はじめに
「よろしければ、私と一緒に来ませんか?」
「俺が? なんで、どうやって?」
「君は他に類を見ない存在だからです。もしドミナリアが生き残ったなら、君や君のような者が、世界を未来へと導く先駆者になるでしょう」
(小説「Planar Chaos」279ページより抜粋・私訳)
若月です。今年もよろしくお願い致します。
今回も旧世代と新世代の会話から始めてみました。会話の主はカーンとヴェンセール。ですがこれから失われるであろう力を惜しむのではなく、自分よりもずっとずっと弱い存在ながらも最初の新世代プレインズウォーカーへと嬉しそうに希望を託すカーンの台詞が印象的です。
それでは、プレインズウォーカーの世代交代のお話・後編です。今やカードとしてもすっかり馴染み深くなった「新世代プレインズウォーカー」は、いかにして生まれたのか。彼らは旧世代とどう違うのか。本人達、開発側、それぞれが抱く想い。そういった事を主に小説と公式記事を参考に書かせて頂きます。
また、前回も書きましたが「旧世代プレインズウォーカー/Oldwalker」「新世代プレインズウォーカー/Neowalker」という用語や区別の仕方は公式のものではありません。ですが多くの背景世界愛好系プレイヤーがそう呼んで区別していますので、ここでも使わせて頂きます。
1. 大修復と新世代プレインズウォーカーの誕生
【前回記事】のラストから続きますが、テフェリーは「裂け目」を調査する旅の途中、痩せて枯れかけた世界で、未知の力を持つ二人を見いだしました。一人はファイレクシアの侵略と戦ったケルドの英雄、Astor/アスター(小説にのみ登場)の孫であるハーフエルフの戦士ラーダ、もう一人はファイレクシア・ドミナリア戦争の最終決戦の地アーボーグで生まれ育ち、ファイレクシア兵の残骸からアーティファクトを組み立てることを生業とする工匠ヴェンセール。
ラーダはテフェリーやフレイアリーズもその扱いに手を焼く、まさに炎のような激しい気性を持つ過激で好戦的な娘、一方ヴェンセールはアーティファクト製作に静かな情熱を燃やす、穏やかな気質と正直な心を持つ青年。生業も性格も、何もかもが対照的なこの二人が未来への希望でした。
テフェリーは「時のらせん」のストーリー序盤にてスカイシュラウドの森を訪れ、他のエルフ達とは明らかに違う存在であるラーダと出会います。彼女はマナが枯渇しかけた世界でただ一人、テフェリーが詩的に表現して曰く「枯れ野に咲く花のように、砂漠に湧き出す泉のように」鮮やかなマナをまとっていました。
ラーダが「裂け目」と繋がっていることを確信し、裂け目修復の鍵になるのではないかとテフェリーは彼女を旅の仲間に加えます。彼女はプレインズウォーカーとしては覚醒しなかったものの、ヤヴィマヤ(《ヤヴィマヤの火》や《ヤヴィマヤの古老》のそれです)にてその主である《マローの魔術師ムルタニ》から教えを受け、また裂け目の修復において重要な役割を果たしました。
そしてヴェンセール。テフェリーはスカイシュラウドでラーダを仲間に加え、その次に向かったアーボーグで、自作アーティファクトの起動実験を行っていたヴェンセールに遭遇します。彼が製作していたのは、瞬間移動を可能とする乗り物でした。テフェリー曰く、瞬間移動は魔法としても非常に難易度の高いものであり、それを魔法なしに実現するというのは想像以上の偉業なのだそうです。
ヴェンセールはそのまま巻き込まれる形でテフェリーの仲間に加わるのですが、強大な力を持つプレインズウォーカーたちが彼の持つ「未知の潜在能力」に注目しはじめます。テフェリーを始めとしてニコル・ボーラス、ウィンドグレイス、そしてカーン。どうもプレインズウォーカーはたとえ相手が覚醒前であっても、「灯持ち」同士だとわかるらしいのです。そしてヴェンセールは旅の中で何度か「生身で」瞬間移動を行い、また彼の能力に目をつけた敵との戦いの中、ついには自分の意思で自由自在に瞬間移動を行うことが可能となりました。
古からのプレインズウォーカー達との出会いと別れ、彼を狙う邪悪なシャドーとの戦い、旅の仲間の一人で数千歳年上(外見は年下)のジョイラへの恋、そういった様々な経験を通じてヴェンセールは大きく成長しました。
当初ヴェンセールは「瞬間移動ができる」だけで、他にはいかなる魔法も使えませんでした。肉体的にも以前と何ら変化はありません。クリーチャーとしての彼、《造物の学者、ヴェンセール》のP/Tは2/2と、人間のサイズとしてはありふれたものです。強大な力を持たず、そのため力を振るっても多元宇宙へと深刻な影響を与えることはない、それでも「プレインズウォーカー/次元を渡る者」です。
そしてこれこそが「新世代プレインズウォーカー」の特徴でもあります。当初、自分には魔法は全く使えない、プレインズウォーカーなんかじゃない、と頑なに否定していたヴェンセール自身も、ついにプレインズウォーカーになったのだと実感します。そんな彼を見て納得したウィンドグレイス卿との、短いですが象徴的な会話があります。
「お前は、プレインズウォーカーなのだな」
「そう思います」
(小説Planar Chaos」257ページより抜粋・私訳)
2. 新世代プレインズウォーカーとは
このように、昔のプレインズウォーカーと今のプレインズウォーカーはかなり違う存在です。「昔」と「今」の境界は、時のらせんブロックとローウィンブロックの間になります。大修復が完了した結果、世界とプレインズウォーカーを繋ぐ法則が大きく変化しました。
カードとしてのプレインズウォーカーが登場したのもその結果の一つだと思われます。「弱体化」という表現はあまり印象がいいものではありませんが、これによってプレインズウォーカー達はある意味地に足をつけた、プレイヤーにずっと近い存在となりました。
トリビアを一つ。本当は未来予知でカード化される予定だったのが、新しいカードタイプゆえ調整が間に合わず、ローウィンでの登場になったのだそうです。(ソース:公式記事「Planeswalkers Unmasked」(公式には未訳))
では新世代プレインズウォーカーとは何か。
その定義は「次元を渡り歩く能力を持つ者」、ただそれだけです。彼らも普通に歳をとり、傷を負い、食料や睡眠といった生命維持手段を必要とする、自然の法則に従う存在です。これが旧世代プレインズウォーカーと最も違なる点でしょう。中には様々な(主に魔法的な)手段によってそれらの制限を無視している者もいますが、違いは明らかです。
ですが次元を渡り、無数の世界を飛び回ることができる能力は、とても大きな可能性を彼らに与えます。多元宇宙の大多数の人々は、自分達の生きる世界の外に別の世界がある事さえ知りません。そんな中プレインズウォーカーは自由自在にありとあらゆる世界を訪れることができます。そして多くの世界を飛び回り、知識を深め、技術を磨くことができるという環境から、彼らはとても強大な存在になれるのです。新世代プレインズウォーカー達の生業は魔術師や戦士、工匠、ドルイド、シャーマンなど多様ですが、彼ら個人個人の能力が一般的なクリーチャーよりとても高いのはそのためでしょう。クリーチャー化すれば人間・兵士、ですが6/6という破格のサイズと能力を持つギデオンがいい例ではないでしょうか。
新世代プレインズウォーカーの力(の一端)は本人のカードや、本人の使用する呪文のカードにはっきりと表されています。
前述の通り、ヴェンセールの特殊能力は瞬間移動です。自身や他者を別の場所へと瞬時に移動させる、時には何処とも知れぬいわゆる「農場」へ。《滞留者ヴェンセール》の3つの能力は全て「対象をどこかへ飛ばす」ものです(小マイナスの「クリーチャーはブロックされない」も、「立ち塞がるブロッカーを無視して対戦相手の目の前へと攻撃クリーチャーを送り込む」というフレイバーと解釈できます)。
本人のカードは勿論のこと、《急送》という呪文もあります。これは効果もさることながら、イラストとフレイバーテキストはヴェンセールがこの呪文を使用していることを示しています。
また《瞬間移動》という、まさにそのままのカードがあります。(青)(青)(青)のインスタントで対象のクリーチャー一体はターン終了までブロックされないという、かなり昔のカードということもあり重いコストの割に大した効果ではありませんが、これはPWヴェンセールの小マイナス能力にほぼ同じですね。驚きです。
彼のコストに白が含まれているのは性格的な面もあるでしょうが、瞬間移動の一つ、いわゆる「ブリンク」の色は白です。新世代プレインズウォーカー達はカード化されており、つまりそれは彼らが性格的にも能力的にも、目に見える形で特定の色マナと繋がっていることを示しています。
また、新世代プレインズウォーカーも旧世代と同じように、実在のカードとして表現される呪文を使います。例を挙げますとジェイスは《雲のスプライト》がお気に入りで、小説ではしばしば偵察任務などのために召喚していました。そして本人たちのカード化もそうですが、旧世代プレインズウォーカーよりもゲーム内での存在感を増し、「彼らが使用する呪文」もカード化されやすくなったように思えます。
とはいえプレインズウォーカー・カード一枚にその個性や能力が押し込められているわけではなく、カードはあくまで一面です。同じ人物のプレインズウォーカー・カードが複数存在するのも同様の理由であり、それは同じ人物の異なる時間軸での姿か、同じ時間軸であっても違う呪文を準備した姿です。このことは公式記事「石の賢者、ダミーア」の「今週のお便り」コーナーにて説明されています。
ええ、ニッサだってカードの姿が彼女の全てじゃないんですよ、きっと。
3. 変化への反応
前回記事冒頭で紹介したように、「我らはかつて神だった」とボーラスはジェイスに言いました。その言葉が、旧世代と新世代がいかに異なるか、新世代がいかに「弱体化したのか」という無念を語っています。
「灯の変質」を知るプレインズウォーカーには、それぞれの想いが存在します。まずは「元・旧世代」の三人。
ニコル・ボーラス
灯の変質による弱体化を最も苦々しく思っているのが彼でしょう。時のらせんブロックでは大修復によって全てが変わるであろうことを予想しながら、大修復が成功して世界が新たなものとなるのか、それとも失敗して多元宇宙規模の大破壊となるのか、彼はその行方を静かに見守りました。
そして自分の身に降りかかったもの、灯の変質による弱体化や老いを実感した彼は、かつての力を取り戻すためにアラーラの各断片が衝合する際の「マナの大渦」を食らおうと画策し、また様々な陰謀や情報収集を今も企てています。その一つとして、ジェイスに敗れたテゼレットを《ボーラスの工作員、テゼレット》として再生し、ファイレクシアの脅威が広がり始めていたミラディン次元へと送り込みました。
リリアナ・ヴェス
彼女もまた灯の弱体化を受け入れられなかった一人です。あまり多くは語られていませんが、力と永遠の若さを失い、彼女は再びそれらを手に入れるべくデーモンの誘いに同意しました。今やその契約を後悔し、逃れる方法を探しているのですが、それでも力への欲望は強く、「呪いのヴェール」の力に恍惚となったり、愛するジェイスと共に無限連合を統べることを夢見たりもしていました。今、彼女がイニストラードにやって来ているのも、契約者であるデーモンの一体を倒すという目的のためです。
なお、彼女が旧世代プレインズウォーカーであったという情報は物語上で言及されているわけではなく、公式の掲示板におけるクリエイティブ・チームのBrady Dommermuth氏の発言によるものです。
ソリン・マルコフ
実のところ、ソリンが灯の変質をどう思っているのかはよくわかっていません。彼が登場している小説「Zendikar: In the Teeth of Akoum」(ちなみに主人公はニッサ)には灯の変質やプレインズウォーカーの能力については何の言及もなく、それどころか最後の最後までプレインズウォーカーであることを周りに隠していました。
彼はその昔、祖父エドガー・マルコフの実験によって吸血鬼化した際、変質のトラウマからプレインズウォーカーとして覚醒しました。そして自身も吸血鬼でありながら、同胞が人間へと危害をもたらすのを憂い、イニストラード次元の守護天使アヴァシンを創造すると自身は放浪の旅に出ました。その頃の彼はまだ旧世代プレインズウォーカーだったと思われます。そして今アヴァシンが失踪し、実家のあるイニストラードに帰ってきたソリンはどんな活躍をするのでしょうか。
そして旧世代プレインズウォーカーと単に面識があるだけでなく、旧世代の力を知る三人。
ヴェンセール
時のらせんブロックで多くの旧世代プレインズウォーカー達に出会い、並々ならぬ興味を持たれながら最初の新世代プレインズウォーカーとして覚醒した彼は、新たな時代の担い手として世界へと送り出されました。
恐らくは語られることのない多くの物語を経て、新ファイレクシアの奥深くで命尽きる寸前、自分を導いてくれた師であるカーンへと灯を渡しました(【第二回記事】参照)。時のらせんブロックで何人ものプレインズウォーカー達がその身を捧げてきた、その潔い姿がだぶって見えました。
カーン
彼はとても特殊です。まずインベイジョンブロック、旧ファイレクシアのドミナリア侵攻のクライマックスでウルザの灯を受け継いで旧世代プレインズウォーカーとなり、時のらせんブロックで「裂け目」を修復するためにそれを失い、更にミラディンの傷跡ブロックでヴェンセールの灯を貰って新世代プレインズウォーカーになりました。
時のらせんブロックでヴェンセールに出会った時、カーンは彼を「未来への先駆者」と表現しました。そのヴェンセールの灯を受け継ぎ、そしてコス、エルズペスとともにファイレクシアに立ち向かう彼は新世代プレインズウォーカーについて何を思うのでしょうか。
ジェイス・ベレレン
かつてプレインズウォーカーは今よりも遥かに強大な力を誇っていた。そうボーラスから聞かされ、またリリアナから力への誘惑を受けながらも、ジェイスにとってそれは自身にあまり関係のない昔話のようです。小説での描写からは、むしろ旧世代のようなあり方を拒否しているようにも思えます(そんな彼のカードが現実に「神」と呼ばれているというのも実に皮肉な話ですが)。
闇の隆盛現在、カード化されているプレインズウォーカーは全部で15人います。彼らの個性は多種多様で、「キャラかぶり」が全くないことに驚きです。設定上は最も近いかもしれない「青で工匠」というキャラクターであるテゼレットとヴェンセールを比べても、能力的にも性格的にも全く異なります。様々な個性と能力、彼らが織りなす物語と彼らのカードがもたらしてくれるゲームの面白さを否定する人はいないでしょう(えーと、神ジェイスは……)。
旧世代から新世代への移行についてクリエイティブ・チームがどう考えていたのかについては、公式記事「The Last Quack」(公式には未訳)から読みとることができます。あらゆるプレイヤーからの賛否両論、そして昔からのストーリー愛好家達の激しい反発を十分に受け止めながら、それでもクリエイティブ・チームは「プレインズウォーカーを弱体化させる」ことを選びました。
そして新世代プレインズウォーカー達が「その英雄的行為、不実、力、策略、信義、愛、復讐、そして甘い甘い魔法」、あらゆる手段をもって私達を口説き落とすだろうと確信し、彼らを送り出しました。
更に、プレイヤーと同等の存在であるプレインズウォーカーを主役として持ってくることによって、彼らを「マジックを象徴する魅力の持ち主」とし、プレインズウォーカーを一部のディープな背景世界ファンだけでなく全てのプレイヤーのものにする、異なった分野のマジックファン達の間にあった隔たりを近づける、そんな狙いがあったようです。
その思惑通り、口説き落とされましたよね。私も、彼らが繰り広げる物語にまんまと口説き落とされました。
4. おわりに
すみませんが、ここからは少々個人的な意見になります。
大修復の際、ボーラスは来たる変化を前に「変わらぬものは何もない」と言いました。物語的な意味だけでなく、その通りにマジックは常に変化し続けるものです。それはプレインズウォーカーという存在とて例外ではありません。彼らは今や、私達の隣で一緒に戦ってくれる存在です。そして私達と全く同じように悩んだり喜んだり、恋愛や人間関係に振り回されたりもしますし、美味しいものだって大好きです。
ローウィンでプレインズウォーカー・カードが登場した時は(未来予知でその存在だけはほのめかされていましたが)、それこそ賛否両論の嵐でした。今でもプレインズウォーカー・カードについて否定的な考えを持つ人もいるかと思います。少なくとも私は、新世代プレインズウォーカー達が大好きです。記事や小説を読むのも、この連載の執筆も面白くてたまりません。
今、プレインズウォーカー達はすぐそばにいます。プレインズウォーカー・カードは「一緒に戦ってくれる仲間」。普段あまり意識はしませんし忘れがちですが、我々だってプレインズウォーカーです。彼らに対して昔よりもずっと親近感が沸くようになったのは、ストーリー的にもシステム的にもいい事だと私は思っています。
締めに、小説Future Sightのエピローグを紹介させて下さい。最初の新世代プレインズウォーカーであるヴェンセールがまだ見ぬ広大な多元宇宙へと旅立つ、未来と希望を感じさせるエンディングです。そこにはまた、クリエイティブ・チームが新世代プレインズウォーカーを世界に送り出した時の願いが込められている気がします。
これは危険なことだと彼は判っていた。何が待ち受けているかも、どこで命を落とすとも知れない。だが彼は心を固めていた。ドミナリアの歴史が始まったこの地で旅を始める、それが相応しいと思っていた。
目を大きく見開いたまま、ヴェンセールは集中した。黄金の魔力が彼を取り囲み、彼はドミナリアと他の世界を隔てているその虚空へと滑り込むのを感じた。
彼はそれまでの人生を、旅の準備に費やしてきた。そして今、手段と機会を手に入れた。目の前には無限に広がる多元宇宙があり、彼が教え、学ぶであろう多くの人々がいる。不死身でもなく、全知全能でない。だが彼は、プレインズウォーカー。
きっと、素晴らしい人生になるだろう。
(小説Future Sight P.307-308より抜粋・私訳)
(終)