1.世界選手権前の、俺のスタンダード
皆さんこんにちは!最近めっきり寒くなり、冬を感じさせられる今日この頃ですが、いかがお過ごしですか?
僕はというと更に寒いアメリカまで遠路はるばるいってまいりました。
もうお分かりの方もいるとは思いますが、そう、世界選手権です!
僕も今年で3回目となる世界選手権、3度目の正直という言葉もありますが、僕にとって世界選手権は毎年何故かある程度勝てる良い思い出があるので、今回も結構勝てるんじゃないかという楽観的というか、とにかく気負わずに参加してきました。
目標であるプロポイントは7点。世界選手権参加前は13点なので、20点にするためには24位以内が目標です。24位と言えばラインは5敗~6敗のオポトップと、若干厳しめではありますが、それに向けてMagic Onlineでスタンダードの調整を続けました。
GP広島では白緑ビートダウンを使いましたが、現在のメタでは若干厳しめになってきていると感じました。というのも、環境に青白のビートダウンが多めになってきており、クリーチャーデッキがメタのトップになりつつあるというのが向かい風に思えたからです。
勿論世界選手権ではそれらのデッキを実際に使ってる人もたくさんいるだろうとは思いましたが、クリーチャーメタにシフトした赤緑ケッシグや赤単、太陽拳等が広島に比べたら多くなっているのではないかという予想したわけです。もちろん、同じビートダウンであるイリュージョンでさえも《はらわた撃ち》が標準装備されているのであまり相性が良いとは言えません。
さて、それでは何のデッキを使おうかと頭を悩ませていたのですが、環境初期に友達が使っていた《刃の接合者》入りの太陽拳が今のメタにあっているのではないかと思い、試してみたところなかなか好感触だったので、それを調整していく事にしました。
2.太陽拳って一体どんなデッキなんだ!!
ズバリ、太陽拳はある意味では前環境の赤緑ヴァラクートや、現在の赤緑ケッシグに代表されるビッグマナのようなデッキであると言っていいでしょう。ビッグマナと太陽拳の共通点、それはとにかく6マナのフィニッシャーにどんな手段でも良いのでアクセスさえできればほとんど勝てるという点です。昨今の6マナのフィニッシャーの性能は本当に凄くて、一昔前なら8マナ出してもこんなクリーチャーいねーよ!と嘆きたくなる程です。
緑系のビッグマナが6マナのフィニッシャーをマナ加速によってできるだけ早いターンに出そうとするのに対して、太陽拳が6マナのフィニッシャーにアクセスするために取るゲームプランはカウンターや除去を駆使してのボードコントロールです。とにかく場をさらに近い状態にしてフィニッシャーを出すのを目標とする、それが太陽拳というデッキの本質だと思います。
このデッキはただボードコントロールできるだけではなく、スタンダードのカードプールにおいて非常に優良なドロースペル、《禁忌の錬金術》を最大限に有効活用できます。
《熟慮》や《堀葬の儀式》はそれ単体ではそこまで強いスペルでは無いのですが、《禁忌の錬金術》で墓地に落ちた時のアドバンテージが凄まじいので、普通の太陽拳ではどちらも標準装備されてますね。
そして、そんな太陽拳のゲームプランにおいて《刃の接合者》の汎用性の高さが現在のメタゲームにおいて重要になってくるのです。
《刃の接合者》は白系のビートダウンに凄く効果的なカードです。基本的に太陽拳をはじめとしたコントロールデッキにとって、プロテクション黒を持つ《ミラディンの十字軍》はかなり対処する手段が限られてしまうカードです。しかし、《刃の接合者》を出すことにより簡単に膠着させる事ができます。
もし対戦相手が除去を持っていてゴーレムトークンを退けたとしても残った《刃の接合者》本体がブロックしてライフを稼ぐ事ができるので《審判の日》や6マナのフィニッシャーを出すまでの時間稼ぎをすることができます。
同じ理由でケッシグや白緑がサイドから入れてくる《最後のトロール、スラーン》にも耐性があり、《饗宴と飢餓の剣》を付けた地上クリーチャーにも耐性があります。
また、《最後のトロール、スラーン》や《ミラディンの十字軍》と並んで最近コントロールキラーとして頭角を現してきているカードに《聖トラフトの霊》があります。《忘却の輪》ですら除去ができない上に登場するターンが《最後のトロール、スラーン》より早い《聖トラフトの霊》はブロッカーを用意しにくいコントロールでは最も対応策が限られてしまうカードと言っていいでしょう。しかし、同じ3マナ域である《刃の接合者》は効果的に対処することが可能なのです。
ビートダウンの対コントロールの戦術は、そういった対処が難しいカードをコントロールに押し付けていくのがセオリーになりつつあるので、そういった戦術に付き合うのではなく、こちらは適当に盤面をごまかしてさっさと6マナのフィニッシャーを出すためにも《刃の接合者》は非常に優れています。
序盤の脅威を対処しなければ行けないビートダウン戦に対して、コントロールミラー戦は良くドロー・ゴーの展開になるのですが、《刃の接合者》があると軽く動けるので6マナある時に出して《マナ漏出》をケアしつつクロックとして機能させ、逆に相手が脅威に対処しなければいけない立場に追い込むことができます。先手ならば3ターン目にぶっぱして通ってしまったら案外簡単に勝っちゃったりします。
ビートにも強くてコントロールにも強かったら何にでも強いじゃん!と思われるかもしれませんが、そうです、今の環境では弱いマッチアップが無いと言える程《刃の接合者》の汎用性の高さが際立っています。ビートダウンが使う《刃の接合者》と違ってコントロールが使う《刃の接合者》は攻守に優れており、裏目が少なく安定した場を作りやすい非常に優れたカードになります。
3.作れ!俺の太陽拳!
・フィニッシャーの選択
太陽拳を使っている皆さんは一度は頭を悩ませている太陽拳の課題です。環境に合ったフィニッシャーを選択しなければ、コントロールを使用している意味がありませんからね。フィニッシャーの候補として主にあがる4種のクリーチャー、それぞれそれぞれ一長一短あるので比べてみたいと思います。
《墓所のタイタン》
場に出た時の制圧力は異常ですが、飛行への耐性はありません。環境に蔓延っている《ムーアランドの憑依地》から生み出されるトークンや《墨蛾の生息地》には回答になりえません。とはいっても黒というカラーリングの性質上流行っている黒除去の《破滅の刃》が効かないという対除去性能と、クロックとしての強さはピカイチです。
《ワームとぐろエンジン》
除去性能、盤面への影響力、ライフゲイン能力での赤単への回答として非常に優れています。《忘却の輪》や《幻影の像》に弱いのは玉にキズですが、コントロールが出して1回攻撃できる場にできたらビートダウンはまくるのが非常に難しくなるので、赤単を含むビートダウンが多めなら採用する価値あり。
《聖別されたスフィンクス》
このカードは何といっても、単純にカードが強い事が強いと言えます。
飛行を持っているので飛行のブロッカーとして機能する上に、毎ターン2枚追加でカードが引ける。盤面を制圧したら後は適当に殴って勝ち。ハッキリいってカードの強さだけなら群を抜いています。ただ、環境に黒除去があるという点を考えなければの話です。白系のデッキもイリュージョンにシフトしつつある今のメタでは《蒸気の絡みつき》でも正直厳しいです。フィニッシャーの性質的に今のメタでは場に出た時に盤面に影響をすぐさま与える事ができる事が求められているので、そういった理由もあり今のメタに若干噛み合っていないかなと思います。ただ、最初に書いてるように、カードの強さだけを見るとダントツで一番強いのは間違いありません。
《太陽のタイタン》
今回僕が一押しするのはこの《太陽のタイタン》です。デッキの組み方を多少ある程度専用に組まないといけないという構築上のデメリットはあるのですが、《漸増爆弾》が環境に強いのと、《幻影の像》も今のメタだと汎用性が高いのもあり、それらを採用するならばかなりの強さを誇ります。そして何より《幽霊街》を使いまわしできるので、《墨蛾の生息地》にも耐性があるのが素晴らしい点です。《刃の接合者》も使いまわせるという点で、基本的に《墓所のタイタン》として運用する事もでき、今のメタに非常に合っていると思います。
・リリアナとの決別
僕がこのデッキを使うに当たって一番最初に別れを告げたのは《ヴェールのリリアナ》でした。能力事体は非常に強いのですが、いかんせん現在流行っているビートダウンにさほど効果的でなく、盤面によって強さが大きく変わりやすい、強さのムラがあるカードだと感じました。すでに3マナ域には汎用性の高い《刃の接合者》を採用していた事もあり《ヴェールのリリアナ》は僕のデッキには採用しない事にしました。3ターン目に黒黒のダブルシンボルを出すためにマナベースの改善も要求されるのも微妙でした。
・カウンターの削減
現在のメタではビートダウンが多い事もあり、《雲散霧消》が調整中にサイドアウトする確立がかなり高く、これはもしかしたらメインボードからもいらないのではないかという疑問をずっと抱えながら調整していましたが、最終的にやはりメインから抜けました。対応力の高い丸いカードではあるのですが、現在のクリーチャーデッキが多いメタゲームではその部分を後出しで対応できる除去にした方が優秀であるという結論にいたりました。
・これまでのまとめ
結局今のメタゲームで太陽拳が求められているのは対クリーチャーデッキを意識した『ボードコントロール』という事になります。クリーチャーデッキが多い中カウンターを無駄に多く引いてしまったり、相手が小粒なクリーチャーをたくさん並べている時に《ヴェールのリリアナ》を出しても効果的ではありません。今回僕が世界選手権に持ち込んだのは『ボードコントロール』に特化した太陽拳になります。
『ボードコントロール』に特化した太陽拳はプレイングも超簡単。前置きは長くなりましたが、ここからは世界選手権をレポート形式で実際に戦った結果をお伝えさせていただこうと思います。
4.世界選手権を駆け抜ける、俺!
・本戦初日
初日は練習しているスタンダードという事で特に気負いも無く会場入り。太陽拳を使用するなべやあくあにサイドボードについて色々意見を聞き、《死の支配の呪い》を2枚サイドに入れて本戦に。実際に今回使用したデッキレシピはこちら。
4 《闇滑りの岸》 4 《氷河の城砦》 4 《孤立した礼拝堂》 4 《金属海の沿岸》 3 《幽霊街》 3 《平地》 2 《島》 1 《水没した地下墓地》 1 《沼》 -土地- 2 《幻影の像》 3 《刃の接合者》 3 《太陽のタイタン》 1 《聖別されたスフィンクス》 1 《ワームとぐろエンジン》 -クリーチャー- |
4 《破滅の刃》 4 《マナ漏出》 2 《熟慮》 4 《禁忌の錬金術》 3 《審判の日》 3 《忘却の輪》 2 《漸増爆弾》 2 《堀葬の儀式》 -呪文- | 2 《天界の粛清》 2 《雲散霧消》 2 《虚無の呪文爆弾》 3 《機を見た援軍》 2 《漸増爆弾》 1 《忘却の輪》 2 《死の支配の呪い》 1 《ワームとぐろエンジン》 -サイドボード- |
フィニッシャーが散らされているのは複数枚引いた時にその盤面で一番効果的なカードを選択できるようにするため。基本的には《太陽のタイタン》が一番強いので多めに3枚になっていますが、サイド後《虚無の呪文爆弾》等で墓地を掃除されたりすると強さが変わってくるのでそういった意味でもフィニッシャーを散らす意味があります。《堀葬の儀式》が2枚なのは《禁忌の錬金術》の強さを向上させたかったからです。普通に粘り強くフィニッシャーを連打する事もできるのでコントロールミラーで活躍します。
・1回戦目 青白イリュージョン ○○
これは想定しているメタデッキなので、ある程度余裕をもってプレイできます。《審判の日》か《漸増爆弾》を引けば余裕で、更には《幻影の像》で相手の《非実在の王》をコピーできちゃったりもできます。対戦も普通に《ワームとぐろエンジン》が無事着地して勝ち、《太陽のタイタン》+《漸増爆弾》が決まり勝ちの余裕を持った勝利でした。
・2回戦目 青黒ブレード ○○
《墨蛾の生息地》が《饗宴と飢餓の剣》を付けて殴ってくるアーキタイプですが、普通に《刃の接合者》を淡々とプレイして相手の息があがって《黒の太陽の頂点》をフルタップ気味に撃ってきた返しで《太陽のタイタン》+《幻影の像》が決まり勝ち。サイド後は《死の支配の呪い》が強かったです。
・3回戦目 チャピングリクシス ××
恐らく相性は良いと思われるのですが、《先駆のゴーレム》が何故か除去できずに負け、《太陽のタイタン》を《幻影の像》込みで3体並べた返しに《小悪魔の遊び》をトップされて負けと若干ツキの無さで負けた感があります。チャピンコンはカウンターが少な目なので、フィニッシャーを連打できるこちらの方が有利に感じました。
・4回戦目 赤単 ×○○
メインボードは《ワームとぐろエンジン》頼みのような所はあるのですが、サイド後は普通に回れば2本とも取れるぐらいの相性の良さです。
この試合もメインこそ落としましたが、サイド後は普通に《ワームとぐろエンジン》が活躍して2本とも取れました。
・5回戦目 赤緑ケッシグ ○○
やはり《太陽のタイタン》+《幽霊街》の強さが際立ったマッチになります。相手の《原始のタイタン》にこちらがそこまでリスクを背負わなくてすむので、《原初の狩人、ガラク》さえ対処できれば非常に楽なマッチになります。この試合も2ゲームとも《太陽のタイタン》+《幽霊街》が決まり勝ちました。
・6回戦目 白緑ビートダウン ○○
ビートダウンではなく、《審判の日》がメインから入っているトークン型です。恐らく会場で一番相性が良いと言っても過言では無いマッチアップだと思います。とにかく《漸増爆弾》が強すぎて、《太陽のタイタン》+《漸増爆弾》が決まってしまったらまず負けません。
この試合も2ゲームとも《太陽のタイタン》+《漸増爆弾》が決まり勝ちました。
初日は5-1という好成績で収める事ができました。今のメタゲームはかなり多種多様なデッキが許容されるメタゲームとなっているので、どのデッキと当たっても裏目の少ない太陽拳は今のメタゲーム上で最も選択しやすいデッキだと実際に世界選手権に出て感じました。大会後もまた同じ75枚で出たいと思えるデッキレシピはなかなか無いので、今回は良いデッキを作り上げる事ができたと思います。
・本戦2日目
2日目はリミテッドです。僕はマジック・オンラインでかなりの数のドラフトをこなした結果、青の決め撃ちが一番勝率が高かったので、本戦でも決め撃ち気味にピックする事にしました。ただ、両面カードの強いカードが出てしまうと上家も下家もその色を敬遠してしまいその色が独占状態になるというケースが多発してしまう部分がマジック・オンラインとは大きく異なる部分になるので実際のドラフトはプチロチェスタードラフトのような感じになってしまい、色の主張がかなりしやすくなっています。
・ドラフト1回目
青決め撃ちをしていたのですが、カードの出があまり良くなく、仕方なく《秘密を掘り下げる者》を5枚とってクソビートする事に。デッキはこんな感じでした。
6 《森》 1 《山》 8 《島》 1 《沼》 -土地- 5 《秘密を掘り下げる者》 1 《ガツタフの羊飼い》 2 《エストワルドの村人》 1 《縫い合わせのドレイク》 2 《その場しのぎのやっかいもの》 1 《荘園のガーゴイル》 1 《霊捕らえの装置》 -クリーチャー- |
1 《捕食》 1 《恐慌盲》 3 《禁忌の錬金術》 1 《蜘蛛の掌握》 1 《根囲い》 1 《隊商の夜番》 2 《霧の中の喪失》 1 《異教徒の罰》 -呪文- |
結果的に展開が上手く噛み合って2-1。
・ドラフト2回目
またもや青決め撃ち気味にピックするも《精神叫び》以外の青の良カードに巡り合えず仕方なく《不可視の忍び寄り》に《銀の象眼の短刀》を装備して殴るデッキに。詳しくは公式のカバレージにドラフトビュアーで記録が残っているので見ていただけたらと思います。
8 《山》 8 《島》 -土地- 3 《血に狂った新生子》 2 《不可視の忍び寄り》 1 《精神叫び》 1 《交差路の吸血鬼》 1 《ランタンの霊魂》 1 《クルーインの無法者》 1 《月鷺》 1 《スカースダグの信者》 2 《苛まれし最下層民》 1 《夜の歓楽者》 1 《戦場の霊》 -クリーチャー- |
2 《霊炎》 1 《収穫の火》 1 《地獄の口の中》 1 《とがった三つ叉》 1 《銀の象眼の短刀》 2 《噛み傷への興奮》 1 《裏切りの血》 -呪文- |
上手くその戦略が噛み合って2-1する事ができ、2日目も4-2というまとまった成績で折り返す事ができました。
・本戦3日目
前日の夜まで完全ノープランで、ホテルに帰ってから皆の意見を参考に組んだ《欠片の双子》デッキで出る事に。同型に強いタルモゴイフをサイドに4枚とった所までは良かったのですが…。
4 《滝の断崖》 4 《燃え柳の木立ち》 4 《島》 4 《沸騰する小湖》 4 《霧深い雨林》 3 《蒸気孔》 1 《繁殖池》 1 《山》 -土地- 4 《詐欺師の総督》 3 《やっかい児》 3 《呪文滑り》 2 《鏡割りのキキジキ》 -クリーチャー- |
4 《手練》 3 《払拭》 3 《罰する火》 2 《差し戻し》 4 《欠片の双子》 3 《知識の渇望》 4 《呪文嵌め》 -呪文- | 3 《稲妻》 1 《残響する真実》 4 《タルモゴイフ》 2 《古えの遺恨》 3 《焼却》 2 《炎渦竜巻》 -サイドボード- |
・エスパーコントロール ××
・デスクラウド ○○
・チャネルズー ××
・青赤パーミッション ××
・ドメインズー ××
・赤単親和 ○○
と、ダイジェストでお送りさせていただきますといった感じでかなり心が折れる負け方をしてしまいました。
クリーチャーデッキが多い中、除去に一番弱いクリーチャーデッキを選択したのは失敗だったと思います。結果を見ると、全体的に《欠片の双子》デッキは負け組だったようです。
結果的には11勝7敗で52位。目標の24位まで後1勝足りませんでした。
来季はこれで出られるプロツアーはホノルルの1回だけとなりましたが、PTQやプロツアー本戦で勝ってまたプロツアー全部回れるよう頑張りたいと思います。
さて、次回の記事はなかなか見たことの無いアーキタイプをご紹介する予定です……これも毎回言っている気がしますがそれは気のせいですね。それでは次回もお楽しみに!