アブザンという氏族が《包囲サイ》の力を以て環境を支配するのは、何も今に始まったことではない。
「アブザン大変異」「アブザンミッドレンジ」「アブザンコントロール」……細部のカード選択の違いによって定義されたそれらのデッキは、形を変えながら目まぐるしいメタゲームの変遷に対応し続けてきた。
プレイヤーはデッキ選択において常に「《包囲サイ》を使うべきか、倒すべきか」の選択を迫られてきた。
しかし、今や全てのアブザンはアブザンアグロに駆逐されてしまった。
原因は「戦乱のゼンディカー」から与えられた新しい2色土地である。
これによってデッキ内のタップイン土地は極限まで切り詰められ、実現されたのは安定した《始まりの木の管理人》→《先頭に立つもの、アナフェンザ》→《包囲サイ》という動き。
先日の【プロツアー『戦乱のゼンディカー』】では瀧村 和幸(神奈川)がその暴力的な動きを操り優勝という栄誉を掴んだ。
ここでぶつかり合うのも、そんな「最強のアブザン」たるアブザンアグロ同士だ。
しかもメインデッキから土地を除いた34枚の呪文のスロット、そのうち33枚が全く一緒なのである。
ほぼ完全なミラーマッチにおいて勝負を決めるのは、お互いの実力のみ。
Game 1
木寺のオープンハンドは5枚の土地と《始まりの木の管理人》、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》というもの。多めの土地に若干の不安を感じているようだが、ベストムーブもあり得るこれをキープ。
一方手札を1枚減らした後手の安田は《始まりの木の管理人》を鏡打つが、土地が止まってしまったため能力を使うことなく《棲み家の防御者》を増援とする。
この土地事故に乗じたい木寺、4枚目の土地がタップインのため《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を出すことができなかったものの、安田の《先頭に立つもの、アナフェンザ》を《アブザンの魔除け》で退けると、1ターン遅れてプレインズウォーカーのお出ましだ。
木寺 聖太 (写真左) |
苦しい安田は1/1の《始まりの木の管理人》と2/1《棲み家の防御者》をプレインズウォーカーに向かわせる。《アブザンの魔除け》を匂わせるアタックだが2/1は同盟者と相打ち、忠誠度をわずかに減らすのみに留まる。
そこで立てたマナの使い道はというと、木寺が《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の「+1」能力を使わないことを確認した後で、この上《風番いのロック》まで「強襲」で出されてはたまらないとばかりに攻撃前に《始まりの木の管理人》に《残忍な切断》を打ちこむ。
しかし防戦一方ながらもようやくデッキの代名詞となる《包囲サイ》を繰り出す安田だったが、これを即座に《アブザンの魔除け》により除外されると、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の重い一撃を食らう。
思うように手札が使い切れない安田はそのまま木寺の軍勢に圧倒された。
木寺 1-0 安田
お互い幾多のアブザン対決を乗り越えてきたのだろう。自らのデッキも迎えうつべきデッキも熟知している。
手早くサイドボードを終え、無言でシャッフルを続ける。
Game 2
土地事故で1ゲームを落としてしまった安田は3ターン目、
《棲み家の防御者》
《先頭に立つもの、アナフェンザ》
《包囲サイ》
《包囲サイ》
《ドロモカの命令》
という高カロリーな手札から《棲み家の防御者》を「変異」でプレイ。墓地のフェッチランドから4枚目の土地を確保する。
木寺から先んじて繰り出される《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の同盟者トークンには《ドロモカの命令》の格闘モード。マナを有効に使いつつ、プレインズウォーカーに仕事をさせないまま討ち落とすと、さらに返す刀は強烈な《包囲サイ》!
安田 真幸 |
木寺の《自傷疵》には4/5の《包囲サイ》と4/3の《棲み家の防御者》のどちらがクロックとして確実か、処理されにくいか、じっくり考えた後《包囲サイ》を残す。 その上で《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》、2体目の《包囲サイ》と連打し木寺を追い詰める。
だが木寺も《乱脈な気孔》と《アブザンの魔除け》を絡めた有利な戦闘を行い、2体の《包囲サイ》を打ちとるグッドプレイを見せる。
そしてここから反撃とばかりに力強く《包囲サイ》をプレイするのだが、これが《軽蔑的な一撃》に阻まれてしまうと、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が止まらないことを受け入れ、白旗を上げた。
木寺 1-1 安田
Game 3
《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を有効に機能させた者が1つずつ勝ち星を取り、いよいよ決着の3ゲーム目。最後にこのプレインズウォーカーの祝福を受けるのはどちらか。
安田の《精神背信》から木寺の手札が明かされる。
《ドロモカの命令》
《ドロモカの命令》
《包囲サイ》
《風番いのロック》
《棲み家の防御者》
……土地はない。
3/3の《始まりの木の管理人》が《自傷疵》されると木寺は動けない。土地が止まっている木寺に興奮する様子も見せた安田だが、先ほど確認した手札を見直すと冷静にターンを返す。
土地を引いた木寺は「変異」=明らかな《棲み家の防御者》をプレイするが、これは《ドロモカの命令》 (安田の《先頭に立つもの、アナフェンザ》と格闘) で表返らない。
マナスクリュー気味の木寺に対してここまで盤面、手札の内容ともに優勢な安田だが、残りライフが少ないのが気になる。というのもその場には《ラノワールの荒原》が2枚並んでおり、全ての黒マナはここから与えられてきた。安田はさらにライフを8から5に落としながら《アブザンの魔除け》でドロー。
木寺は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をプレイ。向かってくる《先頭に立つもの、アナフェンザ》の攻撃は同盟者トークンが身を挺して守る。
そして、やはりというかこのプレインズウォーカーが、突然にゲームを終わらせた。
待望の痛くない黒マナから《包囲サイ》をプレイしライフを安全圏に戻した体の安田だったが、クリーチャー化した《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》への《ドロモカの命令》でこれを排除する木寺。
道を妨げるもののなくなったプレインズウォーカーが、安田の残り少ないライフを削りきった。
木寺 2-1 安田
多くの手札を残したまま敗北してしまった安田は悔いが残るのか、自らを省みる。観戦していた友人の斉藤 伸夫(東京)が安田のプレイに意見を述べる。
終始不利な展開でありながら、好機を逃さず勝利をつかみ取った木寺のプレイが光った。
木寺、決勝進出!