最後のウィネベーゴ

中村 修平


 今シーズン前半の最大の山場、プロツアー名古屋も終了。この記事がアップされる頃には終わっているであろうグランプリカンザスシティでグランプリサーカスはひと段落。ちょうど中間あたりに日本選手権があるものの、8月中旬のグランプリ上海まで、プロプレイヤー的にはおおよそ2ヵ月の夏休みとなります。

これでようやく一休みができると思いつつも、せっかくなんでプロポイントを30点の大台に乗せておきたいなとも考える、羽田空港27時頃。いや、ものの試しで羽田発の便にしてみたのですが意外と面倒。というか午前5時に空港にいるの推奨とかどないせえと…。空港までの移動距離が短いのはいいことなのですが、発着時間は考え物ですね。

 それはともかく《死体の野犬》《ファイレクシアの槽母》かという前回の答え合わせから入ってみますと、どうやら正解はどっちも使わないというものだったようです。

 白単《鍛えられた鋼》に対しては数や質というよりは速度、《荒廃のドラゴン、スキジリクス》はおろか、4マナ圏なぞ重過ぎてお呼びじゃないと言わんばかりの黒単感染デッキ。スターシティー謹製の黒単毒デッキを乗りこなしてプロツアー名古屋トップ8入賞を果たした、ゴーデニス・ヴィドギリウスのデッキリストを見てみると感染持ちクリーチャーは僅かに2マナ圏2種に3マナ圏2種の計16体。《墨蛾の生息地》を含めても僅かに20枚。代わりに《変異原性の成長》《ピストン式大槌》という2種類の強化系カードを突っ込み、殺られる前に殺れ仕様となっています。   なるほどなるほど、たしかにこういうアプローチの方が毒というテーマにとって合理的です。せっかく無色の《巨大化》があるのだからそれを生かした構成にする。元々自分の構築能力に信頼は置いてませんが、全く気が付きませんでした。

 さて、今回はそんな毒デッキについて関係のあるような無いような話です。

 ミラディンの傷跡サイクル完成とプロツアーによりようやく価値が定まり、正等な評価が出来る機会が訪れたカードがあります。

 今回はそんなカード、《最後のトロール、スラーン》です。



1. 何故ダメ”だった”のか?

 かつて《最後のトロール、スラーン》は、

『カードとしては強いだろうけど、まず限定構築では弱いカード。』

 という評価が下されていました。カードとして強いかどうかについてはその内、このカードでプロツアーパリをドヤりまくっていた行弘あたりが語ってくれる筈だから置いておくとして、

 『限定構築では』の下りは2つ意味があります。1つは言葉通りの意味。

 限定構築環境に毒デッキがある程度存在する手前、スラーンが持っている数々のボーナス、『再生』や『対戦相手からは対象に取られない』が有効に機能するとは言い難かったのです。

 4/4というサイズについても同じく。環境を規定するのがコントロール側なら《聖別されたスフィンクス》、或いは《ボーラスの工作員、テゼレット》で作成された5/5のアーティファクトでは残念としか言いようがありませんでした。

 もう1つの意味はいくぶん辛辣。

 過去に強いと言われたカードについてちょっと考えを巡らせてみて下さい。

 ゼンディカーブロックでは《精神を刻む者、ジェイス》

 アラーラブロックでは《大渦の脈動》《血編み髪のエルフ》をはじめとするジャンド一式。

 ローウィンブロックのフェアリー、というか《苦花》

 環境を支配したデッキやカードは押しなべて限定構築で華々しいデビューを飾っています。そうでないにしても何らかのシナジーによって先にスタンダードで使われていたり、あるいは限定構築で目立たないものの、2番手以降の勢力としてやはり環境には存在するのです。限定構築では弱いカードというのは逆説的に、

『限定構築ですら使用されないカードになんて未来があるの?』

 という暗喩が含められていたのです。



2. 環境答え合わせ後の再評価

 性能的には強いけど環境的にはまるで駄目、まさに《影魔道士の浸透者》系のカード。出た当時は夢のカードと言わんばかりの能力でしたが、蓋を開けてみれば、クリーチャーのインフレに飲み込まれて、鳴かず飛ばず。

 そんなカードの系譜を辿るはずだったはずのに今になってなぜ評価出来るのか?

 いくつかの理由がもちろんありますが、まず新ファイレクシアで思った程、毒デッキが増強されなかった事が挙げられますね。ようやく前振りに意味が出せました。これのために毒話を振っていたのに書いてる本人が忘れかけていました。

 ミラディンの包囲戦が出た当初、大幅に強化された黒の感染クリーチャー達。

 《ファイレクシアの十字軍》や、今となってはかわいそうな《ファイレクシアの槽母》を見て、誰しもが思ったはずです。

 『次のセットでも最低でこれくらいの強力感染クリーチャーが出るはずだ。』
 
何せどちらの陣営が勝つかは伏せられていたものの、ミラディンの傷跡リリース時にどこぞの偉そうな(実際偉い)ドヤ顔のおっさん(そういえばコイツも緑緑2のクリーチャーですね。)が自分のコラム内で徐々にファイレクシア勢が増えていくなんて言っちゃってるんです。

 こんな事まで言われていて、ミラディンさん大勝利なんて考えるのはよっぽどハッピーな人くらいでしょう。

 ところが蓋を開けてみると、確かにファイレクシアさん大勝利だったのに強力な感染クリーチャーは影も形もありません。

 抹殺者の尻目に相当かわいそうなことになった《ファイレクシアの疫病王》についてなんて、書きたい事はつらつらとあったりします。

 というか、ぶっちゃけセット自体が神話装備品以外はあまりパッとはしないのですが、それを差し引いても毒デッキが得た恩恵といえば、精々《ぎらつかせのエルフ》《囁く死霊》といったところ。

 その結果として毒デッキそのものが想定の範囲内から大幅ダウン。

 依然として強力なアーキタイプではありますが環境を支配しているのは毒ではなく、白単《鍛えられた鋼》デッキであり、この程度の毒具合ならば決して『限定構築で使われない』とは言えないのです。

 それ以上に追い風となっているのが構築環境の変化です。

 かつてスラーンの駄目さ加減を語る上で必ず議題に上がったのは《饗宴と飢餓の剣》が付いたクリーチャーの前に無力、という事でした。

 ですが新ファイレクシア投入後ではその状況に改善の兆しが見えます。《戦争と平和の剣》のおかげで剣を構えた鷹を突破する事も可能です。

 そして、あまりにCaw-Bladeが流行りすぎたお陰で、クリーチャー除去よりもアーティファクト破壊が優先されているのが現状です。スラーンが復権できる余地は充分にあるのではないでしょうか。


 あとに残るはスラーンの居所があるデッキと言う問題ですが、M12が発売され、イニストラードが発売されれば環境は大きくローテーションします。《精神を刻む者、ジェイス》が消え、《ギデオン・ジュラ》が消え、《最後のトロール、スラーン》の敵はだいぶ減ったと言っても良いでしょう。

※編集注:本記事は《精神を刻む者、ジェイス》《石鍛冶の神秘家》禁止の発表前に執筆されたものです。ご了承くださいませ。