はじめに
我らはかつて神であった。知っておるか?
俺は、……何だって?
知らぬであろう、おぬしの歳ではな。灯はその頃、華々しく輝いていた。我らは欲望を世界へと願い、世界は従った。そしてあの時、ドミナリアの大災害が、そして……。
我らは弱ってしまった、ベレレン。かつての我らから……そう、我らのあるべき姿よりも!
(小説「Agents of Artifice」ペーパーバック版192ページより抜粋・私訳)
毎度どうも、若月です。
突然ニコル・ボーラスの台詞(ええ、ボーラスです)で始めましたが、今回は少々昔の話です。リリアナ・ヴェスとソリン・マルコフとニコル・ボーラスの共通点をご存じでしょうか。
「黒い」というのもそうですが、彼らは「旧世代プレインズウォーカー」だったということ。彼らはどんな存在だったのか、それが何故「新世代プレインズウォーカー」になったのか。物語的、システム的にどのような変化があったのか。時のらせんブロックの事件「大修復」についての話も含めまして、前後編でお送り致します。
なお、「旧世代プレインズウォーカー/Oldwalker」「新世代プレインズウォーカー/Neowalker」という用語や区別の仕方は公式のものではありません。ですが多くの背景世界愛好系プレイヤーがそう呼んで区別していますので、ここでも使わせて頂きます。
1. 旧世代プレインズウォーカー
ウルザ。セラ。フレイアリーズ。ウィンドグレイス。
マジックを最近始めた人でも、その名前くらいは聞いた事があるのではないでしょうか。また昔一度マジックから離れ、M10以降に復帰した人にとっては懐かしい名前かと思います。かつてマジックに存在した「今とは違う」プレインズウォーカー、それが旧世代プレインズウォーカーです。彼らは人知を越えた強大な存在でした。
まず、尽きることのない無限の魔力と不老不死の肉体を持っていました。彼らはそれだけでも一般的なウィザードを遥かに凌駕する存在です。更に自分の意思でその姿を自由に変えることができました。
例として最愛の姉を失い、絶望に堕ちて怪物の姿をとることを選んだテヴェシュ・ザット、常に26歳当時のザルファーの宮廷魔術師姿を選ぶテフェリーなどがいます。とはいえ多相のそれとは違い、これは変身して何かをするというよりは主に自分の外見を好みの姿に保っておくという使われ方でした。
また旧世代プレインズウォーカーが持つ力の一つとして、彼らは望む姿の人工次元を創造し、クリーチャーを住まわせて一つの世界を作り上げることができました。セラが創造した《セラの聖域》(ウルザズ・サーガの舞台の一つです)、カーンが創造したアージェンタム(後のミラディン)等がわかりやすい例でしょう。
そのような様々な途方もない力を持つことから、多元宇宙で「神」として崇められている存在の多くの正体はプレインズウォーカーでした。旧世代プレインズウォーカーに関連するカードにおいて多かったのが、彼らの信奉者的な存在だという事がそれを物語っているでしょう。
プレインズウォーカーの素質である「灯」は、多くの場合巨大なストレスにさらされるか、死の瀬戸際に点火します(この点は旧世代も新世代も変わりません)。そしてそういった状況で神にも等しい強大な力と果てしない寿命を手に入れたことから、彼らは半ば狂気に陥り、そこまで行かなくとも精神的に非常に不安定であると言われています。
そして全知全能である彼らは悩むことや抑制することをあまり知らず、多くの場合その性格は本能的で狂信的、欲望に忠実なものでした。そのため一般的な人々とは色々な意味で相容れないものがあり、プレインズウォーカーと個人的に親しい者たち、例えば《練達の魔術師バリン》や《ギトゥのジョイラ》でさえ、プレインズウォーカーに人々や世界が振り回されることを決して快くは思っていませんでした。
2. 世紀末旧世代伝説
そう、プレインズウォーカーは世界を振り回すほどの存在でした。
まずウルザは、プレインズウォーカーとして覚醒する前の話ですが、古代のアーティファクトを弟ミシュラと奪い合ったことから不仲となり、二人は袂を分かちます。二人は別々の国、ヨーティア(《ヨーティアの兵》のそれです)とファラジへと流れつき、その中で地位を得ていった結果、二つの国(とファイレクシア)を巻き込んだ「兄弟戦争」が勃発します。
その戦争は豊穣の小大陸であったアルゴス(カードでは《アルゴスの女魔術師》が有名ですね)を荒廃させ、資源を枯渇させてしまいました。そして最終決戦においてウルザはファイレクシアの機械と化したミシュラを見て絶望し、全てを破壊するために《Golgothian Sylex》(ゴーゴスの酒杯)を起動しました。その衝撃波によってウルザはプレインズウォーカーとして覚醒し、更には気候をも変動させ、ドミナリアに長い氷河期をもたらしました。
プレインズウォーカー・ウルザは、ファイレクシアに墜ちた弟の運命、死の際の苦痛、突然手にした力から狂気へと駆り立てられ、ファイレクシアを滅ぼそうと決意するのでした。
そして彼は二千年以上の時間をかけてファイレクシアの侵略に備え、最終的にドミナリアを侵略してきたファイレクシアとその「荒廃の王」ヨーグモスを滅ぼしたのでした。考えうる限りのあらゆる手段をもって、あらゆる犠牲を払って。
その物語こそがウェザーライトからアポカリプスに至る長編、飛翔艦ウェザーライトとその乗組員たちが繰り広げた「ウェザーライト・サーガ」です。
一方、ウルザがもたらした氷河期は二千年以上続きましたが、プレインズウォーカー・フレイアリーズが「世界呪文」と呼ばれる魔法を使って無理矢理終わらせました。それ自体は良いことのようにも思えますが、あまりにも急に雪解けが進んだ結果、各地で海面上昇が起きて多くの都市が水没し、疫病や戦争をもたらしました。それはアライアンスのバックストーリーとなっています。
ちなみに(MtGWikiにも書いてありますが)「世界呪文」の仕組みは、コミック「Ice Age」によりますと、以下の図のようだったといいます。
《麻痺》によるアンタップ能力はアップキープにしか使用できないので、一度《Ice Cauldron》でマナを貯めておく、というのが、実際のゲームとの整合性を取っている部分でしょうか。ちなみに、《麻痺》のオラクルが変更されてしまっているため、現在では再現不可能なようです。
そしてもう一つ、プレインズウォーカー・テフェリーについて。インベイジョンにおいてファイレクシアがドミナリアを侵攻した際、彼は自身の故郷であるザルファーと、大切な友人ジョイラの故郷であるシヴをフェイズ・アウトさせ、ファイレクシアの侵略から守りました。ですがその行為は、世界の構造とプレインズウォーカーの灯の性質を変えてしまう原因である「裂け目」(後述)の一つを作り出すことになります。
3. カード化不可能
実は、公式記事にて「プレインズウォーカーは『クリーチャーとして』カード化することはできない」とはっきり書かれています。「Parlez Vous Vorthos?」(未訳)からその部分を抜粋して訳します。
(原文):Planeswalkers are all-powerful beings, too omnipotent to represented on cards as mere creatures. This is why we’ve never seen any Teferi, Freyalise, or Leshrac cards.
(訳):プレインズウォーカーたちは全能の存在であり、ただのクリーチャーとしてカードに表現するにはあまりにも絶大な力を有しすぎています。我々がテフェリー、フレイアリーズ、レシュラックといったカードを決して見ることがないのはそういうわけです。
マジックのプレイヤーはプレインズウォーカーという設定です。それはマジックの黎明期から今も変わりません。「プレインズウォーカーが様々な世界を冒険し、呪文を使用したりクリーチャーを召喚したりしながら相手プレインズウォーカーと戦う」、そんな物語があったならそれはまさにマジックそのもの。
ですが実際、マジックの物語内のプレインズウォーカーはどんな存在?旧世代同士が戦ったら次元一つ壊す程度では済みません。かつてのファイレクシアのように、「複数の次元に跨る規模の敵」を出す必要があります。大変です。
また、彼らは基本的に群れるのをあまり好みませんでした。中には社交的なプレインズウォーカーもいましたが(テフェリー等)、現在のプレインズウォーカー・カードのような「仲間として呼び出し、一緒に戦ってもらう」というコンセプトを作ろうにも「あいつが呼び出しに応じるとは思えない」というのが正直な所でした。
そんなわけで、旧世代プレインズウォーカーをカード化するために、かつてはあの手この手が用いられてきました。
ただのウィザードとして変装した姿や(ウルザさん何やってるんですか)、
プレインズウォーカーの灯を失ってからの姿や、
プレインズウォーカーとして覚醒する前の姿(が、タイムシフトで現れたもの)として。よく見るとヤヤ・バラードの三つの起動型能力はプレインズウォーカー・カードのそれを思わせますよね? そしてこの三つの能力は三つのカード(《紅蓮破》《火葬》《インフェルノ》)そのものですが、全てフレイバーテキストがヤヤの台詞なんです!
また、ヤヤとテフェリーは「プレインズウォーカーである」という事が物語上で明かされている中、共に時のらせんブロックでカード化されました(カードとして登場した後に、プレインズウォーカーであることが明かされたのはニコル・ボーラスです……あ、彼も一緒に時のらせんにいましたね、タイムシフトで)。
これが、時のらせんブロックがマジックの大きな転換期にあたることの一つの現れだと思っています。
4. 旧世代たちの大修復
ところで、そのテフェリー。ミラージュブロックからの古いキャラクターである彼は陽気で社交的な性格や、割と穏やかな気質から旧世代プレインズウォーカーの中では結構「理解できる」方でした。それが「プレインズウォーカーの灯を失った」と上で書きましたが、そうです。彼は時のらせんブロックでプレインズウォーカーの灯を失い、そのクリーチャー・タイプが示すようにただの人間・ウィザードとなりました。
このことは小説Time Spiral及び公式記事Ask Wizardsの2006年10月13日分(未訳、リンクは【こちら】)で語られています。何故そのような事になってしまったのか?その原因は時のらせんブロックのストーリー上で起こった、多元宇宙規模の大事件「大修復(Mending)」です。
では、その大修復とはどんな出来事だったのか。それは、何千年にも渡って世界規模の大破壊を行ってきたプレインズウォーカー達が、身をもって世界の傷を修復したというものです。それを償いであると受け止めながら。
ミラディン~神河~ラヴニカと初めて訪れる次元を経て、時のらせんブロックは現実時間で4年ぶり(オンスロートブロック以来)にドミナリアが舞台となりました。そこで繰り広げられた物語はある意味「過去のほとんどを清算する」というものでした。
プレインズウォーカーやその他強大な存在が何千年もの前から様々な無茶をしてきたために、ドミナリアはテフェリーが表現して曰く「ひびだらけのガラスの器に水が満杯に入っている」ような極めて危うい、崩壊寸前の状態になっていました。
その事に気付いたテフェリーはその世界のひび割れを「裂け目(Rift)」と命名し、それを調査するとともに「塞ぐ」手段を見つけるための旅を始めました。裂け目からはマナが流出しており、世界は渇き、痩せていました。そしてテフェリーは、裂け目を塞ぐにはプレインズウォーカーがその力の全てを、場合によっては命までをも捧げる必要があると知りました。
テフェリーは最初にその身を捧げて一つの裂け目を修復しました。彼は死を覚悟し、仲間たちに後を託して行ったのですが、結果として命までは落としませんでした。その代わりプレインズウォーカーの灯を失い、ただの人となりました。
残ったのは見習いの魔術師にも劣るごく僅かの魔力でしたが、それでも変わらぬ豊かな知識で旅の仲間たちへと多くの助言をもたらしました……そうです、見習いの魔術師にも劣る、です。灯を失ってからの彼についての描写を読みますと、バニラでもいいんじゃねってくらいに弱々です。全身全霊を込めて何とか自分を空中浮遊させたり、愛用の杖を一瞬だけフェイズ・アウトさせたりがやっとという有様で、カードでのあの強さは一体何なのでしょうと思わずにはいられません。
話がそれました。そしてテフェリーの献身と覚悟を目にしたフレイアリーズとウィンドグレイスは守るべき者達のために、そして裂け目を通って現れた並行世界からの敵を滅ぼすべくその身を捧げました。カーンは過去へと向かい、トレイリアの裂け目を塞ぐのですが、「灯」を捧げたことによって彼の内にあったファイレクシアの油が活性化するのを感じ、失踪してしまいました(その後彼は、ミラディンの核奥深くでファイレクシアの油に汚染されて発見されます。【第二回記事】参照)。
マダラではニコル・ボーラスと「夜歩みし者」レシュラックの決闘が行われ、敗れたレシュラックはボーラスによって裂け目に放り込まれ、その力を使われて消滅しました。最後にオタリアに残った最大規模の裂け目は、プレインズウォーカー・ジェスカが裂け目と同化することによって修復しました。
裂け目は元々、全てではありませんがプレインズウォーカー達が世界規模の大破壊を引き起こしたことによって形成されたものです。多くは、それを形成した本人がその身をもって塞ぎました(参考 公式記事「あなたはプレインズウォーカーだ」裂け目の修復に関する詳細な表あり)。
そして、そんなテフェリー達の旅の中で「新世代プレインズウォーカー」が誕生します。
(第6回に続く)