皆さん初めまして。今回こちらで前編、後編と2回にわたって記事を書かせて頂くことになりました斉田 逸寛と申します。僕のことをご存じない方も多いと思いますので、簡単に自己紹介をさせて頂きたいと思います。
普段僕は東京、神奈川の草の根大会を中心に活動しています。カードショップのFNMやプレリにも参加しているので、東京近郊でMTGをしている方ならもしかしたら何処かで一度対戦しているかも?というくらい皆さんに近い存在だと思います。
そんな僕が何故今回このように記事を書かせて頂けることになったかというと、先日行われ、こちらのサイトでカバレージが掲載されている「PWC Championship2011」(以下PWCC)でせん越ながら優勝することができたためです。今回は、そのとき使用していたデッキ「赤緑ヴァラクート」についてと、PWCC優勝の経緯を書かせて頂きます。PWCCの話では少しメタが古くなってしまいますが、最新のGPダラスの結果を踏まえた考察もあるのでご容赦下さい。
このような記事を書くのは初めてなので至らない点も多いかとは思いますが、「プロにはちょっと質問しづらいけど、こいつならいっか」と思っていただければ幸いです(笑)意見や質問はいつでも受け付けておりますので、よろしくお願い致します。
1.現在の「赤緑ヴァラクート」で一番の安定性を誇るリスト、その名は「TSPD」
まずは実際に僕がPWCCで使用したリストをご覧下さい。
10《山》 5《森》 4《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》 2《霧深い雨林》 1《怒り狂う山峡》 4《広漠なる変幻地》 2《進化する未開地》 -土地(28)- 4 《業火のタイタン》 4 《原始のタイタン》 2 《ゼンディカーの報復者》 -クリーチャー(10)- | 4 《稲妻》 4 《探検》 4 《耕作》 4 《砕土》 2 《召喚の罠》 4 《カルニの心臓の探検》 -呪文(22)- | 4 《水蓮のコブラ》 4 《転倒の磁石》 3 《紅蓮地獄》 2 《自然の要求》 2 《召喚の罠》 -サイドボード(15)- |
このリストは第5期ミスターPWCのAKKAさんこと相沢 恵司さんが製作した「The Standard Perfect Deck(略してTSPDらしいです)」を基盤として僕が独自の調整を加えたものです。PWCCから1ヶ月が経過しようとする今もなお、このリストが赤緑ヴァラクートの中で一番安定した勝率を残せるであろうと僕は考えます。簡単に一般的な赤緑ヴァラクートとの違いを上げると……
■緑マナ14枚、山10枚
一般的なリストは緑マナ13枚、山11枚ですが、このリストは山が1枚減って緑マナの出る土地になっています。この1枚の差がこのデッキを支えていると僕は考えています。
この1枚の理由は単純明解で、ゲーム中に山が足りなくなることより緑マナが無くてマリガンすることのが圧倒的に多いためです。山の少なさはプレイングでカバーできますが、緑マナのないマリガンはどうしようもありません。しかし山が少ないことは事実なので常に山を無駄遣いしないことを念頭に置いてプレイングしなくてはいけません。
■《業火のタイタン》と《転倒の磁石》の4枚採用
基本的には《業火のタイタン》より上陸の噛み合いが強い《ゼンディカーの報復者》のがデッキには合っているのですが(もともとは《業火のタイタン》3枚、《ゼンディカーの報復者》3枚でした)今のメタが、Caw-Goがそれを許してくれません。《業火のタイタン》はビートダウンにはもちろんCaw-Goにも非常に強力なので4枚採用しています。
しかしこの8タイタン体制は《反逆の印》に弱いという弱点があります。もともと《反逆の印》があるデッキにはサイド後《業火のタイタン》を2~3枚減らして《ゼンディカーの報復者》で勝つのが一般的なプランなのですが、《ゼンディカーの報復者》を減らしてしまった今、《業火のタイタン》までいつも通り減らすとフィニッシャーが足りなくて負けるという状況が発生してしまいます。そこで採用されたのが4枚の《転倒の磁石》です。《饗宴と飢餓の剣》が登場して猛威を振るっているこの環境で《転倒の磁石》は《饗宴と飢餓の剣》を押さえ込めるトップメタ相手にも有効なカードで、苦手な《反逆の印》もケアできる非常に受けの広いカードになりました。この4枚の採用で《反逆の印》相手に《業火のタイタン》を抜く枚数を最小限に抑えることができます。
■《緑の太陽の頂点》の不採用
すでに皆さんもご周知だとは思いますが、これを採用する=《草茂る胸壁》などのマナクリを一定数採用することになります。これらのカードは「ビックマナなのに後半のマナブーストが腐らず火力になる」というヴァラクート最大の強みを潰してしまう要因になります。相手の手札でせっかく腐っている軽除去や《精神を刻む者、ジェイス》バウンスの格好の標的であることからも採用しないほうが安定性があると言えるでしょう。(詳細は後述しますが、《水蓮のコブラ》のみ別格です。)
このリストはかなり完成度が高いと思われるので、新しいエキスパンションが出るまで大きな変化はもうないと思われます。ただメタによって少しですが変えられるところもあるので後ほどお話します。
2.PWCC時のメタゲーム
当時メタゲームはCaw-Goで溢れかえっていました。実際僕もPWCCの直前までCaw-Goを使うかヴァラクートを使うか悩んでいました。ついには「Caw-goに強いCaw-Go」ということでタッチ赤をしたものまで登場する始末……。しかし、そのタッチ赤が出たことが僕の中でヴァラクートを使う決定打になりました。「メタは明らかにCaw-Goに偏っている。Caw-Goに強い《転倒の磁石》や《狡猾な火花魔道士》、《電弧の痕跡》はヴァラクートには弱いから、今ヴァラクートを使えばCaw-Goに勝てるようにしたデッキに勝てるだろう」というのが僕の見解でした。さらに直前になるとMOで《トゲ撃ちの古老》や《燃えさし鍛冶》に火力をこれでもかと詰め込んだ赤単が登場しました。このデッキも基本的にアンチCaw-Goなのでヴァラクートなら少しですが有利だと思います。よってこれも追い風となり、結果上記のリストでPWCCに臨みました。
では実際のどのようなデッキと対峙したか見てみましょう。
■予選ラウンド
Round1 Bye
Round2 Bye
Round3 赤単 ×○○
Round4 Caw-Go ○○
Round5 赤単t青 ○×○
Round6 赤単t青 ID
Round7 ボロス ID
■シングルエリミネーション
準々決勝 赤緑ヴァラクート ○×○
準決勝 青黒コントロール ○○
決勝 緑単エルドラージ ○×○
R1、R2がByeだったのでスイスラウンドは5回しかやっていないのですが赤単と3回も対峙しています。R4のCaw-Goも知り合いだったので試合後に構成を聞いたら《審判の日》を減らして、空いたスペースに《転倒の磁石》を採用して同系に強くしていたそうです。決勝の緑単エルドラージも《絡み線の壁》をCaw-Go対策にメインから採用していました。
ここまでメタられていたことからも、もしCaw-Goを使っていたらほぼ間違いなくここで記事は書けていなかったでしょう。実際に使用者は(参加者97人中)ヴァラクートの20人についで2位の17人(t赤やt黒を含む)だったにも関わらずベスト8には1人(t赤)しか残っていませんでした。やはりみんな「Caw-Goに勝てる構築、もしくはデッキそのものの選択」をしたようです。
よってメタ読みも的中し、シングルエリミネーションではダイス全勝で全て先手という幸運も重なり優勝することができました。こういったシングルエリミネーションまである大会で優勝できたのは初めてだったので素直に嬉しかったです。
3.グランプリバルセロナ~グランプリダラスを終えてメタゲームに合わせたヴァラクートの変更
その後海外でスタンダードのグランプリが2つ行われました。どちらも1,000人を超える大会だったので今後のメタゲームに大きな影響を与えると思われます。まずはPWCCと同時期に開催されたグランプリバルセロナの結果を振り返ってみましょう。
グランプリバルセロナ結果
優勝 「青黒コントロール」
準優勝 「赤緑ヴァラクート」
3位 「青緑赤ターボランド」
4位 「赤緑ヴァラクート」
5位 「青緑赤ターボランド」
6位 「Caw-Goタッチ黒」
7位 「青黒コントロール」
8位 「Caw-Goタッチ黒」
優勝は青黒コントロールで、純正のCaw-Goは1人も残っていません。やはり海外でもCaw-Goに勝てることが前提だったと思われます。
この結果だけ見るとヴァラクートの構成を下記のように変えられます。
「メインの《稲妻》4枚とサイドの《水蓮のコブラ》4枚を入れ替え」
一見サイドチェンジのようですが、メインに《水蓮のコブラ》を採用して《稲妻》をサイドに落とすということです。青黒コントロールの復権により上位3つのメタは「赤緑ヴァラクート」、「青黒コントロール」、「Caw-Go」となりました。Caw-Goは今回は勝てませんでしたが、デッキパワーは依然健在なので上位メタ内ということに変わりはないです。《稲妻》はCaw-Go相手に装備クリーチャーを弾けたら優秀ですが他の2つには弱く、逆に《水蓮のコブラ》は3つのデッキ全てに劇的な働きをします。このようにトップメタだけでなく、上位のメタが固まったときには思い切った変更をすることもできます。
ちなみにメインで変えられるのは《稲妻》のスロットだけだと思います。候補をまとめると……
■《稲妻》
万能。ビートダウン相手には欠かせない存在であり、コントロール相手にも本体やプレインズウォーカーでいつでも腐らないのが魅力。ほとんどのメタはこれで安定。
■《水蓮のコブラ》
コントロールと同系に劇的な働きをする。しかし対ビートダウンにはめっぽう弱く「トップメタが青黒コン」くらいでメインに採用するのは危険。上位3~4つのメタ全てに強い場合のみメイン採用可。
■《紅蓮地獄》
逆に対ビートダウン専用。ゴブナイトが流行ったときはこれを使ってました。ただし1枚引ければいいので
《紅蓮地獄》3枚
《稲妻》2枚
など散らしたほうが良いでしょう。
サイドボードは《自然の要求》の枠が変えられますね。候補は……
■《自然の要求》
《饗宴と飢餓の剣》への対策。また《神聖の力線》や《光輝王の昇天》なども触れるのが高得点。ただし本来追加のフィニッシャーを取りたい枠なので青黒コンの《記憶殺し》に弱くなる。
■《ガイアの復讐者》
追加のフィニッシャーを用意したい対コントロール戦で、打ち消しを構えた相手に出したいクリーチャーNo.1。《召喚の罠》の当たりが増えるのも頼もしい。しかし《饗宴と飢餓の剣》があると 《戦隊の鷹》に《饗宴と飢餓の剣》付けてアタック→土地アンタップ→もう1体の《戦隊の鷹》に《饗宴と飢餓の剣》付けてエンドという動きが頻発してしまう上に、そのまま負けにつながってしまうので、今の環境だとそこまで強くないと思います。
■《槌のコス》
同じく追加のフィニッシャー。コントロール側はサイド後こちらが《稲妻》を抜いてることを見越して、次のターン6マナ揃わないときにフルタップ《精神を刻む者、ジェイス》で最初からブレインストームしてくることが多いので、そこの返しでキャストできると勝ちは目の前です。後半引いたら若干弱いところと、《呪文貫き》にひっかかるのが少し痛いですね。
■《強情なベイロス》
赤単などが増えたら。時間稼ぎには最高。《饗宴と飢餓の剣》のディスカードから出せますが《ガイアの復讐者》と同じ状況になるのでCaw-Goには入れません。
上記のリストで変更できるとしたらこれくらいかと思われます。少し話が逸れてしまいましたが、とりあえず次に大会に出るとしたらメインに《水蓮のコブラ》だなーと思っていた矢先にGPダラスが開催されました。
突然ですが皆さん、GPバルセロナの結果を受けてもし自分が青黒コントロールを使うとしたら除去として《喉首狙い》と《破滅の刃》のどちらを採用しますか?
僕なら間違いなく《喉首狙い》を採用します。
理由は至極当然、同系に腐らないからです。また上位メタの赤緑ヴァラクートとCaw-Goにはどちらでも良いとなれば《喉首狙い》にしない理由はほとんどありません。さらに先ほど述べたようにもし僕がヴァラクートで次に大会に出るなら《稲妻》をメインから落とすと考えていました。僕だけでなくヴァラクート使いなら少なからず同じことを考えた人もいるはずです。
青黒コントロールは《喉首狙い》、環境から《稲妻》の減少、そこで勝ち上がったのは……
GPダラス結果
優勝 「Caw-Go」
準優勝 「青緑赤ターボランド」
3位 「青緑赤ターボランド」
4位 「Caw-Go」
5位 「青緑赤ターボランド」
6位 「Caw-Go」
7位 「青緑赤ターボランド」
8位 「Caw-Go」
優勝はCaw-Goでしたが、今まで明確な結果を残せていなかった青緑赤ターボランドがトップ8に4人と完全に勝ち組になりました。その躍進を支えたのは《先駆のゴーレム》ではないかと僕は考えています。
元々このクリーチャーは環境の最良火力《稲妻》に弱いということであまり表立った活躍はありませんでした。しかしCaw-Goではこいつを《審判の日》以外では対処できず、青黒コントロールは《喉首狙い》が効かず、上位メタに弱いことで環境から《稲妻》が減ってきているとなれば5マナで3/3×3体の超破格スペルに早変わりです。
さらに前述したとおり《水蓮のコブラ》は上位3つのメタに強いカードであり、それをも採用しているこの青緑赤ターボランドはかなり良いデッキ選択だったといえるでしょう。何せ《水蓮のコブラ》→フェッチから《先駆のゴーレム》で3ターン目にして場には11点クロックですから、これは対処できなければ即ゲームに勝てるレベルです。
以上のことから今週末僕がヴァラクートを使うならメインに《稲妻》を戻します。ヴァラクートは青緑赤ターボランドには相性が良いのですが、やはり早いターンの《先駆のゴーレム》は《稲妻》が無いと負けてしまうことと、Caw-Goと青黒コントロールに強い青緑赤ターボランドが流行ると、逆にそのターボランドに強い「ボロス」などビートダウンが増えるであろうことも予想できるため、より《稲妻》が必要になるでしょう。
さて、皆さんいかがだったでしょうか?次回は新エキスパンションの「新たなるファイレクシア」が発売した後、メタゲームの予想とヴァラクートのサンプルデッキなどを紹介したいと思います。ヴァラクートは新エキスパンションで余程の対策カードが出ない限り今後もメタゲームを席巻し続けるデッキであることは間違いないので、自分が使う側でも使われる側でもしっかりと知識をつけることが大事です。
それでは!また次回でお会いしましょう!