「勝ちたいんです。どうしたらいいですか?」
この質問への”答え”はついに見つからなかった。いつか見つけられるといいな。それでは、また次回。
この質問への”答え”はついに見つからなかった。いつか見つけられるといいな。それでは、また次回。
もう半年も前のことになってしまったが、【前回の『勝ち勝ち』】はこんな風に締めくくった。上達への道筋は見つかったものの、「上達したいならこうしろ!」という「簡潔な答え」はそこにはなかったのだ。
いや、正確にはなかったわけではない。
数をこなすこと。時間をかけること。効率よくフィードバックを得ること。
仮にこんな方程式があるとすれば、「答え」は自ずと限られてくるはずだろう。
ただ、ここからが難しい。詰まるところ「答え」とは、数をこなすには、時間をかけるには、効率のいいフィードバックを得るには「何をすればいいのか」という、具体的な行動指針でなければならないからだ。
「寝る間も惜しむんだ!」
これは一つ確実なアドバイスだろう。効率はともかく、時間はかけられるはずだ。
「積極的に質問をしよう!」
これもまた一つのアドバイスかもしれない。きっと効率のいいフィードバックがもらえるだろう。
ただ、どうにもしこりのようなものを僕は感じていた。こう返された人が納得し、実行し、実際に上達するのだろうか?もちろん人によるのだろうが、納得→実行→上達の道筋がよりはっきり見える「答え」は他にありそうだと感じていた。
もっと核心を突くような、そんな魔法のような「答え」があるんじゃないかと。
そんな当てもない、もやっとした期待だけをメモに残してから数ヶ月も放置していたのだが、ある日ふいにこんな言葉が飛び込んできた。
「グループを組め」
Nick Howardは、そう言った。
■ 1. Nick said……
誰だよ、Nick!!
って人が大半だと思うので簡単に紹介すると、Nick Howardは「プロのポーカー選手」として活躍している人物だ。ただ、彼は決してメジャーなスター選手ではないし、表舞台に登場しない隠れた強豪というわけでもない。
じゃあなんなんだよ、Nick!!
って人が半分ほどいると思うので詳しく紹介すると、わずかな期間で初心者からプロへと成長を遂げたプレイヤーだ。
もちろんプロの世界だって幸運や不運による成績の浮き沈みとは無縁ではない。だからこそ「継続して何年間活動しているか」といった評価は実力に比例することが多い。つまり、活動期間が短いほどに実力に懐疑がかかることが普通なのだが、それにも関わらずNickは良きリーダーとしてプレイヤーとして高い評価を得ている。
Magic:the Gatheringの世界で喩えるならば、数カ月前にはプレリリースパーティーにしか参加したことがなかったプレイヤーが今やプロツアーに継続参戦しているようなものだ。まさに立派な成功譚だといえるだろう。
そんな《爆発的成長》を果たしたNickは、自身が上達するために活用した取り組みとコツをこれから上手になりたい人のためにビデオにまとめて話していた。
その内容は決して簡単なものではなかった。
前提をゲームの状況ごとに細かく整理し、存在する選択肢の期待値を計算し、それを一つの形にまとめる。
その作業の大半はただの計算である。しかも専用の計算機のようなツールまであるので、一つの状況について1~2時間もあればまとめられるだろう。ただ、この作業を設定した前提の数だけ、おそらくは膨大な工数を繰り返さなければならない。ざっと頭をよぎったのは3ヶ月という数字。いや、その程度で済むかどうか。
正直にいうと僕は尻ごんだ。時間や労力が膨大にかかるのに、得られる効果がやや不透明だったからだ。時間をかければ、数をこなせば、きっと上達はできる。だからこそ時間のかけ方や数のこなし方が重要だと考えていた。
ただ、Nickはビデオの中でまだ話し続けていた。
Nick 「それでは使用するツールの説明と、具体的な作業内容について話していこうと思うが、その前に、これらの作業にはグループで取り組んだほうがいいだろう」
……ん?
さらっと内容をかいつまんで話すとこうだ。
・短期間で上達した理由は、掲示板に意見を投稿し、プロジェクトごとにグループで取り組んだから
・グループによる検討や情報共有はとても有意義だ
・可能性を広げるために人数は可能な限り増やせ
・グループによる検討や情報共有はとても有意義だ
・可能性を広げるために人数は可能な限り増やせ
そう、先ほどの計算はそもそもひとりで行うことを推奨していない作業だったのだ。でも、だからといって「なーんだ」と一息つくことはできなかった。
そういえば一緒に取り組む友人がいなかった……
からではなく、
「おそらくNickはこの作業だけを指して話しているわけではない」
と感じたからだ。そもそも、時間のかけ方、数のこなし方など効用や効率に気を配るなら、まず最初に「自分だけで取り組むこと」を避けるべきではないのか?最後の最後に選ぶべき選択肢が「自分だけで頑張る」にならなければおかしいはずじゃないのか?
「グループで取り組むことは効果的だ。」
そう、頭ではわかっていたことだった。
上達するためには、グループの方が効率が良いのだ。
■ 2. グループを組むことの魅力って?
Nick 「まず、ひとりで何かをすることはとても運に左右されやすい方法だ。すぐに何かに躓くし、運良く起き上がった先に見つけた答えすら間違っているかもしれない」
上達すること。これに目的を絞った際に、ひとりで取り組むことは運に左右されやすい、とNickは話し始めた。たしかにその通りだろう。運というと勘違いが起こるかもしれないが、要するに上達の証でもある正しい答えにたどり着くのが難しいということだ。ぐるぐると堂々巡りをしてしまうかもしれないし、いつしか脇道にそれて戻ってこれないかもしれない。
それがもしグループとして取り組むならば、ひとりでは迷う道もお互いに修正し合うことで「より正しそうな選択肢」を選ぶことができる。もちろん全員が間違える可能性もあるのであくまでも確率の話になってしまうが、みんなで考えて選んだ答えは正しいことが多いだろう。
迷う確率を下げること、上達の妨げを避けること。そのためにはグループで取り組むこと。
うん。すごく自然な流れだ。
また、古くからMagic:the Gatheringのプロシーンでもグループによる調整・練習会は数多く行われてきた。一昔前はCMUやYMG、現在ではChannel fireballやTeam Revolutionなどが有名かもしれない。ともに成績を競い合うライバルでありながら、その技術を認め合い交流することでより高いレベルを目指すのだ。
このようなグループ活動はトッププロシーンばかりで起こっていたわけではない。
かつて一世を風靡した「浅原連合」、みんな(羊)で八十岡 翔太(毛刈り人)にボコされる会こと「ヤソ牧場」など、僕の身近だけ取り上げても「上達したい」と願うプレイヤーが集合した結果、世界レベルのプレイヤーが誕生したグループはいくつかあった。
もちろん、初めからの個人の素養や環境の良し悪しは結果を左右したことだろう。
ただ、持っている才能や素質を「どのように」伸ばすのか。これが論点であり、その手段として多くの成功例を持つグループ活動は、プロシーンのようなハイレベルな環境のみならず、とても有効な方法なのだ。問題を発見し、検討し、解決する。ひとりで行う何倍もの速度でこれが行われるのだから、Nickが指摘したひとりの正答率だけでなく、作業効率の面でもメリットがある。
まとめ: なんでグループを組むの?
・ひとりでは間違った答えに辿り着くかもしれない
→グループなら修正しあって正答率があがる
・ひとりだと長期間かかる作業かもしれない
→グループなら作業や時間を分担して短期間でできる
・ひとりでは間違った答えに辿り着くかもしれない
→グループなら修正しあって正答率があがる
・ひとりだと長期間かかる作業かもしれない
→グループなら作業や時間を分担して短期間でできる
■ 3. じゃあグループって組み得なの?
このように多くのメリットを持っているグループ活動だが、適当にグループとなっても効果的なのだろうか?
その答えはNOだ。
ただ集団になること、にはさほど意味はない。あくまでも「同じ目的をグループで達成することに興味がある人々」が集まらないといけない。
経営学者のChester Barnardが示した、組織が成立・存続する前提となる要素に倣うならば、
これらが必要不可欠となる。なにをするためにグループになるのか、その目的を達成するために何ができるのか、いかにして共有し交流できるのか。噛み砕くとこんな感じだろうか。とにかく組織の目的を設定して、それを共有すること。
それができなければ、有効性の是非、存続する意欲など、どこかしらで問題が生じるだろう。
また、自分がグループとして活動した方がいいかどうかは、個人として活動するよりも自分の目的達成に有効なのか、を比較する必要がある。常にグループのほうが効率がよく、効果的かというとそうでもないからだ。
仮に集団ならではの非効率に注目すると、グループだからこそ迷走するリスクを抱えていることが挙げられる。グループが下した決断は正しい確率が高いからこそ修正が効きにくかったり、小回りが利かないことは多々ある。また、そのグループの決断とは、よくも悪くもメンバーの納得が過程として必要になる。そのため、自分の、あるいはメンバーの意見が対立や堂々巡りをすると個人よりも遠回りをすることになる。
具体例を出すならば、これらはデッキの調整作業で起こりやすい。
個人とグループでのデッキ調整における違いは主にスピード感である。デッキの問題が発見・解決される速度、アイデアが提案される速度、ゲームが消化される速度。基本的には手作業ばかりなのでグループの調整はとても進行が早い。
しかし、その進行の早さは時に失敗を呼ぶ。作業の進行が早いということは、すなわち当初の前提や出発点となるリストから離れやすいということでもある。そのため、グループの中で自然と共有されていた「正しいはずのメタゲームや相性」は、ただの一人歩きとなってしまうことがあるのだ。
このような失敗は個人でも起こりうるが、グループでは確認作業をしながら全員で踏み外していく可能性があることと、何より作業の速度が早いので間違える範囲も大きくなってしまいがちだ。また、これらの間違いや疑いが発覚しても、決定的な証拠がない限りは意見の対立や堂々巡りが起き、一時的にグループ全体が麻痺するのは厄介だ。
作業する規模と速度が増すだけ場当たりな対応がしにくくなる。ただ良い面と悪い面の表裏の話でしかないが、融通がききにくいことは確かなことだろう。
さらに、参加する個人が、グループによる恩恵を受けられるかはいつだって不明瞭だ。つまりグループとして活動して、グループの成果を共有されたとしても、取り組み方によってはグループ活動を通した経験に個人差が生まれてしまうということだ。やや強かな言い分になるが、「仲間とともに自分の目的を達成すること」が理想となる。そのために仲間の目的を手伝い、手伝ってもらう。その交渉や交流がうまくいかなければ、やや期待はずれの結果に終わってしまうかもしれないのだ。
これもデッキ調整作業で喩えるならば、自分が気になっているアイデアが注目を浴びて調整作業の対象になるとは限らないということだ。
グループの目的は、一週間後のトーナメントにおけるベストなデッキを作成することだとしよう。そうした時に、もちろん様々なアイデアは検討の対象となるが、時間は限られているため、提案されたアイデアの中から最も評判が良かったものや期待が高いものから優先的に調整されていくはずだ。
そのときに自分が興味を持っているアイデアが候補から外れてしまう可能性が常にあるということである。個人の作業であれば、乱暴な言い方をするならば「自分が良いと思うことをやるだけ」だが、グループ作業ともなればそうはいかない。
こう考えると、グループとなることも一長一短のように思える。僕個人としてはどう転んでもある程度楽しそうなのだが、それはまた別の話でしかないことも事実だ。
上達するためにグループ活動は最高の選択肢の一つだ。
だが、グループだからこその悩ましい問題もある。
うーん、一体どうすればいいのだろうか?
Nick 「グループ活動をする際に気をつけるべきことがいくつかある」
さすがNick!
■ 4. 上達するためのグループを目指すには?Nickの4つの秘訣!
一. 短期間もしくは期限を決めた活動を繰り返せ!
これは個人の目的とグループの目的の間にあるギャップを埋めてくれるアドバイスだ。大きな目標に取り組むこともグループ活動の魅力だが、個人で違う目的を抱えた仲間と共同作業をするには、まずは活動の成功率をあげることが重要になる。
そのためには、時間制限やその中でこなせる活動をこまめに繰り返すことがいいのだろう。その繰り返しの中で参加者たちは慣れ、次第におおきな目標を共にすることができるようになる。
また、こまめな連絡会や分担作業の報告も推奨されていた。これは当然のことだが、当然の積み重ねが成功の原動力に違いない。せっかくのグループ作業なのだから、他人の意見を聞く機会を頻繁かつ定期的に作るのはとてもいいことだ。
二. 良い問題提起で火をつけろ!
グループ活動を開始したからといって自分の目的が達成されるとは限らない。そのための交渉や努力は当然するが、それがグループ活動の妨げになることはルール違反だ。では、どうすれば自分の目的を達成しやすくなるだろうか?
このアドバイスはその答えに相当するものだ。自分が抱えている目的や問題に興味を持ってもらい、それを仲間の目的にしてもらえばいいのだ。そのためには、彼らのやる気や興味に火をつける「良い質問」をするのがいい方法だ。
疑問や問題の共有は皆の上達につながるうえに、上達する道のりで最も無駄な時間は『考えるべき問題を探している時間』なのだから。それをお互いに絶え間なく提供し、ともに解決していくこと。これは彼のアドバイスの中で僕が最も感心したものだった。
三. 必ずガイドやコーチから助言を受けろ!
ただの口喧嘩ではない、方針や結論についての対立はグループ活動では日常茶飯事だ。ただ、それは避けるべきものではなく、きちんと落ちをつけてまとめることを前提に推奨されるものだ。納得いかないという相手に、自分の意見を理解されるように丁寧に説明すること。熱の入りようはともかくとして議論はいいことだ。
だが、議論の末にわけがわからなくなるということは度々ある。相手の言いたいこともわかるし納得もできるが、自分の意見が間違っているとも思えない。互いにそのような状態になると結論がフワフワとしたまま次の話題にすすむものだが、これはとても不毛な結末に違いない。
そのため、定期的に自分たちよりも高いレベルのプレイヤーから助言を受けるべきだというのだ。結論が保留されていた話題がなぜ停滞したのかが分かるようになり、グループ活動における最大のリスクである『全員が間違った結論を選択する』ことを回避する命綱になるからである。
四. ひとつの意見だけに耳を傾けるな!
たとえレベルの高い人の発言であっても、その意見『だけ』を聞くことはお勧めされない。少し不思議に思う人もいるかもしれない。この理由は、レベルの高い人も間違いを犯している可能性があることが第一で、さらに、正しい確率が高い意見だけを参考にするよりも、様々な意見を耳にしたうえで考えて選択することのほうが有意義だからだ。
これはグループ活動でも同様で、グループ内で実力があり説得力もある人の意見は浸透しやすいが、その状況はその人自身にとってもグループにとっても良い働きだけをするわけではない。浸透した結果として『全員が間違った結論を選択する』可能性は増し、意見を浸透させることはおそらくその人の目的ではないからだ。
より多くのフィルターを通して真偽を確かめること。このような自己革新を自然と行える仕組みのあるグループはとても成長が早いに違いない。
■ 5. 最後に
この4つのTIPSは、Nick Howardが”Building Range Models(Part1)”のなかで『上達するためのグループ構築』というテーマで発言した内容を僕がまとめ直したものだ。他にも情報共有の方法など興味深い内容は多くあったので、機会があればまた別の形で紹介するかもしれない。
出発点の「勝ちたいんです。どうすれば?」という質問に立ち返ると、Nickの「グループを組め」という答えは的確な返答だったように思える。自分でできることには限界があり、使えるリソースも多い方がいいに決まっている。
ただ、やはりグループ活動はとても難しい。
そもそも共に取り組む相手を見つけるのが難しく、上手くいくには工夫が必要で、継続していくことはさらに大変なのだ。
ここまで考えて、グループを組むことは、デッキを組むことと似ているなと気がついた。ランダムなカードの束ではデッキにはならない。優良呪文ばかりでも土地がなければデッキは動かない。デッキのコンセプトがなければ良いデッキにはならない。
そして何より、デッキはたくさん試してたくさん失敗しないと強くならない。
いつか、あなたにとって、ベストなデッキが見つからんことを。
それではまた。