高橋優太のプロツアー『戦乱のゼンディカー』レポート

高橋 優太


これまでのあらすじ


【WMCQ名古屋】、トップ8懸けラインで最終戦負けて14位。

悔しい……悔しい……

この悔しさをプロツアーで昇華することを心に決めたのであった。



■ 10/5-10/9 SCGの大会結果を受けて

今や新環境スタンダードを語るうえで欠かせない存在になっている【SCG Open】

【10/3に開催された大会の結果】で、環境の水準となるデッキが出揃った。


◆ 新環境の基準となるデッキ

・アタルカレッド
・エスパードラゴン
・白緑大変異
・アブザン


5色《白日の下に》は使用者のGerry Thompson自身が「このデッキはプロツアーで使うに値しない」と認めていたこともあり候補から外した。

まずはこれらの4つの候補からスタートし、前環境からの経験値もあるエスパードラゴンを調整。【SCGオープン3位のリスト】が非常に綺麗に組まれていたことが理由だ。

しかし2つの大きな課題に直面する。「赤系統の速攻デッキにメイン勝率が悪い」「《死霧の猛禽》《棲み家の防御者》パッケージ+サイドの《見えざるものの熟達》が対処しにくい」ことだ。

もちろんサイドを一定数とれば倒せるが、コントロールは環境に合わせた細かい枚数調整が必要で、環境初期ほどデッキを組むのが難しい。


コントロールよりも自分の都合を押し付けるデッキはないかと、アブザンアグロの調整を始めることにする。



高橋 優太「アブザンアグロ ver.1」

4 《森》
3 《沼》
1 《平地》
1 《梢の眺望》
1 《燻る湿地》
4 《吹きさらしの荒野》
4 《樹木茂る山麓》
4 《砂草原の城塞》
4 《乱脈な気孔》

-土地(26)-

4 《搭載歩行機械》
4 《始まりの木の管理人》
4 《棲み家の防御者》
4 《先頭に立つもの、アナフェンザ》
4 《包囲サイ》
3 《風番いのロック》
1 《黄金牙、タシグル》

-クリーチャー(24)-
3 《ドロモカの命令》
2 《究極の価格》
1 《勇敢な姿勢》
4 《アブザンの魔除け》

-呪文(10)-
4 《強迫》
2 《究極の価格》
2 《苦い真理》
2 《衰滅》
1 《龍王ドロモカ》
1 《勇敢な姿勢》
1 《絹包み》
1 《進化の飛躍》
1 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》

-サイドボード(15)-
hareruya





■ アブザンアグロの優位点



・同マナ域のカードとの比較


包囲サイ アブザンの魔除け 先頭に立つもの、アナフェンザ


これはアブザンを長期間使い続けて思うことなのだが、同じマナ域同士の比較ではアブザンが最もスペックが高い。

《包囲サイ》《アブザンの魔除け》の汎用性が高く、先手後手差やマッチアップで無駄になることが少ないからだ。

また環境の2マナ域の不足ゆえに《搭載歩行機械》が使われやすいことも、アブザンにとっては利点だ。《アブザンの魔除け》《先頭に立つもの、アナフェンザ》という解答があるからだ。

《先頭に立つもの、アナフェンザ》《死霧の猛禽》対策にもなり、4/4というサイズがアタルカレッドにも強く、環境に合致している。



・マナベースの強化


溢れかえる岸辺 梢の眺望 窪み渓谷


フェッチランド+バトルランドにより、フェッチ単体が3色カウントできるようになった。

アブザンアグロの最高の動きは「《始まりの木の管理人》→強化→《先頭に立つもの、アナフェンザ》《包囲サイ》」で、この動きをすれば大抵のデッキに勝てる。

しかし3色デッキでこれを行うにはタップイン土地が課題だった。これまで占術土地の影響もあり上記のブン回りは少なかったのだが、フェッチ+バトルランドでアンタップインが増えたことで「ぶん回り」を実現しやすくなったのだ。




ver.1にはまだ入っていなかったが、《溢れかえる岸辺》を加えることで3色カウントのアンタップ土地が増えることになる。

これにより《砂草原の城塞》をデッキから抜くことができてアンタップ土地が22枚になった。

《沼》の枚数は悩むが、ゲーム中1枚は引きたいことと、サイドボードに黒いカードが多いこと、特殊地形ばかりでバトルランドがタップ状態になる「バトル事故」を防ぐためにも、最低2枚は欲しいところだ。



■ 10/10-11 BMO Vol.5

上記の「アブザンアグロ ver.1」で【BMO Vol.5】に参加。


ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 1 白緑大変異  〇〇
Round 2 白緑大変異  〇〇
Round 3 アブザンアグロ  〇×〇
Round 4 アブザンアグロ  ××
Round 5 白黒戦士  〇〇
Round 6 アブザンコントロール  ×〇〇
Round 7 5色《白日の下に》  ×〇×
Round 8 ジェスカイ  〇〇
Round 9 マルドゥ  〇〇
Round 10 マルドゥ  〇〇


8-2で2日目へ。


ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 11 ティムールドラゴン  〇〇
Round 12 5色《白日の下に》  ×〇△
Round 13 アブザンアグロ  ×〇×
Round 14 アブザンコントロール+赤  ×〇〇
Round 15 アブザンアグロ  〇〇


11-3-1で、ギリギリトップ8だと思い発表を待っていると……


残念!オポ負け9位!


しかしデッキの感触は非常に良かった。負けた相手がアブザンアグロだったこともあり、アブザンアグロがベストな選択ではないかという考えに至る。


また【同日に行われていたSCGオープンの結果】ジェスカイブラック・白緑大変異で二分されたこともあり、本番もこの2つが多いであろうことを意識する。



■ 10/16 決戦前夜


高橋 優太「アブザンアグロ ver.2」
プロツアー『戦乱のゼンディカー』

3 《森》
2 《沼》
1 《平地》
2 《梢の眺望》
1 《燻る湿地》
1 《窪み渓谷》
4 《吹きさらしの荒野》
4 《樹木茂る山麓》
3 《溢れかえる岸辺》
4 《乱脈な気孔》
1 《ラノワールの荒原》

-土地(25)-

3 《搭載歩行機械》
4 《始まりの木の管理人》
4 《棲み家の防御者》
4 《先頭に立つもの、アナフェンザ》
4 《包囲サイ》
3 《風番いのロック》
2 《黄金牙、タシグル》

-クリーチャー(24)-
4 《ドロモカの命令》
4 《アブザンの魔除け》
3 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》

-呪文(11)-
3 《究極の価格》
3 《精神背信》
3 《絹包み》
2 《強迫》
2 《苦い真理》
2 《衰滅》

-サイドボード(15)-
hareruya



プロツアー前日に市川(ユウキ)さん・瀧村(和幸)さんとともにアブザンアグロについての意識合わせを行った。

話した内容を箇条書きすると……



《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》


ゼンディカーの同盟者、ギデオン


ミッドレンジ対決は先攻側が《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》《風番いのロック》と展開すると逆転は非常に困難だ。

しかしただ強いわけではなく状況を選ぶカードであり、《カマキリの乗り手》に対して弱いカードなので、ジェスカイ相手は良くサイドアウトする。



《ドロモカの命令》4枚


ドロモカの命令


場に自分のクリーチャーがいないと機能しないが、それでも《カマキリの乗り手》《ヴリンの神童、ジェイス》の両方を対処できるカードであり、変異状態の《棲み家の防御者》《隠れたる龍殺し》も除去できる。

ジェスカイ、白緑大変異を中心に考えると4枚という結論に至った。



・マナベース


溢れかえる岸辺 黄金牙、タシグル


正直に話すと前日まで私のデッキにはまだ《砂草原の城塞》が入っていた。これも2人との意見交換のおかげだ。

また、フェッチランドのマナベースにより墓地が増えやすくなったので「探査」が使いやすく、1-2枚はデッキに入れた方が良いと提案する。《残忍な切断》も考えたが、《黄金牙、タシグル》の方がマッチによって強さが変動しないため2枚採用した(《残忍な切断》はコントロール相手に腐るリスクがあるため)。



《衰滅》


衰滅


白緑大変異やアブザンアグロ同型では先手の《風番いのロック》があまりにも強力で逆転する術が少ない。後手時は《ドロモカの命令》が撃ちづらいこともあり、後手で逆転するための戦略として《衰滅》を使うことにした。

《黄金牙、タシグル》《衰滅》と相性が良いこともあり、この変更には納得している。



■ 10/17-18 プロツアー『戦乱のゼンディカー』


◆ 初日


・1stドラフト



高橋 優太「赤黒」
プロツアー『戦乱のゼンディカー』 1stドラフト

9 《山》
7 《沼》
1 《進化する未開地》
1 《荒廃した湿原》

-土地(18)-

1 《泥這い》
2 《マキンディの滑り駆け》
2 《棘撃ちドローン》
2 《精神を掻き寄せるもの》
2 《エムラクールの名残》
2 《ハヤバイ》
1 《カラストリアの夜警》
1 《バーラ・ゲドを滅ぼすもの》
1 《破滅の昇華者》

-クリーチャー(14)-
1 《沸き立つ大地》
2 《虚空の接触》
1 《完全無視》
1 《ぬかるみの敵意》
2 《悪魔の掌握》
1 《石の怒り》

-呪文(8)-
hareruya






青はその強力さゆえに人気が高すぎるので、黒を中心に後手除去コントロールを念頭に置いてピック。

初手《虚空の接触》から赤単ピックし、《ハヤバイ》が一周したことから黒に参入。

クリーチャーが少し足りないが、十分な出来の赤黒ができた。


ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 1 青白黒コン  〇〇
Round 2 赤白「上陸」  〇〇
Round 3 青赤「欠色」  ×〇〇


3-0!

ダイス負けて後手を取るつもりが、全部ダイス勝ってしまい「あなたが先攻で」と言い続けていた(笑)



・初日スタンダード


ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 4 エスパードラゴン  〇〇
Round 5 エスパードラゴン  〇×〇
Round 6 アブザンコントロール  〇〇
Round 7 アタルカレッド  〇××
Round 8 赤黒除去コン  〇×〇


4-1。


初日7-1で2日目へ。



◆ 2日目


・2ndドラフト


【ドラフトビューアー】



高橋 優太「白黒」
プロツアー『戦乱のゼンディカー』 2ndドラフト

9 《沼》
7 《平地》
2 《荒廃した湿原》

-土地(18)-

2 《泥這い》
1 《威圧ドローン》
1 《マキンディの巡回兵》
1 《ニルカーナの暗殺者》
1 《ハグラの名射手》
3 《精神を掻き寄せるもの》
1 《血の絆の吸血鬼》
1 《幽霊の歩哨》
1 《グール・ドラズの監視者》
1 《バーラ・ゲドを滅ぼすもの》
1 《破滅の昇華者》

-クリーチャー(14)-
1 《ギデオンの叱責》
1 《オンドゥの蜂起》
2 《完全無視》
1 《大物潰し》
1 《ぬかるみの敵意》
1 《悪魔の掌握》
1 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》

-呪文(8)-
hareruya







1パック目は黒を中心にピック。途中赤と白のクリーチャーを2枚ずつ取って渡りをつけていたのだが、2パック目を開封したら《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》少し動揺してしまった。

そこからは白黒の除去コントロールを意識。


ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 9 青赤「欠色」  ×〇〇
Round 10 赤白同盟者  ×〇×
Round 11 青黒「嚥下」  〇〇


2-1。

またもやダイス負けて後手を取るつもりが、全部ダイスに勝ってしまい「あなたが先攻で」

対戦相手のデッキも非常に強力だったが、除去が多いおかげで相手のレアクリーチャーに苦労せず勝つことが出来た。



・スタンダード


ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 12 ジェスカイブラック  ×〇×
Round 13 ティムールドラゴン  〇〇
Round 14 ジェスカイブラック  〇〇
Round 15 アブザンアグロ  ×〇×
Round 16 【ジェスカイ (玉田 遼一)】  〇××


最終戦のジェスカイ相手に、今考えても恐ろしいほどのプレイミスをして負け。


対戦相手 (ジェスカイ)

戦場

《神秘の僧院》
《平地》
《島》
《大草原の川》(すべてアンタップ)

手札:4枚





エンド時に「変異」に撃たれた《焦熱の衝動》に対して、あろうことか《アブザンの魔除け》の「+1/+1カウンター」を2つ乗せるモードを選択。結果返しで《絹包み》を食らい、自分からカード枚数を失いにいくプレイをした。

序盤からこっちのクリーチャー→除去という応酬を繰り返していたので、「《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》があるだろうからそれにプレッシャーをかけるためにも生物は残したい、除去はもうないだろう」という安直な読みが原因だ。

結果、《黄金牙、タシグル》《包囲サイ》を回収するという選択肢を失い、《アブザンの魔除け》を「2枚ドロー」で使用しても土地と単体除去だらけになり負け。


そして3本目はマリガン後に良くない手札をキープしてしまい負け。勝つとトップ8だったラインからの2連敗。しかも明確なミスによる負け。


最もトップ8に近いプロツアーでありながら、手に入れることが出来なかった。

私はこの悔しさを、ミスを、一生忘れないだろう。



最終結果: 11-5で17位。

プロポイント10点と2500$獲得。



■ おわりに

【決勝で戦う日本人2人】を見て嬉しい反面、自分がそこにいたかもしれないと考えると悔しさがこみ上げてくる。

マジックを続ける以上、悔しさと向き合い続けなければいけない。そしてこの悔しさこそが自分を強くしてくれると信じて、また練習の日々が始まる。

ゲームでいう「全クリ」がないのがマジックの良いところであり、常に挑戦し続けることが出来る。


もう今週末はGP北京だ。齋藤・津村という強力なチームメイトと共に、また次の試合が始まる。

Good Luck!


高橋優太



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