魔法使いの弟子

中村 修平

中村 修平


 今回は日本選手権参加者への公平性に配慮するとの方針の為、日本選手権に参加予定のライターはM12の情報がシャットアウトされています。なので毎日新規カードに一喜一憂、新プレインズウォーカーに騙し騙されな毎日を送っている訳ですが……。

 M12のカード、妙に強くないですかね?

 某どこぞの偉い人がM12を評して『ちょっとやりすぎちゃった。』とか言っていて、『またまたぁ、最近いつもじゃないですか、ご冗談を』なんて言ってた記憶があるのですが……。

 普段なら強力なカードから公開していき最後の方は尻すぼみというのが、今回はどうも勝手が違うようで、プレビューが始まった時の『このセットは大したことなさそう。』から、今では『新規カードが強力すぎて全カードが揃わなければデッキを作っても意味ないじゃん。』に、印象が変わってしまう始末。もちろん本来使おうと思っていたデッキが禁止指定により崩壊という憂き目があるにせよ、環境が大幅に変わることは間違いなさそうです。

 そんな中で、この原稿を書いてる最中にちょっと赤をいじめるソーサリーが出てきて焦りつつも、今回は確定で使われるであろうカードの紹介でお茶を濁したいと思います。ということで、今回のお題は《渋面の溶岩使い》です。



1. マナ域差/基礎ターンと召喚酔い

 構築環境において、ただのティム(《放蕩魔術師》)には、人権がありません。(このバリエーションの全てのクリーチャーが人かどうかというのは置いておくとして)

 その理由はとても簡単です。

 試しにティムと同じ3マナ域でティムが殺せるような構築レベルのクリーチャーを思い浮かべてみて下さい。せいぜいのところ、トークンが本体ともいえる《刃の接合者》くらいでしょうか?2マナ域や1マナ域ならタフネス1で構築レベルのカードがたくさんある?

 確かにその通りです。

 ですが、果たしてそれらをティムが殺す事が出来るのは何ターン目でしょうか?ほとんどのクリーチャーには召喚酔いがあり、ティムもその例外ではありません。

 《極楽鳥》は戦場に出てから2ターンもあればだいたい序盤のマナ加速という役目は終わり、《戦隊の鷹》は戦場に出た時点で既に仕事の半分は終わってます。《板金鎧の土百足》《ステップのオオヤマネコ》は殺せそうですね。少なくともフェッチランドの無駄遣い位はさせられそうです。但し、ティムが召喚酔いが解けるまで生きているかの保証はありませんが。

 ほとんどのクリーチャーにはそのクリーチャーが有効に作用するための賞味期限、基礎ターンがあります。

 先手1ターン目に出した《ゴブリンの先達》は非常に強力なのは誰もが認めるところでしょうが、先手10ターン目に出てきた先達については大抵の場合非常に弱いものとなります。ターンが経過するにつれカードの価値というのは使えるリソースの、特にマナの増加と反比例して低下し続けます。

 これはダメージ効率を最優先に考えるビートダウン用のカードは特に顕著で、場に出ればほとんどゲームに勝ててしまう《原始のタイタン》との対比を考えればわかりやすいと思います。最大のダメージ効率か、出てしまえば勝ちという品質か。

 運命の大立者が強いのはこの基礎ターンの幅がゲーム序盤から終盤までと幅が広い為なのです。

 ひるがえってティムの場合、「同マナ域より上のカードには太刀打ちできず、それより下のマナ域に対してしか強くないのでマナ域差が埋まらない)」上に、「召喚して、実働出来るターンが遅すぎて手遅れで基礎ターンが遅い」。一言で言うならマナ効率が悪すぎる。

 これが、ティム系カードが構築では使われない理由です。

 そして《狡猾な火花魔道士》がティムは構築レベルではないと言う定石の例外を逸脱し、しばしばスタンダードで使われていました。主な理由は、マナクリーチャーからの2ターン目召喚であったり《石鍛冶の神秘家》から持ってくる《バジリスクの首輪》コンボが強力だったというのもありますが、この致命的なまでに遅い種族の中で1ターン分、召喚酔いのターンを無視できる速攻持ちだからです。

 そんな常識やぶりな《狡猾な火花魔道士》ですら定位置はベンチウォーマー。スタメンに起用されることは滅多にありません。やはり3マナのカードとしてみた場合、リミテッドでは初手級のカードであるティムも、構築戦では弱い部類であるというのは隠せない事実なのです。

 ダメージを飛ばすシステムクリーチャーという枠では同属なのですが、似て非なる能力を持つカードがまだスタンダード環境にはいます。《トゲ撃ちの古老》ですね。

 ですが、このカードも残念ながら実力不足と言わざるをえません。入っているデッキの構成を考えると、《ゴブリンの先達》との比較で、逆に第1ターンにプレイされると嬉しい類のカードです。これも大きな括りでの理由は同じです。
 召喚コスト的にはたしかに及第点。1、2マナのクリーチャーを殺す為に入れる1マナ生物。

 ですが能力の使用に3マナ。つまり1ターン目に加えて3ターン目までもをこのカードに注ぎ込んでようやく求められている仕事が可能になるのです。起動コストも含めて考えると、『マナ域差』的には完全に不合格。

 召喚酔いに影響されないという点では優れていなくもないですが、マナ効率という点ではティムよりもむしろ悪いカードです。

 装備品の力で、たまに凄いダメージを入れれますがそれは装備品が強いのであってこのカードが強い訳ではありません。構築環境で《トゲ撃ちの古老/Spikeshot Elder(SOM)》と相性の良い装備品が現状では無いという事実も採用には至らない原因の一つでしょう。

 これらの残念なカード達は今に限った訳ではなく、マジック黎明期から脈々と製作されては歴史の中に沈んでいきました。
 中には《狡猾な火花魔道士》《ヴァルショクの魔術師》のように、ただのティムから大幅に強化されていた上で、メタゲームの産物として一時的にメインボードへと駆け上がったカードもあるにはありましたが、一過性のものでした。



2. 全て合格!

 そんな中で唯一と言ってもよい、構築レベルのカード。

 数ある「起動コストを伴う、ターゲットにダメージを与えるシステムクリーチャー」というバリエーションの中で、コスト対効果が釣り合っているのが《渋面の溶岩使い》です。

 召喚コストはタフネス1が集中する1、2マナ圏と同じ1マナであり、起動コストも僅かに1マナ。1マナであれば、他のアクションに干渉しないとは言えないまでも、追加のアクションとして許容できる範囲。

 序盤に殺したい生物達に対して、このカードだけは無理なく対応できます。そればかりか《獣相のシャーマン》《ミラディンの十字軍》といったティムでは触れなかったクリーチャーにも対応が可能です。

『引いてさえいれば』というマジックの全てのカードに当てはまる条件さえクリアしていれば、ほぼ確実に、『適切なターンに』対処することが可能です。

 しかもターンが経過したとしても2点クロックであることに変わりはありません。1マナのカードにして、毎ターン本体に2点入るという砲台として大活躍。ただの毎ターン2点ではありません、毎ターンに『追加のアクションとして』2点なのです。戦場は押さえられても、序盤に削り損ねた残りのライフを飛び道具で削りきれるという赤にとっては、この後方支援は馬鹿になりません。

 フェッチランドのお陰で、《渋面の溶岩使い》の最大の弱点、墓地ガス欠も緩和されています。

 かつて《渋面の溶岩使い》の後継者を名乗った《巻物の大魔術師》というまがい物が、大多数のティム達と同じ運命を辿る結果になってしまいましたが、環境が高速化したとしてもやはり溶岩使いは溶岩使いなのです。

 《稲妻》に加えて《火葬》まで復活し、史上類を見ないほどに火力が充実している今年の日本選手権では、赤バーン、あるいはビートダウンデッキは確実にTier1として存在しているでしょう。もちろんこのカードを引き連れてです。



「Sample_Monored」

4 《沸騰する小湖》
4 《乾燥台地》
4 《ぐらつく峰》
2 《地盤の際》
11 《山》

-土地(25)-

4 《ゴブリンの先達》
4 《渋面の溶岩使い》
4 《板金鎧の土百足》

-クリーチャー(12)-
4 《稲妻》
3 《噴出の稲妻》
2 《焼尽の猛火》
4 《火葬》
4 《燃え上がる憤怒の祭殿》
2 《よろめきショック》
4 《槌のコス》

-呪文(23)-
-サイドボード(0)-
hareruya




何のひねりも無いレシピですが、だからこそ強いのも事実。叩き台というには余りに強い赤単をどうチューンするか、どう対策するかが、大事になってきそうです。