躍するようになっていた。
【StarCityGames】のBrian Braun-Duinが原案を制作し、Andrea Mengucciが広めたアブザンアグロが【グランプリ・ロンドン2015】を席巻したのだ。
3 《森》 2 《平地》 4 《吹きさらしの荒野》 1 《マナの合流点》 4 《砂草原の城塞》 3 《コイロスの洞窟》 3 《ラノワールの荒原》 4 《疾病の神殿》 1 《静寂の神殿》 1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 -土地(26)- 4 《搭載歩行機械》 1 《始まりの木の管理人》 4 《棲み家の防御者》 4 《羊毛鬣のライオン》 4 《先頭に立つもの、アナフェンザ》 4 《包囲サイ》 -クリーチャー(21)- |
4 《ドロモカの命令》 2 《究極の価格》 4 《アブザンの魔除け》 1 《英雄の破滅》 1 《真面目な訪問者、ソリン》 1 《英雄の導師、アジャニ》 -呪文(13)- |
4 《思考囲い》 2 《自傷疵》 2 《悲劇的な傲慢》 2 《太陽の勇者、エルズペス》 1 《アラシンの僧侶》 1 《黄金牙、タシグル》 1 《異端の輝き》 1 《究極の価格》 1 《正義のうねり》 -サイドボード(15)- |
かつて《ラクシャーサの死与え》が埋めていた場所に《搭載歩行機械》が投入されている。《ドロモカの命令》が非常に強力なメタゲームだったことも含めて3色のマナベースでも緑白に寄せることが重視されていたため、複数の黒マナを要求する《ラクシャーサの死与え》よりは無色の《搭載歩行機械》の方がデッキが安定する。
また、強力な《ドロモカの命令》と《アブザンの魔除け》とのシナジー、こちらの《搭載歩行機械》だけ機能する《先頭に立つもの、アナフェンザ》が、より《搭載歩行機械》の採用を後押しした。
もはや「次善な2マナ域」ではなく、デッキの中で最高の1枚として運用されているのだ。シナジーを形成しているという点においてJosh McClainのアブザンミッドレンジよりも機能的に、また《搭載歩行機械》同型戦を制すことができる点でJon Sternの緑白アグロよりも有効に使われている。
サイドボードプランではなく、マナ域を埋める役割でもない。ついに単純に強力なカード、つまりはグッドスタッフとして活躍し始めたのだ。
■ 《搭載歩行機械》を倒すには?
ここ2週間の話題の中心はズバリこれだった。より正確にはこうだろうか。
「《搭載歩行機械》の入ったアブザンアグロを倒すにはどうすればいいんだ?」
ここまで見てきたように、現在のスタンダードでは《搭載歩行機械》は絶対に乗り越えなければならない壁である。2ターン目の《搭載歩行機械》に無抵抗なデッキであってはならないのだ。そのため、世界各地で研究が行われ、いくつかのアイデアが出てきた。
整理するとこの3つに絞られるだろう。いくつかの実践例も踏まえて、その内容を見ていこう。
1. 《搭載歩行機械》に強いカードを採用する
とてもシンプルな回答の一つかもしれない。《搭載歩行機械》が強力だから、その対抗手段を用意する。例えば《マグマのしぶき》などは2ターン目の《搭載歩行機械》にも難なく対処できるいいカードだ。
2 《島》 2 《平地》 1 《山》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《神秘の僧院》 3 《シヴの浅瀬》 2 《戦場の鍛冶場》 4 《天啓の神殿》 3 《凱旋の神殿》 -土地(25)- 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 2 《搭載歩行機械》 2 《魂火の大導師》 4 《ゴブリンの熟練扇動者》 4 《カマキリの乗り手》 1 《嵐の息吹のドラゴン》 -クリーチャー(17)- |
3 《マグマのしぶき》 4 《稲妻の一撃》 2 《焙り焼き》 2 《勇敢な姿勢》 1 《ジェスカイの魔除け》 3 《オジュタイの命令》 1 《かき立てる炎》 2 《時を越えた探索》 -呪文(18)- |
2 《アラシンの僧侶》 2 《軽蔑的な一撃》 2 《否認》 2 《神々の憤怒》 2 《悲劇的な傲慢》 1 《魂火の大導師》 1 《焙り焼き》 1 《勇敢な姿勢》 1 《解消》 1 《太陽の勇者、エルズペス》 -サイドボード(15)- |
【世界選手権2015】でShaun Mclarenは、環境で唯一ともいえる1マナのカウンターパーツである《マグマのしぶき》を採用したジェスカイをお供に選んだ。アブザンが”動”ならばジェスカイは”静”の対応力を持っているデッキだ。対戦相手の脅威を巧みに捌きながら、時には素早く、またあるときはじっくりと相手の苦手な時間帯で戦うことに長けている。
そのため、相手の脅威を捌くための呪文の取捨選択はジェスカイにとって肝となる部分だ。環境にある脅威は様々だが、《搭載歩行機械》への優先順位が高いことは呪文構成から窺える。
ただ方法論としては、悪くはないが良くもないといったところだ。早いターンの《搭載歩行機械》にも対応できることには価値があるが、ほとんどの《搭載歩行機械》はただ強力なカードとして採用されているため、まだ他にもデッキの中核をなす脅威が待ち受けている。対抗策を用意したところで、そこがスタートラインであるとも言えるのだ。
《絹包み》、《忘却の輪》、《神々の憤怒》、《マグマのしぶき》など様々な選択肢があるが、各々のデッキで負担にならないカードを選択しよう。《搭載歩行機械》に執着するあまりデッキの形を歪めてしまっては元も子もない。あくまでも「《搭載歩行機械》には手を添える程度」と意識しよう。
2. 《搭載歩行機械》ではなくデッキの構造を咎める
《搭載歩行機械》に強いカードを採用しただけでは不十分だという。では他に何を用意すればいいのだろうか?
それは《搭載歩行機械》を採用しているデッキそのものへの対抗策である。
ここでは《搭載歩行機械》を採用した仮想敵をアブザンアグロだとしよう。彼らと対峙したときに重要なのは、十分な枚数の除去と、速やかにゲームを終えるフィニッシャーを用意することだ。
《搭載歩行機械》は確かに脅威だが、相手のデッキは土地24枚と《搭載歩行機械》36枚で構築されているわけではない。《搭載歩行機械》には最低限で済ませ、他の構成要素をがっつりと咎めるのも一つの対抗策となるのだ。
6 《山》 5 《沼》 4 《血染めのぬかるみ》 4 《悪意の神殿》 3 《血溜まりの洞窟》 2 《精霊龍の安息地》 1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 -土地(25)- 2 《搭載歩行機械》 4 《雷破の執政》 4 《嵐の息吹のドラゴン》 2 《嵐の憤怒、コラガン》 -クリーチャー(12)- |
4 《思考囲い》 2 《マグマのしぶき》 4 《龍詞の咆哮》 2 《胆汁病》 4 《英雄の破滅》 4 《コラガンの命令》 1 《残忍な切断》 1 《命運の核心》 1 《前哨地の包囲》 -呪文(23)- |
4 《ゴブリンの熟練扇動者》 3 《忌呪の発動》 2 《強迫》 2 《神々の憤怒》 2 《紅蓮の達人チャンドラ》 1 《命運の核心》 1 《前哨地の包囲》 -サイドボード(15)- |
この黒赤ドラゴンは理想的だ。優秀な飛行のフィニッシャーと盛りだくさんの除去。《ドロモカの命令》も《アブザンの魔除け》も効かない《嵐の息吹のドラゴン》がアブザン系へのハードカウンターとして活躍してくれることも加点要素である。
なんだ対策デッキじゃんと思われるかもしれないが、《搭載歩行機械》は強力とはいえ所詮は1枚のカードでしかないということだ。たとえ隙のないカードが採用されていても、意外とそれを採用したデッキのほうに隙があったりもする。
《嵐の息吹のドラゴン》と《雷破の執政》のコンビ、《漂う死、シルムガル》など地上戦から離れた場所で戦うフィニッシャーは効果的だ。
3. 《搭載歩行機械》とは速度が違うゲームプラン
速度が違うゲームプラン。ちょっとピンとこない言葉かもしれない。
これはつまり、早いターンの《搭載歩行機械》を放置してしまうことが致命的にならない戦略をとろう、ということだ。
例えばあなたが赤単アグロを使っているときに遭遇した《搭載歩行機械》と、アブザンコントロールを使っているときに出てきた《搭載歩行機械》では印象が大きく違うだろう。赤単アグロの場合は即座に対処しなければ、こちらのカード数枚を持っていかれるどころかそのまま負けかねない。しかし、アブザンコントロールの場合は、その場での不利は覚悟しても後々のこちらのカードで不利分を取り返せることがわかっているからだ。
より重く、より派手にゲームが動くカードをこちらが用意していれば、数体の飛行機械は致命傷には至らない。たしかに2マナや3マナといった軽いマナ域のカードと比較すると《搭載歩行機械》が持つポテンシャルは圧倒的だ。ただ、それが圧倒的だからといっても6マナの《太陽の勇者、エルズペス》や8マナの《時を越えた探索》に勝るほどではない。
要は《搭載歩行機械》も所詮は序盤戦の覇者でしかないということだ。
3 《森》 2 《平地》 4 《吹きさらしの荒野》 4 《砂草原の城塞》 2 《コイロスの洞窟》 2 《ラノワールの荒原》 4 《疾病の神殿》 4 《静寂の神殿》 1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 -土地(26)- 3 《棲み家の防御者》 4 《クルフィックスの狩猟者》 2 《巨森の予見者、ニッサ》 4 《包囲サイ》 1 《黄金牙、タシグル》 -クリーチャー(14)- |
4 《思考囲い》 1 《究極の価格》 1 《胆汁病》 4 《アブザンの魔除け》 3 《英雄の破滅》 2 《衰滅》 1 《信者の沈黙》 1 《悲劇的な傲慢》 3 《太陽の勇者、エルズペス》 -呪文(20)- |
2 《羊毛鬣のライオン》 2 《異端の輝き》 2 《悲哀まみれ》 1 《強迫》 1 《究極の価格》 1 《胆汁病》 1 《ドロモカの命令》 1 《霊気のほころび》 1 《悲劇的な傲慢》 1 《真面目な訪問者、ソリン》 1 《英雄の導師、アジャニ》 1 《精霊龍、ウギン》 -サイドボード(15)- |
つまり、序盤の鍔迫り合いに躍起にならず、ずっしりと中盤から終盤を戦うデッキならば、《搭載歩行機械》を苦にせず乗り越えることができる。
【世界選手権2015】では仮想敵であるアブザンアグロを倒すために多くのプレイヤーがアブザンコントロールを手にしていた。アブザンコントロールも《搭載歩行機械》が辛くないわけではないが、アブザンアグロの攻撃的な部分(コストパフォーマンスのいい軽量クリーチャー陣)は難なくいなすことができる。
そして、《搭載歩行機械》が2ターン目に登場したからといっても、5ターン目にライフがなくなってしまうような攻撃性を持っていないことが何よりの救いだ。戦場を支配するサイズには成長するかもしれないが、それがゲームを終わらせる速度はとても遅い。
そこで序盤のカードの応酬を避け、重く強力なカードで不利を取り返すという戦略はとても理に適っている。《太陽の勇者、エルズペス》や《時を越えた探索》を鍵にしたコントロールならば《搭載歩行機械》を難なくいなすことができるはずだ。
◆ 《搭載歩行機械》を乗り越えるには?
1. 《搭載歩行機械》に強いカードを採用する
→《マグマのしぶき》、《絹包み》など
2. 《搭載歩行機械》ではなくデッキの構造を咎める
→相手がアブザンであれば、十分な除去と《雷破の執政》《嵐の息吹のドラゴン》などの地上戦から離れたフィニッシャー
3. 《搭載歩行機械》とは速度が違うゲームプラン
→そもそも序盤で勝負しないコントロールなど
1. 《搭載歩行機械》に強いカードを採用する
→《マグマのしぶき》、《絹包み》など
2. 《搭載歩行機械》ではなくデッキの構造を咎める
→相手がアブザンであれば、十分な除去と《雷破の執政》《嵐の息吹のドラゴン》などの地上戦から離れたフィニッシャー
3. 《搭載歩行機械》とは速度が違うゲームプラン
→そもそも序盤で勝負しないコントロールなど
■ 《搭載歩行機械》のこれからは?
さて、以上はこれまでの《搭載歩行機械》について話してきた。なんとなく察している方もいるとは思うが、現在のメタゲームではもはや《搭載歩行機械》は圧倒的な存在ではない。対抗策もいくつか提案され、《搭載歩行機械》が制する序盤戦を離れた遅いゲームが流行になったからだ。
アブザンコントロール、エスパードラゴン、ジェスカイ。これらの中盤戦以降を得意とするデッキが復権し、【世界選手権2015】ではそれらの戦いが繰り広げられた。【世界選手権2015】の結果は、中盤戦が得意なものの本当に遅いゲームは苦手なジェスカイが転び、エスパードラゴンが本領を発揮しなかったことから、アブザンコントロールが独走したことは皆さんも御存知だろう。
・青系コントロールの復権がもたらすもの
一方、その裏で行われていた【グランプリ・プラハ2015】では、黒赤ドラゴンと青系コントロールがアブザンアグロばかりのフィールドを勝ち抜いていた。
3 《島》 3 《沼》 4 《汚染された三角州》 4 《華やかな宮殿》 4 《陰鬱な僻地》 4 《欺瞞の神殿》 1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 4 《光輝の泉》 1 《魔道士輪の魔力網》 -土地(28)- 1 《漂う死、シルムガル》 1 《真珠湖の古きもの》 -クリーチャー(2)- |
3 《意思の激突》 3 《胆汁病》 1 《究極の価格》 1 《否認》 4 《解消》 4 《英雄の破滅》 2 《衰滅》 1 《信者の沈黙》 4 《ジェイスの創意》 4 《時を越えた探索》 1 《頭蓋書庫》 2 《危険な櫃》 -呪文(30)- |
3 《ヴリンの神童、ジェイス》 2 《黄金牙、タシグル》 2 《思考囲い》 2 《究極の価格》 1 《搭載歩行機械》 1 《龍王シルムガル》 1 《精神的反論》 1 《ファリカの療法》 1 《リリアナ・ヴェス》 1 《精霊龍、ウギン》 -サイドボード(15)- |
緑黒系への強力なアンチカードである《悪夢の織り手、アショク》が採用されていないことは不思議だが、カウンターとドローで終盤を戦う古典的なコントロールに仕上がっている。
苦手だった《死霧の猛禽》+《棲み家の防御者》のパッケージと、赤単など早いアグロデッキが減ったことが追い風となり再登場したようだ。
6 《島》 6 《平地》 4 《溢れかえる岸辺》 2 《進化する未開地》 4 《平穏な入り江》 4 《啓蒙の神殿》 1 《光輝の泉》 -土地(27)- 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 2 《龍王オジュタイ》 -クリーチャー(6)- |
1 《意思の激突》 1 《荒野の確保》 4 《今わの際》 2 《予期》 1 《軽蔑的な一撃》 4 《解消》 3 《オジュタイの命令》 4 《対立の終結》 4 《時を越えた探索》 2 《太陽の勇者、エルズペス》 1 《精霊龍、ウギン》 -呪文(27)- |
3 《アラシンの僧侶》 3 《軽蔑的な一撃》 3 《存在の破棄》 3 《見えざるものの熟達》 2 《払拭の光》 1 《真珠湖の古きもの》 -サイドボード(15)- |
青黒コントロールよりもやや《搭載歩行機械》が跋扈するメタゲームで強力なのは青白コントロールである。まだ目立った活躍は見られないが、その使用頻度に反して強いデッキだ。
一見すると青黒コントロールと似ているが、一線を画するのはボードコントロール能力とライフ水準の高さである。《対立の終結》は5マナとはいえクリーチャーデッキには強力で、《オジュタイの命令》と《ヴリンの神童、ジェイス》のコンビがアドバンテージとライフを獲得していく。
また、白の除去として採用されている《今わの際》が環境に合っていることも青黒にはない強みだ。《搭載歩行機械》を難なく対処できる呪文として、ジェスカイの《マグマのしぶき》同様、最近評価を上げているカードの一枚である。
これら青系コントロールの登場は、すべての中速デッキにとって悪いニュースだったに違いない。環境で最も遅いデッキが登場したということは、それよりも少しばかり軽い自分たちが喰い物にされる立場になってしまったからだ。
アブザンアグロをアブザンコントロールたちが、それらの中速をまるごと青系コントロールが平らげる。そんな構図がちらつきはじめた。
・そしてメタゲームは振り出しに戻る
「アブザンコントロールと青系コントロールが最終的な勝ち組か。《搭載歩行機械》は噛ませ犬だったかな?」
いやいやとんでもない。むしろここからが《搭載歩行機械》の出番なのだ。
アブザンコントロールと青系コントロールのような遅いゲームに照準を絞ったデッキが支配するということは、それらを倒すために環境で最速のデッキが登場するのが常である。
つまり、赤単アグロや青赤《アーティファクトの魂込め》のような最序盤を得意とするデッキが近いうちに再び現れるだろう。最近はどのデッキも《ドロモカの命令》と《搭載歩行機械》を巡って軽いカードが流行した弊害から、プロツアー以降は目立った活躍が見られなかった両デッキだが、環境が遅くなるに連れてまたスポットライトに照らされる。
10 《山》 1 《森》 4 《樹木茂る山麓》 4 《マナの合流点》 1 《奔放の神殿》 -土地(20)- 4 《鋳造所通りの住人》 4 《僧院の速槍》 3 《鐘突きのズルゴ》 3 《ケラル砦の修道院長》 1 《ゴブリンの熟練扇動者》 -クリーチャー(15)- |
4 《乱撃斬》 4 《ドラゴンの餌》 4 《稲妻の一撃》 4 《アタルカの命令》 4 《軍族童の突発》 4 《かき立てる炎》 1 《強大化》 -呪文(25)- |
4 《大歓楽の幻霊》 3 《破壊的な享楽》 3 《焙り焼き》 2 《ゴブリンの熟練扇動者》 2 《灼熱の血》 1 《ゴブリンの踵裂き》 -サイドボード(15)- |
そう、メタゲームが一周するのだ。スタート地点のプロツアー時へと回帰し、これから二周目が始まる。
しかし、一周目と同じ道を辿るとは限らないのが二周目の面白いところだ。デッキ相性や速度など根本的な部分は変わらないものの、二周目のデッキはどれも一周目とは比較にならないほど強く構築されている。同じところを周回すると思いきや、違った道を通ることも珍しくはない。
早いデッキが台頭してきたら、次はまた《搭載歩行機械》の出番が回ってくる……はずだが、今度は「《搭載歩行機械》が強いことが知られている」状況だ。出てくる《搭載歩行機械》デッキもアブザンアグロばかりとは限らないだろう。
赤単アグロまでは想定内。そこから先でこそ《搭載歩行機械》の真の実力が試される。果たして《搭載歩行機械》はまたもや攻略されてしまうのか、それとも新たなデッキタイプが《搭載歩行機械》を押し上げるのだろうか。
2週間後に控える【WMCQ名古屋予選】というビッグイベントを前に。
スタンダード環境は、そして《搭載歩行機械》は歩き続けている。
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