高橋純也のデッキ予報 vol.9 -プレインズウォーカー西風バースト-

高橋 純也





 こんにちは。らっしゅです。

 先週末の【プロツアー『イニストラードを覆う影』】は楽しかったですね。予選ラウンドも然ることながら、Top8に進出したメンバーの豪華さには興奮させられました。

 Jon Finkel、Luis Scott-Vargas、八十岡 翔太ら3人の殿堂顕彰者。

 Player of the Year2010のBrad Nelson。

 Steve RubinにAndrea Mengucciといった麒麟児。

 新旧交えてのオールスターが集合した素晴らしいプレーオフでした。終わってまもなくですが、今から次のプロツアー『異界月』が楽しみです。




※画像は【マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト】より引用させていただきました。

 それでは、プロツアー『イニストラードを覆う影』を終えたばかりのスタンダード環境について話していきましょう!



【話題1】8つの成功と3つのレベル

 プロツアー『イニストラードを覆う影』を飾る話題には、Top8進出者の顔ぶれだけでなく彼らが選択したデッキタイプについても上ります。なんと驚くことに三者三様、8つのデッキタイプがTop8に入賞したのです。最終的にはSteve Rubinの【緑白トークン】が優勝しましたが、ここまでデッキタイプが分かれてしまうと成功や失敗、あるいは強弱の判断すら難しく思えます。

 はたして勝者は誰だったのか。そして、それは何故か。

 このありふれた質問に答える鍵は、Brad Nelsonが【THE PILLARS OF SHADOWS OVER INNISTRAD STANDARD】で語ったこの一言のなかに見つけられます。


 ”Standard right now exists in three levels. Level 1, you have Collected Company and Humans, or decks that want to take advantage of Reflector Mage. Level 2, you have decks like ours that ignore Reflector Mage entirely. Level 3 are decks like Face-To-Face’s Green-White that prey on Level 2 decks.”

 「現在のスタンダード環境は3つのレベルに分けて考えることができる。レベル1は《集合した中隊》や「白系人間」、または《反射魔道士》の恩恵に授かろうというデッキ群。レベル2は《反射魔道士》が効かないデッキ群。そしてレベル3には、今回Face to Face Gamesが持ちこんだ「緑白トークン」のように、レベル2を喰い物にできるデッキ群がいる。」


反射魔道士集合した中隊


 この3つのレベル分けは、プロツアー『イニストラードを覆う影』を解釈するうえで欠かせないアイデアになります。レベル1に相当するのは、これまでの数週間を牽引してきた「バントカンパニー」や「白系人間」といった”環境の前提“ともいうべきデッキたちです。

 そして、レベル1に対して優位なレベル2のデッキ群。これが今回のプロツアーにおいて広く成功したものでした。

「緑白トークン」(Lv3)
「バントカンパニー」(Lv1)
「エスパードラゴン」(Lv3)
「エスパーコントロール」(Lv2)
「黒緑コントロール」(Lv2)
「黒緑アリストクラット」(Lv2)
「赤白ゴーグルエルドラージ」(Lv2)
「赤緑ゴーグルランプ」(Lv2)

 以上はTop8に入賞したデッキタイプのそれぞれにNelsonのラベルを貼ったものです。8人中5人もがレベル2に相当するデッキタイプを選択しています。ボードコントロールに長け、《反射魔道士》を無視することができる。全参加者の約45%がレベル1のデッキだったことを思うと、上位にレベル2のデッキが集まってきたことにも頷けます。



Brad Nelson「赤緑ゴーグルランプ」
プロツアー『イニストラードを覆う影』(6位)

8 《森》
5 《山》
3 《燃えがらの林間地》
4 《獲物道》
4 《溺墓の寺院》

-土地 (24)-

3 《世界を壊すもの》
1 《龍王アタルカ》

-クリーチャー (4)-
4 《焦熱の衝動》
3 《巨人の陥落》
3 《マグマの洞察力》
3 《ウルヴェンワルド横断》
4 《苦しめる声》
4 《コジレックの帰還》
4 《ニッサの巡礼》
2 《面晶体の記録庫》
3 《紅蓮術師のゴーグル》
2 《炎呼び、チャンドラ》

-呪文 (32)-
3 《棲み家の防御者》
3 《不屈の追跡者》
3 《引き裂く流弾》
2 《ゴブリンの闇住まい》
2 《龍詞の咆哮》
1 《龍王アタルカ》
1 《炎呼び、チャンドラ》

-サイドボード (15)-
hareruya



 たとえばEUrekaが持ち込んだ「赤緑ゴーグルランプ」などはわかりやすくレベル1のデッキを咎める構成になっています。一般的な「緑赤ランプ」のようにゲームの序盤をマナ加速呪文に費やすのではなく《焦熱の衝動》で妨害し、《苦しめる声》から《コジレックの帰還》を探しにいったりと、細かいゲームプランを選択できることが魅力です。4ターン目に7マナを捻出することは難しくなりましたが、より安全な戦場で7マナを迎えることができます。


焦熱の衝動苦しめる声


 また、多くのボードコントロールが悩みとして抱えていたフィニッシャーについては、《紅蓮術師のゴーグル》+《巨人の陥落》《コジレックの帰還》+《世界を壊すもの》という2つの解答が用意されているのです。クリーチャー対策に抵触せず、《反射魔道士》にも強い。これをクリアした「赤緑ゴーグルランプ」は理想的なレベル2のデッキだといえます。


紅蓮術師のゴーグル巨人の陥落コジレックの帰還世界を壊すもの




Steve Rubin「緑白トークン」
プロツアー『イニストラードを覆う影』(優勝)

7 《森》
7 《平地》
4 《梢の眺望》
4 《要塞化した村》
3 《ウェストヴェイルの修道院》

-土地 (25)-

4 《搭載歩行機械》
4 《スレイベンの検査官》
4 《森の代言者》
4 《大天使アヴァシン》

-クリーチャー (16)-
2 《荒野の確保》
4 《ドロモカの命令》
3 《ニッサの誓い》
1 《進化の飛躍》
1 《停滞の罠》
4 《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》

-呪文 (19)-
3 《石の宣告》
3 《悲劇的な傲慢》
2 《ラムホルトの平和主義者》
2 《翼切り》
1 《優雅な鷺、シガルダ》
1 《保護者、リンヴァーラ》
1 《荒野の確保》
1 《進化の飛躍》
1 《隔離の場》

-サイドボード (15)-
hareruya



 最終的にトーナメントを勝利したのは、Nelsonの言葉にもあったようにレベル2のデッキを捕食するレベル3の「緑白トークン」でした。Face to Face Gamesの手で調整された「緑白トークン」は、環境に蔓延る《反射魔道士》とクリーチャー除去を《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》という2枚のプレインズウォーカーによって攻略しています。


ゼンディカーの代弁者、ニッサゼンディカーの同盟者、ギデオン


 《反射魔道士》に強くなければならない。この暗黙の了解からプレイヤーたちは半端にクリーチャーを採用していません。つまり、プレインズウォーカーへの圧力がとても小さい環境なのです。

 《破滅の道》など対応するカードはいくつかありますが、「緑白トークン」から登場する大量のプレインズウォーカーをすべて対処することは、クリーチャーが少ない傾向のレベル2のデッキにとっては難しい問題になります。

 様々なデッキが登場したプロツアー『イニストラードを覆う影』でしたが、こうして3つのレベルに分類して見直すと、その関係性はさほど複雑なものではありません。レベル2がレベル1を、レベル3がレベル2を。この食物連鎖の頂点がどこにあったかという話なのです。

 ちなみにNelsonの話はこう続きます。

 「これらは大抵回り回るため、レベル2がうまくいかない週があっても、また活躍のときがくる。」

 環境を取り巻く前提が変われば、3つのレベル分けの基準もまた変わります。その基準が変わることで再評価されるデッキが現れるのです。

 それでは、これからの話を始めましょう。



【話題2】これからの環境を担う2つの鍵:プレインズウォーカー

 これからのスタンダード環境を考えていく上で重視すべき要素は2つあります。

 それは”プレインズウォーカー“と”サイドボード“です。

 まずはプレインズウォーカーについて話していきましょう。先ほど「緑白トークン」の紹介でも簡単に触れましたが、これまでの環境においてプレインズウォーカーはあらゆるデッキの盲点でした。《反射魔道士》を中心とした戦場の応酬とは全く異なる軸に存在するパーマネントだからです。

 クリーチャーへの対策は十分でも、プレインズウォーカーには脆弱なデッキはあちらこちらに存在していました。



Seth Manfield「エスパーコントロール」
プロツアー『イニストラードを覆う影』(3位)

6 《沼》
3 《島》
1 《平地》
4 《大草原の川》
4 《窪み渓谷》
4 《乱脈な気孔》
1 《詰まった河口》
4 《進化する未開地》

-土地 (27)-

1 《終止符のスフィンクス》

-クリーチャー (1)-
4 《予期》
4 《闇の掌握》
4 《究極の価格》
2 《破滅の道》
2 《呪文萎れ》
4 《衰滅》
2 《闇の誓願》
1 《次元の激高》
1 《シルムガルの命令》
3 《卓絶のナーセット》
2 《秘密の解明者、ジェイス》
1 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》
2 《死の宿敵、ソリン》

-呪文 (32)-
3 《ヴリンの神童、ジェイス》
2 《ゲトの裏切り者、カリタス》
2 《龍王オジュタイ》
2 《強迫》
2 《否認》
2 《苦渋の破棄》
1 《精神背信》
1 《無限の抹消》

-サイドボード (15)-
hareruya



 East West Bowlsの「エスパーコントロール」はこの傾向を追い風に、プレインズウォーカーを軸に構築されたボードコントロールです。当然ながら《衰滅》とプレインズウォーカーの相性は抜群で、クリーチャー以外のフィニッシャーを用意した恩恵を享受しています。戦場に残り続ける《卓絶のナーセット》《死の宿敵、ソリン》はSeth ManfieldをTop8に導きました。


卓絶のナーセット死の宿敵、ソリン


 「緑白トークン」や「エスパーコントロール」を筆頭に、今回のプロツアーで成功したデッキの多くにはプレインズウォーカーの姿が見えます。これはプレインズウォーカーを使った戦略が強力だということに加えて、これからのデッキ構築においてプレインズウォーカーへの対策が欠かせないことを示唆しています。

 特に「緑白トークン」は使用者の平均勝率の高さから、おそらく一度は流行するでしょう。つまり、なんとしても4ターン目の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》だけで敗勢になることは避けなければならないのです。


ゼンディカーの同盟者、ギデオン


 プレインズウォーカーを使うことは簡単ですが、相手のものに備えるには工夫が必要になります。《空中生成エルドラージ》などの飛行クリーチャー、《否認》《意思の激突》といったカウンター呪文、《苦渋の破棄》《破滅の道》といった直接除去はお手軽な対応策です。なかでも《破滅の道》はその確実性から重宝されます。プロツアーでも人気を集めた「黒を主色にしたボードコントロール」は、これからのプレインズウォーカーを取り巻く環境のキーパーソンになりそうです。


空中生成エルドラージ否認破滅の道




Grzegorz Kowalski「スゥルタイミッドレンジ」
プロツアー『イニストラードを覆う影』(10位)

5 《沼》
4 《森》
1 《島》
1 《窪み渓谷》
4 《風切る泥沼》
4 《ラノワールの荒原》
1 《ヤヴィマヤの沿岸》
4 《進化する未開地》
1 《荒廃した湿原》

-土地 (25)-

4 《森の代言者》
2 《棲み家の防御者》
3 《不屈の追跡者》
2 《巨森の予見者、ニッサ》
2 《ゲトの裏切り者、カリタス》
1 《光り葉の選別者》
2 《龍王シルムガル》

-クリーチャー (16)-
3 《ウルヴェンワルド横断》
4 《闇の掌握》
2 《究極の価格》
1 《精神背信》
2 《破滅の道》
1 《骨読み》
3 《衰滅》
2 《死の重み》
2 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》

-呪文 (20)-
2 《強迫》
2 《知恵の拝借》
2 《悪性の疫病》
1 《苛性イモムシ》
1 《光り葉の選別者》
1 《議事会の自然主義者》
1 《究極の価格》
1 《鞭打つ触手》
1 《餌食》
1 《闇の誓願》
1 《過ぎ去った季節》
1 《死の重み》

-サイドボード (15)-
hareruya



 あまり話題に上っていませんが「スゥルタイミッドレンジ」は、使用者4人中2人が8勝2敗という好成績を記録した、今回のプロツアーで最も成功したデッキタイプのひとつです。ほぼ黒緑2色にも関わらず《龍王シルムガル》だけをタッチした理由は、プレインズウォーカーを採用したミッドレンジ同士の戦いを有利に運ぶためでしょう。「エスパードラゴン」では見慣れた青黒の龍王は、プレインズウォーカーに対して滅法強いことで知られています。


龍王シルムガル


 「エスパードラゴン」で使うと対戦相手の余った除去に曝されますが、このような緑黒に採用する分には、その心配も少ないでしょう。なぜなら《森の代言者》《不屈の追跡者》《ゲトの裏切り者、カリタス》といった除去の対象となるカードが他にもあるからです。除去されなかった《龍王シルムガル》は一瞬でゲームの勝敗を決定づける強さを持っています。

 《反射魔道士》を取り巻くクリーチャー中心の環境から、プレインズウォーカーへの警戒も欠かせない複雑な環境へと舵が切られました。自分が使用する側に立つか、対応する側に立つか。いずれにしても、自分が選択・構築したデッキはプレインズウォーカーに弱くないのか?これからの環境では、この一点だけは忘れずに確認して進みましょう。



【話題3】これからの環境を担う2つの鍵:サイドボード

 残るもうひとつの鍵はサイドボードです。

 ところで、これまで言及してきませんでしたが「バントカンパニー」は負け組だったのでしょうか?会場の23%を占めたにも関わらずTop8には1人だけ。二日目進出率はわずか56%。これだけ見ると負けている傾向にあると思えますが、7勝3敗以上の56人中には10人と、それほど大負けしているわけでもありません。

 Nelsonのレベル分けではレベル1に相当するためメタゲーム上は不利な立場にいたはずですが、9勝1敗の最高成績にはLee Shi Tianが、Top8をかけた対戦テーブルにはAndrea Mengucciと森 勝洋が登場しているのです。

 勝ってたのか負けてたのか、どっちなんだ!

 こんな声も聞こえてきそうですが、結論から言うとデッキタイプとしての「バントカンパニー」は敗北し、うまく練り上げた構成の「バントカンパニー」は勝利しました。



Andrea Mengucci「バントカンパニー」
プロツアー『イニストラードを覆う影』(準優勝)

4 《森》
3 《平地》
2 《島》
4 《大草原の川》
3 《梢の眺望》
3 《伐採地の滝》
2 《ヤヴィマヤの沿岸》
4 《進化する未開地》

-土地 (25)-

4 《薄暮見の徴募兵》
4 《ヴリンの神童、ジェイス》
4 《森の代言者》
4 《跳ねる混成体》
4 《反射魔道士》
2 《巨森の予見者、ニッサ》
2 《不屈の追跡者》
2 《大天使アヴァシン》

-クリーチャー (26)-
4 《ドロモカの命令》
4 《集合した中隊》
1 《オジュタイの命令》

-呪文 (9)-
3 《否認》
3 《悲劇的な傲慢》
2 《狩猟の統率者、スーラク》
2 《払拭》
2 《侵襲手術》
2 《石の宣告》
1 《龍王ドロモカ》

-サイドボード (15)-
hareruya



 Lee Shi Tian、Andrea Mngucci、森 勝洋。この3人が使用した「バントカンパニー」は、Team Mint Cardsの調整グループによって開発されたものです。メインボードに特筆すべき点はないものの、そのサイドボードはプロツアーのメタゲームを想定した取捨選択がされています。

 「緑赤ランプ」対策の《狩猟の統率者、スーラク》、ボードコントロールの隆盛を先読みした3枚の《否認》、膠着する同型などのマッチアップを打開する3枚の《悲劇的な傲慢》など。幅広いマッチアップに備えていたずらにカード選択をするのではなく、想定されるマッチアップの優先度に応じた適切な対策が用意されています。


狩猟の統率者、スーラク悲劇的な傲慢


 これまでの数週間において、この連載ではサイドボードの内容について触れることはありませんでした。これはデッキタイプ同士の本質的な関係性のほうが重要であることに加えて、環境の全貌が見えてこないかぎりはサイドボードを評価することができなかったからです。

 しかし、最初のプロツアーが終わった現在は、環境の姿が見えてきたと同時に、デッキタイプそれぞれの完成度が試される時期に差し掛かっています。この完成度とは、あるカードが何故その枚数であるのかが齟齬なく表現されているかで評価されます。

 コントロールとの対戦が多そうだから《否認》を3枚用意しておこう。これまではこのような判断でも通用しましたが、これからは何故《否認》なのか、何故4枚ではなく3枚なのか、と細かい内容を突き詰めていく段階を迎えるのです。


否認


 意外なことにメインボードの構成に関しては、多くのデッキがこのような細かい枚数の判断を下しています。ただ、それがサイドボードとなると雑なものを度々見かけるのです。これは、まずはメインボードからという優先度の問題かもしれませんし、サイドボードはあくまでも補助輪のような感覚があるからかもしれません。

 メインボードの60枚でデッキを評価する時期は終わり、これからはサイドボードを加えた75枚で評価される時期を迎えます。細部にこだわる段階ということも踏まえて、改めてデッキのなかに謎や無駄がないかを検討してみるといいかもしれません。完璧だと思っていたデッキにも意外と改良点は残っているものです



【まとめ】環境は次のステージへ

 待望のボードコントロールが登場し、やっと環境初期の役者が揃いました。プロツアーは「緑白トークン」が勝利しましたが、プレインズウォーカーへの警戒が増すこれからの環境でも勝ち続けられるかは興味深い話題です。

 《反射魔道士》を取り巻く環境は一旦の落ち着きを迎えて、これからは様々な速度のデッキが入り交じる複雑な環境を迎えます。はたして次なる環境の3つのレベルは何なのか。その食物連鎖の頂点に立つのはどのデッキなのか。今から疑問はつきません。

 それでは、また来週お会いしましょう!



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