Deck Tech: 市川 ユウキの「ナヤブラック」

晴れる屋

晴れる屋

By Atsushi Ito

(スマートフォンの方は【こちら】)


 この男が【モダン神になったとき】から、「いつかこんな日が来るのではないか」と予感はしていたが。

 ついに、前人未到のダブル神が誕生するときが来たのかもしれない。

 【Team Cygames】所属のプロプレイヤーにしてモダン神・市川 ユウキが、今回の第6期スタンダード神挑戦者決定戦において7-1で迎えた最終戦を無事IDし、トップ8進出を決めたのだ。

 だが何よりも驚嘆すべきは、その異色の構築にある。

 市川が使用しているデッキのカラーリングは赤緑黒白、すなわちこれまでの【マルドゥグリーン】と全く同じで、《はじける破滅》《包囲サイ》《ゴブリンの闇住まい》といったよく見るパーツを骨子にしている点も同様なのだが、その他のパーツがカード選択や採用枚数も含めてあまりにも洗練されすぎているのだ。

 リストを一見しただけでは「どこがどう違う」と説明はしづらいのだが、市川は確かに【マルドゥグリーン】というアーキタイプに自分なりのスパイスを加え、しかも間違いなく改良を図っている。

 はたして市川はどのようなデッキ構築テクでもってこの「新型マルドゥグリーン」を作り上げたのか?

 早速本人にインタビューしてみた。





--「この新型の【マルドゥグリーン】を作り上げるにあたっては、どういった経緯があったのでしょうか?」

市川 その前に1つ訂正させてください。このデッキ、実は『マルドゥグリーン』じゃないんですよ」

--「え?じゃあ何なんですか?」

市川 『ナヤブラック』です」

--「『ナヤブラック』……ということは結局赤緑黒白の4色なわけだから、つまり『マルドゥグリーン』と一緒じゃないですか?」

市川 「全然違いますから! かーっ、この違いがわからんかねー!やれやれ、これはその違いについても懇切丁寧に説明するしかないかなー!……けどいいのかなー、語らせてもらっちゃって。長くなりますよ?」

--「(どんだけ語りたかったんだろうこの人) ぜひお願いします!」



『マルドゥグリーン』に対しての問題意識

--「そもそも市川さんはどうして『マルドゥグリーン』を調整しようと思ったんですか?」

市川 「それはスタンダードの既存のデッキの中で、このデッキが一番伸びしろがあると思ったからですね。特に『マルドゥグリーン』に関しては、往々にしてプロプレイヤーがこの手の鈍重でソーサリータイミングのカードが多いミッドレンジを好まない傾向にあることもあって、カードパワーの高さだけでメタゲームに食い込めてはいるものの、いくつかリストを見ても全く研究が進んでいないという印象が拭えませんでした。なので、この環境のPTやGPへの出場予定はなかったものの、『マルドゥグリーン』についてはずっと自分で調整してみたいと思っていたんですよね」

--「確かに市川さんといえば【プロツアー『マジック2015』】でトップ8に入った『ジャンドプレインズウォーカー』のように、パワーカード満載のミッドレンジが似合うイメージがあります。ですが具体的にはどういった点に対して『研究が進んでいない』と感じたのでしょうか?」


はじける破滅森の代言者


市川 「スペルの選択やマナベースについて、マルドゥベースにこだわっている点ですね。そもそも《はじける破滅》《ゴブリンの闇住まい》で使いまわす、という構造から『マルドゥグリーン』と呼んでマルドゥタッチ緑の風に装っていますが、最近では2マナ域に《森の代言者》を採用している形がメジャーになっているくらいなので、もっと緑をベースカラーにデッキを組みかえた方が良いんじゃないか、とずっと思っていたんですよ」



『マルドゥグリーン』と『ナヤブラック』との違い

--「それってどんな違いがあるんですか?」

市川 「まず緑をベースにすることで、除去呪文を回収したりしながら、2/3というサイズが多い環境においてアタッカーとしても機能する《棲み家の防御者》を運用しやすくなる、というのがありますし、強力な《アブザンの魔除け》をたくさんの枚数採用することもできます」


棲み家の防御者アブザンの魔除けコラガンの命令


市川 「一方《コラガンの命令》のように、2点の打ちどころがあるかどうかで効く相手と効かない相手のブレ幅が大きく、いくら《ゴブリンの闇住まい》があるからといってもスタンダードにおいてはあまり積極的にデッキに入れたくはない弱いカードなどを抜くことができ、全体的にカードパワーの底上げが図れるんです」

--「でもその割には、これはデッキリストを見て誰しも一番驚くポイントだと思うのですが、市川さんのデッキにも《神聖なる月光》とかいう一見痩せたカードが、しかもメインから入ってますよね」


神聖なる月光地の封印


市川 「これについては、単体除去に頼った鈍重ミッドレンジという段階でこのデッキは構造的に《先祖の結集》コンボに相性が悪くなってしまうのですが、構造的にデッキの相性が悪いときは極端なメタカードを採用して勝ちにいくべしというのが持論なところ、ちょうどキャントリップが付いていて他のデッキ相手にも腐らない対策カードがあるじゃないか!ということで、《神聖なる月光》はすんなりメインに搭載される運びとなりました。気持ち的には、『アヴァシンの帰還』あたりのスタンダードのジャンドミッドレンジに一時期メインから入っていた《地の封印》みたいなイメージですね」

--「言われてみれば確かに最低でも1ドローはできますし、効果も種々のトークン生成系のカードを無効化したりと、色々と役立つシチュエーションは多いですからね」

市川 「それに2マナキャントリップの呪文があることで、《焦熱の衝動》の『魔巧』を達成しやすくなったり、《ゴブリンの闇住まい》を積極的にプレイしやすくなったりと、地味な噛み合いもあります」


焦熱の衝動ゴブリンの闇住まい


--「なるほど。ただメインから相手の《集合した中隊》に合わせて気持ちよくなりたい、というわけではないんですね」

市川 「そうです。また『ナヤブラック』の場合、『黒はタッチ』という意識を持っているので、《ゲトの裏切り者、カリタス》《破滅の道》《無限の抹消》など、(B)(B)を要求する強力なスペルでも意識的に採用しないようにすることで、《ゴブリンの闇住まい》《炎呼び、チャンドラ》の(R)(R)を除いては、ダブルシンボルによるマナベースへの負担を排除した構造になっています」

--「フェッチ+バトランの世界ですから、ダブルシンボルだろうがなんだろうがやったもん勝ちのような気もしますが……」

市川 「いえ、甘いです。マナベース警察の私から言わせてもらえば、個人的には世の中の4色デッキのマナベースはよく破綻していると思っているくらいです」



デッキのマナベースへのこだわり

市川 「たとえばフェッチ+バトラン(+ミシュラン)ベースのダークジェスカイで4マナ域に《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》《ゲトの裏切り者、カリタス》を採用しているデッキがよく見られますが、声を大にして言いたいですね。世の中そんなに甘くはないぞ、と」


ゼンディカーの同盟者、ギデオンゲトの裏切り者、カリタス


--「と、言いますと?」

市川 「フェッチ+バトランベースの4色デッキの場合、『1ターン目バトラン( or ミシュラン)、2ターン目基本地形、3ターン目基本地形、4ターン目バトラン』という土地の置き方が理想的ですが、4ターン目にダブルシンボルの2択がかかっている場合、その4枚の土地で出せるシンボルの数は6つだけなのにもかかわらず、そのうちの4個が指定されている状態になるので、4色デッキとなると残り2つのシンボルは自ずと残りの2色になってしまいますから、結果として許容される土地の引き方が極めて不自由になってしまうんですよね。それだと噛み合わないバトランや基本地形を1~2枚素引きしたら一瞬で破綻しちゃいます。これを回避するには、《神秘の僧院》のような3色ランドを多く入れるか、ダブルシンボルは1色までに絞るしかない。そういうわけで『ナヤブラック』の場合も、違う色のダブルシンボルのカードは入れないようにしているんです」

--「この『ナヤブラック』で、他にもマナベース的に気を配った点はあるのでしょうか?」

市川 「たくさんあります。たとえばなぜ《燃えがらの林間地》だけ2枚入っているか?とか」


燃えがらの林間地燃えがらの林間地


--「確かに1枚でもよさそうなものですからね」

市川 「ところが、前提として『2ターン目《森の代言者》と3ターン目《はじける破滅》の両立』というのがあって、また『2ターン目《焦熱の衝動》から《乱脈な気孔》セット』というのも考えると、《燃えがらの林間地》を最序盤にサーチする需要は非常に高いわけです。でも赤マナ源として《燃えがらの林間地》だけが場にある状態で5ターン目に《ゴブリンの闇住まい》を出そうと思ったら手札に《吹きさらしの荒野》しかなかった……みたいなシチュエーションを避けるためには、《燃えがらの林間地》の2枚目が必要になるんですね。……とまあこんな感じで、土地の1枚1枚にも理由を持って構築をしているんです」

--「なるほど……市川プロは普段からそんなデッキの隅々まで気を配っているんですね」

市川 マナベースについては誰よりもこだわっていると自負していますので。マジックは事故るゲームとはいえ、デッキ構築段階で軽減できる部分も大きいので、無用のリスクは避けるにこしたことはないですね。おかげでこの『ナヤブラック』は色配分という意味では全然事故りませんし、緑ベース、《神聖なる月光》の採用と合わせて『マルドゥグリーンの進化形』といっても過言ではない出来に仕上がっているので、オススメです」

--「ありがとうございました」





 ここまで読んだ方にはもはや、「市川のデッキがあまりにも洗練されていた」というその理由は既におわかりのことだろうと思う。

 市川のデッキ構築哲学。それはマナシンボルの1つにさえ及ぶほどの繊細なリスク評価のもとで、細部に至るまで極限までバランスがとられた75枚の芸術を作り上げることにあるのだ。

 デッキビルダーがプロプレイヤーであるとは限らないが、プロプレイヤーは皆デッキビルダーでありリミテッド巧者でもある……そんな当たり前のことを思い出した。

 デッキビルダー・市川 ユウキの作り上げた洗練の極致。「ナヤブラック」、ぜひ一度試してみて欲しい。




市川 ユウキ「ナヤブラック」
第6期スタンダード神挑戦者決定戦

1 《森》
1 《山》
1 《平地》
1 《沼》
2 《燃えがらの林間地》
1 《梢の眺望》
1 《燻る湿地》
4 《血染めのぬかるみ》
4 《吹きさらしの荒野》
4 《樹木茂る山麓》
4 《乱脈な気孔》
2 《砂草原の城塞》

-土地(26)-

4 《棲み家の防御者》
4 《森の代言者》
4 《包囲サイ》
4 《ゴブリンの闇住まい》

-クリーチャー(16)-
4 《焦熱の衝動》
4 《神聖なる月光》
4 《アブザンの魔除け》
4 《はじける破滅》
1 《ムラーサの胎動》
1 《炎呼び、チャンドラ》

-呪文(18)-
4 《強迫》
4 《焙り焼き》
4 《光輝の炎》
1 《僧院の導師》
1 《精神背信》
1 《炎呼び、チャンドラ》

-サイドボード(15)-
hareruya



この記事内で掲載されたカード