【プロツアー・横浜2003】で準優勝という鮮烈なデビューを飾り、その年の【Rookie of the Year】(新人王)に輝いたルーキーこと大礒 正嗣。
そんなルーキーの2度目のトップ8は、「歴史上最速」ではないかと評される、地獄のエクステンデッドプロツアーでした。
4 《島》 4 《汚染された三角州》 4 《古えの墳墓》 4 《裏切り者の都》 4 《リシャーダの港》 -土地(20)- -クリーチャー(0)- |
4 《魔力の乱れ》 4 《渦まく知識》 4 《神秘の教示者》 4 《マナ切り離し》 4 《修繕》 1 《急流》 2 《金属モックス》 2 《通電式キー》 4 《厳かなモノリス》 3 《発展のタリスマン》 2 《威圧のタリスマン》 4 《ゴブリンの放火砲》 1 《金粉の水蓮》 1 《精神隷属器》 -呪文(40)- |
4 《寒け》 3 《水銀のドラゴン》 3 《無効》 2 《白金の天使》 1 《蒸気の連鎖》 1 《罠の橋》 1 《綿密な分析》 -サイドボード(15)- |
《マナ切り離し》と《ゴブリンの放火砲》。「ミラディン」がリリースされた直後のプロツアーでは、このコンボデッキが猛威をふるいました。
その仕組みはいたって簡単で、《マナ切り離し》でライブラリーから土地を抜き去ってしまえば、《ゴブリンの放火砲》が20点以上のダメージを叩き出してくれるというもの。
このコンボの秀逸な点は、<マナ切り離し>が単体でも非常に強力なことです。マジックというゲームにおいて、過剰な土地は引きたくないものですが、一度《マナ切り離し》さえキャストしてしまえば、2度と土地を引くことはありません。
このデッキには《厳かなモノリス》を始め、マナアーティファクトが大量に含まれているので、序盤の1~2ターンで必要なマナを確保した後に、《マナ切り離し》→トップデッキ待ちという展開は多かったようです。
また、コンボデッキでありながら4枚採用されている《魔力の乱れ》が印象的ですが、これはいかにこの環境が早かったかを示唆しています。コンボデッキが氾濫していただけに、自身の速度を追求するのみではなく、対戦相手の初速を落とすことにも注力されていました。
そんな「歴史上最速」の環境にルーキーが持ち込んだデッキは、当時広島勢がずっと愛用していた「Tinker」でした。
7 《島》 4 《教議会の座席》 4 《リシャーダの港》 4 《裏切り者の都》 3 《古えの墳墓》 -土地(22)- 4 《金属細工師》 4 《マスティコア》 -クリーチャー(8)- |
4 《修繕》 3 《天才のひらめき》 2 《激動》 4 《通電式キー》 4 《厳かなモノリス》 4 《からみつく鉄線》 4 《スランの発電機》 2 《ファイレクシアの処理装置》 1 《ミシュラのらせん》 2 《精神隷属器》 -呪文(30)- |
3 《もみ消し》 3 《溶接の壺》 3 《上天の呪文爆弾》 1 《回春の間》 1 《天才のひらめき》 1 《ファイレクシアの処理装置》 1 《ミシュラのらせん》 1 《次元の門》 1 《激動》 -サイドボード(15)- |
このデッキは、長いマジックの歴史の中でも、マナを生み出すことに突出したデッキのひとつです。《厳かなモノリス》や《スランの発電機》、そして《金属細工師》は、《通電式キー》と組み合わせることで、とてつもないほどのマナを生成することが可能となります。
そこから生み出したマナで何をするかが気になるところですが、《マスティコア》でクリーチャーを全滅させたり、《ミシュラのらせん》で自由を奪ったり、《天才のひらめき》で信じられない量のカードを引いたりと、このデッキは膨大なマナを余すことなく使いたおします。
さらには《からみつく鉄線》によるロック戦略も控えており、「消散カウンター」がなくなれば《激動》でリセットと、対戦相手からしてみれば理不尽極まりないデッキでした。
そして、このデッキに圧倒的な爆発力と多様性を与えているのが、デッキ名にもなっている<修繕>です。
このカードの極悪さは、おそらくみなさんもご存じでしょう。レガシーでも禁止カードに指定されているほどの強力な効果で、適材適所の「アーティファクト」を、適切なタイミングで導くカードがたったの3マナだなんて、詐欺みたいなもんです。
「Tinker」デッキは『ミラディン』発売前から一定数は存在するアーキタイプでしたが、『ミラディン』加入前のエクステンデッドでは、そこまで大きな勢力ではありませんでした。それを変えてしまったのは、『ミラディン』がもたらした《精神隷属器》です。
「あなたはそのプレイヤーの次のターンの間、そのプレイヤーをコントロールする。」
一見摩訶不思議なこのテキストは、コンボデッキ対決で劇的な効果を及ぼします。
例えば、先ほど紹介した「Mana Severance/Charbelcher」デッキであれば、コンボ完成間近に《精神隷属器》を起動されてしまうと、《ゴブリンの放火砲》は自らを焼き付くしてしまいますし、【「Tinker」対決ならば<修繕>や<天才のひらめき>を変態のような使い方をされ】、ほとんど逆転不可能な状況ができあがってしまいます。
余談ではありますが、あまりにも《精神隷属器》が強すぎるゆえに、ターンを奪われた際に《修繕》で即死しないように、「Tinker」デッキから《ファイレクシアの処理装置》が抜けてしまった、という逸話もあるほどです。
ルーキーのリストには、その《ファイレクシアの処理装置》が入っていますが、これは決して《精神隷属器》を過小評価していたわけではなく、「《精神隷属器》を起動されたらリソースをボロボロにされてどうせ負けるから、多くのマッチアップで強いこのカードは抜かなかった」と言っていた気がします。
むしろルーキーのリストは、<精神隷属器>を巡る攻防に特化しています。一般的に1枚しか採用されていなかった《精神隷属器》をメインから2枚搭載していますし、サイドボードには《もみ消し》という最終兵器まで控えています。
<もみ消し>は極上の<精神隷属器>対策として機能します。
海外勢は《無効》を採用していることが多かった枠ですが、《無効》だと《修繕》経由の《精神隷属器》を防ぐことができません。《もみ消し》ならばそれが可能で、時には《からみつく鉄線》の誘発効果を打消し、「自由なターン」を得ることもできちゃいます。
ルーキー曰く、ほとんどの海外勢がこのカードを採用していなかったことは、このプロツアーでの嬉しい誤算だったとか。
最終的に準決勝でNassifに敗れてしまいましたが、【プロツアー・横浜2003】での準優勝が、決してフロックではなかったと証明してみせた今大会。
ルーキーのその後の活躍は、みなさんご存じの通りです。
日本人最多となる6度のプロツアートップ8と、10回のグランプリトップ8をひっさげて、2012年に見事に【殿堂入り】をはたしています。
次のプロツアー『タルキール龍紀伝』には参加予定とのことですので、ルーキーファンのみなさんはお見逃しなく!
コガモ
※編注:記事内の画像は、以下のサイトより引用させていただきました。
『mtg-jp:デジタルマジック通信 第60回』
http://archive.wizards.com/Magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/dm/59