こんにちは。らっしゅです。
新セットの『イニストラードを覆う影』(以下SOI)のプレリリースが先週末に行われ、いよいよ今週末からは『SOI』が加わっての新しいスタンダード環境が始まります。
以前の環境からのカードプールの変化としては、『タルキール覇王譚』と『運命再編』がローテーション落ちで使用できなくなり、代わりに『SOI』が追加された格好です。スタンダード環境のローテーションについては大久保くんの記事でまとめられているので、もうちょっと詳しく知りたい、という方は【こちら】をご覧ください。
さて、【この連載】では週ごとにデッキや環境に起こる機微について話してきました。ただ、新セット発売されて間もない今週は、先週からの比較検討をすることはできないので、新環境ならではの話題を扱っていこうかと思います。
第1週目はどんなデッキを組めばいいの?
環境初期に流行するデッキはなに?
こんな疑問を解決する「攻略の鍵」をご紹介しましょう。
【前提】新環境の特徴とは?
複雑な話でもないので、いきなり疑問の解決に向かってもいいのですが、まずは一度、新環境という状況を整理するところから始めます。これは新セットが『SOI』だからといった細かい内容ではなく、これまでのMTGの長い歴史のなかで見られたお約束のようなものです。
◆ 新環境の特徴
・前環境から継続しているデッキがいる
・攻撃的なデッキが多い
・守備的なデッキは少ない
・前環境から継続しているデッキがいる
・攻撃的なデッキが多い
・守備的なデッキは少ない
この3点はいつの時代においても新環境で見られる特徴です。
ひとつ目の“前環境から継続しているデッキがいる”は、当然ではあるものの、新環境を考えるにあたって数少ない確かな情報になります。ドラゴン、エルドラージ、《集合した中隊》、トークン。例えばこの辺りを軸にしたデッキは健在でしょう。
ふたつ目の“攻撃的なデッキが多い”というのは、それらの多くが定石に沿った型をしているため、調整時間が短くとも比較的正しい形に構築できるからです。どのカードがどれくらい強いのかすらわからない新環境では、デッキの最良の形は疎か、ぼやっとした形状を知ることさえ難しいものですが、攻撃的なデッキならば誰でもその輪郭を掴むことはできます。
みっつ目の“守備的なデッキは少ない”のは、ふたつ目の裏返しの内容でもあります。コントロールのような守備的なデッキとは、環境に存在するデッキを把握したうえで、それらに対応するように構築されます。つまり、どんなデッキが有力か定かではない新環境においては、守備的なデッキは適切な形に組み上げることはできないのです。
ざっとした新環境の特徴は以上になります。構築の難易度が数や結果に反映されることが多く、構築難度の低い攻撃的なデッキに最初は人気が集まります。プロの間では「環境の最初はアグロ(攻撃的なデッキ)から」なんて格言めいた言葉も交わされるほどです。それでは、これらを踏まえたうえで「攻略の鍵」へと話を進めましょう。
【攻略の鍵その1】理想的な3拍子が揃ったデッキを組もう
MTGに3拍子という単語はなく、あくまでも僕なりの表現に過ぎません。ホップ・ステップ・ジャンプでもいいのですが、とにかく“3ターン連続する行動”をくくった言葉です。
これだけではわかりにくいと思うので例を出しましょう。
今は昔となった「ファイアーズ」というデッキは、1ターン目に《極楽鳥》、2ターン目は《ヤヴィマヤの火》、3ターン目の《ブラストダーム》という一連の行動を持ち味としていました。このように“デッキを定義する3ターン連続した行動”を3拍子と呼ぶことにします。
3拍子は良いデッキを構築するには欠かせない観点です。
デッキを構築するにあたって重要なことは、そのデッキがいつ有利に立ち、どうやって勝利するのかを明確にすることです。これが漠然としているデッキほど、要点の見えないカードの応酬を続けるばかりで勝ちきれなかったりします。逆に3拍子を起こす時間帯を把握していれば、そのデッキがいつ有利になるかがわかっているので、そこで生まれたリードを広げて勝利につながるように構築することができます。
メタゲームやデッキ相性を加味したカード選択も重要ですが、情報が少ない第1週目は特に、自分のデッキの都合だけを優先してでも“得意な時間帯でしっかりと勝ちきれる構成”を組み上げることが何よりも大事です。あれもこれも気になるカードを端から詰め込みたくなる時期ですが、デッキの目的と得意な時間帯が何かを整理して、使いたいカードが本領発揮できるように3拍子を意識した構築をおすすめします。
【攻略の鍵その2】前評判で有力なデッキを知ろう
簡単な傾向や特徴などは【前提】においてある程度の説明をしたので、ここではより具体的なデッキやキーカードについて触れていきます。
◆ 黒赤吸血鬼
8 《沼》 7 《山》 4 《燻る湿地》 4 《凶兆の廃墟》 1 《精霊龍の安息地》 -土地 (24)- 4 《搭載歩行機械》 4 《ファルケンラスの後継者》 4 《精神病棟の訪問者》 4 《戦争に向かう者、オリヴィア》 4 《雷破の執政》 3 《強欲なドラゴン》 -クリーチャー (23)- |
2 《強迫》 4 《龍詞の咆哮》 3 《究極の価格》 4 《癇しゃく》 -呪文 (13)- |
《ファルケンラスの後継者》からの《手に負えない若輩》など『マッドネス』エンジンが注目を浴びている「黒赤吸血鬼」は人気を集めるデッキになりそうです。かつての「青緑マッドネス」愛好家にとっては垂涎のデッキタイプではないでしょうか。
そんな「黒赤吸血鬼」のキーカードは《戦争に向かう者、オリヴィア》です。
3マナ3/3飛行という高めの基礎スペックに加えて、速攻付与の強化能力までついている超・吸血鬼は、ひとたび戦場に残ったが最後、ゲームの趨勢を決めてしまう性能を秘めています。単体では《カマキリの乗り手》ほどのプレッシャーはないものの、その強化能力まで踏まえると、その脅威度は《カマキリの乗り手》を上回ります。どのデッキを使うにしても3ターン目の《戦争に向かう者、オリヴィア》には対応できるように準備しておきましょう。
さて、そんな《戦争に向かう者、オリヴィア》が強い「黒赤吸血鬼」ですが、《ファルケンラスの過食者》や《貪欲な求血者》で序盤から攻撃する構成には、やや期待はずれな印象を受けました。「青緑マッドネスの再来だ!」と喜び勇んで組んではみたものの、ふと気がつけば共通しているのは《アクアミーバ》と《尊大なワーム》くらいで、まるで別物のデッキだということがわかりました。《不可思議》もフラッシュバック呪文もない時点で察するべきだったのかもしれません。回避能力に乏しく、リソースの消費も激しいため、共鳴者と『マッドネス』に偏った強いデッキを構築することは難しそうでした。
ただ、この過程において《ファルケンラスの後継者》と《戦争に向かう者、オリヴィア》が飛び抜けて強いカードであるとわかったことは収穫でした。やはり基礎スペックが高くてかつシナジーもあるカードは安心して活躍してくれます。上のサンプルリストのようにドラゴンと組み合わせた構成にせよ、《ヴリンの神童、ジェイス》まで手を伸ばした多色や《異端の癒し手、リリアナ》を使ったコントロールチックな構成にせよ、主軸はこの2枚になりそうです。
◆ エルドラージ
10 《山》 4 《シヴの浅瀬》 1 《戦場の鍛冶場》 4 《領事の鋳造所》 4 《ウェストヴェイルの修道院》 2 《繁殖苗床》 -土地 (25)- 4 《搭載歩行機械》 4 《面晶体の這行器》 4 《不快な集合体》 4 《飛行機械技師》 4 《ピア・ナラーとキラン・ナラー》 4 《難題の予見者》 4 《現実を砕くもの》 -クリーチャー (28)- |
4 《多勢》 3 《炎呼び、チャンドラ》 -呪文 (7)- |
前の環境から引き続いての登場を果たしたのは「エルドラージ」です。頼みの綱の《精霊龍の墓》がローテーション落ちしたことは大打撃でしたが、幸運なことに新たに強力な無色土地を手に入れました。
何かと話題になっている《ウェストヴェイルの修道院》です。起動コストが大きく、いざ《不敬の皇子、オーメンダール》が対処されてしまうと絶体絶命に追い込まれてしまいますが、そのコストとリスクに見合うだけのリターンを秘めている土地です。
現環境には「エルドラージ」以外にもトークン+《ウェストヴェイルの修道院》の戦略をとるデッキはいくつか存在します。いざ出てきてから困らないように、メインボードから《石の宣告》や《停滞の罠》などの追放除去を用意しておいたほうがいいかもしれません。
それでは「エルドラージ」の話に戻りましょう。
《搭載歩行機械》《飛行機械技師》《ピア・ナラーとキラン・ナラー》から生まれる飛行機械トークンのおかげでクリーチャーの数に困らないことがデッキの持ち味です。またそれを有効利用するために、《ウェストヴェイルの修道院》に加えて《不快な集合体》や《多勢》のような“戦場により多くのクリーチャーがいるほど強くなる”カードを用意することで、一貫した戦略を採っています。
ただ、こうして一貫した戦略がデッキに浸透するに連れて、とあるカードが浮いた存在になりつつありました。そのカードとは、モダン環境を荒らしまわった《現実を砕くもの》です。
これが持つ除去耐性と攻撃力の高さは既に証明されていますが、それが現在の「エルドラージ」にとってどれほど有用なことなのかは疑問視されています。サイドボード後にトークン対策を掻い潜って攻撃する姿は頼もしいのでサイドボードには控えていて欲しいのですが、果たしてメインボードに4枚も採用すべきカードなのかは難しい判断です。
◆ 白系ミッドレンジ
10 《平地》 2 《島》 4 《大草原の川》 4 《進化する未開地》 4 《港町》 -土地 (24)- 4 《搭載歩行機械》 4 《白蘭の騎士》 4 《空中生成エルドラージ》 4 《反射魔道士》 4 《徴税の大天使》 4 《龍王オジュタイ》 -クリーチャー (24)- |
4 《石の宣告》 2 《絹包み》 4 《永遠の見守り》 2 《停滞の罠》 -呪文 (12)- |
大量の白マナに満ちたマナベースが特徴的な「白系ミッドレンジ」は、強力な3拍子を持つデッキとして知られています。白青や白緑など2色目によって若干の違いは見られるものの、基本的には3・4ターン目の《永遠の見守り》と《徴税の大天使》で一気に優位を勝ち取るデッキです。
この2枚が織りなすコンビネーションは、クリーチャーデッキに対しては無類の働きを見せます。《徴税の大天使》の能力には、攻撃してタップ状態になると”弱《プロパガンダ》効果”が切れてしまう、という弱点がありました。攻撃したいけど殴り返されたくはない。そんな悩ましい局面もあったのですが、《永遠の見守り》があれば無問題。警戒を付けてアンタップ状態で攻撃すればいいのです。まさに攻防一体と呼ぶにふさわしいコンボです。
サンプルリストのような白青の亜種では、《永遠の見守り》による警戒付与の恩恵にあずかるために《龍王オジュタイ》を採用しています。アンタップ状態の《龍王オジュタイ》はご存知のように呪禁を持っているので、これもまた《徴税の大天使》と同様に、悩むことなく安全確保した状態で攻撃することができるのです。
それだけにやや《永遠の見守り》に依存しているため、《先駆ける者、ナヒリ》や《ドロモカの命令》などで《永遠の見守り》を破壊されてしまうと攻め手に欠ける展開があるという弱点もありますが、脇を固めるカードも《反射魔道士》を筆頭に堅実なものばかりで、《白蘭の騎士》と《空中生成エルドラージ》を経由した4ターン目《龍王オジュタイ》を狙うオプションまで揃えた綺麗なデッキに仕上がっています。
8 《森》 6 《平地》 4 《梢の眺望》 4 《要塞化した村》 2 《ウェストヴェイルの修道院》 -土地 (24)- 4 《搭載歩行機械》 4 《ラムホルトの平和主義者》 4 《森の代言者》 4 《不屈の追跡者》 2 《優雅な鷺、シガルダ》 -クリーチャー (18)- |
2 《荒野の確保》 4 《石の宣告》 4 《ドロモカの命令》 4 《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -呪文 (18)- |
これは《徴税の大天使》を採用しない「緑白ミッドレンジ」です。サンプルリストは《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》という2枚のプレインズウォーカーを軸にしたものですが、《サリアの副官》を軸にした「人間」ベースのものや、《先駆ける者、ナヒリ》を加えたものまで多岐にわたった構成があります。
これまで「緑白ミッドレンジ」といえば「パーマネントは強いものの呪文はいまいち」という評価を受けていましたが、この環境では《石の宣告》に《ドロモカの命令》と軽くて優秀な呪文が揃っています。元よりパーマネントの強さに関しては随一の組み合わせなので、呪文が強化されたことで地上戦に関して右に出るものはいなくなりました。
真っ当なぶつかり合いではない勝負が苦手なことは変わりはなく、2種類の優良除去呪文が無駄になるコントロール相手や、飛行クリーチャーを中心とした攻撃布陣には特に苦労するものの、環境序盤のデッキとしては安定したパフォーマンスを発揮できることでしょう。
以上が新環境の第1週目に警戒すべきデッキたちです。一言でまとめるならば「攻撃的なミッドレンジに気をつけろ!」といったところでしょうか。どのデッキも3~5ターン目にデッキがピークを迎えるように構築されていることには注目すべきかもしれません。
真っ向勝負でその時間帯で打ち勝つか、より早く、あるいはより遅くの時間帯に焦点を絞るのか。正面からぶつからずに、別の時間帯やコンセプトで戦うことも、またひとつの選択肢です。改めて自分のデッキが得意な時間帯を確認してみましょう。
【今週のオススメ】「エスパーミッドレンジ」
6 《平地》 1 《島》 1 《沼》 2 《窪み渓谷》 2 《大草原の川》 4 《進化する未開地》 4 《乱脈な気孔》 3 《港町》 3 《コイロスの洞窟》 -土地 (26)- 3 《搭載歩行機械》 3 《永代巡礼者、アイリ》 3 《オジュタイの語り部》 4 《反射魔道士》 4 《徴税の大天使》 4 《龍王オジュタイ》 3 《龍王シルムガル》 -クリーチャー (24)- |
4 《石の宣告》 1 《究極の価格》 4 《永遠の見守り》 1 《停滞の罠》 -呪文 (10)- |
今週のオススメは「エスパーミッドレンジ」です。白系ミッドレンジに共通する《永遠の見守り》《徴税の大天使》のパッケージに加えて、《龍王オジュタイ》と《龍王シルムガル》を採用しています。
《龍王オジュタイ》まで採用するという構造だけならこれまでに紹介した「白青」にも見られたものでしたが、そこにさらに一色を加えた理由は、3~5ターン目を得意とするデッキばかりの環境を制するためです。
同じ時間帯を得意とするデッキ同士の戦いでは、少しだけ重く、長期戦を見据えて作られたデッキが勝利します。その少しだけ重くする調整が《永代巡礼者、アイリ》と《龍王シルムガル》なのです。
《永代巡礼者、アイリ》は、接死によって序盤から終盤まで活躍できる万能性に加えて、様々なカードとシナジーを形成する起動型能力を持っています。自分の《搭載歩行機械》を分解したり、《龍王シルムガル》で奪った相手のクリーチャーを生け贄に捧げたり、果てには膠着したゲームを除去能力で勝利することも珍しくありません。
《龍王シルムガル》は中速かつパーマネント主体の環境においては最強のドラゴンです。特にミッドレンジが流行している世の中では、狙い頃な強力なクリーチャーやプレインズウォーカーがごろごろと落ちているので、消耗戦の末にそれを奪い去るだけで勝勢を得られます。
また、《龍王シルムガル》を採用すると同時に《オジュタイの語り部》が加わりました。不安定ながらも飛行を持つ《前兆の壁》が弱いわけはありません。《永遠の見守り》でサイズが向上することもあって、「黒赤吸血鬼」や「人間アグロ」相手にはいかなる単体除去呪文よりも活躍してくれます。
【まとめ】出発点は攻撃的なミッドレンジ!
以上が第1週目の予測でした。「エルドラージランプ」や「緑黒トークン」など、今回紹介しなかったデッキタイプもいくつかあるのですが、基本的な登場人物は3~5ターン目に焦点を絞った攻撃的なミッドレンジになります。どのデッキもしっかりと得意な時間帯の戦略だけは練っているはずなので、それに対抗するためにもデッキを構築する際には、自分のデッキがどこの3ターンで勝利するかを留意して作ってみてください。
さあ、紹介したデッキたちに加えて幾つかのコントロールが台頭してくるのが来週です。未だに顔を見せない《先駆ける者、ナヒリ》と《ヴリンの神童、ジェイス》はどのような形で活躍するのでしょうか。《秘蔵の縫合体》など墓地利用や「昂揚」を軸にしたデッキの完成形は見られるのか。今から来週の空模様が楽しみです。
それでは、新環境最初の週末を楽しみましょう!
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