SE Table 4: 山川 洋明(東京) vs. 藤井 優作(東京)

晴れる屋

By Atsushi Ito

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 プロツアーの権利をかけた戦いは、普段のフライデーナイトマジックや草の根大会での一戦と異なるものだろうか。

 否。プロツアーの権利をかけた一戦とて、一戦は一戦だ。客観的に現象としてみれば、どちらも2人のマジックプレイヤーが相対しそして雌雄を決するという、その状況に変わりはない。

 ただ、主観的には両者は明らかに違うものだ。

 なぜならマジックプレイヤーにとって、「プロツアーに出場する」という体験がどこまでも特別だからだ。

 だからその体験を得られるか得られないかで、人生を左右するのではないかと思うほどの「分岐」を感じる。

 勝てばプロツアーへ行き。負ければいつもの日常へ帰る。

 その「分岐」を意識すればするほどに、プレイヤーの心は逸り、滾っていくものだ。

 しかしそれは同時に冷静さを失うということでもある。ミスをすることがどこまでも致命的になるこのゲームにおいて、目の前に迫った自分の未来の「分岐」を意識するということは、同時にその「分岐」で踏み外す可能性が高まることをも意味している。

 今、山川と藤井が置かれている状況はまさしくその「分岐」だ。

 だが、意外にも。

 そんな状況においても2人は落ち着いた表情で淡々とシャッフルをこなしていた。あるいは、努めて冷静であろうとしているのかもしれない。

 かつて清水 直樹を【日本選手権06】のトップ8に送り込んだ「ソーラーフレア」のデザイナーの1人であり、その後もいくつも名作を作り上げた知る人ぞ知るデッキビルダーである山川は、実は【プロツアー・バレンシア2007】への出場経験もある。

 藤井も【BMOスタンダード vol.2】でトップ8に残ったこともあり、ここ一番という大舞台での経験に不足はない。

 ゆえに、きっと2人は既に知っているのだ。一日の終わり、スイス7回戦を経て脳細胞が疲労で悲鳴をあげていたとしても、「今この瞬間に最高のパフォーマンスを発揮すること」こそが何より必要なのだと。

 2人のうちプロツアーに行けるのは、どちらか1人のみ。

 未来を占う運命の分岐点で、2人の現在が交錯する。



Game 1


 ダブルマリガンの山川が《反射魔道士》で果敢に攻める。

 対しワンマリガンの藤井は《搭載歩行機械》《棲み家の防御者》しか引きこんでいないものの、見た目上のダメージレースでは勝っているため、スペルを引き込むのを待つことなく《棲み家の防御者》を表返して《吹きさらしの荒野》を回収しながらダメージレースに応じる。

 互いのライフが減ってきたころ、山川の目論見が明らかになる。藤井の戦闘フェイズで《残忍な切断》、さらに続くターンにも《残忍な切断》。リソースも少なく、《反射魔道士》が2枚という細いクロックしかない状況で勝ちを手に入れるには、不利なダメージレースをあえて挑み、最後に除去でずらして勝つしかない。

 だが通常はアブザン相手にそのプランをとる者はいない。《包囲サイ》がいるからだ。


包囲サイ


 しかしその《包囲サイ》を、藤井は引き込めていない。それどころかドローはほぼ全て土地なのだ。《棲み家の防御者》は、いまだにスペルを回収できていない。

 それでも、山川のライフは残り1まで追い詰められる。虎の子の《残忍な切断》までも使いきり、ギリギリで守ったライフ1。《包囲サイ》を引かれていれば即負ける。

 だが、藤井はまだ《包囲サイ》を引き込めていないのだ。それどころか場と手札と合わせ、既に12枚の土地が見えている。ドローするたびに苦笑が漏れているような状況だ。

 そしてここから山川が土俵際の粘りを見せる。《乱脈な気孔》でアタックを開始したのだ。序盤のダメージレースのおかげで、この攻撃を受けて2人のライフは3対6。藤井の側にも余裕がない。

 ここでようやく《ニッサの誓い》を引き込む藤井。今まで散々待たされた分、これで《包囲サイ》が見つかるはず……と思わせておいて、その3枚もさらに2枚の土地と《搭載歩行機械》がめくれるのみ。



山川 洋明


藤井 「同じカードしか引かない……」

 やむなく《搭載歩行機械》をもらう藤井だが、分裂した山川の《搭載歩行機械》が1点クロックを刻み始める。

 そして藤井がようやく《棲み家の防御者》《搭載歩行機械》《ニッサの誓い》と土地の4種類のいずれでもないカード、《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》を引き込んだ返しのターン。

 山川のドローは《風番いのロック》!!当然「強襲」で3/4飛行が2体降臨する。

 ラストドロー、とはいえ既に残りライフが2点で遅きに失した《アブザンの魔除け》を構えてのフルアタックも、山川のブロッカーに阻まれてわずかに届かず。

 10ターン以上も続いたゲームで、終ぞ藤井は《包囲サイ》を目にすることはなかった。


山川 1-0 藤井



Game 2


 さらに藤井の不運は続く。ダブルマリガンの憂き目にあってしまったのだ。

 だがそれでも《永代巡礼者、アイリ》《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を立て続けに《破滅の道》するが、残ったトークンが「強襲」を達成し、《風番いのロック》が降臨する。

 そして、どうにかこれも《衰滅》で返して事なきをえた藤井の前に、さらに《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が降臨。



藤井 優作


 これにはさすがに藤井の手が止まる。

 やむなく完全な回答にはならない《包囲サイ》でお茶を濁そうとするが、これには山川の潤沢な手札から一瞬で《残忍な切断》が飛び、《乱脈な気孔》と合わせての痛烈な一撃が藤井を襲う。

 それでも藤井は、残る手札を全て使い切りながら《搭載歩行機械》プレイからの《絹包み》で少しでもその時を遅らせようとするが。


破滅の道


 「覚醒」込みの《破滅の道》が、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》だけでなく《乱脈な気孔》をも対処不能なサイズに成長させる。

 そしてこの2枚を同時に対処することは、手札がなく毎ターンのドローに期待するしかない藤井にとってはもはや不可能だった。


山川 2-0 藤井



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