晴れる屋劇場 -Time waits for no one.-

大久保 寛


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 それは何もない日だった。

 「晴れる屋トーナメントセンター」はもはやどこにもない場所の名であり、その存在は流れゆく時間の中に置き去りにされ、人々の忘却の彼方へと消えつつあった。

 がらんとしたそのフロアで、潰えた未来の痛ましさを膜裏に刻みつけるように、その男はただ虚空を見つめていた。



 それは何でもない日だった。

 「晴れる屋トーナメントセンター」はいつもと同じ時間に開店し、いつもと同じように大会が開催され、『マジック:ザ・ギャザリング』に興じる人々で賑わっていた。

 メディアチームのデスクで、ブラインドから射し込む陽の眩しさを感じながら、その男はただ虚空を見つめていた。



「ついに、辿り着いたんだな……晴れる屋が“今日”を迎えた世界線へ……」








 彼の名はまつがん。一介の時間遡行者(タイムリーパー)だ。

 これまで数多の世界線を越え、“晴れる屋滅亡のシナリオ”を体験してきた。



時を越えた探索



 滅亡する。時を遡行する。滅亡の芽を摘む。すると今度は別の、新たな事案が芽吹く。

 幕なしに突き付けられる絶望の繰り返しに、彼の心は擦り切れかけていた。



 だからこそ、彼はその日付を頭の中で何度でも反芻した。

 辿り着いたその日、辿り着いたその瞬間を、噛みしめるかのように。

 運命を超克した喜びと実感が、彼の心を満たしてゆく。



 晴れる屋にとって“存在しなかったはずの1日”が到来しはじめていた。





 始まりは2013年のことだ。


メディアチームは解散






「な、何言ってるんですか?どうしてですか!?」






「現状メディアチームはまつがんしかいないし、この部署に割く予算がないんだよ。だからメディアチームは解散」








カタストロフィ



 これが彼の経験した、最初の終末(カタストロフィ)。

 店舗の移転と、それに伴う大規模な出費から、晴れる屋内部で事業が仕分けられ、そこで不要の烙印を押されたメディアチームは解散を余儀なくされてしまったのだ。

 自社メディアを失った晴れる屋はマジックファンから次第に忘れられ、客足も遠のいていった。

 彼は何度も時間遡行を試みた。そして、一つの“別ルート”へとたどり着いた。



メディアチームは解散






「現状メディアチームには自分しかいないし、この部署に割く予算がないから、ですよね」






「そうだね。申し訳ないけど、今はまつがん1人しかいない部署を回す余裕はないんだ」






……僕がいても、ですか?






つ、つむけん!?






「これからは僕も、まつがんさんと一緒に晴れる屋のメディアに貢献していきますよ!」








 最初の鍵。それは殿堂プレイヤー・津村 健志のHareruya Pros及びメディアチームへの加入だった。

 マジックをこよなく愛し、現役でプロシーンを駆け抜ける津村の記事は多くの読者に読まれるようになり、晴れる屋はますます注目を集めるようになっていった。

 こうして新たな仲間を得た晴れる屋メディアチームは存続。最初の終末(カタストロフィ)の運命は回避された。


 そして時は流れて2015年――



記事が炎上してしまった!!






「来月からまつがんの給料はうまい棒2本にします」








ハルマゲドン



 これが彼の経験した、2度目の破滅(ハルマゲドン)。

 このままでは晴れる屋というより彼自身の人生が終わることになってしまう……

 だが、どれだけ時間遡行を繰り返して記事を書き直しても炎上してしまう。これは“運命の収束点”のようで、この事実だけは変えることができないようだった。



「来月からまつがんの給料はうまい棒2本にします」






「やはりうまい棒……もはやうまい棒2本だけで生き抜く術を模索するしかないのか……!?






「待ってください齋藤さん! 個人・法人を問わずどんなメディアも大なり小なり炎上する可能性はあるものですし、今回の出来事を次回に活かせばより高いクオリティのコンテンツが生み出せるはずですよ!」






「まつがん……いい仲間を持ったね。じゃあ今回は不問にするから、これからは一層ハッピーな記事を作ってよ!」








 2つ目の鍵。大久保 寛という新たな仲間を得て、まつがんはうまい棒を回避する。

 数々のコンテンツ制作現場を渡り歩き、修羅場をくぐり抜けてきた大久保は多少の炎上には動じない。

 こうして2度目の破滅(ハルマゲドン)の運命を回避することができた。


 そして、今――



「まつがんさん!晴れる屋の規模拡大に伴ってメディアとITとデザインチームのメンバーが足りません!」






「じゃあ、人材募集をかけましょうよ!」






「それじゃあみんなで力を合わせて、最高の募集ページを作ろう!!!」

















だ、誰も来てくれない……







デザイン知識IT知識のある人がいませんからね。PhotoshopやIllustratorなどのAdobeソフトを使用できて、晴れる屋のポップ作成やホームページのレイアウト、サプライのデザインなどに興味があるスタッフは限られていますし、人員が足りない今はどうしてもこんなクソみたいなページしかできないんですよ」







「ITチームのスタッフも晴れる屋のホームページの更新や保守作業などで手が空いていませんし、晴れる屋は週1日~シフト応相談で、スタッフは福利厚生の一環として大会参加費やサプライの購入などが割引される待遇もあって、仕事が終わった後はそのまま大会に参加できるから、どうしても僕たちだけでやるしかないんですよ」







「たしかにマジックが大好きなスタッフばかりだからみんなめちゃくちゃ仲がいいし、休憩時間や仕事が終わった後の時間を利用してデッキ構築の相談をしたり、ドラフトをしている姿もよく見かけるな……」







「労働環境も整備されているからほとんど残業もないですし、晴れる屋で働いていると仕事もプライベートも充実するので、ぜひ僕らと一緒に働いてくれる仲間がほしいのですが……」







「なんてことだ。このままじゃタスクが多すぎてチームが崩壊してしまう……この世界線でもダメなのか……!!」








 ようやく辿り着いたかのように思われた、晴れる屋が新たな1日を迎えた世界線。


 津村 健志や大久保 寛といった仲間を得てもなお、晴れる屋は滅びゆく運命にあるというのか――?



命運の核心



 否。彼にはもう、分かっているのだ。

 滅亡を回避する手段を。

 絶望の運命に抗う術を。



 だから――




「もう、何も怖くない」









 彼は晴れる屋の滅亡を阻止すべく、新たな仲間を探すため――




いっけえええええええええ!!!!!!

















 再び、時をかける。







「よし、新しい世界線へ飛んできたぞ」






「あっ、まつがんさん!晴れる屋の規模拡大に伴ってメディアとITとデザインチームのメンバーが足りません!」








 やるべきことは分かっている。



「みんなで力を合わせて、最高にバズる募集記事を作って仲間を集めるんだ!!!!!








■ “未来で待ってる”みなさんへ!



 この世界線で、私たちと一緒に晴れる屋滅亡の危機を阻止しませんか?

 晴れる屋ではメディアチーム・ITチーム・デザインチームで一緒に働いてくれるスタッフを募集しています!!


 募集要項条件などの詳細に関しては、下記リンクをご覧ください☆




 特にマジック好きの方は大歓迎! みなさまのご応募をお待ちしております☆








「終わりましたね」






「いや、チップはもう1つある……これも処分する必要がある」












「そんな、ダメですよ!一緒にいてください、僕たちが何とかしますから!!」






「危険が大きすぎる。この時代には残れない」






「待ってください、行くことないですよ……」






「……人間がなぜ泣くかわかった。さようなら
































– 完 –




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