あなたの隣のプレインズウォーカー ~第10回 イニストラード・ファイナルアンサー~

若月 繭子

若月 繭子

グリセルブランド

「あ……ありのまま今起こったことを話すぜ!
『オレはアヴァシンの帰還で満を持してカード化されたと思ったらそのプレビュー記事内で死んでいた』
な、何を言っているのかわからねーと思うが……」

そんなイニストラードブロックのラスボス、グリセルブランドさんに合掌。
こんにちは若月です。アヴァシンの帰還の発売とともに、イニストラードブロックが無事完結しました。そこで今回は過去の記事で言及した謎や疑問点を振り返り、判明したものや未だ明かされていないものについて、エキスパンション時系列順に「答え合わせ」をしてみようと思います。



1. イニストラード

アンデッドが徘徊し、肌寒い霧が立ち込める暗く怪しい次元イニストラード。まさにその世界にぴったりのプレインズウォーカー、リリアナ・ヴェスと、彼女を追うハンターのガラク。ウェブコミックから続くこの二人の物語とともに、人類の守護天使アヴァシンが姿を消して怪物達が台頭し始め、不安に覆われる世界の様子が描かれました。

ヴェールのリリアナ情け知らずのガラク



・ガラクとリリアナ、2人のプレインズウォーカーがイニストラードへ何しに来たの? ガラクとリリアナの因縁は?
これらは過去記事(【第4回】【第8回】)で説明しました。リリアナは契約主であるデーモンの一体、グリセルブランドを倒すために。ガラクはかつてリリアナと不幸な偶然の出会いをした際の戦いで呪いを受け、それを解かせるべく彼女を追ってイニストラードへとやって来ました。
リリアナがガラクへと呪いを与えたいわくつきのアーティファクト「鎖のヴェール」は、《ヴェールのリリアナ》が身に着けています(カードイラストでは左手に持っています)。それはリリアナの契約主の一体であるデーモンのコソフェッドが、彼女へと手に入れてくるように要求したものでした。持ち主に強大な力を与えますが、その力を繰り返し使用するうちに次第に虜としていくという、まだまだ未知の要素が多い危険なアイテムです。
なおリリアナが「鎖のヴェール」を手に入れたまさにその場所は、プレインチェイス2012にて次元カードの《オナッケの地下墓地》として登場しました。同時にヴェールの在処であるオナッケ(ウェブコミックでは「オナケ」と訳されていましたが、カードの訳に準じます)は次元名ではなく、シャンダラーという次元の一地域名であることも明らかになりました。シャンダラーは1997年に発売されたPCゲーム版マジックに収録されていたRPG風ゲームモードの舞台となった次元です。プレインチェイス2009にも登場しており、純粋で豊富なマナで名高くまた魔法が身近な次元として知られています。


全てのクリーチャーが黒くなるというこの次元の効果は
ガラクが受けた呪いを思い起こさせます。



・ガラクはなぜ両面カードなのか?
公式記事「恐るべき物語 その2」には、(記事より抜粋)「両面カードを使って、ガラクが根本的に変身してしまっているということを示しているのだ」とあります。両面カードは「変身」を表現するために作られました。「変身」はイニストラードにて追求されたテーマ「ホラー」を象徴するものです。物語の看板を担うプレインズウォーカーも変身から逃れられないというのは実にこのブロックを象徴しているようです。


イニストラードを象徴する両面カードの話が出たところで、ちょっとプレインズウォーカー達以外のお話も。


・トラフトって何者? ミケウスって何者?

聖トラフトの霊月皇ミケウス

様々なフォーマットの多くのデッキで活躍する《聖トラフトの霊》。彼については公式記事「聖者、幽霊、そして天使」で語られています。アヴァシン教会の偉大な聖者であり、悪魔の罠に嵌められて殺されてしまいましたが、死後も天使とともに戦い続けています。そしてその悪魔、ウィゼンガーは両面カード《束縛の刃、エルブラス》《解き放たれたウィゼンガー》としてカード化されています。刃が血を吸うと悪魔が解放される、記事でも描かれたそんなフレイバーが表現されています。
《月皇ミケウス》もまたスタンダード、白絡みの多くのデッキに採用されていますね。彼はアヴァシン教会の最高権力者であり、大天使アヴァシン失踪の真相を知る数少ない存在です。


・イニストラードの怪物たち

系統の王安らかに旅立つ者高原の荒廃者墓所這い

吸血鬼、スピリット(幽霊)、狼男、ゾンビ。イニストラードで人間に敵対する存在はどれも「古典的ホラー」の怪物が採用されています。このうち吸血鬼・スピリット・ゾンビは過去のマジックでも馴染み深いクリーチャータイプです。ただ今回のゾンビは少々特殊で、黒のそれはいつも通りのゾンビなのですが、青特有のゾンビが存在します。これは死体を継ぎ合せて錬金術的に製造されたいわゆる「フランケンシュタインの怪物」的なもので、「スカーブ」という独自の名が付けられています(色こそ違えどレジェンドにまさしく《Frankenstein's Monster》というカードがありました。能力を見ますと「死体を継ぎ合せて作る」というのがよくわかります)。また今回のスピリットは死者の霊であり、【前回記事】にも書きました通りその性質や悪意の有無は千差万別です。
マジック的に珍しいのは狼男でしょう。彼らは「イニストラード次元に存在する超自然的な呪い」に侵された存在で、人間から変身して破壊と殺戮の限りを尽す怪物です。そのほとんどは狼男の衝動と人間性との間で悩み苦しんでいますが、喜んで野生に身を任せる者もまた存在します。そしてイニストラードブロックの狼男は全て両面カードです。両面カードは「二面性」を最もわかりやすく表現する手段として採用されました。変身、変貌する呪われた存在が両面カードだというのはいかにもイニストラードを象徴していて面白いですね。
またプレインチェイス2012では、イニストラードの主要4地方が次元カードとして登場しています。中でも狼男の本拠地ケッシグと吸血鬼の本拠地ステンシアは、それらの種族に絡むわかりやすい能力を持っています。



ケッシグはまさに狼男専用。ステンシアは吸血鬼クリーチャーがしばしば持っている「ダメージを与えたら+1/+1カウンターを置く」系の能力ですが、これはアルファ版の《センギアの吸血鬼》から続く由緒正しいものです。



・狼を操るガラクと狼男たちの関係は?
今回のガラクは(表でも裏でも)狼トークンを出すので、狼男と何か関係があるのでは? とも思いますが、「狼」と「狼男」は別物です。クリーチャータイプもそのことを示していますし、狼男はただの狼よりも人間に近い姿をしています。特に肩から腕にかけての骨格が人間っぽさを残しているように見えます。

ケッシグの狼猛り狂う狼男

左:狼 右:狼男 並べて見るとその違いは明らかです。

イニストラードでガラクが狼を召喚するのは、ガラクが従える獣の種類の中でもこの地に多くの狼が生息しているということと、ルール的に考えて「ブロック内の同サイズ・同色・同能力のトークンのクリーチャータイプは統一される」という事情があるのではないでしょうか。

ところでイニストラード発売よりも前の2011年7月下旬、第二エキスパンションである闇の隆盛のアナウンスがありました。そこには古城をバックに剣の血を拭う《ソリン・マルコフ》の凛々しい姿が、そして発売されたイニストラードには《マルコフの上流階級》なるカードが。このように少しずつ、ソリンとイニストラードの関係がほのめかされていました。



2. 闇の隆盛

闇の隆盛プレビューではまず公式記事「ソリンの帰郷」にてソリンの生い立ちやイニストラードとの関係が明かされ、その格好良さと強さに多くの注目が集まりました。ですがフレイバー的に「ソリンは本当に悪なのか?」という疑問もまた持ち上がりました。

イニストラードの君主、ソリン



・ソリンと、マルコフ家・イニストラードとの関係は? ソリンがプレインズウォーカーになったきっかけは?
この二つは【第7回】で述べました。マルコフ家はイニストラードで最も由緒正しい吸血鬼一族であり、マルコフ家当主のエドガー・マルコフ(ソリンの祖父)はイニストラードの全吸血鬼の祖でもあります。エドガーは自身と孫へと施した儀式によって吸血鬼へと変質したのですが、ソリンはその際の精神的外傷からプレインズウォーカーとして覚醒しました。

異常な俊敏性

フレイバーテキストにソリンの祖父、エドガー・マルコフの名があります。もしかしてこの「異常な俊敏性」を発揮しているのがエドガーさん御本人でしょうか?



・ソリンとアヴァシンの関係は?
【第7回】で述べましたように、ソリンがアヴァシンを創造しました。そして最近ちょっと面白いことが明らかになりました。その記事で「アヴァシンのモデルがいるかどうかは不明」と書きましたが、アヴァシンのモデルはなんとソリン自身だったとのことです。公式動画「Inside R&D: The Story of Avacyn Restored Part 3,Creative」、そしてマローのTumblrで述べられています。開発側の意図としては「(プレイヤーが)アヴァシンを見た時に、その主が誰なのかを思い出してくれるように」との事だそうですが、ソリン自身はどう考えて自分に似せた天使を作り出したのか、それとも無意識に自分に似てしまったのか……

希望の天使アヴァシン

白い髪に黒い衣装。髪型もソリンと同じです。あえて思いっきり曲解すれば「女体化ソリン=アヴァシン」という事に? もしくは自分似の女性がソリンの好みとか?

ソリンはアヴァシンと、彼女への信仰体系を創造することによってイニストラード次元のパワーバランスを保とうとしました。吸血鬼はその数を増やし、食糧となる人間を狩り尽くそうとしていました。人間が滅びれば、食糧を失って吸血鬼も滅びます。それを防ぐためには人間達に、吸血鬼に対抗する手段が必要とソリンは考えたのでした。ですがその行動によりソリンは同胞達から裏切り者とみなされるようになります。
そうして創造された大天使アヴァシン。彼女は天使の軍勢を率いて、人間に対する脅威と戦い続けました。完全に滅ぼすことのできないデーモンは銀の牢獄、《獄庫》へと閉じ込めました。ですがある時、デーモンの中でも特に強大な力を持つ《グリセルブランド》が、満月の夜に大胆不敵にも獄庫の上に立ち、アヴァシンへと決闘を挑んだのでした。二体の戦いは数日間続き、その果てにアヴァシンがグリセルブランドを獄庫へと封じようとするも、グリセルブランドの槍が彼女の心臓を貫き、二体は共に獄庫へと吸い込まれてしまったのでした。

獄庫

イニストラードの人間達にとって、アヴァシンが姿を消したことは、この世界の怪物達に対抗する手段を失うことに等しい大事件でした。アヴァシンとグリセルブランドの戦いを見守っていたのは教会の最高幹部数人とアヴァシンに近しい天使のみであり、教会は悩んだ末、アヴァシンの行方について固い緘口令を布きました。そしてそれはグリセルブランドを追ってこの次元へとやって来たリリアナにとっても、標的である悪魔の捜索が困難となることを意味していました。


・では、リリアナはどうやってグリセルブランドの居場所を知ったのか?
これは【第8回】でも述べました。リリアナはイニストラード中を駆けずり回り、様々な情報の断片を繋ぎ合せた末に、アヴァシン教会の総本山がある高都市スレイベンに潜む悪魔崇拝カルト、スカースダグ教団へと辿り着きました。そしてグリセルブランドの行方を知るのは月皇ミケウス、しかし彼はグールの軍勢によるスレイベン包囲戦の際に命を落としていたと知ります。そのことはある意味リリアナにとって好都合でした。彼女はミケウスの霊廟へと忍び込むと彼をゾンビとして蘇らせ、グリセルブランドの居場所を吐かせました。その悪魔は銀の牢獄の中にいる。

不浄なる者、ミケウス

となるとリリアナの次なる目的は獄庫を壊すこと、とはいえ彼女の色は黒。アーティファクトを破壊することは非常に困難な色です(まあ、古くは《Gate to Phyrexia》なんてありましたが)。ですが彼女には策がありました。自分で壊せないならば、誰かにさせればいい。


・ギサとゲラルフって何者?
様々なフレイバーテキストや公式記事に登場する双子。姉ギサはグール呼び、弟ゲラルフはスカーブ師です。二人はスレイベンの高貴な家柄の出身だったのですが、「悪戯」から一族伝統の屋敷を燃やしてしまい、追放されました。互いに激しいライバル意識を燃やしており、グールやスカーブの軍勢で地域一体を荒廃させるほどの激しい戦争を繰り広げつつ、また時折、直接対峙すると子供じみた喧嘩をしていました。

墓所粛正ゲラルフの伝書使死体生まれのグリムグリン

一般的に「ゲラルフ」と言うと伝書使のことを指しますね。
グリムグリンはゲラルフ製のスカーブの将軍格です。

ある時ゲラルフはスレイベンを滅ぼし支配するという計画を立て、そこに姉を誘います。珍しく利害の一致した二人はグールとスカーブの軍勢を率いて、アヴァシン教会の総本山であるスレイベンを攻撃しました。ですが軍勢の主戦力であるスカーブは錬金術的に製造されたゾンビであり、体液に灯油が使用されているため非常に燃えやすいものでした。彼らはスレイベンの城門を突破するものの、《スレイベンの守護者、サリア》によってまとめて燃やされ、敗北しました。ですがその隙にゲラルフはアヴァシン教会大聖堂へと忍び込み、最高指導者であるミケウスを殺害したのです。


・そのサリアって何者?
彼女については公式記事「守護者、魔女、そして天使」で詳しく語られています。若くしてスレイベンの守護者という重責につく程の実力を持つ高潔な聖戦士。またサリアは前任者の命を受け、アヴァシン教会の聖なる秘宝とされる《獄庫》をその身に代えても守るという誓いを立てていました。

スレイベンの守護者、サリア

彼女もまた様々なフォーマットで活躍していますね。

そして獄庫を破壊するために、リリアナが目をつけたのがこのサリアでした。


・ところでソリンは本当に旧世代のプレインズウォーカーだったの?
過去記事(【第6回】【第7回】)に「ソリンは元・旧世代プレインズウォーカーと思われる」と書きましたが、公式から明確な言及がなされたわけではありません。ですがイニストラード発売直前から一ヶ月間程、公式ウェブサイトの各所に散りばめられていた書簡形式の物語「The Cursed Blade」(まとめページは【こちら】、長いです)から推測することができました。
その記事には「11th of Hunter’s Moon, Ava. 719」のような数字を含む文が頻繁に出て来ています。「Hunter’s Moon(狩人月)」はイニストラードの三つの季節(収穫月、狩人月、新月)を表しています。つまりこれは日付。では「Ava.」とは? 普通に考えれば年号、暦でしょう。 AVA……アヴァシンから取ったものであろうことは明らかです。つまりアヴァシンがイニストラード世界に姿を表すようになってから、少なくとも719年(なおこの書簡シリーズがイニストラードの現在のものであることは、ギサとゲラルフが登場していることから明らかです)。一年の長さはその次元によってまちまちなのですが(例としてドミナリアは420日、ラヴニカは不明ですが地球の365日よりも短いのではと言われています)、上記の記事から各月の最大日数を調べますと収穫月は118日、狩人月は121日、新月は116日がそれぞれ確認できます。つまりイニストラードの一年は最低でも三つを足して355日、地球に結構近いですね。イニストラードの一年が(我々の感覚で)極端に長いもしくは短いという事はなさそうです。
719年前、ソリンは既にプレインズウォーカーでした。リリアナが「ジェイスより100歳は年上」で元・旧世代プレインズウォーカーと明言されていますので、現在は恐らく大修復(詳しくは【第6回】記事に)から数十年、長くても百年強と推測されます。
そのことから、やはりソリンは旧世代プレインズウォーカーだったのではないでしょうか。



3. アヴァシンの帰還

イニストラードブロック第三エキスパンションは「アヴァシンの帰還」。このタイトルが示すものはつまり守護天使アヴァシンの帰還と、悪の勝利で終わった傷跡ブロックとは対照的なハッピーエンド、だったのでしょうか。それを追ってみましょう。


・獄庫はどうやって壊されたの?
過去記事【ソリン編】【リリアナ編】でも書きましたが、黒であるリリアナが、もしくはソリンがいかにして獄庫を破壊するのかが謎でした。その結末はアヴァシンの帰還プレビューのトップバッターを飾った公式記事「天使は蘇り、悪魔は解き放たれる」、そして「アヴァシンの帰還 プロモーションムービー」にて明かされました。

アヴァシンの帰還 プロモーションムービー

リリアナは獄庫が鎮座するアヴァシン教会大聖堂へと攻め入り、獄庫を守るサリア相手に奥義(-6)を放ったのでした。選択肢は「サリア配下の聖戦士達全員」か「獄庫」か。命に代えても獄庫を守るという誓いを立てていたサリアは悩みますが、部下の者達の命を選択します(「サリアがどうやって獄庫を破壊したのか」は明確にされていませんが、ほらまあ彼女は白ですから)。獄庫は砕け散り、中に封じられていたグリセルブランドを筆頭とする多くのデーモンと、人類の守護天使が解放されました。獄庫に封じ込められる寸前、グリセルブランドに心臓を貫かれていたアヴァシンですが、光り輝くその姿には何の傷も翳りもありませんでした。
悪魔と天使、それぞれのフレイバーテキストには彼らが解放された時の様子が記されています。

《希望の天使アヴァシン》フレイバーテキスト
黄金の光が獄庫から天空へとらせん状に伸びていった。 巨石のごとき銀塊が轟音とともに砕け散り、囚われのアヴァシンはついに解放された。


《グリセルブランド》フレイバーテキスト
「アヴァシンは破壊された獄庫から現れたが、彼女の自由には代償があった――奴だ。」
――聖戦騎士サリア



・解放されたグリセルブランドはどうなったの?
このように満を持して登場したグリセルブランドでしたが、上記の公式記事で語られていますように彼はリリアナに殺されてしまいました。-2能力を使われたんでしょうかね。
一方実際のゲームにおいてはレガシーやモダンでカードをガリガリ引いているグリセルブランド。初期ライフの多い統率者戦では強すぎるということで禁止になってしまいました。物語の主要キャラクターがトーナメントでも活躍するというのは個人的に嬉しいものです。


・アヴァシンが戻ってきて世界はどうなったの?
アヴァシンの加護が復活し、聖なる力が再び世界へと広がりました。アヴァシン不在の間に身を隠していた天使達も姿を現し、アヴァシン教会の聖職者達の祝福も力を取り戻しました。人類は速やかに、吸血鬼やゾンビの軍勢を押し戻す態勢を整え始めました。

聖戦士の進軍順風

またアヴァシンは狼男達へと一つの提案をしました。狼男の呪いは人間の魂が野生の魂と混じり合うもので、それらを破壊しない限り解くことはできない。だが呪いを変化させ、二つの相争う側面を融合させて一つの高貴なるクリーチャーとし、彼女の祝福の光の中に住まうことを許すと。呪いに苦しむ狼男達は喜んでその申し出を受け入れ、彼らはアヴァシンの祝福を受けてウルフィーとなりました。

ウルフィーの報復者ウルフィーの銀心

ウルフィーは狼男よりも更に人間に近い姿形をしていますね。

ところでウルフィーは両面カードではありません。つまり多分、人間には戻れないと……まあ、狼男の呪いに苦しみ続けるよりはと彼らが選んだのであれば、いいのかな。



・ガラクとリリアナの因縁の結末は? 結局ガラクの呪いは解けたのか?
この二つについては、イニストラードにおけるリリアナとガラクの物語、その結末について書かれた公式記事「プレインズウォーカーのためのアヴァシンの帰還案内 その2」で明かされました。ガラクは粘り強い追跡の末にリリアナを捕えたものの、呪いを受けて弱っていたため彼女に負かされてしまいます。

獰猛さの勝利残虐の勝利

最近では珍しい、ストーリーの明確な一場面を切り取ったこの2枚はビフォー・アフター。
勝ったのはリリアナの方です。

リリアナはグールを召喚して去りました。ガラクはどうにかそれらを始末しますが、呪いにより彼の命は尽きようとしていました。ですがそこに偶然の奇跡が起こります。アヴァシンが狼男の呪いを変化させるべく世界へと放った魔法、それがガラクの呪いをも一時的に中和し、彼の命を救ったのでした。この世界には呪いを解くことのできる力が存在する、もしかしたらリリアナに関わらずとも。そう感じたガラクはしばしこの次元に留まり、呪いを解く方法を探ることにしたようです。
更に公式記事「熟練の戦術家、オドリック」によれば、その後ガラクは《熟練の戦術家、オドリック》と配下の聖戦士達に保護? 捕獲? されてアヴァシン教会の総本山であるスレイベンへと搬送されることになったようです。まあ多分、彼はこれで一安心ということで。


・リリアナは何故天使が嫌いなの?

殺戮の波

「悪魔を探しにきたのに、この次元は天使だらけ。天使なんて大嫌い」

《殺戮の波》は、ある意味可愛らしいリリアナの台詞のフレイバーテキストが印象的です。公式記事「リリアナの任務」にも「あの忌々しい翼の者達はリリアナに無駄足を踏ませるので大嫌いだった」とあります。黒のマナを体現し、死の力を操るリリアナは単純にその対極となる存在、白マナの具現である天使が嫌いなのでしょう。
リリアナと天使のエピソードとして思い出すのは小説「Agents of Artifice」序盤にてジェイスを助けるために「黒い翼を持つ死の天使(《荒廃の天使》?)」を召喚したというものです。これはリリアナにとってもかなりの負担だったようで、その後しばらくの間休息を必要としていました。


・今後イニストラードはどうなりそうなの? 結局今回も投げっぱなしオチなの?
アヴァシンが不在だった期間は実はごく短いもので、恐らくは1年未満から長くて数年程度と推測されます(公式記事「プレインズウォーカーのためのイニストラード案内 序説」より)。つまりアヴァシンがイニストラード世界に姿を現して数百年の間保たれていた人類と怪物達との均衡は、ほんの僅かな間に崩れたという事です。「アヴァシンがいて、人類はどうにか生きていける」と言っても過言ではなさそうです。
ですので、しばらくは単純に「アヴァシン失踪以前の状態に戻った」と解釈して良いのではないでしょうか。元通りの、人類と怪物達が均衡するパワーバランスに。狼男がウルフィーとなって人類側についた事から若干人類有利になったかもしれません。アヴァシンの帰還の幾つかのカードには、人類に追いやられたと思しき吸血鬼の姿が描かれています。

牙抜き死体の運び屋人間の脆さ

「私は百もの定命の血筋が栄えては滅びるのを見届けてきたわ。 あと千の血筋よりも生き永らえてみせましょう」《人間の脆さ》のフレイバーテキストにあるオリヴィア・ヴォルダーレンの台詞からも吸血鬼の苦境が伺える気がします。
これを投げっぱなしと解釈するか、めでたしめでたしと解釈するかはその人次第ではないでしょうか。とりあえず私は一連の公式記事を読んで「ああ、綺麗に終わったなあ」と思いました。





ところでアヴァシンが帰還し、イニストラードに光が訪れたことを文字通り表しているのが基本土地のイラストでしょう。気付いている人も多いかと思いますが、アヴァシンの帰還に収録されている基本土地は全て、イニストラードに収録されていたそれと同じ場所が(勿論、同じアーティストによって)「明るく」描かれています。
基本土地はその次元の姿を最も素直に見せてくれるものです。ちなみにミラディン次元が新ファイレクシアへと変わりゆく傷跡ブロックでは「世界の変化を表現するため」に、毎回基本土地が収録されていました。


・ちょっと待ってソリンさん何してたの?
闇の隆盛で主役級の登場をしたソリンでしたが、アヴァシンの帰還では僅か数枚のカードにその姿を見せているのみでした。公式記事には一切(!)登場していなかったので、それらのカードからソリンの動向を推測してみましょう。

血のやりとり流血の鑑定人

《血のやりとり》フレイバーテキスト
「我らは皆、イニストラードのために犠牲を払わねばならない。」

このカードイラストを拡大して見ると、ソリンが倒しているのは衣装から推測するに吸血鬼ではなく人間でしょうか? これが吸血鬼ならば「やんちゃをする後輩を諫めるソリン」という解釈でフレイバーテキストとも一致するのですが、よくわかりません。

《流血の鑑定人》フレイバーテキスト
「生存ではなく、虚栄と悦楽のための死だと?
そうした退廃こそ、私が食い止めようとしたものだ。」

このフレイバーテキストは《血の饗宴》のそれと比較すると興味深いものがあります。

《血の饗宴》フレイバーテキスト
「この世界の吸血鬼は飢えの喜びを知らぬ。 殺戮の味わいも楽しまずに貪り食うばかりだ。」

ソリンは決して吸血鬼の存在を否定しているのではなく、吸血鬼達があまりに力をつけすぎた結果、節制や抑制、誇りを失って堕落することを防ぎたいのではないでしょうか。祖父によって人間性を失い怪物となった吸血鬼達が、せめて尊厳までも失わないようにと。ソリンと同じマルコフ家の吸血鬼である《マルコフの上流階級》のフレイバーテキストには、「マルコフの血族の吸血鬼は、その衣装、芸術、そして「血のワイン」に対する優美な風格を誇りとしている」とあります。思えばソリンの衣装はとてもお洒落ですよね。銀の装飾が豊富にあしらわれた黒の外套に、これまた優美な銀の胸当て。彼はゼンディカーの荒々しい自然の中もこの格好で旅していました。
少し話がそれましたが結局ソリンは「里帰りして、世界の均衡を取り戻すべく戦っていたけれど、マイエンジェル・アヴァシンは別の誰かが見つけてくれた」ということなのでしょうか。


・で、ソリンの「闇の心」って? 結局今回のソリンは何故白マナを含んでいるの?
「数々の次元が崩壊し、全ての生命が塵と化すのを見てきた。私ほどの闇の心の持ち主でも、そこには何の喜びも無かった。」
――ソリン・マルコフ

「自称闇の心」「闇の心(笑)」と既にネタ扱いの感も否めない、《審判の日》(ZEN)のフレイバーテキスト。また多元宇宙全体の脅威であるエルドラージの封印を務めるなど、「実はいい人?」という噂でもちきりのソリンですが、本当のところはどうなのでしょうか。
公式動画「Inside R&D: The Story of Avacyn Restored Part 3,Creative 」では、イニストラードブロックの物語に深く関わるガラク・リリアナ・ソリンがどのような位置づけのキャラクターとしてデザインされたかが語られていました。ガラクは「ハンター」、リリアナは「ファム・ファタール(魔性の女)」、そしてソリンは「アンチヒーロー」。ヒーローではなくアンチヒーロー。吸血鬼という人間の敵でありながら、そしてその高貴なる一族の後継者でありながら人間に味方する。確かに「アンチヒーロー」の魅力、善と悪の二面性を強調するには黒単色よりも白黒でしょう。イニストラードにおいて白は善、黒は悪。これははっきりと言及されています。そして「二面性」は両面カードに代表されるように、イニストラードブロックの一つの象徴でした。
昔話ですみませんが、白黒といえば《闇の天使セレニア》をテンペスト当時初めて見た時の衝撃といったら。白黒の天使とは! 「対抗2色のマルチカラーとしてカード化されたキャラクター」というのは非常に少なく、青緑に至ってはディセンションで初めて登場しました。だからこそ、対抗2色のマルチカラーカードとして登場するキャラクター(……の多く)からは複雑な物語や強烈なアイデンティティーを感じます。

また闇の隆盛の公式記事「暗き影 その3」には、君主ソリンは黒単色にすればより多くのデッキで使われたのでは? という質問への回答があります。詳しくは記事を読んで頂くとして、「白黒にすることで、気に入る人にはより強く気に入られるカードにできるから」と締められています。より多くのプレイヤーに平均的に気に入ってもらうよりも、評価が両極端になろうとも印象的なカードに。そんな意図があったようです。

一方、君主ソリンが公開された際の公式フォーラムには、クリエイティブ・ディレクターのブレイディ・ドマーマス氏からの声明がありました。
(抜粋・私訳)
マナコストはキャラクターを組み立てるにおいて粗製な、そして微妙さに欠く道具だ。どれほど十分に「丸い」三次元のキャラクターも、5色全ての要素をその個性に含むだろう。ソリンは退屈や私欲から始まったとても多くの義務を持っているが、彼はそれを必要か、価値があるものとみなすようになっている。言い換えれば、彼は義務感を発達させてきたんだ。

ソリンは確かに「闇の心」を持っているのでしょう(とはいえ自分でそう言っちゃうのはちょっとどうかと思いますが)。ですがイニストラードにおける彼は「人間の味方」という白の要素を無視できない背景設定を持っています。「ソリンが白黒なのはイニストラードにいる時だけ」という解釈もできそうです。

……でもやっぱり、「キャラがブレまくり」って気も。


・タミヨウ&ティボルトは何者なの?

月の賢者タミヨウ悪鬼の血脈、ティボルト

タミヨウについては【前回記事】で述べた通りです。二股尻尾なお洒落さんのティボルトは……彼の紹介記事によれば現地出身の新米プレインズウォーカーだとの事です。
二人はイニストラードブロックのメインストーリー、リリアナやガラクや獄庫には全く関わっていません。むしろ彼らは「ストーリーに関わっていない」ことに価値があるのだと考えられます。リリアナやイニストラードそのものと関係ない存在を入れることによって、世界の広さ、プレインズウォーカーという存在の自由さを示すのが今回の新入り達の役割ではないでしょうか。


・タミヨウの登場は神河が舞台になることの前兆?
公式記事「アヴァシングル・レディー その3」の中に、気になる一文があります。
(抜粋)
たとえば、もう戻ることの叶わない多くの世界が存在するので、そういった世界からの存在としてプレインズウォーカーを使うことでさらなる何かが見いだせるだろう。

「もう戻ることの叶わない世界」とありますが、これは神河次元がもう存在しないというわけでは(少なくともアラーラブロック頃までは)決してなく、現在のところ戻る予定のない世界(ちなみに別記事でマローが挙げていたのはラバイア、ウルグローサ、メルカディア)も、取り上げないけれど決してもう存在しないというわけではなく、その世界からの訪問者を登場させることはあるだろう、という意味だと私は解釈しています。


・ギサとゲラルフは結局カード化されなかったけれどどうなったの?
姉ギサは《骨の粉砕》《狩り立てられたグール》《マルフェルドの双子》のフレイバーテキストに登場しています。それによるとどうやら捕えられ、狂人と化してしまったようです(いやまあ元からかも)。弟ゲラルフはアヴァシンの帰還のカードには全く姿を見せていません。死んだか? とも思われましたが、公式のフォーラム等で生存が言及されていました。

fromマロー
(要約)「フレイバーテキストに登場しているキャラクター全員をカード化する余裕は残念ながら常にあるというわけじゃない。でもギサとゲラルフはとても人気があるから、いつの日かカードになることもあるかもしれないね」

fromブレイディ
(要約)「元々あの姉弟はフレイバーテキストにちょっと出て来るだけの存在で、ジェンナ(クリエイティブ・チームのJenna Helland)が記事で彼らの物語を膨らませてくれたけれど、それはカードセットが全て完成した後のことだったんだ」

《錬金術師の隠れ家》のフレイバーテキストには、「責め立てられた錬金術師は、気兼ねなくグールいじりに没頭できる環境を求めてケッシグの未開地へと逃げ込んだ」とあります。この「錬金術師」が具体的に誰のことを指しているのかは不明ですが(同じくフレイバーテキストやカード名のみで本人はカード化されていないルーデヴィック/Ludevicかもしれません)、ゲラルフはアヴァシン教会の手を逃れ、姉の救出計画を練っているのかな、と想像が広がります。


ところでこの「アヴァシンの帰還」というエキスパンション名も、闇の隆盛発売前に発表されていました。アヴァシンが帰ってくるのは確かということを知りながら、闇の隆盛で人間ピンチ! という状況を見守るのはどこか奇妙な気分だったという人も多いのではないでしょうか。これに限らずエキスパンション名というのはある意味物語の壮大なネタバレで、そのためか傷跡ブロック第三エキスパンション「新たなるファイレクシア」は本当にギリギリまで隠されていたというのは記憶に新しいかと思います。難しいものですね。



4. ラヴニカへの回帰へ

さて、イニストラードブロックから次のラヴニカへの回帰へ、物語は繋がるのでしょうか?

・イニストラードのプレインズウォーカー達はラヴニカに行くのか?
 リリアナ
グリセルブランドを倒すという目的を達成したので、リリアナはもうイニストラードに用は無さそうです。彼女が契約した悪魔は残り2体。彼らが何処の次元にいるのかはわかりません。なおラヴニカにもデーモンはおり、旧ラヴニカブロック小説によると他の種族と平和に共存している者も結構存在するようです。以前割と長くラヴニカ次元に滞在していたことを考えると、ラヴニカにリリアナの標的であるデーモンはいないのでしょう。もし行くとしたら、ジェイスを頼るか何かのためでしょうね。

 ガラク
上で述べた通りにガラクは今後しばらくイニストラードに留まりそうなのと、以前ラヴニカへと向かった時に「かつて二度と行かないと誓った」と言っていましたので、再び行く可能性は低そうです。もし行くとしたら、ジェイスを(略

 タミヨウ
空民とプレインズウォーカーの組織、無限連合が関係あればあるいは?

 ティボルト
性格的にラクドスかイゼットか、という気はしますがどうでしょうね。

 ソリン
アヴァシンが獄庫から解放されたことにより、イニストラードの勢力に平衡を取り戻すというソリンの目的は一応達成されました。というわけで実家や吸血鬼達とあまり仲の良くないソリンは割とすぐにイニストラードを離れるのではないでしょうか。今もゼンディカーで暴れ回っている(と思われる)エルドラージは彼にとって懸案の一つであり、その対抗策を探す旅を続けると思われます。その過程でラヴニカへと向かう可能性はそれなりにあるでしょうが、「可能性はある」以上のことは言えないのも事実です。
とはいえ相変わらずマイペースな雰囲気のあるソリン。しばらく実家でのんびりしていても誰も驚きませんよ、きっと。


・「Return to Ravnica/ラヴニカへの回帰」リターンするのは誰? 何?
すぐに思いつくのはプレイヤー、我々というプレインズウォーカーが7年ぶりにラヴニカへと帰る、というものです。ですがエキスパンションのタイトルは物語を表し、プレイヤー主体のものではありません。誰か、もしくは何かがラヴニカへ回帰すると考える方が自然です。公開された画像のジェイスとニヴ=ミゼットは「何かを待ち構えている」ようにも見えます。
またラヴニカという事は、いよいよ「デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ2012」に登場していたイゼット団のプレインズウォーカー、ラル・ザレックが登場するのかも?(※イラストレーターEric Deschamps氏のサイトの画像はこちら)
キオーラは……ラヴニカの都市環境はマーフォークに厳しそう。




大々的に「フレイバー重視」「トップダウンデザイン」と銘打たれていたイニストラードブロックはいかがでしたでしょうか。様々な意見があるかと思いますが、カードが語る生き生きとして(怪奇ものでこの表現も何ですが)広い世界は本当に魅力的でした。
とても長くなってしまいました。それではまた次回に。