By Hiroshi Okubo
目黒「決勝まで来れるとは思ってなかった」
加茂「僕もですよ(笑)」
席に着くや否や、そんなやり取りが行われる。その声の調子に謙遜や忌憚は一切混じっていないように感じられた。
両者ともたしかな実力を備えた強豪でありながら、身にまとう雰囲気は“休日、カードショップに遊びにきた一介のプレイヤー”といった様子だった。
加茂 里樹(東京)。
【BIGMAGICユニホーム契約プレイヤー「BIGs」】の一員であり、「第1回マナバーン杯」優勝、【プロツアー『ニクスへの旅』】出場といった戦績を持つ強豪プレイヤーだ。
首都圏のマジックコミュニティとの交流も広く、最近では【カードショップ遊々亭でコラムの執筆】もしており、活動の幅を広げている生粋のリミテッダーである。
そんな加茂が選択したデッキは「無色エルドラージ」。【トップ8プロフィール】ではデッキ選択の理由として『カンタン! ツヨイ!』と述べていた。実際のプレイングの難易は別として、たしかにあくまでも”基本に忠実なビートダウン”であり、リミテッド巧者である加茂にフィットしたデッキ選択と言えるかもしれない。
立ちはだかるのは目黒 将彦(東京)。
BIGMAGIC池袋店を拠点に【BMO】や【PWC】など関東の大会に精力的に参加しているプレイヤーだ。大舞台での活躍は少ないが、スイスラウンドを7-0-2という好成績で勝ち抜いていることからも、数多くの実戦で叩き上げられたであろう確かな実力が伺える。
レガシーでは「スニークショー」を愛用しているようで、今回も《全知》入りの「スニークショー」を手に、決勝ラウンドでも土つかずのゲームカウント4-0(2-0を2回)で勝ち上がってきている。
先攻はスイスラウンドを5位で突破した目黒。両者とも7枚の手札を静かに見つめ、フィーチャーマッチテーブルは静寂に包まれる。数秒の間をおいて目黒がキープを宣言すると、すかさず加茂もキープ宣言で呼応した。
このあと【配信】の都合でゲーム開始まで3分弱の時間が与えられる。緊張感が最高潮に高まったこのタイミングでの待機時間、2人の様子はどうかとチラリと窺うと……
加茂「うーん、(1ターン目)どうしよっかなぁ」
目黒「悩んでる(笑)」
その軽快な会話からは気負いや重圧といった重苦しい感情は見えない。
手札を眺めては深く息をつく様子から、緊張していないと言えば嘘になるだろうが。
緊張の中にも、試合を、マジックを、決勝という舞台を楽しもう。試合を前にする2人のやりとりからは、そんな気持ちが伝わってくるようだった。
第6期レガシー神挑戦者決定戦。その決勝戦が始まる。はたして勝利の女神はどちらに微笑むのか――?
Game 1
オムニテルを操る目黒の初動は《島》プレイと《水蓮の花びら》2枚を続けてキャスト! 加茂の《虚空の杯》をケアした先出しだ。
対する加茂は《古えの墳墓》から《エルドラージのミミック》。互いに好調な滑り出しを見せる。
目黒 将彦 |
続く第2ターン、目黒は《騙し討ち》をプレイ。早くもフィニッシャーを突き付けられ、ギャラリーと加茂の口からは思わず失笑が漏れる。
しかし、ここで加茂も負けじと第2ターンに《難題の予見者》! 目黒の手札は《グリセルブランド》《全知》《沸騰する小湖》。ここから《グリセルブランド》を抜き去り、《エルドラージのミミック》で4点クロックを刻む。ひとまず脅威を回避した形だ。
フィニッシャーを待つしかなくなってしまった目黒は何もできないままターンを明け渡し、加茂からはさらに2枚目の《難題の予見者》。これによって明かされた手札は《全知》と《実物提示教育》。
手札に《歪める嘆き》を握っており、《実物提示教育》に対処することができる加茂はここから《全知》を抜いて、《エルドラージのミミック》と《難題の予見者》で8点のクロックを刻む。
目黒のライフは8。もはや最後となってしまったドローを確認し、「ダメですね」と土地を片付け始めたのを見て、加茂がようやく一息つきながら「こえーよ……」と呟いた。
加茂 1-0 目黒
加茂の「無色エルドラージ」はモダンでもおなじみの《ウギンの目》と《エルドラージの寺院》に加えてレガシー特有の《古えの墳墓》、《裏切り者の都》といった2マナランドを最大で16枚採用することができ、さらなる安定性と展開力を手にした次世代のビートダウンデッキだ。
半面、その性質上無色のカード(および、ファイレクシアマナで支払える《四肢切断》などの除去)を中心に構築せざるを得ず、構築の幅が狭いことが弱点だ。
第1ゲームで加茂がゲーム開始時点からずっと手札に控えさせていた《歪める嘆き》は、そんな弱点を補う最高のユーティリティスペルであり、今回のマッチアップでも主に《実物提示教育》に対してカウンターのモードが活きる。
第1ゲームでは見事な噛み合いを見せて勝利を収めた加茂。はたしてこのまま突き抜けることができるか……?
Game 2
目黒は第1ターンに《Volcanic Island》から《渋面の溶岩使い》。このサイドボーディングは予想外だったのか、加茂からは「ムッ……」と声が漏れる。
一見パワー不足に見えるサイドカードだが、「無色エルドラージ」の序盤の攻めを担う《エルドラージのミミック》を封殺しつつ《作り変えるもの》に対してもアドバンテージを失わずに対処できる1枚だ。
加茂 里樹 |
これに対して加茂は《古えの墳墓》で《抵抗の宝球》。互いに第1ターンから受けに回る動きを見せる。
仕方なく目黒は2マナを支払い《思案》。3枚めくったカードを見て、じっくりと悩みつつ並べ替えて1ドロー。
加茂も第2ターンを迎えて頭を抱える。《抵抗の宝球》があるため、次のターンまでに目黒が2マナ土地を引いていなければ即死は免れるはず。目黒は2マナ土地を持っているのか、持っていないのか……数秒の小考を挟み、加茂はクロックの展開を優先させて《裏切り者の都》をプレイし「X=3」で《果てしなきもの》。
返す目黒の第3ターンにプレイされたのは《裏切り者の都》! 裏目を引いてしまった加茂の前に、《実物提示教育》が突き付けられる。互いにテーブルに1枚のカードを伏せ、目黒から先にカードをめくる。公開されたのは《グリセルブランド》だった。
これで勝負あったか。そう思って加茂の表情を見ると、ほくそ笑んでいる。加茂が伏せたカードは……
メインボード1枚挿しの《Karakas》! まさか持っているとは、と目黒も面喰らい、ターン終了の宣言とともに《グリセルブランド》がバウンスされてしまうが、もちろん目黒もスタックで7ドローし、二の矢を継ぐ。
《Karakas》で即座に処理できたとはいえ、《グリセルブランド》の起動型能力によって多大なアドバンテージを稼がれてしまった加茂。ひとまず《難題の予見者》でその手札から脅威を取り除きに行くが、そこにあったのは……
強すぎる7枚。加茂はひとまず《騙し討ち》を抜いたが、返す目黒のターンには《月の大魔術師》が登場する。
加茂は《果てしなきもの》と《難題の予見者》で攻撃を仕掛け、決着を目指す。この《果てしなきもの》は《渋面の溶岩使い》と(その起動型能力と合わせて)相打ちに取られてしまうが、《難題の予見者》の攻撃を通して目黒のライフを残り5まで追い詰める。
さらに加茂は《渋面の溶岩使い》に睨まれて手札で待機していた《エルドラージのミミック》を戦線に追加し、続くターンに《難題の予見者》と合わせてアタック。この猛攻を目黒は《月の大魔術師》のブロックと《コジレックの帰還》を合わせて残りライフ3でギリギリ耐え凌ぐ。
加茂はこのターンの攻防で攻撃の担い手を失い、目黒がフィニッシャーを引いていないことを祈るのみとなった。
続く目黒のターンに満を持してプレイされたのは《騙し討ち》!
これが即座に起動され、戦場に降り立ったのは――
目には目を。エルドラージにはエルドラージを。
戦場に降り立った最強の邪神は、加茂に残されたすべてのパーマネントとライフを貪り尽くした。
加茂 1-1 目黒
目黒のスニークショーはレガシー環境ではかなり伝統的なコンボデッキだ。その名を冠する《実物提示教育》や《騙し討ち》から大型クリーチャーをマナコストを踏み倒しつつ戦場に出し、圧倒的なカードパワーでゲームを決めるのである。
また、目黒のリストは《全知》も採用されており、《騙し討ち》を《真髄の針》などで止められても戦える構成になっている。
第2ゲームでは《実物提示教育》と《騙し討ち》の両方を駆使して息を呑む大逆転劇を見せてくれた目黒。これでゲームカウントは1-1。決着はいよいよ第3ゲームへ引き継がれることとなった。
Game 3
加茂がこのマッチで初めての先攻をとる第3ゲーム。互いに7枚の手札を即座にキープし、加茂が動き始める……
プレイされたのは「X=1」「X=0」の《虚空の杯》!
それを悲しげに見つめる目黒の手札は1ターンキルも可能な天和ハンドだったのだが……「X=0」の《虚空の杯》によって《水蓮の花びら》が止められてしまったことで身動きできない目黒を尻目に、加茂は第2ターン《エルドラージのミミック》をプレイする。
負けじと目黒の第2ターン、プレイされたのは《実物提示教育》!
これに対して動じることなく、《古えの墳墓》をタップして手札から呪文を唱える。加茂の手から繰り出されるは《歪める嘆き》!
これによって目黒の《実物提示教育》を打ち消し、加茂は思わずほくそ笑む。目黒の序盤の動きを完全に封殺し、一挙にペースをつかんだ加茂はさらに《アメジストのとげ》で目黒の首を締め上げながら追加の《エルドラージのミミック》を戦線に送り込んだ。
先手と後手が逆だったならば……手札に溜まった《水蓮の花びら》や《全知》、トップデッキした《引き裂かれし永劫、エムラクール》を呪いながら、なおも動くことのできない目黒に対し、加茂は引導を渡す「X=2」の《虚空の杯》。これで《残響する真実》による巻き返しの芽も摘み取られてしまう。
さらに《不毛の大地》で《古えの墳墓》までもが割られてしまうと、《アメジストのとげ》によってマナも足りない目黒は完全に逆転の可能性が失われ、勝者を称えるべく握手の手を差し伸べるのだった。
加茂 2-1 目黒
先手後手の差。タッチの差。ギリギリの綱渡り。数多の選択肢を選び抜き、薄氷の上に勝利をもぎ取った加茂。
白熱した試合を見せた両者を称えるギャラリーの歓声もそこそこに、2人はそれぞれ試合内容の検討を始める。この情熱が、この決勝戦を紡ぎ出したのだろう。
最古の神・川北が待つレガシー神決定戦では、はたしてどんな試合を見ることができるのだろうか? 今から期待が高まる。
第6期レガシー神挑戦者決定戦、優勝は加茂 里樹(東京)!
おめでとう!!