第1回は【こちら】
第2回は【こちら】
緑黒系/《出産の殻》/親和の3巨頭によりモダン環境のメタゲームは少し停滞気味だったが、着実に包囲網は狭まってきているのではないか……それが前回までの結論だった。
では、はたして実際はどうなったのか。10月末に行われたグランプリ・アントワープ13の結果を見てみるとしよう。
1.グランプリ・アントワープ13 トップ8 デッキアーキタイプ
2013年10月26~27日
1位 欠片の双子
2位 赤緑トロン
3位 ジャンド
4位 死せる生
5位 親和
6位 欠片の双子
7位 感染
8位 死せる生
この驚くべき様変わりぶり。
「これがメタゲームだ」と言わんばかりの鮮やかな変化である。
グランプリ・ブリスベン13ではほとんど見られなかった《欠片の双子》デッキをはじめとするコンボデッキの乱舞。支配的地位を築いていると思われた《出産の殻》の淘汰。さらにあれだけ目立っておきながらなお再びトップ8に滑り込んだトロンと親和のポテンシャル。
見よ、モダンはこんなにも可能性に満ちている。
それでは早速、今回トップ8に入賞した注目のアーキタイプたちを紹介していこう。
2.グランプリ・アントワープ13 トップ8 デッキ解説
「欠片の双子」「ジャンド」「死せる生」「感染」
3 《島》 1 《山》 3 《蒸気孔》 1 《繁殖池》 4 《霧深い雨林》 4 《沸騰する小湖》 4 《硫黄の滝》 2 《地盤の際》 1 《僻地の灯台》 -土地- 2 《渋面の溶岩使い》 4 《瞬唱の魔道士》 4 《やっかい児》 2 《詐欺師の総督》 2 《ヴェンディリオン三人衆》 1 《鏡割りのキキジキ》 -クリーチャー- |
4 《稲妻》 4 《血清の幻視》 2 《のぞき見》 1 《払拭》 3 《差し戻し》 2 《イゼットの魔除け》 4 《欠片の双子》 2 《謎めいた命令》 -呪文- |
3 《溶鉄の雨》 2 《古えの遺恨》 2 《不忠の糸》 2 《大祖始の遺産》 2 《殴打頭蓋》 1 《渋面の溶岩使い》 1 《払拭》 1 《四肢切断》 1 《仕組まれた爆薬》 -サイドボード(15)- |
モダンというフォーマットが正式に採用された初めてのプレミアイベント、プロツアー・フィラデルフィア11。その優勝デッキが何だったか、覚えているだろうか?
そう、Samuele Estrattiの《欠片の双子》デッキだ。
モダン最古の覇者にして王者。
しかし、その栄光は長くは続かなかった。
悪名高き《ヴェールのリリアナ》の登場により完成度を飛躍的に高めたジャンドが、コンボデッキ使いたちの手札を文字通りずたずたに引き裂いていったからだ。
そして時は流れ。
今、再び《欠片の双子》は君臨したのだ。
・・・・・・そんなポエムが聞こえてきそうなくらいに、今回の《欠片の双子》デッキの勝利は劇的で、刺激的だった。
何せ、緑黒系ハンデス&《ヴェールのリリアナ》デッキがモダンのトップメタに居座り続ける限り、このデッキが主役になることなど考えられないと思われていたからだ。
だが。
それを可能にしたのが今回の優勝者、Patrick Dickmannの異色の構築である。
《欠片の双子》デッキはトップ8に2人いるが、優勝者のデッキと6位のデッキとは、同じデッキのようで、実は設計思想がまるで異なる。
Patrick Dickmann・・・・・・”Ofelia”といえば、MOモダンの常連であり、この”Tempo Twin”の長年の愛用者であった。
通常の《欠片の双子》デッキが《やっかい児》《詐欺師の総督》を4:4で積んでいるところ、”Ofelia”はついに4:2という境地に到達したのだ。
コンボを決めるだけなら2/1飛行より1/4の方が強いのは明白だ。何せ《稲妻》で落ちないのだから。
だが、あえて《詐欺師の総督》を2枚に減らした。2/1飛行に採用を優先させるだけの価値があるとすれば、それは。
打点の高さだ。
コンボデッキのようでいて、その実《瞬唱の魔道士》《稲妻》による本体ダメージ勝ちプランがオプションとして可能となっている点にこのデッキの真価があるのだ。
いやむしろ単なるオプションというよりは第二の勝ち手段と言っていい。
それくらい、”Tempo Twin”は『ダメージ勝ち』が多い。
何せコンボを警戒しすぎるとどんどんライフを詰められる。コンボパーツ以外にも《渋面の溶岩使い》や《ヴェンディリオン三人衆》といった放置できないパーマネントが虎視眈々と本体を狙ってくるのだ。
さらに《瞬唱の魔道士》に《欠片の双子》が付くことさえある。全ての《稲妻》を使いまわせば20点なんて紙切れのように脆い。
そしてそんなプレッシャーのおかげでコンボも決めやすい。《ヴェンディリオン三人衆》や《瞬唱の魔道士》に除去を撃たされてしまうと、肝心の《やっかい児》への除去が足りないなんてことは往々にしてある。
要はコンボとダメージの両輪が、対処法を見誤りやすくしているのだ。
このデッキは値段も比較的安いし、グランプリを優勝するだけのポテンシャルもある。
”Tempo Twin”は今後もモダン環境でよく見るアーキタイプとなりそうだ。
2 《沼》 1 《森》 2 《草むした墓》 1 《血の墓所》 1 《踏み鳴らされる地》 4 《湿地の干潟》 4 《新緑の地下墓地》 4 《黒割れの崖》 1 《黄昏のぬかるみ》 2 《怒り狂う山峡》 2 《樹上の村》 -土地- 4 《死儀礼のシャーマン》 4 《闇の腹心》 4 《タルモゴイフ》 3 《漁る軟泥》 2 《台所の嫌がらせ屋》 -クリーチャー- |
4 《稲妻》 3 《コジレックの審問》 3 《思考囲い》 2 《突然の衰微》 2 《終止》 1 《大渦の脈動》 4 《ヴェールのリリアナ》 -呪文- |
2 《大爆発の魔道士》 2 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 2 《古えの遺恨》 2 《ジャンドの魔除け》 1 《呪文滑り》 1 《大渦の脈動》 1 《殺戮遊戯》 1 《塩まき》 1 《忍び寄る腐食》 1 《原基の印章》 1 《光と影の剣》 -サイドボード(15)- |
緑黒ではなくジャンドを選択する場合、《稲妻》の他に同型戦での差別化や対《出産の殻》戦での相性改善を図るため、《オリヴィア・ヴォルダーレン》や《雷口のヘルカイト》などの重強パーツが1~2枚採られていることが多い。
しかしこのデッキはそのスロットに《台所の嫌がらせ屋》をあえて採用し、同型対策としてのスロットの意義を維持しつつも、徹底した軽量化を施している。コンボデッキの隆盛を見越したかのような鋭い調整と言えよう。
さらにサイドには流行の《大爆発の魔道士》だけでなく、あえて《ジャンドの魔除け》を採っていることが効を奏し、後述の《死せる生》デッキに対しても戦える構成となっている。
他にもサイドカードが満遍なく散らされており、『あらゆるデッキに対応可能なデッキ』としてメタゲームが変わっても変わらず在り続けるその姿は、やはり環境の『王者』と呼ぶにふさわしい。
1 《森》 1 《山》 1 《沼》 1 《血の墓所》 1 《草むした墓》 1 《踏み鳴らされる地》 4 《新緑の地下墓地》 4 《黒割れの崖》 4 《銅線の地溝》 1 《禁忌の果樹園》 -土地- 4 《大爆発の魔道士》 3 《猿人の指導霊》 2 《斑の猪》 2 《フェアリーの忌み者》 4 《死の一撃のミノタウルス》 4 《巨怪なオサムシ》 4 《通りの悪霊》 2 《谷のラネット》 1 《よじれた嫌悪者》 3 《ジャングルの織り手》 -クリーチャー- |
3 《死せる生》 4 《暴力的な突発》 3 《悪魔の戦慄》 2 《内にいる獣》 -呪文- |
3 《鋳塊かじり》 3 《神々の憤怒》 3 《跳ね返りの罠》 2 《フェアリーの忌み者》 2 《クローサの掌握》 2 《四肢切断》 -サイドボード(15)- |
このトーナメントの台風の目。
それがまさか《死せる生》デッキになるとは、始まる前には誰しも予測していなかったのではないか。
それくらい暴力的で突発的な躍進だった。
何せ《死せる生》デッキといえばモダン環境ではマニアックな万年二流デッキ止まりと思われていたからだ。
だが、その認識は誤りであると。
時機さえ選べば二流デッキでも一流デッキ同様にモダンを支配できると。
身をもって証明した形となった。
青いコンボデッキがほとんど存在せず、緑黒系と《出産の殻》と親和が支配する環境。
それこそがこの《死せる生》デッキの格好の餌だったのだ。
例えば《大爆発の魔道士》や《内にいる獣》で土地を壊してから。
あるいは《通りの悪霊》などで3~4回ほどサイクリングを挟んだ2ターン目や3ターン目にでも。
ひとたび《死せる生》が発動すれば、それだけで盤面は一気にクライマックスになる。相手のクリーチャーは死に絶え、墓地から3/4や4/4の群れが押し寄せる。
その奇襲性。そのどうしようもなさ。
その強さ。まさに蹂躙と呼ぶにふさわしい。
優勝デッキを含めて青系コンボ復権の兆しが見られるため、また雌伏の時に入りそうだが、今後も似たようなメタゲームになれば奇襲が狙えることは頭の片隅に留めておいた方が良いだろう。
そして。
いよいよお待ちかね、第3回にして初めてテーロスのカードを紹介できることとなった。
全体除去+リムーブ。しかも『続唱』でめくれない限界ラインギリギリの3マナ。これほどこのデッキと相性が良いカードもあるまい。
《神々の憤怒》の露払いから《死せる生》を撃てば、戻ってくるのはサイクリングしたこちらのクリーチャーばかりだ。
最新セットのカードまで受け入れる度量の広さをモダンは示してくれた。
ありがとうテーロス!ありがとうモダン!!
……また、このデッキも基本パーツがコモンやアンコモンであり、モダンのデッキの中でも値段が相当安い部類に入る。
土地と《大爆発の魔道士》さえ揃えてしまえば完成は目前だ。
大量サイクリングからの『続唱』という、他のデッキではあまり見ない動きをするデッキということもあり、トーナメントで相手にしたときに初見で対処法がよくわからなくて焦るといったことがないようにするためにも、一度自分で組んで回してみて動きを理解しておいた方が良いだろう。
2 《森》 2 《繁殖池》 2 《草むした墓》 4 《霧深い雨林》 4 《新緑の地下墓地》 2 《ペンデルヘイヴン》 4 《墨蛾の生息地》 -土地- 4 《ぎらつかせのエルフ》 4 《貴族の教主》 4 《荒廃の工作員》 4 《疫病のとげ刺し》 -クリーチャー- |
4 《変異原性の成長》 4 《地うねり》 4 《怨恨》 4 《巨森の蔦》 3 《古きクローサの力》 1 《ひずみの一撃》 3 《使徒の祝福》 1 《捕食者の一撃》 -呪文- |
4 《自然の要求》 3 《コジレックの審問》 3 《四肢切断》 2 《呪文滑り》 2 《突然の衰微》 1 《野生の抵抗》 -サイドボード(15)- |
第1回で『モダンは3キルを許さない環境』といったようなことを書いたと思う。
だが、限りなく3キルに近いデッキは存在する。
その1つがこのデッキ、感染だ。
『感染』能力持ちの攻撃により相手に10個の毒カウンターを乗せてしまえば勝利となるため、『感染』クリーチャーへの《巨大化》系パンプスペルは実質2倍の修正を与える凶悪な呪文へと変貌する。+4/+4の呪文2枚と『賛美』を合わせれば一撃死も夢ではない。
何よりこのデッキの最大の脅威は《墨蛾の生息地》にある。土地として決して除去られることのない安全圏から登場しながらも、任意のタイミングで攻撃に向かわせることができる。いわば二段攻撃と回避能力を持った《変わり谷》みたいなものだ。
このデッキに対して緩いマリガン判断をした対戦相手はことごとく後悔することになるだろう。
一瞬の攻防に全てを懸ける、そんな刹那的なスリルに身を任せたい方にはオススメのデッキだ。
3.グランプリ・アントワープ トップ16 デッキアーキタイプ
2013年10月26~27日
9位 ジャンド
10位 ジャンド
11位 親和
12位 無限頑強
13位 死せる生
14位 親和
15位 出産の殻
16位 無限頑強
メタゲームが変わったといっても、トップ16まで見れば依然として緑黒系/《出産の殻》/親和の3巨頭は強力なデッキであることがわかる。
しかし、このあたりは前回も紹介して特に面白味もないので、ここではトップ16より下位の中から注目のデッキを1つ紹介しておこう。
3 《山》 3 《平地》 2 《聖なる鋳造所》 4 《乾燥台地》 4 《湿地の干潟》 3 《岩だらけの大草原》 2 《戦場の鍛冶場》 2 《凱旋の神殿》 1 《魂の洞窟》 -土地- 4 《前兆の壁》 4 《刃の接合者》 4 《村の鐘鳴らし》 4 《修復の天使》 2 《鏡割りのキキジキ》 -クリーチャー- |
4 《稲妻》 4 《流刑への道》 2 《マグマの噴流》 2 《血染めの月》 4 《欠片の双子》 2 《大祖始の遺産》 -呪文- |
3 《呪文滑り》 3 《石のような静寂》 2 《紅蓮地獄》 2 《墓掘りの檻》 1 《エイヴンの思考検閲者》 1 《鏡割りのキキジキ》 1 《焼却》 1 《沸騰》 1 《血染めの月》 -サイドボード(15)- |
プロツアー・ラヴニカへの回帰において超絶メタ外の『Sunny Side Up』デッキを使用し、渡辺 雄也を決勝で屠ったCifkaの新作。
それは何と驚くべきことに、青が入っていない双子デッキだった!
それでどうやってコンボを決めるの?と思うかもしれないが、そこはモダンの広いカードプール、《村の鐘鳴らし》というマニアックなカードが《詐欺師の総督》の代わりになっている。
また、グランプリ・横浜12を席巻した『Kiki-Pod』でも使用されていたギミックである《修復の天使》+《鏡割りのキキジキ》のコンボも搭載し、奇襲性抜群の構成だ。
トップメタである緑黒系に対しても《前兆の壁》《刃の接合者》《修復の天使》のラインがボードを厚く支配できるため、健闘が期待できそうだ。
それにしても、こういうデッキを見ると「ああ、やっぱりモダンにはまだまだ未知の可能性が眠っているんだな」とワクワクしてくる。
完成されたトップメタのデッキレシピをコピーして回すのも楽しいが、やはり常に新しいコンセプト、新しいアーキタイプを発掘しようとする気概は、忘れないようにしたいものだ。
4.結果分析
予感のとおりに。
緑黒系/《出産の殻》/親和という3巨頭の支配体制は、《死せる生》デッキの隆盛と《欠片の双子》デッキの反攻により、ついに打ち破られたと言っていい。
緑黒系/《出産の殻》といったある程度「フェア」なデッキの台頭に対し、トロンや《死せる生》デッキのような「アンフェア」なデッキが対抗するようになった結果、「アンフェア」同型では無類の強さを誇る《欠片の双子》デッキに都合が良い土壌が育まれてしまったのだ。
これに呼応してこれまで日の目を見なかったその他の様々なコンボデッキも続々と立ち上がってくることだろう。
また、このわずかな間隙を縫って、ビートダウンやコントロールも戦線に加わり入り乱れてくるに違いない。
そう、グランプリ・アントワープ13の結果。
モダンは今再び群雄割拠の戦国時代に突入したのだ。
5.終わりに
残念ながら、テーロスがモダンの環境を大きく変えるということはなかった。
しかし、だからといってモダンのメタゲームが完全に停滞しているかというと、そんなことは全くない。
もし一週間ごとにグランプリが開催されればトップ8のアーキタイプが毎回違ってもおかしくない、というくらいのダイナミクスを有している。
それはすなわち、どんなデッキにも調整とタイミング次第でチャンスがある環境ということだ。
モダン環境はまだまだ続いていくし、メタゲームは動き続ける。
来年2月にはプロツアー・神々の軍勢がモダンで行われるし、8月にはいよいよグランプリ・神戸14が控えている。
今のうちからモダンの動向に気を払っておいて損はないだろう。
それでは、モダンプレイヤーの諸君。
研鑽を積み、お気に入りのデッキを携えて。
グランプリ・神戸14でまた会おう。
ちなみに、晴れる屋トーナメントセンターでは平日いずれも14時、17時、20時から、それぞれ4人以上で成立する3回戦のモダントーナメントを開催している。
また土日も基本的にモダンの大会が開かれているので、モダンに興味はあるけど近隣にモダンの大会がないという方は、是非一度高田馬場まで。
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