待望の新セット『運命再編』が発売されたわけだが、今回はM14のときと同じく、やりこみよりも情報の鮮度を優先して、ファーストインプレッションという形で環境の概要を解説したい。マジック・オンラインのリリースイベントにむけて、もしくはプロツアー観戦の副読本的なテキストとして楽しんでもらえれば幸いだ。
■ 環境の特徴
まずは2色土地に代表されるマナサポートが減少し、無色生物である「変異」がいなくなったことによって、今までよりも色をまとめる必要があるという点に注意したい。
多色化のリスクが高まることを考えると環境は「白黒」や「赤緑」などの2色ビートに対して追い風になっているとも言えるが、これらのアーキタイプはパーツに恵まれたセットだった『タルキール覇王譚』のパック数が減少したことにより強力なカードの供給自体は絞られたため、判断が難しいところである。端的に言うと、今までと同じ程度の完成度のビートデッキが組めた場合、今まで以上の勝率が望めるが、その難度自体は上がっているという環境デザインになっているのだ。
全体のカードパワーについてだが、コモンのカードパワーは全体的に下がったと言っていいが、レアのカードパワーは異常なハイアベレージになっている。
レア、神話レア合計45種のうち初手で取っていいレアが37種、実に82%超の初手レア率となっており、これは筆者の記憶では過去最高レベルで驚愕に値する。
次に各アーキタイプがどのように強化/弱体化されたかについて言及する。
■ 白黒+赤
新戦力として期待できるカードとして《過酷な命の糧》《砂草原ののけ者》《頭巾被りの暗殺者》の3枚が挙げられる。これらのカードは『タルキール覇王譚』の優良コモンたちと十分に張り合えるだけの性能があるが、全体的な層の厚さは流石に落ちたというしかない。
白のカードはまだいいのだが、黒のカードが軒並み去勢されたかのように攻めっ気が薄く従来の白黒が持つマナカーブを埋めることが出来ていないのだ。
具体的なカード評価は以下。
★ コモントップ5
トークン戦略との相性が非常にいいため、このカードが取れた場合は3色目は緑でなく赤に。
2位 《砂草原ののけ者》
数を並べるもよし、『タルキール覇王譚』の各種「長久」クリーチャーと噛み合わせるもよしと柔軟性の高い優良カード。
壁キラーとしては勿論、3マナ生物として単純にナイスサイズなだけでなく、「長久」と噛み合う分ただの2/3よりもずっと優秀。
デッキに入っているだけでブロック時に相手がケアする要素が増える点もよい。
同率4位 《魂の召喚》《アブザンの飛空隊長》
「果敢」もなく、「予示」のアタリ(2/2以上のサイズ)確率が極めて少ない白黒で《魂の召喚》をこの位置に置くことに違和感を覚えるかもしれないが、このカードのおかげで今まで期待値5マナで計算していた《スゥルタイのゴミあさり》が無理なく4ターン目に出るのは果てしなく偉い。土地17で運用される前提だとおおむね2ターン登場が早まると考えてよく、この差は勝敗にダイレクトに直結する。
《アブザンの飛空隊長》に関しては勿論優秀なカードではあるが、「鼓舞」というキーワード能力がトークン戦略と併用されると上ブレ期待値が著しく下がるので、白黒+赤では《魂の召喚》と同率で評価してみた。
■ 黒緑+白
今までの白黒緑は基本的に「白黒+緑」であり、白黒ビートの拡張パーツが多色の強力カードになっているというパターンだったが、待望のコモンマナエルフである《荒野の囁く者》が『運命再編』で追加されたことにより、「黒緑+白」や「白緑+黒」といった今まで次善の選択肢だったカラーコンビネーションが一気に勝てる選択肢として存在感を増した。
また、後述することになるが「白青赤」の強化によって白がらみのビートパーツの需要が高まると同時に、《砂爆破》に代表される白がらみの捌くパーツはその性能に比べてある程度確保しやすいため、それも白を3色目に落とす選択肢を肯定する要素になっている。
勿論「白黒+緑」は依然として有効なアプローチではあるが、そちらのアプローチは基本的に「白黒+赤」に準じてもらえればいいので、ここでは「黒緑+白」を前提としてコモンを評価する。
★ コモントップ5
全世界待望。全コロッソドンが泣いた。アカデミー2ターン目ベストムーブ賞最有力候補の呼び声も高い緑の救世主。
2位 《無残な競争》
2色にはなっているものの《凶暴な殴打》に比べて簡単な仕込みで安定して1:1交換が取れる優良除去。
格闘系のスペルには珍しくインスタントである点も高く評価できる。
そつなく強い。
あまり面白みもないので本当は3位も《荒野の囁く者》にしたい。
4位 《影の手の内》
よりコストの低い《弱者狩り》や《薄暗がりへの消失》よりもこちらを優先するのは、冒頭でも述べたようにこの環境は8割のプレイヤーがレアからドラフトをスタートするからである。
そこそこの除去や《チフス鼠》よりも土地を優先していい。
白黒緑カラーは3パック目に強力なレア・アンコモンが多数控えているので、3色目の枚数が増えることも意識して受け入れ態勢を整えよう。
■ 赤緑+青
今環境は赤も緑も新戦力が増強されているのだが、それをもってそのまま既存の赤緑が強化されたかというと、そう単純な話ではないようだ。
前環境で氏族のコンセプトから外れながらも大きな存在感を放っていた赤緑は、基本的にスライのようなマナカーブを描くことを理想としていた。
しかし今環境では《荒野の囁く者》の登場により、マナブーストからのファッティで単純にサイズ押しするという新しい、そして懐かしい形の赤緑がアーキタイプとして提示されている。
これは前環境の赤緑の視点から考えると、必須パーツである2マナのアタッカーの減少、そして巨大化系スペルの不在というデッキの根幹にかかわる問題が発生したとも言える事件で、いかに《ゴブリンの踵裂き》が優秀でもその存在だけでは楽観的にはなれないのだ。勿論アーキタイプが成立しないわけではないので誤解しないでもらいたいが、少なくとも前環境ほどの安定度は見込めないだろう。
今回は《荒野の囁く者》のマナブーストからのファッティ戦略を前提としたコモンランキングになる。
★ コモントップ5
是非3ターン目に「獰猛」を達成して4ターン目に《大牙コロッソドン》を呼ぼう。
《ティムールの激闘》と合わせれば5ターンキルも現実的。
2位 《龍火浴びせ》
単純に優秀。スライ的な動きをするデッキなら《ゴブリンの踵裂き》を優先するがファッティ戦略ならこちらからとっていい。
スライ戦略では攻めている状況で1回巨大化するだけでだいたい勝ちだ。
ファッティ戦略ではデッキ全体の動きとのシナジーは薄いが、基本性能だけで十分及第点。
4位 《残忍なクルショク》
サイズは正義だ。
《弱者狩り》は少し重いがそれでもレアを対処できる除去は欲しい。
《突き刺し豚》は《高山の灰色熊》の下位互換だが、序盤で「獰猛」が達成できるようにする仕込みは厚くとって取りすぎということはない。
■ 青黒緑
土地の減少による負の影響が一番大きいのはこのアーキタイプで間違いない。
しかし悪いことばかりではない。黒はビートパーツが減少して《チフス鼠》に代表されるコントロールパーツに枠が充てられている。また、もともと緑で重くて強いという構成でマナエルフを待望していたアーキタイプでもあり、かつ《エイヴンの偵察員》に代表される青のパーツの強化はダイレクトにアーキタイプの強化につながっている。このように土地の減少以外の全ての要素が青黒緑に有利に働いている。
★ コモントップ5
初手で《荒野の囁く者》との場合はこちらを取っていいだろう。
しかしその差は僅かで、初手が緑のカードで2手目で同じ2択にあった場合は《荒野の囁く者》を取る。
例外としてはその緑のカードが《ティムールの剣歯虎》だった場合だ。この2枚が噛み合うと自動的にゲームに勝ってしまうのでしょうがない。
2位 《荒野の囁く者》
「獰猛」なしでも十分強い。
壁の居場所のある青黒緑では特に意識しなくとも仕込みが出来ているはずだ。
4位 《茨森の滝》《陰鬱な僻地》《ジャングルのうろ穴》
すでに青黒緑が決まっているならそこそこのカードより土地から取っていい。
青黒緑は他のアーキタイプで使えない《大蛇の儀式》などがプレイアブルになるため《チフス鼠》を《影の手の内》と同等まで挙げて評価してもよい。
■ 白青赤
「予示」というシステムは「果敢」というキーワード能力のリミテッドにおける機能不全を補完するようにデザインされている。これは開発側の白青赤に対する上方修正の意思表示であり、実際デザイナーのもくろみ通りこのカラーは大きく強化された。
強化の要因は「予示」によるものだけではなく、《エイヴンの偵察員》《蓮道のジン》《ナーガの意志》という仕込みなしで一定以上の強さが保障されている青のパーツが追加されたことも大きい。
★ コモントップ5
何のひねりもなく強いのでコメントに困る。
2位 《砂草原ののけ者》
いかにアーキタイプのコンセプトと関係ないとはいえこのスペックであればこの位置でいいだろう。
環境の理解が進めば上方修正はあり得る。
4位 《ナーガの意志》
リミテッドに慣れてないプレイヤーには強さが伝わりにくいかもしれないが、殴り合っている盤面で使ってみれば簡単にその強さが理解できると思う。
綺麗に2色タッチ1色にまとめられるならこの優先度でいいが、2色目がどちらになるかふらついているような状態であれば土地を優先するのもアリ。
以上が環境のファーストインプレッションだ。当然この記事内で言及していない要素もまだまだ沢山ある。青緑など今までは成立しなかったアーキタイプの方法論設計、《大牙コロッソドン》や《旋風の達人》といった今までプレイアブルでなかった『タルキール覇王譚』のカードの評価修正など、この環境には掘り下げる余地が膨大に残されている。リミテッドジャンキーとしては喜ばしい限りだ。
この記事が環境理解のファーストステップとして皆の助けになればうれしい。
それでは、よいリミテッドライフを。