好きなカードをいつまでも、好きなデッキをいつだって使える。
ローテーションと無縁のレガシーは誰もが憧れる常夏の楽園だ。
ただ、そんな楽園も日常になってしまうと、普通ならば飽きがきてしまう。
ココナッツジュースで胸焼けするように、2ターン目の《実物提示教育》にすらいつかは退屈を覚える日がくるのだろう。
ちょっと想像するだけでも恐ろしいことだ。
そんな退屈や飽きをはねのける新しい刺激を求めてプレイヤーたちは、古きから、新しきからもアイデアを探し求めている。
そんな彼らの意欲作をいくつか紹介しよう。
■ DJM
遡ること8年前のスタンダード環境には「TCG」と呼ばれる、とあるパッケージが存在した。
《タルモゴイフ》、《獣群の呼び声》、《野生語りのガラク》。これら3枚の英語名の頭文字を順にとって「TCG」というわけだ。当時は明らかに強力なカードたちであったこと、どれも緑のカードなので様々なデッキで見かけたこと(ほとんどが黒緑ではあったが)が合わさり、畏敬の念やら恨みやらが混じった結果そう呼ばれていた。
そして時は流れて2015年。
現代の「TCG」ともいうべく組み合わせがこれだ。
3 《Tundra》 3 《Underground Sea》 1 《Scrubland》 1 《Tropical Island》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《汚染された三角州》 2 《不毛の大地》 -土地(18)- 4 《死儀礼のシャーマン》 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 4 《僧院の導師》 -クリーチャー(12)- | 4 《渦まく知識》 4 《陰謀団式療法》 4 《ギタクシア派の調査》 4 《思案》 4 《剣を鍬に》 1 《思考掃き》 1 《発掘》 4 《Force of Will》 4 《時を越えた探索》 -呪文(30)- | 4 《翻弄する魔道士》 2 《青霊破》 2 《狼狽の嵐》 2 《外科的摘出》 2 《突然の衰微》 2 《仕組まれた疫病》 1 《真髄の針》 -サイドボード(15)- |
1マナ最強候補の《死儀礼のシャーマン》。
2マナの有力株こと《ヴリンの神童、ジェイス》。
3マナのフィニッシャーとして知られる《僧院の導師》。
強力なカードがひしめく青白黒のなかでも屈指の3枚がデッキのチャームポイントになっている。
興味深いのは《ヴリンの神童、ジェイス》かもしれない。今夏に参戦したばかりで未知数な部分は多いカードだが、ヴィンテージからスタンダードまで幅広い構築フォーマットで結果を残しているだけに、きっとレガシーでも「リアニメート」だけでなく様々なデッキで活躍するだろう。《剣を鍬に》など強力な呪文の再利用は《瞬唱の魔道士》にもできることだが、プレインズウォーカーとして戦場にプレッシャーをかけることは《ヴリンの神童、ジェイス》にしかできない。
そして、《ヴリンの神童、ジェイス》に手こずる相手を素早く介錯するのが《僧院の導師》だ。《ギタクシア派の調査》と《陰謀団式療法》の強力な妨害コンビが後押しして一気にゲームを勝勢に傾けてしまうだろう。
これら3枚が《稲妻》などで対処されてしまうこともあるかもしれない。そんなピンチな場面で輝くのが《発掘》だ。3マナ以下のクリーチャーを僅か1マナで戦場に戻せる《発掘》は、3マナ以下の12枚を頼りにしたこのデッキでこそ活躍するに違いない。
フォーマット屈指のカードを、より強く使う工夫でサポートする。
強い×強い=超強い。未だに解かれない方程式の証明に挑んだ意欲作だ。
■ 《姥の仮面》スタックス
かつてのヴィンテージ環境で幅を利かせていたデッキのひとつに「《姥の仮面》スタックス」があった。
強力な青いデッキが跋扈するなか、『インスタントのドロー呪文を咎める』『カウンター呪文を無力化する』ことができる《姥の仮面》は、「スタックス」というパーマネント主体のデッキの頼りになるパートナーだったのだ。「《姥の仮面》スタックス」は、《Bazaar of Baghdad》との強力なシナジーに、「《世界喰らいのドラゴン》コンボ」への強力なアンチだったことも合わさって一世を風靡した。
そして10年後の現在。再び《姥の仮面》に目を付けたデッキが現れた。
6 《平地》 2 《地平線の梢》 1 《Karakas》 4 《古えの墳墓》 4 《裏切り者の都》 3 《ミシュラの工廠》 3 《不毛の大地》 2 《水晶鉱脈》 1 《The Tabernacle at Pendrell Vale》 -土地(26)- -クリーチャー(0)- | 3 《戦の惨害》 2 《ハルマゲドン》 4 《虚空の杯》 4 《モックス・ダイアモンド》 4 《三なる宝球》 3 《世界のるつぼ》 3 《どん欲の角笛》 3 《亡霊の牢獄》 3 《謙虚》 3 《姥の仮面》 1 《煙突》 1 《遍歴の騎士、エルズペス》 -呪文(34)- | 3 《悟りの教示者》 2 《解呪》 2 《安らかなる眠り》 2 《法の定め》 2 《神聖の力線》 1 《ボジューカの沼》 1 《真髄の針》 1 《エーテル宣誓会の法学者》 1 《ファイレクシアの破棄者》 -サイドボード(15)- |
それは「スタックス」の系譜を継ぐ「白スタックス」だった。1~2ターン目の《三なる宝球》《虚空の杯》頼りになってしまう青いデッキとのマッチアップを《姥の仮面》は大きく改善してくれるだろう。
古の《Bazaar of Baghdad》とのシナジーこそ失われてしまったが、代わりに《どん欲の角笛》+《世界のるつぼ》というドローエンジンが搭載されている。やや遠回りではあるが、《世界のるつぼ》+《不毛の大地》で完封できるゲームがあることを思うと、各々のパーツが強力なこちらのエンジンも魅力的に思えてくる。
アドバンテージ源は分かったけど、戦場はどうするの?
そんな疑問に答えるのが《亡霊の牢獄》と《謙虚》だ。サイドボードですらやりすぎ感が漂う彼らがメインボードからがっつりと採用されているのだから、その防御がいかに堅牢であるか窺い知れるだろう。
もたついた相手にゲーム終了を告げるのは、《戦の惨害》と合わせて5枚も採用された《ハルマゲドン》だ。戦場の優位もマナも失った対戦相手は身動き一つ取ることができない。
かつては強力だったカードもいつしか時の流れで忘れられてしまうこともある。そんな彼らの歴史には、静かに忘れ去られた理由もあるが、かつて活躍した理由もまだ残されている。悪いところもいいところも記憶の片隅に残しておいて、いいところを活かしてあげるのがデッキビルダーたるものの嗜みだ。
久しぶりに聞こえた《姥の仮面》の名前は心に響いた。