あなたの隣のプレインズウォーカー ~第1回 ギデオン・ジュラを知ろう~

若月 繭子

若月 繭子


 皆様こんにちは、もしくははじめまして。若月繭子と申します。
 mtg-jp.comにて主に背景世界系の記事翻訳を担当させて頂いております。このたびこちらで記事を書かせて頂けることになりました。どうぞよろしくお願い致します。
 「ディープすぎず、かつ馴染みやすい背景世界系の記事を」とお願いされましたので、どんなプレイヤーにも馴染み深い「プレインズウォーカー」達について、キャラクターとしての面にスポットを当てて様々なお話をしていこうと思います。



1. プレインズウォーカーとは

 そもそもマジックにおける「プレインズウォーカー」とは何か(カードタイプの意味ではなく)。
 「プレインズウォーカー」とは、マジック:ザ・ギャザリングの世界「多元宇宙/Multiverse」を渡り歩く特別な魔法使いのことを指します。マジックのプレイヤーはプレインズウォーカーとして様々な呪文を唱えたり、クリーチャーを召喚して戦うという設定です。
 言うなればプレインズウォーカー・カードは「プレイヤーの隣で一緒に戦ってくれる仲間」ということになります。
 
この記事では、基本セット2012に収録されたそんな頼もしい仲間から最初の一人を紹介致します。




2. ギデオン・ジュラとは何者か

 カードとしての説明は不要でしょう。
 彼がマジックの世界に初めて登場したのはカードよりもずっと早く、プレインズウォーカー達を主役とした小説シリーズ(英語のみ)の一つ「The Purifying Fire」(2009年7月発売。ちなみにエルドラージ覚醒は2010年4月発売)でした。これはチャンドラが主人公の物語であり、2011年6月末にコミックス2巻が発売されました漫画「燃え尽きぬ炎」の原作です。ギデオンはこの小説にてチャンドラの恋人候補か敵候補か、ともかく彼女の相手役として登場しました。彼のバックストーリーについての情報のほとんどはこの小説にあります。

 彼の性格は真摯、常に冷静沈着。あまり感情を表に出さず、時にそれが他人からは冷たく映ることもあります。仁義に篤く決して恩を忘れません。手甲から伸びる鞭状の武器を使った風変わりな格闘術を駆使し、流れるような優美さと無駄のない動きでどんな敵とも対峙します。様々な魔術も修めていますが、戦士として戦場を渡り歩くのを好んでいます。
 その容姿は文句無しの美形と言っていいでしょう。凛々しく整った顔立ち、鋭くも優しい瞳の色は青。すらりとしてそれでいてよく鍛えられた逞しい身体。その動きは鋭く油断なく、しなやかで機敏。どんな女の子も彼を気にせずにはいられません、あのチャンドラ・ナラーでさえも。彼女はギデオンを疎ましく思いながらも、見知らぬ世界を共に冒険し、危機を乗り越える中で彼を異性として意識しはじめます。




3. 生い立ちとPWに目覚めた経緯

 ギデオンの故郷がどこなのかは不明です。あまり恵まれた生い立ちではなかったようで、彼は父親の顔を知らずに育ち、若くして母親とも死に別れました。統率力と腕力に優れた彼は、同じような境遇の少年少女をまとめ上げて義賊団的な組織を結成し、盗んだ金品を貧しい者達に分け与えていました。やがて彼は捕えられて牢に繋がれますが、そこで師となる人物と出会います。最初に少しの反抗を経た後、彼は望んで熱心な弟子となりました。そして様々な術や戦いの技、人としての道を教わり始めると、その教えをめきめきと吸収し、成長していきました。

 ギデオンがプレインズウォーカーとして覚醒したきっかけは、とても敵わないような強大な敵を倒した時でした。自分自身の持つ力を自覚し、閃きと悟りの瞬間が彼に訪れました。「プレインズウォーカーの灯」の点火とともに彼は次元の境界を超えて飛び、ですが混乱に陥ることなく帰って来ました。そしてその力こそ次元を渡る者、プレインズウォーカーだけが持つ能力であると師に聞かされます。ギデオンの師はかつてプレインズウォーカーに学び、それゆえに彼の素質を見抜いていたのでした。

 プレインズウォーカーとして覚醒するきっかけは肉体的もしくは精神的に死の縁に追いやられるような辛い経験から、という話がよく知られていますが、彼はそうではないという割と珍しい例です。



4. チャンドラとの出会いと冒険

 やがてギデオンは旅の中で、レガサという次元にある、炎の姿をした白いマナが自然に噴出する泉を知ります。それはヘリウド騎士団の浄化の炎(Purifying Fire)と呼ばれていました。騎士団は炎を守り監視する者達であり、秩序と正義を旨とし、レガサ次元にその教えを広めながら勢力を拡大しようとしていました。

 ギデオンはその伝説に興味を抱き、学ぼうとします。当初、ヘリウド騎士団長のウォルバートはギデオンの願いを退けました。ですがやがて、ウォルバートはギデオンへと任務を託します。同じレガサ次元のケラル砦に身を寄せているプレインズウォーカー、チャンドラ・ナラーを捕らえるように。それを達成すれば浄化の炎に近づくことを許す、と。

 ギデオンはチャンドラを追ってケフェライ次元へと向かい、すぐに彼女を発見します。ですが彼女は「星の聖域」と呼ばれる博物館兼宝物庫から秘術の巻物を盗み出し、追われる中で破壊的な騒ぎを引き起こしていました。ギデオンはチャンドラを追跡し、一度は彼女に接触すると、逃げ出そうとしたチャンドラをその鞭型の武器で束縛して無力化します。ですがそこに彼女を追ってきたケファライの兵士達が現れたため、彼らへと引き渡すことになります。ギデオンはチャンドラが処刑されないことを願いましたが、彼女が逃げ出したことを知ると、再び彼女を追って次元を飛びました。

 チャンドラの飛跡を追ってギデオンが辿りついたのは、黒以外のマナが枯渇した次元でした。このままではこの次元から脱出することも不可能と知り、ギデオンはチャンドラを速やかに宥め、しばしの間協力することを提案します。二人は現地のゴブリンに襲われますが、ギデオンはその一体を速やかに捕らえて様々な情報を聞き出しました。その次元ディラデンは、支配者である吸血鬼の王子ヴェルラフの魔法によって永遠に夜が続く世界でした。二人はより詳しい手がかりを求めて人里へと向かいます。その道中、沈黙に耐えられなくなったチャンドラに請われ、ギデオンは自らの出自や生い立ち、プレインズウォーカーとして覚醒した経緯等を語りました。

 ギデオンとチャンドラは小さな村に辿りつくと、その長を務める女性から歓待を受けました。彼女は若い女性の姿をしていますが、血の魔術を用いて加齢を遅らせているとの事でした。彼女はすぐにギデオンの端正な容姿と逞しい身体に惹かれ、彼を手に入れようと考えます。彼女は翌朝早くにギデオンを村の者達と狩りに行かせると、チャンドラをヴェルラフへの貢物とすべく、霧の乗り手と呼ばれるクリーチャーを召還して彼女を誘拐させました。ギデオンはチャンドラが攫われたことを知り、霧の乗り手達を追ってその一体を倒しますが、彼もまた捕まってしまいます。
 ヴェルラフが彼の寝室でチャンドラを歓迎する間、ギデオンは霧の乗り手を倒した事への復讐として城の中庭に縛りつけられ、見せしめにされていました。チャンドラはヴェルラフとの会話の中で、迂闊にも自分達がプレインズウォーカー、次元を渡り歩くことのできる特別な存在であることを知られてしまいます。ヴェルラフはギデオンの力の真髄を得てプレインズウォーカーになることを目論みました。数日後、それを企てた儀式の最中にチャンドラは自らの渾身の魔力と怒りから呼び出した炎の刃でヴェルラフへと襲いかかり、その首を切り落とします。彼の死をもって黒以外のマナがディラデンに戻り、次元を渡ることも可能となりました。

 速やかにディラデンを脱出した二人はレガサに戻り、ケラル砦に程近い森に降り立ちました。そこにチャンドラの友人であるエルフのサミールが偶然現れ、彼は傷だらけのギデオンを手当てしようと申し出ます。そしてチャンドラにとって衝撃的なことに、サミールは騎士団の本部でギデオンに会ったことがあると言いました。裏切られたと感じ、チャンドラは激怒します。ギデオンも、星の聖域の巻物は関係なく、騎士団の命令でチャンドラを追っていたことを明かしました。ですが彼は今その場でチャンドラを捕らえ、騎士団へと連れ帰ることはできませんでした。ただ彼女を追い、捕らえようとしていた頃と事情は変わってしまっていました。ディラデンで互いを理解し、また命を助けられたことによって。それが何なのかもわからない、伝えられない感情を互いに残したままにギデオンは騎士団へ、チャンドラはケラル砦へとそれぞれ戻りました。
 ですが数日後、身を寄せていたケラル砦の仲間を守るため、チャンドラはギデオンを名指しで騎士団へと投降します。二人がウォルバートの元へと到着した時、彼は計画を明かしました。チャンドラを浄化の炎へと捧げ、彼女を浄化して無力な者とし、騎士団に反抗する者への見せしめにすると。ギデオンはウォルバートの意図を知らずにいた事に激しい罪悪感を抱きました。そしてチャンドラに待ち受ける運命から逃れるための手助けをします。彼はチャンドラへと、もしその心、魂に曇りがなければ炎の中でも無傷で生き残ることができると伝えました。ディラデンで共に過ごした夜に、ギデオンはチャンドラが過去の悪夢に苛まれていることを知っており、その重荷から彼女を解き放てばと思ったのでした。
 捕らえられた牢の中、チャンドラはギデオンへと辛い過去を告白します。幼い頃、自らの行いが元で故郷の村が炎に焼かれ、家族も全員殺されたことを。ギデオンはそれを咎めるのではなく、ただ彼女の手を握りながら静かに聞いていました。それだけでも彼女の心が軽くなると彼は知っていました。

 そしてチャンドラは、騎士団が信奉する白い炎へ身を投じます。ですがギデオンとともに自らの過去、自らの行いへと向き合ったチャンドラは炎に焼かれませんでした。そして大いなる喜びと怒りをもってチャンドラはウォルバートと彼の護衛を殺し、浄化の炎が湧き出る泉と寺院を自身の魔術によって破壊してしまいました。

 廃墟となった騎士団の建物へと駆けつけたギデオンはチャンドラを発見し、また彼女の行いに唖然としました。チャンドラは、彼女の村を焼き家族を殺した者達はヘリウド騎士団と同じ理想を掲げていた、と明かしました。その言葉はギデオンへと突き刺さり、彼は自身の忠義に疑問を抱くことになります。自らの信じる道が誰かにとっての、チャンドラにとっての敵となる可能性を彼は知ったのでした。
 
 ギデオンはただ「また会おう」とだけ告げ、レガサから去ってゆくチャンドラを見送りました。



5. ゼンディカー、ケフ砦にて

 ですがギデオンはチャンドラとのもどかしい別れをすぐに後悔し、彼女の力になりたいという気持ちのままにゼンディカー次元へ向かいました。命がけで辿りついたその次元に彼女の姿はなく、既にこの危険極まりない次元を去った後でした。すぐにチャンドラを追いたかったギデオンですが、疲れ切った彼は休息できる安全な場所を求めてケフ砦へ辿りつきます。

 ギデオンは迎え入れられ、砦の戦士達からこの次元の様々な話を聞くことができました。ですが翌朝、奇怪な姿をした怪物達の大群が砦を襲撃しました。ギデオンは中心となって戦い、怪物達を倒して何とか生き延びますが、それで終わりではありませんでした。地平線の彼方から異様な姿をした、生物なのかさえもわからないそびえ立つような怪物が姿を現しました。遠くの距離からでも、それが放つ狂気と力はとても敵うものではないとわかりました。ギデオンは砦の皆にできるだけ遠くへ避難するよう告げると、助けを求めてラヴニカへ向かいました。そこには次元を股にかけるプレインズウォーカー達の組織、「無限連合」があると聞いていたのです。


 ゼンディカーはどうなるのか。ギデオンとチャンドラは再会できるのか。それはきっとこれから語られるのでしょう。