プロツアー『戦乱のゼンディカー』は瀧村 和幸選手の「アブザンアグロ」の優勝で幕を閉じた。玉田選手との日本人同士の決勝戦には多くの人が感動したのではないかと思う。何を隠そう。僕もそのうちの一人だ。2009年以来、6年ぶりに日本にもたらされた個人戦プロツアータイトルなのだ。興奮しないわけがない。
しかし、活躍する日本人選手に目を奪われる一方で、決勝戦を戦っていたデッキには既視感を覚えた人も少なくなかったのではないだろうか。《カマキリの乗り手》を擁する「ジェスカイ」と、《包囲サイ》を率いる「アブザン」。まるで一年前に行われたプロツアー『タルキール覇王譚』の焼き直しだったのだ。
「細部は違えども、やはりスタンダードは《カマキリの乗り手》と《包囲サイ》の環境なのかもしれないな」
なんて過ぎった考えをさっと晴らすような一風変わった意欲作を紹介しよう。スタンダードにはまだまだ多くの可能性が眠っているのだ!
4 《平地》 3 《沼》 1 《大草原の川》 1 《窪み渓谷》 4 《溢れかえる岸辺》 2 《汚染された三角州》 4 《コイロスの洞窟》 4 《乱脈な気孔》 2 《荒廃した湿原》 -土地(25)- 4 《搭載歩行機械》 4 《道の探求者》 3 《僧院の導師》 3 《徴税の大天使》 3 《風番いのロック》 -クリーチャー(17)- | 3 《荒野の確保》 3 《魂裂き》 1 《勇敢な姿勢》 3 《骨読み》 1 《完全なる終わり》 2 《残忍な切断》 2 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 1 《真面目な訪問者、ソリン》 2 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》 -呪文(18)- | 3 《強迫》 3 《神話実現》 2 《正義のうねり》 2 《自傷疵》 2 《究極の価格》 1 《勇敢な姿勢》 1 《徴税の大天使》 1 《真面目な訪問者、ソリン》 -サイドボード(15)- |
「ジェスカイ」に「アブザン」と、現在のスタンダード環境では白が大人気だ。ただ、ここで紹介するデッキは白とはいえ、既存のデッキとは一線を画する工夫がされている。
そのキーカードは《徴税の大天使》だ。
『マジックオリジン』で登場したこの天使は、この夏の世界選手権では「白単信心」の中心として活躍してきた。『テーロス・ブロック」がローテーション落ちしてからは、めっきり見なくなったクリーチャーだったが、《カマキリの乗り手》に強く、プロツアー『戦乱のゼンディカー』で最大勢力だった「アタルカレッド」にも強い、ということで見直されてきている。そんな強力な天使の唯一ともいえる欠点は、そのマナコストにある。白白白1というトリプルコストは、流行の多色のミッドレンジでは運用できないのだ。強力なカードがあるのに採用できない。そんなジレンマを、このデッキは白と黒の2色にまで色を絞ることで解消したようだ。
でも、「アブザン」や「マルドゥ」のように白と黒を使いつつも楔の3色の呪文をふんだんに使えるデッキと比較すると、2色のデッキではやや力負けしてしまうのでは?
そんな心配も杞憂に過ぎない。《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》《僧院の導師》《風番いのロック》《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》《真面目な訪問者、ソリン》と、2色でも十分に強力なカードは揃っている。同じくらいの力なのに2色の方が土地事故を起こしにくいとあれば、あえて多色を選ぶ理由こそ少ないだろう。
《荒野の確保》と《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》という一撃必殺のコンボも搭載されているのは意外性も相まって面白い。他のパーツについても《ドラーナの使者》や《白蘭の騎士》、《絹包み》など選択肢は多いので、好みによって、あるいはメタゲームに応じて様々な形を作ることができるに違いない。2色とはいえ可能性に満ち溢れた「白黒ミッドレンジ」は、これからに期待したい魅力的なデッキだ。