ピックの分岐点を探る

大澤 拓也


 こんにちは。大澤です。
 いよいよ明日からプロツアー名古屋ですね。GPプラハでもドラフトがありましたが、当然プロツアーでもドラフトは行われます。プロツアーではドラフトピックに関する記事や、上位ドラフトポッドの全てのピックがあるドラフトビュアー等も掲載されると思いますので、トッププロたちのピックを余すところなく覗けるはず。
 会場に行かれるかたも、家でF5連打をする方も、彼らのドラフトを注目してみてください。

それでは、前回コメント頂いた部分に少し返信を。

>3色好きすぎでしょうwわかりますけどw
タッチカラーについての記事はとてもよかったと思います。ファイレクシア入りのドラフトではかなり有効だと感じていました。2色タッチ2色の4色でも可能だと思えるほどです。


確かに周りより多色が好きな傾向にあるかもしれません(笑)
でも自分が言いたいのは多色の有効性というよりも、多色デッキを想定しているかどうかというところですね。
方針として「出来るだけ2色にまとめたい」というのがあったとしても、毎回2色でデッキが作れるわけではありませんし、2色にこだわり過ぎてデッキ自体が弱くなってしまっては元も子もありません。3色のピックも選択肢として常に念頭に置く事で、その場その場の判断、そして、できあがるデッキのクオリティにすごく影響してくるのではないかと思います。

>TOP8では綺麗に住み分けが出来ていてつまむタイミングがなかっただけだと思います。

そこが自分が一番危惧してるところです。
「ドラフト=協調」という文化が根付いてしまっているため、色を綺麗に住み分けることが成功ドラフトとという風潮があると思います。
ドラフトというものはパックから5色が人数分均等に出るわけではありません。実際プラハの決勝ドラフトでは出が良かった赤を選択したプレイヤーが優勝しています。
他の色のカードをつまむタイミングがなかった可能性もないわけではないですが、少なくとも優勝者の両隣のプレイヤーは流している赤いカードより弱いカードを取る場面もあったんじゃないかと想像できます。
何でもかんでも取れば良いというわけではないですが、「協調」や「住み分け」という言葉に囚われ過ぎて勝機を逃してしまってる人が多いんじゃないかという印象です。
「協調」や「棲み分け」ではなく、より利己的に「自分が得できる色を探す」くらいのつもりの方がいいのではないかと思います。


>他には僕が普段ドラフトしていて《六角板のゴーレム》《炎生まれのバイロン》が周囲では非常に低い評価で見られています。(僕は強いと思うのですが)
TOP8のデッキにもそのようなカードが多く見られるので解説があれば良いなと思いました。


正直自分も《六角板のゴーレム》《炎生まれのバイロン》を特別評価しているわけではありません。
ただビート戦略以外でデッキを作るなら、6~7マナ圏をデッキに入れる必要があると思っています。
でもそれが《炎生まれのバイロン》であろうと《オオアゴザウルス》であろうと自分の中ではそこまで変わらないです。

>8人のプレイヤーのデッキを徹底比較&分析と言ってる割にはたいした比較もしていないし、分析もできてないように感じられました。今回のはピック譜やサイドボードもないため難しいのかも知れませんが、しかしそうだとしたらこれをやる意味がよくわかりませんでした。
3,4の話は結構良い話だと感じましたがそれだけに、1,2の内容が薄かったのが残念です。ピックについての考え方は自分も興味あるので次回楽しみにしております。


個人的に、これだけ情報の少ないデッキリストからでも、エキスパンション別に並べ代えてみるだけでも、ドラフトの流れなどをある程度予想できるのは面白いと思います。ただ、不慣れな手法だったので、まだまだ十分な分析ができたとは言い切れない内容だったかもしれません。今後はさらに濃い内容で分析できるようにしていきたいと思います。

今回は新たなるファイレクシア入りドラフトの実戦編です。以前よりも要点を絞って掘り下げていきたいと思います。

現時点でこの環境の個人的なドラフトの指針は「多色も見据えたコントロール」です。具体的にどのような意思を持ってピックをしてるのか解説していきましょう。



【1st Draft】



1-1《強制された崇拝》



 方針としてまず除去やアドバンテージにつながるカードを優先してピックしていきます。
 多色を見据えているのでシングルコストであることが好ましいです。《練達の接合者》もかなりハイスペックなのですが、このクリーチャーを生かすような白メインのピックにしていく基準はこのカードでは満たしていないというのが現段階での見解です。
 タッチでも使えるとは思うのですが、長期的なゲーム展開を見据えた上でどちらがより安定したパフォーマンスをしてくれるかというところで《強制された崇拝》を取ります。
 このカードはアタックは止められるもののブロックを止めることはできないのでビートデッキに入れる除去としてはあまり好ましくないため、比較的ビート指向の強い海外勢の間では評価は低めのようです。個人的にはお手軽に相手の強力なアタッカーを足止めしてくれて、自分の評価よりも安く手に入ることが多いので重宝しています。
 今回のような弱めのパックではあまり意味がないのですが、自分以外の7人が何をピックするか予想し、9手目に何が帰ってくるかある程度の目星をつけておき、色を決める参考材料にしましょう。
 このパックは残念ながらデッキに入りそうなカードは帰ってこなそうですね。

1-2《石弾化》

1-3《倒れし者の記憶》



 ここにきて《生命の接合者》《翼の接合者》と優秀な接合者が2枚同時に流れてきました。こんなに流れてくるなら《練達の接合者》からゴーレムデッキ目指してたよ!!!
 自分の運命力を信じきれませんでした(泣)なんて冗談はさておき、この2種類の接合者は4マナにしては破格のスペックです。
 しかし、1-1の解説と重複してしまいますが、このクリーチャー達を安定して使用するように緑や青にシフトする基準を現段階では満たすほどではありません。
 この環境のドラフトでの方針というのもありますが、元々の好みとして最大風速が強いカードよりも常に安定して活躍をしてくれるカードを好むという傾向にあるかもしれません。
 今回の例で言えば…

・ゴーレムデッキの《翼の接合者》…10点
・ゴーレムがあまり入っておらず、タッチの《翼の接合者》…6点

・白メインの《倒れし者の記憶》…8点
・タッチの《倒れし者の記憶》…8点

 だとしたら平均すると同じ8点ですが、自分の好み的には常に8点の活躍をしてくれる《倒れし者の記憶》みたいなカードを選択することが多いかなと思います。ただゴーレムのカードは比較的安く手に入る種類のものもあるので、現実的なシナジーであり、平均したらもうちょっとアベレージの高い活躍をしてくれるかもしれません。環境にある程度慣れてきたら練習してみたいアーキタイプの一つです。

1-4《精神間引き》



 早くも3色目に手を出しました。青いカードの多さから敬遠されたんでしょうか。
 多色を見据えつつ《石弾化》と相性の良い《マイコシンスの水源》も取りたいところですが、ここはカードパワー重視で《精神間引き》を取ります。
 相手の手札が0枚ではただ重いだけの2枚ドローですが、環境がコントロールにシフトしている中で相手が手札を持ってないということが少なかったり、バウンスとの組み合わせがとても強力だったりします。

1-5《髄掘り》
1-6《金切り声の猛禽》
1-7《つながれた喉首追い》
1-8《侵害の魂喰い》

1-9《敗残のレオニン》



 予想に反して良いものが帰ってきました。
 《マイコシンスの悪鬼》も帰ってきたということは「感染」自体が少ないと推測できます。少なくとも上3人くらいはやってなさそうです。

1-10《荒廃の工作員》
1-11《毒の屍賊》
1-12《つながれた喉首追い》
1-13《蒸気の絡みつき》
1-14《マイコシンスの悪鬼》

 後半の流れを見るに「感染」と、色的には青が空いていそうです。
 基本的にNPHでは前半はカードパワーの高いものをピックし、後半に比較的遅めに流れてくる重めのクリーチャーを取っておくことが多いので、ある程度方針が定まったらデッキのバランスを取るために2~3マナ圏のカードの意識を高くします。


2-1《饗宴と飢餓の剣》

2-2《縒り糸歩き》



 除去を優先してピックすると言っていたのに何故ここでは除去2枚をスルーなのか。
 まず《核への投入》はNPHが入ってアーティファクトが減り、前の環境のような劇的な瞬間が少なくなったことで、ここでダブルコストのカードを取るという基準を満たしていませんでした。
 次に《喉首狙い》はこの時点でうっすらと青+白or緑の感染ていうデッキの完成系が見え始めていて、そこからここで更に黒に手を伸ばすには至らなかったということですね。

2-3《ヴィリジアンの堕落者》



 一見、そのまま《枝モズ》を取ってしまいそうなパックですが、白青主体の「感染」は次のミラディンの傷跡でほとんど恩恵を受けれないので出来れば避けたいところ。
 1パック目の後半に《マイコシンスの悪鬼》が2枚流れてきたこともあり、例え上と緑が被ってたとしても「感染」というアーキタイプは被ってなさそうなので3パック目に期待できます。

2-4《荒廃後家蜘蛛》
2-5《眼魔》
2-6《ヴィリジアンの密使》
2-7《鋼の妨害》
2-8《目的のための燃料》
2-9《核をうろつくもの》
2-10《ファイレクシアの消化者》
2-11《枝モズ》
以下略


3-1《シルヴォクの模造品》

3-2《拘引》



 あれ?《苦行主義》じゃないの?ていう意見もあると思います。
 自分が元々噛み合わない展開が有り得るカードの評価があまり高くなく、《拘引》のほうが長期的に見ても安定した活躍をしてくれると思っています。

3-3《死体の野犬》

3-4《地平線の呪文爆弾》



 喉から手が出るほど2マナの感染クリーチャーである《胆液爪のマイア》が欲しい所ですが、3色且つ重めの構成のこのデッキではこちらを優先します。

3-5《絡み線の壁》
3-6《着実な進歩》
3-7《胆液爪のマイア》
3-8《荒々しき力》
以下略

 2-3で《ヴィリジアンの堕落者》を取ったとこがターニングポイントでした。
 結果的にそこまで派手なことにはならなかったですが3-7《胆液爪のマイア》3-8《荒々しき力》が取れてる辺り、「感染」というアーキタイプを選んだのは正解だったと思います。
 他には個人的に評価の高い《つながれた喉首追い》《荒廃の工作員》が遅く取れたことからピックに余裕ができたのも良かったですね。
 人気薄ということもありこの2種類のクリーチャーが主軸の感染コントロールは得意なアーキタイプの一つです。


【2nd Draft】



1-1《攻撃的な行動》
1-2《電位の負荷》

1-3《マイコシンスの水源》



 《侵略の寄生虫》や1、2手目のピックからビートを目指して《死の犬》というのもありますが、やはり自分はもっとカードパワーの高いカードに順応できるように準備しておきます。
 この辺の線引きは言葉で表すのは非常に難しく、経験則の中で養われていく感覚だと思います。

1-4《使徒の祝福》



 このパックも人によって好みが分かれそうなパックですね。自分としては《荒廃の工作員》との2択です。
 《荒廃の工作員》が候補に挙がる理由としては《つながれた喉首追い》が相当遅く回収できるので青の感染は《荒廃の工作員》からスタートすれば成功する可能性が高いアーキタイプだからです。
 しかしここはまだ我慢。
 無色の《使徒の祝福》を取っておきます。このカードは使えば使うほど評価が上がっていきます。
 何の違和感もなく構えることができるので、相手からもほとんど警戒されず劇的にヒットすることが多いです。
大礒さん様々です!(笑)

1-5《大軍の功績》



 ついに来ました、爆弾カード。
 実質《電位の負荷》しか色付きのカードを取ってない状況でこのカードを取らない理由はないですね。
 9手目に《腐敗したヒストリクス》が帰ってきそうなのもここにきて噛み合いました!

1-6《使徒の祝福》



 《大軍の功績》が取れたことにより理想は緑+Xの感染デッキ。
 それでは現状色の合ってる《オーガの使用人》《金切り声の猛禽》じゃないの?といった感じですが、まず《オーガの使用人》は赤が2~3パック目に感染クリーチャーが期待できない上にキャストこそシングルコストですが、活躍を期待するにはダブルコスト、トリプルコスト以上の色マナが要求されます。
 《金切り声の猛禽》もほとんど同じ理由で3パック目に期待できないことと、ダブルコストなのがネックです。
 個人的に感染の理想はメイン2色は黒、緑、青で組み合わせたいと思っています。

1-7《マイコシンスの悪鬼》

1-9《腐敗したヒストリクス》
1-10《つながれた喉首追い》
1-11《大槌の接合者》
以下略

2-1《堕落した良心》



 1パック目で白や赤に浮気しなかった結果、報われました(笑)受け入れ態勢バッチリです!

2-2《迫撃鞘》

2-3《ファイレクシアの消化者》



 デッキの方向性が決まった所で次はデッキを仕上げていく作業です。
 《マイコシンスの悪鬼》《つながれた喉首追い》の兼ね合いでなるべく早い段階から相手に毒カウンターを与えれるようにしていきたいです。
 せっかくの《疫病口獣》も増殖する毒カウンターがなかったら虚しいですからね。

2-4《ファングレンの匪賊》
2-5《荒廃後家蜘蛛》
2-6《ヴィリジアンの密使》
2-7《ピスタスの一撃》

2-10《絡み森のカマキリ》
以下略

3-1《粉砕》



 《飲み込む金屑ワーム》もかなり魅力的なのですが、今このデッキに求められてるのは試合を終わらせるカードではなく、試合を《大軍の功績》まで長引かせるカードです。
 アーティファクト除去の点数が全体的に急激に下がったように思いますが、個人的にはメインに1~2枚くらいは問題なく投入して良いと思っています。

3-2《胆液爪のマイア》

3-3《荒廃のマンバ》



 重いところも少なくなく、3色で色マナサポートも《マイコシンスの水源》しかない状態なので《銀のマイア》でもいいのでは?という意見もあると思います。
 しかし、先程も言いましたが《マイコシンスの悪鬼》《つながれた喉首追い》との兼ね合いでなるべく早い段階で一つでも多くの毒カウンターを与えたいことから《荒廃のマンバ》を優先します。

3-4《シルヴォクの模造品》


3-6《謎鍛冶》



※画像に誤りがあった為、修正させて頂きました。申し訳ございません。
 ほとんど機能しなさそうな《謎鍛冶》よりも《着実な進歩》やサイドカードである《エズーリの射手》のが良さそうに見えるかもしれませんが、カードパワーに少し不安が残るこのデッキで《攻撃的な行動》《大軍の功績》《堕落した決意》等のパワーカードを引ける確率を少しでも上げるために《謎鍛冶》を取ります。

3-7《風の突き刺し》
以下略

 手広く待ったことが功を奏したドラフトでしたね。
 《大軍の功績》はプランをとても立てやすく非常に良いカードです。
 《腐敗したヒストリクス》《絡み森のカマキリ》を遅く拾っておくと良いでしょう。




 皆さんいかがだったでしょうか?自分と意見が近かった方、ちょっと違った方、全く違った方がいたと思います。
 ドラフトってそれで良いと思っています。
 もちろん今回のドラフトが模範解答というつもりはありませんし、この環境はドラフトの方針によって全然違うデッキが出来ると思います。
 自分のドラフトを見て少しでも参考になったり、引き出しの一つにして頂けると幸いです。

 今回紹介したようなコントロールを組むにあたって気をつけなければいけないことは、カードパワー優先のピックからどのタイミングでデッキのバランスを整えるピックに切り換えるか。
 一概には言えませんが大体の目安としてMBSの3~5手目辺りからそれまでのピックを頭の中で振り返ってバランスの調整をし始めると良いでしょう。
 パックとパックの間のピックを確認する時間に全体的なマナ域の確認、クリーチャーとスペルのバランス等をしっかり確認できているとピックをする時に楽になります。
 具体的にMBSでは《マイアの種父》《眼魔》《ファイレクシアの消化者》《回転エンジン》SOMではマナマイアの高騰から《絡み線の壁》をバランスを整えるために意識的に早くピックすることが多いですね。


 最近「この環境は後手を取るべき」みたいな意見を耳にしますが、それ自体は否定しませんし、自分も後手を取ることがあります。
 注意しなければいけないのは「後手を取る」ということだけを取り入れるのではなく、後手を取るには後手用のデッキを組むことが必要ということです。
 仲間内でドラフトを繰り返しているとどうしても趣向が似てくる傾向にあり、例えば誰かがコントロールで3-0すると次第にコントロールを組む人数が増えていき、コントロール対決が頻繁に起こるようになります。
 そうなってくるとコントロールに強いカードの優先度が上がっていき、ビートに対する耐性が下がってしまいます。
 以前の環境よりコントロールが許容されるようになって後手を取りやすくなったとは言え、ビートが死滅したわけではありません。
 むしろMOを始めとする海外ではビートが主流のように思います。
 MOでドラフトをする方や週末のPT名古屋に出場する方、会場で外人とドラフトをする方には特に気をつけてもらいたいポイントですね。