あなたの隣のプレインズウォーカー ~第30回 さるかんトラベラー~

若月 繭子

若月 繭子



「俺達はとんでもない勘違いをしていたようだ……
前回『ヒロイン枠はまさかのナーセット』と書いた。だが思い出してみろ。
ラヴニカへの回帰ブロック後日談、最終的にジェイスの隣におさまったのは誰だ?
テーロスブロック、エルズペスの全部を持っていったのは誰だ?













 (スルーして)どうも若月です。ひえー、30回ですよ30回。開設されて数ヶ月のhappymtgに「ストーリー記事書かせて下さい!」と飛び込んでから早3年半以上。飽きもせずにどんだけ書いてきたのって感じですよ。本当、快く採用して下さった当時の編集長、好き勝手書かせて頂いている現編集部、そして読者の皆様には感謝してもしきれません。ネタ切れまで頑張るつもりですのでよろしくお願い致します!



龍語りのサルカン


 さて公式記事の「背景ストーリー週刊連載」は大変なことになってしまいました。運命再編発売日直前に公開されました記事「再編の連環」。ウギンとボーラスの戦いを目にし、死にかけたウギンを面晶体の繭に包んで救ったサルカンは、消えてしまいました。

 オーケーオーケー落ち着こう。実のところ、これを書いている時点ではサルカンが具体的にどうなってしまったのかは明かされていません。タイムパラドクスに持って行かれてしまったのか、それとも元の時間軸に戻ったのか、はたまた龍が生きている世界線で新たなサルカンとして生まれているのか……ひとまず時系列通りに話を進めていきましょう。ああ、「現実の」時系列通りにです。

 そんなわけで今回は予告通りに「サルカン編」第二回です。いよいよタルキールに突入、この世界の様々な物事も含めてゆっくりじっくり扱っていく予定です。何せテーロスの話は脇目もふらずに突っ走るエルズペスに引っ張られるように第21回第22回のたった二つにまとめてしまったため、書き残しが結構あるのに後から気付いて惜しいことをしたと思っていまして。出番の少なかったかわいそうな神様ランキングとか。


苦悶の神、ファリカ通行の神、エイスリオス収穫の神、ケイラメトラ

「「「えっ」」」


 公式記事・小説合わせても小神の皆さんは出番の差が激しくて……まあほら大小合わせて十五もいればどうしてもね。ラヴニカのギルド十個、走者十人ですら明らかに目立たない所があったのだからしゃーない。



1. サルカンの故郷タルキール

 前回は、サルカンが故郷のタルキールへと戻ってきた、という所までを書きました。

 公式記事「カンの強い姿勢」によれば、元々サルカンの故郷は、プレインチェイス2012の次元カード《カラーシャの山麓》として登場したモンセン/Mongsengという世界で考えられていたそうです。この次元についての記述は少ないのですが、また別の記事「Commanding the Planes」曰く「敵対する戦士氏族の間で終わりのない戦争が続く世界、何世代も絶え間なく続く戦いでどちらの側につくかを選びたいのでもない限り、避けるべき世界」。






 名前こそ変われど、タルキールはこの設定を使用して構築された世界なのだそうです。
マジックには様々な次元世界が登場してきました。タルキールは神河以来10年ぶり!に、明確にアジア地域がモチーフにされています。時折こんなふうに、私達というプレインズウォーカーは多元宇宙でも一際エキゾチックな世界を訪れます。これも過去数度書いてきましたが、世界のメリハリとでもいいますか、常に新たな世界が私達の前には広がっている。ローテーションのシステムは、マジックというゲームが長く続いてきた理由の一つに間違いないのでしょうが、毎年、スタンダードが入れ替わって新たなブロックへと突入するたびに感じるあの新しい空気はとても良いものです。



同じ「島」でも毎年こんなにも変わります。
文字通り海の上に浮かぶ島、ぎらつく水銀の海、荒波と難破船、そして都市の水路と建物。


 そんなタルキール次元を特徴づけるのは、五つの戦士種族「アブザン家」「ジェスカイ道」「スゥルタイ群」「マルドゥ族」「ティムール境」と、既に絶滅してしまった「龍」。かつて五つの氏族は強大な龍の脅威にさらされ、戦いながら生きようともがいてきました。タルキール世界の龍は空に吹き荒れる「龍の嵐」から生まれ出ていたのですが、ある時その嵐が止み、新たな龍が生まれなくなりました。龍は一体また一体と倒され、やがて最後の一体が空から落とされ、世界に平穏が訪れた……かに見えました。それまで龍と戦っていた各氏族は、今度は世界の覇権を賭けて互いに刃を向けたのでした。

 そして数世紀を経て、終わることのない争いの只中にある厳しい世界、それがタルキール覇王譚の舞台である「現代」のタルキールです。



2. タルキールの「土地」

 タルキール覇王譚にはとても多くの土地カードが収録されています。大部分がサイクルの多色土地とはいえ、その数(基本土地を除いて)なんと21種類。ちなみに「土地テーマ」のラージエキスパンションであるゼンディカーのそれは20種類でした。ゼンディカー以上! これは調べてみた私自身驚きました。

 さて、その世界の様子をもっともよく表現するのは基本土地のアートとも言われています。タルキール世界を特徴づけるのは五つの氏族。タルキール覇王譚の基本土地にはとても美しいアートで、「その色を含む氏族の土地」が描かれています。更には氏族ごとに、その基本土地アートを担当されているアーティストさんも統一されています(ちなみにこれはアラーラの断片の基本土地と同じ様式です)。


 例えば平地は……アブザンの砂漠、ジェスカイの平野、マルドゥの台地。




 また森は……ティムールの針葉樹林帯、アブザンのオアシス、スゥルタイの密林。




 そして、「タルキールの土地」といえば何といっても……


精霊龍の墓

ウギンダヨー


 ごめん、君じゃない。ストーリー的には重要だけど今は君の話じゃないんだ。

 忘れもしません、2014年8月31日の夜。あの発表があった時の狂乱は……



溢れかえる岸辺汚染された三角州血染めのぬかるみ

樹木茂る山麓吹きさらしの荒野



 誰もが再録を待ち望んでいた、友好色フェッチランド。
 タルキールは龍が絶滅した世界。そんなタルキール覇王譚のフェッチランドには全てに「龍の骨」が描かれています。《溢れかえる岸辺》が一番わかりやすいですね。これちょっとかわいい。





 更にKTKフェッチランドにはそれぞれにフレイバーテキストが存在し、龍の絶滅したタルキールの様子を文字でも伝えてくれています。


《溢れかえる岸辺》フレイバーテキスト
かつて龍たちが眠りについた場所には、今では彼らの骨が眠っている。

《汚染された三角州》フレイバーテキスト
かつて龍たちが繁栄した場所には、今では彼らの骨が沈んでいる。

《血染めのぬかるみ》フレイバーテキスト
かつて龍たちが勝利した場所には、今では彼らの苔生した骨だけが残っている。

《樹木茂る山麓》フレイバーテキスト
かつて龍たちの息が焦がした場所には、今では彼らの骨が凍りついている。

《吹きさらしの荒野》フレイバーテキスト
かつて龍たちが咆哮を轟かせた場所は、今では彼らの骨が風を切る音が響くだけである。


 オンスロートで最初に登場した時から、友好色フェッチランドには「固有名詞」(その次元の地名)が入っていませんでした。「将来の再録を見越して、特定の次元の固有名詞を入れていない」のだと当時から噂されていた覚えがあります。そしてこれは後の様々な土地にも受け継がれています……が、今回「その次元の固有名詞を入れてしまったけれど再録が必要になった」土地が存在します。コモンのタップイン二色土地、いわゆるゼンディカーの「隠れ家サイクル」です。公式記事「カン否両論 その2」曰く「この土地サイクルを作る時に、将来再録することになるとは誰も思わず、世界内の名前をつけたのだった」。難しいものですね。


ジュワー島の隠れ家陰鬱な僻地

というわけで「同型再版」。


 そんな「土地」に生きるタルキール世界の五氏族は、どんな姿をしているのでしょうか? タルキール覇王譚発売から三ヶ月、すっかり馴染み深い存在になっていますが改めて見てみましょう。



3. タルキール五氏族

 これまでマジックではあまり扱われてこなかった友好二色+対抗一色の組み合わせ「楔(くさび)三色」。ちなみに「楔」とは何か。日常生活ではあまり使用しない言葉ですが、手元の辞書には「木や金属で、一端が厚く他端に至るにしたがって薄くなるように作ったもの。木材・石材を割るとき、重い物を押し上げるとき、差し込んだ材が抜け落ちるのを防ぐときなどに用いる」とあります。何故この組み合わせを「楔」と呼ぶのかは、マジックのカラーホイールを見るとわかります。





 この細長い三角形を「楔形」と言うんですね。これまで楔三色は、かろうじて次元の混乱の三色ドラゴン達や、プレインチェイス2012でテーマとして取り上げられていた程度でした。各組み合わせの呼び方の由来もまちまちでした。
  「ギルド名」の二色や、かつてはインベイジョンのドラゴンの名前、今やすっかりアラーラ世界の「断片名」の方がお馴染みになった友好三色の組み合わせのように、当初「定着するの?」と疑問視されていた氏族名ですが心配は不要でした。氏族名は主にスタンダードの楔三色デッキの名称としてしっかり使われています。

 一見すると個性のわかりづらい楔三色ですが、タルキールの氏族は「友好二色タッチ対抗色」の性格を持つと考えると理解しやすくなります。ラヴニカのギルドや走者同様、こういった勢力サイクルは紹介順でいつも悩むのですが、今回は大まかに「公式記事に登場した順」で進めていきたいと思います。







■ ティムール境 (緑赤青=緑赤+青)


爪鳴らしの神秘家開拓地の野営地


 龍の「残忍」がティムール。グルールに代表される「野生」の赤緑に知性の青が加わって、脳筋でありながら洞察力を兼ね備え、厳しい自然を崇拝し祖先や地の精霊と深く繋がりを持つ氏族がティムールです。そしてその繋がりと伝承によって、ティムールは龍たちが生きていた時代を記憶しています。サルカンはプレインズウォーカーとして覚醒する前にティムールへと旅をし、龍についての多くを学び、龍への憧れと崇拝を深めました。《精霊龍の墓》、ウギンの倒れた地はティムールの領域にあることから、その場所についての伝承も知られています。中に入って生きて戻ってきた者はいないという謎めいて危険な地だと。


龍爪のスーラク>


 「龍爪」とは代々、ティムールのカンだけが得ることのできる称号です。本人のカード以上に、熊と殴り合う《凶暴な殴打》で話題をさらったスーラク。彼はまだカンとなる以前、ただ独りでこの巨大な熊と戦い、生きて帰ってきたことから成人として認められました。




 その熊はやがてスーラクの友として共に戦うもスゥルタイの毒矢に倒れ、以来彼は戦友の形見としてその熊の毛皮をまとっています。当初こそわかりやすい強さと熊パンチアートで話題となったスーラクですが、その後はめっきり名前を聞かなくなってしまいました。ですがティムールが物語に深く関わる氏族であることには変わりなく、運命再編ではその時代のティムールのカンが、これまたサルカンと意味ある邂逅をすることになります……。



■ スゥルタイ群 (黒青緑=黒青+緑)


宝船の巡航華やかな宮殿


 スゥルタイは龍の「冷酷」。支配と欺瞞の青黒、そこに自然と生命の色である緑が加わり、一応支配者は生者の「死者の王国」ができました。ゾンビが群れを成す不気味な勢力といえばまずアラーラのグリクシスを思い出しますが、スゥルタイはあくまで生者がメインであり死者は使用人や道具、使い捨ての兵に過ぎません。そこがグリクシスと最も異なる点でしょう。もしくは「ジャングル(緑)を生活圏とするディミーア(青黒)」と表現する方が近いかな?

 総じて過酷なタルキール世界。ですがスゥルタイの領土である密林は、過酷には違いないながらも少なくとも「豊か」ではあるようです。スゥルタイの有力者達は富を蓄え、絶大な権力を振るいます。スゥルタイ、「探査」といえば……のカード、《宝船の巡航》の「宝船」は、豪奢な歓楽を提供するクルーズ船です。


血の暴君、シディシ


 スゥルタイのカンはナーガのシディシ。蛇人クリーチャーは神河ブロックにもいましたが、「ナーガ」という種族そのものはタルキール覇王譚で初めて登場しました。元はインド神話の精霊?神?であり、様々なファンタジー作品にもモンスターとして登場していますね。同じくスゥルタイに「猫・デーモン」のラクシャーサ、アブザンとティムールですが犬人アイノクなど、なにげにタルキールには新登場の人型種族が沢山います。

 シディシはまさにスゥルタイの「冷酷」を体現する、慈悲なき暴君です。スゥルタイの権力闘争は激しく過酷で、シディシ自身も前任者を殺害して自らカンの座を奪い取りました。メインカラーが黒の氏族だけに、「強欲」に他の氏族へと侵略を行っています。時にシディシ自身も戦線へと赴くようです……が、






 この二枚のカード、そしてシディシ主役回の公式記事「慈悲」によると、マルドゥのゴブリンにその王冠を奪われてしまったようです。えーカンがそれでいいのか。いや良くはないんだろうけど。ですがシディシ、タルキール覇王譚のカンでは唯一(2015年2月現在)アーキタイプに名前を採用されており、しかもそのデッキ「シディシウィップ」が世界選手権2014を制するという栄誉に! その点においては「最強のカン」はシディシ。



■マルドゥ族 (赤黒白=赤黒+白)


マルドゥの隆盛遊牧民の前哨地


 主人公であるサルカンの出身氏族マルドゥ、彼らが取り入れているのは龍の「敏捷」。タルキール覇王譚の発表とともに公開された宣伝画像《マルドゥの隆盛》のものでした。赤黒という最も攻撃性の高い二色の組み合わせに白が加わり、確かにラクドス的な「戦闘狂」ではありながらも軍隊としての秩序を備え、戦いにおける名誉の道を追い求める氏族となりました。「ラクドス+ボロス」ですかね。とはいえ攻撃的な色であることには変わりなく、彼らはスゥルタイと並ぶ「侵略志向」の氏族であり、主に他氏族からの略奪によって生命を繋いでいます。


兜砕きのズルゴ


 第28回ではオチに使ってごめんなさい。上記の宣伝画像に登場し、「デュエルデッキ:迅速VS狡知」にも先行収録された、ある意味タルキール覇王譚にて最初に登場した現地キャラクターであるズルゴ。彼はサルカンとも浅からぬ因縁があります。

 サルカンはプレインズウォーカーとして覚醒した際、炎で敵も味方も焼き尽くしました。ズルゴはサルカンが行方をくらました(次元を渡った)後に頭角を現し、マルドゥのカンとなったのですが、以後もずっとサルカンを「裏切り者」として憎み続けていました。そしてその復讐心が彼の眼を曇らせ、結果的に氏族の多くの者の死を招き、ティムールの山岳地帯の只中で見捨てられてしまうという、ひどく空しい顛末が公式記事「勝利」(このタイトルがまた……)にて語られていました。赤・黒・白の指導者でも、デーモン・ラクドスや天使オレリアのように抜群のカリスマ性を備える者は結構いるのですが、ズルゴは……。



■ アブザン家 (白緑黒=白緑+黒)


包囲サイ砂草原の城塞

アブザンといえばサイ! 津村さんの記事は皆さん読まれました?


 龍の「忍耐」を取り入れ、不毛の砂漠で家族の絆を何よりも重視しながら生きるのがアブザン家です。白緑は互いの繋がりをとても大切にする色。セレズニアは言わずもがな、テーロスの白緑小神《収穫の神、ケイラメトラ》は家庭の守護者でもありました。

 「黒」成分は一見してわかりにくいですが、彼らの生きる不毛の砂漠や、裏切り者や政敵に対する容赦の無さとして表れているのだと思います……そういえば白黒のギルド、オルゾフはラヴニカの商業を総べていますね。白の秩序と黒の強欲が合わさった白黒は商売人の色。アブザン家を動かすのも有力な商家であり、彼らは《包囲サイ》《象牙牙の城塞》のような巨大な獣にこれまた巨大な「移動要塞」を引かせて交易路を回り、アブザンの社会を機能させています。そう考えると「白黒」の面もきちんと見えてきます。面白いものですね。


先頭に立つもの、アナフェンザ


 アナフェンザは繁栄した商家の生まれで、少女時代は一族の移動要塞に乗って街から街へと交易の旅をする人生を送ってきました。その後は兵としての道を選び、やがてアブザンの将軍となって長いこと故郷の地を守るために軍隊を率いて戦ってきましたが、後に氏族の有力者達からカンとして選出されました。氏族の長となってからも、彼女は他氏族を侵略するのではなくあくまでアブザンの土地と氏族民を守り、彼らの糧である交易路を維持するために戦っています。

 アブザンには敵の戦災孤児を引き取って家族の一員として育てるという伝統があり、アナフェンザには元マルドゥのオークの義弟がいます。アナフェンザ主役回の公式記事「絆と血」は彼、ガヴァールと少女時代のアナフェンザが苦難の中で絆を育む物語です。


不撓のクルーマ軍用ビヒモス

ガヴァールは《軍用ビヒモス》のフレイバーテキストに登場しています。


 マジックの長い歴史の中でも、これほど「オーク」という種族が目立っているセットは恐らくフォールン・エンパイア以来、そして彼らについてこれほど熱いストーリーが語られるのはタルキール覇王譚が初でしょう。各種公式記事からわかるタルキール世界のオークは、日本におけるオークのイメージとはその……割とかけ離れて、粗暴な面こそあれ忠義に篤く、とても頼りになる仲間という雰囲気で描かれています。まあ勿論、必ずしもそうでないオークがいることも確かですが。



■ ジェスカイ道 (青白赤=青白+赤)


ジェスカイの隆盛神秘の僧院


 なんかね、ジェスカイだけ公式記事も本数多くてタルキール覇王譚の期間の初期から最後まで出てきてるのよね。三週連続ジェスカイだったこともありました。

 龍の「狡知」を奉じるジェスカイ。登場当時、そのエキセントリック(失礼)な外見で他のどの氏族よりも話題をさらいました。見た目こそマジックにおいては異質ですが、彼らの根本はアゾリウスと同じ秩序と知性の白青。そこに情熱の赤が加わってジェスカイ族の僧侶たちは神秘の技巧の達人、狡猾にして統制と自制を持つ……じゃなくて野生のエイヴンを模写している……じゃなくてストイックに「悟り」を追い求める修行僧や求道者集団という氏族となりました。

 ただ、伝統を重んじると同時に、好奇心の青と情熱の赤を合わせ持つ彼らは常に「新しいものを求める」面があるのでしょう、「奇抜」「目立つ」所がどうしてもありますよね。そのあたりイゼットと同じ血が流れていると感じます。何故乗騎としてカマキリを選ぶか!!「果敢」の開発段階の呼び名は「カンフー」っておい! いやいやいや彼らは至って真面目ですし、カード性能も実力派揃いだということは誰もがよく知っているかと思います。

 第27回記事にて「ウギンと深く関わる氏族はジェスカイとティムール」と書きましたが、そのジェスカイの長であるナーセットもまた、メインストーリーや主人公サルカンに深く関わることになる人物でした。主役回である公式記事「悟りし者」では瞑想中に「足が痺れた」から始まって実はお茶目なふんわりお姉さんだという誰も予想しなかったまさかの萌えキャラっぷりを披露。さすがジェスカイ狡猾すぎる。


悟った達人、ナーセット


 そして「タルキール覇王譚最終回」にあたる公式記事「『きずな』への旅」にて彼女はサルカンと出会います。氏族の記録を読んでウギンやボーラスについて知るナーセットはサルカンの導き手となり、彼の病んだ心を慰め、共に《ウギンのきずな》を目指す中で語り合い、心を通わせました。そして彼女の存在はサルカンが過去へと向かい、未来を変えようという意志を持つための大きな原動力となります。



4. 精霊龍の墓へ

 というわけでお待たせしました、サルカンの話に入りましょう。
 タルキール覇王譚の物語は、サルカンが主ボーラスへと幻滅し、故郷タルキールへと帰ってきたところから始まります。彼はウギンの囁きらしきものに苛まれながらも、それを導きと信じて旅をします。


苦しめる声


 今見ますと《苦しめる声》の龍はやはりウギンですね。ウギンの声は「耳を澄ませ」「癒せ」と繰り返していました。とはいえその声に従った先に何が待っているのか、そこで自分が何をしようとしているのかはサルカン自身にもわかっていませんでした。
 そしてここにもウギンの意志があったのでしょうか。古の神秘と啓発に従い導かれた《悟った達人、ナーセット》がサルカンの前に現れます。彼女は彼の当初は支離滅裂な、ですがウギンの囁きやこれまでの驚くべき旅の話へと耳を傾け、更にサルカンが杖から下げた面晶体の欠片を見て、その模様に見覚えがあると言いました。ジェスカイはウギンやボーラスについての古の記録を残しており、ナーセットはそれを学んでいたのでした。

 面晶体の欠片。前回記事のラストにて、「面晶体の欠片がウギンへの鍵となる」と書きました。サルカンは《ウギンの目》から「A MEMENTO FOR THE MOST ANCIENT ONE./最も古きものの形見」と言ってこの欠片を持ち帰ってきました。思い出の品、という感じでしょうか。戦利品を持ち帰るマルドゥとしての本能だったのかもしれません。

 面晶体の表面には魔法文字が刻まれています。元々ナヒリが石術にてゼンディカーの大地からあの菱形の岩を創造し、ウギンが「エルドラージを封じ込める魔法」のために魔法文字を掘り込みました。かつてタルキール世界にはウギンの魔術によって、龍を生み出す「龍の嵐」が吹き荒れていました。ウギンが死亡したことにより「龍の嵐」は止み、新たな龍は生まれなくなりました。

 ですが死亡して千年以上経ったとはいえ、ウギンがとタルキール世界との関係は完全に無くなったわけではなかったのでしょう。サルカンが聞いていたウギンの声は霊なのか、残留思念なのか。創造されて数千年が経過し、封印は解かれ、欠片となり、創造主も死亡してしまったとはいえ、その面晶体にはまだウギンの魔法が生きていました。サルカンはナーセットの話を聞き、腕を龍へと変化させて炎を放ちます。面晶体はその炎に反応し、表面の印を輝かせました。


苦悩火


 ナーセットがそれを解読します。「過去に目を向け、ウギンへの扉を開けよ」。そして彼女はサルカンへと、自分が精霊龍の墓へ案内する、と申し出ました。
 二人はティムールの山岳地帯を進みますが、《精霊龍の墓》まで間もなくという時、サルカンの死を求めた果てにカンの座を追放されたマルドゥの《兜砕きのズルゴ》が現れ、襲いかかりました。


兜砕きのズルゴ跳ね返す掌



ナーセット 「ここは私に任せて先へ!」


 サルカンにとっては自身の戦いでしたが、かつてないほどに強くウギンが呼んでいました。行くように諭され、サルカンは駆けます。……が、《ウギンのきずな》へと突入する直前に振り返った彼が見たのは、ズルゴの刃を受けて鮮血とともにゆっくりと倒れるナーセットの姿でした。彼女は最後に「行きなさい」の言葉一つを残して。


ウギンのきずな


《ウギンのきずな》フレイバーテキスト
突然、サルカンの精神は静寂に包まれた。


 その先は静かな闇夜でした。不気味に輝いていたウギンの骨は無く、そして彼が最も当惑したのは、絶えず聞こえていた頭の中の囁きが完全に消え去ってしまったことでした。ここまで連れてきた囁きが。そしてサルカンの耳に雷鳴が届き、彼は空へと目を向けます。


見たのだと思った――いや、ありえない。サルカンは目を細くし、顔を手で覆った。ああ、だが、あれは! あれは!  一対の翼!


 翼、勇壮な角。吹き荒れる嵐から龍の雛が次々と生まれ、生命力に満ち溢れて空を舞っていました。呆然、驚愕。タルキールの龍。何処にいた? と考え、そしてナーセットが解読した面晶体の言葉を思い出し、サルカンは自身が過去のタルキールにやって来たのだと気づきます。彼は歓喜の咆哮を上げ、龍を追い始めるのでした。そして彼は一体のとりわけ強大な龍が雛たちを率いて、人間を襲撃する様子を目にします。


世界を溶かすもの、アタルカ


 サルカンは勿論人間なのですが、龍たちの圧倒的な強さに心から惹かれました。そして自身も龍へと変身し、狩りに加わろうとした所で、龍たちに立ち向かう一人のティムール戦士を目撃しました。


龍爪のヤソヴァ


 サルカンはまだ知るよしもなかったのですが、その女性は1280年前のティムールのカン、ヤソヴァ。彼女は魔法で赤く巨大な鉤爪を作り出し、龍の雛を斬りつけて倒しました。龍たちは炎を吐きましたが、人々が散り散りになると空へと撤退していきました。

 龍と化していたサルカンの心に怒りが燃え上がり、彼はその人間へと襲いかかろうとしますが、何処からかの声に人へと引き戻されました。あの雪山で聞いた、ナーセットの言葉。


「龍たちが生きていた頃、釣り合いがあった」
「この次元は苦痛の中にはなかった」
「龍たちが生きていた頃、タルキールに住まうものは皆、今よりも偉大な存在だった」


 不思議とサルカンの怒りが引き、代わりに感嘆が湧き上がってきました。龍と戦い、龍を倒し、生き残った征服者。常に強きを求めるサルカンの目に、それはとても勇ましく美しい姿として映りました。

 そしてナーセットの言葉を噛み締め、頷きますが、我に返ると彼女はここにはいませんでした。苦々しい想い、ですがそこから、サルカンに一つの揺るぎない決心が生まれます。


この光景を見せたかった。彼女は、これを見るに相応しい。
そして、見るだろう。見せてやる。サルカンはその瞬間決心した。どんな事でもしてやろう、力の限りに、物事を正すために。彼女の時が訪れたなら、ナーセットが再びタルキールに生きる時が訪れたなら、彼女を、龍たちが待っているように。


 ウギンを救い、タルキール世界に龍を取り戻す。それは何のためか。自分を導いてくれた彼女に、この力強く美しい世界を見せてやるために。彼女は自分のために死んだという理由の他にも、共に過ごした時間は短いながら、彼の中でナーセットはとても大切な存在になっていたようです。……いやあ、やはり赤は感情の色。自分の世界の龍を初めて目にしたサルカンが迸らせる感動、ひたすらに熱くまっすぐな決意。読んでいるこちらの心までも動かされるようでした。

 ふと思いました。ナーセット。ジェスカイという武闘家集団の長を務めるだけあって肉体的な強さは言うまでもなく、導く知性を備え、穏やかな気質の内に秘める炎。前回記事でサルカンの「理想のドラゴン」について考察しましたが、もしかしたらナーセットはその理想に、人間ながら相当近い存在だという気がします。
(斜線部分、引用は全て公式記事「古の、新たなタルキール」より)



5. タルキール龍紀伝

 と、今回の記事ではまだ運命再編の物語の序盤までしか扱っていないのですが(既に相当長いので……)、第三エキスパンション『タルキール龍紀伝』。抜群にかっこいいタイトルですよね。ここでエキスパンション名を英語と一緒に並べてみましょう。


『Khans of Tarkir/タルキール覇王譚』

『Fate Reforged/運命再編』

『Dragons of Tarkir/タルキール龍紀伝』


 「カン」の物語から運命が再編され、「龍」の物語へ、という流れがわかります。そしてタルキール龍紀伝の宣伝画像も割と早くに出ていました。この龍は……コラガン?




嵐の憤怒、コラガン


 そっくり。同一個体なのか、それともコラガンの系統の別の龍なのか。私がそれ以上に気になるのは、このコラガン似の龍とマルドゥの戦士達が共にアブザンの兵を蹴散らしているように見えるということです。アブザンとマルドゥが力を合わせてこの巨大な龍と戦っているというよりは、そう見える気がしませんか。

 詳しくは次回に書く予定ですが、公式記事「書かれざるもの」では「龍の存在する世界の方がいい」と言ったサルカンに《龍爪のヤソヴァ》がこう反論していました。


「我らは家が蹂躙され、子供達が殺されるのを無力に見てきた。怯える兎のごとく空を見上げ、何よりも生き伸びることに人生を捧げ、他者の領域で、間の抜けた小物のごとく這い足掻ながら生きてきた。それでもお前は我らの方が良いなどと言うのか?」

(記事より抜粋)


 龍と人が敵対していた過去のタルキール。サルカンは、龍がいるからこそ人も強く、輝いていたと感じました。龍と人との関係……例によって私の予想は当たらないと前置きしてから書きますが、変わった未来では龍と各氏族が手をとり合って、「龍と人」からなる五つの勢力が世界の覇権を巡って争っているのでしょうか? それはまだわかりません。
ですから見に行きましょう。まずは、サルカンが再編したであろう世界を――

(続く)



※編注:記事内の画像は、以下のページより引用させて頂きました。
『Commanding the Planes』
http://magic.wizards.com/en/articles/archive/reconstructed/commanding-planes-2012-05-21
『プレインズウォーカーのための「タルキール覇王譚」案内 その1』
http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/0011167/
『「タルキール龍紀伝」 発表』
http://mtg-jp.com/publicity/0011470/