皆様お久しぶりです。私事が忙しく間隔が開いてしまいましたが第2回目となります。
さて、この記事では、デッキリストを読み解いたりデッキを分類したり、そして、デッキを構築するための新しい概念として「ユニット」というものを提示しています。
前回の記事では、ユニットを「カードとカードの組み合わせによってひとつの効果として機能するもの」と定義し、機能ごとにカードの組み合わせをユニット化し、それによってデッキリストを読み取っていく方法について語りました。
といっても、なかなか理解しにくい話だとは思いますし、まずは、比較的メジャーなデッキリストをユニット的に読み込むことで、前回の記事のおさらいをしましょう。
1 《森》 1 《山》 1 《平地》 2 《Plateau》 2 《Savannah》 1 《Taiga》 4 《吹きさらしの荒野》 2 《乾燥台地》 2 《樹木茂る山麓》 4 《燃え柳の木立ち》 1 《ボジューカの沼》 1 《ドライアドの東屋》 1 《Karakas》 1 《怒りの穴蔵、スカルグ》 -土地(24)- 4 《貴族の教主》 4 《野生のナカティル》 4 《漁る軟泥》 3 《クァーサルの群れ魔道士》 4 《聖遺の騎士》 1 《最後のトロール、スラーン》 1 《鷺群れのシガルダ》 -クリーチャー(21)- | 4 《剣を鍬に》 3 《緑の太陽の頂点》 4 《罰する火》 2 《森の知恵》 2 《忘却の輪》 1 《遍歴の騎士、エルズペス》 -呪文(16)- | 3 《真髄の針》 3 《赤霊破》 3 《静寂》 2 《トーモッドの墓所》 2 《エーテル宣誓会の法学者》 1 《外科的摘出》 1 《ガドック・ティーグ》 -サイドボード(15)- |
いわゆる「Zoo」デッキです。
ご存知の方も多いとは思いますが、Zooというデッキは多色化することで《野生のナカティル》《タルモゴイフ》《聖遺の騎士》といった各マナ域最大サイズのクリーチャーを確保し、それによるビートダウンを《稲妻》《剣を鍬に》の除去カードをはじめ、各色から選りすぐられたユーティリティによってバックアップするデッキです。
一見ストレートに相手をビートダウンするZooデッキはユニットと縁が無さそうに思えますが、むしろZooの強さはユニットによって支えられていると言っても過言ではありません。
各色のカードを滞りなく使用するために、そして緑の1マナ最強の一角である《野生のナカティル》を有効活用するためには、速やかに緑マナと《平地》《山》(の基本土地タイプを持つ土地)を揃える必要があります。
そのために、レガシーでのマナベースの基本とも言える「デュアルランド+フェッチランド」ユニットが採用されています。これにより《野生のナカティル》をプレイするための緑マナ、《平地》《山》の基本土地タイプ、3色のマナベースを迅速に揃えるという一見難題とも言える課題をクリアしています。
レガシー環境のデッキのマナベースとして「デュアルランド+フェッチランド」という組み合わせはあまりにも基本的すぎて特筆する点が無いように見えますが、こういった「当たり前のように見えるギミック」をユニットとして捉え評価していき、デッキの評価やチューンに活用していこうというのが、ユニット論のキモなのです。
このことによって、《タルモゴイフ》や《聖遺の騎士》のサイズを強化したり、山札の上を必要に応じてリフレッシュすることで《森の知恵》の強さを最大限に発揮することができるのです。
一見ユニットという単語のイメージとカードの組み合わせをユニットと定義していることで特定のカードの組み合わせをキーとしたデッキで活用する概念のように思えますが(実際、前回はより分かりやすくするために「石鍛冶」ユニットを例に挙げました)、ユニットの持つ特性を分析し、より相性の良いカードをデッキに組み込んでいけるというのがユニット理論の考え方のひとつなのです。
少なくとも、フェッチランドのシャッフルするという特性を活かそうという発想がなければ、Zooに《森の知恵》が採用されることはなかったのではないでしょうか?
ユニットを活用することによって、一見カード同士の相互作用が薄いように見えるZooの持つ力をさらに高めることができるのです。
そして、そんなZooにおけるユニット活用の象徴といえるのが《聖遺の騎士》でしょう。
《聖遺の騎士》は単体でも既に挙げた「デュアルランド+フェッチランド」ユニットとの相互作用によりマナ域最大サイズのアタッカーとして活躍しますが、さらに《聖遺の騎士》からは「《聖遺の騎士》+《森》《平地》+特殊地形」ユニットのサーチ能力により「《罰する火》+《燃え柳の木立ち》」ユニット、《Karakas》、《ボジューカの沼》と状況に応じたオプションを選択できます。
また、フェッチランドと同じように山札をシャッフルすることがほぼ毎ターンできますので、《森の知恵》の効果も最大化してくれます。このように《聖遺の騎士》ユニットは、数枚の土地スペースを割くことでZooに柔軟性を与えてくれるのです。
これらのユニットの数々は採用しなくてもZooデッキは成立します。ですが、デッキ内のユニットを意識してチューンすることで、単に大きいサイズのクリーチャーでビートダウンするだけではなく柔軟性や対処力の強化、リソースを増やすなど様々な事ができるようになります。
このようにデッキを構築したり既存のデッキのパワーの底上げをする際の助けになるのがユニット理論という概念なのですが、そうするためには各ユニットの内容を評価し、とあるユニットがどういう強さを持っていて、他のユニットとどう結びつくのか知っている必要があります。
そこで前回からの予告通り、今回はユニットを評価する上での『ユニットのパラメーター』のお話をしようと思います。
■ユニットを評価する6つのパラメーター
それではユニットを評価していくうえでの6つの要素について解説します。
6つの要素とは【勝利貢献度】【リソース貢献度】【親和性】【独立性】【ボリューム】【副次効果】です。
このうち、【勝利貢献度】【リソース貢献度】【ボリューム】【副次効果】に関しては今まで数々のデッキ構築・解説記事の中で触れられてきた、皆様にとってもお馴染みの要素となります。まずはこの4つに関して前回のおさらいも兼ねて簡単に解説していきます。
【勝利貢献度 → ゲームの勝利にどれくらい貢献できるか】
マジックにおいて勝利するため、つまり相手のライフを0にするためにどれだけ貢献するかを表すパラメーターです。
自分の盤面に強固なクロックを展開する、相手の盤面のクロックを排除する、このどちらかが得意であればそれだけ勝利貢献度は高いといえます。
また、マジックにおける「相手のライフを0にする」以外の勝利条件-相手のライブラリー切れ、毒殺、その他勝利条件を満たすことの出来るユニットもこのパラメーターが高くなります。
レガシーで今まさに猛威を振るっている「《実物提示教育》+α」は勝利貢献度の高いユニットの代表例と言えるでしょう。
【リソース貢献度 → 勝利に直接貢献しないリソースをどれくらい確保できるか】
勝利貢献度で扱わないリソース-マナ、手札、ライフなど、それ単体では勝利に貢献しないリソースを増やすのにどれだけ貢献するかを表すパラメーターです。
「《壌土からの生命》+サイクリングランド」のような直接的にリソースを増やすものや、「《師範の占い独楽》+《相殺》」のように相手のカードプレイを阻害することで実質的なリソース差をつけていくものなど多岐に渡ります。
リソース貢献度の高いユニットのみではゲームに勝利することは出来ません。しかし、リソース貢献度の高いユニットで勝利貢献度の高いユニットの構成カードをいち早く揃えたり、多くのマナや手札を要求するタイプの勝利貢献度の高いユニットのプレイを可能にしたりと、結果的に勝利に繋がる要素と言えます。
マジックの基本的な勝利への道筋は「リソース貢献度の高いユニットでリソースを稼ぐ→獲得したリソースを基に勝利貢献度の高いユニットを使用し勝利する」というリソース変換を通して行われていると言っても過言ではないでしょう。
勝利貢献度とリソース貢献度、この二つを兼ね備えたデッキは強いデッキを作るための両翼であると言えます。
「《燃え柳の木立ち》+《罰する火》」は勝利貢献度とリソース貢献度が両立するユニットの代表例ですね。
(ただし、それぞれ勝利貢献度とリソース貢献度を個別で見た場合に最高のユニットであるかと言うとそうではないので、それぞれ他のユニットで補う必要があります。)
【ボリューム → 直接的にどれくらいデッキ内のスロットを使用するか】
いわゆる「デッキのスロットを何枚使うか」です。
ここで挙げるのはあくまで目安となる枚数を基準としたものになります。
【副次効果 → 本来求めている目的以外に果たしてくれる役割】
ユニットが本来目指している効果に加えて副次的に得られる効果です。
前回紹介した「《Helm of Obedience》+《虚空の力線》」ユニットが代表例と言えます。(瞬殺コンボ+墓地対策)
上記のユニットはレガシーではあまり見ないですが、強力な墓地利用カードが多数使用されるヴィンテージではよく見るユニットです。
「《Helm of Obedience》+《虚空の力線》」ユニットにおける墓地対策は目に見えて判りやすい効果ですが、デッキをシャッフル出来る(フェッチランドなど)、デッキの上数枚の順番を決められる(《師範の占い独楽》絡みのユニット)、メインから《紅蓮破》を活用できる(「《絵描きの召使い》+《丸砥石》」ユニット)など、小さなものから大きなものまで多岐に渡ります。
副次効果によってユニット同士の結びつきが円滑に行われる事も少なくありませんので、デッキ構築の際には意識しておきたいポイントです。
ここまでの4つのパラメーターは過去さまざまな記事で幾度と無く解説されてきた内容が多く含まれていますので、皆様もすんなり理解できるかと思います。
それでは、改めて今回の本題である【親和性】【独立性】についての話をしていきたいと思います。
■親和性とは
ユニットの親和性とは、「そのユニットが他のユニットにどのくらい良い影響を与えるか」ということです。
一口に良い影響、と言ってもその内容は多岐に渡ります。以下にいくつか親和性の高さの代表例を挙げていきたいと思います。
・ユニットの構成要素が代替が利くものが多い。
(例:「《師範の占い独楽》+《相殺》」ユニットにおいて、《師範の占い独楽》を《渦まく知識》で代替できる。)
・ユニットの構成要素が他のユニットの構成要素の一部、または代替になっている。
(例:「《師範の占い独楽》+《相殺》」ユニットを採用しているデッキに「《渦まく知識》+フェッチランド」のユニットを一緒に入れることで《師範の占い独楽》と《渦まく知識》が相互のユニットの代替手段として働く。また、同時に《思案》を採用することでより構成要素の代替手段を増やす事が出来る。)
・ユニットの副次効果が他のユニットの構成要素の一部、または代替になっている。
(例:「《渦まく知識》+フェッチランド」ユニットを採用しているデッキに「《悟りの教示者》+エンチャント」ユニットを採用することで、シャッフル手段を増やすことが出来る。)
・ユニットの構成要素、副次効果が他のユニットの運用に活用できる。
(例:「《師範の占い独楽》+《相殺》」ユニットを採用しているデッキにおいて、フェッチランドでデッキをシャッフルすることにより上から三枚のカードをリフレッシュし、《相殺》の成功率を上げることが出来る。)
前回からユニットの説明の際に度々「《師範の占い独楽》+《相殺》」「《渦まく知識》+フェッチランド」の例を挙げていますが、いわゆる独楽相殺デッキは親和性の高さがレガシー界でもピカイチです。
ユニット同士が互いに補完し合う例としてこれほど適切なデッキは他に無いと言えるでしょう。
一時はメタゲームの変化によって主流のデッキとは言えなかったのですが、新たに「《師範の占い独楽》+《相殺》」と親和性を持つギミックとして、奇跡呪文の《終末》《天使への願い》がカードプールに加わったことにより、再び注目されるユニットとなっています。
■独立性とは
ユニットの独立性とは、「そのユニットをデッキに入れる時に、他のユニットに制限を与える事無くデッキに入れる事ができるかどうか」ということを示しています。
あるユニットを入れる時に、他のユニットに対して影響がないカードは「独立性が高い」と言えます。
逆に、他のユニットを入れる時に制限や影響を与えるカードは「独立性が低い」という事になります。
例として、部族デッキであるゴブリンデッキについて独立性の視点から見てみます。
ゴブリンデッキを「ゴブリン」ユニットとして捉えた場合、「ゴブリン」ユニットとしての中心は、「《ゴブリンの従僕》《霊気の薬瓶》《ゴブリンの戦長》+《ゴブリンの女看守》《ゴブリンの首謀者》」ユニットが心臓部分であると言えます。
これに加えて「《鏡割りのキキジキ》+《稲妻造り士》+《スカークの探鉱者》」ユニット(無限ダメージ)、「《ゴブリンの酋長》or《ゴブリンの群衆追い》+《モグの戦争司令官》or《群衆の親分、クレンコ》」ユニット、「《ゴブリンの女看守》or《ゴブリンの首謀者》+《宝石の手の焼却者》or《巣穴の運命支配》」ユニット、というのが一般的なゴブリンデッキ内のユニット構成であると思います。
さて、ここでデッキの中核となっているユニットである「《ゴブリンの従僕》《霊気の薬瓶》《ゴブリンの戦長》+《ゴブリンの女看守》《ゴブリンの首謀者》」ユニットに注目してみましょう。
このユニットは、ユニットとして最大限のパフォーマンスを発揮する条件として『デッキの中のカードの大半がゴブリンカードである必要がある』という制限があります。
「《ゴブリンの従僕》《霊気の薬瓶》《ゴブリンの戦長》」の部分は手札のクリーチャーがゴブリンでなければ意味がありませんし、「《ゴブリンの女看守》《ゴブリンの首謀者》」の部分(特に《ゴブリンの首謀者》)はデッキの大半がゴブリンでなければアドバンテージを得る事ができません。
『デッキの中のカードの大半がゴブリンカードである必要がある』事をデッキに対して要求しており、このユニットは独立性が低いと言えるでしょう。
また、このことは逆にデッキ内にゴブリンを入れることを推奨しており、ゴブリンであれば多少ユニットそのもののパワーが低くても許容される一方で、ゴブリンでなければよほどパワーが高いユニットでなければ投入することが許容されないことを意味しています。
これらも、独立性の低いユニットの特徴といえるでしょう。
他にも例を挙げると
・《行き詰まり》をドローとして据えるためには、《行き詰まり》をプレイした時点で盤面が有利である必要がある、もしくは呪文以外の能力で盤面を有利にするカードがデッキに入っている必要がある。
・親和能力持ちと金属術能力持ちのカードを生かすため、親和デッキはその大半をアーティファクトにする必要がある。(前回で取り上げた「《電結の荒廃者》+《大霊堂の信奉者》」ユニットや、「《刻まれた勇者》+《頭蓋囲い》」など)
・《むかつき》デッキはデッキ内のカードの点数で見たマナコストを低く抑える必要がある。
独立性の低さを考慮せずにユニットをデッキの中に入れすぎてしまうと、理論上はデッキが回るはずなのに実際に回してみると動きがぎこちない…などという事が起きます。
自分のデッキの動きが良くないと思ったら、一度自分のデッキの中の独立性について考えてみてはいかがでしょうか。
■親和性と独立性
さて、皆様に親和性と独立性という二つの新しい概念を説明いたしました。
ここで、親和性と独立性という二点のみに注目してユニットを分類すると、
親和性高/独立性高:デッキに難なく投入でき、他のユニットとのシナジーも豊富で使い勝手が良い。
(《師範の占い独楽》+《相殺》)
親和性低/独立性高:デッキには難なく投入できる。他のユニットとのシナジーは無い。
(《引き裂かれし永劫、エムラクール》+《実物提示教育》)
親和性高/独立性低:他のユニットとのシナジーは多いが、デッキに投入する場合には制限がある。
(部族関係のユニット全般)
親和性低/独立性低:他のユニットとのシナジーは無い。デッキに投入する場合には制限がある。
このように分類できます。
当然の話ではありますが「親和性と独立性が高いユニット=強いユニット」ではありません。
親和性や独立性も低いユニットでも、例えばそれが揃ったらゲームに勝つというものであれば、十分デッキに採用するに値します。
例えば、《実物提示教育》デッキは勝ち手段にあたる「《実物提示教育》+α」のユニットは親和性は低いです。せいぜい《実物提示教育》が《Force of Will》のコストになる程度でしょう。 しかし《実物提示教育》で戦場に出すカードは当然マナコストの高いパワフルなカードです。《集団意識》、《引き裂かれし永劫、エムラクール》、《グリセルブランド》、《大祖始》、《ドリーム・ホール》、《全知》とバリエーションは多々ありますがいずれもそのターン、もしくは次のターンに勝つことができます。
もう1例、過去のデッキからの例を挙げてみましょう。
かつて2000~2001年頃のエクステンデッド環境を席巻していたドネイトデッキは、カードプールや禁止カードの変遷によっていくつかのヴァージョンがありますがいずれも「《Illusions of Grandeur》+《寄付》」ユニットを軸としたコンボデッキです。
このユニット、それぞれのカード単体では《Illusions of Grandeur》はライフを前借りするだけの(しかも累加アップキープによりいつか自壊してしまいます)カードですし、《寄付》は自分のパーマネントを相手に渡す意味の分からないカードです。
しかしながら、《Illusions of Grandeur》によって一時的に膨大なライフを得られること、《Illusions of Grandeur》が累加アップキープによって自壊すること、そして前借りしたライフの”返済”は壊れた時のコントローラーがすることに着目され、瞬く間に主流のコンボデッキとなりました。
そして「《Illusions of Grandeur》+《寄付》」デッキは、この瞬殺ユニットを軸として、相手に殴りきられる前にこの2枚を如何に効率よくかき集めてプレイするか、という方向で進化を遂げていきました。
揃ってしまえばゲームに勝つのであれば、デッキの残りの部分をそのユニットを揃えるために手札を揃えたり、唱えるためのマナを揃えるための構成にすれば良いわけです。
親和性と独立性をなぜ考慮するかと言えば、デッキの中に矛盾点を抱えることを回避し、よりデッキとしての効率を上げる事を目指すためです。
いくら強力なユニットを多数採用しているデッキだったとしても、各々のユニットの親和性が低くてユニット同士がバラバラになっていたり、独立性が低く他のユニットに対する制約だらけでがんじがらめになっていたとしたら本来想定していたパフォーマンスを発揮する事無くトーナメント会場を去ることになるでしょう。
昔から「デッキには単に強いカードを入れるだけでは駄目だ」という事は何度も言われてきていることではありますが、これを具体的に親和性と独立性という二つのパラメーターとして可視化し考慮することで、よりわかりやすく「無駄のないデッキ構築とは何か」「シナジーが美しいとはどういうことか」ということが理解していただけるのではないかと思います。
■実践例から見た親和性と独立性
では最後に、親和性と独立性をデッキ構築の際にどのように考慮すべきか、実際の例を見ていきましょう。
サンプルとしましては、プロツアー:アヴァシンの帰還・バルセロナでのイニストラードブロック構築で優秀な成績を収められました八十岡さんと行弘さん、この二人のデッキが親和性・独立性とデッキ構築を語る上で非常に良質なサンプルとなりますので、今回はこちらを例に取って見ていきたいと思います。
まず前提条件として、この環境には「無限コンボ」がありました。
「《栄光の目覚めの天使》+《悪鬼の狩人》+《ファルケンラスの貴種》(+《高原の狩りの達人》or《大聖堂の聖別者》」というユニットがそれです。
簡単にこのユニットの動きを説明しますと、《ファルケンラスの貴種》が戦場にある状態で《栄光の目覚めの天使》で墓地にある《高原の狩りの達人》と《悪鬼の狩人》を戦場に吊り上げます。
誘発した《悪鬼の狩人》の能力で自分の《栄光の目覚めの天使》を追放し、《ファルケンラスの貴種》でその《悪鬼の狩人》を生け贄に捧げます。
すると戦場に戻ってきた《栄光の目覚めの天使》の能力が誘発するので、それに対応して《高原の狩りの達人》を生け贄に捧げます。
こうすることで再び《悪鬼の狩人》と《高原の狩りの達人》が戦場に戻ります。このループを繰り返すことで無限ライフを得て、かつ《ファルケンラスの貴種》は無尽蔵に大きくなり、狼トークンが戦場を埋め尽くします。
《高原の狩りの達人》が《大聖堂の聖別者》になってもこのループは成立しますし、もちろん無くても無限パワーを持つ《ファルケンラスの貴種》を生み出すことは可能です。更に、万が一相手に飛行を持つブロッカーがいても《悪鬼の狩人》が2体あるならばループの過程で全てのクリーチャーを追放することが出来ます。
このユニットがもたらした勝ち星は少なくないはずです。
さて、このユニットをパラメーターで表してみましょう。
勝利貢献度:高
リソース貢献度:低
親和性:中
独立性:低
ボリューム:多
副次効果:※個別のカードの強さに依存※
それぞれについて、簡単に見ていきましょう。
●勝利貢献度:高
このユニットの最大のメリットといえるのが勝利貢献度です。
なにせ、無限コンボですのでそろってしまえば勝てますので、これ以上の勝利貢献はありません。
また、これは副次効果に含まれるかもしれませんが、単体でアタッカーとして運用できるクリーチャーが多いので、それらの攻撃によって勝利を狙えるのも見逃せません。
クリーチャーの攻撃で勝利を目指すデッキであれば、より勝利貢献度を高く見積もることができるでしょう。
●リソース貢献度:低
一方で、リソース貢献度はかなり低いです。
コンボのパーツとなるそれぞれのカードが単体ではリソースをほぼ稼いでくれません。コンボが成立すればリソースは稼ぎ放題といっていいですが、ほぼ勝利している状態ですので、そこで獲得できるリソースはここでは考慮しないほうが的確に判断することができるでしょう。
また、見逃されがちですが、最低でも3枚のカードをそろえないといけない=余剰で3枚分のリソースを稼いでいないといけない、という形で他でのリソース獲得を要求していることも抑えておきましょう。
他でのリソース獲得を求めている=リソース貢献度が高いユニットを求めている=自身はリソースに貢献していない、ということになるからです。
●親和性:中
親和性に関しては、このコンボ自体は他の要素に対して大きく何かを要求することもないですし、一方でこのコンボに組み込みやすいほかの要素を探すのも簡単ではないので、高くも低くもないという評価でいいかと思います。
もちろん、他の要素を組み込めない、というわけではないので、決して親和性は低くありません。
たとえば、クリーチャーだけで成立するコンボですので、クリーチャーをサーチしたり呼び出したりする手段とは親和性があるといえるでしょう。
●独立性:低
前述のように、クリーチャーをサーチしやすいシステムと組み合わせない限りは、パーツをそろえるために、デッキの多くの部分を圧迫してしまうということと、パーツがあわせて4色であることでマナベースに大きく制限を与えています。
したがって、独立性はかなり低いと見ていいでしょう。
逆に、この独立性の低さをどう緩和できるかがこのユニットを運用するキモになってきそうです。
●ボリューム:多
最低3枚、勝つためには4枚のカードを手札にそろえなければなりません。
このユニットだけで勝利を目指すなら、それぞれ4枚ずつ、16枚分のデッキスペースを占領することになります。
ボリュームはかなり多いほうだといえるでしょう。
●副次効果:※個別のカードの強さに依存※
勝利貢献の項でも説明したように、それぞれ単体で殴れるクリーチャーであるということは、副次効果として抑えておきたい部分です。
また、《ファルケンラスの貴種》の生贄にささげる能力や、《悪鬼の狩人》の除去能力のように、それぞれのクリーチャーが持っている能力も副次効果としてカウントしてかまわないでしょう。
これらをまとめると、このユニットは採用するに値するだけの勝利貢献度を持っており、副次効果も多岐にわたる代わりに、主にボリュームの多さからくる独立性の低さとリソース貢献度の低さという弱点をもっていることがわかります。
つまり、このユニットを運用するには、
・いかにマナベースの不安を解消するか
・いかにボリュームの多さを解消するか
・いかにリソース貢献度の高いユニットと組み合わせるか
・いかに副次効果を活かしていくか
といった部分に注目していくことになります。
これらを踏まえて、二人のプロプレイヤーのとったプロセスを見ていきましょう。
まずは八十岡さんの方から見ていきましょう。(八十岡さんのデッキ調整記)
八十岡さんは最初からデッキの中心を前述の無限ライフユニットに据え、このユニットを軸として考える所からデッキ構築をスタートさせています。
そこからマナクリーチャーによるマナベースの強化を行い4色のビートダウンデッキとすることで独立性の低さの起因になっていたマナベースの不安定さをクリアし、かつボリュームの大きさも各構成要素のカードを無理なく活用することを可能にすることでデッキ全体の構成で吸収してしまっている形になります。
独立性の低さをデッキの他の部分で解消し、結果としてクリーチャーデッキとして相手をビートダウンしながら、隙を突いてコンボを決めることも出来る非常に力強さとテクニカルさを兼ね備えた素晴らしいデッキに仕上がっています。
それでは行弘さんの調整記も見てみましょう。(行弘さんのデッキ調整記) 行弘さんは《グリセルブランド》リアニメイトデッキを調整していく上でデッキパワーの低さを感じ、なんとかデッキパワーを底上げする方法を模索していました。 そんな中、公式連載記事の浅原さんの記事で無限ライフユニットの存在を知り、このユニットを自身のデッキに取り入れる決断を下します。 「《根囲い》、《信仰無き物あさり》+《堀葬の儀式》+《グリセルブランド》」というリアニメイトユニットは《グリセルブランド》が除去に耐性が無いため勝利貢献度としては若干物足りません。 しかし、一度《グリセルブランド》が戦場に出てしまえば、手札は溢れんばかりに増やす事が出来ます。リソース貢献度は非常に高かったわけです。 つまり、行弘さんのデッキには『多少リソースを無駄に消費してもいいからとにかく勝利貢献度が高いユニット』が必要であり、無限ライフユニットはこれにぴったりと合致していたのです。
5 《森》 2 《平地》 1 《山》 1 《沼》 4 《進化する未開地》 4 《魂の洞窟》 4 《断崖の避難所》 3 《孤立した礼拝堂》 -土地(24)- 4 《アヴァシンの巡礼者》 2 《軽蔑された村人》 4 《国境地帯のレインジャー》 4 《悪鬼の狩人》 4 《ファルケンラスの貴種》 4 《高原の狩りの達人》 2 《修復の天使》 3 《栄光の目覚めの天使》 -クリーチャー(27)- | 4 《信仰無き物あさり》 4 《火柱》 1 《忌むべき者のかがり火》 -呪文(9)- | 3 《スレイベンの異端者》 2 《墓場の浄化》 2 《情け知らずのガラク》 2 《解放の樹》 2 《ウルフィーの銀心》 2 《士気溢れる徴集兵》 1 《修復の天使》 1 《鷺群れのシガルダ》 -サイドボード(15)- |
4 《平地》 3 《森》 2 《山》 1 《沼》 4 《進化する未開地》 4 《断崖の避難所》 4 《森林の墓地》 1 《魂の洞窟》 -土地(23)- 4 《大聖堂の聖別者》 4 《悪鬼の狩人》 4 《国境地帯のレインジャー》 3 《ファルケンラスの貴種》 3 《高原の狩りの達人》 3 《栄光の目覚めの天使》 4 《グリセルブランド》 -クリーチャー(25)- | 4 《信仰無き物あさり》 4 《根囲い》 4 《堀葬の儀式》 -呪文(12)- | 3 《墓場の浄化》 3 《修復の天使》 3 《霊誉の僧兵》 3 《冒涜の行動》 2 《魔女封じの宝珠》 1 《ファルケンラスの貴種》 -サイドボード(15)- |
この二人の調整過程から分かるように、ユニットを分析しその問題点を理解することでそのユニットをいかに運用すべきかということが分析可能になります。
八十岡さんと行弘さんはそれぞれ全く異なる出発点からデッキ構築をスタートし、勝利貢献度が高くリソース貢献度と独立性が低い無限コンボユニットに対して八十岡さんは独立性、行弘さんはリソース貢献度の問題を解消することで効果的な運用を可能にしました。
では最後に、こちらのデッキをご覧下さい。
4 《島》 1 《森》 1 《山》 1 《繁殖池》 1 《蒸気孔》 1 《踏み鳴らされる地》 4 《沸騰する小湖》 3 《霧深い雨林》 3 《溢れかえる果樹園》 2 《銅線の地溝》 -土地(21)- 4 《瞬唱の魔道士》 3 《タルモゴイフ》 3 《永遠の証人》 3 《ヴェンディリオン三人衆》 -クリーチャー(15)- | 4 《稲妻》 3 《呪文嵌め》 2 《血清の幻視》 2 《蒸気の絡みつき》 3 《マナ漏出》 2 《差し戻し》 2 《知識の渇望》 4 《謎めいた命令》 4 《霊気の薬瓶》 -呪文(26)- | 3 《古えの遺恨》 3 《高原の狩りの達人》 2 《呪文貫き》 2 《焼却》 2 《不忠の糸》 2 《エレンドラ谷の大魔導師》 1 《墓掘りの檻》 -サイドボード(15)- |
2012マジック・プレイヤー選手権で八十岡さんが使用した青緑赤デッキ(フォーマットはモダン)です。
このデッキは先のブロック構築デッキと同じく、あるユニットを中核としてそこから派生する形で組まれたデッキです。 その中核となるユニットとは何か、そのユニットはどういうパラメーターなのか、そのユニットのメリットを伸ばす・デメリットを解消するためにどのユニットが採用されているか。
ユニットの分析から八十岡さんの思考・調整の過程をなぞってみるというのはいかがでしょう。きっとあなたのデッキ構築技術の糧になると思います。
では、また次回。