はじめに
こんにちは、若月です。無事に二本目の記事を書かせて頂けることになりました。ありがとうございます。
突然ですが、今回の記事にはミラディンの傷跡ブロックの小説「Scars of Mirrodin: The Quest for Karn」の結末に関する重要かつ衝撃的なネタバレが含まれています。今読んでいる、もしくはこれから読むので知りたくない!という人はこの記事を読まない方がいいかもしれません。とはいえ、ある程度は公式ページで既に明かされている事ではありますが。
今回は特定のプレインズウォーカーについてではなく、「プレインズウォーカー達のマナコストや能力と背景設定との関係」について、ストーリーの展開も少し交えながら書きたいと思います。
1. プレインズウォーカーの能力と背景設定
プレインズウォーカー達の能力やマナコストは、彼らの背景設定をとてもよく表しています。例えば、背景世界好きプレイヤーの間では有名な話ですが、ジェイス・ベレレンとリリアナ・ヴェスは恋人同士です。正確には今はどうやらお互い少し距離を置いているようなのですが、ともかく二人は大人の男女の関係です(でした?)。ジェイスが主役のプレインズウォーカー小説「Agents of Artifice」(2009年1月発売、英語のみ)では、ここには詳しく書けないあんなシーンやそんなシーンもあったりします。
二人が出会ったのは、ジェイスがテゼレット率いる陰謀団的組織「無限連合」から抜け出し、親友である剣士のカリストと共に逃亡していた頃の事でした。他人の心を読み、精神を制御することができるというジェイスの能力を目当てにリリアナは彼に近づきます。ですがそんな思惑とは彼女自身も裏腹に、二人は本当に恋に落ちてしまうのでした。そしてリリアナは自らの計画の為にジェイスを利用しながらも、一方で心から彼の力になりたい、一緒にいたいと願い始めます。
そのあたりの詳しい顛末はここでは語りませんが、二人の互いへの愛と信頼は《ジェイス・ベレレン》と《リリアナ・ヴェス》の能力の組み合わせに如実に見ることができます。青黒コンなどでこの二人を並べたことのある人はおわかりかと思いますが、
《ジェイス・ベレレン》[+2]:各プレイヤーはカードを1枚引く。
↓
《リリアナ・ヴェス》[+1]:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを1枚捨てる。
《リリアナ・ヴェス》[-2]:あなたのライブラリーからカードを1枚探し、その後あなたのライブラリーを切り直し、そのカードをその一番上に置く。
↓
《ジェイス・ベレレン》[-1]:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを1枚引く。
《ジェイス・ベレレン》[-10]:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分のライブラリーのカードを上から20枚、自分の墓地に置く。
↓
《リリアナ・ヴェス》[-8]:すべての墓地にあるすべてのクリーチャー・カードを、あなたのコントロール下で戦場に出す。
なんという素晴らしい相性。彼らを呼び出したプレインズウォーカー(プレイヤー)を一切無視していちゃついてくれます。《リリアナ・ヴェス》と《精神を刻む者、ジェイス》とはあまりシナジらないあたりも「微妙な期間」という背景設定を多少は表しているのかもしれません。実を言うとこの二人については、カード能力が先にあって恋人同士という関係は後から作られたそうですが、それにしてもこのお似合いっぷりには驚きです。
2. 《解放された者、カーン》のマナコスト
公式記事「ゴーレムの遺産」に言及されているように、《解放された者、カーン》のコストは7マナ、そしてこれはウルザランド3種類を集めた時のマナでもあります。このコストは調整の結果決まったものでしょうが、やはりカーンとその創造主であるプレインズウォーカー、ウルザとの関係を偲ばせます。
3. 《解放された者、カーン》と《滞留者ヴェンセール》の関係
先述の記事にもある通り、カーンの小マイナス能力は《レガシーの兵器》そのものです。ですが、ミラディンの傷跡ブロックの小説「Scars of Mirrodin: The Quest for Karn」を読むと実はそれだけではないのではないか、ということに気付くかもしれません。この小説の最後の最後で、カーンはファイレクシアから解放されて再びプレインズウォーカーとなります。
多少なりともストーリーを知っている人は疑問に思っているでしょう、「時のらせんブロックの物語中で『プレインズウォーカーの灯』を失ったはずのカーンが何故またプレインズウォーカーに?」と。
ここからネタバレです。宜しいでしょうか?公式ページのプレインズウォーカー・カーンの紹介よりも詳細を書いています。ご注意下さい。
カーンはヴェンセールの灯を貰って再びプレインズウォーカーとなりました。
傷跡ブロックのストーリーの話になりますが、カーンはファイレクシアの油に汚染され、ファイレクシアを導く「機械の父」としてミラディン次元の奥深くに繋ぎ止められていました。
そんなカーンを、ひいてはミラディン次元を救うためにファイレクシアへと侵入し、その最深部にある玉座の間まで辿りついたヴェンセール、コス、エルズペスのプレインズウォーカー3人と彼らに連れられた《シルヴォクののけ者、メリーラ》。カーンの汚染自体はメリーラがその特殊な力で浄化したのですが、それで終わりではありませんでした。カーンの心臓、全ての汚染源であったそれはメリーラの手にも負えなかったのです。
何千年もの昔、プレインズウォーカー、ウルザはファイレクシアの侵略に対抗すべく様々な策を巡らせました。カーンはその一つとして創造されました。ですが彼の記憶や思考の中枢である心臓には、ファイレクシア人潜伏工作員ザンチャの心を成す装置「ハートストーン」が使用されていました。ザンチャは失敗作として処分されそうになっていた所をウルザに助けられ、ファイレクシアの情報を彼にもたらしたファイレクシア人女性です(だからといってカーンが女性というわけではありません、念の為)。つまりカーンの心臓は元々ファイレクシア製。これはメリーラでも浄化はできません。
メリーラ曰く、心臓が綺麗になればカーンのファイレクシア化は完全に癒されると。
そこでどうしたか。
友人であり、自分をプレインズウォーカーの道へと導いてくれた師匠でもあるカーンを救うべく、ヴェンセールはその瞬間移動能力を使用し、汚染されていない「綺麗な」自身の心臓をカーンへと差し出しました。
「ファイレクシア人はプレインズウォーカーの灯を持つことができない」という設定があります。これは公式記事「私の愛したカードたち」にて言及されていた事ですが、詳しいことはよくわかっていません。ですがそれは逆に考えれば「灯を持っていればファイレクシアの堕落に影響されない」ということなのかもしれません。
ヴェンセールがメリーラの言葉をそっくりそのまま真に受けて心臓を差し出したのか、自身の心臓に灯があることを知っていてそれを差し出したのか、それは小説からも読み取れません。ですがともかくヴェンセールの心臓を移植されたカーンは解放され、再びプレインズウォーカーとなりました。
そんな経緯を知った上で二人の能力を見てみましょう。
《滞留者ヴェンセール》[-8]:あなたは「あなたが呪文を1つ唱えるたび、パーマネント1つを対象とし、それを追放する。」を持つ紋章を得る。
《解放された者、カーン》[-3]:パーマネント1つを対象とし、それを追放する。
何と。しっかりカーンの中にヴェンセールの灯があるのがわかります。
そんな衝撃的な結末の小説「Scars of Mirrodin: The Quest for Karn」は、プレインズウォーカー達のファイレクシア奥深くへの潜入が描かれた物語です。ファイレクシアサイドでは仲良く喧嘩している《裏切り者グリッサ》と《大霊堂の王、ゲス》と《ボーラスの工作員、テゼレット》。ちなみに法務官は誰も出てきません!なんてこった!
4. 《滞留者ヴェンセール》の白マナ
《滞留者ヴェンセール》は《造物の学者、ヴェンセール》がプレインズウォーカーになった姿です。ストーリー上においては、彼こそが最初の「新世代プレインズウォーカー」(ローウィン以降の、カードとして登場する類のプレインズウォーカー)です。
クリーチャーの彼は青単色、ですがプレインズウォーカーの彼は白青。この白がどこから来たのかについては明かされていません。《求道者テゼレット》(青)→《ボーラスの工作員、テゼレット》(青黒)や《復讐のアジャニ》(白赤)→《黄金のたてがみのアジャニ》(白)のように、プレインズウォーカーの色の変化はストーリー上でそのキャラクターに大きな変化があったことを示しているのですが、ヴェンセールに関しては(明かされている範囲内では)特にそういった事はありません。
ですが、彼が白マナを得た理由も前述のエピソードから推測ができました。「自己犠牲」を一番強く体現している色は白です。青単色のキャラクターには、あの行動は相応しくないように感じられるかもしれません。あくまで私の解釈ではありますが。
5. おわりに
というように、背景ストーリーを把握した上でプレインズウォーカーの能力やコストを実際のゲームプレイ以外の視点で見てみますと、面白いことが色々とわかります。
そして、新世代プレインズウォーカー初の死者となってしまったヴェンセール。皆さん、どうか《解放された者、カーン》のイラストを見る時には、少しだけでいいので思い出して下さい。その逞しい胸の中にはヴェンセールの小さな心臓があることを。
次回は9月、イニストラードに登場するであろう彼女に会いに行きましょう。
(終)